第263話 居残り組の特訓

「ギギャ……?」


 ゴブリンは、突然の事態に戸惑ったような表情をしていました。

 普通のゴブリンよりも一回り身体が大きく、あるいは上位種なのかもしれません。


 周囲をキョロキョロと見回し、鼻をひくつかせ、事態を把握しようとしています。

 やがて、その視線が一点で止まると、ビクリと警戒するように身構えました。


「ギィィィ……」


 軋むような唸り声を上げながら、牙を剥き、徐々に目を血走らせ始めます。

 ゴブリンは、逃走ではなく戦いを選択したようです。


 二十メートルほど離れた所に立っている人物は、慣れない手付きで長剣を鞘から引き抜き、身体強化の詠唱を唱えました。

 ゴブリンが身を沈めるのに合わせて、剣を正眼に構えると、ふーっと一つ息を吐き動きを止めました。


 周囲の空気がピリピリと張り詰めていきます。

 ジリっ、ジリっと、ゴブリンが近付いていくと、男は剣先をユラユラと上下させ始めました。


 ゴブリンが、左に回り込むように動いても、男は身体を回して正対するだけで、自分から動く気はないようです。

 身を切るような寒さにも関わらず、男の額には薄っすらと汗が滲んでいます。


 ユラユラと動く剣先を警戒していたようですが、その場から動かない男を危険ではないと判断したのか、ゴブリンは一気に距離を縮めてきました。


「ギャギャァァァ!」


 男が動いたのは、ゴブリンが叫び声を上げながら疾走し、跳び掛かった直後でした。

 沈み込むように、やや左前方へと鋭く踏み込み、擦れ違い様に振るった剣は、ゴブリンの右足の付け根をザックリと切り裂きました。


「グギャァァァ……グフゥ」


 悲鳴を上げて、のたうち回るゴブリンの首筋へ、男の長剣が叩き込まれ、頭が宙を舞いました。

 切断面から血飛沫が飛び散り、ビクンビクンと痙攣を続けるゴブリンの身体を、剣を振るって走り抜けた男が、荒い呼吸を整えながらジッと見詰めています。

 やがてゴブリンの身体が完全に動かなくなると、ふぅーっと大きく息を吐き、男は額の汗を袖で拭いました。


「近藤、お疲れ。じゃあ魔石の取り出しをやっちゃおうか」

「国分、お前なぁ……ちょっとぐらい休ませろよ」

「何言ってんだよ。実戦だったら血の匂いに引き寄せられて、他の魔物が寄って来るんだよ。のんびり休んでる暇なんか無いからね」

「分かったよ……」

「あぁ、駄目駄目、そんな血の付いた状態で鞘に納めちゃ駄目だよ。ちゃんと拭いを掛けてからじゃないと」

「あぁ、そうか……ヤベえ、一人だと結構テンパるな」


 ここは、魔の森にある訓練場で、近藤、新田、古田の居残り三人組の特訓中です。

 ヴォルザードへの荷物の輸送は、マルト、ミルト、ムルトを中心としたコボルト隊が担当することになりました。


 集荷場として借りた倉庫を閉めきり、内部を真っ暗にすれば、コボルト隊が影の空間へと荷物を運び入れ、ヴォルザードの集荷場へと運び込みます。

 今のところは、荷物の量も限定的ですが、今後量が増えるようであれば、ゼータ達にも手伝ってもらう予定でいます。


 クラウスさんへの同行を終えて、久々にギルドに顔を出した時に、ミューエルさんと居残り三人組に出会い、今回の特訓を頼まれました。

 ギリクが、ヴォルザードから姿を消したそうです。


