第208話 ミューエルの悩み

 外出から戻った加藤先生に事情を説明すると、一応の理解はしてもらえましたが、やはり日本への帰還作業などが遅れている事について小言を貰ってしまいました。


「国分が、こちらでの生活を望んでいる事も知っているし、我々も世話になっている手前あまり強くは言えないが、もう少し他の者の事も考えてくれ。春川を帰還させてから、もう二週間になるからな、このままのペースでは全員の帰還を終えるのが何時になるか分からんぞ」


 確かに、毎日一人帰還させたとしても、二百人だと半年以上先になりますし、それが二週間に一度なんて事になったら、何年も先の話になってしまいます。


「先生、内閣官房の梶川さんからは、暫く日本には戻らないでほしいと言われたんですが、どうしましょう。僕としても帰還作業は進めたいとは思っているんですが」

「そうだな……その梶川という人と話せないか?」

「それは大丈夫ですよ。ちょっと待って下さい」


 影収納からスマホを取り出して、梶川さんに電話を掛け、加藤先生と代わりました。

 加藤先生から、帰還が進まずに生徒は勿論、教師にもストレスが溜まっている現状が訴えられた結果、帰還作業は進める事になりました。


「それで国分、次の帰還作業はいつにする?」

「はい、今日はちょっと病み上がりで本調子ではないので、出来れば明日以降にしてもらいたいんですが……」

「そうか、ならば明日の朝……」

「ちょっと待って下さい。時差が大きくなってるんで、こっちの朝だと日本はまだ夜中になっちゃいます」

「そうか、ならば明日の午後にするか」

「むしろ夕方ぐらいで、日本の午前中になるはずです」

「分かった、明日の夕方、水属性の女子で良いな?」

「はい、水属性さえ手に入れば、その後の帰還作業は楽になるはずです」


 魔力の吸出しは、僕が持っていない属性の人に行うと、拒絶反応が起こって身体の具合が悪くなります。

 僕が持っている属性の人であれば、魔力の奪取は比較的容易ですし、時間も拒絶反応も少なくて済みます。


 それと、魔法陣を用いた魔法は、人が発動させる魔術の劣化版だと言われているので、召喚術式の上位版のような魔術が使えるようになる可能性があるのです。

 二百人を一度に召喚するのは無理だとしても、五人とか十人とかを一度に移動させられるようになれば、帰還も一気に進められるはずです。


 明日の夕方、帰還作業を行う事を約束して、下宿へ戻る事にしました。

 委員長とは守備隊の食堂で一緒にお昼を食べてから別れて、下宿までは影に潜って移動しようかと思いましたが、少し寄り道をして行く事にしました。


 一軒目の寄り道は、雌鶏亭で、お目当てはクッキーの詰め合わせです。

 ヴォルザードに来た当初、リーブル農園に住み込みで働いた時以来、初めてと言えるほど長期に下宿を留守にしたので、ちょっとした手土産でメイサちゃんのご機嫌を取ろうという魂胆です。

 クッキーを三箱ほど購入して、次の店へと向かいます。


 もう一軒の寄り道は、薬師コーリーさんのお店です。

 魔力の回復を助ける薬や、眠り薬が無くなってきたので、補充しておかなければなりません。


 それと、ブースターほど強い効き目でなくて良いので、寝込まないで済むマジックポーションのようなものが無いか聞いてみるつもりです。


「こんにちは……あれっ?」

「ちっ……何か用か、チビ助」


 裏通りの小さな薬屋の扉を開けると、店番をしていたのは魔女のようなコーリーさんでも、魅惑の猫耳天使ミューエルさんでもなく、いかにも退屈そうな顔をしたギリクでした。

 てか、お店に入って、いきなり舌打ちされたのなんか初めてですよ。


「何か用って、薬を買いに来たに決まってるじゃないですか」

「ふん、どうだかなぁ……」


 まったく、こっちはお客なんだから、愛想良くしろとまでは言わないけど、普通の対応が出来ないもんかねぇ。

 これじゃあお客さん逃げ帰っちゃうよ。


「八分の一サイズの眠り薬を百粒と、八分の一サイズの魔力の回復を助ける薬を二十粒、お願いします」

「ふん、ちょっと待ってろ。婆さん、客だ!」


 ギリクが店の奥に向かって声を張り上げると、返事が戻って来ました。


「手が離せないから、ちょっと待ってもらいな」

「だとよ……」


 ギリクは椅子に腰掛けたまま、カウンターに頬杖をつくと、明後日の方向へ視線を向けたまま黙り込みました。

 普通はさぁ、お客さんに椅子を勧めるもんじゃないの?


