第272話 息つく暇もなく
カルヴァイン領での救出作戦を終えた翌日は、唯香とマノンを慰労するためにベアトリーチェを加えた四人でノンビリと過ごしました。
マイホームの建築現場を見学し、昼食後はネロのお腹に寄り掛かって昼寝、その後はお買い物。
正直に言うと、買い物のお付き合いは疲れましたけど、唯香とマノンにはもっと大変な仕事を頼んじゃったから、しっかり最後まで笑顔でお付き合いしましたよ、たぶん……。
四人で過ごした翌日は、六回目の帰還作業を行いました。
今回は、自称市民団体の皆さんの活動も下火になったので、また練馬駐屯地へと同級生達を送り届けました。
日本までの送還術も、回数を重ねたせいか、かなり楽に行えるようになっています。
これって慣れなんでしょうか、それとも魔力量が増えているんでしょうかね。
どちらにしても、楽ができるのは良いことです。
「やあ、国分君お疲れさま」
「お疲れさまです、梶川さん。もう、市民団体の人達は居なくなったんですか?」
「いや、まだ居ることは居るけど、一時期ほどの人数じゃないから大丈夫だよ」
「同級生への風当たりはどうですか?」
「そっちも沈静化に向かっている感じだけど、ネットの反応とかは突然火が点いたりするから、油断はできないね」
藤井の事件でも、擁護する発言をした渡瀬が炎上しています。
基本的に、不特定多数に向かって発信しなければ良いのでしょうが、時には腹に据えかねる時もあります。
渡瀬のケースも、藤井に対する世間の好き勝手な発言に我慢ができなかったのでしょう。
日本からヴォルザードに戻り、ギルドに足を向けました。
ギルドの倉庫の一つは、ブライヒベルグとの輸送拠点として使われています。
イロスーン大森林で魔物が増殖、輸送コストが増大し、安定した輸送が難しくなっている事への対策です。
イロスーン大森林より東側からの荷物は、全てブライヒベルグに集め、そこから影の空間経由で僕の眷族達がヴォルザードまで運んでいます。
ブライヒベルグの集荷場はクラウスさんの長男アウグストさんと、ブライヒベルグ家の娘カロリーナさんが取り仕切っています。
あの二人、ちょっとはやらしい雰囲気になったんでしょうかね?
ヴォルザード側の集荷場は、クラウスさんの長女アンジェリーナさんが取り仕切っています。
あの美貌にして、ふにゃっとした柔らかな雰囲気、そして抜群のプロポーションですから、これまで以上に荷物の輸送量が増えているのだとか。
まぁ、いくら鼻の下を伸ばしたところで、アンジェお姉ちゃんと恋愛するには、チョイ悪親馬鹿オヤジを倒さないといけないんですよね。
そう言えば、ふざけた縁談を持ち掛けて来たマールブルグ家は、どうなってんでしょうかね?
「お疲れ様です、アンジェお姉ちゃん」
「あらケント、今日はどうしたの?」
「はい、ブライヒベルグとの輸送が上手くいってるか、ちょっと見学に来ました」
「コボルト隊のみんなや、ギガウルフのゼータちゃん達も手伝ってくれているから順調よ」
アンジェお姉ちゃんの手が空いたタイミングで話しかけたのですが、周囲の野郎どもの視線が突き刺さってきますね。
いくら嫉妬しようとも、僕がアンジェお姉ちゃんと家族になるのは確定ですし、いずれはマイホームに招待して、一緒にお風呂……なんて事はないですね。
そんな事をしようものなら、リーチェに脇腹の肉を引き千切られそうです。
「カルヴァイン領の救出作戦で、みんなを駆り出しちゃいましたけど、大丈夫でしたか?」
「それは大丈夫よ。だって、一日遅れたとしても、これまでよりも一週間も早く届くのよ」
「なるほど、それもそうですよね」
ヴォルザードからバッケンハイムまでは馬車で六日の距離、ブライヒベルグまでは更に三日も掛かります。
それが、預けた直後にヴォルザードに届いてしまうのですから、輸送時間の短縮どころの話ではないですよね。
「もう野菜の買い付けとかが始まってるんですね」
「ふふっ、だってアウグスト兄さんよ」
「あー、それもなるほど……ですね」
有能にして生真面目なアウグストさんが、いつまでも事業を立ち上げずにいるはずがありません。
倉庫には、ヴォルザードでは見かけない種類の野菜が積まれています。
「この野菜は、市場に並べるんですか?」
「ううん、まずは食堂や酒場に試供品として配って反応を見るの。食堂のメニューなどで使ってもらえるようになれば、安定した買い手が確保出来るからね」
「なるほど、まずは食べ慣れてもらうところからですか」
ヴォルザードのみんなに美味いものを食わせたいというクラウスさんの願いは、息子のアウグストさんの手によって少しずつ形になっているようです。
