第312話 プロパガンダ

 安息の曜日を唯香、マノン、ベアトリーチェとイチャイチャして過ごした後、ラウフの街へとやって来ました。

 ラウフは、ドレヴィス公爵領で一番大きな街です。


 街を見下ろす小高い丘の上に建てられているのが公爵の館で、セラフィマ一行の今夜の宿です。

 公爵の館は魔道具の光で明るく照らされ、今夜は歓迎の宴が開かれているそうです。


 僕が居る場所は、その公爵の館から街を挟んだ反対側、街外れの農家の近くです。

 大きな納屋には、ラウフの住民たちが集まっているようです。


「フレッド、なんか村の集まりにしか見えないんだけど」

『アーブルの残党が……住民を扇動するための集まり……』

「セラフィマの一行には、明日通り掛かる橋で仕掛けて来るつもりなんでしょ?」

『それとは別に……出発後の手薄な時間を狙うつもり……』


 フレッドが調べたところでは、爆剤を使うと言っていた連中は、やはりアーブル・カルヴァイン一派の残党のようです。

 セラフィマ一行が出発し、警備がそちらに気を取られている時に、ラウフの街でも騒ぎを起こす計画のようです。


「それじゃあ、ちょこっと潜入してきますかね」

『ケント様のカリスマ性で……計画をぶっ潰して……』

「いやいや、カリスマ性とか無いからね……それと、爆剤を見つけたら回収しておいて」

『了解……』


 散々洗い晒した鍛錬の時に使っていたズボンとシャツを着て、下宿の箱に入っていたローブを羽織れば、村の子供の出来上がりです。

 念のため、髪の毛もボサボサにしておきましょう。


「こんばんは、ここに来たら食べ物をくれるって聞いたんだけど……」

「おぅ、中に入りな……」


 納屋の入口にいた目つきの鋭い男は、ニヤっと作り笑いを浮かべると、疑う様子もなく中へと通してくれました。

 戦闘を担当する人間ではないのか、腰には剣もナイフも吊っていません。

 まぁ、住民を集めるのに武器をちらつかせていたら、警戒されちゃますか。


 納屋というよりも、干し草を置いておく倉庫か何かなのでしょうか、体育館ほどの大きさがあります。

 入口を入った右手にテーブルが置かれていて、そこでパンを配っているようです。


「ここでパンを貰えるの?」

「あぁ、その代り、うちの代表の話を聞いていってくれ」

「分かった……」


 配っていたのは、チーズを挟んだパンとホットワインでした。

 納屋の中には干し草が敷いてあって、集まってきた人たちは思い思いの場所に腰を下ろして、配られたパンを食べています。


 下は十代ぐらいから上は白髪の老人まで、年齢も性別もバラバラで、百人近くいるように見えます。

 僕も壁際に腰を下ろして食べながら、周りの声に聞き耳を立てましょう。


「美味いな……もう一個くれないかな?」

「馬鹿、後から来る奴らの事も考えろ」

「こんな人数に振る舞うなんて、怪しくねぇか?」

「怪しかろうが、食えるものは食うしかねぇだろう」


 チーズはまあまあですが、パンはボソボソしていますが、集まった人たちには好評のようです。

 ラウフでも、街の中心地で商売をやっている人たちは、それなりの生活をしているようですが、街外れの農家の人たちは少し事情が違うようです。


 ドレヴィス公爵領は、リーゼンブルグの中でも砂漠化の影響が大きな地域です。

 砂漠化によって住む場所や畑を奪われた住民は、領内の別の場所で新たな畑を開墾したり、既存の畑に小作人として雇われているそうです。


 言うなれば、小さくなったパイを元の人数で割って食べるようなもので、農民の収入は年々減っているそうです。

 アーブルの残党たちは、そうした農民の不満に付け込もうとしているのでしょう。


 パンとワインが集まった人たちに行き渡った頃、一人の男性が箱の上に立って声を上げました。


「みんな、食べながらで構わないので、少し話を聞いてくれ。あぁ、後ろにいる人たちは、すまないが少し前に来てくれ」


 男に促されて、後ろに座っていた人たちが移動を始めたので、僕も台の方へと近付いておきます。

