第269話 ギリク外伝 老人と犬っころ 前編
朝靄に煙る城門近くは、多くの馬車と旅人、それらを目当てにした屋台で賑わっていた。
ヴォルザードで生まれ、ヴォルザードで育ってきた俺だが、毎朝こんな光景が展開しているなんて知らなかった。
「おい、そこのデカいの、ボサっと突っ立ってんじゃねぇ、邪魔だ!」
馬車に荷を積み込む者、旅人の荷を運ぶ者などが、気忙しく行き交っている。
ギルドの朝の喧騒には慣れているが、どうにも場違いな感じがして落ち着かない。
「確か、門に向かって右側……って、どれだよ……」
指定された場所には何台もの馬車が停まっていて、どの馬車なのか判別がつかない。
「くそっ、面倒くせぇ!」
普段とは勝手が違って、最初から上手くいく気がしない。
いっそ放り出して帰ってやろうかとも思うが、それではこれまでと一緒だ。
そもそも、あの嫌味な野郎の顔が良く思い出せねぇ。
ムカつく野郎の顔なんか覚えてられっか。
「おい、犬っころ! そこの無駄にデカい剣を背負った、お前だ、お前!」
「あぁん……」
耳障りな声のする方向に目をやると、しかめっ面をした冒険者が手招きしていた。
あぁ、そう言えば、こんな面の奴だったな。
「手前、何グズグズしてやがったんだ!」
「あぁん? まだ予定の時間になってねぇだろう」
「何ぬかしてやがる。下っ端は早く来て支度を整えておくもんだろうが! そんな事も知らねぇのか……」
「あぁそうかよ。悪かったな……」
上から見下すように睨みつけてやると、冒険者はこめかみに青筋を浮かべながらも背中を向けた。
「ちっ……雇い主の旦那に挨拶すっから、付いて来い」
「あぁ……」
陰険そうな冒険者について行くと、小ぎれいな馬車が停まっていた。
この馬車が、俺の護衛する人物の持ち物らしい。
「ペデルです。旦那、よろしいでしょうか?」
「うむ、出発か?」
「へい、もう一人の護衛を紹介させて下せぇ」
「いいだろう」
「こちらが、宝石商のオルドフ様だ、ご挨拶しろ」
キャビンの中には、でっぷりと太った男が座っていた。
向かいの席に座っている小男は、秘書かなにかなのだろう。
こんな男に頭を下げたくはないが、雇い主ならば仕方ねぇ。
「ギリクだ、よろしく頼む……」
「手前ぇ、口の利き方に気を付けやがれ! すみません旦那、世間知らずなガキですが、ヴォルザードの若手では一番の有望株ですから、腕は確かです」
「ふん、まぁいいだろう。マールブルグに着くまでに、良く躾けておけ」
「へい、かしこまりました。では、失礼いたします」
ペデルは、ヘコヘコと頭を下げると、キャビンへと乗り込んだ。
後に続いて乗り込もうとすると、ペデルに胸を突き飛ばされた。
「手前は御者台だ。気を張って見張れ、居眠りなんかしてんじゃねぇぞ!」
ペデルは、唾でも吐き掛けそうな表情で俺を見下しながら言い捨てると、キャビンのドアを閉めた。
「けっ、手前みたいなクセぇ野郎と閉じこもるより、外に居た方がマシだ……」
御者台には、ヒョロっとした枯れ枝みたいな老人が、手綱を持って待っていた。
空いている左隣に座ろうとして、背中の剣が邪魔になるのに気付いた。
「剣は、御者台の横にある輪に下げておくと良い。そこなら抜くのにも困らんじゃろ」
金属製の輪に鞘のベルトを通して下げる。
なるほど、これなら揺れても落ちる心配はなさそうだ。
「旦那様、出発いたします」
細い身体に似合わぬ張りのある声で呼び掛け、御者を務める老人は、ゆっくりと馬車を動かし始めた。
ペデルとかいう冒険者は、何度かギルドで見掛けた気がするが、まともに話をしたのは昨日が初めてだ。
