第414話 貸し借り

※今回は近藤目線の話になります。


 国分健人は鬼畜である……これは俺達の共通認識だ。

 一日の休みを挟んで行われた特別訓練で、国分の用意する魔物は俺達のキャパを微妙にオーバーするものばかりだった。


 例えば、俺と新旧コンビが組んでの討伐訓練で、現れたのは2頭のオーガだった。

 オーガとオークは体格的には大きな差は無いのだが、知能や戦術の面で大きく異なって来る。


 オークも群れで狩りを行うそうだが、2頭、3頭で敵と戦う時などは、己の膂力任せの戦いをするのが殆どで、連携的なものは余り行われない。

 ところがオーガになると、この連携の部分が変わって来るのだ。


 オークが2頭だったら、前線の新田と古田が分断して、各々が仕留めて終わりになるが、オーガは連携して新田に襲い掛かって来た。

 古田が分断しようと仕掛けても、攻撃を受けたオーガは気にしながらも新田を優先した。


「うわっ、ちょっ、ヤベぇ!」

「古田、足だ足! 止めろ!」


 幸い、足場の良い訓練場だったから逃げ切れたが、足場の悪い森の中だったら新田はやられていたかもしれない。


「近藤、援護遅ぇよ!」

「すまん、まさか新田に殺到するとは思わなかった」

「てか、国分! ちょっとは考えろよ!」


 新田が半分ぐらいマジで声を荒げても、当の国分は涼しい顔をしている。


「はいはい、討伐が終わったら素材の剥ぎ取りだよ~。次がつかえてるんだから、チャッチャとやる、チャッチャと……」

「くそぉ、この鬼畜ケントめ!」


 俺達がオーガから魔石を取り出し、角を切り落とし終えると、死骸は国分の魔法で跡形も無く消え去る。

 次は、鷹山、八木、マリーデ、本宮の四人が組んでの討伐だ。


 国分が用意したのは、これまた活きが良さそうなオーク3頭で、4人では苦戦しそうだ。

 だが、4人が苦戦している間こそが、俺達の休憩タイムなので、悪いが出来るだけ長引かせてもらいたい。


「お前ら、いつもこんな事をやってるのか?」

「いつもじゃないっすよ」

「そうそう、いつもだったら身が持たないっすよ」


 ギリクの問いに、新旧コンビが半ギレで答えている。

 今朝、集合場所に行くと驚いたことにギリクの姿があった。

 俺は余り話した事が無いのだが、何かと国分に絡んでいるので顔は見知っている。


 普段なら憎まれ口を叩き合って国分と対立しているギリクだが、今朝は神妙な様子で頭を下げて、訓練への参加を懇願していた。

 俺はてっきり国分は参加を拒否するのかと思っていたが、いつもの皮肉なやり取りこそあったが、アッサリと受け入れたのには少し驚いた。


 何を企んでいるんだと聞いてみたが、ニヤっと笑った後で、別にぃ……と言ったきり白状しそうもなかった。

 この後も、国分は鬼畜ぶりを遺憾なく発揮し続けた。


 俺、新旧コンビ、鷹山の4人に、ギリクを加えて5人に、7頭ものオークを用意しやがった。

 しかも5人でやると決めてから、打ち合わせる時間を10分しか与えないという鬼畜っぷりだ。


「ギリク、出すぎ!」

「危ねぇよ、鷹山! もっと上狙え!」

「古田、左! 回り込まれるぞ!」


 前衛に左から古田、ギリク、新田を並べ、後衛の俺と鷹山が並ぶ形にしたが、一度に突っ込んで来られると圧を支えきれずに、危うくギリクが袋叩きにされそうになった。


 混乱しながらも2頭、3頭と戦闘不能にすると、何とか体勢を立て直せたが、それでも討伐を終えた時には全員ヘトヘトだった。

 そこへ、いつもの調子で国分が声を掛けて来る。


「無いわぁ……いきなり突っ込んで行くとか、無いわぁ……」

「うるせぇ、そもそも5人で7頭とか相手にしねぇ!」

「いやいや、普段出来ない事をやるから訓練でしょう。いきなり突っ込むとか、無いわぁ……」


 訓練を始めた当初はネコを被っていたギリクだが、回数を重ねるごとに地が出てくる。

 まぁ、訓練の内容が内容だし、国分がいつもの調子だから仕方ないのだろう。


「くそっ、好き勝手言いやがって、くそチ……いや、ケントの野郎はなんでやらねぇんだ?」

「あぁ、国分は魔法使うとマジチートっすから?」

「なんだ、そのマジチートってのは?」


 ギリクの疑問に新田が答えたが、言葉の意味が分からなかったようだ。


「あぁ……俺らが苦戦したオーク7頭も、魔法使うと瞬殺できちゃうんすよ」

「んな訳ねぇ……いや、眷属を使うのか?」

「違う違う、そうじゃないっすよ。俺達をここまで運んで来た魔法があるじゃないっすか。例えば、オークの上半身だけが入るように範囲を指定して使うと、スパっと上半身だけ切り取られて別の場所に移動しちゃうんすよ」

