第311話 シェアハウス

 セラフィマがリーゼンブルグに到着した翌日、今日は安息の曜日です。

 セラフィマ一行の邪魔をしようとする連中の動きは気になりますが、今日は唯香、マノン、ベアトリーチェと新生活用の買い物をする予定です。


 セラフィマがヴォルザードに来ても、住む場所が整っていないと大変ですもんね。

 道中の護衛をしてくれている百名の騎士の皆さんも、到着したからお役御免です、はい送還……とはいきませんものね。

 送還する前に、慰労会を開きたいと思っています。


 一行の到着時期を見計らって、食材の確保もしないといけません。

 まぁ、僕の場合は、海でも山でも自由に仕入れにいけますから、そちらの心配はあまりしていません。


 と言うか、セラフィマが到着すれば、念願の甘い生活のスタートですよ。

 マイホームは完成していませんけど、迎賓館を間借りして、毎晩イチャこらしちゃいますよ。


「お母さん、ケントが気持ち悪い」

「メイサちゃん、酷い! 毎晩枕代りにしているくせに、気持ち悪いとか酷くない?」

「だって、ただでさえ締りが無いのに、朝からニタニタして……やっぱり気持ち悪い」

「いいんです。僕がニヤけていられるのは、それだけ平和だってことなんだからね」

「ほらほら、あんた達、お喋りばかりしてないで、さっさと食べておくれ、店の仕込みがあるんだからね」


 アマンダさんのお店は、闇の曜日が定休日なので、今日も通常営業です。


「はーい、ケントは顔を引き締めて食べたら、邪魔だから二階に行っててよね」

「はいはい、邪魔者は買い物に出掛けますから大丈夫ですよ。ごちそうさまでした」


 朝食を食べ終えたら、身支度を整えて、守備隊の宿舎へ唯香を迎えに行きます。

 影に潜って移動するつもりでしたが、何となく思い直して歩いて行くことにしました。


 休日ですが、商店が営業を始めるまでには、まだ少し時間があるので、表通りを歩く人も疎らです。

 少し雲はあるものの良い天気ですが、まだ気温が上がってこないのも人通りが少ない理由なのでしょう。


 城壁に向かって歩いていると、四頭立ての馬車が追い越して行きました。

 大型の箱馬車には、御者台に二人、後部にも二人、冒険者と思われる人が乗り込んでいます。

 見た感じ、魔の森を抜けてリーゼンブルグに向かう馬車のようです。


 誰かに影の中から護衛させようかと思いましたが、止めておきました。

 ヒュドラを討伐した跡地に魔物が集まるようになってから、魔の森のパトロールは強化しています。


 オークなら五頭、オーガなら三頭以上の群れを見掛けたら、間引くように指示してあります。

 大きな群れに襲われなければ、腕の良い冒険者であれば危ない場面に陥ることは無いでしょう。

 それに、少しぐらい魔物が出ないと、次から報酬を渋られたりしそうですもんね。


 魔物退治よりも、今日は唯香達との楽しいお買い物……と思っていたのですが、守備隊の門の前で同級生の一団が待ち構えていました。

 一団に交じっている唯香が、苦笑いを浮かべている辺り、何か面倒事のような気がします。


「おはよう、健人」

「おはよう、唯香」


 たぶん同級生達は、僕に用事があるのでしょうが、その前に唯香をギューっとハグして頬にキスをしました。


「じゃあ、行こうか……」

「おいおい、待て待て、この状況で行こうかじゃないだろう」

「お前、あからさまに無視しようとしてんじゃねぇよ」


 揃って突っ込みを入れて来たのは、新旧コンビの新田と古田です。

 二人の他に、近藤、相良さん、本宮さん、それに綿貫さんの姿もあります。


「えっと、みんな同じ用事なの?」

「住む場所を確保しようかと思って……」

「えっ、住む場所って、守備隊の宿舎じゃなくて?」

「そう、私達で物件を手に入れようと思っているの」


 みんなを代表して話してくれたのは、フラヴィアさんの服屋で働いている相良さんでした。

 相良さんは、日本には帰還せず、このままフラヴィアさんの店で働き続けると決めているそうで、両親からも許可をもらっているそうです。