 台上の男は、みんなの移動が終わったのを確認して、話を再開しました。


「我々は、この国の未来を憂う者だ。私は、代表をしているジルデールだ」


 ジルデールは二十代の後半ぐらいの若い男で、水色の髪を短く整えて髭も綺麗に剃っています。

 着ている服は、あちこちにツギが当たっていますが、洗濯はしてあるようで、垢じみた感じはしません。


「この国は腐っている。俺達農民は毎日の食事にすら苦労しているのに、貴族どもは贅沢三昧だ。こんなの間違っていると思わないか?」


 確かにジルデールの出で立ちは農民ですが、なんとなく違和感を感じてしまいます。

 綺麗すぎるというか、ドラマや舞台でイケメン俳優が農民を演じているような感じです。


「間違ってるに決まってるだろう」


 ジルデールの問い掛けに、間髪容れず答えた男がいました。

 髭面のいかにも農夫 といった出で立ちの体格の良い男です。


「あんたに言われなくても、ここにいる全員が間違ってると思ってるさ」


 髭男の言葉に、ジルデールは大きく頷いています。


「そうだ、間違っている。俺達は、長年砂漠の拡大に苦しめられているのに、貴族どもは派閥争いにばかり夢中で、農民の生活なんてまるで省みようともしない。それに知ってるか? 砂漠の拡張にはバルシャニアの連中が関わっているらしい」

「なんだと、それは本当なのか!」

「あぁ、バルシャニアの連中は、西風の強い時期に国境近くに忍び寄り、土属性と風属性の魔術士たちで、リーゼンブルグに向かって人工の砂嵐を吹き付けていやがったんだ」


 ジルデールの話を聞いて、集まった住民たちの間に動揺が広がっていきます。

 ヒソヒソと交わされている声が次第に高まっていく様子を、ジルデールは満足気に見守っています。


「ちょっと待ってくれ。あんた、どうしてそんな事を知ってるんだ?」


 ジルデールに疑問をぶつけたのは、顔色の悪い痩せた中年の男でした。

 貴族に対する憤りというよりも、ジルデールに対して疑いの眼差しを向けているように見えます。


「これは、ここだけの秘密にして欲しい。ドレヴィス家の騎士の中にも、俺たちの考えに賛同してくれている者がいる。バルシャニアが砂漠化の進行に関わっているという話は、そいつに教えてもらった」


 公爵家の中に内通者がいると聞かされて、集まった住民には更に大きな動揺が走りました。

 バルシャニアへの憤り、公爵家への不信感など、これまで抱えてきた不平不満を燃料として、火が燃え始めているように感じます。

 そんな空気の中で、声を上げたのは二十代後半ぐらいの女性でした。


「ねぇ、それだとおかしくない? 今夜、公爵様の屋敷に泊まるのは、バルシャニアのお姫様だって聞いたわよ。館では、歓迎の宴が開かれるって聞いてるわ。どうして私たちを苦しめている連中を歓迎するのよ」

「それは……いいか、驚くなよ」


 ジルデールは、台の上から集まった住民をグルリと見回しながら、両手で押さえるような仕草で静かにするように指示しました。


「いいか、大きな声を立てるなよ。公爵様は、バルシャニアに寝返るつもりだ」

「馬鹿な! なんでバルシャニアに寝返るんだ!」

「ふざけんな! 貴族の誇りはどこに行った」

「てか、本当なのか、その話。ガセじゃねぇの?」

「これから、どうなっちまうんだよ」


 ジルデールが騒ぐなと言っておいたのに、納屋の中は住民の声で溢れました。


「静かに! 一度に話されると聞き取れない。質問のある奴は、手を挙げてくれ」


 多くの住民が一斉に手を挙げましたが、指名されたのは最初に声を上げた髭面の男でした。


「公爵様がバルシャニアに寝返ったと聞かされても、にわかには信じられない。本当なのか?」

「この話も、公爵家の騎士に聞いたものだ。バルシャニアによる砂漠化進行作戦は、領内の魔術士だけでは防ぎきれないらしい。このままでは、ドレヴィス公爵領は砂に埋もれて終わりだから、バルシャニアに寝返ると決めたらしい」