お昼は、ギルドの酒場で、クラウスさん、アンジェお姉ちゃん、ベアトリーチェと一緒に食べることにしました。
「ケント、ニホンへの帰還は順調なのか?」
「はい、今朝も十人送って来ました」
「もう半分ぐらいは帰せたのか?」
「いえ、やっと三割チョイですね。それに、ヴォルザードに残りたがってる者もいますので」
「そうか、残りたがってる連中っていうと、シューイチやフラヴィアの所で働いている娘か?」
「はい、そうですけど、良くご存知ですね」
フラヴィアさんは、同級生の相良さんを雇って、日本の流行を取り入れたファッションで売り上げを伸ばしている服屋さんです。
「マリアンヌの買い物に付き合って行くんだが、すっかり雰囲気が変わって居辛くてな」
「あぁ、なるほど。確かにそうですよね」
フラヴィアさんの店は、最初に訪れた時には紳士服の仕立てもやる店で、扱っている服の男女比は半々ぐらいでしたが、最近は殆どが女性ものです。
その上、フリフリの下着とかも扱っているので、一緒に行くのはちょっと恥ずかしいんですよね。
「てかよぉ、ケント。お前は、買い物の荷物を全部影の空間に仕舞っちまうんだろう?」
「はい、そうですけど……あぁ、なるほど。あの荷物を全部抱えるのは……」
「お前も、少しは苦労しやがれ」
クラウスさんの仏頂面をみて、アンジェお姉ちゃんとベアトリーチェはクスクス笑っています。
あぁ、この二人も荷物を増やす役割を担っていたんですね。
「そう言えば、例のマールブルグの縁談話って、どうなったんですか?」
「知らん!」
「いや、知らんって……あれから何も言って来てないんですか?」
「知らん!」
子供か……娘二人に呆れられてますよ。
「その様子だと、催促の手紙とか処分してそうですね」
「ふん、イロスーンがあの状態だっていうのに、マジで鉱石の流通を止めやがった。考えられるか? イロスーンより東側と往来が出来なくなれば、取引先はヴォルザードしか無くなるんだぞ」
「えぇぇ、本当ですか?」
「あぁ、リバレー峠の入口で、ヴォルザード行きの鉱石は全てストップだって話だ。まぁ、うちはニホンからの鉄と銅があるから、痛くも痒くもねぇんだがな。だははははは!」
確かに、そんな馬鹿げた手段に出る連中では、まともに相手をするのも面倒なのは分かりますけど、ランズヘルトの領主の一人としては大人げないような気もします。
「うーん……マールブルグ家の馬鹿息子とか、どうなろうと知りませんけど、それだとマールブルグの経済が立ち行かなくなるんじゃないですか?」
「それこそ、俺が考えることじゃねぇだろう……と言いたいところだが、住民全員が路頭に迷うような事態が起これば、犯罪に手を染める奴らが増える恐れもある。いずれ、何らかの手を打つ必要はあるだろうな」
クラウスさんは、心底面倒臭そうに顔を顰めてみせました。
これは、少し様子を見て来た方が良いんでしょうかね。
「クラウスさん、ちょっとマールブルグの様子を見てきましょうか?」
「おぅ、そう言えば、デュカス商会の依頼を受けた事があったな。よし、時間があるなら、ちょっと顔を出して来い。ただし、依頼じゃないから金は出さないぞ」
「はいはい、そこまで要求はしませんから安心して下さい」
食後のお茶を楽しんだ後で、マールブルグのデュカス商会を訪ねることにしました。
デュカス商会の会長・オルレアンさんからは、鉱山経営について色々と教えていただきました。
その時、カルヴァイン領の動向についても知らせる約束をしていましたので、一応の決着が着いた事も知らせて、今後のアドバイスとかも貰いましょうか。
「あれっ? 前回来た時とはギャップがあると思っていたけど、ちょっと街がヤバげじゃない?」
『そうですな。平素のマールブルグの状況が分からないので、なんとも言えませんが、寂れている感じは否めませんな』
ヴォルザードから影に潜り、マールブルグ大聖堂前の広場へと移動したのですが、ガラーンとしていて人影も疎らです。
前回来た時は、正月休み返上で続いていた落盤事故の救出作戦が終わり、広場は人で溢れてお祭騒ぎとなっていたので、余計に違いを感じてしまいます。
人目を避けて物陰から表に出て、デュカス商会へと向かう道を歩いてみても、まるで救出作戦が続いていた頃のように、買い物客の姿がありません。
この状態では、デュカス商会も営業していないのかと思いきや、商会には坑夫らしき人が出入りする姿がありました。
もしかして、また鉱山で事故でも起こったのでしょうか?
