第404話 青い災厄

 ダンジョンに生息している蟻の魔物と言えば、ギガアントが一般的だ。

 頭の大きさは、大人が両手の親指と人差し指で作った輪ぐらいで、黒い殻に包まれている。


 普通の蟻を大型にしたようなもので、大きな顎で噛みつかれれば肉を食い千切られてしまうが、一匹を倒すだけなら踏みつけて頭をもいでしまえば良い。

 殻が硬いといっても、剣や槍が通らないほどではないし、木剣であったとしても勢いを付けて殴れば潰れる。


 ただし、ギガアントは群れで行動するので、足音などの気配に気を付けていないと一斉に群がられて命を落とすことになりかねない。

 メリーヌの弟ニコラが命を落したのも、このパターンだろう。


 だが、その晩ダンジョンから姿を現した蟻は、ギガアントさえギガと名乗るのが恥ずかしくなりそうな大きさだった。

 頭部は大人が両腕を回しても抱えきれなそうな大きさで、顎はまるで短剣のようだ。


 殻は鮮やかな青色で、真っ黒な眼が左右に2対、大人の腕ほどもある長い触覚を盛んに動かして周囲の様子を探っている。

 脚の太さは女性の腰回りぐらいはありそうで、生半可な剣で切りつけたなら刃こぼれしそうだ。


「冗談だろう……なんだよ、あの大きさ」

「あの顎で食い付かれたら、足ぐらい持っていかれそうだぞ」


 脚を地に付けたままでも、頭を上げると大人の背丈ほどの高さがあり、篝火を反射して青く輝く殻はいかにも硬そうだ。

 ワレスから話は聞いていたが、実物を見た冒険者達には動揺が広がっていた。


「手前ら、始める前からビビってんじゃねぇ! 相手は檻の中にいるんだ、外から袋叩きにして追い返す程度は訳ねぇだろうが!」


 ダンジョンの門番的存在であるロドリゴに一喝され、腰が引け気味だった冒険者達の背筋が伸びる。


「良く見ろ。どんなに殻が硬かろうが、目玉まで槍が通らないはずがねぇ。触覚ぐらい切り飛ばせるだろう。それになぁ、どんなに硬い殻でも火炙りにされれば無事じゃ済まねぇよ」