「それで砂漠化が止まって、俺たちの生活が楽になるなら、別に良いじゃないか」


 髭面とは別の若い男が勝手に話し始めたのを、ジルデールは片手で制してから答えた。


「すまないが、話が進まなくなるので、指名されてから話してくれ。ただ、砂漠化が止まって生活が楽になるなら良いのだが、最悪税金が倍になる」

「ふざけんな! 今だってやっと暮らしているのに……」

「待ってくれ、勝手に発言されると話が進まない。ちゃんと答えていくから、指名されてから話してくれ」

「何でだよ、これが黙っていられ……ぐぇ」


 髭面の男が、勝手に話し続けようとする若い男に歩み寄り、襟首を掴んで締め上げました。


「この兄ちゃんたちは、こんだけの食料を用意してんだ、そんだけ本気ってことぐらい分かるだろう? 勝手なことするなら俺が相手してやんぞ」

「そこまで……勝手な発言も困るが、手荒な真似も控えてほしい」

「分かった。手前もいいな?」


 ジルデールに制止されて髭面の男は手を緩め、若い男も渋々といった感じで頷いて腰を下ろしました。

 どうも髭面の男は、サクラみたいですね。


「少し話が逸れてしまったが、続きを話させてもらうが、税金の話は確定ではない。バルシャニアに寝返れば、最悪そういう状況にもなりかねないという話だ」


 ジルデールが言うには、バルシャニアはドレヴィス公爵領にリーゼンブルグ侵略のための拠点を築くつもりだそうです。

 公爵が寝返る目的は、バルシャニアの侵略後に貴族としての地位と、更に広い領地を得るためだそうです。


 まぁ、全部出鱈目なんですが、住民の皆さんは信じ始めているようです。

 ジルデールが一通り話し終えたところで手を挙げたのは、さきほども発言した女性でした。


「でもさぁ、公爵様が貴族の身分のままで、領地が広がって、更なる砂漠化の心配が無くなるなら、ここがリーゼンブルグだろうとバルシャニアだろうと、どっちでも良くない? まぁ、ちょっとムカつくけど……」

「その通りだが、それは考えられる一番良い状況だと思う。ここがバルシャニアになるとしたら、俺達は占領された国の民になる。そんな良い待遇が受けられるとは思わない方が良いんじゃないのか?」

「そう言われると……そうかもしれないわね」


 全く出鱈目な話も、こうして真剣な様子で議論を重ねていくと、あたかも本当のことのように聞えてくるから不思議です。

 集まっている住民たちも、税金の額がどうなるのかなどに気を取られていて、公爵が本当に寝返ったと思い込んでいるように見えます。


 最初は興味無さそうにしていた人たちも、税金とか自分の暮らしに直結する話になると、俄然興味が湧いてきたようです。

 でも、こんな茶番とか付き合ってるのは面倒なんで、ちょっと僕も質問してみましょうかね。

 またザワザワした住民の間で手を挙げると、ジルデールが気付きました。


「そこの少年、何かな?」

「あの、それで結局僕らは何をすれば良いのですか? 武器を握って戦うのはちょっと無理だと思うんですが……」


 僕の言葉を聞いて、住民たちは一瞬黙り込みました。

 たぶん、色んな不満を抱えていても、戦うという選択肢は考えていないのでしょう。


「そうだね。ここに居る全員に戦ってくれなんて言わない。女性や子供、お年寄には無理な話だ。だから、みんなに出来ることで協力をしてもらいたい。君が想像した通り、僕らは戦いに身を投じることになるが、みんなに参加を強制することはしない。ただ、僕らの存在を認めてほしい」


 ジルデールは、一度言葉を切ると、集まった人達を見回してから再び話し始めました。


「たぶん、戦いの中で多くの者が命を落とすことになるだろう。かく言う僕だって、死ぬかもしれない。それでも、諦めたくないんだ。僕らが生まれた国が、バルシャニアなんかに踏み荒らされるのは我慢出来ない。だから明日、我々は戦いの狼煙を上げる。例え戦いの中で、散っていくことになっても悔いは無い。だから、本気でこの国を良くしようと思っている者たちを、みんなに覚えていてほしいんだ……」