 ヴォルザードに残るのは良いとして、日本に帰還する同級生が増え、宿舎に空き部屋が増えて来たのを見て、どこか別の場所に住んだ方が良いのではと考えたそうです。

 そこで、同じくヴォルザードへの残留を希望している本宮さんと相談して、共同で物件を借りる事を思い付いたそうです。


「それで、どうせなら残留する人達で、まとまって暮らした方が色々と都合が良いんじゃないかって考えたの」

「それが、このメンバーなんだね」

「まだ、あと四人? 五人? 六人……?」

「それって、日本に帰ろうか、ヴォルザードに残ろうか迷ってる人?」

「ううん、そうじゃなくて……あっ、来た来た」


 相良さんが手を振った先には、鷹山、シーリアさん、フローチェさん、八木、マリーデが歩いて来ます。


「なるほど、子供が増えると人数も増えるってことか」

「そういうこと、綿貫さんもいるしね」

「あれ? 綿貫さんは、僕の後に下宿に入るんじゃなかったの?」

「あぁ、そのつもりだったけど、アマンダさんのところは階段が急じゃないか。それに、シーリアさんが一緒だと、色々悩みとか打ち明けられるかと思ってさ」


 初めての出産を控える者同士で不安も共有できるし、シーリアさんの母親フローチェさんは、元々は農村出身なので子供の扱いには慣れているそうです。

 アマンダさんも、女手一つでメイサちゃんを育てたのですから、子供の扱いには慣れているでしょうが、人気店となった食堂の仕事があります。

 これから見る物件次第ですが、みんなと一緒に住む方に心が傾いているそうです。


「あぁ、心配しなくても、アマンダさんには相談してあるし、あたしにとって良い方を選ぶように言ってもらっているよ」

「そうなんだ、知らなかった……てか、こんな大人数が住める物件があるの?」

「だから、ちょーっと国分君に相談なんだ」


 相良さん達が揃って浮かべる満面の笑みを見ると、嫌な予感しかしないんですけど……まぁ、みんなが自立する手助けだから、仕方ないかもしれませんね。


 相良さんに案内されて、ゾロゾロと移動した先は、旧市街西地区の倉庫が建ち並ぶ一画でした。

 この辺りは、十八年前の魔物の大量発生時に、ロックオーガが侵入して大きな被害が出た地域です。

 元々は住宅地でしたが、壁一枚隔てた向こうが魔の森だったので、万が一の時に被害を減らす目的で、倉庫街に変わったそうです。


「ここが、私達が手に入れようとしている物件」

「へぇ……って、倉庫じゃん」

「そう、住宅付きの倉庫なんだけど、こっちの倉庫部分のを部屋に改築する予定なの」


 相良さんに案内された物件は、2DKの家が付いた倉庫で、倉庫部分は住宅の倍の大きさがあります。

 相良さんが預かっていた鍵で倉庫の戸を開けると、何も置いていないので、余計に広く感じます。


「倉庫の床面積は、約百十平方メートル、畳にすると約六十畳分ぐらいある。ここに、隣の住宅と同じ高さで二階の床を張って、上に四部屋、下は二部屋を広いリビングにする予定。屋根にはソーラーパネルを設置して、大容量のバッテリーを使ってネット環境も整える予定だよ」

「なるほど……物件の代金、改築費用、ソーラーパネルに大容量バッテリーか……お金あるの?」


 資金について訊ねると、相良さんは全員を倉庫の中で整列させました。


「国分さん、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」


 相良さんに続いて、全員が頭を下げました。


「はぁ……そんな事だろうと思ったよ」

「あぁ、でも勘違いしないで、お金をくれって言ってるんじゃなくて、貸してもらいたいの。全員が家賃を払って、借りたお金は返済するつもりだよ」


 相良さんの話では、この物件を僕に借りたお金で、買取りして改築。

 全員から、家賃という形で月々の返済をしていく予定だそうです。


「ざっと見積もってもらったら、ソーラーパネルとバッテリーを除いて、約百万ヘルト。それを八世帯で割ると、十二万五千ヘルト。月々五千ヘルトの返済でも、二年で返済出来る計算になるの。まぁ、その他にも共用部分の負担とかはあるけど、それでも月六千ヘルトぐらいあれば、何とかなるんじゃないかな」

