第364話 歓迎

 バルシャニアの一行を一目見ようと、城門近くには多くの住民が集まって来ました。

 集まった人たちによって、将棋倒しのような事故が起こらないように、守備隊の人達が人々を誘導し、道を開けさせています。


 ヴォルザードの街からは、門が閉ざされているので外の様子は窺えませんが、僕のところにはコボルト隊が行列の現在地を知らせてくれています。


「ケント、あとどのぐらいだ?」

「はい、もうすぐ先頭が森を出るそうです」

「そうか……」


 見物人のざわめきに混じって馬の蹄の音が響いてくると、集まった人達は口をつぐみ、潮が引くように辺りは静まり返っていきました。

 百騎を超える馬の足音や息遣い、騎士の鎧がたてる音、馬車の車輪の音……城門越しに近づいてくる行列の気配に、集まった人達は気圧されているようです。


 そして、門の向こう側から、野太い声が響いてきました。


「我々は、バルシャニア帝国の皇女セラフィマ様の行列である。開門! 開門!」


 クラウスさんが頷いてみせると、守備隊員達が閂を外し、城門を開き始めました。


「ケント、馬に乗って出迎えて、そのまま迎賓館まで誘導するぞ」

「はい、分かりました」


 クラウスさんは軽やかに自分の馬に跨り、僕はやっとこさスナッチの背中に上がりました。

 僕らの他に、守備隊員が十名ほど行列の案内役として、馬に乗って控えています。


 その中にはカルツさんの姿もありました。

 そう言えば、僕が初めてヴォルザードに足を踏み入れた時は、カルツさんの肩に担がれて城門を潜ったんでした。


 僕と同じ事を思い出していた訳では無いでしょうが、カルツさんが軽く頷いてみせました。

 重たい軋み音を立てて城門が開き始めると、集まった住民からは再びどよめきが起こり、街の中へと伝わっていきます。


 開いていく城門の正面で、クラウスさんと僕が待ち構え、カルツさん達が道の両脇に並んでいます。

 門が開き切って動きを止めると、バルシャニアの一行がゆっくりとヴォルザードの街へと入ってきました


 先頭の騎士は馬を進めて、僕らの前で止まりました。


「ヴォルザードの領主、クラウス・ヴォルザードだ。バルシャニア一行を心から歓迎する」

「これはこれは、領主様、魔王様、自らのお出迎え痛み入ります。護衛騎士の隊長を務めております、エラスト・メルクロフと申します」」

「ほぅ、ケントとは顔見知りか?」

「はい、魔王様には道中何度も助けていただきました」

「なるほどな……まぁ、積もる話は後にして、このまま宿舎へと案内させてもらう。皇女殿下には、そちらでお会いいたそう」


 クラウスさんは馬首を巡らせ、エラストさんと並んで行列を先導する位置に付きました。

 さぁスナッチ、本番だからね、クラウスさんの横に……って、どこ行くの、止まって、止まって……ふぅ。


 スナッチは、守備隊の馬房に帰ろうとしかけましたが、ビクっと身体を震わせると、クラウスさんの馬の隣に並びました。

 クラウスさんに睨まれちゃいましたよ。


 それでも、行列が動き始めると、スナッチは自分の役割を果たしました。

 てか、最初からちゃんとやってくれれば良いのに……。


 行列が進み始めると、沿道からは拍手と歓声が湧き起こります。

 先頭を行くクラウスさんは、背筋をピンっと伸ばして、集まった人達に手を挙げて応えていました。


 執務室にいる時などは、背中を丸めてダラ~っとしている事が多いので、ドヤ顔がちょっとムカつきますね。

 エラストさんも護衛騎士の隊長を務めているくらいですし、これまでの道中で同じような歓迎を受けてきたからか、実に堂々としています。


 ついでに僕まで注目されていて、色んな声が聞こえてきます。


「おい、あの子供は誰なんだ?」

「馬鹿、あれが魔物使いだ。下手なこと言うと、魔物を使って締め上げられっぞ」

「東地区の顔役ボレントも絞められたって噂よ」

