第277話 東奔西走

 カルヴァイン領が、困窮し始めていました。

 元締め達が作動させた爆剤を使った罠によって、集落全体が雪崩で埋もれる事態となりましたが、増援の騎士団などによって救援が進められ集落を制圧。


 僕と眷族のみんな、それに唯香とマノンにも手伝ってもらい、救助活動や重篤な患者の治療も終えられました。

 増援の騎士を送還した時に、支援物資や文官も一緒に送り込み、直轄地として統治が行われ始めたのですが、追加支援が足りなかったようです。


 カルヴァイン領に王都からの物資を運ぶ倉庫を作ったものの、イロスーン大森林での騒動に気を取られて、実質的な運用ができていません。

 もう一つ、カルヴァイン領では王家に対抗して領地に立て篭もるように、七番坑道に食料などを大量に備蓄していました。


 その物資を利用できれば困窮せずに済んだのですが、坑道の前は深い堀が穿たれ、出入りする為の跳ね橋が上げられたままだそうです。

 跳ね橋を管理していた元締めの手下どもは、雪崩で埋められて全滅。


 物資が備蓄されていると分かっていても、取りに行けない状態になっているそうです。

 カミラ付きのハルトから知らせを受けて、リーゼンブルグの王都アルダロスへと向かいました。


 カミラは、自室ではなく、王の執務室で書類と格闘中でした。


「カミラ、カルヴァイン領で物資が不足しているって聞いたけど」

「魔王様、申し訳ございません。ハルトに伝令を頼んだところ、マグダロスから救援を求められました」

「うん、僕も別件に掛かりきりで、輸送の件を放置しちゃったからね。とりあえず、こちらから持ち込む物資と、カルヴァイン領で溜め込んでいた物資を使えば大丈夫だよね」

「はい、そうしていただければ助かります」


 まずはカミラに、王都側の担当者の所へ案内してもらいます。

 担当者に運搬を行う眷族達を紹介して、輸送の体制を作っておきましょう。


「フレッド、バステン、先に行って、七番坑道の跳ね橋を下ろしてくれるかな」

『お任せ下さい、ケント様』

『お安い御用……』


 七番坑道は、跳ね橋さえ下ろしてしまえば、あとは騎士達や現地の人達でも搬出ができるはずです。

 カミラに案内されて向かったのは、騎士団の補給部所でした。


 カミラの隣に普段着の僕とハルトがポテポテと歩いているので、廊下で擦れ違った人達は皆一様にギョッとした表情を浮かべてから、慌てて頭を下げていました。


「エーギルは居るか!」

「はっ! お呼びでございますか、カミラ様」


 騎士団の倉庫に隣接する建物に足を踏み入れたカミラが声を張って呼びかけると、奥の席に座っていた三十代後半と思われる男性が、バネ仕掛けのように勢い良く立ち上がりました。