 何て言い方をすると深刻に聞えますが、荷物の護衛を引き受けて、マールブルグへと向かっているそうです。

 すったもんだありましたが、ようやく外の世界を見に行く気になったようで、ミューエルさんも一安心といった感じでした。


 ギリクが外の世界へと踏み出したのは良いのですが、そうなると困るのが、ミューエルさんの護衛です。

 ミューエルさんが薬草の採取に向かうのは、魔の森ではなく、ヴォルザードよりも東にある森です。


 魔の森のように魔物の密度は高くありませんが、それでもオークと出くわす場合があります。

 そこで居残り三人組が護衛を務めることになったのですが、三人ともまだFランクなので、正式な護衛の依頼は受けられません。


 なので、依頼ではなく、ミューエルさんに個人的に同行する形になります。

 報酬は無しですが、護衛としての経験値を積み、倒した魔物の素材を収入にする事で、四人の間では話がついていました。


 四人が同意しているのは良いとして、問題は、魔物討伐の経験が圧倒的に不足している事です。

 そこで、討伐の経験を積むために特訓することになりました。


「近藤が魔石を取り出したら、次は新田の番ね。その次が古田の順で、ゴブリンを三頭ずつ倒したら休憩、その後はオークの討伐をやるよ」

「国分、お前はやらないのか?」

「ふふん、オーガ程度なら、風属性の魔術で一撃で倒しちゃうよ。Sランクは伊達ではないのだよ」

「くそぉ……俺もチートな能力が欲しい!」


 新田の魂の叫びに、古田も近藤も頷いています。


「僕だって、最初から何でも出来たわけじゃないよ。それに、三人はこれから経験を積んでいくんだから、どこかでポーンと突き抜けるかもしれないじゃん」

「そうかもしれないけど、簡単じゃねぇぜ」

「だから特訓するんでしょ。さあさあ新田、準備して。活きの良いゴブリンを連れてくるからさ」

「てか、さっきのゴブリンとか活き良すぎじゃね? どこから連れて来たんだよ」

「ヒュドラを討伐した所で魔物が増えててさ。飛び散ったヒュドラの魔石とか肉が原因みたいなんだけど、妙に活きが良くってさ」

「それって上位種って奴じゃねぇの? 大丈夫なのかよ」

「新田、たかだかゴブリン一匹にビビってるようじゃ冒険者なんてやってられないよ。んじゃ、こっちの死体も片付けちゃうから、近藤と同じ位置で待っててね」

「おいっ、ちょっと……国分!」


 近藤が魔石を取り出し終えたゴブリンの死体を送還術で片付け、影に潜って移動します。

 新田が何やら待ったを掛けていたみたいですけど、勿論待ちません。


 実戦は、いつだって非情ですからねぇ。

 ヒュドラを討伐した後に出来た大きな池の周囲には、今日も多くの魔物が集まっています。


 バステンとフレッドに間引いてもらうように頼んでおいたので。一時期ほどは多くありませんが。やはり平均的な魔物よりは体格が良く見えます。

 さて、どれにしようかなぁ……なるべく殺気立ってる奴が良いよね。


『ケント様、彼らは長剣の扱いに慣れておりませぬ。あまり最初から手強い相手を選ばぬ方がよろしいですぞ。怪我を負ったとしても、ケント様が治療されるから身体の傷は大丈夫でしょう。しかし、あまりに酷い怪我を負った場合、心に怯えが残されてしまいますぞ』