「その上、女癖が最悪らしい。バルシャニアの姫様も手籠めにされたんだろう?」

「だって……ベアトリーチェちゃんも毒牙に掛ったんでしょ?」

「あんたの所の娘も気を付けた方が良いぞ」


 くぅ……どうして、こうも根も葉もない噂が広まっているんですかね。

 声の聞こえてきた方向へと視線を向けると、ワザとらしく目をそらす人ばかりです。


 エラストさん、何ですかその目は……そもそも、嫁入りはセラフィマに希望されたんですよ。

 てか、クラウスさんのドヤ顔が、もの凄くムカつきます。


「ところで、クラウス殿。ヴォルザードの城壁は素晴らしいですな」

「まぁ、ここは見ての通り魔の森に接している街だからな」

「それにしても、鏡のごとく磨きあげられた城壁が延々と続く光景は圧巻です」

「鏡のように……? あ、あぁ、そうだろうな……」


 エラストさんに生返事をしたあとで、クラウスさんがギロンと睨んで来ました。

 やべぇ、城壁のお色直しをした件を報告してませんでした。


 計画自体は、少し前に話してあるので、終わった後で報告しようと思っていて、乗馬の件などに気を取られて忘れてました。

 後でちゃんと報告しますから、声を出さずに文句を言うのは止めて下さい。


 沿道に集まった人の中には、見知った顔も散見されます。

 魔道具屋のノットさん、父親のガインさん、妹のイエルスさん。


 初めての戦闘講習で一緒になったマール、リドネル、タリク。

 靴屋のマルセルさん、大工のハーマンさん。


 鷹山のパートナー、シーリアさんと、母親のフローチェさん。

 服屋のフラヴィアさん、店員の相良さん。


 メリーヌさんと、本宮さんの姿もありますが、ニコラは見当たりませんね。

 猫耳天使のミューエルさんも手を振ってくれています。

 

 でも、嫁取りをミューエルさんに見られるというのは、ちょっと複雑な心境ですね。

 ギリクには可能性が無さそうですし、やっぱり僕が……なんて今日は思ってちゃ駄目ですよね。


 行列は、旧市街の中央を三分の二ほど通り抜けた所で左へと曲がり、領主の館や迎賓館のあるエリアへと向かいます。

 こちらの沿道にも大勢の見物人が待ち構えていました。


 庭師のオーレンさん、ファルドさん親子。

 驚いたことに、リーブル農園のブルーノさん、ディーノおじいちゃん、マイヤおばあちゃんの姿も見えました。


 落ち着いたら、四人のお嫁さんを連れて、一度挨拶に行かないといけませんね。

 そして、迎賓館の門を抜け、どうにか乗馬もボロを出さずにこなせました。


「ありがとうね、スナッチ」

「ぶるぅ……」


 なんだかスナッチが、終始放心状態のように見えたのは気のせいでしょうかね。

 終わった後で体調崩して寝込んだりしないと良いのですが……。


 迎賓館の玄関では、クラウスさんの奥さんマリアンヌさん、アンジェお姉ちゃん、そして唯香、マノン、ベアトリーチェが出迎えの準備を整えていました。

 マノンが、チラリ、チラリと左右に視線を向けながら、自分の胸元をフカフカしてますね。


 確かに、この並びはマノン的には辛いものがあるけれど、すぐに心強い味方が……って、睨まれちゃいました。

 クラウスさんと僕も出迎えの列に加わり、そしてセラフィマを乗せた馬車が玄関前に静かに停まりました。


 護衛の女性騎士ナターシャさんがキャビンのドアを開け、セラフィマが姿を見せました。

 艶やかな白い髪、抜けるように白い肌、純白に銀糸で刺繍が施されたバルシャニア風の衣装。


 まるで雪の妖精のような姿に、僕だけでなく出迎えた全ての人が息を飲むのが分かりました。


「バルシャニア帝国皇帝、コンスタン・リフォロスの娘セラフィマです。盛大なお出迎えに心から感謝申し上げます」

「ヴォルザードの領主、クラウス・ヴォルザードだ。遠路遥々よくぞ参られた。バルシャニア帝国とランズヘルト共和国の新しい時代を告げる来訪を心から歓迎する。さあ、中へと入られよ」

