第758話 新旧コンビの要望

※今回は近藤目線の話になります。


 オーランド商店の護衛依頼でラストックまでの往復をした翌日、新旧コンビから話があると新田の部屋へ連れて行かれた。

 ちゃっかり日本から個人輸入したインスタントコーヒーを淹れた後で、新田が切り出した。


「何か違うと思うんだよ」

「いや、いきなり何か違うとか言われても、何の話か分からないぞ」

「だよな……実際、ジョーは良くやってくれてるし、俺らがヴォルザードで飯を食っていけるのもジョーの活躍あってこそだと思ってる」

「てことは、仕事の話か?」

「まぁ、そうだ……」


 どうやら新旧コンビは、今の仕事に不満を感じているようだ。

 俺としては、安全に、確実に稼げる仕事としてオーランド商店の護衛依頼を優先的に受けているのだが、新旧コンビは別の依頼を受けたいのだろう。


「もっと討伐の依頼を増やせってことか?」

「いや、そうじゃなくて……いや、そうなのか? というか、今の依頼は楽過ぎじゃねぇか?」

「まぁ、それは確かにそうだな」


 昨日までのラストックへの往復も、正直、馬車に揺られているだけの仕事だった。

 前回のラストック行きでは違法ポーションによる騒ぎに遭遇したが、今回の道中は平穏そのものだった。


 魔物はゴブリンを数頭、遠くに居るのを見かけた程度で、襲われることはなかった。

 盗賊や山賊に襲撃される気配も、全く感じられなかった。


「楽して稼げることに文句を言うなんて間違っているのかもしれないが、あまりにも楽過ぎて冒険者って感じがしなくねぇか?」

「まぁ、新田が言いたい事も分るよ。日本に戻らず、ヴォルザードに残ったのは冒険者するためだもんな」

「そうなんだよ。言い方は悪いだろうが、今の俺らって冒険者じゃなくて警備会社の社員、もしくは運送屋って感じだろう」


 馬車に揺られているだけでは、運送屋と呼ばれても仕方ない。

 だが、俺にも考えがあってオーランド商店の護衛依頼を優先している。


「新田たちの言い分は分かったが、やっぱり生活基盤を固めるには、大口の依頼主が必要だ。特に鷹山は嫁、子供、義理の母親も養わなきゃいけないし」

「それは分かってる。シーリアさんが、安全に稼げる今の状況は望ましいと思うのは当然だろう」

「それに、今は復興特需でラストック行きの仕事ばかりだけれど、この先状況が改善していけば、マールブルグとかバッケンハイム行きの依頼も増えてくるんじゃないか?」


 ラストックへ向かう街道は、国分や眷属たちの手によって、安全な道へと生まれ変わっているが、マールブルグに向かうリバレー峠は、相変わらず山賊の襲撃が頻発する道だ。

 俺たちも山賊に遭遇したことがあるし、討伐した経験もある。


 あれは、間違いなく冒険者の仕事だ。


「そうなんだけど、結局はオーランド商店の依頼じゃん。山賊を討伐しても、俺らの功績にならないじゃん」

「まぁ、それはあるな」


 オーランド商会の護衛の場合、山賊に遭遇して返り討ちにしても、守備隊の検証には参加しない。

 山賊を討伐すると報奨金が出るのだが、その分の手当てはオーランド商店から支給されるので、一行は予定通りの旅程を遂行することを優先させられる。


「でも、ギルドには報告しているぞ。山賊に遭遇しましたって」

「それ、本当に俺らの実績になってるのか? ランクアップの査定にキチンと加算されてるのか?」

「加算されているとは思うけど、査定に関しては聞いても教えてくれないだろうし……」

「よく分からないんだよな? もしかしたら、加算されていないとか、加算されても通常よりは割り引かれている可能性もあるんだよな?」

「まぁ、可能性は無くはない。新田はランク上げたいのか?」

「そりゃあ上げたいよ。国分みたいなSランクは無理だとしても、Aランクは目指してみたいだろう、なぁ、達也」

「Aランクは、化け物を除いた一つの到達点みたいなものだからな」


 今の俺達は、ドノバンさんにオマケしてもらってCランクに上がったところだ。