 ロドリゴの言う通り、どんな生き物にだって弱点はある。

 分厚く硬い殻を持つ魔物でも、火の中に居続ければ中身まで無事には済まないし、首や脚の付け根などの動く場所まで硬いはずがない。


「そろそろ出て来やがるぞ。火の魔術師は詠唱を始めろ。槍持ちは構えろ。来るぞ!」


 ダンジョンの入口で盛んに様子を伺っていた大蟻が、恐る恐るといった様子で外へと出て来る。

 柵や門までの距離は、10メートルも無い。


「ギィィィ……」


 待ち構えている者達の敵意に気付いたのか、大蟻は古い扉がきしむような声を響かせる。

 様子を窺うように高く上げていた頭を下し始めた所で、ロドリゴが攻撃開始の合図を出した。


「放て!」


 柵の隙間から火属性の冒険者達が、次々に攻撃魔法を放つ。

 10発以上の炎弾が命中して、大蟻の身体が炎に包まれた。


「ギシャァァァァァ……」

「やったか……」


 どこかの若い冒険者の言葉が終わるよりも早く、大蟻が炎を突き破って突進してきた。


 ドガーン! と凄まじい衝撃音が響き、大人の太腿よりも太い鉄柵がビリビリと振動し、柵が打ち込まれている岩盤すら震えているようだ。


「なめんな、クソ蟻がぁ!」

「ふんっ!」

「ギシャァァァ!」


 ロドリゴが右、俺が左の目玉に槍を突き入れると、大蟻は悲鳴を上げて後ずさった。


「油だぁ!」


 ロドリゴが指示を出すと、用意していた冒険者が柵の間から大蟻目掛けて油を浴びせる。

「放て!」


 大蟻に向かって炎弾が飛ぶが、その数は先程の半分以下だった。

 それでも炎は油に引火して燃え始める。


「術士! ボサっとしてんじゃねぇ! いつでも撃てるように準備しとけ!」


 柵の内側では大蟻から飛び散った油が燃え、さながら大きな暖炉のような状態だ。

 油を浴びて火を点けられた大蟻は、ダンジョンの穴倉へと戻って行って出て来ない。


「手前ら、気ぃ抜いてんじゃねぇぞ! 火がおさまってくれば、また出て来やがるかもしれねぇし、蟻が一頭だとは思うなよ!」


 柵の外で待ち構えている状態だから押し戻せたが、何も無い場所で突っ込まれたら間違いなく犠牲者を出していただろう。

 それでも、複数の冒険者で取り囲めば、討伐出来る可能性はありそうだ。


 ただし、それは相手が一頭ならばの話だ。 

 複数の大蟻に襲われれば、ひたすら逃げるしか生き残る術は無いだろう。


「ロドリゴ、ダンジョンに油を注いだ方が良くないか?」

「もう一当てしてからだ。火だけじゃ人間が舐められちまう。地上の人間を襲えば反撃され、痛手を負うと教えてやらないと、地上に上がる試みを止めなくなる」

「だが、そんなには持ちそうもないぞ」


 俺が柵の上を指差すと、ロドリゴも分かっているとばかりに頷いた。

 先程の大蟻の突進一発で、柵の上部と岩盤の間に隙間が出来ているように見える。


 柵の上部は、ダンジョン入口の天井部分を深く抉って差し込まれている。

 下側は地中深く埋めた後に、周囲の土を硬化させてあるらしい。


 どちらも人間が思い切り蹴飛ばしてもビクともしない強度だが、隙間が生じているようだし、柵そのものも若干歪んだようにさえ見える。

 あんな突進を何発も食らっていたら、柵が壊れるのも時間の問題だろう。


「来た! 2頭いるぞ!」


 炎の間を見透かしていた冒険者が声を上げた。

 ダンジョンの入口は、大蟻が2頭並んで通れるほどの広さは無いが、1頭は壁面にしがみ付くようにして穴の外の様子を窺っている。


「ちっ、どっちも新手じゃねぇか……」

「だったらロドリゴ、キッチリ教育してやるだけだろう」

「違いねぇ……おらっ、手前ら気合い入れろ!」


 ダンジョンの入口から外を覗う2頭の大蟻は、どちらも目玉が4つ揃っているし、焦げたような跡も見受けられない。

 あの程度のダメージで、仕留められたとは到底思えないが、虫系の魔物の場合、個体が得た情報を群れに持ち帰る場合がある。


 穴の外が危険という情報を与えてやれば、ダンジョンの外に出ようとしなくなるかもしれないのだ。

 ただし、火は現象として捉えられてしまう可能性がある。


 だからこそロドリゴは、物理的に痛手を負わせることに拘っているのだ。


「来るぞ……術士、放て!」


 身体が大きくなっても、生き物としての習性や動きには共通点がある。

 大蟻は、周囲の様子を探る時には頭を高く上げ、突進して来る時には頭を下げる。


 ロドリゴは、大蟻が頭を下げた所を狙って、出鼻を挫くように火属性の攻撃魔法を撃ち込ませるが、大蟻は炎の壁を突き破るように突進してきた。


 ズガ──ン!


