第374話 マールブルグの昼下がり

※ 今回はヴォルザード居残り組の良心、近藤譲二目線の話になります。


 国分健人という友人は規格外だ。

 リーゼンブルグに召喚された直後、魔法を使えないハズレだと判定され、追放された危険な森で魔物に殺されたと思われていた。


 だが実際には、一緒に召喚された二百人の同級生の中で最もレアな魔法を手に入れ、それを活用して生き残っていた。

 国分は、魔道具によって奴隷化され、言われるままに訓練を続けていた俺たちとは違い、異世界の街で一人の冒険者として暮らしながら魔法の腕を磨いていたそうだ。


 あるいは、俺たちも現代日本の知識を活用しながら、自由な発想で魔法の訓練をやっていれば、もっと実力が上がっていたのかもしれないが、その日その日を生きるのに精一杯で工夫を行う余裕は無かった。

 いや、国分とて見知らぬ街で一から生活基盤を築いていったのだから、俺たちの実力が不足しているのは俺たちの責任だ。


 国分は、闇属性の魔術士の特性を最大限に活用して、俺たちを囚われの身から救い出してくれた。

 隣国の領主から助言を受けていたそうだが、兵士を借りた訳でもなければ、道具を借りた訳でもない。


 己と魔物の眷属の力で、リーゼンブルグという国を向こうに回して、全員救出という勝利を得たのだから大したものだ。

 国分の功績は、俺たちの救出だけにはとどまらない。


 異世界と日本を行き来して、遂には同級生たちの日本への帰還すら実現してしまった。

 国分が三人の嫁を貰うと言い出した時には、同級生からバッシングされたものだったが、その実力を考えれば一夫多妻は当然の成り行きだろう。


 規格外な魔法を使う国分は、成長度合いも規格外だった。

 地方領主や王族との交渉だけでも何だそれレベルなのに、最近では隣国の隣国や海の向こうにまで足を伸ばして、地域紛争の解決やら巨大な魔物退治などをしているらしい。


 未だ駆け出しの冒険者の俺たちからすれば、呆れるような活躍ぶりだが、もう『国分だから……』で片付けることにしている。

 国分の真似をしようなんて考えたら、たぶんこの世界ではあっさり命を落とすことになるだろう。


 国分は国分、俺たちは俺たちと割り切って、時々手を借りて少し楽をさせてもらうぐらいに考えておくのが良いのだろう。

 今回の護衛の仕事でも、日本から送ってもらったレインウエアは大活躍した。


 こちらの世界にはナイロンのような化学繊維が無いし、撥水技術も遅れているから雨具の性能は段違いだ。

 他の冒険者からは、どこで手に入れた物なんだと散々尋ねられたが、魔物使いのコネだと言えばそれで終わりだ。


 俺たちにとっては、少々風変わりな同級生の一人に過ぎないが、こちらの世界ではSランクの冒険者は近寄りがたい存在らしい。

 国分は、こちらの世界の人々からは、恐れられる存在となっているが、一方で感謝される存在にもなっている。


 今回、馬車の護衛をして峠を越えてきたが、途中に何か所か、明らかに作ったばかりの場所があった。

 巨大な石板を、巨大な石柱で支えた橋は、国分の手によるものだろう。


 豪雨の後で、二日と掛からずに作り終えたのだから、日本の技術で橋を架けるよりも遥かに早い。

 ガードレールどころか縁石すら無い作りには、酷い手抜き工事だとは思ってしまったが、日持ちしない荷物を運んでいる者達からすれば、通れるだけでも有難いそうだ。


 俺たちが護衛している馬車の積み荷は穀物だったので、焦って運ぶ必要は無かったが、日数が掛かれば護衛に支払う日当が増えるから、依頼者たちは早々に出発できると聞いた時には胸を撫で下ろしていた。