「そうか、それじゃあ最初は、そこそこの奴を選んでおくか」


 ラインハルトに忠告されていなかったら、目の前で仲間を襲われ、無謀にもオークに向かっていこうとするゴブリンを選ぶところでした。

 オークが、ちょっと怯むぐらいだったから、新田では荷が重かったかもしれませんね。


 無難なゴブリンを選んで訓練場へと送還すると、新田は何箇所か引っかき傷を負いながらも、何とか止めを刺しました。


 途中から、滅多斬りにしてたから、これぞ惨殺死体という有様になっています。

 当然のように、新旧コンビの相方である古田に突っ込まれました。


「和樹、だっせぇぇぇ! ゴキにビビった女子みたいだったぜ」

「うっせぇぞ、達也! 手前は、さぞかしスマートに倒すんだろうな?」

「あったりめぇよ。俺様の華麗な剣捌きを見せてやんぜ!」

「国分、達也がオークにしてくれって、ゴブリンなんかじゃ物足りねぇって」

「馬鹿、ふざけんな! 一人でオークなんて無理にきまってんだろう」

「そうか……国分、オークじゃなくて、オーガがいいってよ」

「そんじゃぁ、新田も次はオーガだね?」

「待て待て、見てただろ、今の! ゴブリンでやっとなのに、オーガとか死ぬぞ!」

「いや、仮にもミューエルさんの護衛を務めるんだから、オーガ程度は倒せるようになってもらわないと」

「お前、ギリクの兄貴よりも要求高くねぇか? 一人でオーガを討伐とか、Fランクの仕事じぁねぇだろう」

「文句はいいから、さっさと魔石を取り出す。実戦じゃ、こんなにノンビリしていられないよ」

「うぇぇ……グロっ!」


 新田は、吐きそうになりながらも、何とか魔石を取り出し、古田と交代しました。

 古田にも、適当なゴブリンを見繕って単独の討伐をやらせました。

 新田の苦戦を目にしていたからか、慎重に構えていた古田でしたが、慎重に待ち構え過ぎて右足に噛みつかれたところでパニックに陥りました。


「うぎゃぁぁぁ、痛ぇぇぇ! クソっ、死ね、死ね、死ね、死ねぇぇぇ!」


 剣の柄で殴りつけて引き剥がしたところで、滅多やたらと斬りつけて、見事な斬殺死体の出来上がりです。

 ヴォルザードに来る前、初めての実戦訓練の時に、新旧コンビはゴブリンを倒していますし、先日は近藤を加えた三人でオークも追い詰めています。


 どうやら、新田と古田の場合、コンビとかチームでは力を発揮できるようですが、単独になるとボロが出て来るようです。


「ぎゃははははは! だっせぇ、マジだっせぇ! なにが華麗な剣捌きだよ」

「うるせぇ、お前だって同じようなもんだっただろう」

「いやいや、俺はもっとスマートだったぞ……」

「どこがだよ。血まみれの肉の塊になってたじゃんかよ!」

「んなことねぇよ! 俺は……」

「はいはい……醜い争いはその辺にして、さっさと魔石を取り出す。二周目いくよ!」


 二頭目のゴブリンは、一度倒したという経験が自信になったのか、新田と古田もパニックにならずに倒しきりました。


『ケント様、三人とも慣れてきたようですし、次は魔術を組み合わせて討伐させてみてはいかがですかな』

「そうだね。えっと……三頭目のゴブリンだけど、攻撃魔術を組み合わせて倒してみて」


 ラインハルトの提案を伝えると、近藤から尋ねられました。


「それって、先制攻撃に使うってことか? それとも魔術で止めを刺すのか?」

「えっと、ラインハルト、どっち?」

『どちらでも、やりやすい方法で構いませんぞ。攻撃のパターンを増やすのが目的ですからな』

「どっちでもOKだって、攻撃のバリエーションを増やすのが目的だってさ」

「わかった、それじゃあ最初は先制攻撃に使ってみる」

「一発撃った後、二発目を撃つのか、それとも身体強化に切り替えるのか、どっちにしても魔術を上手く使えるように考えてみて」

「了解だ」

「じゃあ、始めようか……」

「いや、ちょっと待ってくれよ。近藤は術士として訓練を受けてたから攻撃魔術使えるけど、俺らはそんなに得意じゃねぇぞ」

「てか、和樹は風属性だから良いけど、俺は土属性だから攻撃できねぇぞ」


 新旧コンビは、騎士タイプとして訓練を受けていたので、攻撃魔術の練習は殆どやっていないそうです。

 その上、古田は土属性なので、攻撃には向いていません。


「でも、今後の事を考えたら、練習しておいた方が良いんじゃない? 新田の場合は止めを刺すのに使うとか、古田は……まぁ、頑張って」

「おい! 国分は土属性も使えるんだよな? 何か考えろよ」

「考えるって言っても、ベタに落とし穴ぐらいしか思いつかないけど……」

「落とし穴か、まぁ、それでいいや。それで、詠唱は?」

「えっ、知らないけど……僕、詠唱とかしないし」

「お前なぁ、俺らは詠唱しないと魔術使えないんだよ。落とし穴の詠唱ってどんなだよ」


