第275話 指名依頼の結末

 イロスーン大森林の入口は、通行止めを食らった人達でゴッタ返していました。

 依頼を受けてバッケンハイムへ向かう人はまだしも、依頼を終えて帰ろうとしていたマールブルグに拠点を置く人達にとって、通行止めは深刻な問題です。


 いつになれば通行止めは解除になるのか、本当に安全に通れるようになるのか、ギルドの職員に訊ねてもハッキリとした答えは返ってきません。

 そんな所へ、スラッカからの避難民が到着したのですから、少しでも情報を得ようとする人達が押し寄せて来ました。


「下がれ! 下がってくれ、これじゃあ通れない。まだ後から来るんだ、通してくれ!」

「魔物はどうしたんだ。もう安全に通れるのか?」

「いや、無理だ。この行列は『魔物使い』が護衛しているから無事に通れただけだ」

「スラッカは? モイタバはどうなったんだ?」

「スラッカの住民は全員避難してきている。モイタバがどうなったのかは分からん」

「住民全員が避難って、いつまで通行止めにするつもりだ!」


 押し寄せて来る人達を守備隊員が制して、馬車を通し、走り通しで来た馬達に休息を与えています。

 冒険者達は、顔見知りを見つけては情報交換を始めました。


 避難人の一行は、ここで休憩した後、受け入れ先のカラシュを目指す予定です。

 その前に、ちょっと守備隊の方々と打ち合わせをしておきますかね。


「デールマンさん、お疲れ様です」

「おぉ、魔物使いか、ありがとう。おかげで無事に大森林を抜けられたよ」

「はい、何事も無くて良かったです。引き続きカラシュまで影から護衛します」

「うむ、よろしく頼む。大森林を出てしまえば問題無いとは思うがな」

「そうですね。魔物の襲撃は大丈夫でしょうけど……」

「どうした、何か問題でもあるのか?」

「まだ、確実ではありませんが……」


 影収納からタブレットを出して、フレッドが撮影してくれたグラシエラ達の企みを再生すると、デールマンさんは顔を真っ赤にして眉を吊り上げました。


「何ということだ。こんなふざけた計画……」

「待って下さい。まだ実行するとは限らないので、対処するのはカラシュで言いがかりを付けて来てからにしましょう」

「だが、これほどまで世話になっている君を陥れるような真似は許されん」

「まぁ、本当にこんな言いがかりを付けてきたら、処分をお願いしますよ」

「勿論だ、私の方からもギルドへ報告を入れる」

「はい、よろしくお願いします」


 自分達の企みが露見しているなんて思ってもいないのか、グラシエラと『蒼き疾風』の面々は、ようやく二日酔いから回復してきた胃袋に詰め込むものを買い漁っているようです。


 僕も昼食用に何か買ってきましょうか。

 でも、その前に影の空間に潜って眷属のみんなを労いました。


「みんな、お疲れ様。さぁ、おいで!」

「ご主人様、撫でて、撫でて!」

「主殿、私達もお願いします」

「ちょ、待っ……おあぁぁぁぁぁ……」


 例によってコボルト隊とゼータ達に揉みくちゃにされました。

 モフモフで気持ち良いけど、圧力がぁぁ……ガクっ。


『ぶははは、ケント様も昼食と休憩になさいませ』

「そうだね、何か屋台で買って来るよ」


 イロスーン大森林の入口近くでは、旅行者相手の屋台が並んでいます。

 炙ったソーセージを挟んだホットドッグと、ミルク仕立てのポタージュスープを買って舌鼓を打っていると、冒険者らしき一団が近付いて来ました。

 年齢は二十代後半から四十代ぐらいまで、七人ぐらいいます。


「よぉ、お前さんが魔物使いかい?」

「はぁ、そんな風に呼ばれてますね」

「短刀直入に言うぜ、イロスーン大森林を抜けられるようにしてくれ」

「うーん……ちょっと難しいですね」

「お前さんでも無理なのか? スラッカの連中は連れて来たんだろう?」

「スラッカの皆さんは連れて来ましたけど、キャラバン五つ程度の行列を護衛しただけですからね。大森林を抜ける街道の全域を、僕と眷属だけでカバーするのは無理です。範囲が広すぎますよ」