 そして昨日の夕方、俺たちは無事にマールブルグへと到着した。


 俺たちが護衛してきた馬車は、積んできた穀物を下ろして、帰りは鉱石を載せて帰る。

 荷下ろしと積み込みが行われている間、俺たちは依頼主が用意した宿屋で待機となった。


 出立は明朝の予定で、今日は自由にして良いという話なので、新旧コンビに鷹山、それに八木とマリーデは街の見物に出掛けている。

 俺は国分が護衛から離れた後に気を使い過ぎたらしく、マールブルグに到着した途端どっと疲れを感じたので残って休むことにした。


 薬師志望のミューエルさんの護衛はやっていたが、本格的な護衛仕事は今回が初めてなので、そういう意味でも緊張していたのだろう。

 ベッドが二つあるだけで、本当に寝るだけの部屋で横になっていると、不意にドアが開いた。


「なんだい、ジョー、あんた一人なのかい?」


 顔を見せたのは、マールブルグまでの道中で一緒に護衛を行ってきたロレンサという女冒険者だ。

 不細工ではないが180センチぐらいの長身で、身体つきも胸の膨らみが無ければ男と見間違うほどガッシリしている。


 クセの強い長髪は、地球ではカラーリングでしか有り得ない深緑色だが、生え際まで色が同じだし自毛のようだ。

 いつもパメラという相棒と一緒に行動しているが、今日は一人のようだ。


「あぁ、ちょっとダルかったから俺だけ残って、他の連中は街の見物に出かけてる」

「へぇ、マールブルグに来るのは初めてなのかい?」

「そうだ。だが、これからはちょくちょく来る事になりそうだし、慌てて観光する必要もないだろう」

「なるほどね。あんたらは、ヴォルザード生まれの幼馴染なのかい?」

「いや、全然別の国だ」

「へぇ、あんたらリーゼンブルグの生まれなのか」

「いや、そうじゃない。俺たちは、この世界の人間じゃないんだ」


 道中何度か話す機会はあったが、生まれについて尋ねられなかったので、こちらからも話していなかったのだが、召喚されたと話すと疑いの目を向けられた。


「こことは全然別の世界って……そんなおとぎ話じゃあるまいし」

「そのおとぎ話みたいな状況が、本当に起こったから大変だったんだ」


 一人で宿に残って少々退屈していたこともあって、召喚されてからのことをロレンサに話して聞かせた。

 話を聞いている間は、半信半疑といった表情を浮かべていたロレンサだったが、スマホを取り出してみせると驚いて、全ての話を信用したようだ。


「でも、何でこっちの世界に残ったんだい? 元いた世界の方がずっと便利で快適そうじゃないか」

「まぁ便利なのは便利だけど、慣れてしまえば当たり前になっちまうし、元の世界には魔法が存在していないからな、他の連中では味わえない体験ってのは貴重なんだよ」

「魔法が無い? 冗談だろう」

「いや、国分の話では、元の世界には魔素が存在していないから魔法は使えないそうだ」


 日本に持ち込んだ魔石が、空気中で自然に崩壊することや、魔石の粉末を摂取し続けた藤井がおかしくなった話などをすると、ロレンサは顔を顰めていた。


「そうか……魔素も無ければ魔物もいない、だから魔落ちについての知識もなかったって訳だね」


 ロレンサは、魔力を高めようと魔物の肉や魔石を口にして、魔物化してしまう魔落ちについて話してくれた。

 俺も詳しい話は聞いていなかったので、参考になると同時に、改めて新旧コンビと八木には釘を刺しておこうと思った。


「なるほどねぇ……別の世界から来た人間だったのか。あの魔物使いは、その中でも飛びぬけて魔法に恵まれたって事なんだね」

「まぁ、恵まれたのは確かだだろうが、楽して手に入れたものでもないようだぞ」


 追放された魔の森でゴブリンに食われた話とか、リーゼンブルグの騎士に串刺しにされた話、元の世界から来た刺客に殺されかけた話などをすると、ロレンサは目を見開いて驚いていた。


