第381話 日本文化の普及

 ギルドで合流した新旧コンビに連れて行かれたのは、倉庫街の片隅にある食堂でした。

 店に入る前から、香ばしい匂いが裏通りに流れています。


「おやっさん、入れる?」

「おぅ、タツヤか。久しぶりじゃねぇか、奥が空いてるぞ」


 古田に返事を返した店主は、熊が服を着てるのかと思うような大男で、モジャモジャの顎髭を蓄えています。


「てか、マールブルグまで行ってくるって話したじゃんか」

「おぅ、そうだった、そうだった。まるで冒険者みたいな仕事するって言ってたな。がはははは!」


 入口のドアを潜ると、店の中には香ばしい匂いと煙が立ち込めています。

 良く見ると、各テーブルにはコンロが設えてあり、客が自分で具材を焼いているようでした。


「焼肉屋……なの?」

「みたいなもんだ、おぅ奥に行くぞ」


 どうやら、新旧コンビは店の常連らしく、顔見知りの客とも挨拶を交わしています。

 それは良いとして、店内にいるお客の殆どがおっさんで、女性客の姿は見えません。


 それどころか、店員までが全て男性だ。

 まさか、その手の趣味の方々が集まる店じゃないだろうね。


「いらっしゃい、毎度どうも……って、今日はジョーは一緒じゃないんだ?」

「あぁ、ジョーは別口の用事があるんで、今夜は特別ゲストが一緒だ」

「特別ゲスト?」


 ぽっちゃり体型で、愛想の良い犬獣人の店員さんは、僕の顔を眺めて小首を傾げている。


「おぅよ、ヴォルザードが誇るSランク冒険者だ」

「えぇぇぇ! ま、魔物使いぃぃ?」


 店員さんはズザっと1メートルほど後退りして僕の顔をマジマジと見詰め、その声を聞いたお客さんたちの視線が集まり、店から話し声が消えました。


「そうですけど、別に取って食ったりしないから大丈夫ですよ」

「ホ、ホントに本物の魔物使いなんですか?」

「二人からは、僕が友達だって聞いてないんですか?」

「いや、聞いてますけど……」


 犬獣人の店員さんは半信半疑……いや、八割がた偽物だと思っているようで、店のお客さん達も信じていないみたいです。

 ギルドだったら結構顔が売れているんですが、倉庫街の肉体労働系の皆さんには顔を知られていないみたいですね。


「おいおい、こんなガキがSランクの冒険者だと? 法螺話をするにしても、もっと笑えるネタにしろよ」


 すでに酔っ払っているらしい四十過ぎぐらいの赤ら顔のおっさんが、薄笑いを浮かべながら捲し立てると、店のあちこちから笑い声が起こりました。

 てか、僕が騒動を起こすのを期待しているのか、新旧コンビがニヤニヤしているのがちょっとムカつきますね。


「わざわざ本物の証明とかしないからね」

「ちぇっ、なんだよスケルトンのおっさんとか呼び出してくれれば面白いのに」

「ラインハルトには、新田がしごいてもらいたいって言ってたって伝えておくよ」

「ちょっ待て! あのおっさんマジで加減知らねぇから、洒落になんねぇぞ!」

「てか、全部影の中からお見通しだからね」

「げぇ……マジか」


 魔の森での訓練は、居残り組にとっては手っ取り早く強くなるために最高の環境なので、機会があれば逃さず参加してきますが、それでもラインハルトのしごきはきついようですね。