「六千ヘルトか……うん、その程度なら無理な数字じゃなさそうだね」

「でしょ。それに、下宿と違って自分たちに所有物になるからね」

「そうか、ローンが終われば自分のものなのか……」


 家を買おうなんて、また面倒な話かと思いきや、意外と現実的な話なので安心しました。

 てか、ヴォルザードの物件って安くない? まぁ、東京と較べるのは間違いなんだろうけど……。

 相良さんとしては、ヴォルザードで女性の一人暮らしでは不安なので、本宮さんを誘ったけど、まだ不安だったので、シェアハウスのような形を考えたそうです。


 鷹山一家のシーリアさんとフローチェさんには、寮母さんのような役割を担ってもらう予定だそうです。

 近藤や新旧コンビにも声を掛けたのは、女性ばかりでは防犯的な意味で不安だったようです。


 たしかに、駆け出しとは言っても、複数の冒険者が暮らしている家ならば、強盗などに襲われる心配も減るでしょう。

 だだ、気になる人物が混じってるよね。


「国分、お前なぁ……その疑いの眼差しを俺に向けるのは止めろよ」

「いやいや、誰が何と言おうとも、一番心配なのは八木だからね」

「うるせぇなぁ……大人しくマリーデの尻に敷かれていれば良いんだろう?」

「へぇ……覚悟を決めたんだ」

「とりあえずだ、とりあえず」


 不満げな表情を浮かべている八木の左腕は、マリーデにガッチリとホールドされていて、見るからに脱出不可能な状況です。

 まぁ、八木が駄目ならマリーデから取り立てれば良いのでしょうし、これならば大丈夫でしょう。


「分かった。じゃあ無利子で融資いたしましょう」

「やった! さすが国分、太っ腹だね」

「一応、親しき仲にも何とやらで……借用書だけは作るからね」

「勿論、その辺りはちゃんとしないとね」


 金額が百万ヘルトと大きいので、ギルドに間に入ってもらう形で貸し付ける事にしました。

 ギルドに、ほんの少し手数料を払う事になりますが、後々返した返していないといった揉め事が起こる心配をしなくて済みます。


「へぇ……ギルドは、そんな事もやってくれるんだ。国分、良く知ってたね」

「まぁね。誰かさんが燃やした靴屋さんの債権費用を用立てたことがあるから……ねぇ、鷹山」

「くっ、あれは領主のクラウスさんから恩赦を受けたから……」

「そうそう、クラウスさんの懐は、全く痛まない形の恩赦だったなぁ……」

「分かってるよ。言われなくても国分には感謝してるよ」


 勿論、鷹山をからかって遊んでいただけなのですが、シーリアさんに神妙な様子で頭を下げられちゃいました。


「すみません、ケントさん。その節はシューイチが大変ご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありません」

「あぁ、シーリアさん、気にしないで下さい。あの頃の鷹山がアホだったのは、ここにいる全員が知っていますし、諦めてましたから。アホに戻らないように、しっかり手綱を握っておいて下さい」

