第229話 東京だよメイサちゃん
ここは魔法の国だ。
ケントは、ニホンには魔術も魔法も無いなんて言ってたけど、嘘だ。
「ミオ、なんで絵が動いてるの?」
「これはアニメって言って、いーっぱい絵を描いて、それを凄いスピードで映してるんだって」
「ふーん……」
全然分かんない。分かんないけど、凄く楽しいのは分かる。
絵が動いて、喋って、音楽が鳴って、女の子が変身して、歌って、悪い奴らをやっつける!
こんな凄い魔術士は、ヴォルザードどころかランズヘルト中を探したって居やしない。
テレビって凄い、ディーブイディーって凄い。
ミオの部屋には、見た事も無いものが沢山あった。
まず驚いたのは、本が沢山置いてあった事だ。
ニホンでは、こんなに本を読んで勉強しなきゃいけないのかと思ったら、ミオが可哀相になったし、ケントが算術が得意なのも当然だと思った。
「メイサちゃん、漫画読む?」
「マンガ? ううん、勉強は、ちょっと……」
「違うよ、勉強じゃなくて漫画だよ」
ミオが、本を一冊取り出して見せてくれた。
本当に勉強じゃなかった。
楽しい絵が沢山あって、台詞があって、物語になっていた。
楽しくて、楽しくて、読むのが止められなくなった。
「ミオ、これの続きは?」
「ごめん、それが一番新しいので、続きはまだ出てないんだ」
「えぇぇ……この後どうなるの? 続きが読みたい!」
「私だって読みたいけど、まだ売ってないから無理だよ」
漫画は専門に描いている人がいて、沢山売られているのだとミオが教えてくれた。
ミオの部屋に置いてある、何十倍も何百倍も、もっと、もーっと沢山売られているらしい。
「そんなに沢山、死ぬまでに読みきれないよ」
「そうなんだよねぇ……ずーっと漫画読んでいたいけど、勉強しないとママが怒るし」
「うちも、お母さんに宿題やったのかって、いっつも言われてる」
「おんなじだね。日本も、ヴォルザードも」
「うん、おんなじ!」
ニホンとヴォルザードは全然違うみたいだけど、ニホンでも、ヴォルザードでも子供は大変なのだ。
「美緒、メイサちゃん、ちょっとお買い物に行こうか?」
「行く! メイサちゃんも行こう!」
「うん!」
ヴォルザードからは、直接ミオの家の中へ入ってしまったので、外の様子は見ていなかったけど、家の外もビックリの連続だった。
「ミオ、この箱はなぁに?」
「これはエレベーターって言って、階段を上り下りしなくても良い機械」
「へぇ……うわぁ、動いた?」
「大丈夫、三階だからすぐに着くよ」
ビックリしてミオにしがみ付いてしまったけど、三階から一階まで、歩かずに下りられてしまった。
大きな玄関を出ると、舗装された道に木が植えてある。
「わっ、馬が居ないのに車が走ってる」
「あれは自動車って言って、機械の力で走るんだよ」
「凄い……」
馬が引いていなくても走る車が、次々と走って来る。
ガラガラと大きな音もしないし速い。
「メイサちゃん、こっちだよ、行こう!」
「う、うん……」
ミオに手を引かれて歩いていったら、腰がぬけそうになった。
「ねぇ、ねぇ、ミオ、あれは、お城なの?」
「ううん、あれはマンションって言って、普通の家が沢山あつまったものだよ。うちも同じだったでしょ」
「えっ、領主様が住んでいるんじゃないの?」
「ううん、普通の家だよ。ほら、あっちにも、こっちにもあるでしょ」
「うん、凄い……ふぅ……ふぅ……」
「メイサちゃん、なんか鼻息荒いよ」
「うん、分かってる。けど、止められない……」
これ以上開かないくらい目を見開いているし、鼻息も荒くなっているって分かってるけど自分では止めようがない。
広い道が交わる所から、凄く高い建物が見えたから、てっきりお城だと思ったのに、普通の家なんだって。
こんな高い建物なんて、見たこと無いし、聞いたことも無い。