「ありがとうございます」


 三月を迎え、春の兆しも見え始めていますが、まだ風が冷たく感じられる季節なので、互いの紹介は室内でゆっくりと行われることになりました。

 一応、セラフィマを護衛する女性騎士も一緒なのですが、国の要人を迎えるというよりも、親戚や友人を招待しているような感じです。


「歓迎の夕食会までは、まだ暫く時間がある。こちらで寛がれよ」

「ありがとうございます」


 クラウスさんがセラフィマを招き入れたのは、大きな食堂ではなく、少人数が歓談する部屋でした。

 クラウスさんに礼を述べたセラフィマは、もう待ちきれないといった様子で唯香達へと駆け寄ります。


「ユイカ、マノン、ベアトリーチェ! ようやくお会いできました」

「いらっしゃい、セラフィマ」

「歓迎するよ」

「お待ちしてましたわ」


 うんうん、四人のお嫁さんが仲睦まじくしているのを見るのは良いものですね。

 なかでもマノンちゃんの歓迎ぶりは……ひぃ、セラと一緒に睨まれました。


 ていうか、その輪の中心には僕がいるべきじゃないのかなぁ……てか、輪に入れないんですけど。

 アンジェお姉ちゃんもウズウズしているようで……あっ、行きましたね。


「いらっしゃい、セラフィマちゃん。ベアトリーチェの姉のアンジェリーナよ。アンジェお姉ちゃんって呼んでね」

「もが……むぐぅ……はい、よろしくお願いします。アンジェお姉ちゃん」


 うんうん、良いな良いな、僕も埋まりたい……。

 そして、最後にマリアンヌさんが輪に加わりました。


「ベアトリーチェの母、マリアンヌよ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 女性六人が固まって話に花を咲かせ、僕はと言えば、クラウスさんからのお小言タイムです。


「それで、城壁に何をやらかしやがったんだ?」

「えっとですね……」


 城壁に施したお色直しと、その意義について改めて報告と説明をしました。


「まったく、そういう事はキチンと報告しろ。危うく大恥かくところだぞ。領主が自分の領地の城壁について何も知らんでは恰好がつかねぇだろうが」

「すみません……」

「それで、城壁への施工は全て終わってるんだな?」

「はい、新たに建設中の場所を除いて、全て終わらせました」

「そうか、確かに手を掛ける場所すら無い滑らかな城壁ならば、魔物どもも上がって来れまい。大量発生の時の防御力も上がった訳だな」

「はい、これに水とか油を流せば、更に滑って上がれなくなるはずです」

「そうか、ご苦労だった……ただし、お前が勝手にやったんだから、手間は払わないからな」

「ぐぅ……分かりました」


 まぁ、最初から報酬目当ててやった訳じゃないですけど、クラウスさんから改めてタダ働きだと言われると、ちょっとイラっとしますね。

 これから身内となっていく人達との対面を終えた後、これからの住居へとセラフィマを案内する事になりました。


 いずれ、建設中のマイホームへと引っ越しますが、それまではこの迎賓館に仮住まいとなります。

 セラフィマが使う部屋は、唯香達の部屋と並びで、マノンとベアトリーチェの部屋に挟まれる位置です。


 セラフィマの部屋に荷物を運び込む前に、四人の女性騎士と四人の侍女が紹介されました。

 今までは、セラフィマの護衛と身の回りの世話を行ってきましたが、これからは唯香、マノン、ベアトリーチェの担当を行ってもらいます。


「私には、ナターシャとリャーナが引き続き担当してもらいます。それでは、最初にユイカさんを担当してもらう者を紹介させていただきます。護衛騎士はカチェリ、侍女はデュミーニャ、よろしくお願いします」


