第276話 小さな恋の終わり

「グラシエラのランクを剥奪してバッケンハイムから追放する」

「えぇぇぇぇ!」

「何じゃ不満かぇ、ならば死罪じゃな」

「いやいや、そうじゃなくて追放しちゃって良いんですか?」


 スラッカで預かった荷物を返却して、指名依頼完了の報告にバッケンハイムのギルドを訪れました。


 珍しく、本当に珍しく書類に目を通していたマスター・レーゼに、スラッカからの撤退状況やイロスーン大森林の現状を報告し、そのついでにグラシエラ達の悪企みも伝えると、レーゼさんは即断しました。


 てか、ランクの剥奪はギルドマスターだから出来るけど、追放とか死罪は領主様が下す処分じゃないの?


「イロスーン大森林の現状を鑑みれば、Aランク冒険者を欠くことになるのは確かに痛手じゃが、Sランク冒険者の協力が得られなくなることの方が遥かに重大な問題じゃ」

「でも、結局は未遂で終わりましたし、別に処分しなくても構いませんよ」

「ふっふっふっ、ほんにケントは甘いのぉ……それがケントの良いところではあるが、甘さは時に毒になるぞぇ」


 口元には笑みを残しつつ、僕に向けられたレーゼさんの視線は、白刃のごとき厳しさを伴っていました。


「甘さは……毒ですか?」

「場合によってはじゃな。今回、グラシエラ達を処分しなかったら、どうなると思う?」

「それは……また同じようなことを繰り返す……でも、標的は僕だから」

「ケントが我慢すれば済むのかぇ? この先、何度も何度も同じような言いがかりを付けられても、何もせずに我慢し続けるのかぇ?」

「それは……」


 確かにレーゼさんの言う通り、また同じような言いがかりを付けられれば、間違いなくキャーン言わせてやるでしょう。

 そう伝えると、レーゼさんも頷いていました。


「じゃがケントよ。次に言いがかりを付けられた時にも、今回と同じように身の潔白を証明出来る準備を整えられている自信はあるのかぇ?」

「それは……分からないです」

「そうじゃ、いくらこちらが気を付けていようとも、言いがかりを付けるなど難しくはない。今回のようにランク剥奪や死罪となるような大げさなものでなくとも、世間の人々の信用を失わせるようなことは難しくないぞぇ」


 そう言われてみるとヴォルザードでも、フレイムハウンドに言いがかりを付けられたことがありました。


 あの時も、フレイムハウンド下っ端が大根役者だった上に、簡単に尻尾を掴ませてくれたから助かりましたが、もっと綿密な計画を練られていたら、どうなっていたか分かりません。


「グラシエラが、なぜここまでケントに固執するのかが分からぬが、今回の振る舞いは目に余る。街道で襲われた馬車や積荷まで回収して届けたケントに対して、このような言い掛かりを付けた者を処分せずに野放しにするようでは、ギルドの存在意義が無くなってしまうわぇ」

