第532話 山賊の企て
「若様、
マルト、ミルト、ムルトにマールルト、リーベルトも加えて、もふもふハーレムを堪能しようと思っていたら、リバレー峠の魔物を間引いてもらっているアンデッドロックオーガのイッキに声を掛けられました。
「胡乱な企み……?」
「はい、特定の者に狙いを限定しているようです」
「それは、何か高価な品物を積んだ馬車とか?」
「いいえ、その可能性もございますが、どうやら報復が目的のようです」
イロスーン大森林の通行が出来るようになりましたが、道の両側は深い堀と高い壁に隔てられていて、山賊が襲撃するような余地は全くありません。
そのため、マールブルグとヴォルザードの近くでは、旅行者を狙う盗賊、山賊の出没はリバレー峠に集中しています。
計画を立てているのは、その山賊の中でも最大の一味だそうですが、元は三つあった組織が一つに纏まって出来たようです。
「三つあった組織が一つになったのは、二つの組織が手酷い反撃を食らって弱体化したのが理由のようです」
「ふーん……じゃあ、あんまり脅威になりそうもないんじゃない?」
「若様にとっては赤子の手をひねるような相手ですが、一般の者にとっては十分に脅威になりうるかと……」
「それもそうか……で、胡乱な計画というのは?」
「オーランド商店の車列を狙うようです」
「えっ、オーランド商店って、ヴォルザードの?」
「はい、そのオーランド商店です」
イッキの話によると、二つの組織に手酷い反撃を食らわせたのが、オーランド商店の車列を守る冒険者だったそうです。
「でも、なんでオーランド商店の車列だって分かったんだろう?」
「馬車には店の紋章が大きく記されていたそうです」
「ラインハルト、普通は店の紋章とかは入れないんじゃないの?」
『そうですな。峠越えをする場合、大店の馬車だと知られないように紋章などは見せず、わざと馬車を汚したりするものですが……それだけ護衛に自信があるのと、山賊などは恐れないという気概を示しておるのでしょうな』
「だったら、僕らが手出しする必要は無いかな」
オーランド商店はヴォルザードで一番大きな店ですし、当然腕の立つ護衛を雇っているはずです。
既に二回も襲撃を退けているようですし、僕の出番ではないように感じます。
「ですが若様、これまで二回の襲撃は、オーランド商店の馬車を狙ったものではなく、他の馬車が襲われているところを助けた形のようですし、今度は直接オーランド商店の馬車を襲撃するようです」
リバレー峠を越える馬車は、自分たちの身を守るために即席のキャラバンを組んで峠越えをするそうです。
その時、オーランド商店の馬車のように目立つ存在は即席のキャラバンからは弾かれてしまうそうです。
「やっぱり、目立つ馬車は高価な品物を積んでいると思われるからだよね?」
『その通りですぞ。襲撃は山賊共にとっても危険を伴う作業ですから、出来るだけ高価な品物を積んでいそうな馬車を狙います』
「あれ? でもオーランド商店の馬車は、他の馬車が襲われている場所にいたのに、なんで襲われてないの?」
『おそらく、即席のキャラバンの後ろについて峠越えをしていたのでしょう』
即席のキャラバンには入れてもらえないけど、後ろをついていくのは自由です。
そして、襲撃が行われる場合は、まず車列の先頭が狙われるので、後ろをついて来たオーランド商店の馬車は余裕を持って反撃出来たという状況のようです。
「そうか、オーランド商店の馬車が直接狙われた場合、反撃するまでの余裕が無くなるのか」
「その通りです。それと、オーランド商店の護衛を行っているのは、どうやら若様のご友人のようです」
「えっ! 僕の友達って……近藤達か」
最近、魔の森の特訓場に連れて行っていませんでしたが、いつの間にオーランド商店の護衛を引き受けるようになって、山賊たちから一目置かれるような存在になったんでしょうか。
「イッキ、山賊たちの作戦は分かる?」
「近距離からの弓矢と投石、もしくは馬車を直撃させる落石など……いくつかの方法を練っているようです」
「うーん……ちょっとヤバいかな?」
『ケント様、手を貸さずにジョーやシューイチの身に万が一のことがあったら後悔なさいますぞ』
「だよね……」
ラインハルトの言う通り、山賊共の襲撃で近藤や鷹山、新旧コンビの誰か一人でも死んだら、メチャクチャ後悔するはずです。
その一方で、彼らが冒険者として活動を続けていくならば、これから先、何度も同じような状況は起こり得る気がします。
その度に、僕が裏から表から助けていたら、本当の意味での冒険者ではなくなってしまうような気がします。
本来、冒険者は死ぬも生きるも自己責任の稼業です。
オーランド商店からの護衛の依頼を受けて、山賊共を返り討ちにして、その結果狙われる立場となったのだから、自分達で対応するのが筋のような気がします。
『なるほど、確かにケント様の友人でなければ、襲われるまで狙われているとは気付かないでしょうな。ですが、襲われると分かっているのに、黙っておくのですか?』
「だよね。それは、あまりにも友達甲斐が無いよねぇ……」
とりあえず、イッキ達に山賊共の動きを監視してもらい、僕は近藤達が暮らすシェアハウスに向かいました。
近藤の姿は、共有のリビングにありました。
「おーす、ジョー……」