「そうか……そうだよなぁ、いくらなんでも距離が有り過ぎるよな」


 イロスーン大森林を馬車で抜けるには、一日半ほどの時間が掛かります。

 距離にすると百キロ近くあるので、ゼータ達にテリトリーを主張させても、全域を確実に支配下に置けるかは疑問です。


「さっき知り合いの冒険者から聞いたんだが、魔の森よりもヤバい状態になってるって本当なのか?」

「そうですね……魔の森も魔物の密度は変わるので、どちらが危険か断言出来ませんが、場所によっては相当危険ですね」

「護衛を通常の三倍にしても難しいか?」

「特に街道付近の密度が高いので、厳しいと思います」


 討伐した魔物の死骸が放置されることで、街道付近が餌場として認識されているらしいと話すと、冒険者達は頭を抱えました。


「なるほどな……言われてみればキャラバンに居た若い奴が、ゴブリンを的にして弓の練習をやってたな。あの死骸も餌として他の魔物を誘ってやがったのか」

「せめて街道周辺の魔物の密度が下がらないと。キャラバンを組んでも通行は難しいと思います」

「そうか、スラッカも住民全員避難じゃ、中継地として宿が再開する目途も立たないか……なぁ、モイタバについては何か知らないか?」

「モイタバは、集落の中にまで魔物に入られて、地下に避難していた住民を除いて全滅状態です」

「マジか! こりゃ当分マールブルグには戻れねぇか……」


 質問に答えるほどに、集まって来た冒険者達は苦悩の色を濃くしていきます。

 避難民の一行が出発の準備を始めたので、僕も支度をすると告げると、冒険者達は礼を言って立ち去って行きましたが、その足取りは酷く重そうに見えました。


「うーん……せめてマールブルグに拠点を置く人たちだけでも、戻してやった方が良いのかな?」

『さて、必ずしもそうとは言い切れませんぞ』

「どうして? 地元に戻った方が良いでしょう」

『戻っても、冒険者としての仕事がありますかな?』

「そうか、ヴォルザードとは鉱石の取り引きを禁じてるんだった」

『マールブルグからヴォルザードへの輸出品は、殆どが鉱石です。それが止められてしまっては、護衛の仕事も激減しているはずですぞ』

「なるほど、戻っても仕事が無いなら、バッケンハイムで仕事した方が良いのかもね」


 根本的に事態を解決するには、イロスーン大森林の通行を回復させるしかありませんが、一時的な対策も必要かもしれません。

 まぁ、その辺りについては勝手にやるよりも、マスター・レーゼやアンデルさんと相談した方が良いでしょうね。


 大森林の入口から、カラシュの集落までの道程は、魔物も出ず長閑なものでした。

 スラッカから戻って来た馬車の中には、マールブルグを目指していたものもありましたが、カラシュで荷物を受け取ってバッケンハイムに引き返すようです。


 護衛をしていた冒険者にとっては、依頼に失敗したことになってしまいますが、状況が状況だけにギルドのマイナス査定は免れるそうです。

 カラシュでは、ギルドの担当者が受け入れの準備を整えていました。


 イロスーン大森林は、魔の森のように魔物が大量発生することは過去にはありませんでしたが、森林火災で集落に被害が出たことがあるそうです。

 そうした場合の対策として、今回のような森の外への大規模避難の体制が整えられているそうです。