「まぁ、Sランクに上がるような人間だから、普通の者と較べられやしないんだろうが、あんたらぐらいの歳でそれだけ死にかけるってのは普通じゃないね」


 ロレンサは、相方のパメラと一緒に俺らぐらいの歳から冒険者を続けているそうだ。

 今は二十代半ばぐらいに見えるから、十年ぐらいは冒険者として活動していることになる。


 その間に、何人かの知り合いの冒険者が命を落としたらしいが、冒険者になったすぐの頃には、そもそも討伐などの仕事は出来ないし、命の危険に晒されることは無いそうだ。


「一番危ないのは、討伐の仕事とかを始めて二、三年経った頃だね。ヴォルザードならダンジョンに潜る頃だし、マールブルグなら護衛の仕事に慣れた頃だ。あんたらも、冒険者を続けていきたいなら気をつけるんだね」

「うちの馬鹿共は、今でも十分危なっかしいからな……」

「そうだね。あんたは貧乏くじを引いて、損をするタイプだね」

「はぁ……そいつは言われなくても自覚してるよ」


 俺がヴォルザードに残った理由は、現代の日本ではできない生活を経験するためだが、新旧コンビの二人を放置すれば簡単に死んでしまいそうだと思ったからでもある。

 新田と古田の二人は、一緒にいると裏表の少ない実に気分の良い連中だが、いかんせん思慮というものが足りない……いや、足りなすぎる。


 そこに鷹山や八木まで加わっているのだから、ブレーキ役がいなかったらヴォルザードに着いた直後に靴屋を炎上させような騒動を引き起こすに違いない。

 あの時は、国分の知り合いだからと許されたのだろうが、今後も許されるとは限らないし、俺たちだけで行動している時に危機に陥れば、助けは期待できないのだ。


「だが、仕事仲間として組むなら、あんたみたいなタイプが望ましいよ」

「まさか、俺に更に負担を背負わせようって気じゃないだろうな」

「あははは、駆け出しの坊やに尻拭いを期待するほど落ちぶれちゃいないよ。でもね、女が冒険者続けていくには、色々と面倒な事もあるのさ」


 ロレンサは、パメラとコンビを組んで冒険者を続けているが、二人だけでは受けられる仕事には限界がある。

 今回の護衛の依頼だって、二人では到底受けられていない。


「パーティーのメンバーを増やすにしても、女同士ってのは色々と厄介でね。なかなかシックリくる人材に当たらないのさ」


 女性で護衛や討伐の依頼をこなすとなると、それなりに腕には自信があるし、自分のスタイルにもこだわりがあり、それらが小さな食い違いとなり、やがて対立にまで発展するらしい。