 新田がテーブルに突っ伏している間に、古田は慣れた感じで注文を終えました。


「いつもので通じるほど通ってるんだ」

「まぁな。てか、この焼肉屋スタイルは、俺と和樹がおやっさんに教えたんだぜ」

「えっ、そうなの? 前は違ってたんだ」

「あぁ、安くて量はあったけど、売りが乏しいから客の入りは今いちだったな」


 以前は、いわゆるドカ盛りが売りだったそうですが、味の面で特徴が乏しかったそうです。


「だから、俺と達也がこのやり方を教えたら、炭火で焙られるから香ばしさが増して、ついでに通りにまで匂いが流れるようになって、見ての通り大繁盛って訳だ」

「なるほど、ヴォルザードでは焼肉屋とか見かけないもんね」

「あのトングも俺たちのアイデアだ」


 他の席の様子を見てみると、トングで肉を挟んで卓上コンロの網の上に載せている。

 ヴォルザードでは、日本のように箸を使う習慣が無いので、肉を並べるのにトングが便利なのでしょう。


「てかさ、トングは新旧コンビのアイデアじゃないよね」

「まぁ、そうだけど。こっちには無かった形だから良いじゃんか。あんまり細かいことを気にしてるとハゲるぞ」

「そうそう、別に俺や和樹が権利を主張して儲けてる訳じゃねぇし、みんなが便利になるなら問題ないだろう」

「まぁ、みんなが恩恵受けてるなら良いか……てか、近藤はどうしたの?」


 居残り組では、これまで新旧コンビと近藤はセットで動いている感じでした。

 僕としては、新旧コンビの暴走を近藤が引き留めてくれる形が理想なので、今の状況には少々不安ですね。


「ジョーか……奴は裏切り者だ」

「あぁ、あいつは変わっちまったんだ」

「えぇぇ……近藤が裏切った?」


 ますます不安な話を聞かされて、これは詳しい内容を確認しないと駄目だと思ったのですが、そこへ料理が運ばれてきちゃいました。


「はい、おまちどうさま!」

「おぉ、来た来た。とりあえず食おうぜ」

「そうそう、話は食いながらするからさ」


 新旧コンビは、運ばれて来た皿からトングで肉を摘まむと、網の上へと並べ始めました。

 途端に香ばしい匂いが立ち上ってきます。


 塩ダレには何種類もの香草の他に、ショウガやニンニクなども混ぜてあるようです。

 肉は内臓系のものらしく、皿によって盛られている部位が違うようです。


「へぇ……これは、どこの部位なの?」

「知らん。分かるのはレバーぐらいだな」

「どこだろうと美味けりゃ良いんだよ。細かいことを気にしてるとハゲるぞ」


 新旧コンビは、網一面に肉を並べ終えると、ジョッキを手にしました。


「うしっ、じゃあ無事に護衛の依頼を完遂したことに……」

「国分の奢りに……」

「はぁ……居残り組の無事を祝して……乾杯!」


 ジョッキの中身を口にすると、柑橘系の香りと爽やかな酸味が感じられます。

 そして、冷えた液体が喉から食道を通って胃袋へと落ちていくと、フワっと身体が熱くなる感じがします。


「えっ、これってお酒じゃないの?」

「国分、細かいことを……」

「はいはい、ハゲるんだよね」


 どうやら、日本で言うところのレモンサワーのようなものらしく、これもまた新旧コンビが広めたようです。

 いくらヴォルザードだからといって、日常的にお酒を飲むのは駄目じゃないのかなぁ……まぁ僕もリーブル酒には目が無いですけど。


「国分、そろそろ焼けるからジャンジャン食えよ」

