第239話 新たな依頼
バッケンハイムでオークションが行われた翌朝、ベアトリーチェ付きのホルトがヒョッコリ現れました。
「わふぅ、ご主人様、クラウスがギルドの執務室に来てくれって」
「えっ、クラウスさんが? なんだろう?」
「うーん……分かんない」
「そっか、まぁ会って話を聞くよ。ありがとう」
わしわしと撫でてあげると、尻尾をブンブン振ってホルトは戻って行きました。
ギルドは年始の連休が明けたばかりとあって、仕事を求める人達でごった返しています。
掲示板の前の混雑も、いつもの五割り増しぐらいじゃないですかね。
そして、お約束のリドネル達の姿もありますが、何だか混雑にも慣れてきたみたいで、以前ほど揉みくちゃになってる感じがしません。
あれから、戦闘講習には参加してるのかな?
影に潜ったまま二階の執務室を覗いてみると、クラウスさんとベアトリーチェの姿がありました。
そう言えば、ベアトリーチェが秘書を務めてくれているんでしたよね。
直接連絡が来ちゃうから、何となくないがしろになってますけど、このままじゃ拙いので、ちょっと対策を考えましょう。
一旦廊下に出て、執務室のドアをノックしました。
「誰だ?」
「おはようございます、ケントです」
「おぅ、入ってくれ」
執務室のドアを開けると、クラウスさんも自分の席を立って、ソファーへと腰を下ろしました。
すかさずベアトリーチェがお茶の支度を始めます。
「忙しいところ呼び出して悪いな」
「いえ、今日の帰還作業は延期しようと思っていたので大丈夫です」
「ほう、ニホンからは急かされているんじゃないのか?」
「はい、昨日一度に十人を帰国させたので、日本政府としても目途が立って、余裕が出てきたようです」
「なるほどな……だが、それならば尚更帰還を進めて欲しいんじゃないのか?」
「そうなんですが、やはり違う世界まで送還するとなると一度に使う魔力の量も多くなりますし、万が一途中のどこかに落としてしまったら、回収は不可能なので万全を期した方が良いという話になってます」
「そうか、何にしても帰還の目途が立ったのは喜ばしいな」
「はい、ヴォルザードには本当にお世話になって、感謝しています」
「それを言うならば、ヴォルザードは何度も危機を救ってもらってるんだ、こっちこそ感謝してもしきれんほどだぞ」
ロックオーガの群れに始まり、ゴブリンの極大発生、投石するオーク、グリフォン……指折り数えてクラウスさんは苦笑いを浮かべました。
「まぁ、よくぞ無事で済んだものだ」
「グリフォンは、さすがに厄介でしたね」
「あんなのは滅多に来ないし、来てもらったら困るが、万が一の時には頼むぜ、婿殿」
「勿論、全力で迎撃しますよ」
この後、バッケンハイムを襲ったオーガの群れの話や、昨日のオークションの話をした後で、今日の本題へと入りました。
「指名依頼ですか?」
「そうだ。マールブルグのデュカス商会からの指名だ」
「デュカス商会……あぁ、イロスーン大森林で会った人かなぁ?」
「そのデュカス商会だが、ケント、お前の治療の腕が必要だそうだ」
デュカス商会は、バッケンハイムからヴォルザード家の皆さんを護衛して帰る途中、イロスーン大森林でオーガに襲われていた所を助けた馬車の所有者です。
バッケンハイムの治癒士にも匙を投げられた女の子を治療したので、見込まれたのでしょう。
「女の子の治療はしましたけど、また具合が悪くなってしまったのでしょうか?」
「いいや、女の子の方はすっかり良くなって、見違えるほど元気になったそうだが、母親の具合が思わしくないらしい」
治療した女の子、リシルちゃんはデュカス商会の一人娘だそうで、病弱な体質は母親のシビルから受け継いでいたようです。
シビルも呼吸器系の疾患を長年抱えていて、昨年の暮から容態が悪化、リシルちゃんの治療実績からバッケンハイムの治癒士ではなく、僕に依頼を出したようです。