「美緒、明日はメイサちゃんをスカイツリーに連れて行ってあげようかと思っているんだけど、どうかな?」
「うん、行こう、メイサちゃん、きっとビックリするよ」
「スカイ……?」
「スカイツリーって言って、すっごく高い塔があるんだ」
「あの建物よりも高いの?」
「うん、あの十倍以上!」
「うっそだぁ……だって、あれ十……二十階以上あるよ」
「うん、でも行けば分かるよ」
ミオは自信満々だけど、そんなに高い建物があるなんて信じられない。
でも、買い物をしに行った店を見たら、本当なのかもと思ってしまった。
「何これ……全部お店なの?」
「そうだよ、ママ、何から買うの?」
「まずは、メイサちゃんのお洋服ね」
「えっ、私の……?」
「明日は、お出掛けするし、着替えも無いでしょ?」
「うん……」
しまった、ニホンに来ることで頭が一杯で、着替えのことなんかすっかり忘れていた。
帰ったら、またお母さんに怒られちゃいそうだ。
帰った後のことを考えたら、少し憂鬱になってしまったけど、ショッピングモールという店の中を歩いていたら、すぐに忘れてしまった。
「階段が動いてる……」
「エスカレーターだよ、まずは上だって……」
「う、うん……」
ヴォルザードで一番大きなお店、オーランド商店の何倍も何十倍もの広さがあって、見たことも無いキラキラした飾りが沢山付けられている。
服の売り場も。広くて、種類が沢山あって、何よりも色がめちゃくちゃ綺麗だった。
「動きやすいから、キュロットの方がいいかしら?」
「ねぇねぇ、ママ、あっちのは?」
「あっちはパーティーとか卒業式のためね。遊びに行くにはちょっと固過ぎるわ」
「ねぇねぇ、メイサちゃんは、どんなのがいい?」
「うん……凄い……」
「そうじゃなくて、どんな服が良いの?」
「ふぇっ、えっ、服?」
「もうメイサちゃん驚きすぎだよ」
「だって……凄いんだもん」
驚くな……なんて無茶な話だ。
子供用の服が、こんなに置かれている店なんて知らないし、何を選んだら良いのかも分からない。
そもそも、私は自分の服を買いに行った記憶が無い。
食堂の常連さんや、近所の人から貰ったお下がりばかりだ。
領主様の御屋敷のパーティーに呼ばれた時の服も、ベアトリーチェさんのお下がりだ。
ミカさんとミオに全部任せたけれど、何だか疲れてしまった。
服を買うのは楽しいけど、大変だ。
「晩御飯はピザを頼むから、ケーキを買って帰りましょう」
「やったぁ! メイサちゃんは何が好き? 苺のショートケーキ? それともモンブラン?」
「えっ、ケーキって種類があるの?」
ケーキは、ドライフルーツを混ぜた生地を焼いたケーキしか知らなかったけど、ミオに連れられていった店には、色とりどりのケーキが並べられていた。
「メイサちゃん、どれにする?」
「ぜ、全部……」
「さすがに全部は無理ね。違う種類を買っていって、分けて食べましょうか」
どれにするかと聞かれても、みんな美味しそうだし、とても決められそうも無かった。
ミカさんが、選んでくれたけど、私一人だったら明日までかかっても決められなかったと思う。
食料品が売っている階は、もの凄く良い匂いが漂っていた。
うちのお母さんの料理が一番美味しいはず……なんだけど、見たことの無い料理やお菓子が沢山売られていて、領主様の御屋敷で美味しい物を一杯食べたのに、お腹が鳴りそうだった。
買い物を終えて店の外に出てくると、人がゾロゾロと出て来る場所があった。
「地下鉄の駅だよ。明日は、ここから地下鉄にのってスカイツリーに行くんだよ」
「チ、チカテツ? 何それ?」
「えっとね、地面の下にトンネルを掘って、そこに線路を敷いて電車が走ってるの」
「センロ? デンシャ?」
「えっと……あとでタブレット使って説明してあげる」
「タブ……?」
家に帰ってからミオがタブレットを使って見せてくれた。