 サラマンダー対策では、株を下げていたアンデルさんですが、領主としての働き振りは悪くありません。

 だいぶお堅い性格だそうですから、クラウスさんと足して二で割ると丁度良いのかもしれませんね。


 避難民を下ろした馬車から、ギルドの職員立会いで荷物を返却していったのですが、途中で列に割り込んで来た連中がいます。

 言うまでも無く『蒼い疾風』の連中です。


「悪いな、出来れば今日中、遅くとも明日の朝にはバッケンハイムに戻りてぇんだよ」


 尤もらしい話をしていますが、元々の順番では他の馬車への返却がほとんど終ってしまいます。

 注目されるタイミングで言い掛かりをつけられるように、割り込みを掛けて来たのでしょう。


 ギルドの担当者に視線を向けると、分かっているとばかりに頷いています。

 荷物を預かった時のリストと照合して木箱を馬車に積み込んでやると、『蒼き疾風』の一人が蓋を開けて騒ぎ出しました。


「おいおい、半分になってんぞ、どういう事だこりゃ!」

「さては、預けた積荷をネコババしやがったな!」


 周りで荷物の受け渡しを待っている人達にアピールするように、馬車の上に立って大声を張り上げているのは、フレッドが撮影した映像に映っていた二人です。

 この二人が計画を立てて、グラシエラに持ちかけていた様子は、ギルドの担当者も確認済みです。


 そこへ、計画がバレているとも知らず、グラシエラが人混みを掻き分けて出て来ました。


「とうとう尻尾を出しやがったな。魔物がスラッカを襲ったのも、ケント! 貴様が積荷を横取りするためなんだろう!」


 Aランク冒険者『鬼喰らい』として名を売っているグラシエラの登場で、事情を知らない冒険者に動揺が広がっていきます。


「みんな、荷物を確認してみてくれ、少なくなってるんじゃないのか?」

「ここまで苦労して運んで来たのに、それを横取りされたら堪んねぇよなぁ!」

「何とか言ってみろ、ケント! この盗人野郎!」


 フレッドの撮影のおかげで、言い掛かりの全貌は分かっているのですが、それが無かったとしても三人の大根役者ぶりに呆れていたでしょうね。


「これは何の騒ぎだ!」


 うん、声を掛けて来たデールマンさんの方が、役者が上手ですねぇ。


「守備隊長か、我々の積荷が横取りされた。犯人は、荷を預かっていたケントとしか考えられん。厳重に取り調べて、処分してくれ」

「そうか、イロスーン大森林での盗賊行為は死刑だ。それを望むというならば、明確な証拠があるのだろうな? 盗賊の濡れ衣を着せようとしているならば、盗賊同然の処分が下されるのも承知の上だな?」

「なっ……わ、我々が嘘をついているとでも言うつもりか!」


 盗賊や山賊は死刑という話は聞いていましたが、濡れ衣を着せようとした者も同様の処分が下されるとは知りませんでした。

 という事は、この三人は死刑になっちゃうんでしょうか。

 デールマンさんは、更に三人に念を押しました。


「もう一度聞くぞ。積荷が減ったというのは、お前達の思い違いではないのか? 荷物を預かったのは、魔物使いと私の部下だ。返却する時も同じだ。それで荷物が足りない、盗まれたと主張するのであれば、守備隊が不正に加担したと主張する事になるが……どうだ、思い違いじゃないのか?」