「エーギル、魔王様がカルヴァイン領への輸送を行ってくださる事になった」

「ありがとうございます。エーギル・ザイフリートと申します、よろしくお願い致します」

「ど、どうも……ケント・コクブです。それと、眷族のハルトです」

「わぅ、ハルトだよ。いつもはカミラの近くに居るんだよ」

「はっ、よろしくお願い致します」


 ハルトにまで、身体を九十度に曲げて頭を下げたエーギルさんは、いかにも実直そうな事務職員といった風貌ですが、体格はガッシリとしています。

 事務方でも、騎士としての訓練を受けているのでしょうね。


「エーギルさんへの連絡は、基本的にハルトが担当しますが、他のコボルトが来る場合もありますので、驚かないで下さい」

「はい、部局の者にも良く言い聞かせておきます」

「それで、カルヴァイン領に運ぶ荷物はどちらでしょうか?」

「はい、ご案内いたします」


 案内された倉庫に用意されていたのは、医薬品と保存のできない野菜などの食料品でした。

 穀類などは七番坑道の物が出せれば活用出来ますし、肉類は山へ入って猟を行っているそうです。


「これは、マグダロスに渡せば良いのかな?」

「はい、マグダロス部隊長でも構いませんし、物資を担当しているバシリオ・アーレンスという者でも結構です」

「分かりました。では、お預かりします」

「魔王様、よろしくお願い致します」


 積み上げられた物資の横に闇の盾を展開し、コボルト隊に運び入れてもらいました。

 跪いて頭を下げたカミラとエーギルに見送られながら影に潜り、一気にカルヴァイン領へと移動します。


『ケント様、七番坑道へと通じる跳ね橋は下ろし終えました』

『坑道前の雪も……除雪済み……』

「ありがとう、助かったよ」


 四日ぶりに訪れたカルヴァイン領の集落では、一部で再建の工事が始められていました。

 元々道路だった部分を使って建てた被災者用の避難所は、手を加えて共同住宅として活用し、建物があったところに新たな道を作っています。


 集落の建物は、雪崩の雪の重みで潰れているので、解体して撤去するしかありません。

 とは言え、雪崩が起こった後も、雪は頻繁に降っているようで、工事を進めるにも雪搔きをしなければなりません。


 潰れた建物撤去作業は、集落の男性が総出で作業を行っているようです。


「雪掻きをしながらの再建作業にしては、随分と進んでいるように見えるけど……」

『おそらく、これまでは鉱山に縛り付けられていた坑夫達が、再建作業に手を貸しているのでしょうな』

「なるほど。掘ったり、どかしたりの力仕事はお手のものなんだね」


 これまでカルヴァイン領の住民は、アーブルを頂点として、五人の元締めに徹底的に管理され、搾取され続けて来ました。

 この六人が排除され、直轄地となった現在は、鉱山での採掘作業は中断され、集落の再建に労働力が注ぎ込まれているのでしょう。


 現場で働いている人たちの表情は、皆一様に明るく、意欲に満ち溢れているように感じられます。

 集落の再建現場のすぐ近く、王都との輸送のために作った倉庫は、ガラーンとしていました。


 王城からトラック二台分ぐらいの荷物を持ち込んだはずですが、集落全体の人口を養うには十分ではなかったのでしょう。

 それに、食べなきゃ力仕事なんて出来ないよね。


「こんにちは……」

「誰だ! まっ、魔王様……失礼いたしました!」


  闇の盾から表に出ながら、倉庫で物品のチェックをしている人に声を掛けると、鋭い声で誰何された後で、大慌てで敬礼をされました。


「王都から物資を運んで来ました。バシリオさんはいらっしゃいますか?」

「はい、私がバシリオ・アーレンスです。物資は、こちらにお願い出来ますか?」

「分かりました。あっ、元締め達が物資を備蓄していた七番坑道も、入れるようにしましたので、あちらも活用して下さい」

「本当ですか、ありがとうございます。まだ底を尽いた訳ではありませんが、食料の備蓄が心細くなっていたので助かります」


 バシリオさんにもハルトを代表とするコボルト隊を紹介して、王都との輸送体制を整えました。

 バシリオさんも部下の職員の皆さんも、大きな木箱を軽々と運んでいるコボルト隊に、目を丸くしていました。


「そう言えば、元締めの五人はどうなったんですか?」

「あの者達は、アーブルの居城に幽閉しています。口裏を合わせられないように、互いの声が届かない場所に閉じ込め、別々に取調べを行っています」

「アーブルの計画とか、鉱山の運営に関する資料は確保出来ましたか」

「元締め達の屋敷が爆破されてしまったので、個別の資料の多くが失われしまいました。ですが、全ての鉱山はアーブルが統括していたので、掘削計画や産出量などの資料は残っています。ただ、アーブルが企てていた計画については、その多くがアーブルの頭の中にしか無かったようで、そちらの解明は難しそうです」