インターネットって凄い。
「これが、この辺りの地図ね……ここが家で、さっきのお店がここ」
「う、うん……」
「で、これが空から撮った写真」
「何これ……」
「メイサちゃん、写真は分かるよね?」
「う、うん……それで、写すってケントが言ってた……かな」
「うん、デジカメとかスマホとかで撮れるやつを空から撮ったやつ」
「空から? どうやって?」
「飛行機に乗って撮ったんだと思う」
「ヒコウキ?」
ビックリした。ニホンの人は空を飛べるらしい。
飛行機とかヘリコプターという道具を使って空を飛んで遠くまで行くそうだ。
この街には地下にも道が通っていて、そこを地下鉄という道具が走っているそうだ。
街の広さもヴォルザードとは比べ物にならないほど広いみたいだ。
「地下鉄は明日乗れるし、スカイツリーの上からなら街の様子が良く見られるよ」
「うん、うん、凄い、凄い、ふぅ……ふぅ……」
テレビを見ながら、ピザを食べた。
色んな味があって、どれも美味しくて、テレビは楽しくて、ミカさんも、タダオさんも優しくて、明日のお出掛けも楽しみでしょうがない。
ミオの家に来てから、ずっと興奮が収まらない状態だった。
熱が出た。
ミオとお風呂に入って寝巻きに着替えたら、フラフラして気持ち悪くなって、立てなくなってしまった。
「興奮しすぎて、身体がビックリしちゃったのね。ゆっくり休めば大丈夫でしょう」
「ミカさん、熱が下がらなかったら、お出掛け出来ない?」
「そうねぇ……ちょっと難しいかもね」
「やだ、お出掛けしたい……うぅぅ……」
「それじゃあ、大人しく寝ましょうね」
「うん……」
ぜったいぜったい、ミオとお出掛けするんだ。
地下鉄に乗って、スカイツリーに行くんだと思うほど、具合が悪くなっていく気がした。
何度かミカさんが様子を見に来てくれたけど、その度に笑顔が雲っていくのが分かった。
お出掛けしたいのに、駄目なのかなぁ。
「わふぅ、ご主人様を呼んでくる」
「えっ、ちょっと、コボルトちゃん……」
ミカさんが呼び止めようとしたけど、返ってきた返事はマルトの声じゃなかった。
「こんばんは、お邪魔しても大丈夫ですか?」
「ケント! ケント、ケント!」
「ごめんなさいね、ケントさん。こんな時間に……」
「いえ、ヴォルザードはもう夜が明けてますから大丈夫ですよ」
「ケント……お出掛けしたい、地下鉄、スカイツリー……」
「はい、はい、まったくメイサちゃんは世話が焼けるねぇ……」
ケントは苦笑いをしながら治癒魔術を掛けてくれた。
胸に置かれたケントの手から、優しい魔力が流れ込んでくるみたいで、苦しいのがスーっと消えていった。
「じゃあ、僕はこれで……」
「やだ、帰っちゃやだ……」
ケントがヴォルザードに戻ってしまいそうだったので、シャツの端を握って引き止めてしまった。
何だか心細くて、一緒にいてほしかった。
「はぁ、しょうがないなぁ……美香さん、朝まで付き添ってますけど、良いですか?」
「ごめんなさいね。お願い出来るかしら?」
「はい、メイサちゃん、おねしょも、涎も無しだからね」
「しないもん、そんなのしないもん……だから、帰っちゃ駄目なの」
「はい、はい、分かりましたよ」
ベッドに入って来たケントにギューってしがみ付くと、ケントの匂いがした。
うちに下宿しに来た頃は、ポヨポヨしてたのに、今は筋肉が付いてガッシリしてる。
ケントに寄り掛かったら、すぐに眠ってしまったみたいだった。
目が覚めた後も、ケントは一緒にいてくれた。
「唯生さん、僕も一緒にスカイツリーに行っても良いですかね? 実は、まだ上ったことが無いんですよ」
「あぁ、それなら一緒に行こう、その方が我々としても安心だからね」
「ケントも一緒に行くの?」
「うん、駄目かな?」
「駄目じゃない、駄目じゃない、やったーっ!」