 情感を込めて語り掛けるジルデールを見て涙ぐんでいる人もいますが、ぶっちゃけ自分に酔いまくってるナルシスト臭が鼻について気持ち悪いですね。


『ケント様……爆剤回収完了……』

『どのぐらいあった?』

『三樽だけ……切り札だって話してた……』

『分かった。じゃあ、こっちの話も潰して帰ろうかな……』


 これから演説の山場に向かおうとしているジルデールに良く見えるように、もう一度手を挙げました。


「まだ何かあるのかな、少年」

「はい、馬鹿馬鹿しいんで、帰っても良いですかね?」

「なっ……」

「何だと小僧! 今まで何を聞いてた。馬鹿馬鹿しいとは何ごとだぁ!」


 僕の言葉に絶句したジルデールの代わりに、髭面の男が立ち上がって僕を怒鳴り付けました。



「そもそも、バルシャニアはリーゼンブルグに攻め入って来ませんよ」

「何を言ってる。我々が嘘を付いてるとでも言うつもりか!」

「そうですけど、バルシャニアが攻めて来るって言ってるのは、そっちのジルデールさんで、あなたじゃないですよね? なんで我々……なんですか?」

「そ、それは……も、もう話を聞いた以上は……」

「てか、最初からグルなんでしょ? 行動が怪しすぎでバレバレですよ」

「ぐぅ……」


 髭面の男が黙り込むと、住民の間からクスクスと忍び笑いが聞えてきます。

 黙り込んだ髭面の男に代わって、今度はジルデールが反論してきました。


「我々は、公爵家の騎士から情報を仕入れている。我々の話が嘘だという根拠を示してみろ」

「バルシャニアに、リーゼンブルグを攻める余裕はありません」

「ほう、なんでだ?」

「ライネフという港町がギガースに襲われて、その討伐の時に騎士団に大きな損害が出ているし、反体制勢力の暗躍もあるから、内政で手一杯ですね」

「ほう、それを裏付ける証拠は?」

「えぇぇぇ……この程度の情報も知らないで、ドレヴィス公爵と戦うつもりなんですか?」

「し、知らないわけではない。それでもバルシャニアが攻めて来るという情報があるのだ」


 ジルデールは、折角成功しかけているプロパガンダを放棄する気は無いようです。

 周囲にいた人たちは、ジルデールたちの狼狽ぶりと僕を見較べているようです。

 あんまり目立つのは好きじゃないですけど、こちらもプロパガンダに利用させてもらいましょうかね。


「バルシャニアにリーゼンブルグを攻める余裕が無いという情報を知りながら、なんで攻めて来るという情報を信じられるんですか?」

「それは……我々の長年の仲間が仕入れてきた情報だからだ。だいたい、バルシャニアの皇女を歓迎するなんておかしいだろう。すでに寝返る約束が出来ているからに決まっている」

「じゃあ、なんでバルシャニア一行の護衛に、リーゼンブルグ王国騎士団の騎士団長ベルデッツ・オールデンが、自ら参加しているんですか?」

「な、なんだと……」


 どうやらジルデールは、騎士団長が出迎えに来ていると知らなかったようですし、集まっている住民は王国騎士団長と聞いてざわめいています。


「小僧……」

「都合が悪くなったら暴力に訴えるとか、格好悪いですし、集まっている皆さんから支持されなくなりますよ」

「くそっ……」


 住民を掻き分けて、僕に近付こうとした髭面の男は、支持を失うと聞いて足を止めました。


「確かに、少し前のリーゼンブルグは、ジルデールさんが話していた通り腐っていました。でも、王位継承を巡って下らない派閥争いをしていた馬鹿王子たちが死んで、状況は大きく変わっています。全権を掌握したカミラ・リーゼンブルグの下で、既に砂漠化対策も始められています」