「報酬は二百万ヘルト。ただし、シビル・デュカスが健康を取り戻す条件の成功報酬としたいそうだ。どうする?」
「二百万ヘルトとは、また高額な報酬ですね」
「確かに一般的な報酬と較べれば高額だが、話の様子からしてバッケンハイムの治癒士でも手に負えない状態で、依頼するのがSランクの冒険者となれば、法外とまでは言えぬ金額だぞ」
「うーん……どうしましょうかねぇ」
「どうした、何か不満でもあるのか?」
「不満という訳じゃないんですけど……」
治療に関しては、たぶん大丈夫だろうと根拠の無い自信があるのですが、高額な治療費を払える者は助かって、貧しい者は治療を受けられないといった状況に疑問を感じている事をクラウスさんに伝えました。
「なるほどな。ニホンではどうなんだ? 金の無い人間も治療を受けられるのか?」
「いえ、やっぱりお金が無いと受けられない治療もあります」
「だったら迷う必要なんか無いだろう。世の中ってやつは、不公平なもんだ。治療や薬だけじゃない。教育を受ける権利、高級な服、高級な食材、豪華な屋敷、金や力のある人間は手に入れて、持ってない奴の手には入らない……不満そうだな」
「頭では理解しているんですが、感情が……」
顔を顰めた僕に、クラウスさんはニヤっと笑みを浮かべて見せました。
「だったら、お前の手に入れた金を貧しい人間が手に入れられるように使うんだな。おっと、勘違いするなよ、恵んでやるんじゃない、キチンと働いた報酬として手に入れられるように使うんだ」
「働いた報酬ですか?」
「そうだ。貧しい奴らの中には働きたくても働けない者が居る。そうした者には手を差し伸べるべきだが、働けるのに怠けている連中には安易に施しをするな」
「働かざる者、食うべからず……って感じですかね?」
「まぁ、当然の事ではあるが、安易に金を渡してしまうのは、そいつが立ち直る切っ掛けや、本来持ってる才能を開花させるチャンスを奪ってしまう。ケント、お前がヴォルザードに来たばかりの頃に話をしたよな?」
「はい、色んな仕事に挑戦してみろ……ですよね」
「たとえ一つ、二つ仕事をして上手くいかなかったとしても、色々な仕事を経験してみれば、必ず自分を輝かせてくれる仕事が見つかる。怠けている連中に金を恵んでしまえば、その仕事と出会うチャンスが遠ざかっちまうだろう」
「そうですね。でも……自分からチャンスを掴もうとしない人は?」
頭に浮かんだのは、ガーム芋の倉庫で働いていた時に、真面目に仕事するなと絡んで来たチンピラ達です。
楽する事ばかり考えて、チャンスを掴もうなんて気概は全く感じられませんでした。
「自分から動いて上を目指さない奴は、ずっと這いつくばっているしかねぇな。チャンスは用意してやるが、それを届けてやるほどヴォルザードは甘い街じゃねぇよ」
「なるほど……でも僕が、キチンと働いた報酬としてお金を払うとなると、何かギルドに依頼をするって事ですか?」
「それも一つの方法だな。他には、城壁工事のための寄付をするって手もあるぜ。自分で労働力を提供できない者は、寄付で街に貢献するって訳だな」
「うーん……でも、それってクラウスさんの出費を軽くしてるだけじゃないんですか?」
「ば、馬鹿言ってんじゃねぇよ。城壁工事への寄付は、城壁工事のためにしか使わねぇし、俺からも毎年の予算はキチンと出してるに決まってんだろ」
「そうですよね。じゃあ、この指名依頼が上手くいったら半分は寄付します。リーチェ、手続きをお願いしても良いかな?」
「はい、お任せ下さい」
秘書としての仕事を頼まれたからか、ベアトリーチェは満足そうな笑みを浮かべています。
「それでケント、マールブルグには何時発つつもりだ?」
「確か、バッケンハイムへ向かう街道を途中で曲がるんですよね? だったら……」
『ケント様、マールブルグでしたらば、ワシらが行った事がありますから、先行して目印役を務めましょう』
「クラウスさん、ラインハルトが……行った事があるそうなので、影移動を使って行ってこられそうです」