 アーブルは、カルヴァイン領に滞在している時でも、計画を洩らしていたのは側近中の側近ネストルだけだったようです。

 そのネストルは、議事の間でのクーデター未遂の時に捕らえられ、厳しい拷問まで行われたそうですが、アーブル同様に頑として口を割らないまま処刑されたそうです。


「元締めと一緒に捕らえられた家宰のヘーゲルは、ネストルほどの気骨の持ち主ではなさそうですが、それだけに詳しい話まではアーブルから伝えられていない可能性が高いです」


 アーブルが捕らえられた後、曲がりなりにもカルヴァイン領を切り盛りしてきた人物ですが、周囲からの信頼という面では頼りにはされていなかったのでしょう。


「元締め達やヘーゲルは、調べが終わったら処刑ですか?」

「はい、カミラ様から処分を一任されたマグダロス部隊長は、集落が復興するまで幽閉を続け、復興した集落を見せ付けた後で処刑するつもりのようです」

「復興したカルヴァイン領が、新しく生まれ変わる象徴として利用するのですか?」

「おっしゃる通りです。これまで、この土地の住民達は搾取され続けてきました。アーブルが去った後も、五人の元締めが存在する限り、住民に自由はありません。ですが、逆に言うならば、五人の存在が無くなり、手下共も処分されれば、頭上を覆っていた暗雲は切れ、光が差し込んで来るのです」


 熱っぽく語るバシリオさんにとって、雲を晴らし住民を照らす光は、カミラ・リーゼンブルグなのでしょうね。

 話し込んでいるうちに、七番坑道が開いたことを確認した騎士が、バシリオさんを呼びに来ました。


「じゃあ、僕は引き上げますね」

「はい、ご足労いただきありがとうございました。魔王様、集落が復興しましたら、是非足を運んで下さい。カルヴァイン領の住民が解放されたのは、魔王様のお力添えがあってこそです」