 再び凄まじい衝撃音が響き渡り、上からバラバラと石が降ってきた。

 柵を支える岩盤が砕け始めたようだ。


「うらぁ!」

「ふんっ!」


 俺は再び目玉を狙い、ロドリゴは大きく開いた顎の間、口の中を狙って槍を突きいれた。


「ギシャァァァ!」


 悲鳴を上げた大蟻が後退りしたが、同時にロドリゴが突き入れた槍の穂先を噛み砕いていった。


「ちぃ……なんて奴だ」

「ロドリゴ、上だ!」


 突進してきた1頭に注意を引き付けられている間に、もう1頭の大蟻は壁面を伝って天井にぶら下がるような形で柵の上部を齧っていた。


「カルツ、飛べ!」


 ロドリゴが両手を組んで腰を落とす。

 ロドリゴの手の平に足を掛けると、勢いを付けて放り上げられた。


「食らえ!」


 空中でバランスを取りながら、槍で3連撃を繰り出した。

 足場が不安定だから、強い突きは放てない、ならば手数で勝負と連撃を選んだのだ。


 連撃は自分が思った以上の精度で大蟻の目玉を捉えた。


「ギシャァァァ!」


 痛みでパニックを起こしたのか、天井にぶら下がっていた大蟻が落下して、下にいた大蟻を圧し潰す。


「油ぁ! たっぷり浴びせてやれ!」


 大蟻の一頭は腹の下を見せてジタバタもがいているが、足の付け根以外はどこも硬そうだ。

 折り重なってもがく大蟻に、待ち構えていた冒険者が油を浴びせた。


「放て!」


 先程とは違い、今度は二度目でも10発以上の炎弾が降り注ぎ、2頭の大蟻は炎に包まれる。


「ギシャァァァァァ……」


 起き上がった大蟻達は、這う這うの体でダンジョンへと逃げ戻って行くが、その動きからは素早さが失われているように見えた。


「よし、ダンジョンの入口辺りで火を燃やして絶やさないようにしろ。土属性の術士は、手分けして柵の根元を補強しろ!」


 青い大蟻は、かなり強力な魔物だが、ダンジョンへの封じ込めは上手くいきそうだ。


「問題は、この後だな……」

「なぁに、明日になれば守備隊で応援を寄越してくれるんだろう? 封じるだけなら何とでもなるし、ダンジョンが駄目でも今は護衛の仕事がいくらでもあるから大丈夫だろう」

「この柵は、更に補強しておいた方が良さそうだな」

「下は何とかなるが、問題は上だな……」


 ロドリゴが見上げた先、柵の上部が埋まっている岩盤には篝火の明りでも分かるほどのヒビ割れが出来ている。


「いっそ柵の外側に、狭間を付けた壁を築いた方が良さそうだな」

「ギルド経由で申請を上げておくか……」


 封じ込めは上手く行きそうだし、ダンジョンに潜れなくなっても今は冒険者の仕事が潤沢にある。

 だが、イロスーン大森林の工事が終わって通行が出来るようになれば、護衛の仕事も減ってしまうだろう。


 何よりもダンジョンという存在は、冒険者を引き付けて止まない。

 いずれは危険を冒してでも、探索をさせろと言い出す冒険者が出て来るだろう。


 またしても、俺の頭に浮かんだのはケントとその眷属の姿だった。

 初めて目にしたのは、ロックオーガの大量発生の時だった。


 魔の森から次々と姿を現すロックオーガに、城壁を守っていた俺達守備隊一同は死すら覚悟したほどだ。

 ところが戦いが始まるかと思った時に、突然現れた3体のスケルトンによってロックオーガの大群は殲滅されてしまった。


 以後もゴブリンの極大発生や、4頭ものサラマンダーの襲来、グリフォンによる襲撃、ヴォルザードに降りかかった災厄をことごとく振り払ってみせた。

 おそらく、今回の大蟻もケント達に頼ることになるのだろう。


 3頭の大蟻を撃退して以後も、ダンジョンの入口から別の個体と思われる大蟻が顔を覗かせることはあったが、火と油で牽制すると奥へと引っ込んで行った。


「カルツ、少し休め……」

「いや、まだ大丈夫だ」

「俺も後で休ませてもらうから、先に休んでくれ」

「そうか、そういう事なら……」