「それなら男のメンバーを増やせば良いじゃないか……って思うかもしれないけど、女と男じゃ色恋沙汰とかが面倒でしょう?」

「じゃあ、なんで俺に声を掛けたんだ?」

「パーティーを組む訳じゃないが、お互いに人手が足りない時には組んで仕事をする……そんな仲間を増やしておくためよ」

「仕事限定、期間限定みたいなものか?」

「そうそう、あんたのその察しの良さが気に入ってるのさ」


 どうやら、俺はロレンサから一定の評価を得られているらしい。

 この先、俺たちがヴォルザードで冒険者を続けていくのに必要なのは経験だ。


 今回組んでみて、多少血の気の多い部分は気になるが、ロレンサとパメラのコンビは間違いなく俺たちよりも経験で優っている。

 実際に依頼をこなしていく上で、色々と参考にするには良い相手だろう。


「分かった、俺たちとしても経験豊富な冒険者と組めるのは助かる。この先、協力出来る事があれば声を掛けてくれ」

「いいね、しっかりと考えを巡らせ、それでいて決断が出来る。あんたは良い冒険者になるよ」

「良い冒険者か……都合の良い冒険者で終わらないようにしたいもんだ」

「あははは、そいつはなかなか大変だよ。いかに他者を上手く利用するかも冒険者の才覚のうちだからね」

「それじゃあ、俺を利用する気だって言ってるようなもんじゃないか」

「そりゃそうさ、あんただって、あたしらと組むのはメリットがあるって判断したんだろう?」

「まぁな……」


 俺は国分のように顔に出やすいタイプではないはずだが、頭の中を読まれているようだ。


「他の連中は、いつ帰ってくるんだい?」

「さぁ、夕方ぐらいじゃないか」

「それならちょっと出ないか? あたしらの拠点を紹介しておくよ」


 こちらの世界には携帯やメッセージアプリは存在しないので、連絡を取るにはギルド経由でメッセージを頼むか、直接訪ねていくしかない。

 ロレンサ達はマールブルグを中心に活動しているから、後々のためにも拠点の場所を知っておいた方が良いだろう。


 宿の受付に新田達への伝言を頼んで、ロレンサと一緒にマールブルグの街へ出た。

 マールブルグは鉱石の採掘が主な産業で、住民の多くが鉱山に関わる仕事をしているそうだ。


 マールブルグの冒険者の主な仕事は、産出した鉱石を運ぶ馬車の護衛で、これまではバッケンハイムにも頻繁に足を運んでいたらしい。

 バッケンハイムに向かう途中のイロスーン大森林が、魔物の増殖によって通行できなくなり、今は仕事の殆どがヴォルザード行きになっているそうだ。


「聞いた話だと、ヴォルザードとブライヒベルグの間を魔物使いの魔術で繋いでいるんだろう?」

「あぁ、そう聞いてる」

「荷物は大きさや重さによって転送する手数料が変わるって話らしいし、魔物使いの懐にはとんでもない金額が入るんじゃないのかい?」

「そうかもしれないが……国分はあんまり金に執着してない……というか執着する必要が無いんだろうな」

「そんなに稼いでるのかい?」

「具体的な数字までは知らないが、魔物の討伐とかは国分にとっては簡単な仕事だからな」


 国分と稼ぎを較べるなんて、俺たちはとっくの昔に放棄しているが、噂でしか知らないロレンサは較べてみたくなるのだろう。


「魔物の討伐が簡単ねぇ……それこそ使役している魔物がやってくれるんだろう?」

「確かに国分のところの眷属の強さは出鱈目だが、国分自身が弱い訳じゃないぞ」

「そうなのかい? ポヤぁっとしていて頼りなさそうに見えるけどねぇ……」

「まぁ格闘戦は驚くほどの強さではないけど、術士としては出鱈目だ」


 平均よりは小型だったが、サラマンダー四頭を一人で仕留めたとか、デザートスコルピオを一撃で倒したと話すと、ロレンサは冗談だと思ったようだ。


「ハッタリじゃないのかい?」

「地面が抉れて、後で雨水が溜まって大きな池になるような攻撃手段があるそうだ」

「それは、本当に人間に出来ることなのかい?」

「普通はそう思うだろが、国分に関しては深く考えるだけ時間の無駄だぜ」


 ロレンサは、まだ半信半疑といった表情を浮かべているが、国分との付き合いが長くなれば、いずれ実感する時が来るだろう。

 ロレンサ達の拠点は、倉庫が宿から歩いて十分ほどの集合住宅の一室だった。


 日本で言うならば、二階建ての長屋みたいな感じだ。

 一階に、居間と台所などの水回り、二階に二部屋という作りの四軒が、一棟の建物になっている。


「ここが、あたしとパメラの拠点兼住居さ」


 居間には六人ほどが座れるテーブルの他に、折り畳みの椅子も置かれている。

 ここで他のパーティーと、依頼の打合せなどをするのだろう。


 俺たちのシェアハウスも、もうすぐ完成する予定だし、活用方法なども聞いておいた方が良いだろう。


「へぇ、シェアハウスねぇ……管理をしてくれる人がいるのは良いね。常に誰かがいてくれるなら連絡も付けやすいしね」

「その点については助かるけど、そのうち鷹山の子供も生まれる予定だからなぁ……」


 鷹山の嫁さんと義理の母親が同居するので、管理人的な役割を果たしてくれる予定だが、子供の夜泣きに悩まされないか少し不安でもある。

「なに言ってんだい。あんただって赤ん坊の頃があったんだよ。赤ん坊が泣くのは当たり前。新しい命はみんなで育んでいかなきゃ世の中成り立っていかないよ」


 夜泣きの不安を口にしたら、即座にロレンサに窘められた。

 日本のように医療技術が進歩しておらず、新生児の死亡率も高いだろうし、大人に育つまでの間に魔物に襲われたりして死亡する可能性も高いから、余計に子供を大切にするのだろう。