「でも、ランク剥奪となると、ますます僕は恨みを買いそうな気もするんですが……」

「くっくっくっ、それこそSランク冒険者の宿命というものじゃ。グラシエラが実力行使に出るならば、手足を捥ごうが、命を奪おうが構わぬ。返り打ちにして良いぞぇ」

「では、ランクを剥奪する方針に変わりは無いのですね?」

「Sランク相手に、こんな下らぬ言いがかりを付けたのじゃ、命があるだけ有り難いと思うべきじゃな」


 マスター・レーゼは、この話はもう終わりだと言わんばかりの態度ですし、護衛として影のように控えているラウさんに視線を向けても、頷かれただけでした。

 こうなってしまって、僕みたいな子供が口を挟んでも処分が覆ることはないでしょう。


「それで、ランズヘルトの領主様の会合は、いつ行われるんですか?」

「事態は急を要する故に、可能な限り早くブライヒベルグに集まるようアンデルが書簡を送っておる。マールブルグには、ケントの召喚術のことも書き添えてあるはずじゃ」

「ってことは、また指名依頼が入るってことですか?」

「そうじゃ、儲かって笑いが止まらぬじゃろう?」

「でも、ちゃんと集まるんですかね? マールブルグの領主さんとか頑固者だとか聞きましたけど」

「いくら頑固者でも、己の首に縄が掛かっている状態では、さすがに慌てずにはおられんじゃろう」


 マールブルグは鉱石の輸出を主としている街で、領地には耕作地もあるものの穀物の多くは輸入に頼っているそうです。

 その輸送路を断たれてしまった状況ですから、さすがに領民の離散を防ぐためにも動かざるを得ないでしょう。


「じゃあ、ヴォルザードに戻って、クラウスさんと相談しながら動きますね」

「うむ、今やランズヘルトの命運はケントの肩に掛かっておる。頼むぞぇ」

「そんなプレッシャーを掛けないで下さいよ」

「ふっふっふっ、面倒事を片付けないと、嫁達とノンビリ出来ぬそぇ」

「で、出来る限り頑張ります」


 街道で回収した馬車の内、マールブルグに向かっていたと思われるものが影の空間に残っていますが、もうギルドの営業時間も終わっているので、届けるのは明日にします。


 この時間ならば、アマンダさんのお店もそろそろ閉店になる頃なので、戻って夕食にしましょう。


「ただいま戻りました。アマンダさん、何か食べさせて下さい」

「おかえり、ケント。もう少しで片付くから、ちょっと待ってておくれ」

「はい、埃まみれなんで、シャワー浴びちゃいますね」

「あいよ、サッパリしたら下りておいで」


 あちこち飛び回って、預かった積荷を返したりしていたので、頭が土埃でジャリジャリしています。

 身体を洗っているとマルト達も入って来たので、大急ぎでワシワシ洗って、水属性の魔術で脱水、火属性と風属性を合わせたドライヤーでモフモフに仕上げました。


「ケントー! 夕食だよー!」

「はーい! 今行きまーす!」


 夕食のメニューは、細切りにした肉と野菜の炒め物、ナンのようなパン、それとオレンジ色のトロっとしたスープです。

 パン以外のメニューは、どちらも初めて見るものです。


「いただきます。アマンダさん、新メニューですか?」

「あぁ、そうだよ。まだ試作の段階だけどね」


 炒め物は、パッと見た感じはチンジャオロースに似ていますが、色合いも味も違います。

 白いの野菜は筍っぽい見た目ですが、シャキシャキした歯ごたえで、薄紫の野菜がピーマンっぽい見た目ですが、アスパラっぽい歯ごたえです。

 香辛料を効かせたピリ辛の味付けは、食欲を刺激しますね。


「歯触りが面白いですね」

「そうだね、味や香りもクセが無いし、肉とも合うね」

「あっ、これって、もしかして、ブライヒベルグから持って来た野菜ですか?」

「そうだよ。こっちのポタージュにした芋も試供品に貰ったものさ」


 芋をすりおろしてミルクと合わせたスープは、栗のような甘みを感じます。

 ちょっとデザートっぽい感じもしますが、これはこれで美味しいです。


「芋は甘みが強そうですね。お菓子の材料とかに良いかも」

「あぁ、パンケーキとかにすると美味しいかもしれないね」

「野菜は日持ちの関係で入って来ないのは分かりますけど、芋とかは運ばれて来てなかったんですか?」