「これって、一応良く焼いた方が良いよね」

「まぁな、俺らも未知の細菌とか寄生虫とかは勘弁だから火は通してるぜ」


 日本でもO-157とか、ノロウイルスとか、アニサキスとか、生食に関してはヤバいものが沢山ありますけど、異世界だから何があるのか更に不安です。


「あっ、失敗した……」

「何だよ国分、まさか金忘れたとか言うなよな」

「そうじゃないよ。闇の盾を通すと、生き物は通り抜けられないから、少なくとも寄生虫は排除できるんだよ」

「えっ、マジ?」

「マジ、マジ。鷹山と護衛の依頼をやった時にも、安宿のふとんからダニを排除するのに使ったりしたんだよ」

「うそっ、そんなこと出来るのかよ。あの変な匂いのダニ除けとか使わなくて良いのかよ。こいつマジでチートだな」


 布団のダニ退治に使う粉薬は、かなり匂いがキツいそうです。


「えっ、それってコーリーさんの所のも?」

「いや、ミュー姉さんの所のは知らねぇけど、今回の宿のはなぁ……」

「あれだ、あれ、ドクダミを千切ったような匂い」

「あぁ、それは確かにキツいね」


 話をしながらなんですが、網の上からは次々と肉が姿を消し、消えたと思うと次なる肉が乗せられていきます。

 話して、食って、飲んで、乗せて……よくもそんだけ器用に出来るもんだと感心しちゃいますね。


「それで……近藤がどうしたの?」

「あぁ、マールブルグの女冒険者とデキたらしい」

「うっそ! マジで!」

「あぁ、間違いないな。なぁ達也」

「あぁ、和樹の言う通り、あれは間違いなくもがれたな」

「えっ、もがれた? 何を?」

「そんなもの、ナニをに決まってんだろ」

「そうそう、ミカンだよミカン」

「えっ、ミカン……?」


 サッパリ話が見えませんでしたが、その後の話を繋ぎ合わせていくと、マールブルグで近藤が単独行動をしている時に、ロレンサに押し倒されたらしいのです。


「てか、それはミカン狩りじゃなくてミイラ取りだからね」

「国分、細かい……」

「はいはい、それであのマールブルグのコンビと、この先も連携していくことになったんだ」

「まぁ、それに関しちゃ文句はねぇんだけどな。あっちのが経験は豊富そうだし」

「そうそう、その経験にジョーは敗れたんだろうがな」


 新旧コンビは、バクバク肉を消費しつつ、グイグイと酒を煽っていて、これは駄目な大人一直線じゃないですかね。


「そんで、二人はどうしたいのさ? 提携には文句は無いんでしょ?」

「あぁ、提携には文句は無い」

「新田も?」

「あぁ、無いぞ」

「だったら、二人のどっちかがロレンサを狙ってたとか?」

「まさか……無い無い、それは無い」

「俺らにだって選ぶ権利ぐらいはあるぞ」

「だったら……まさか、近藤を狙っていたとか?」

「バーカ! お前、ぶっとばすぞ!」

「いくらSランクだって、ぶっとばしちゃうぞ……たぶん負けるけど」

「じゃあ、何が不満なんだよ」


 グダグダ言ってないで、ハッキリ言えよと迫ると、新旧コンビは目くばせをした後で白状しました。


「だってよぉ……俺らだけじゃん」

「えっ?」

「ヴォルザードに残った男の中で、俺達だけが女っ気無いじゃんかよ」

「あぁ……鷹山はシーリアさん、八木にはマリーデ、なるほど……って、まさか僕に女の子紹介しろとか言わないよね? 合コンなんて参加したら、僕の身が危ういから絶対に誘わないでよ」

