第751話 ローラー作戦(後編)
「ケント様、弟からアルダロスの裏組織同士が抗争を始めて潰し合っているという知らせが来たのですが、何かご存じでしょうか?」
夕食の席でカミラに訊ねられたのですが、何もご存じではないのですが、思い当たる節は有ります……というか、有り過ぎます。
「たぶん、ラインハルト達が動いているんだと思うけど、悪影響が出ているのかな?」
「いいえ、弟の話によれば、抗争の被害は裏組織の当事者に限られているようで、このまま勢力を衰えさせるなら、むしろ有難いと言ってました」
「まぁ、ラインハルトが指揮を執っているはずだから大丈夫だとは思うけど、後で確認しておくよ」
「はい、よろしくお願いします」
という事で、状況を確認するために影の空間に潜ってみると、マルトが何やら作業をしています。
魔石をパチンコ玉ぐらいに丸く削り出して、闇属性を付与しているみたいです。
「マルト、それは何を作っているの?」
「わふぅ、じーぴーえすもどきだよ」
「えっ? GPSもどき?」
「そうそう」
マルト達は、タブレットでネットサーフィンして現代日本の知識を蓄えていたりします。
GPSを知っていても不思議ではないのですが、闇属性の魔石とGPSが繋がりません。
「それは何に使うの?」
「悪い奴のお腹に入れるの」
「えっ? どういう事?」
「これを悪い奴のお腹に入れておけば、どこに行ったか居場所が分かるの」
外国などでは、保釈中や服役を終えた犯罪者にGPSを装着して居場所を監視したりしていますが、この魔石はその役目を果たすようです。
というか、腹の中に気付かないうちにGPSもどきを埋め込むとか、結構鬼畜な所業だと思うんですが、改心したら取り出してもらえるんでしょうかね。
マルトから話を聞くと、ラインハルトたちはアルダロス周辺で違法薬物を扱っている連中を虱潰しに探し出して、徹底的に壊滅させるつもりみたいです。
この魔石は、そのために活用するそうで、薬物密造、密売に関わっている者の腹の中に放り込むようです。
それも、胃や腸の中ではなく、腹腔内に埋め込まれるらしく、数日経ったら排泄される……なんて事もないようです。
「魔落ちしたりしないのかな?」
「わぅ、たぶん大丈夫だろうって、ラインハルトが言ってた」
「たぶん……ねぇ」
まぁ、腹腔内なら胃や腸に入れられた場合に比べれば、消化吸収される割合は低そうだから、急に魔落ちしたりはしないのかな。
「というか、全員捕まえて騎士団に突き出せば良いんじゃないの?」
「人数が多すぎるんだって。あと、泳がせて、お芋掘りするんだって」
それは、芋掘りじゃなくて芋蔓式ってこと……いや、同じなのか。
とりあえず、現場の様子を見に行ってみましょうかね。
ラインハルトを目印にして影移動すると、どこかの組織の賭博場のようです。
「ラインハルト、ここも違法薬物を扱ってるの?」
『おぉ、ケント様、その通りですぞ。あちらを御覧くだされ』
「あぁ、なんだか怪しげな煙が漂ってるね」
サイコロを使った丁半博打みたいなギャンブルをやっているんですが、テーブルについている客は、全員が葉巻をくゆらせています。
でも、麻薬というと刻んだ葉っぱというイメージがありますが、まさか葉巻の葉が全部麻薬なんでしょうかね。
『あの葉巻には、微量のファルザーラが染み込ませてあるようです』
「確かめたの?」
『えぇ、コーリー殿の作った試薬を使って調べましたので間違いありませんぞ』
罪なき者を罰する事の無いように、罪を犯した者を逃さないように、試薬を用いて確認作業を行っているようです。
さすがは元分団長の面目躍如といったところですね。
『葉巻だけでなく、飲ませている酒にも微量の麻薬が混ぜられております』
「つまり、正気を失わせて博打に大金を注ぎ込ませようとしているんだね?」
『その通りです。しかも、やつらイカサマまで仕込んでますからな』
勝ち負けをコントロールするだけでは、あまりに負けが込んでくれば途中で止めるという判断をされてしまいます。
でも、麻薬を使って判断力を奪ってしまえば、更に大金を巻き上げられるという訳です。
「この後は、どうするつもりなの?」
『賭博場の売り上げ金、借金の証文、裏帳簿、麻薬に絡む品々、全ていただく予定ですぞ』
「なるほど、それから被害者の救済をするんだね?」
『被害者の救済などしませんぞ』
「えっ? だって、麻薬とイカサマで金を巻き上げられてるんだよね?」
『そもそも、リーゼンブルグでは王家や領主が営む賭博場以外での賭博は禁じられております。ここには被害者などおりませんぞ』
「えぇぇ……」
確かに違法賭博に手を出せば犯罪者なんだろうけど……それで良いんですか、元分団長。
僕が見守っている間にも、コボルト隊が動き回って店員や客にも例の魔石を埋め込んでいます。
「あれって、魔落ちの原因になったりしないの?」
『たぶん、大丈夫でしょう。それに、更に悪事を重ねるようならば、身ぐるみ剥いで騎士団に突き出すつもりです』
ラインハルトは、この機会にアルダロスに根付いている薬物関連の組織だけでなく、他の悪事を働いている組織までも根こそぎ壊滅させるつもりのようです。
『国を治める者が腐敗していれば、下々まで影響を及ぼします。先代の国王が愚か者であったからこそ、第二王子や第三王子のような愚か者が育ち、貴族は民を顧みず、アーブル・カルヴァインのような国を乗っ取ろうとする者が現れるのです。アルダロス周辺の裏組織の数は、我々が生きていた頃よりも遥かに多く、民の生活にも悪い影響を与えています』
「つまり、ラインハルトはディートヘルムが正式に国王となる前に、禍根となる物を取り除いてしまうつもりなんだね?」
『はい、その通りでございます』
ディートヘルムの戴冠式の日取りも決まったそうで、正式にリーゼンブルグの新国王となる日が近づいています。
リーゼンブルグの新しい時代の到来を告げる日をスッキリとした気分で迎えるためにも、王都アルダロスの闇を取り除いておく必要があるのでしょう。
「それならば僕から言う事は一つだけだよ。ラインハルト、徹底的にやっちゃって!」
『承知いたしました』
リーゼンブルグ式の敬礼をしながら、ラインハルトは不敵な笑みを浮かべてみせました。
うん、狙われている裏組織の連中の悲惨な未来が見えるようだよ。
これまでに壊滅させた施設の一覧や途中の過程を教えてもらったのですが、呆れるほどの数です。
ちなみに、影の空間にはとんでもない大金が積み上げられています。
「ラインハルト、奪って来た麻薬はどこに置いてあるの?」
『麻薬や原料などは、ファルザーラのように煙にして吸う物は海に、キグルスのような液体は瓶ごと南の大陸の火山の火口に放り込んで処分しました』
「つまり、ここには奪ったお金しか残っていないって事だね?」
『その通りです。集計しておきますので、使い道はケント様にお任せしますぞ』
「日本には『悪銭身に付かず』なんて言葉があるから、このお金はラストックの復興とか災害の時に使うようにしようか」
『ケント様ならば、そう仰ると思っておりました』
「それでは、復興基金を潤沢にするためにも、僕もお手伝いしますかね」
僕らが話をしている間にも、賭博が行われているテーブルの上には、金貨が山のように積み上げられています。
ていうか、この客たちは何をしてこんな大金を稼いでるんですかね。
そっちも叩けば埃が出てきそうですし、この際ですから徹底的にやっちゃいましょうかね。
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