「この芋は、海の向こうからエーデリッヒに伝わって、この数年で作られるようになったものらしいよ。評判が良ければ、ヴォルザードでも作ってみるそうだ」


 どうやらアウグストさんは、単純に野菜を輸入するだけでなく、ヴォルザードで作ることまで考えているようですね。

 昨日の昼食の時には、こんな話は出ませんでしたが、クラウスさんがニヤニヤしてそうですね。


「そうだ、アマンダさん、先月分の家賃を払っていませんでした」

「あぁ、そうだったね。まぁ、ケントなら取りはぐれることはないだろうけどね」

「僕の場合は、眷族のみんなに養ってもらってる感じですからね」

「はははは、そうだね。みんな頼もしいから助かるよ。今日は、どこで仕事してきたんだい?」

「はい、今日はイロスーン大森林のスラッカから避難する住民の護衛でした」


 イロスーン大森林で、魔の森のように魔物が増殖していると話すと、アマンダさんもメイサちゃんも不安そうな表情を浮かべました。


「そのスラッカとか言う集落は大丈夫だったのかい?」

「スラッカは、ヴォルザードを小さくしたような集落で、水堀や丸太の壁があったので、ギリギリ救出が間に合いました。ただ、マールブルグ側のモイタバという集落は……」

「何だか、今年は大変な年になりそうだねぇ……」

「ケント、ヴォルザードは大丈夫なの?」

「心配いらないよ、メイサちゃん。クラウスさんが、ちゃんと対応策を講じているから大丈夫。この野菜もその成果の一部だからね」


 ヴォルザードへの輸送が止まらないように、ブライヒベルグからの輸送を確保していると話すと、二人ともホッと胸を撫で下ろしていました。


「うちは、材料が入って来ないと商売上がったりだからね」

「アウグストさんが買い付けを始めてますから、入って来ないどころか、珍しい食材が届くようになりますよ」

「そうなってくれるなら、あたしも腕の振るい甲斐があるってもんさ」

「良いですね、新メニューの試食なら何時でもしますよ」


 時折、首を傾げたくなるメニューもありますが、基本的にアマンダさんの料理は美味しいですし、日本では味わえない味付けとも遭遇できます。


「そう言えば、サチコはどうするんだい? こっちで産むのかい? それともニホンに戻って産むのかい?」

「まだどうするのか聞いていないので、明日の帰還作業の時にでも聞いてみます」

「こっちで産むなら、色々と支度も必要だし、ケントの部屋を空けるようにしないとだよ」

「あっ、そうか、そうですよね。でも、私物の殆どは影の空間に置いてあるので、引越しはすぐに終りますよ」

「それと、体調に問題が無いなら、見習いで働きにおいでと伝えておくれ。運動せず、ジッとしているのも良くないからね」

「分かりました、伝えておきます」


 翌朝、帰還作業の前に綿貫さんと話をしようと思い、少し早めに下宿を出ました。

 部屋を訪ねてみましたが、綿貫さんの姿はありません。

 ロビーや食堂を覗いてみましたが、見当たりません。


「ご主人様、こっちこっち」


 一緒に探していたミルトが案内してくれたのは、男子が使っている宿舎の裏手でした。

 綿貫さんは一人ではなく、男子生徒が一人一緒にいます。


 これは立ち聞きしない方が良さそうだと思ったのですが、振り向いた男子の表情を見て考えを変えました。

 露骨に迷惑そうな表情を浮かべているのは、綿貫さんの思い人、前島啓太です。


「で? 俺に何の用? まさか腹の中の子供が俺の子供だとか言うつもりじゃねぇよな?」

「そんなつもりじゃ……」

「あれか、DNA鑑定するから髪の毛よこせってか?」

「違う……私は、こっちで産んで、こっちで育てるから……」

「マジ? そっか、そうだよな。日本じゃ色々言われけっど、こっちならネットとか無ぇし、俺達ぐらいの年で子供がいるとか珍しくねぇんだろ? 生活費とかは、国分に言ってリーゼンブルグに出させりゃいいしな。そうだよ、そうすりゃいいんだよ」


 綿貫さんがヴォルザードに残って子育てしていくと聞いた途端、ヘラヘラと上機嫌で喋り始めた前島に怒りがこみ上げてきます。


「ま、前島は、今日帰るんだよね?」

「そうそう、やっとクジ引きで当たったぜ。こっちに残るには、自分で働いて、自分で稼がなきゃ駄目じゃんか。中学中退で働くとかブラック過ぎんだろう。異世界とかアニメだけで十分、マジ勘弁だぜ」