恐る恐る近付いてみると、出入りしている人達には笑顔も見られ、切羽詰った様子はありません。
どうやら取り越し苦労のようですね。
と言うか、良く考えたら商会の会長さんに、アポ無しで面会しようとしてるんですよね。
まぁ、お忙しいようならば出直してきましょうかね。
「こんにちは、お忙しいところ申し訳ありません。ラコルさん……」
「おぉ! ケントさんじゃありませんか!」
屈強な坑夫の皆さんの間をチョロチョロと抜けて、受付のお姉さんに取次ぎを頼もうとしたら、目敏く見つけてくれたラコルさんが出迎えてくれました。
「どうも、ご無沙汰しております。先日は、過分な報酬をいただきまして……」
「とんでもない! ケントさんの働きには、あれでも足りないほどです。さぁ、どうぞ奥に……」
案内された応接室で待つ事暫し、オルレアンさんと奥さんのシビルさんが満面の笑みを浮かべて入って来ました。
「ケントさん、ようこそいらっしゃいました」
「突然お邪魔して申し訳ありません」
「とんでもない! ケントさんならば、いついかなる時でも歓迎させていただきます。なぁ、シビル」
「はい、勿論です。ケントさんの治療のおかげで、このように健康を取り戻せました。本当に、何とお礼を申し上げて良いのやら……」
治療を終えてから、約三週間。シビルさんは血色も良くなり、やつれていた頬にも肉付きが戻って、美貌に磨きがかかってきていました。
娘のリシルちゃんは、お昼寝の最中だそうです。
こちらも治療を行って以後、見違えるように元気になっているそうです。
「忙しさにかまけて、その後の様子を伺うこともせず、すみません」
「いえいえ、シビルはこの通り、別人のように健康になって、ケントさんには感謝しかありません。さぁ、立ち話もなんです、どうぞ……」
マールブルグに着いた時には、かなり心配になったのですが、デュカス商会の様子を見る限りでは、大丈夫そうにも見えます。
「ケントさん、今日はどういったご用件ですか」
「はい、リーゼンブルグのカルヴァイン領に動きがありましたので、お知らせしようと思いまして……」
「これはこれは、わざわざ申し訳ありません。それで、どうなりました?」
「実は、少々荒っぽい事態になりまして……」
一連の制圧作戦の状況を、騎士団の損害などをボヤかして話したのですが、オルレアンさん夫妻は目を見開いて驚いていました。
「リーゼンブルグの王都から、カルヴァイン領まで騎士を召喚なさったのですか?」
「えっ、あぁ……はい、そうです」
「騎士は、総勢二百五十名、その後も応援の騎士を召喚なさった?」
「えっと……はい、一応」
爆剤による雪崩災害の方かと思ったら、驚いていたのは騎士の召喚の方でした。
日本への帰還作業も当たり前になっているので、ちょっと感覚が麻痺していました。
「そんなに遠い距離からも召喚が可能なのですね……」
「そうですね。距離が離れるほどに魔力の消費も大きくはなりますが……」
「そうですか……」
オルレアンさんは、召喚術の話を聞くと、それまでの笑顔を消して少し考え込みました。
「ケントさん、その召喚術で鉱石をバッケンハイムやブライヒベルグに運ぶことは可能ですか?」
「あぁ、イロスーン大森林の件ですね」
「はい、それと、ご存知だとは思いますが、ヴォルザードの件も……」
イロスーン大森林で魔物が増殖した事で、やはり鉱石の取引に影響が出ているそうです。
それに加えて、ヴォルザードとの取り引き禁止。
更には、事故が起こったロベーレ商会の坑道復旧作業も加わって、マールブルグの景気は急降下している状態だそうです。
「うちも、バッケンハイムやブライヒベルグ、リーベンシュタインやフェアリンゲンにも手を伸ばし始めた所なので、イロスーン大森林の一件には頭を悩ませています。現状は、護衛の費用が掛かる程度で何とかやっていますが、もし通行が遮断された場合には商売が立ち行かなくなります」
「そうですよね。でも、街は見るからに不景気そうな様子でしたが、デュカス商会は普段と変わらないような……」
「ええ、他の商会では、売るアテの無い鉱石を抱えても仕方がないと、掘削を減らしているようなのですが、うちは通常通りの掘削を進めています」
「でも、それでは鉱石を余分に抱える事になるのでは?」