「そうか、ならば移動に時間は掛からないんだな? だったら帰還作業との兼ね合いをつけて、早めに行ってやれ。依頼を受けました、到着したら手遅れでしたでは後味が悪いからな」
マールブルグからヴォルザードまでは、早馬を仕立てて依頼が届けられたそうです。
それでも出発から到着までは三日ほどは掛かっているはずなので、容態は更に悪化している可能性が高いでしょう。
「では、これから行って様子を見て来ます。とにかく治療に着手して、一日では無理ならば、二日、三日に分けて治療を行ってきます」
「そうか、数日に分けて治療をするにしても、途中で戻って来られる訳か」
「はい、とにかく帰還作業を進めないといけないので、その合い間を見ながら治療に通う形も検討しておきます」
「今のお前にとっては、まず第一が帰還作業だ。患者の容態にもよるだろうが、こっちを優先的に考えろ」
「分かりました」
ギルドの執務室から影に潜って、先行したラインハルトを目印にしてマールブルグに向かいます。
ラインハルトが案内してくれたのは、マールブルグの街を望む街道でした。
マールブルグは周囲を山に囲まれた盆地で、街への入り口は、この川沿いの街道がメインで、あとは猟師が辿る山道があるだけだそうです。
周囲の山々からは鉄や銅の鉱石が産出するそうで、それを精錬した延べ板がマールブルグの主産業です。
「すごい建物があるけど、あれは何?」
『おそらくマールブルグ大聖堂でしょうな。ワシらが生きていた頃には、まだ屋根も出来上がっておりませなんだ』
街の中央には、二つの高い塔を備えた大聖堂が建っていて、その前は石畳の広場になっています。
鉱山で切り出された石なのでしょうか、石畳には複雑な幾何学模様が施されています。
広場を取り囲む建物にも石造りのものが多く目立ち、街全体が重厚な感じがします。
「さて、デュカス商会は、どこなんだろう?」
『この広場の近くでしょうが、新興の商会という話ですから、ワシらでは分かりかねますな』
「だよねぇ……ちょっと表に出て、道行く人に尋ねてみる……のは良いんだけど、何だか随分と騒がしくない?」
『新年の休暇は終わってますから、祭ではないと思いますが……さて?』
広場に面した大きな建物の前には黒山の人だかりが出来ていて、なんだかピリピリとした空気が漂っています。
その建物と広場を挟んだ反対側、人通りの無い路地で表に出て、路地を出たところに通りかかった初老の女性に道を尋ねました。
「すみません。デュカス商会に行きたいのですが、道を教えていただけますか?」
「デュカス商会は……その先の道を入って行って、突き当りを左に少し行った所だよ」
「ありがとうございます」
広場から教えてもらった道へ入ると、多くの商店が軒を連ねていましたが、肝心の買い物客の姿が殆どありません。
商店主と思われる中年の男性が、店の前で腕組みをして苦りきった表情を浮かべています。
商店が建ち並ぶ通りを抜けて、教えられた通りに突き当たりを曲がると、そこには人だかりが出来ていました。
「交代の要員は、炊き出しを運ぶのも手伝ってくれ!」
「おい、グズグズすんな!」
「馬鹿野郎、焦ったところですぐに助けられるとは限らないんだぞ」
「だからって、ノンビリなんかしてられっか!」
「長丁場になるかもしれないんだ、俺らが倒れたら話になんねぇぞ!」
「全員、自分達の安全確保を忘れるな! 二次災害なんて起こすんじゃないぞ!」
屈強な体格の男達が、張り詰めた雰囲気の中で動き回っています。
どうやら、そこがデュカス商会みたいなんですが、朝のギルドよりも殺気立っている感じで、ちょっと近寄り難いですね。
『何かあったのかな?』
『おそらくですが、鉱山で事故が起こったのでしょう』
『そうか、この人達は救出に向かう人達なんだね』
『ケント様……ちょっと探ってくる……』
『うん、お願いね、フレッド』