 てか、薬を数えて袋に詰めて、代金計算して受け取る程度、出来ないのかね。

 店の奥からは、内容までは聞き取れませんが、コーリーさんが指示する声に、誰かが答えている声が聞こえてきます。


「あの……コーリーさんは……」

「うるせぇ、今、ミュー姉が調合を習ってるんだ、黙って待ってろ!」

「はぁ……」


 やる事も無く、ぼーっと店の中に立っていると、腰を下ろすのに丁度良い高さの箱が影の中から出てきました。

 箱に腰を下ろすと、ひょこっとマルトが顔を出して、早く撫でろと頭を擦り付けてきます。


 マルトを撫でてあげると、次はミルトが顔を出し……あぁ、このパターンですか、そう言えば、ニブルラットとの戦いの後、眷族のみんなを労っていませんでしたね。

 薬の買出しを終えたら、魔の森……いや新居用に切り開いた土地に行って、みんなを労いましょうかね。


 マルト、ミルト、ムルト、ゼータ、エータ、シータ、ネロを順番に撫でていると、コーリーさんが店の奥から出て来ました。

 僕が立ち上がると、ムルトが箱を抱えて、ペコっとコーリーさんに頭を下げてから、影に潜って行きました。


「ひっひっひっ、今のがお前さんの眷族ってやつかい? まったく面白い子だねぇ」

「ご無沙汰してます、コーリーさん。また眠り薬と魔力の回復を助ける薬を買いに来ました」


 コーリーさんは、僕が注文した量を聞いてニタっと口元を緩めました。


「ひっひっひっ、何だい、またどこかと戦争でも始めるつもりかい?」

「まぁ、そういう事態も無いとは言い切れないんですが、盗賊の捕縛とかには欠かせないアイテムになってるので、常備しておこうと思っています」

「そうかいそうかい、やっぱりお前さんは良いお得意様だねぇ、ほれギリク、邪魔だよ、お退き!」


 ギリクは舌打ちすると、店の奥へと入っていきました。


「まったく図体ばっかり大きくなって、役に立たないんだから」

「あの、ギリクさんは、コーリーさんの代わりに薬を売ったりしないんですか?」

「あんなガサツな男に、私が整えた棚を触らせる訳ないだろう」

「なるほど、それで置物みたいになってたんですね」

「番犬代わりにはなるだろうが、もうちょっと苦労したり、痛い目を見ないと良い男にはならないよ。まぁ、ミューエルの尻を追いかけているようじゃ駄目だねぇ……」


 言われて見れば、ギリクってミューエルさんとセットという感じですもんね。

 ミューエルさんと採集に出掛けて、ミューエルさんの講習を覗き見して、ミューエルさんの師匠であるコーリーさんの店に入り浸っている。


「討伐の依頼とか、ダンジョンに潜るとかしないんですかねぇ……」

「さぁねぇ……それは私の知ったこっちゃないね」


 確かにコーリーさんは、ギリクの保護者でもありませんし、知った事ではないのでしょう。


「そう言えば、寝込まないでも済むブースターみたいな薬とか、ありませんかね?」

「ひっひっひっ、何だい、ブースターを使ったのかい? サラマンダーを一人で倒して、ストームキャットまで侍らせてるんだろう。一体何と戦ったのさ?」

「えっと……ギガースと戦った後で、ニブルラットの大群とヒュドラですね」