「まぁ、そうなんですが、鉱石は腐りませんし、坑道で働く連中には生活がありますから、今は経営者たる私が踏ん張る時でしょう」
さらっと言ってのけますが、落盤事故の当時も一番苦労していたのはオルレアンさんだったような気がします。
「結論から言いますと、召喚術を使って鉱石を運ぶことは可能です」
「本当ですか! では、イロスーン大森林が……」
「ちょっと待って下さい。召喚術での運搬も可能なんですが、闇属性の魔術を使えば鉱石の運搬は可能です」
「そうなのですか?」
「はい、物を運ぶには、そちらのやり方の方が簡単ですし、魔力の消耗も少なくて済みます。何より、僕ではなくて、僕の眷族達でも運搬は可能です」
「おぉ、それならばケントさんに指名依頼を出せば、この先も商売を続けていけそうです……ケントさん、どうかなさいましたか?」
「はい、応急的な対策としては大丈夫だとは思うのですが、ちょっと色々とありまして、この先ずっと続けられるかどうかは分からない状況です」
オルレアンさんに、僕が異世界から召喚されて来た事を含めて、現在の状況を説明しました。
「なんと……異世界からの鉄と銅ですか……道理でヴォルザードの取引先が、全く慌てていない訳です。うーん……しかも、ブライヒベルグまでの輸送路を確保しているとは……」
「急に混乱させるような話をしてしまって、すみません」
「いえいえ、いずれは直面する問題ですし、話していただけて大助かりですよ」
「あのぉ……マールブルグ家は、イロスーン大森林の問題について、何か対策とかは行わないんですか?」
「そうですね。商売に関する事には、今回のヴォルザードのような状況を除いて、基本的にはノータッチです」
「でも、鉱石の流通が滞ったら、マールブルグの皆さんは生活していけませんよね?」
「おっしゃる通りなのですが、マールブルグの土地はマールブルグ家の所有するものであり、当然鉱石もマールブルグ家のもの。掘り出したければ税金を納めよ。売って商売をしたければ税金を納めよ……っといった感じで、何かトラブルが発生しても、それを解決するのは我々庶民の役目なのです」
国や領地の法律や仕来たりなどは、僕のような子供が口を出す事ではないのかもしれませんが、マールブルグの領主一家は全く働いていないように感じてしまいます。
クラウスさんは、性格的には色々と問題を感じる場面もありますが、ヴォルザードの住民の幸せのためならば労を惜しまずに働いています。
せめて、あの半分でもマールブルグ家の人達が働けば、オルレアンさんの苦労も減るはずです。
「現状、イロスーン大森林は護衛を増やす必要がありますが、通行出来ない状態ではないので、僕が鉱石の運搬を担ってしまうと冒険者の仕事を奪うことになります」
「そうですね。依頼をするとすれば、うちの分だけ運んでもらう訳にもいかないでしょうし、マールブルグの輸送をケントさん一人に頼るという状況は確かに異常事態です。ですが、我々としては取り引きが出来なければ商会を維持していけません。もしマールブルグの商会が全部倒産するような事態になれば、その影響は計り知れません」
「確か、他の街のギルドに所属する冒険者に指名依頼を出す時は、その街のギルドマスターの承認が必要なんですよね?」
「はい、その通りです。ヴォルザードの場合、領主のクラウス様が兼任なさっていらっしゃるはずですから、ケントさんへの依頼はクラウス様の承認が必要になります」
クラウスさんならば、オルレアンさん達の窮状を知れば承認してくれるはずですが、僕が確約することは出来ません。
それに、別の気掛かりも残っています。
「仮に、僕が鉱石の運搬を担うとして、他の商会の皆さんは納得されるのでしょうか? 特にロベーレ商会が心配なんですが……」
「そうですね。確かに、ケントさんが落盤事故の救助作業に関わっていると知れば、現当主のアロンツォさんは良い顔をしないでしょう。ですが、イロスーン大森林の通行が完全に止まり、ヴォルザードとの取り引きも出来ない状況になれば、賛成せざるを得ないでしょう。それに、賛同するしないは自由ですから、私としては輸送方法を独占しない、取り引きを続ける手段があると提示するだけです」
「それでは、輸送を僕に頼む頼まないは自由で、後から参加したいと言い出した場合でも、拒絶する訳ではないのですね?」