 唯香の担当となったカチェリは、小柄で俊敏な感じのする女性騎士で、侍女のデュミーニャはふくよかでおっとりした感じに見えます。


「マノンさんを担当してもらうのは、ルフィーナとマフナラ、よろしくお願いします」


 ルフィーナはガッチリとしたパワータイプ、マフナラは長身でスリムなクール系という感じです。


「ベアトリーチェさんを担当してもらうのは、ネシュカとフロヴェーニャ、ヨロシクお願いします」


 ネシュカはベリーショートの鋭い感じで、フロヴェーニャは明るいおっかさんタイプに見えます。

 四人の担当を紹介し終えたセラフィマがホッと一息ついたかと思ったら、自分も忘れるなとばかりに、影から出て来たヒルトにポフポフと肩を叩かれました。


 唯香達に目を転じれば、フルト、ヘルト、ホルトも出て来ています。

 コボルト達は影の中からの見守り、僕への連絡役と重要な役割を果たしていますから、忘れちゃいけませんよね。


 コボルト隊、女性騎士、侍女、三位一体ではないけれど、上手く連携して僕のお嫁さん達を護って下さい。

 お互いの紹介が終わったところで、さっそくセラの荷物が運び込まれるようなので、僕らは別室で待機する事になりました。


 別室に移動しても、四人のお喋りは留まるところを知りません。

 ヴォルザードの話、バルシャニアからの道中の話、日本の話、今日の衣装……うん、なんだか僕は蚊帳の外って感じですね。


 ちょっと話に入り込めないでいると、ひょっこり出てきたマルトにポフポフと慰められてしまいました。

 まぁまぁ、お嫁さん同士が仲が良いのが一番ですからね。


 いずれ、ここにカミラも加わる予定なんですが、大丈夫……だよね?