ミュー姉を誑かそうとしているクソチビの鼻を明かしてやるために、ランクが上がりそうな仕事を探していると、カウンターで職員に向かって大声で話している男がいた。
聞き耳を立てるまでもなく聞えてきた内容は、一緒に護衛をやる予定だった男が喧嘩騒ぎで怪我をして、働けなくなったらしい。
出発は明日の早朝、それまでにマールブルグまでの護衛を務められる人間を探していた。
「その仕事、俺がやってやろうか?」
「本当か? お前、ランクは?」
「Dだ」
「D? 駄目だ、駄目だ。最低でもCランクじゃないと話にならん」
「んだと……そんなら試してみるか?」
「いいだろう。無駄な時間を使わせたら、どうなるか覚悟しとけよ……」
ギルドの訓練所で木剣を使って手合わせして、実力を認めさせ、こうして護衛の仕事に就いている。
ペデルの野郎は、Bランクだとかぬかしていただけあって、そこそこ鋭く打ち込んで来たが、受けきれないほどの鋭さではなかった。
俺の目から見たら、Cランクに毛が生えた程度だ。
あの程度でもBランクに上がれるならば、俺がAランクに上がるのは簡単だろう。
馬車は、ヴォルザードの城門を出るところで、乗客の数、護衛の数とランクがチェックされ、護衛が足りない場合には通してもらえなくなる。
ここでも俺がDランクということで、守備隊の兵士が渋い顔をしてみせた。
そこへキャビンから降りて来たぺデルが、兵士に耳打ちして、その後に何やら握らせると通行の許可が下りた。
「まったく、世話の焼ける犬っころめ……」
キャビンに戻るペデルを睨み付けながら、依頼が終ったら絶対に殴り飛ばすと心に決めた。
城門を出た馬車は、前を行く馬車から付かず離れず、一定の距離を保ちながら進んで行く。
街を出て少しすると、背後から寒風が吹き付けてきた。
今は西風が吹く時期で、街が遮っていた風が吹き付けてくるようになったのだろう。
冷たい風が背中を冷やし、徐々に体温を奪われていくようだ。
「お前さん、護衛の仕事は初めてかい?」
「だったら何だ……」
「そんな格好で、寒くないのかい?」
「べ、別に……」
隣に座っている御者の老人は、厚手の外套を着込み、革の手袋を嵌めている。
オマケにフードまで被って、背後からの風を防いでいた。
「寒かったら、座席下の箱に毛布が入っているから羽織ると良い」
「別に、寒くなんか……」
「魔物が出た時に、身体が冷え切って動けない……なんて事だと、ワシらが困るからのぉ」
「羽織ればいいんだろう、羽織れば……ちっ」
御者台の下から引っ張り出した毛布は、埃臭くゴワゴワしていたが、風を通さず体温を保ってくれた。
寒さは防げたが、今度は腹の虫が不満の声を上げやがった。
「何じゃい、朝飯食っておらんのか?」
「別に一食抜いたくらい……」
「それで戦闘になって、全力を発揮できるんかい?」
「けっ、魔物ごとき屁でもねぇよ」
「戦う相手は、魔物とは限らんぞ……盗賊相手でも大丈夫か?」
「盗賊程度……」
「山賊、盗賊、夜盗……街道で人を襲った者は死罪。子供でも知っておる常識じゃ。それでも道を踏み外す者は、享楽に用いる女以外は全て殺すつもりで向かって来る。それも、一人や二人ではないはずだが……本当に大丈夫か?」
御者の老人は、話をしながらゴソゴソと足元の箱を探り、蝋引きの包みを差し出してきた。
「何だ……」
「携行食じゃ。美味くはないが、腹には溜まる……ほれっ」
老人に無理やり携行食を押し付けられてしまったので、仕方がないから食ってやることにした。
包みの中身は、ボソボソとした厚手のクッキーのようなもので、食べると口の中の水分を全部持っていかれる。
「ぐっ……ごほっ……」