「その日が来るのを楽しみにしています」


 バシリオさんはカミラに感化されてるのでしょうか、大人の男性に跪いて頭を下げられるのは気恥ずかしいですね。

 影に潜ってヴォルザードに戻ろうとしたら、セラフィマに付いているヒルトが姿を見せました。


「わふぅ、ご主人様、セラが国境に着いたよ」

「国境って、チョウスク?」

「わぅ、そうだよ」


 イロスーン大森林の一件に気を取られて、このところセラフィマにはご無沙汰しちゃっています。


『ケント様、砂漠を越えればリーゼンブルグですぞ。護衛の騎士百人の件もございますし、打ち合わせをされておいた方が宜しいですぞ』

「そうだよね。リーゼンブルグと衝突が起こったら大変だもんね」


 リーゼンブルグとバルシャニアは、長きに渡って敵対関係にあります。

 間に砂漠が広がっているおかげで、武力衝突に発展する事は稀ですが、相互不信の状況から抜け出す糸口すら見出せていません。


 アーブル・カルヴァインによるクーデター未遂事件でも、バルシャニアは陰で策動していました。

 自国の利益を考えるのであれば、当然ともいえる行動だとしても、リーゼンブルグにしてみれば完全な敵対行動ですし、簡単に納得は出来ないはずです。


 そのバルシャニアの皇女が、リーゼンブルグのもう一方の隣国、ランズヘルト共和国のヴォルザードへ輿入れする。

 実際には、ヴォルザードに住んでいる僕の元へと嫁いで来るのですし、敵対する意思も無いのですが、リーゼンブルグの全ての住民が理解している訳ではありません。


 ある程度理解している者であっても、武装したバルシャニアの騎士百人が、我が物顔で通り過ぎて行くのを見るのは屈辱的でしょう。

 ましてや、バルシャニア憎し……といった感情を抱いている者にとっては耐え難い事態だと感じるでしょう。


「そうか、リーゼンブルグの住民が納得するように、通過する街道の整備をするんだったね」

『そうですぞ。住民にとってバルシャニアの皇女一行の通過が、実りあるものとなれば、不測の事態が起こる確率も減るはずですぞ』

「それには、セラフィマの一行が通る街道が分かっていないと道路整備が間に合わなくなっちゃうよね」

『セラフィマ嬢の一行は、王都に向かうのですから、ドレヴィス公爵領のラウフから北進し、マキリグ峠を経て、タラゴワ街道を通って王都アルダロスへ向かうはずです』

「当然、通り抜ける土地の領主には話が届いているはずだよね?」

『そうですな。カミラ嬢が実権を握って以降は、命令などの伝達も改善されているでしょう……ケント様、どうかなされましたか?』


 話をしながら街道整備の手順を考えていたら、ラインハルトに訊ねられました。


「街道の整備って、勝手にやったら拙いかな?」

『土地を治めている領主に無断で……という事ですか? ふむ、あまりお勧めはできませぬな』

「とは思うんだけどさ、これから断わりを入れて、計画を立てて、作業員を集めて……なんてやってたら、どんだけ時間が掛かるかわかんないよ」

『なるほど、確かに正式な手順では、セラフィマ嬢の輿入れに間に合わなくなる可能性が高いですな』


 というか、領主と面談して、許可を貰うのが面倒なんですよね。

 それに、元第一王子派のウィリアム・ドレヴィス公爵は、アルフォンスの死後ラストックへは向かわず、バルシャニアの侵攻に備えるために帰領しています。


 なので、ラストックでの魔物の討伐も、王城議事の間でのクーデター未遂事件も伝聞で知るだけで、僕の活躍を直接見ていません。

 リーゼンブルグの安定に多大な貢献をしているとは思っているでしょうが、もしかすると僕の活躍を妬むような人物から嘘の情報を吹き込まれていないとも限りません。


『なるほど、確かにケント様の功績が大きくなるほどに、グラシエラのように良からぬ画策をする輩の増えてきますな。では、我々の手で勝手に進めるといたしますかな』

「うん、でも、ほどほどに……ね」

『ぶははは、畏まってございますぞ。ほどほど……ですな』


 うん、これは間違いなく、やり過ぎちゃうパターンだね。

 一抹の不安を抱えつつ、チョウスクのセラフィマの下を訪れました。


 チョウスクは、バルシャニアとリーゼンブルグの間にある砂漠への玄関口です。

 グレナノ川を挟んだ向かい側には、バルシャニアが国主導で行っている開拓地があるだけで、その先には荒涼とした荒れ地が広がっています。


 ヴォルザードでは日が落ちていましたが、チョウスクの空は茜色に染まっています。

 国境の街でもあるチョウスクは、日が暮れてからも街は賑わうそうです。


 セラフィマの居る宮殿に行く前に、街の様子を影の中からながめてみると、何やら騒ぎが起こっているようです。

 街中には多くの兵士の姿があり、旅人や商人達から話を聞いて回っていました。


 旅人同士も街角のあちこちに集まり、しきりに情報を交換しているように見えます。


「数はどの位なんだ?」

「正確な数字は分からないが三十から五十ぐらいって話だ」

「五十! そんなにいるのか?」

「という話だ。俺も実際に見た訳じゃないからな」

「国は討伐に動いてくれるのか?」

「さぁなぁ……ミズーシのオアシスなら動くだろうが、ゴーケンだと微妙だろう」

「砂漠は、己の力と才覚で渡れ……か」


 国が討伐とか、五十が多いと思われている感じからして、盗賊か手強い魔物が現れているようですね。

 もう少し情報を集めようかと考えましたが、この場合、セラフィマに聞いた方が早い気がします。


「フレッド、念のために情報を集めてもらえる?」

『了解……任せて……』


 ヒルトを目印にして移動すると、セラフィマは武官らしき男性と、文官らしき男性と話し合いの最中でした。


「ヒルト、この二人は誰?」

「わふぅ、こっちが護衛の偉い人、こっちは街の偉い人で、セラは早く行きたいんだって」


 どうやら、逸るセラフィマを二人が諌めているようです。

 ヒルトを撫でながら、三人の話を聞かせてもらいます。


「我々、護衛の騎士全員で立ち向かえば負けるとは思えませんが、それも、これまでに把握出来ている情報が正しければの話でございます」

「集めた情報の多くは、まだ伝聞の域を出ておりません。正確な情報を確認してからでないと、不測の事態への対処が出来ず、多くの犠牲を出す恐れがございます。どうか、偵察の者が戻るまでは、出発を延期して下さいませ」