 ラインハルトに尋ねてみましたが、元々火属性の魔術しか使ったことがないそうで、土属性の詠唱は知らないそうです。

 ちなみに、マルトたちコボルト隊や、ギガウルフのゼータたちも土属性の魔術は使えますが、僕同様に詠唱はしません。


「頑張れば、何とか……」

「ならねぇんだよ! まったく、これだからチートってやつは……」


 結局、古田は身体強化だけで倒して、土属性の魔術についてはギルドで教えてもらうことになりました。


「じゃあ、三頭目、近藤から始めるよ!」

「おぅ、いつでも良いぜ!」


 近藤は、僕がゴブリンを調達に行っている間に、攻撃魔術の詠唱を終えていたようです。

 送還したゴブリンが牙を剥いた途端、近藤の腕が振り下ろされ、風の刃がザックリと斬り裂きました。

 仰向けにバッタリと倒れたゴブリンは、ほぼ即死状態でしたが、攻撃魔術の威力が強すぎたせいで魔石が砕けてしまっていました。


「くっそぉ、上手くやれたと思ったのに、これじゃ稼ぎ無しか……」

「でも、威力は十分だから、次は足を狙って動きを止めるようにすれば良いんじゃない?」

「そうだな、それでいくよ」

「じゃあ、新田、準備して」

「おぅ、俺様は足を狙うぜ!」


 新田も近藤を見習って、僕がゴブリンを送還する前に、攻撃魔術の詠唱を終わらせていたようです。


「食らぇぇぇぇぇ!」


 気合いとともに、逆水平のチョップを見舞うように新田の右腕が振りぬかれました。

 風属性の魔術も使えるようになったので、風の刃も見ることが出来ます。

 刃の大きさ、スピード、どちらも近藤の攻撃魔術に引けを取っていません。


「ギャッ! ギャギャァァァァァ……」


 威力は十分でしたが、コントロールが零点です。

 飛び掛かって来ようとしたゴブリンの二メートルぐらい手前に着弾し、盛大な土埃を上げました。


「やっべぇ! しくじった!」


 慌てて新田が土埃を回り込むようにして距離を詰めましたが、身の危険を感じたゴブリンは、脱兎のごとく逃走した後です。

 結局、三頭目のゴブリンをまともに仕留められたのは、攻撃魔術を使わなかった古田だけでした。


「まったく、まだまだだねぇ……特に新田」

「うっせぇ、チート野郎が調子に乗ってんなよ」

「ふふん、そんなこと言うと、ここに置き去りにしちゃうよ。ヴォルザードまでは歩いて一日ぐらい掛かるから、走れば日が暮れる前に帰れる……かも?」

「なんで疑問形なんだよ」

「いや、だって魔の森だよ。ここは、僕の眷属のテリトリーだけどさ、他は魔物のテリトリーだから……」

「くっそぉ、ムカつくぅ……今に見とけよ、魔の森を一人で平然と歩けるようになってやっからな!」

「うんうん、その調子、その調子」


 昼食は、ヴォルザードの屋台で買い込んで来た軽食で済ませました。

 ポットに入れてもらった濃い目のミルクティーを飲みながら、暫しの休憩です。


「そう言えば、国分、帰還作業ってどうすんだ?」

「うん、明後日から再開する予定だよ」

「再開って、大丈夫なのかよ」


 古田が気にしているのは、日本の状況です。

 ヴォルザードへの対応を行っている自衛隊練馬駐屯地には、藤井の事件以後、市民団体を名乗る人達が詰めかけています。


 川越街道に面した門の前の歩道は、人で埋め尽くされて通れない状態だそうです。

 ネットのニュース映像とかで見ましたが、予想していた以上の反発という感じです。


「まぁ、練馬駐屯地に戻っても、家に戻れるかどうか不安だから、別の駐屯地に帰還させる予定」

「なるほど、国分さえ場所が分かっていれば、どこにでも送れるのか」

「そうそう、一部世間の反発はあるけど、保護者からの突き上げもあるって内閣官房の人がぼやいてたよ」

「てかよ、送還が出来るなら、その時に魔術が使えないようにできねぇの?」

「うーん……できると思うけどさ、魔術は使えなくしてありますって説明しても納得してもらえないんじゃない?」

「あぁ、そうか証明のしようがねぇもんな」

「そういうこと」


 古田が言う通り、試してはいませんが、日本へと送還する時に属性魔術を使えないようにはできるはずです。

 そもそも、そんな事をしなくても、魔素の無い日本では魔術を使い続けることは出来ません。


 藤井の引き起こした事件はショッキングだったかもしれませんが、冷静に判断してもらえれば、帰還を反対する理由なんてないはずです。


「俺らは残るって決めたから良いけど、戻る連中とか大変そうだよな」

「帰ろうか、残ろうか迷ってる連中もいるぜ」

「あぁ、俺も色々聞かれた、食って行けるのかとか、仕事のキツさとか……」


 どうやら三人の話を聞いていると、帰還作業を再開しても、すんなりと全員帰還とはならなそうな感じです。