「あーはっはっはっ、こいつは傑作だね。お前さんは本当に面白い、冗談を言うなら、そのぐらいのスケールが無くっちゃいけないよ」

「はぁ……ありがとうございます」


 どうやらコーリーさんは、ギガースもヒュドラも冗談だと思ったみたいですね。

 まぁ、本当ですって言っても信じてもらえるか分かりませんけど。


「それで、ブースターを使った後はどうしてたんだい? それこそ置物みたいだったろう?」

「うっ……その話は、聞かないで下さい」

「あーはっはっはっ、大方、嫁候補の世話になったんだろう……下の方まで」

「ぐぅ……だから、寝込まないで良いブースターは無いんですか?」

「生憎そんな都合の良い物は無いよ。この世の中は、何かを手に入れるには、別の何かを差し出さなきゃいけないものなのさ。働かなけりゃ、金は手に入らない。愛さなきゃ、愛されない。何のリスクも無しに、成果だけを手に入れることなんざ出来やしないよ」


 笑いを引っ込めたコーリーさんの言葉には、長い年月を生きてきた人の重みがありました。


「コーリーさん、ブースターも売っていただけますか?」

「ふむ……そうだねぇ、ブースターを使ってみてどうだったい?」

「正直に言って、出来れば使いたくないです」

「ほう、そりゃまた、どうしてだい?」

「何て言うか、凄い魔力が手に入るんですが、魔力に振り回されて自分が自分でなくなっちゃうような気がして、何度も使っていたら歯止めが効かなくなるような気がします」

「薬が切れた後も、大変だろう、ひっひっひっ」

「はい、もう情けなくて……一生頭が上がらないですよ」

「まぁ、お前さんならば、売ってやっても大丈夫だろう」

「それって、何か副作用があるって事でしょうか?」

「もともと、切れた後の状態が、副作用と言えば副作用だからね。乱用しようとする者は滅多に居ないけど、全く居ない訳ではないんだよ」


 コーリーさんの話では、ブースターは戦場に出向く兵士のために作られた薬なんだそうです。

 こちらの世界の昔の戦争は、夜明けと共に戦いが始まり、日の入りと共に一日の戦いを終えていたそうで、その最前線に立つ兵士にブースターが与えられていたそうです。


 与えられた兵士は、一日の戦闘の間、常に身体強化を掛け続けてたり、攻撃魔法を放ち続けたり出来ますが、効き目が切れると使い物にならなくなる。

 その為、前線兵士の何割にブースターを投与するとか、どのタイミングで投与するとかが勝敗を分けたりもしたそうです。


「ブースターを使った時に感じる全能感に、一部の者は溺れてしまうという訳じゃよ」

「でも、効き目が切れてしまったら寝込む事になるのですから、戦場では使いにくいのではありませんか?」

「その通りさ。薬の効き目が切れると拙い、ならばどうする?」

「えっ、薬の効き目が切れなくする方法ですか? まさか、飲み続けるとか……」

「そのまさかさ、遠い昔には、戦場でブースターを飲み続けて戦った者がおったそうじゃが、その反動でどうなるかは、使ってみたなら分かるじゃろう」


 魔力が無限に沸き上がって来るような高揚感、全能感、それが切れた時の虚脱感と動かない身体の事を考えたら、それが何倍にもなって襲って来るような状況など考えたくもありません。