「冗談だろう?」


 疑いの眼差しを向けられ、新旧コンビが揃って肩を竦めて見せると、ギリクは微妙な表情を浮かべてみせる。

 送還術の他にも光属性の攻撃魔術とか、先日やってみせた高圧水流のカッターとかを古田が説明すると、ますますギリクは嫌そうな顔になっていった。


「んじゃ、あれはペットなのか?」

「いやいや、変なちょっかい出さない方がいいっすよ。ギリクの兄貴じゃ瞬殺されますから……」


 ギリクの指差す先には、国分の横にしゃがみ込み、頭を撫でられてクークーと喉を鳴らしている褐色のリザードマンがいる。

 国分がせがまれて、獲物を用意してやっているのを見た事があるが、3頭のオーガをククリナイフであっと言う間にバラバラに切り刻んで見せた。


 その凄まじさを新田から聞かされると、ギリクは頭を小さく何度も振って、考えることを放棄したようだ。

 まぁ、考えたら負けという諦めには賛同するが、サンドリザードマンをあの体型にするマニアックさは、どうにかした方が良いとは思う。


「あいつは、どれだけの戦力を持ってやがるんだ?」

「さぁ、何だか最近また強烈なのを増やしたみたいだし、ぶっちゃけ国分がその気になれば王様だって夢じゃないっすよ」

「本人に、その気はゼロみたいっすけどね」

「何なんだ、あいつは……」

「そんなん決まってますよ、鬼畜っすよ、鬼畜!」

「あぁ、鬼畜だな」

「間違いない、鬼畜だ」

「鬼畜、鬼畜、鬼畜の中の鬼畜だな」


 俺達4人の言葉を聞いて、ギリクも苦笑いを浮かべている。


「みんな、聞こえてるからね。さて、ロックオーガでも……」

「やめろよ、鬼畜!!」

「やだなぁ、冗談じゃないに決まってるじゃん」

「おいっ!」


 いくら国分が鬼畜でも、さすがにロックオーガは無いだろうと思っていた俺が馬鹿だった。

 訓練の最後にロックオーガを連れて来た時には、さすがに乾いた笑いが出た。


「だらぁぁぁ! くそっ、ぐはっ……」

「ギリクの兄貴!」

「馬鹿、新田、よそ見すんな!」

「がはっ……」

「ゴァァァァァ!」


 ギリクと新田が、あっと言う間に殴り飛ばされたが、辛うじて鷹山の攻撃魔術で突進を止められた。


「マナよ、マナよ、世を司りしマナよ、我が手に集いて風となれ……風よ舞い踊り風刃となれ! うりゃぁ!」


 俺と鷹山が攻撃魔術をロックオーガの顔面付近に集中させ、怯んだ隙に逃げ回るといった有様だ。


「くそっ、刃が通らねぇ!」

「鷹山、悪い。そろそろ魔力が……」

「くそっ! やられっぱなしで終われるかよ。だあぁぁぁぁ! ぐふぅ!」


 渾身の大剣の一撃がアッサリとロックオーガの左腕で弾かれ、右の掌底を食らったギリクの巨体が毬のように転がっていく。


「国分、ギブ!」


 俺と鷹山の魔力は底を尽いたが、ロックオーガは髪を焦がした他は浅い傷を負っているだけだ。


「クルルルウゥゥゥゥ!」


 国分のゴーサインを受けたのだろう、ロックオーガに較べれば遥かに小柄なサンドリザードマンが突っ込んで行く。


「ゴァァァァ! ゴフゥ……グゥゥ……」


 ロックオーガの丸太のように太い腕を踊るように掻い潜り、細身のククリナイフが振るわれる度に鮮血が舞った。

 さすがに手足を切り飛ばすような芸当は出来ないようだが、脇腹、内股、太腿と、瞬く間に傷が増えていく。


 しかも、一つ一つの傷が深手のようで、ロックオーガの身体は鮮血に染まり、動きが鈍っていった。


「クルルゥゥゥゥゥ!」


 一際甲高く鳴いたサンドリザードマンの一撃は、ロックオーガの首筋を深々と斬り裂いた。