「くっ、覚えとけよ国分、じきにお前だって……」

「みなまで言うな。分かってる、分かってるぞ鷹山」


 尻に敷かれるというなら、僕の場合は鷹山の四倍の重量が……。


「健人、何か失礼なことを考えてない?」

「と、とんでもない、失礼なことなんて考えてないよ。僕には頼れるお嫁さんがいて助かるなぁ……ってね」

「それなら良いけど、重たくなんかないからね……」

「はい、分かってます」


 とは言ったものの、腕に当たるふにゅんとした感触は、間違いなく育ってますよね。

 勿論、歓迎こそすれど、拒否することなんかありませんからね。

 大丈夫です、少々重たくなったって身体強化を使えば……うひぃ、ギロンって睨まれちゃいました。


 相良さんとは、また明日ギルドで手続きをする約束をして別れました。

 近藤達も、それぞれに用事があるらしく、ここからは別行動です。

 さて、予定の時間からだいぶ遅れているので、少し急いでマノンの家へと向かいましょう。


「健人、慌てなくても大丈夫だよ。ホルトに知らせに行ってもらったから」

「そうなんだ、じゃあ焦らなくてもいいね」

「うん、折角の休日なんだから、ゆっくりしよう」


 おぉぅ、唯香がギュッと腕を絡めてきたので、更にボリューミーになったふにゅんふにゅんが……。


「健人のエッチ……」

「ぐぅ、ごめんなさい」

「ねぇ、健人。八木君は、本当に結婚しちゃったの?」

「んー……たぶん? かなり積極的なアプローチを受けたみたいで、役所に書類を提出したみたいだから、結婚したことになってるんじゃないかな」

「私たちは、どうするの?」

「セラフィマが、ヴォルザードに着いてから一緒に行こうと思ってる」

「そうね。その方がいいね」


 マノンの家に向かう途中、何度か街の人に声を掛けられました。


「ユイカ先生、先日は息子が大変お世話になりました」

「その後、いかがですか?」

「えぇ、もうすっかり元気になって、ほらユイカ先生にお礼を言いなさい」

「ユイカせんせ、ありがと……」

「どういたしまして」


 五歳ぐらいの犬獣人の男の子は、唯香に頭を撫でられると顔を真っ赤にして母親の陰に隠れてしまいました。

 尻尾が、めっちゃパタパタしてますね。

 おっと、何かな、その挑戦的な目つきは。

 残念ながら、唯香は僕のものだから、君の出番は無いよ。


「ユイカ先生、お出掛けですか? いつもありがとうございます。おかげで膝の痛みも楽になりました」

「どういたしまして、お大事になさって下さい」


 杖をついたお婆ちゃんは、放っておくと唯香を拝みだしそうでした。

 守備隊の診療所で、唯香が治療をするようになって、もうずいぶん経つので、顔見知りの患者さんも増えているみたいですね。


「なんか、唯香の方が有名人だよね」

「だって、健人が活躍するような場所には、街の人は危なくて近づけないじゃない」

「それもそうか。というか、僕が有名にならない方が、街は平和ってことだもんね」

「そうだよ。でも、冒険者の間では有名人でしょ?」

「どうかなぁ……最近は、街の外の仕事ばっかりだからなぁ……」

「じゃあ、健人は出張の多い旦那様になるのね」

「そうかも……でも、遠くに出張しても、ちゃんと家には帰って来るよ」

「そうだね。セラフィマが来たら、もっと健人と一緒の時間が増えるんだね」

「そのための買い物をしておかないとね」


 旧市街地からマノンの家がある第四区画へ向かっていると、路地の奥から争うような声が聞こえて来ました。


「くそっ、しぶてぇな! さっさと出して楽になっちまえよ!」

「ぐぁぁぁ……お前らなんかに、やる金はねぇ……」


 路地の奥へと足を踏み入れて行くと、四人ほどの柄の悪そうなガキどもが、寄ってたかって一人を足蹴にしていました。


「ばーか、お前が庭師のところで小遣い稼ぎしてんのはバレてんだよ」

「がぁぁぁ……やめろ、それは姉ちゃんの結婚祝いを買う金だ。手前らなん……がぅ」

「けっ、大人しく出してりゃ痛い思いなんかしなくて済んだのにな、ばーか」

「返せ……返せよ……」

「返して欲しけりゃ、力ずくで取り返してみろよっ!」

「がふっ……ちくしょう……ちくしょう」


 四人に囲まれて、ボコボコに蹴られているのはマノンの弟のハミルでした。

 唯香の腕をそっとほどいて、ゆっくりとクソガキどもに歩み寄ります。


「お前ら、今言った言葉を忘れるなよ」

「あぁ? 何だ手前……」

「僕かい? 僕は、そのハミルの兄貴になる男だよ」