 封じ込めが一段落したと見て、ダンジョンの入口から少し離れた場所で炊き出しが行われ、暖かいスープが振る舞われていた。

 冒険者達も交代でスープとクラッカーの簡単な食事を取り、用意された毛布に包まって仮眠を取り始めた。


 時間は、まだ夜半前といった辺りだろう。

 夜明けまでには、まだまだ時間があるし、いつ状況が変わるか分からない。

 休める時には身体を休めて、いざという時に備えるのだ。


 俺も朝から起きたままだが、馬車に揺られて来た程度で大して動いた訳ではないので、まだ余力は十分にある。

 それに、未知の魔物との戦闘は、思っていたよりも精神を高揚させているらしく眠気は感じ無かった。


 それでも、戦闘において視力の低下は致命的な隙になるので、瞼を閉じて目を休める。

 ザワザワと聞こえて来るのは、ワレスが広めた大蟻の話のようだ。


 俺とメリーヌが到着した時、相当な数の冒険者とポーターがダンジョンへと潜って行った。

 あの者達は、どうなってしまったのだろうか。


 ワレスが戻って来た後は、ただの一人も冒険者は戻って来ていない。

 大蟻を避けながら、帰還するチャンスを窺っているのだと思いたいが、現実はそんなに甘くはないだろう。


 疲れてはいないと思っていたのだが、瞼を閉じていたら、いつの間にかウトウトしていたようだ。


「助けてぇぇぇ!」


 突然響いてきた女性の悲鳴に、意識を引き戻された。

 悲鳴はダンジョンとは逆の方向から聞こえた。


 声の主は、ダンジョンに一番近い宿屋の階段を駆け上がって来た女性だったが、直後に現れた青い強靭な顎に捕らえられてしまった。


「いぎゃぁぁぁ……がはっ」


 青く鋭い顎は、女性の胴体をあっさりと両断してしまった。


「いやぁ……たす……」


 まだ辛うじて息があった女性の上半身は、大蟻に咥えられて宿屋の階段へと姿を消した。


「油を持って来い! 階段にぶちまけて火を点けろ!」


 鬼気迫る表情で叫ぶロドリゴに続いて、毛布を跳ねのけて起き上がり、宿屋の階段へと走る。

 ダンジョンの入口から出られないと悟った大蟻は、横穴を掘り進めて一番近くの宿屋の壁を突き抜けたのだろう。


 階段の入口に辿り着くと、地下からは悲鳴が聞こえてきた。


「ロドリゴ、まだ人が残ってるんじゃ……」

「無理だ。助けになんか入れやしない。それよりも他の宿もヤバい。避難させてくれ」

「分かった」

「それと、カルツ。お前はべっぴんさんの所に戻ってやれ」

「何言ってんだ、こんな時に……」

「こんな時だからだ。奴ら、どこから出て来るかも分からないぞ。場合によったら、集落を放棄して逃げなきゃならん。ここから先、自分の身を守れるのは自分だけだぞ」


 ロドリゴは、冒険者が転がしてきた油の樽の蓋を開けると、階段に向かって中身を流した後で樽を蹴り落とした。

 丁度出てきた大蟻の頭を樽が直撃して油が飛び散る。


「放て!」


 術士が放った炎弾によって油に火が点き、階段は炎に閉ざされた。

 それでも、ロドリゴは大蟻が突き破って出て来ないか、油断なく槍を構えて見守っている。


「何してる、カルツ! 行け!」

「分かった!」


 階段の守りをロドリゴに任せて、近くの宿屋に知らせて回る。

 魔物に襲われないように、わざわざ地下に部屋を作ったのに、それが裏目に出るなんて宿の主にしてみれば想像すらしていない事態だ。


 それでも、ダンジョンの近くという土地柄なのだろう、殆どの者達は貴重品と僅かな着替えを持って飛び出して来る。

 欲をかいて大荷物を抱えていたら、それだけ逃げ足が鈍り、身を隠しづらくなる。


 命と金さえあれば、後は何とでもなるというのが、ダンジョンに関わって生きる者の処世術だ。

 宿の者達を避難させた後、守備隊の連絡所へと戻った。


 ダンジョン近くの集落には、酒場で働く女性や娼館の女性など冒険者以外の者も多くいる。