「慌てて食わないでも、返せなどとは言わんから心配するな」
「こんなボソボソなもん、急いで食えるか……」
「お前さん、水筒は? 何じゃい、本当に何も用意しとらんのか?」
「べ、別に……必要ねぇ……」
そもそも、こんなボソボソなもんを口にしなけりゃ、水筒なんざ必要ねぇんだ。
「まったく、今まで街の外で仕事をしてこなかったか、それとも仲間に頼りきりだったのか……そんなことじゃ冒険者なんぞ、やっていけんぞ」
「う、うっせぇな……」
「ほれ……半分は残しておけよ」
老人が差し出したのは、藁束で包まれた水筒で、中身は少し温くなったお茶だった。
「そうして藁で巻いておけば、暫くの間は冷えずに済む」
「その程度は知ってる」
「知っていても、実践できないのじゃ意味ないのぉ」
「くっ……」
腹が立ったから、全部飲み干してやろうかと思ったが、爺相手に大人げないから止めておいてやった。
それに、これまではミュー姉に頼りきりだったのも確かだ。
寒さをしのぎ、空腹を満たすと、眠気が襲ってきた。
ノンビリと走る馬車の揺れも、眠気に拍車を掛けてきやがる。
「ほれ、居眠りなんぞしていたら、護衛は務まらんぞ」
「うっせぇな。眠ってなんかいねぇよ」
「お前さんは手綱を握っている訳じゃない、いつでも剣を扱えるように、指は動かしておくのじゃぞ」
「ちっ……その程度は……」
「気を配るのは、前や横だけじゃないぞ。後から襲ってくることもあるぞ」
言葉に釣られて、後を振り向いてしまった。
街を出てから一度も後を気にしていなかったし、首を振って周囲を確かめてもいない。
護衛の仕事を何もしていなかったと、動きで証明してしまったようなものだ。
老人は、ニヤリと頬を緩めてみせた。
「その様子では、後続の馬車への合図の仕方も知らんじゃろう」
盗賊に襲われた時、魔物に襲われた時、馬を休めるために止まる時など……状況によって後続の馬車に送る手振りが違うそうだ。
そんな話は、これまでに一度も習った記憶も無いし、必要性を感じてこなかったことだ。
「冒険者は、何でも飲み込んでしまうほど大きな引き出しを持つか、さもなければ沢山の引き出しを持っておくものじゃ。お前さんは……どちらにも足らなすぎるようじゃな」
「ちっ、余計なお世話だ……」
「耳の痛い話を避けて通っているようでは、いつまで経っても引き出しは増えぬぞ」
「ちっ……」
御者の老人はロペンという名で、若い頃は冒険者をやっていたらしく、嘘か真かランズヘルト中を巡ってきたそうだ。
バッケンハイムの女は堅物で、ブライヒベルグの女は金に汚い。
マールブルグの女は愛想が無く、エーデリッヒの女は奔放だそうだ。
爺の自慢話なんざ、聞きたくもねぇが、眠っている訳にもいかない。
こんな状況が、マールブルグまで続くかと思うとウンザリしてくる。
ランクアップ目当てで、安易に護衛の仕事なんか受けるもんじゃねぇな。
途中で三回ほどの小休止を入れながら、魔物にも盗賊にも遭遇することなく昼になった。
早めに昼食にするか、それとも遅らせて昼食にするか、判断を間違うと食事処で長時間待たされることになり、旅程が大幅に狂う場合もあるそうだ。
集落に差し掛かった所で、通りの混み具合などから判断を下す、御者の腕の見せ所らしい。
「旦那様、この集落で休みます!」
ロペン爺さんの判断に間違いはなく、すんなりと食事処へ入れた。
座りっぱなしでケツが痛くなってきていたところだったから、正直助かった。
「犬っころ! 手前、どこ行くつもりだ!」
「あぁん? メシじゃねぇのかよ……」