 砂漠化対策が始まっているという情報を聞いて、住民の間には驚きの声が上がりました。

 てか、こういう情報は住民に知らせてないのかな。

 良い情報は、バンバン宣伝した方が内政が安定しそうだけど、公爵家だから支配していて当たり前みたいに思っているのかもしれませんね。

 形勢が悪くなったと思ったのか、髭面の男が叫びました。


「嘘だ! 騙されるな! こいつは公爵家の回し者だ!」

「嘘だと思うなら、チノーフに見に行ってみればいい。それとも、現実に砂漠化に立ち向かっている人たちの頑張りを否定するんですか?」

「ぐぅぅ……」


 髭面の男は、奥歯を噛み締めながら顔を真っ赤にしています。

 住民の皆さんからは、ジルデールたちに同調する気配は消え、祭りの出し物を見物するような期待感が伝わってきます。


「せっかくリーゼンブルグが良くなろうとしている時に、騒動を起こして邪魔するなんて馬鹿げてると思いませんか? 砂漠化の対策が遅れても良いのですか?」

「そんなもの、バルシャニアが攻めて来たら……」


 頭に血が上った髭面に代わってジルデールが口を開こうとした時、駆け込んで来た男が叫びました。


「ジルデールさん、大変だ! 爆剤が盗まれた!」

「何だと! 見張りは何してたんだ!」

「それが、ちょっと目を離したら、もう無かったって……」

「ふざけるな、探せ! 襲撃は明日なんだぞ! くそっ、お前らも捜索に加われ!」


 ジルデールに命じられて、納屋にいた一味の男たちが飛び出して行こうとするのを闇の盾で出口を塞いで止めました。


「何だこれ、出られないぞ」

「おい、どうなってんだ!」


 外に居る連中も気付いて、闇の盾を叩いているみたいですけど、人間が殴ったり蹴ったりするぐらいじゃ壊れませんよ。

 髭面の男が剣を持ち出して斬りつけましたが、無駄ですね。

 出口が塞がったと聞いて、集まった人たちも動揺し始めた中で、ジルデールが僕に視線を向けて来ました。


「お前の仕業か!」

「そうですよ」

「この公爵の犬め!」


 ジルデールの言葉で、一味の男たちの視線が僕に集中しています。


「はぁ……期待外れですね。これだけヒントを与えてるのに、僕を公爵の犬だと思ってるんですか? 全然、駄目駄目ですよ」

「何だと、何を言ってる!」

「皆さん、自分の戦う相手も知らずに襲撃するつもりなんですか?」

「こいつ……」

「あーっ!」


 苛立たしげな表情を浮かべるジルデールたちの横で、二度ほど質問していた女性が僕を指差して驚きの声を上げました。


「どうした、リリナ」

「ま、魔王……」


 リリナと呼ばれた女性の一言で、ジルデールたちは一斉に身構え、僕の周りに居た住民は慌てて離れていきました。

 そんなに怖い存在じゃないのに……てか、この女性もサクラだったのかい。


「お前、俺たちの計画を邪魔する気か!」

「はい、邪魔しますよ。バルシャニアは攻めて来ませんから、余計な騒動の芽は摘ませていただきます」


 抜き身の剣を握ったまま、髭面の男が近付いてきたので、例によって剣身を召喚術でぶった切ってやりました。


「ど、どうなっていやがる」

「言ったでしょ。余計な騒動の芽は摘むって……別に、剣じゃなくて、腕でも脚でも首でも切り取れますよ。試してみます?」


 指先で摘まんでいた剣身を放り捨てると、一味の男たちはギョッとした表情を浮かべています。


「この集まりを開いた皆さんが、アーブル・カルヴァインの残党で、爆剤を使って橋を爆破しようとしていたのも知ってます。カルヴァイン領の制圧も終わりましたし、今更暴力で権力や財産を手に入れようなんて、機を逃してるにも程がある。それに、僕のお嫁さんになるセラフィマを危険に晒すような行為を許すとでも思ってるんですか?」

「ビビるな。いくら魔王とか言われていても、ガキ一人だ。一度に掛かれば防ぎきれないはずだ」


 ジルデールは、まだ抵抗するつもりのようなので、住民の皆さんが十分に離れたのを確認してから、僕の後ろに闇の盾を出しました。


「ネロ、おいで……」


 ドロドロドロ……っと喉を鳴らしながら、スルリとネロが姿を現すと、ジルデールたちだけでなく、住民の皆さんも悲鳴を上げて壁際まで後退りしました。

 ネロは鋭い牙を見せ付けるように、舌なめずりをしてみせます。

 こういう時には、一言も喋らない演技派なんですよね。


「今回は、未遂だから見逃してあげます。ただし、次は無いですよ。下らない騒動を起こして、リーゼンブルグの復興を妨げるならば、サクっとやっちゃいますから、そのつもりで……」


 出口を塞いでいた闇の盾を消すとジルデールたちだけでなく、集まっていた住民たちも先を争うようにして逃げ出して行きました。


「まぁ、ネロが出てくれば、こうなるよねぇ……」

「にゃ? ご主人様は、自分は怖がられていないとでも思ってるにゃ?」

「えっ? だって、みんなはネロを見て……」

「そのネロを顎で使っているご主人様が、怖がられない訳がないにゃ。ご主人様は自覚が足りないにゃ」

「えっ……」


 納屋の中どころか、納屋の周囲からも人の気配は完全に消えていました。

 遠くで、魔王だ……とか、逃げろ……なんて声が聞こえたような気がしたけど、きっと空耳だよね。


「自覚が足りないにゃ」

「はい……気をつけます」

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