 破裂した水道管のように鮮血が吹き出し、ガックリと膝を折ったロックオーガは、そのままバッタリと倒れて動かなくなる。


 返り血に塗れた身体を国分の水属性の魔術で洗ってもらい、クークーと喉を鳴らすサンドリザードマン。

 実に、ほのぼの……してないな。


「どうしたの、近藤。怪我してない者は素材の回収だよ」

「はぁ……お前はホント鬼畜だよな」

「いやぁ、それほどでも……」

「褒めてねぇよ。ちょっと新田とギリクさんを診てやってくれよ」

「おっけー」


 コンビニに、やきそばパンでも買いに行くような気楽さだが、あれでも常識外れの治癒魔術を使えるのだから、腹立たしいやら、頼りになるやら……。

 治療を巡って、またギリクが一悶着やらかしていたが、明日以降の仕事に差し障っても良いのかと言われて、大人しく従っていた。


 大体、ただで治療してもらえるのだから、素直に治療してもらっておけば良いのだ。

 その点に関しては、新旧コンビは実にちゃっかりしていて、関係のない治療までしてもらおうとしていた。


 皮を被っているのをどーとか、こーとか言ってたが、当然ながら国分に一蹴されていた。

 そんなの剥いてもらえば……いや、何でもない。


 結局、全部の訓練が終わってヴォルザードに戻ったのは、西の空が赤く色付く頃だった。

 国分は俺達を送り届けると、歪みがどうとか言いながら影に潜って姿を消した。


「ジョー、早く買い取り頼んで、帰って飯にしようぜ」

「おぅ、そうすっか」

「和樹、んじゃ俺のも頼むわ」

「何だよ古田、どこか行くのか?」

「あぁ、ちょっとな」


 古田は自分の取り分の魔石とかを新田に預けると、一人でシェアハウスの方へと帰っていった。

 ギルドで今日の分の買い取りを頼むと、鑑定をしてくれたオットーさんが笑みを浮かべて訊ねてきた。


「ほほぅ、だいぶケントに無茶させられたようじゃな」

「あー……分かります?」

「そりゃ、この量を見れば一目瞭然じゃろ。こんな稼ぎはAランクでも、なかなか無理じゃぞ」

「俺らだって、毎日は無理っすよ」


 俺らの後に買い取りを頼んだギリクを見て、オットーさんはニヤリと笑ったが何も言わなかった。

 素材の買い取りが終われば、今日の訓練は全て終了だ。


 ギルドの入口で俺達と別れて、1人で帰宅しようとするギリクを新田が呼び止めた。


「ギリクの兄貴、うちで飯食わないっすか?」

「あぁ? 何企んでいやがるんだ?」

「はぁ……いい加減その捻くれた性格は直した方がいいっすよ」

「う、うるせぇな……」

「それに、俺らの所、風呂が広いんすよ、風呂、風呂」

「はぁ、風呂だぁ?」

「兄貴は、あのオッサンの所に居候してるんすよね? 風呂あるんすか?」

「けっ、水浴びすりゃ十分だろ」

「あぁ、駄目駄目、せっかく今朝は小綺麗にしてきたのに、続けなきゃ駄目っすよ」


 何だかんだと理由を付けて、新田はギリクをシェハウスまで引っ張って来た。

 たぶん、何かを企んでいるのは間違いないが、まぁ新旧コンビならばさほど酷い事にはならないだろう。


 一番心配な八木は、朝からゲッソリしていたし、訓練が終わった頃には口から魂が漏れ出そうになっていた。

 マリーデも、相変わらず調子が悪そうで、あの国分すら加減をしていたくらいだ。


 古田が先に帰ったのは、ギリクの分を追加してもらうためだったようだ。

 出迎えたところをみると、追加の食材を買い出しに走らずに済んだようだ。