「そっか、そうだよね……」


 少し俯いた綿貫さんの肩が、小さく震えています。

 それに気付いていないのか、それとも気付かぬ振りをしているのか、前島は話を切り上げて宿舎に戻ろうとしました。


「他に用が無いなら、帰る準備すっから、これで……」

「ま、前島!」

「あん? 何、まだ何か……」

「元気で……元気でね!」

「お、おぅ……綿貫も元気でな」

「うん……」


 頷き返した綿貫さんは、満面の笑みでした。

 そのまま小さく手を振りながら見送り続け、前島の姿が宿舎に消えた途端、くしゃっと笑顔が崩れました。


「ぐぅうぅぅぅぅ……」


 両手で顔を覆って泣き崩れる綿貫さんを、影から飛び出して抱き締めました。


「前……国分……」

「ごめん、立ち聞きした。前島じゃなくて、ごめん……」

「国分ぅ、あたし……あたし、前島に……ホントは好きだったって……」

「綿貫さん、良く頑張った。いい笑顔だったよ」

「うぅぅぅ……」


 帰還の時間が少々遅れようが、そんなの知った事じゃありません。

 異世界召喚されていなければ、もしかしたら叶っていたかもしれない恋の終りを見守るほうが大事です。

 ボロボロと零れる涙が枯れるまで、抱き締めた綿貫さんの背中を摩り続けました。


 帰還作業を行っている場所には、三十分以上遅れて到着しました。

 本日の帰還予定者十名と加藤先生、千崎先生、唯香、マノン、それに見送りの同級生達の姿が見えます。


 帰還作業も七回目になり、興味が薄れてたのか、普通に帰れると思われているのか、それとも僕が遅れたからか、見送りの人数はあまり多くありません。


「お待たせしました。それじゃあ始めましょうか」

「大丈夫か、国分。何か急な問題とかじゃないのか?」

「はい、もう片付きましたんで、問題ありません」

「そうか、じゃあ頼むな」


 加藤先生もピリピリしていた時期がありましたが、帰還作業が軌道に乗り始めたので、顔つきも穏やかになっているように感じます。

 加藤先生とは対照的に、帰還者として選ばれた同級生達はイライラしている様子です。


 殆どの者がスマホを持っていて、恐らく家族や友人と連絡を取っていたのでしょう。


「遅ぇよ、国分。何してたんだよ」

「早く日本に帰らせてくれよ」

「まぁまぁ、飛行機の国際便とか遅れるの珍しくないでしょ。ましてや海外どころか異世界なんだからさ、ちょっとぐらい遅れた程度でガタガタ言わないでよ」


 わざとノンビリとした口調で話すと、待たされてイラついていた数人が詰め寄って来ました。

 その中には、一年生の時に同じクラスだった前島の姿もあります。


「お前なぁ、人を待たせておいて、その言い方はねぇんじゃねぇの?」

「ちっとは申し訳ないと思わないのかよ」

「うん、全然……全く申し訳無いとか思ってないからね」

「なっ……手前ぇ」


 目の前に無詠唱の火属性魔術で大きな火球を作ってみせると、掴みかかって来ようとしていた連中は慌てて飛び退りました。


「そんな事を言うならさ、ラストックの駐屯地から助け出してもらって、ヴォルザードに住む場所を用意してもらって、生活費まで賄ってもらって、日本に帰してもらえるのを申し訳無いと思わないの?」


 前島以外の人たちにとっては、とばっちりもいいところでしょうが、どうにも苛立ちが抑えられません。

 険悪な空気の中で睨み合っていると、加藤先生に声を掛けられました。


「どうした国分。調子が悪いのならば、今日の帰還作業は中止にするか?」

「いえ、大丈夫ですよ。ちょっとイラっとしただけです」

「そうか、ランズヘルトの別の場所で魔物が増えているという話は聞いているし、国分が対応に駆り出されていることも承知している。こちらに残る国分にとっては、そちらの対応の方が重要なのかもしれんが、我々にとっては日本に戻る事が最大の課題だ。こちらの事情を優先してくれとも言えないが、配慮してもらえると助かる」


 どうやら加藤先生の当りが柔らかいのは、イロスーン大森林の状況を耳にしているからのようですね。


「お前らも、これまでの苦労を考えれば、三十分ぐらい何て事はないだろう。いずれ社会人になれば、この程度待たされる事はいくらでもある。もう少し余裕を持って、他者に寛容になれ」