 これでも同年代の冒険者に比べれば、異例のランクアップと言って良いぐらいなのだが、Bランクに上がる気配は感じられない。


「ランクを上げる事には賛成だけど、そう簡単に上がるもんでもないし、地道にやるしかないんじゃないのか?」

「だったら、なおさら山賊討伐の実績とかはギルドにキチンと認めてもらわないと駄目なんじゃね?」

「そうだけど、それを加えたとしても簡単にランクは上がらないと思うぞ」


 Cランクに上げてもらった時は、オーランド商店からの圧力もあったみたいだし、ドノバンさんからはBランクには簡単には上がらないと言われている。


「そっか、ペデルのおっさんとか、ギリクが切り捨てられた時だな」

「ペデルのおっさんは楽しようとし過ぎなんだよな。あのおっさん、真面目にやれば経験あるし、腕も悪くないのによ」


 新旧コンビの言う通り、ペデルさんは冒険者としての経験が豊富で、一緒に護衛依頼をやった時には色々と勉強になった。

 ただ、楽して稼ごうという気持ちが強すぎるのか、その辺りをオーランド商店の主人、デルリッツさんに見透かされていたようだ。


「結局のところ、地道に依頼をこなしていくのがランクアップの一番の近道だと思うぞ」

「まぁ、そうなんだけど……別の方法も試してみないか?」


 新田がニヤリと笑ったのを見て、古田もニヤっと笑みを浮かべる。

 この顔は、ろくでもない事を考えている時の顔だ。


 こいつらとも付き合いが長くなって、だいぶ行動パターンが読めるようになってきた。


「あんまり聞きたくないけど、別の方法って?」

「せっかく異世界で冒険者をやってるんだからさ、行ってみたいと思わないか?」

「行ってみたいと思うよなぁ?」

「はぁぁ……ダンジョンか、ギリクの噂だろう?」


 近頃、あまり良い噂話を聞いていなかったギリクだが、ダンジョンに潜って、大きな宝石の原石を掘り当てたらしい。

 俺から見れば、完全なビギナーズラックにしか思えないのだが、宝石の原石に相当な高値が付いたらしく、そちらの方にばかり注目が集まっている状態のようだ。


「なぁ、せっかくダンジョンがあるんだからさ、一回ぐらいは潜ってみようぜ」

「上手くすれば、俺らもお宝ゲットできるかもしれねぇじゃん」

「てか、ランクアップじゃなくて、完全に金に目が眩んでるじゃねぇか」

「ジョー、人生金じゃないけど、先立つものは金だよ、なっ、和樹」

「おうよ、ドカっとかせげば、娼館に連泊……じゃなかった、ランクアップのための工夫とかも楽にできるだろう、なっ、ジョー」

「なっ、じゃねぇよ! ダンジョンは浅い階層でも、袋小路で魔物の群れに囲まれると詰むって、国分にも釘刺されてるだろう」


 影を伝って移動ができる国分は、これまでに何度もダンジョンに潜っているらしいが、浅い階層だと思って舐めてると、あっさりあの世行きになるらしい。


「少なくとも、ギリクの噂に浮かれてダンジョンに押し掛けてる連中がいる間は駄目だ。それと、潜るにしても綿密な下調べをしてからだ」

「他の連中がいる時の方が良くねぇか? 魔物を押し付けるとか出来そうじゃん」

「古田、逆に押し付けられるかもしれないぞ」

「そっか、道連れにされるのは勘弁だな」

「とりあえず、ダンジョンに潜るつもりで情報を集めよう。何も分からない状態で飛び込むのは自殺行為だ」


 新旧コンビは、ランクアップとか一攫千金ではなくて、刺激の少ない護衛依頼に飽きてきているのだろう。

 ダンジョンに潜る準備をさせるだけでも、不満の矛先は逸らせるはずだ。


 その間に、浮かれてダンジョンに入った連中が犠牲になれば、少しは頭も冷えるだろう。


「和樹、洞窟探検用のグッズとか調べてみようぜ」

「おうよ、強力なLEDライトとか買っちゃうか?」


 新旧コンビは、さっそく通販サイトで何やら検索を始めたが、それよりも安全に洞窟に潜る方法とか調べてくれよな。

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