「勿論です。落盤事故の影響で、今は悪い流れになっていますが、そもそも商会の規模ではうちの数倍あるはずですからね。そこが倒産するような事態になれば、うちにも悪影響が出る事は避けられません」
鉱石の輸送方法は、イロスーン大森林の通行が可能な限り従来通りのスタイルで行い、完全に通行が出来なくなった場合には、影移動を使った輸送を依頼してもらう事にしました。
輸送品の取りまとめまでは、僕には出来ないので、そこはデュカス商会にやってもらいます。
「うちに出入りしているバッケンハイムの冒険者などは、依頼が増えるし、報酬も増えて助かっていると笑っていましたが、話に聞いているだけでも魔物の襲撃は増えていますし、笑い事ではなくなるのも時間の問題でしょう」
「僕の眷族は、コボルトであってもオークやオーガを苦も無く倒してしまうのですが、さすがにイロスーン大森林の全域から魔物を減らすのは難しいです。一度通行不能になったら、復旧までにはかなりの時間を要するでしょう」
「マールブルグのみならず、ランズヘルト全体の発展を考えるならば、イロスーン大森林を安全に通行出来るようにしておく必要があります。その為には、ケントさんの力は絶対に必要になりますよ」
オルレアンさんと、マールブルグ、バッケンハイム間の輸送について、もう少し詳しい話を始めたら、影の中からゼータが話し掛けてきました。
「主殿、申し訳ございません。我らのテリトリーが侵略されてしまいました」
「テリトリーって、ヴォルザードが魔物に襲われたの?」
「いいえ、そうではなく、先日ミノタウロスを撃退した集落と周辺です」
「スラッカか! 侵略されたって、魔物に襲われてるの?」
「魔物に取り囲まれていますが、まだ持ちこたえています」
「分かった、すぐ行く!」
ソファーの影から聞えてきたゼータの声に、オルレアンさんもシビルさんも驚いていましたが、事情を話してスラッカ救援に向かいます。
「では、オルレアンさん、詳しい話はまた後日にいたしましょう」
「はい、ケントさん、どうかスラッカを救って下さい」
「はい、全力を尽くします」
影に潜って向かった先は、スラッカの集落ではなくバッケンハイムの本部ギルドです。
マスターレーゼは中年の男性と面談中でしたが、時間が無いので割り込ませてもらいました。
護衛を務めるラウさんからは、テーブルを挟んで良く見える位置に闇の盾を出して、部屋に足を踏み入れます。
「お話中に失礼します。レーゼさん、スラッカが魔物の群れに囲まれました」
「ケント、指名依頼じゃ。討伐に百万ヘルト、住民の森の外までの護衛に百万ヘルト、魔石や素材も好きにして構わん。どうじゃ?」
普段の緩さとは打って変わって、レーゼさんは打てば響くように指名依頼を持ちかけて来ました。
「状況も確かめずに依頼を出しても良いのですか?」
「ふん、Sランク冒険者の言葉を信じられないで、本部ギルドのマスターなんぞ務まると思うのかぇ?」
「いえ、その依頼、お引き受けいたします」
「うむ、頼んだぞ。 それと、モイタバの様子も確認してくれるかぇ」
「モイタバは、マールブルグ側の集落ですよね?」
「非常時じゃ、バッケンハイムだ、マールブルグだと言っておる場合ではないわぇ。モイタバも襲われていたら、そちらの救助も頼むぞぇ。勿論、報酬は出す」
「了解です!」
急行したスラッカでは、既に魔物が塀際にまで近付き、守備隊や冒険者達と乱戦を繰り広げていました。
街の周囲の水堀や、その外側の草地は魔物と魔物の死骸で埋まっています。
それじゃあ、魔石と素材の荒稼ぎを始めますかね。
「ゼータ、エータ、シータ!」
「ウォォォォォン!」
「ウォォォォォン!」
「ウォン、ウォン、ウォン、ウォォォォォン!」
ゼータ達の遠吠えが響き渡ると、乱戦を繰り広げていた人間も、魔物も、ピタリと動きを止めました。
その直後、歓声が湧き上がりました。
「魔物使いが来たぞ!」
「今だ、押し返せ! 助かる、助かるぞぉ!」
おぅ、こんなに期待されたんじゃ、応えない訳には行かないよね。
さぁ、討伐を始めましょう。
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