「おぅおぅ、今日もみっちり扱かれたみたいだなぁ……小汚いから、さっさと風呂入れよ」


 共同の食堂で俺達を迎えたのは、綿貫早智子だ。

 口は悪いのだが、八木のような嫌味な感じが全く無いので腹は立たない。


「あれっ、そっちの犬の兄さんは、国分とチョイチョイやりあってる人だよね。へぇ……一緒に訓練に行ったんだ」

「あぁん、俺が行っちゃ悪いのか?」

「いやいや、国分がまた何か企んでいるのかと思ってね」


 俺に視線を向けて来たので、分からないとお手上げのポーズをしておいたが、綿貫ですら思うならば何か企てているのだろう。


「おい、くそチ……いや、ケントの野郎が何か企んでるって、どういう意味だ?」

「えっ、これまで対立していた相手を自分の仲間の特権みたいな所に入れてるんだよ、何も無いとでも思ってるの?」

「いや、それは……」

「俺様の言う事なら、みんな何でも聞くんだ……なんて思ってたら大間違いだよ。特に国分は可愛い面して腹黒いからねぇ……きししし」


 人生経験で言うならば、壮絶な状況を乗り越えてきた綿貫だから、ギリク程度では欠片もビビった様子は無い。

 一方のギリクは、ネコに引っ掛かれてしょんぼりしているハスキー犬といった感じだ。


 それを新旧コンビが、少し離れた場所から眺めてニヤニヤしている……なんともカオスな状況だ。

 色々企むのは勝手だが、俺に尻拭いを持ってくるなよな。


 風呂に入って着替えてサッパリしたら夕食なのだが、新旧コンビに手招きされて同じテーブルに座らされた。

 ギリクの隣りに古田、ギリクの向かいに新田、新田の隣りが俺という形だ。


「どうでした、兄貴、俺らの訓練に参加してみて」

「まぁ、役には立ったかな……」


 相変わらず無意味に不機嫌そうな顔をしているが、それでも新旧コンビの質問にギリクは答えていく。

 俺達もそうだが、やはり一番驚いたのはロックオーガの頑丈さだった。


「なんなんだ、ありゃ。岩に斬り付けているみたいだったぞ」

「マジで、刃が通らなかったっすね」

「だが、ケントの野郎の眷属は斬り裂いてたぞ。何が違うんだ?」

「さぁ、スピードっすかねぇ……」


 新旧コンビも首を捻っているが、俺にも攻略法は思い浮かばない。


「刺したらいいんじゃない?」

「はぁ?」


 揃って首を傾げていた時に、いきなり隣りのテーブルから言われて、思わず4人揃って声を上げてしまった。


「あははは、いいね、いい感じに揃ってるよ」

「んだよ、綿貫。適当なこと言ってんじゃねぇよ」

「適当なんかじゃないさ。新田、丸ごとのカボチャって切ったことある?」

「カボチャ? んなもん、ある訳ねぇだろ」

「そっか、んじゃあ、ちょっとレクチャーして進ぜよう」


 綿貫曰く、固いカボチャを切るには、まずはヘタの部分をくり抜いて、そこに包丁を突き立て片側を切り、位置を変えて反対を切るそうだ。


「カボチャって一番固いのは外の皮の部分なのよ。で、中央の種の部分は柔らかい……これって何かに似てない?」


 確かにロックオーガは、皮膚の部分がゴツゴツしていて固いが、内臓の部分まで固い訳ではない。

 突き刺して、一番外の固い部分さえ突き抜けてしまえば、中を切ることは可能だ。


「てか、なんで綿貫がロックオーガの事を知ってんだよ」

「えぇぇぇ、日本にだってエビとかカニとかいたじゃん。あいつらだって甲羅は固いけど中身まで固くないっしょ」

「あぁ、確かに……生き物である以上、中は柔らかいのか」


 なんでカボチャなのかと思っていたが、意外にも参考になったが問題が無い訳ではない。