「ふぎゃぁぁぁ! ふぎゃぁぁぁ!」
近藤に声を掛けながら闇の盾を潜って表に出た途端、火の着いたような泣き声が聞こえてきました。
「おっす、国分。あれは、最近恒例の鷹山パパのオムツ替えだ」
「うん、元気そうでなによりじゃない?」
鷹山のパートナー、シーリアさんは難産の末に女の子を出産しました。
唯香が帝王切開まで行う大騒ぎでしたが、どうやら元気に育っているようです。
「シーリアさんがオムツを替える時は大人しいんだが、鷹山がやると必ず大泣きするんだよなぁ……でもって、終わると鷹山が凹んでる」
「あははは、新米パパは大変だねぇ……」
「てか、国分も笑っていられなくなるんじゃねぇの?」
「うっ、それはまだ先の話だよ」
「先の話ねぇ……まぁいいけど、なんか用か?」
「あっ、そうそう、ジョー達はオーランド商店の護衛を請け負ってるの?」
「ん? なにかマズかったか?」
そう言いながら近藤は、手元の紙束を素早く纏めて裏返しました。
たぶん、オーランド商店の護衛に関する資料なのでしょう。
「いや、ちゃんとした依頼ならば、どこの店からだろうと構わないし、山賊も撃退して結果を出してるんでしょ?」
「おぅ、そんな話も伝わってるのか、さすが領主様の婿殿だな」
「いや、情報は別の所からなんだけど……狙われてるよ」
「えっ? 狙われてるって、俺達が?」
「うん、オーランド商店の護衛としてね」
ようやくリリサちゃんも泣き止んだみたいだけど、シーリアさん達の耳には入れたくない話なので、近藤の部屋に場所を移して続きを話しました。
イッキが持って来た情報を伝えると、近藤は頭を抱えて呻きました。
「マジか……」
「ざっと数えただけで五十人以上いるらしいよ」
「いや、無理……いくら前もって知らせてもらっても、俺達だけでその人数を相手にするのは無理だろう」
やはり近藤が目を通していたのは護衛に関する資料で、明日の早朝から馬車二台を護衛してマールブルグに向かう予定だそうです。
「峠越えは三日後か」
「順調に行けばな……てか、行かねぇよ。行ったら間違いなく襲われるんだろう?」
「たぶんね」
再び近藤は頭を抱えて考え込みましたが、二十秒ほどで顔を上げて頷きました。
「よし、オーランド商店に行って事情を話してくる」
「依頼から下りるの?」
「そうじゃない。襲われるって情報が入ったんだ、計画を変更してもらうのは当たり前だろう。襲われたら、俺達だけでなくオーランド商店の人達も殺されるんだぞ」
「やっぱり近藤は頼りになるねぇ……そこに僕もお邪魔してもいいかな?」
「駄目だって言っても覗くつもりだろう?」
「まぁね……デルリッツさんとは面識もあるよ」
「そう言えば、Aランクの冒険者パーティーと揉めたとか……」
「あぁ、そんな事もあったねぇ……」
「デルリッツさんの息子からも恨まれてんだろう?」
「ナザリオね。別に婚約とかしてた訳じゃないし、その件もデルリッツさんとは手打ちになってるから、それでも何か仕掛けて来るなら倍返しするだけだよ」
「はぁ……まぁいいや、遅くなると先方に悪いから出掛けようぜ」
近藤の部屋を出て共有のリビングに戻ると、なるほど鷹山が凹んでいた。
「新米パパさん、お疲れ!」
「んぁ? あぁ、国分か、何か用か?」
「うん、ジョーにちょっとね」
「そっか……ついでに女の一人も紹介してやってくれ」
「えっ、ジョーに?」
「鷹山、余計な事言うなよ!」
「いいじゃんか、辛気臭い顔してるなら新しい恋に生きろよ」
「いいんだよ、ほっとけ!」
おや、確かジョーはマールブルグの女冒険者とくっついてたと思ったけど、別れたみたいだね。
てか、話の感じからするとジョーが振られたみたいだけど、マジか……。
「いいから、行くぞ国分」
「はいよ、その話は後でゆっくり根掘り葉掘り……」
「しねぇよ!」
おぉ怖っ……意外にジョーは本気だったみたいだね。
「ジョー……」
「なんだ、女の話はしねぇからな」
「分かってるよ、オーランド商店に行く前に、ちょっとギルドに寄っていこう」
「そうか、先に対策を相談しておいた方がいいか」
「そうそう、僕が片付けちゃって良いものなのか、片付けるとして一番儲かる方法は……とか聞いておきたいからさ」
「てか、五十人以上の山賊を片付ける前提で話をしてるのが……分かってるつもりだけれど色々常識外れだよな」
「うわっ、そんな呆れたような言い方しなくても良くない? てか、僕が知らせてなかったら、三日後どうなってたか……」
「分かってる……てか、この時間はドノバンさんは忙しいんじゃないのか?」
「そうだけど、あの人が暇になるのを待ってたら、深夜になっちゃうよ」
「うわっ、酷ぇ言い方だな」
「いやいや、酷い言い方じゃなくてマジだからね」
「えっ、マジなの? てか、なんで国分が知ってんだよ」
「そんなの、僕も深夜まで働いていた頃があったからに決まってるじゃん。これでも苦労してんだよ」
「マジか……」
「マジだよ」
新旧コンビに話しても、右から左に聞き流されちゃうだろうけど、近藤には少し恩を売っておけば見返りがあるかな。
そうだ。早速だけど夕方の混雑する時間が迫るギルドでドノバンさんを呼び出す役目を担ってもらおう。
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