 デールマンさんに睨みを効かされて、荷馬車の上で喚いていた二人は顔を見合わせて動揺を隠せずにいます。


「しゅ、守備隊員は関係ない。そこのケントの仕業に違いない!」


 荷馬車の上の二人に苦々しげな視線を向けた後、まだグラシエラは言い掛かりをやめようとしませんでした。


「なぜ私の部下が関わっていないと断言出来る? なぜ魔物使いの仕業だと断言出来る? 勿論、証拠はあるのだろうな?」

「そ、それは……」


 更なる念押しをされて、グラシエラは答えに窮しています。

 どうやらデールマンさんには、何か考えがあるようですね。


『ケント様、これは言い掛かり自体を無かったことにするつもりでしょうな』

『でも、それだと処分が……あっ、処分を行わないため?』

『その可能性が高いですな。イロスーン大森林がこのような状況ですから、高ランク冒険者が処分を受けて活動出来なくなるのは、戦力的に大きな痛手となりますからな』

『なるほどねぇ……人手不足を補うために、不問に処すから働けってことかな』


 グラシエラが答えに窮して、このまま有耶無耶に出来るかと思った時でした。


「お、俺は、魔物が荷物を影の中へと仕舞い込むまで見ていた。荷物を抜き取れたのは、魔物使いの魔物だけだ!」

「そ、そうだ、俺も見てたぞ。あのコボルト共が、俺らの荷物を影に運び込んでいた」


 苦し紛れなんだとは思うけど、眷族のみんなが荷物を影に運び込んだのは、行列が出発する直前だったし、君ら二日酔いでグロッキーだったよね。

 周囲に集まっている他の冒険者達は、事の成り行きを見守りながら、ザワザワ言葉を交わしています。


 デールマンさんは、そんな空気を確認すると、諦めたように大きな溜息を洩らしました。


「はぁ……それでは、どうあっても魔物使いが……」

「俺は、荷物が多少減ってようが文句ねぇぞ!」


 デールマンさんがグラシエラ達の断罪を始めるかと思った時、中年の冒険者が声を上げました。


「お前らが足りないって言ってんのは、マールブルグから積んで来た鉱石だよな? だったら俺らの所から、足りない分を持っていけ。魔物使いが来なかったら、積荷どころか俺らの命もどうなっていたか……お前らも見たよな、あの魔物の数。ハンパじゃなかっただろう」


 髭面のおっさんが声を上げると、すぐに同調する声が続きました。


「オーク、オーガ、ミノタウロス……あのままだったら全滅だっただろうな」

「さっき魔物使いが話してるの聞いたけどよ。モイタバは全滅だってよ」

「生きてここに居るだけで大儲けだぜ。積荷だと……欲しけりゃくれてやるよ」

「てかよぉ、あんだけの魔物を倒したら、積荷くすねるとかセコい真似する必要あるのか?」

「こいつら、昨日も魔物使いに因縁付けてやがったよな?」


 おっさんの一言を切っ掛けとして、空気がガラリと変わりました。

 場を仕切っていたはずのデールマンさんも、突然の事態に面食らっています。 


「な、何を言ってるんだ。預かった荷物をネコババしたら犯罪だぞ!」

「大体、荷物は品目と木箱の数しかチェックしてねぇよな。木箱にギッシリ詰まっていたと、お前ら証明出来んのか?」


 言い掛かりを続けようとするグラシエラの額には、冬だというのに汗が滲んでいます。

 

「確かに、木箱には満載していた。そうだな?」

「そ、そうです……」


 冒険者からの更なる突込みを受けて、グラシエラから同意を求められた荷馬車の二人は、もう完全に目が泳いじゃってますね。


「仮に一杯に詰まっていたとしても、それを守備隊員に確認させなかった責任はあるんじゃねぇの?」

「詰まってたって証明出来ない時点で、人をとやかく言えねぇだろう」

「てか、自演じゃねぇの? そっちの若い奴、随分と顔色が悪くねぇか?」

「なんだ、なんだ、やらせか? 盗賊の濡れ衣を着せようとした奴は、最悪死刑、一番軽い処分でも、ランク剥奪されて追放だろう?」

「そこまでだ! 全員ちょっと落ち着け!」


 空気が殺気立ってきたところで、デールマンさんがパンパンと両手を叩きながら声を張り上げました。


「イロスーン大森林を横断出来なくなっている今、冒険者同士がいがみ合っている場合じゃない。時間が無い状態での荷物の受け渡しだったから、チェックに不備もあっただろうが、今は非常事態だ。積荷の一部でも回収出来た事を僥倖だと思ってくれ。それでも納得が行かないならば、徹底的に調べてやる。勿論、魔物使いだけでなく、私の部下も、そして君らも徹底的に調べさせてもらう。さぁ、どうする?」


 デールマンさんから最後通告を突き付けられた『蒼き疾風』の二人は、助けを求めるようにグラシエラに視線を向けています。

 グラシエラには二人だけでなく、周囲を取り囲んだ冒険者や避難民からの視線も注がれています。


「ちっ……今日のところは無かったことにしておいてやる。おい、積み込みが終わったら出るぞ。早くしろ!」


 まるで自分は何も悪くないような捨て台詞を残して立ち去ろうとするグラシエラに、腹が立って追い掛けようとしたら肩を掴まれて止められてしまいました。

 振り返ると、苦々しげな表情でグラシエラの背中を睨み付けるデールマンさんの姿がありました。


「すまない。腹立たしいだろうが、ここは納めてくれないか。グラシエラには、後で直接釘を刺しておくし、ギルドにも報告を上げる。だが、あれでもAランクの冒険者だから、今の状況で追放という事態は避けたいのだ。少しでも使える戦力は確保しておきたい」