昨日だって、ミカさんやミオと一緒なら何の心配も無かったはずなのに、ケントが一緒だと凄い安心する。
きっとケントの近くには、ラインハルトのおじちゃんも一緒に居てくれるからだな。
地下鉄の駅は、その名の通りに地下にあるらしい。
「ねぇねぇケント、ここはダンジョンじゃないんだよね」
「あぁ……どうかなぁ、今日は魔物は出ないかなぁ……」
「ひぅ……魔物が出るの?」
「どうかなぁ……出ないかなぁ……」
ちょっと心配になったらミオが教えてくれた。
「メイサちゃん、地下鉄には魔物なんか出ないよ」
「えっ、そうなの? もう、ケントの意地悪!」
「ぶほぉ……メイサちゃん、パンチは酷くない?」
「ふんだ……ケントのくせに生意気……うわぁぁぁ、何あれ」
「あれが地下空間に巣食う魔物、オオエドセン……ぶほぉ!」
「ちょっと驚いただけだもん、昨日ミオがタブレットで教えてくれたもん」
昨日教えてもらったけど、実物を見ると迫力が違っていて、ドアが勝手に開いたり、凄いスピードで走ったり、ビックリの連続だった。
「ねぇねぇケント、この道はずーっと繋がってるの?」
「そうだよ。東京の地下には何本も地下鉄の線路が走ってるんだよ」
「ぶつかったりしないの?」
「線路を作る深さを変えているから大丈夫」
「そっか……」
地下鉄に乗っている人は、みんな小さなタブレットを見ている。
「ねぇねぇケント、みんな何を見てるの?」
「えっと、あれはゲームをやったり、SNSの書き込み、伝言板みたいなものを見てるんだよ」
「ふーん……」
地下鉄は、かなりのスピードで走っているから、距離も相当進んでいるはずだけど、景色が変わらないから少し退屈だった。
途中で別の地下鉄に乗り換えたけど、ダンジョンの探索もこんな感じなのかな。
「ねぇねぇケント、ダンジョンの中もこんな感じなの?」
「ううん、ヴォルザードのダンジョンは、もっと暗いし、岩がゴツゴツしてるし、魔物も出るからこんなに快適じゃないよ」
「そっか……そうだよね。こんなに安全だったら戻って来ない人なんか居ないもんね」
地下鉄を降りて地上に出ると、何も危なくなかったのにホッとした。
地上には広い道があって、また馬無しの車が沢山走っていた。
「メイサちゃん、ほら、スカイツリーだよ」
ケントが指差す方向に目を向けて、声も無く固まってしまった。
見上げると首が痛くなりそうなほど高い塔が建っていたのだ。
「ケント……上には神様が住んでるの?」
「ううん、これはテレビの電波を飛ばすための塔だからね。これから、あの上の展望デッキまで上るよ」
「上まで? 上る準備なんてしてないよ」
「大丈夫だよ、エレベーターに乗ればすぐだから」
スカイツリーは、近くに行くほどに高く見えて、塔の根本まで来ると上を見るには思い切り仰け反らないといけなかった。
もうエレベーターに何度か乗ったから大丈夫だと思ったけど、駄目だった。
「ケント、耳が痛い……」
「メイサちゃん、唾を飲んでみて、ゴクって感じで」
「あっ、治った。何で?」
「うん、気圧の関係なんだけど、説明が難しいから、そういうものだと思っておいて」
「ふーん……分かった」
エレベーターを降りた先は別世界だった。
たぶん、ヴォルザードどころか、ランズヘルトや大陸中を探したって、こんな高い所から街を見下ろした人なんて居ないはずだ。
「ケント、あれ、車なの?」
「そうだよ。人が歩いてるのが見えるかな?」
「豆粒よりも小さく見える」
「はっはっ、見ろ、まるで人がゴミのようだ!」
「何それ……」
「えっ、高い所に来た時のお約束?」
「変なの……」
なんかケントがガックリして、ミオたちが苦笑いしてた。
最初にエレベーターを降りた所が三百五十階で、次のエレベーターを降りた所が四百四十五階、そこから展望回廊を歩いて四百五十階まで上がった。