「バーカ、誘う訳ねぇだろう」

「そうだよ。国分みたいなチート野郎がいたら総取りされて終わりじゃんか」

「じゃあ、僕にどうしろって言うのさ?」

「別に国分は何もしなくて良いんだよ」

「と言うか、何もするな!」

「えぇぇ……意味が分からない、って、それ僕が育ててた肉!」

「国分よ、この世は焼肉定食の厳しい世界なんだよ」

「それを言うなら……もう、いいや。それで、僕は何もしないのに呼び出されたの?」

「いや、そうじゃない……」


 新旧コンビは、再び目くばせし合うと、僕に向かって頭を下げました。


「すんません、国分さん。名前貸して下さい」

「いいっすよね。俺ら友達っすよね、ね、ね!」

「はぁ……八木方式を試そうって魂胆か」

「そこを何とか……」

「なっ、なっ!」


 頭を上げた新旧コンビは、今度は両手を合わせて拝んできます。

 どうやら、僕の名前を利用して、女の子と仲良くなろうという作戦のようです。


「まぁ、八木と違って無断で名前を利用しようと考えないだけマシだけど……」

「いいじゃん……俺ら友達だろ?」

「別に、女の子を騙そうとしてる訳じゃなくて、ちょっと、ちょーっと仲良くなる切っ掛けになってもらうだけだからさ」

「はぁぁ……しょうがないなぁ」


 ほんのちょっとだけ承諾の意思を匂わせただけで、二人は満面の笑みを浮かべて両手の拳を握りました。


「マジ! いいの!」

「さすが国分、太っ腹!」

「ただし! 八木みたいに法螺とか嘘とかは駄目だからね」

「分かってるって。てかさ、その辺は俺らだって考えてんだよ」

「そうそう、あんまり国分押しにすると、結局国分に持っていかれて終わりだからな」


 そこから二人は、マールブルグの道中に相談し合った作戦を饒舌に話し始めました。

 曰く、僕の名前を利用するのは、あくまでも出会いの切っ掛けのみで、会わせてやるとか、大親友とか過度の期待をさせない。


 曰く、僕のエピソードは話すけど脚色は無しで、自分達の能力も水増ししない。

 曰く、あくまでも紳士的な態度で臨み、日本の恥になるようなセクハラ行為は行わないそうだ。


「うん、まぁそれを実行してくれるなら大丈夫だろうけど……」

「何だよ、国分。何か言いたそうじゃんか」

「うん、二人とも、結構むさ苦しくなってるって自覚ある?」

「えっ……マジ?」

「うそっ……だよね?」


 どうやら自覚してなかったようですが、二人ともマールブルグからの道中を終えたばかりなのを差し引いても、かなりむさ苦しくなってます。

 特に野球部所属だった新田は、坊主頭が伸び放題という感じなので、髪がボワっとしていて更にむさ苦しく感じます。


「まぁ、僕も他人のことをとやかく言えるほどではないけども、もうちょっと小綺麗にした方が良いんじゃない?」

「そうか……言われてみれば確かに和樹の頭はヤベぇな」

「うっそ、てかどうすりゃ良いんだ? 俺、ずっと坊主だったし髪型とか気にしたことが無いんだけど……」

「そっか、ちょっと待って……」


 確か影の空間に置いてあったと思うものをゴソゴソと探したのですが、酔いが回ってきたんだかフワフワします。


「えっと……あった、ほいハサミ」

「えっ、自分で切るの?」

「古田にやってもらったら?」

「いやいや、いやいや、無理無理、無理だろう。絶対失敗する、200パーセント失敗する」

「バーカ、和樹。俺を信じろ! 俺が信じられない俺を信じろ!」

「嫌だよ、ふざけんな!」


 まぁ、確かに古田にやらせたら、虎刈り間違い無しでしょう。


「あー……相良さんに頼んでみたら?」

「おぅ、相良は器用そうだもんな」

「和樹、俺を……俺を信じ……」

「信じねぇよ。散髪に関しては、絶対にお前は信じねぇよ」

「ちっ……逆モヒカンにしてやろうと思ったのに」

「なんでだよ。なんで、よりよって逆モヒカンなんだよ」

「決まってんだろう。和樹の髪型を掴みにして、美味しいところは俺が持っていく……」

「ふざけるな、ザビエル頭にすんぞ、この野郎」

「まぁ、最後は僕が全部いただくけどね」

「おいコラ、いい加減にしろよ性獣」

「ちょん切っちまうぞ、エロランク冒険者」

「あれぇ、僕ら友達じゃなかったのぉ?」

「嫌だな国分、冗談だよ、冗談」

「そうだよ、俺らマブダチじゃん!」


 まったく、この調子だと、さっきの誓いも怪しいもんですねぇ。