フレッドに状況を探ってもらっている間に、僕は指名依頼を済ませてしまいましょう。
意を決してデュカス商会に近づこうとするのですが、人の流れが途切れないので、タイミングが計れません。
「あ、あの……」
「おら、邪魔だ。ガキはウロチョロしてんじゃねぇ!」
「す、すみません」
デュカス商会の中でも多くの人が動き回っていて、扉の端にへばり付いたまま動けなくなってしまいました。
『ケント様、ここはワシが蹴散らし……』
『駄目駄目、ラインハルトが出て来たら大騒ぎになっちゃうよ』
『ならば、影移動で中に入られた方がよろしいのでは?』
『でも、初めて来る家だからね、勝手に入るのは憚られるよね』
扉の端から壁伝いにズリズリと移動して、少しずつカウンターに接近を試みます。
どなたか事務担当の人とでも、話が出来れば助かるのですが。
カニのように横移動を続けていたら、髭面のおっさんと目が合いました。
「そこのガキ! こいつ、何処から入りやがった」
「うひぃ、僕は依頼を受けてですね……」
「依頼だと? 今は取り込んでるから取引は出来ねぇから帰れ!」
「いや、そうじゃなくて……ちょ、ちょっと待って!」
ノシノシと歩み寄って来たおっさんに、襟首を掴まれて吊るし上げられました。
てか、Sランクになってもこの扱いなんでしょうかね。
「ちょ、ちょっと待って下さい、僕は依頼を受けてヴォルザードから来たんです」
「だから、取引はやってねぇって言ってんだろうが」
「そうじゃなくて、デュカス商会からの依頼です」
「デュカス商会からの依頼だと?」
扉から通りに放り出される直前で、髭面の足が止まりました。
「ヴォルザードに依頼を出したなんて聞いてねぇぞ」
「そんなはずは無いです。ギルドを通した正式な指名依頼です」
「指名依頼だぁ? ギルドの指名依頼ってのは……」
髭面が、再び僕を放り出そうとした所で、店の奥から声が掛けられました。
「手を離せ、ルゼック!」
「ラコルさん、こいつを知っていらっしゃるんで?」
「いいから、さっさと手を離せ、馬鹿者!」
「へ、へい……」
声を掛けて来たのは、イロスーン大森林で出会った時に、御者を務めていたラコルさんでした。
「ケントさん、大変失礼いたしました。それにしても早馬を仕立ててヴォルザードまで依頼を出したのが三日前なのに、こんなに早く見えられるとは思っておりませんでした」
「僕は、影を使って普通の人より早く移動が出来るので……それよりも依頼の件ですが」
「そうでした。引き受けていただけますでしょうか?」
「勿論、そのつもりでお伺いしました」
「ありがとうございます。では、どうぞこちらへ……お前達、何を突っ立ってるんだ、ボヤボヤするな!」
さっきまでは、あれほど忙しなく動き回っていた人達が、不思議そうな顔で僕を眺めていましたが、ラコルさんに一喝されると慌てて動き始めました。
どうやらラコルさんは、デュカス商会では重要な役職のようですね。
「ケントさん、その髪はどうされましたか? 以前は黒髪でいらしたので、一瞬どなたなのか分かりませんでした」
「あぁ、これは色々ありまして……」
「そうですか、ケントさんほどの方であれば、我々には話せない事情もおありでしょう。どうぞ、こちらです」
店の奥へと案内されるほどに、漢方薬のような匂いが強まっていきます。
こちらの世界の薬は、地球ほど科学的に作られたものではありませんが、種類によっては強力な効果を発揮します。
その薬をもってしても回復しないのですから、かなり状態は深刻なのでしょう。
ラコルさんは、奥まった一室の扉をノックしました。
「旦那様、ヴォルザードからケントさんが見えられました」
「何っ、本当か? すぐにお通ししろ!」
「ケントさん、どうぞ、中へ……」
「失礼しま……うっ」
思わず扉を入った所で足を止めてしまうほど、室内は暑いほどに暖房が焚かれ、薬の匂いが充満していました。