「へっ、お前、学校を卒業したての冒険者だろう。冒険者が子供に手を出したら、ギルドのランクを剥奪されて、街を追放になるんだぞ。知らねぇのか、ばーか!」

「ふーん……そうなんだ。良く知ってるね」

「当たり前だ。世の中ここだよ、ここ!」


 クソガキどものリーダーは、自分の頭を指差して勝ち誇ってみせます。


「ふーん……でもさ、証拠が残らなかったら良いんだろう?」

「はぁ、何言って……」


 闇の盾で路地を囲って封鎖すると、クソガキどもはニヤニヤした笑いを消しました。


「これはねぇ、闇の盾って言って、闇属性の魔術なんだ。僕と僕の眷属、それと命を持たない物は通り抜けられるけど、普通の人は通れない」

「な、何言ってんだよ、お前!」

「分からない? ここで起こっている事は、誰からも見られない。君たちが命の無い物になって、この場から消え去っても、誰も見ていないってことだよ」

「主様、斬りますか?」

「まだ駄目だよ、サヘル」

「そうですか、残念です」


 闇の盾で周囲を囲うと、すっとサヘルが出て来て、僕の隣に並びました。

 てか、これ見よがしに右手に持ったククリナイフの素振りが、ヒュッ、ヒュッ……と尋常じゃない音を立てていて、僕が斬られやしないかヒヤヒヤものです。


「主様、まだですか?」

「僕が良いって言うまで斬っちゃ駄目だからね」

「分かりました、残念です」


 クソガキどもにもサヘルの危うさは伝わっているようで、全員顔面蒼白です。


「グルゥゥゥゥゥ……」


 更には、僕の意図を読み取って、闇の盾の向こうからフラムが唸り声を上げました。

 ホントは出て来てもらいたいところなんだけど、路地が狭くて出て来られないんだよね。

 それでも、唸り声だけでも効果は抜群で、クソガキどもは一塊になってブルブルと震えだしました。


「ヤ、ヤバいよ。あいつ魔物使いだ。知り合いの冒険者のおっさんが言ってたんだ、魔物使いはただの子供にしか見えない闇属性の術士だって」

「う、嘘だろう、どうすんだよ!」

「これは、サラマンダーの唸り声だ。バクっとやられたくなかったら、ハミルから取った金を返せ」

「返す! 返すから許して」

「ほら、返したぞ。これでいいんだろ、ひぃぃぃぃぃ!」


 闇の盾からフラムが頭をのぞかせると、クソガキともはハミルの財布を放り出して後ずさりしました。


「主様、フラムにバクっとさせるなら、その前に私にスパっとやらせてください。この程度のものなら、骨までスパっとやってみせます」

「いやいや、まだ駄目だからね」


 シッ……シッ……って、素振りのスピードが更に上がってない?

 風の刃とか飛ばしちゃ駄目だからね。


「嫌だ……死にたくないよぉ……」

「助けて、もうしませんから……」


 サヘルとフラムの爬虫類特有の瞳に睨まれ、四人は跪いて泣きながら許しを請うてきました。

 四人が後ずさりした後、唯香がハミルに駆け寄って、治癒魔術を掛けていました。


「こう言ってるけど、どうする? ハミル」


 唯香に治癒魔術を掛けてもらいながら、ハミルは微妙な表情を浮かべています。

 たぶん、クソガキどもには腹をたてているけど、脅し付けているのが僕の眷族なのが気に入らないのでしょう。

 暫く考えた後で、ハミルはボソッと呟きました。


「もういい……買い物に行くから出してくれよ」

「そうか……分かった」


 ハミルの言葉を聞いて、クソガキ四人はホッとした表情を浮かべました。


「あぁ、ハミルはこういってるけど、僕はお前らの顔をしっかり記憶したから。今度だれかから金を脅し取ろうとしていたら、容赦しないから、忘れんじゃないぞ」


 サヘルを連れて歩み寄ると、四人はガクガクと頷き、闇の盾を消すと脱兎のごとく逃げていきました。


「主様、残念です」


 不服そうなサヘルをしゃがませて撫でてやると、くーくーと喉を鳴らして満足したようです。

 唯香に服についた土を払ってもらったハミルは、チラっと僕の方に視線を向けると、モゴモゴと何か呟いた後で走り去って行きました。


「ありがとう……だって」

「まったく素直じゃないんだからなぁ……」

「それは、健人も一緒じゃないの?」

「うん、否定はしないけど、僕は素直じゃない弟よりも、素直なお姉さんのほうが良いな」

「そう言うと思った」


 クスクスと笑い声を立てた唯香と手をつなぎ、改めてマノンの家へ向かって歩き出しました。

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