「そう言えば、八木はまた何かやらかしたの?」

「あぁ、サル野郎か……」

「年中無休の発情期野郎な」

「えっ、まさか……」

「そのまさかだよ、信じられっか? 安宿のうっすい壁一枚しかないのに……」

「二晩続けてアンアン、ギシギシだぞ。あいつらアホか!」

「はぁ、それは確かにアホだね」


 ちょっと想像するだけでも新旧コンビが可哀相に思えてきちゃいますね。


「でもさぁ……」

「何だよ、国分。まさか、あいつらの味方する気じゃねぇだろうな」

「いや。そうじゃないけど……そのアンアン言ってたのって、八木だったんじゃない?」

「ぶはっ、ごほっ……ごほごほっ……」


 新旧コンビの二人は、含んでいた酒を噴出して咳込みました。


「手前、国分! 笑わせんじゃねぇよ。想像しちまっただろう」

「あはははは! だって、だって、どう考えたって襲われてるのは八木でしょ」

「お前は、その場にいなかったから笑ってられんだぞ。あっ、でも八木だったのか?」

「ぶはっ……達也、手前まで言うか」

「てか、あのマリーデの相手を務めるんだから、ある意味八木は強者じゃね?」

「まぁ、そうだけど、翌日鳥ガラみたいになってたけどな」

「ごほっ、ごほっ……と、鳥ガラって、あはははは……」

「バーカ、マジでこんなだぜ、こんな……」


 古田がムンクの叫びのような顔をしてみせるので、笑いが止まらなくなりました。


「あはははは、鳥ガラ、八木が鳥ガラ……あははは」

「うっせぇぞ! このガキどもが!」


 せっかく人が楽しく話しているのに、絡んで来たのは僕をSランクだと信じなかったおっさんでした。

 声が大きかったのは確かですが、店全体が同じぐらいのボリュームとテンションで話している人ばかりなので、僕らだけがうるさかった訳ではありません。


「乳離れしたばっかのガキが、ギャーギャー騒いでんじゃねぇよ」

「なんだと、おっさん! 手前こそ調子こいてんじゃねぇぞ!」

「達也、畳んじまえよ……」


 だいぶ酔いが回っているようで、目が据わっている古田がフラリと席を立ちました。

 僕も酔いが回っているらしく、古田を止めるよりもバイオレンスな展開を期待しちゃっています。


 ぶっちゃけ、少々の怪我なら僕が治しちゃいますからね。


「おぅ、やれやれ! タツヤ、やっちまえ!」

「ホセ、ガキなんかにやられんじゃねぇぞ!」


 一瞬静まり返った店内でしたが、ケンカを期待して客が囃し立て始めました。

 ホセと呼ばれたおっさんが、腕まくりをして凄んでみせます。


「おもしれぇ、身の程を知らないガキには大人が教育……」

「グルゥゥゥ……グルゥゥゥゥゥ……」


 地の底から響いてくるような唸り声に、今度こそ店の中が静まり返りました。


「んー……眷属には僕の感情が伝わっちゃうんですよ。せっかくの楽しい時間を邪魔されて、けっこうイラついちゃってますね」

「グルゥゥゥ……」


 足下からそのまま響いてくるようなゼータ達の唸り声は、巨大な生き物だけが持つ圧力を伴っています。


「僕もけっこう酔っ払ってるみたいで、これ以上イラつかされると、どうなるか分からないです。ちなみに、あなたの足下にはギガウルフが三頭ほど出番を待ってます」

「ほ、本物の魔物使い……」

「だから、最初からそうだって言ってるじゃないですか。何か文句あります?」

「無い! 何も文句なんか無いから助けてくれ!」


 さっきまで真っ赤だったおっさんの顔は、まるで信号機のように真っ青に変わっています。


「じゃあ、僕らもう少し楽しんでいきますんで、とっとと金払って帰れ……」

「わ、分かった。こ、ここに置くぞ……」


 おっさんが逃げるように店を飛び出していくと、足下から響いていた唸り声はピタリと止みました。

 うん、あとでゼータ達を撫でまくってあげましょう。


「どうも、お騒がせしました。あー……店員さん、皆さんに一杯御馳走してあげて下さい。僕が払いますから」

「おぉぉ! さすが魔物使い、太っ腹だ!」

「やっぱりSランクは違うねぇ!」

「いやいや、そんなでもないことはないかなぁ……」


 結局、この晩はデレデレになるまで酔っ払って、僕の代わりにラインハルトがお勘定を済ませてくれたようです。

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