「ケント、ずーっと街が広がってるよ。こんなに広いの?」
「うん、東京は日本で一番広い都市だからね。リーゼンブルグの王都よりも何倍も広いし、街並みは隣の埼玉や千葉、神奈川まで広がってるからね」
「へぇ……どのぐらいの人が住んでるんだろう」
「えっと確か……」
「千三百七十万人ぐらいだね」
タダオさんが教えてくれたけど、私では想像もできない数字だった。
展望回廊で、ミオやケントと一緒にいっぱい写真を撮ってもらった。
後でプリントしてくれるそうだけど、プリントって何だろう。
展望台を下りた後、水族館に連れていってもらった。
見たことも無い大きな水槽で、私よりも大きな魚が泳いでいた。
ペンギンという飛べない鳥や、オットセイという動物もいた。
あとクラゲ、いっぱいフワフワしてて面白い。金魚も綺麗だった。
水族館の中でも、いっぱい写真を撮ってもらった。
また地下鉄に乗ってミオの家まで帰った所で、ケントはヴォルザードに戻ることになった。
「また明日の今ぐらいの時間に迎えに来るからね」
「ケント、ホントに帰っちゃうの?」
「あれあれぇ、メイサちゃん僕が居ないと寂しくて眠れないのかなぁ」
「そ、そんな事ないもん。一人だって眠れるもん」
「マルト達は、影の中で見守ってるから大丈夫だよ。じゃあ美香さん、お願いしますね」
ケントが帰った後、ミオがテレビゲームを教えてくれた。
手元のボタンを押すと、画面の中の人が動いて凄く面白い。
うん、ケントは居なくても大丈夫だ。
二日目は、タダオさんが運転する車に乗せてもらって空港に行った。
本当に空を飛ぶ道具があって、山のむこう、海の向こうの外国までも飛んでいくらしい。
ケントは魔法は凄い、魔術は凄いって言うけど、機械の方が全然凄い。
新宿という場所には、凄い高い建物がいくつも建っていたし、地上を走る地下鉄も沢山走っていた。
凄い数の車、凄い数の人、目が回りそうだった。
いつまでも遊んでいたかったけど、あっと言う間に時間が経ってケントが迎えに来た。
もうヴォルザードに帰らなくちゃいけない時間だ。
お母さんへのお土産に、ケーキも買ってもらった。
「メイサちゃん、また遊びにいらっしゃい」
「漫画、新しいの買っておくからね」
「うん、お世話になりました。またヴォルザードにも遊びに来て下さい」
「じゃあ、下宿の裏に送るからね。唯生さん、美香さん、美緒ちゃん、どうもありがとうございました」
「国分君、唯香をよろしく頼むよ」
「はい、では……」
ケントが先にヴォルザードに戻って、その直後に私も召喚された。
一瞬で目の前の景色が変わるのは、やっぱり変な感じだ。
「あれ、ケント、真っ暗だよ」
「まだヴォルザードは夜明け前だからね」
「おかえり、メイサ。楽しかったかい?」
「お母さん!」
少し眠そうな目をしたお母さんが迎えてくれた。
飛びつくと、いつものボリューム満点のお母さんだった。
「凄かったんだよ、ずーっと、ずーっと高い所から街を見下ろしただんよ。大きな水槽に大きな魚と、クラゲと、金魚も居てねぇ……」
「そんなに慌てて話さなくても、あたしは逃げたりしないよ。さぁ、家に入ろうか。ケントも色々すまなかったね」
「いえ、僕もけっこう楽しませてもらいましたから」
「お母さん、ニホンには地下鉄っていうのが走っててね。馬が引いていない車も沢山走ってて、飛行機が空を飛んでるんだよ」
「へぇ、そりゃビックリだねぇ……」
「でしょう!」
ニホンの話をいっぱいしたけど、お母さんが一番驚いていたのはお土産のケーキだった。
うちの食堂でも出せるように研究するって言ってけど、上手くいくのかなぁ……。
あーあ、帰って来たばかりだけど、またニホンに行きたいなぁ。
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