 乗って来た馬車は小型だが、そうした女性と一緒にメリーヌを乗せて、ヴォルザードの街まで避難させるつもりだ。


 連絡場へ入り、宿直の者に他の隊員を起こして避難させるように伝える。

 地下3階にある宿泊所へ行くと、騒然とした雰囲気に気付いたのか、既にメリーヌは起きていた。


「メリーヌ、こんな時間にすまないが、ヴォルザードに戻る」

「分かりました」


 ニコラの死によって落ち込んでいた影響もあるのか、メリーヌの顔が青ざめて見える。


「大丈夫だ。俺が必ず守る」

「カルツさん……はい」


 抱き締めると、メリーヌの震えが収まっていった。

 この腕の中の欠け替えの無い人だけは、何としても守り抜く。


 メリーヌを連れて部屋を出て、地上へと続く階段を上る。

 地下3階から地下2階へと上がる踊り場を曲がった所で、慌てて身体を引き戻した。


「カルツ……」

「しっ……」


 俺の名前を呼ぼうとするメリーヌの口元を、急いで手で押さえた。

 階段を上がった先は、テラテラと青く光る胴体で塞がれていた。

「うぎゃぁぁぁ!」


 守備隊員と思われる悲鳴が階上から響き、階段上を塞いでいた青い胴体は、ガサガサという足音と共に移動していった。

 またメリーヌの身体が、ガタガタと震えだした。


 状況からして、地下2階の壁を突き破って大蟻が侵入したのだろう。

 このまま、ここで息を殺していても、いずれ見つかってしまうだろう。


 だからと言って、下に降りたところで逃げ場は無い。

 生き残るには、覚悟を決めて地上まで駆け上がるしかない。


「メリーヌ、俺におぶさってくれ。地上まで一気に走る」

「いえ、私はここに残ります。きっとニコラが……」

「駄目だ。絶対に駄目だ。死ぬ時は一緒だ」

「カル……んっ」


 メリーヌの唇を俺の唇で塞ぐ。

 離すものか、大蟻なんかに奪われてなるものか、俺が命を懸けて守る。

 例え、力及ばず命を落とすとしても、その時は一緒だ。


 一旦、地下3階の部屋に戻り、シーツを割いて紐を作り、おぶさったメリーヌと俺の身体を縛り付ける。

 背中に量感溢れる柔らかな膨らみが当たっているが、その感触を楽しんでいる余裕は無い。


「行くぞ、メリーヌ」

「はい……」


 普段、重たい装備を背負っての訓練も行っている。

 それに較べれば、羽を背負っているようなものだ。


 地下2階へと上がる踊り場に戻り、息を殺して耳を澄ませる。

 ガサガサという足音が近付いて来て身を隠すと、階上を青い巨体が横切って行った。


 その胴体が通り過ぎた直後に、足音を殺して階段を駆け上がる。

 地下2階の踊り場を駆け抜け、地下1階の踊り場も駆け抜け、あとは地上への階段だけなのに先客がいた。


 地上へ向かう階段の踊り場から、青い胴体がはみ出している。

 地下2階へ下りる階段の向こうからは、青い触覚が見えた。


 咄嗟に地下1階の一番手前の部屋へと飛び込んでドアを閉める。

 直後にガサガサという足音が迫って来て、通り過ぎて行った。


「はぁ……はぁ……」


 危うく鉢合わせになる所だったが、何とかやり過ごせたようだが、閉じ込められてしまった。

 飛び込んだ部屋は、守備隊の装備を保管している部屋で、盾や剣、槍などの武器も置かれている。


 戸棚を漁ると、ニガリヨモギの粉があった。

 魔物が嫌う匂いの粉で、ダンジョンの内部で休息を取る時などは、周囲にこれを撒いておく。


 大蟻に対して、どれほどの効果があるか分からないが、ドアの下にたっぷりと撒いておいた。

 またガサガサと足音が近づいてきて、ドアの前で止まった。


 魔物除けの粉が逆効果となってしまったのだろうか。


「ギィィィ……」


 低く軋むような声を洩らした後、足音を残して大蟻は遠ざかっていった。

 どうやら、まだツキが残されているようだ。

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