「刺すのは有効だと思うが、普通の剣では刺さりそうもないぞ。それに、刺した剣が抜けなくなったら奪われて、丸腰になる危険性だってある」

「でもよジョー、普段から槍まで持ち歩くのか?」

「それは無理だな……」


 古田の言う通り、武器はたくさん有った方が便利だが、使わない時には余分な荷物になる。


「長柄の槍は無理でも、手槍ぐらいは持ち歩けるだろう」


 そう言うとギリクは席を立ち、部屋の隅に立て掛けておいた自分の大剣を持って来た。

 小学生の身長ぐらいありそうな長く幅の広い鞘には、手槍が3本差してあった。


「おぉ、マジすか兄貴、普段から3本も手槍を持ち歩いてるんすか」

「ふん、冒険者として当然の話だ」

「てか、手槍もってたんなら、今日のロックオーガ戦で使ってくださいよ」

「う、うるせぇ! ちょっと忘れてただけだ」

「あははは……犬の兄ちゃん面白いねぇ」

「うるせぇ、俺は犬の兄ちゃんなんかじゃねぇ。ギリクって名前があんだ!」

「これは失礼、あたしは早智子だよ。ギリクの兄貴……きししし」

「うるせぇ、俺はお前の兄貴なんかじゃねぇ!」


 ギリクと綿貫がじゃれてる間に、新旧コンビがアイコンタクトを交わしていた。

 ギリクの視線がこちらに戻った瞬間を狙って新田が切り出す。


「ギリクの兄貴、今度、兄貴達の討伐に連れてって下さいよ」

「あぁん? 何でお前らを連れて行かなきゃなんねぇんだよ」

「えぇぇぇ……自分は俺らの訓練に飛び入り参加しておいて、俺らは連れてってくんないんすか?」

「ちっ……ペデルの野郎がうんと言えばな」

「あぁ、それは大丈夫じゃないっすか、俺ら一応戦力になりますし、オークの小さな群れくらいなら倒せますよ」


 新田の提案に面倒臭そうな表情を浮かべていたギリクだが、古田の提案を聞いて考え込み始めた。

 たぶん、ペデルと2人の状況と、俺達も加わった時の戦力差を計算しているのだろう。


「お前ら以外の者も参加させるのか?」

「兄貴がオッケーならば参加させますよ」

「なんで俺達なんだ? 他にも冒険者はいるだろう」

「まぁ、そうなんですけど、叩き上げのBランクなんですよね。そのペデルさん」

「それがどうした?」

「俺らは叩き上げの討伐の仕方を見学できる。そっちは戦力を増やして獲物を増やせるんですから、一網打尽っすよ」


 どうやら、新旧コンビの目的は、ペデルの経験を見て盗もうとしているようだ。

 確かに、国分のお膳立てで強力な魔物と戦うだけでは、実際の索敵能力が身に付かない。


 新旧コンビにしては良いアイデアだと思うが、それを言うなら一挙両得だろう。

 それでもギリクが渋い顔をしているのは、ペデルの同意を得るのが面倒なのだろう。


「ギリクの兄貴ぃ、連れてってやりなよ」

「う、うるせぇな。お前には関係ねぇだろう」

「新田とかを連れていってやれば、国分に作った借りを返せるんじゃない? それと、あたしはお前じゃなくて早智子だからね」


 綿貫の言葉を聞いて、ギリクは表情を変えた。

 たぶん、国分に借りを返せるのが魅力的に思えたのだろう。


「良いだろう、ペデルに掛け合ってやる。一緒に行くのは今日組んだ4人でいいな?」

「ういっす、それでお願いするっす」


 視線が合った綿貫がニヤっと笑みを浮かべたので、サムズアップで応えておいた。

 なるほど、国分の企ても、案外これなのかもしれない。

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