二十畳ほどはありそうな大きな部屋の奥にはベッドが置かれ、蒼いを通り越して白く見えるほどの女性が寝かされ、その脇にやつれた表情の男性が椅子に腰掛けています。
「何をしておる! 薬湯の気が逃げてしまうではないか、さっさと戸を閉めろ!」
「えっ、は、はい。すみません……」
ベッドの脇にはもう一人、仕立ての良さそうなシャツを腕まくりして、額の汗を拭っている神経質そうな男がいました。
「オルレアン殿、何者だね、この少年は」
「彼は、ヴォルザードの治癒士で……」
「何ですと! 貴方は私の治療が信用出来ないとでも仰るつもりですか?」
「いや、そういう訳ではないが、このままでは妻の命が……」
「奥方の命を救うために、こうして私が死力を振り絞って治療を続けているのではありませんか! それを、このような子供に頼るなど……」
どうやら、この神経質そうな男が、シビルさんの主治医なのでしょう。
ベアトリーチェの腐敗病を治療した時には、ヴォルザードの治癒士が休息している最中だったので揉めずに済みましたが、治癒士の立場からしてみれば、僕みたいな子供がしゃしゃり出て来たら、反発するのも当然でしょう。
「あのぉ……お邪魔でしたら帰りますけど……」
「とんでもない! 帰られては困ります。バッケンハイムの高名な治癒士でさえ匙を投げたリシルお嬢様の治療をなさった腕前で、どうかシビル様をお助け下さい」
出直して来ようかと思ったら、ラコルさんに凄い剣幕で引き止められてしまいました。
「どうするのだね、オルレアン殿。このような子供に頼ると仰るなら、私は帰らせてもらいますぞ」
「いや、お待ち下さい。いま先生に帰られては……」
「ならば、その子供を……」
「旦那様、リシルお嬢様はケントさんのおかげで……」
「分かっている。だが……」
「オルレアン殿、どうするのかね?」
いい歳をした大人が言い争っているのを見て、プチーンと切れちゃいました。
「うるさいよ。病人が居るんだぞ、お前ら全員黙ってろ!」
「何だと貴様、私はバッケンハイムで修業を積んだ……」
「ラインハルト、こいつ摘まみ出して。バステン、窓を開けて」
『畏まりましたぞ!』
『了解です、ケント様』
「なっ、ス、スケルトン……」
闇の盾からヌルリと抜け出して来た二体のスケルトンに、三人は絶句して硬直しています。
バステンが素早く窓を開け放ち、その窓からラインハルトが治癒士を庭に放り出しました。
「彼らは僕の眷族です。皆さんに危害を加える事はありません。それよりも治療をさせて下さい」
「わ、分かった。お願いする」
ベッドサイドに歩み寄ると、シビルさんはヒューヒューと喉を鳴らして苦しげに呼吸していました。
「失礼しますね……」
治癒魔術を使うために布団を剥ぐと、シビルさんはスケルトンかと思うほどに痩せ細っています。
薄い胸に両手を当てて治癒魔術を流すと、リシルちゃんの症状を数段悪化させたような酷い状態でした。
肺にはいくつかの腫瘍もあり、全身を巡らせた治癒魔術の手応えからは、他の臓器への転移も感じられます。
転移病巣も気になりましたが、今は呼吸を安定させる方に集中します。
肺から気管へと重点的に治癒魔術を流してやると、苦しげな喉鳴りも止み、頬にも少し赤みが差しました。
「おぉ、素人の私でも容態が良くなってると分かるほどだ! これほどとは……」
「旦那様、やはりケントさんに頼られて正解でした」
全身の状態を完治させるには、また倒れ込むほどに治癒魔術を使わないと駄目そうで、明日の帰還作業も考慮して、一旦治療を切り上げます。
「ふぅ、とりあえず胸の状態は治療いたしましたが、他の臓器の状態も思わしくありません。あと数回の治療をする事になりますが、よろしいでしょうか?」
「勿論です。どうか妻を助けてください」
深々と頭を下げたオルレアンさんの要請に応えて、治療を継続することにしました。
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