 特に近藤は、頼り甲斐がある性格なので、みんなから相談を持ち掛けられているようです。


「てかさ、俺自身、冒険者として食っていける目途が立っていないのに、相談されても困るんだけどなぁ……食っていけるかどうかなんて知らねぇつーの」

「何とかなるって、てか、みんな食費も家賃も払ってないんだからね」

「それだよ。国分におんぶにだっこだから、みんな不安なんだって」

「あっ、そうか、僕が支援を打ち切ったらって考えてるのか……いっそ、今から打ち切っちゃう?」

「いやいや、待てよ。今、支援を打ち切られたら、どこに住むんだよ。そんなに下宿ってあるのか?」

「それも、そうか……まだ百五十人ぐらいいるもんな。やっぱり、さっさと帰還させちゃおう」

「お前、厄介払いしようとしてねぇか?」

「そりゃそうだよ。みんなを追い返して、僕は甘い生活に浸るんだからね」

「でたよ、ハーレム野郎……ちっ、爆発しろよ」


三人に揃って舌打ちされたけど、全然気にしないもんね。


「てか、みんなもランクアップしていけば、女の子が寄って来るんじゃないの? 八木みたいに、人をダシに使おうとして合コンしても駄目みたいだけど」

「簡単に言ってくれっけど、国分みたいに眷族がいるわけでもねぇし、あちこち自由に移動できるわけじゃねぇからな」

「でも、近藤も新田も魔術の威力は十分だったじゃん。あとは慣れなんじゃないの?」


 実際、近藤は一撃でゴブリンを倒していますし、新田は狙いこそ外したものの、威力は遜色無さそうだったと話すと、二人は満足気な表情を浮かべました。


「俺は? 土属性の俺はどうすれば良いんだよ」

「古田は……落とし穴とかで地味ぃに頑張ってよ」

「なんでだよ! 俺も派手に活躍させろよ」

「でも、必要だよ。討伐した魔物の死骸を埋めるとか、野営の時にはトイレ用の穴も必要だし」

「穴掘りばっかじゃん! もっと無いのかよ、目立つような魔術とかさぁ」

「あとは壁を作ったり、地面から棘を生やしたり……」

「おぉ、いいじゃん、そうか、土属性だから地面を操作できるのか」


 古田は両手を広げて壁を作るイメージをしてみたり、棘を生やすポーズとかイメージしているけど、基本的に地面に触れていないと発動出来ないんだよね。


「まぁ、壁とか棘とか作れるんだけど、急いで作ると強度が足りないんだよねぇ」

「駄目じゃん! 見掛け倒しじゃん!」

「あっ、土の弾丸を撃ち出すとかもできるよ」

「それだよ! それを早く言えよ」

「うん、でも威力が手で石を投げる程度だけどね」

「使えねぇ! 土属性マジで使えねぇ! 俺、使えねぇ……」


 古田は、ガックリと膝を折り、両手を付いて項垂れました。

 そうそう、そんな感じで地面に触っていないと発動させられないからね。


「そうだ、土属性が使えるならば、ゴーレムを作れるかもよ」

「おーっ! それだ、それだよ国分! で、どうやるんだ?」

「えっとね。魔物からとった魔石を核にして、土人形を作って、意識を繋ぐとゴーレムになるよ」

「そうか、言うなれば人工の魔物を作って眷族にするんだな?」

「まぁ、そんな感じなんだけど、作るのは簡単じゃないよ。ラインハルト曰く、長々とした詠唱が必要なんだとか……」

「国分は、作ったことあるのか?」

「あるけど、人間型で動かすタイプを作るのは、めちゃめちゃ面倒だよ。滑らかに動かすには関節ごとのパーツを作って、パーツごとに制御用の魔石を埋め込んで、それを統轄するパーツを……」

「あぁ……もういいや。聞いてるだけで無理そうだって分かった」


 城壁工事みたいな肉体労働には向いているけど、脳筋だけに頭脳労働には向いていないようです。

 そう言えば、滑らかに動く関節をもったゴーレムを作ろうと思ったけど、忙しさに追い掛けられて、やっている時間が無いんだよねぇ。

 

 午後からは、三人がチームを作ってオークの討伐に挑みました。

 単独の場合と違って、新旧コンビの二人は活き活きとした表情を浮かべています。


 ミューエルさんの護衛を行った時に、オークと戦った経験も生きているのでしょう。

 今回は僕の補助無しでしたが、足を狙って動きを止め、近藤と新田が風属性の攻撃魔術を撃ち込んで止めを刺しました。


「ナイス! 新田」

「おう、ジョーはさすがだな。という訳で、魔石の取り出しは、達也な」

「何でだよ。俺だって一緒に戦ったじゃんかよ」

「いやいや、達也は攻撃魔術使ってねぇし……」

「しゃーないだろう、土属性なんだからよぉ!」

「はいはい、揉めない揉めない、少し休憩したら、次のオークを連れてくるからさ」


 この後、更に二頭のオークを討伐して、この日の訓練は終了としました。

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