「分かりました。でも、マスター・レーゼには報告しますし、その結果どういう処分が下されても、僕は責任持ちませんよ」

「あぁ、それについては止めるつもりも無いし、守備隊内部の報告書にも記載しておくつもりだ」


 デールマンさんの口振りでは、例え僕がマスター・レーゼに報告を入れても、処分は変わらないと確信しているんでしょう。


 本当はタブレットで動かぬ証拠を突きつけて、ざまぁしてやるつもりでしたが、なんともモヤモヤする結末です。

 とりあえず、残りの荷物を引き渡して、指名依頼を終えてしまいましょう。


「ありがとう、あんたは命の恩人だ」

「いくら感謝しても足りないぜ、マジ駄目だと思ってたんだ」

「こんなに若いのに、お前さん大したもんだぜ」

「バッケンハイムは、いつだって魔物使いを歓迎するぜ」

「あんたらを悪く言うような奴らは、俺がぶっとばしておくからよ」


 預かった積荷の返却を再開すると、受け取りにきた冒険者達から笑顔で握手を求められ、肩を叩かれ、中にはボロボロ涙を流す人も居ました。


「俺ぁよぅ……先月子供が生まれたばっかなんだよ。嫁と娘に……もう会えなくなるのかと思った……ありがとう……ホントにありがとう!」


 積荷を受け取りに来た人全員から感謝の言葉を伝えられ、僕までジーンとしてしまいました。

 荷物の返却を終え、デールマンさんに挨拶して帰ろうと思ったら、今度は避難してきた住民の皆さんに囲まれて、口々に感謝を伝えられました。


 避難民の方から求められて、スラッカ防衛に加わった眷族全員を紹介することになりました。


 コボルト隊のみんなはまだしも、スケルトンのラインハルト達、リザードマンのザーエ達、ギガウルフのゼータ達、そしてサラマンダーのフラムが姿を現すと、さすがに皆さんギョっとした表情を浮かべて固まってしまいました。


「俺っち、フラムっす。よろしくっす」


 いつもの軽い調子でフラムが挨拶したのを皮切りに、眷族のみんなが挨拶を口にすると、取り囲んでいる皆さんの緊張が和らぎました。


「うちはマルトだよ、撫でてもいいよ」

「うちはミルト、頑張ったみんなも撫でて」

「ムルトだよ、お腹は優しくだよ」


 コボルト隊の挨拶を締め括る、マルト達の言葉で皆さんとの距離はゼロになりました。

 優しく撫でられて尻尾をパタパタしているコボルト隊のみんな。


 いかつい冒険者達から握手攻めにあっているラインハルト達やザーエ達。

 その手触りの虜となった人達に抱きつかれて困惑するゼータ達。


 子供達を背中に乗せて目を細めているフラムの姿を見て、涙腺が決壊してしまいました。

 街に住む普通の人達と、眷族のみんなが普通に接する姿こそが僕の望んでいたものです。


 その光景が突然目の前に現れて、涙が止まらなくなりました。

 それと同時に、子供達が魔物に対する警戒心を持たなくなると困るとか、街の人から嫌悪されたりしないかとか余計な事を考えて、眷族と街の人の間に壁を築いていたのは僕だったのだと思い知らされました。


『今回は全員が命の危機を感じたからこそ、このように打解けられたのであって、ケント様の懸念は間違いではございませんぞ』

『ラインハルト……』

『心配しなくとも我らはケント様の眷族です。ケント様の活躍を知る者には必ずや受け入れてもらえます』

『そう……心配無用……』

『バステン、フレッド……そうだね、でも僕の活躍は、みんなが居てくれるからだよ』


 眷族のみんなと一緒に、スラッカからの避難民の皆さんに揉みくちゃにされ、とても幸せな時間を過ごしました。

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