 いやいや、帰れるか帰れないか分からなかった頃は、加藤先生も結構カリカリしてましたけどね。

 月面探査車みたいなケージを影の空間から出して、帰還する予定の十人が乗り込んでいる間に、練馬駐屯地に目印用のゴーレムを設置しました。


 準備を整え、日本との中継用のタブレットを唯香に持ってもらうと、訊ねられました。


「健人、何かあったの? いつもより丁寧というか、時間掛けてるような……」

「うん、ちょっとね。そのうちに話すよ」


 全ての準備を整えて、では送還しようかと思った時に、宿舎の方から走って来る人影が見えました。

 ちゃんと待ってるから、そんなに慌てなくたって大丈夫だからね。


 ケージの近くまで走り寄った綿貫さんは、目当ての人物の顔を探し当てて立ち止まりました。


「はぁはぁ……前島! あたしは、あんたが好きだった! あたしは失敗しちゃったけど、あんたは……あんたは、いい男になりなさいよ! バイバイ!」


 綿貫さんがケージから離れて、僕に向かって頷いた所で送還術を発動しました。


「送還!」


 目の前からケージが消失した瞬間、唯香の持つタブレットの画面にケージが現れた様子が移し出されました。


「唯香、綿貫さんをお願い出来るかな? 僕は、ちょっと練馬まで行って来るから」

「うん、任せておいて」


 さっき涙が枯れるほど泣いたから大丈夫と言っていた綿貫さんの頬には、また涙が伝って流れていました。

 綿貫さんを唯香に託し、影に潜って練馬駐屯地へと向かいます。


 ケージを送り届けた倉庫では、シートベルトを外して歓喜の声を上げながら同級生達が帰還を喜んでいました。

 ゴーレムを片付けて、ケージを回収すれば、今日の仕事は終わりです。


「国分君、お疲れ様。問題は無さそうだね?」

「そうですね。特には問題ありません」


 最近、日本では有名歌手の突然の引退報道で、藤井の事件に関する報道は全くといって良いほど行われていないそうで、出迎えた梶川さんも穏やかな表情をしています。


 梶川さんに生返事を返しながら、意識は帰還した同級生に向けられています。

 当然ですが、綿貫さんに告白された前島が、取り囲まれて冷やかされていました。


「前島ぁ、残ってた方が良かったんじゃねぇの?」

「あんたが好きだった……てよ、どうなんだよ」

「うっせぇな、関係ねぇよ、あんなクソビッチ。誰彼構わず股開く女にマジになる訳ねぇだろう」


 身体強化で聴覚強化して、前島の言葉を聞き取った瞬間、プチーンと切れちゃいました。

 同級生達に向かって踏み出しながら、大声で呼びかけました。


「前島ぁ! 手前ぇ、歯ぁ食いしばれ!」 


 十メートルぐらいの距離を身体強化を使った踏み込みで一気に縮め、右フックを振り抜きます。

 僕の拳が頬を捉え、前島はもんどり打って倒れました。


「がはっ……」

「手前、綿貫さんの覚悟踏み躙って、だっせぇ男やってんじゃねぇよ!」

「う……うっせぇ! 誰のガキかも分からない子供なんて、押し付けられてたまるかよ!」

「じゃあ、お前の子供だったら責任取るんだな!」

「そ、そんなの、中坊の俺にどうしろって言うんだよ! それに、綿貫とやったのは俺だけじゃねぇだろ!」

「お前は、そうやって責任逃れの言い訳しながら、だっせぇ男をやってろ! 綿貫さんの子供は、ヴォルザードの街が育ててやっからよ!」

「くっそ、チートな力に恵まれたからって調子乗んなよ!」

「うるせぇ、目障りだから、とっとと消えろ!」


 ブツブツと小声で恨み言をこぼしながら去って行く前島を見送り、帰還できた礼を言って来た同級生と握手を交わした後で、コボルト隊に手伝ってもらってケージとゴーレムを片付けました。


「いやぁ、国分君があんなに荒っぽい行動に出るとは思わなかったよ」

「お騒がせして、すみませんでした」

「いやいや、なんか青春って感じだねぇ……あれは、例の女の子絡みなのかな?」

「ええ、まぁ、そんなところです」

「綿貫さん、だったっけ? 彼女はヴォルザードで出産するつもりなんだね?」

「たぶん……ですが、まだ日にちがありますし、もし日本に戻って産みたいと希望した場合は、配慮してもらえますかね?」

「勿論だよ。今回の異世界召喚に巻き込まれた人については、出来る限りの便宜を図るつもりだし、その中には国分君、君も含まれているからね」

「はい、これからもまだ、色々とお世話になると思いますから、よろしくお願いします」

「こちらこそ、国分君には頼ってばかりだけれど、よろしく頼むね」


 梶川さんと握手を交わして、影へと潜ってヴォルザードを目指しました。

 綿貫さんには、一発殴っておいたとだけ伝えましょうかね。

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