「分かりました。出発は延期いたします」


 不満気な表情を隠さないものの、一応説得に応じたセラフィマの言葉を聞いて、二人はホッとした表情を浮かべています。


「ですが、いつまでも無為に時間を過ごしているつもりはありません。私だけでなく、旅をする全ての者達が通行の再開を望んでいます。商隊の者達の足止めが続くことは、バルシャニアの経済にも悪い影響をもたらします。早急に調査を行い、討伐の作戦を立てなさい」

「はっ、畏まりました」


 二人の男性は、深々と頭を下げてから退室していきました。

 セラフィマは二人を見送ると、ほうっと溜息をもらして肩の力を抜きました。


「ヒルト、ヒルト出て来て」

「お困りですか、皇女様?」

「ケ、ケント様……いらしてたのですね」

「まだ、さっき来たばかりで、事情が飲み込めていないんだけど、何があったの?」

「はい、オアシスの一つが、リザードマンによって占拠されているらしいのです」

「えっ、砂漠にリザードマンがいるの? 水の中に住んでいるんじゃないの?」

「それは、ウォーター・リザードマンと呼ばれる種族ですね。こちらにいるのは、サンド・リザードマンと呼ばれる種族です」


 リザードマンには大きく分けて二種類の種族がいるそうで、水辺を好むものと、もう一種類は砂漠などの陸地に住むものだそうです。

 僕の眷族のザーエ達は、ウォーター・リザードマンになります。


「リザードマンは、群れを作らないと言われていますが、稀にですが群れで行動する事があるそうです。今回は、そのケースだと思われます」


 バルシャニアとリーゼンブルグを隔てるダビーラ砂漠には、幾つかのオアシスが点在しているそうです。

 砂漠を旅する者はオアシスを辿るように進んで行くのですが、バルシャニアから二つ目のオアシスが、リザードマンの群れに占拠されて通行に支障を来たしているようです。


「こういう場合って、リーゼンブルグと協力して討伐はしないの?」

「ダビーラ砂漠は、バルシャニアの領土ではありませんし、リーゼンブルグの領土でもありません。こうした事態が起こった時には、基本的に旅をする者達が対処してきました。ただ今回は、少々群れの規模が大きいようで、商隊の護衛だけでは対処しきれていないようです」


 セラフィマに、イロスーン大森林で起こっている騒動の話をしようかと、ちょっと考えましたが思い留まりました。

 もしダビーラ砂漠にも南の大陸に通じる洞窟が出来ていたら……などと考えて、セラフィマの心配が増えちゃいそうですもんね。


「セラ、そのオアシスのリザードマンは、僕が討伐してこようか?」

「ありがとうございます。ですが、リザードマンの討伐は、砂漠で護衛を務める者にとっては勲章のようなもので、一人で成し遂げた者は闘士として周囲の者から認められる存在となるそうです。それと、リザードマンの牙や爪、革などは、旅の安全の御守りとして珍重され高値で取り引きされます」

「分かった、それじゃあ僕が横取りしない方がいいね」

「ケント様のお心遣いを無にするようで、申し訳ございません」

「ううん、そんなの気にしなくてもいいよ。僕らは家族になるんだからね」

「ケント様……はい、そうでございますね」


 セラフィマは、一瞬目を見開いた後で柔らかく微笑むと、僕の肩に頭を預けてきました。


「でも、困った時は、いつでも相談してね。いくらでも頼っていいからね」

「はい……旦那様」


 絡めた腕にキュっと力を入れてきたセラフィマからは、花のような良い香りが漂ってきました。

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