「手前は、こっちじゃねぇ! ロペンの爺さんと一緒に、馬車を見張りながら馬の世話だ。おら、さっさと行け!」
「ちっ……」
ペデルの野郎は、宝石商のデブを護衛しながら一緒に食事をするらしい。
俺は、ロペンの爺さんに教わりながら馬の世話をし終えてから、ようやく食事にありつけた。
「ペデル一人で大丈夫かのぉ……」
「あぁん、どういう意味だ?」
「元々、護衛の主力はペデルの相方だったのじゃが、どうしたんじゃ?」
「さぁな、喧嘩沙汰で動けなくなったとか言ってたな……」
ロペン爺さんの話では、ペデルとコンビを組んでいたカリストという男の方が、腕の良い冒険者のようだ。
今みたいに道中で食事を取る場合、カリストが先に店に入り、不審な男がいないかチェックしていたそうだ。
「カリストに較べると、ペデルは大雑把だからのぉ……まぁ、そうは言っても、お前さんよりは役に立ちそうじゃがな」
「けっ、立ち回りになれば、俺の方が上だ!」
「さて、それはどうかのぉ……お前さん、人を斬ったことがあるかい?」
「ねぇけど……負けやしねぇぜ」
俺が断言してみせても、ロペン爺さんは溜息をついて首を振りやがった。
「はぁ……お前さん、そんなこっちゃ命がいくつあっても足りんぞ。盗賊連中は、生き残るためならば何だってする。相手を油断させるためならば、這いつくばったり、小便を漏らしてみせたりするのだぞ」
「けっ、俺はそんな見っともねぇ真似はしねぇぞ」
「それじゃ、そんな姿は見っともない、もはや抵抗する気力も無いと思わせて、油断したところで反撃を試みるのじゃ。お前さんなんざ、コロっと騙されるぞ。いいか、盗賊を相手にした時は、完全に気絶させるか、息の根を止めよ。でないと、お前さんが命を落とすことになるぞ」
「お、おぅ……覚えておいてやらぁ……」
枯れ枝みたいなくせに、時々妙に凄みを感じさせる変な爺さんだ。
俺を経験不足な若造だと思って、道中散々脅すような話をした割には、魔物にも盗賊にも遭遇せずに一日目の旅程を終えた。
「犬っころ、手前はロペンの爺さんと同じ部屋だ。しっかり馬車と馬を見張っておけよ」
「ふんっ、手前こそデブの護衛でヘマすんじゃねぇぞ」
「なっ、このクソガキが……」
俺とロペン爺さんに宛がわれたのは、馬小屋と同じ棟の部屋だった。
馬房の隣に馬車を停め、その隣が俺らが泊まる部屋だ。
「ほれ、ギリク。お前さん、この布団を外で叩いて埃を払ったら、この粉を振り掛けておくんじゃ。ワシは先に馬の手入れしとるから、終わったら手伝いに来るんじゃぞ」
「何だ、その粉は?」
「やはり知らんのか、こりゃダニ除けの粉薬じゃ。こいつを撒いてダニを落としておかんと、エライ目に遭うぞ」
「げぇ……どのぐらい掛ければいいんだよ」
「この瓶一本で布団二枚分じゃ。満遍なくまぶしておかんと……それと、そっちの毛布はどけておくんじゃぞ。そっちにもダニが集っているから、棚にでも放り込んでおけ」
粉薬のおかげでダニに食われる心配は無くなったが、埃っぽいし、馬くせぇし、とても人が泊まる部屋とは思えなかった。
そんな部屋だというのい、ロペン爺さんは平然と食事をしながら、持ってきた酒をチビリチビリと飲み始めた。
「爺さん、俺にも飲ませろ」
「馬鹿たれ! 護衛が仕事の最中に酔っぱらってどうする」
「ちょっとぐらい……痛ぇ、何しやがる!」
「そのちょっとの差が、力量が接近した者同士の戦いでは命取りになるんじゃぞ! 酒が飲みたきゃ依頼を受けてない時にしろ! その程度の事も実践できないなら、冒険者なんぞやめてしまえ!」
「ちっ……分かったよ」
とは言っても、酔っ払い爺の自慢話に付き合わされるなんて仕事は、依頼には入ってねぇはずなんだがな。