 というか、それを何とかするのは僕の仕事か。


 四人が談笑している間に、夕食会の時間が近づいて来て、徐々に出席者が集まり始めました。

 今日の夕食会には、いわゆる身内の人間だけでなく、ヴォルザードの有力者もあつまって来るそうです。


 他の出席者の多くは、別の控室へと案内されるそうですが、こちらの部屋に招き入れられた人が居ます。

 マノンの母親ノエラさんと、弟のハミルです。


「まぁまぁ、あなたがセラフィマさんね。いつもマノンから話を聞いているから初めて会った気がしないわ」

「セラフィマです、よろしくお願いいたします、ノエラさん」


 ノエラさんは、物怖じしない性格なので、セラフィマに対してもバルシャニアの皇女というよりも娘の友人のような感じで接しています。

 それに対してハミルは、セラフィマを前にしてガチガチに固まっています。


「あなたがハミル君ね。セラフィマです、よろしく」

「よ、よろしくお願いしましゅ……」


 握手を求められて、顔真っ赤にしてるけど、セラは僕のお嫁さんだからね。

 勿論、ベアトリーチェも僕のお嫁さんだからね。


 ノエラさんとハミルの挨拶が終わった頃、アマンダさんとメイサちゃんが姿をみせました。


「ケント!」


 ドアを入って来るなり、メイサちゃんは僕に向かってパタパタと走ってきます。


「ほらほら、メイサちゃん。今日は余所行きの恰好しているんだから、おしとやかにしないと」

「あっ……そうだった」


 メイサちゃんが着ているのは、アンジェお姉ちゃんのお下がりのドレスです。

 ピンク色で、フリルがたくさん使われていて、黙っていればメイサちゃんでもお姫様に見えないこともない……かもしれません。


「セラ、こちらが僕がヴォルザードで一番お世話になったアマンダさんと、娘のメイサちゃんだよ」

「バルシャニアの皇女、セラフィマです。よろしくお願いいたします」

「やだよ。あたしゃ、ただの食堂の女将だよ。そんなに畏まらないでおくれ。ケントをよろしく頼むね」

「はい……よろしくね、メイサちゃん」

「よ、よろしくお願いしましゅ……」


 リアル皇女様の雰囲気に当てられたのか、メイサちゃんまで顔を真っ赤にしているけど、セラは僕のお嫁……分かってるか。

 まぁ、メイサちゃんの場合は、猫を被っているのは最初の三十分程度だろうけどね。


 メイサちゃんは話の輪に加わって、ハミルは例によってフルトにポフポフ慰められ……って、僕もマルトにポフポフされてるし。

 大丈夫、僕が蚊帳の外なのは今だけだし、セラが馴染めば僕も一緒に……話の輪に加われるはず……たぶん。


 セラフィマを囲んで、皆が和やかに過ごしていたのですが、突然ドンっと下から突き上げるような揺れが起こりました。

 その後の揺れは震度3程度でしたが、震源が近くて浅いような感じの揺れ方でした。


 部屋にいた人達は、僕と唯香を除けばビクっと身体を震わせて固まっていて、揺れが収まると同時にフーっと一斉に詰めていた息を吐いたほどです。

 この所は収まっていたように感じていたのですが、また地殻変動でも活発になっているのでしょうか。


 その後、警戒していましたが余震のようなものは無く、いつの間にか窓の外には夕闇が迫り、夕食会の始まる時間となりました。

 会場となる食堂には、ズラリとテーブルが並べられ、招待客は百人以上になるそうです。


 会場を見渡す中央の席に、クラウスさんとマリアンヌさん、そしてセラフィマと僕が並び、その隣りに唯香、マノン、ベアトリーチェが並んで座ります。

 会場には、ドノバンさんやカルツさんの姿も見えますし、当然のようにヴォルザード最大の店、オーランド商店の主人デルリッツさんの顔も見えます。


 驚いたことには、会場の端の方に歓楽街の顔役ボレントの姿があります。 

 日本であったら、反社会勢力との癒着云々と言われそうですが、クラウスさんなりの考えがあるのでしょう。


「ようこそ、ヴォルザードを支える諸君。今宵はバルシャニア帝国の皇女セラフィマ様を歓迎する夕食会だ。これからヴォルザードのみならず、ランズヘルト共和国やバルシャニア帝国、そしてリーゼンブルグ王国は新しい時代を迎えていくことになるだろう。これまでの古い常識に囚われていたら、これから始まる新しい時代に乗り遅れる事になる。既に、ヴォルザードとブライヒベルグの間には、これまで考えられなかった輸送方法が確立し、これまで扱えなかった商品もどんどん入って来ている。商機は、すぐ目の前にあり、今後は更に拡大していくはずだ。今、ヴォルザードは未曾有の成長期にある。その成長を促進する者とは手を携えて共に進むが、成長を歪めるような輩には容赦するつもりは無い。下らない目先だけの儲けにこだわらず、まっとうな商売を心がけてもらいたい。では、紹介させていただく、新しい時代の使者、そして魔物使いの花嫁となるべくヴォルザードを訪れたセラフィマ嬢だ」


 クラウスさんの紹介にしたがって、席を立ったセラフィマを見て、会場からほぅっと溜息が洩れる。

 こうした場面で纏う雰囲気は、さすがバルシャニアの皇女様だ。


「ご紹介にあずかりました。バルシャニア帝国皇帝コンスタン・リフォロスの息女セラフィマです。これからの時代は、バルシャニアにとっても大きな変化を伴う激動の月日となると確信しております。私は、こちらにいらっしゃる魔王ケント・コクブ様の下へと嫁ぎ、来るべき新時代に両国の懸け橋となれればと思っております。どうぞ、よろしくお願いしたします」


 セラフィマが、すっと頭を下げると、会場からは万雷の拍手が鳴り響きました。

 なるほど、新時代の到来をアピールして、ボレント達に釘を刺すのが目的のようですね。


 クラウスさんとセラフィマの挨拶も終わり、テーブルに料理が配られ始めた時でした。

 緊迫したイッキの声が、僕の足元から響いて来ました。


「若っ、申し上げます! リバレー峠の中腹から、ゴブリンやオークなどの大群が南の方向へと下ってまいります」

「数は?」

「五千から一万。まだまだ増えているようです」


 和やかだった会場の雰囲気が、一瞬にして凍り付きました。


「あー……心配は要らないぞ、この程度の群れならば、ヴォルザードに辿り着く前にケントの眷属が片付けちまうからな。皆は、そのまま夕食会を続けてくれ、ケント、来い」

「はい!」


 クラウスさんは夕食会の続行を指示すると、僕を別室へと誘いました。


「ケント様……」

「大丈夫だよ、セラ。ちょちょいと片付けてくるから、みんなと待っていて」

「はい、御武運を」


 心配そうなセラフィマをギュっとハグしてから、クラウスさんの後を追いかけました。

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