「物分かりが良さそうに見えても、意外に子供な一面もあるみたいだね」

「仕方ないだろう。俺たちの育った国では、十八歳になるまでは子供として扱われるんだから」

「へぇ、そうなんだ。まぁ、こっちの世界でも上級学校へ通うような良い所の子供は十五過ぎてもガキだけどね」

「環境次第ってことならば、俺たちもこれからだな……」

「まぁ、あんたなら、すぐに一目置かれる大人になるさ。二階の部屋も見てみるかい?」

「あぁ、見せてもらおうかな……」


 階段を上がった二階は、ロレンサとパメラの個室だそうだ。


「そっちがパメラ、こっちがあたしの部屋だよ」


 ロレンサの部屋は、思っていたよりも片付いていたが、おおよそ女性の部屋とは思えなかった。

 シングルベッドに小さなテーブルと椅子、洋服箪笥などは普通なのだが、壁には剣や槍、防具や金属製の盾などが掛けられている。


「討伐の相手次第では、装備を厳重にしていく事もあるからね」

「なるほど……」


 依頼の内容によって、持っていく武器や防具を変えているらしい。

 俺たちの場合、剣も防具も一揃えしかないので選択肢は限られているが、冒険者を続けていくならば装備についても考えた方が良さそうだ。


「さぁ、一杯やろう」

「いや、俺は酒はまだ……」

「何言ってんだい、この先共に死線を潜り抜けるようになるかもしれないんだよ。信頼の証だよ」


 ショットグラスと言うのだろうか、一息に飲み干せる程度の小ぶりのグラスを手渡されて琥珀色の液体を注がれる。

 ふわっと芳醇な酒の香りが漂ってきた。


「ジョーとの友情に……」

「ロレンサの信頼に……」


 軽くグラスを合わせると、ロレンサは一息に酒を飲みほした。

 それに倣って俺も一気に酒を喉へと流し込む。


「くぁぁ……ぐふっ」


 酒が流れていった喉や胃袋が、カーっと熱くなって一気に体温が上がっていく。


「なんだい、シッカリしなよ男だろう?」

「いや、もう……」

「冒険者は、いつ襲われるかも分からないし、酒を盛られて酔い潰されて……なんてケースもあるんだよ。安全な所で少しは酒に慣れておかないと足下を掬われるよ」

「じゃあ、これだけ……」


 ロレンサも自分のグラスに酒を注ぎ、再びグラスを合わせてから一気に飲み干した。

 俺も途中で止まったら飲めなくなりそうなので、覚悟を決めて一息にあおった。


「くぅぅ……これは普通の酒なのか? 酒ってこんな……」

「ほらほら、危ないからこっちに座りな」


 たった二杯、量にすれば100cc程度だと思うのだが、頭がグラグラとして足下が揺れる。

 ロレンサのベッドに座り込んでも、世界が揺れているようだ。


「酒を飲んだのは初めてかい?」

「あぁ、そうだ……」

「冒険者として一人前になるには、色々と勉強して大人にならないと駄目だね……」

「んぁ、そう、だな……経験が、足りらぃ……」


 顔が火照り、頭がぼーっとして思考能力が秒単位で失われていく。


「しょうのない坊やだねぇ……そら横になりな」

「んぁ……んん、何を……」

「あたしが教えてあげるよ……」

「えっ……んぐぅ……」


 ロレンサは、瓶から直接酒を口に含むと、俺の唇を奪って喉へと流し込んできた。

 テーブルに酒瓶を置いたロレンサは、手早く服を脱ぎ捨てて俺に圧し掛かってくる。


 何が安全な所だよ。元々俺よりも体格の良いロレンサに、酔っ払った状態では抗う術などなかった。

 俺は、スパルタ教育で大人への階段を上らされてしまった。

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