それにしても、次から次へと良く話のネタが無くならないものだ。
話半分だとしても、ランズヘルト一周どころじゃないだろう。
「いいか、ギリク。明日までは遊びみたいなもんだ。明後日……分かるか?」
「リバレー峠越えだろう」
「そうだ、だが、今は普通じゃねぇ……分かるか?」
「普通じゃねぇって……何だよ」
「まったく、何にも知らんのか……お前の耳は飾りか?」
「うるせぇ、勿体つけてねぇで教えろ」
「あ―……あれだ、あの……ほれ、大森林だ」
「イロスーン大森林で魔物が増えたとかいう話か?」
「なんじゃ、知っとるじゃないか」
「それがリバレー峠と、どう関係すんだ」
「なんじゃ、お前の頭は飾りか? 峠の向こうの山裾は、大森林に繋がっておるんじゃぞ。大森林にも盗賊は出る。そういう事じゃ……」
「そういう事って……魔物に追われた盗賊が、峠に移動してきてるのか?」
「そういう事じゃ……ふわぁぁぁ……」
散々好き勝手に話し終えると、ロペン爺さんはパタリと横になって鼾を掻き始めた。
この鼾が一晩中、しかも往復で続くのだから、夜中に首を絞めて静かにさせてやろうかと思ったぐらいだ。
翌日も、ペデルと軽い言い争いになることはあったが、魔物や盗賊と遭遇する事はなく宿に辿り着いた。
ただし、昨日と較べてロペン爺さんは道を急ぎ、宿に着いたのは日が傾く前だった。
「なんだよ爺さん、昨日あんだけ眠っておいて、まだ寝足りないのか?」
「まったく、物を知らぬヒヨっ子が……この集落は、峠に一番近い集落じゃ。峠を超えようとする者は、皆この集落に宿を取りたがる。ノンビリ辿り着いていたら、泊まる宿が無くなって、峠の入口にある広場で野営する羽目になるんじゃぞ」
集落が混雑するのを見越して、早めに到着して宿を取ったらしい。
依頼主のデブ達が宿泊する建物は、昨日よりも上等に見えたが、俺とロペン爺さんの部屋は、昨日までと同じ馬小屋みたいな部屋だった。
昨日と同様にダニ退治をして、昨晩と同じくロペン爺さんは酒を飲む。
ただ、昨日と違っていることがあった。
それは、馬の世話と馬車の点検を終えた後のことだった。
「ギリク、ここをちょっと持ってろ」
「何だ、これ?」
「これは、馬の尻尾の毛だ。これを……」
ロペン爺さんは、馬の尻尾の毛を繋ぎ合せ、馬車を停めた車庫の入口に、太腿ぐらいの高さでピンっと張った。
「これは、何の呪いだ?」
「馬鹿たれ。呪いなんかじゃない。馬車に目印を着けた者が居ないか調べるためじゃ」
ロペン爺さんが言うには、盗賊の中には事前に目当ての馬車に目印を付ける者が居るそうだ。
金持ちや若い女が乗った馬車に、前もって印を付けておき、峠で待ち伏せした仲間が、印を目当てにして襲い掛かるらしい。
「印を付けようと馬車に近付くと、この毛が切れて落ちるという訳だ。だから、跨ぎにくく潜りにくい、この高さに張っておくのじゃ」
「へぇ……そんなもん、見破られんじゃねぇの?」
「日が高い時間ならば見咎められるだろう。じゃが日が暮れた後では見破れんじゃろう」
「なるほどなぁ……」
確かに暗くなってしまったら、毛一本では見つけるのは難しそうだ。
「ほれ、ぼーっと突っ立ってないで、さっさと身体を休めるぞ。明日は峠越えじゃからな」
「そう思うなら、鼾をなんとかしてくれ」
「ふん、爺の鼾程度、気にせず眠るぐらい図太くなるんじゃな」
結局その晩も、ロペン爺さんは饒舌に喋りながら、チビリチビリと晩酌を楽しむと、パタリと倒れて往復鼾を搔き始めた。
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