「本当に、そんな事が行われていたんですか?」

「さぁて、私も師匠に聞いただけだが、殆どは死兵だったそうさ」

「死兵って……最初から生きて帰らないつもりの兵士って事ですよね?」

「そうじゃよ、ブースターとは、そういう代物さ。それでも買って行くかい?」


 ブースターは、積極的に使いたいと思うような薬ではありません。

 でも、今回のように、他に方法が無い状態では有効な手段なのは間違いありません。


「どうするんだい? 買うのかい、買わないのかい?」

「例えば、魔力の回復を助ける薬を飲み続けたら、ブースターのような効果が得られますか?」

「それは無理だね。あちらは、飲み続けても効果は限定的さ、ブースターのように魔術を使い続ける事は出来ないよ」

「分かりました。ブースターを一本だけください」

「ひっひっひっ、良いね。二本も三本も、などと言い出すようならば売らないところさ、お前さんなら大丈夫そうだね。無茶な使い方だけはするんじゃないよ」


 コーリーさんが、薬を包んでくれていると、店の奥からミューエルさんが出てきました。


「こんにちは、ミューエルさん。お疲れ様です」

「あら、ケント。この前は、採集の護衛をしてくれて、どうもありがとう。凄く助かっちゃった」

「いえいえ、困った時はお互い様ですから」

「なんだい、ギリクが寝込んでいる間にもミューエルが採集に行ってこられたのは、お前さんのおかげかい?」

「いえ、僕が護衛したのではなくて、僕の眷族に護衛を頼んだだけですから……」

「ひっひっひっ、それこそ、お前さんのおかげじゃないかい。頼りになる護衛は沢山引き連れているし、店の売上にも貢献してくれる。やっぱりミューエルも貰ってもらおうかね」

「何言ってやがんだ、婆ぁ! そんなチビ助とミュー姉じゃ釣り合いが取れる訳ねぇだろうが!」


 勿論、冗談で言ってるのでしょうが、ギリクが脊髄反射的に食って掛かったので、コーリーさんはニタリと口元を緩めました。


「ひっひっひっ、釣り合いが取れないどころか、願っても無い玉の輿じゃないのかい。強力な魔物を従えて、ヴォルザードの街を守った英雄、史上最年少のSランク冒険者。どこぞの図体がでかいだけの小僧とは雲泥の差だよ」

「何だと、婆ぁ……」

「おや、どうしたんだい。私は、どこぞの図体がでかいだけの小僧と言ったんだよ。それともギリク、お前がその小僧なのかい?」

「く、くっそ……」


 ギリクは歯軋りがするほどに奥歯を噛み締めると、店の外へと飛び出していきました。


「まったく、いつまで経ってもガキのまんまで、ちっとも成長しないねぇ……このままミューエルにベッタリだと、成長は見込めないだろうよ。若いんだからもっと外に出ていかないと駄目だね」


 コーリーさんの言葉を痛感しているのか、ミューエルさんはちょっと悲しげな表情を浮かべています。


「あの、ギリクさんって、もしかしてヴォルザードを離れた事が無いんですか?」

「うん、薬草採取に出るけど、他の街とかに行ったことは無いはず」


 自分がリーゼンブルグやバルシャニア、バッケンハイムなどへと出掛けているのを自慢するわけじゃないですが、ラウさんに教わったり、自分達で経験しないと分からない事がたくさんありました。


 何も、他の街へと向かう馬車の護衛の方が、ミューエルさんの護衛よりも凄いと言うつもりはありませんが、ずっと同じ日常を続けていたら、冒険者としての経験値は上がっていかないでしょうね。


 俯き加減で物思いに浸っていたミューエルさんは、不意に顔を上げて僕を見つめて来ました。

 その覚悟を決めたような表情は、まさか僕のハーレム入りを希望されるんでしょうか。


「ねぇ、ケント……」

「は、はい、何でしょう?」

「ギリクをヴォルザードの外に連れ出してくれないかな?」


 はいはい、そんな事だろうと思ってましたよ。

 でも待てよ、ギリクを連れ出す条件として、ミューエルさんのハーレム入り……なんて言い出せるわけないですよね。


「そいつは、ケントに頼む事じゃないだろう」


 僕が返事をする前に、コーリーさんが駄目出しをしました。


「家庭の事情で捻くれちまったのは可哀相かもしれないが、あんたが甘やかし続けていたら、何も変わりやしないさね」

「それは、分かってるんですけど……」


 ミューエルさんとしても、今のままでは駄目だと思っているそうなのですが、良いアイデアも浮かばずに困っているようなのです。

 でも、ギリクを独り立ちさせるのなら、代わりの護衛を雇えば良いんじゃないですかね。


「あの、ミューエルさん、採集の護衛に人を雇うとして、どの程度の金額を出せますかね?」

「うーん……頑張っても400ヘルトかなぁ」

「あっ、そうだ……採集の見習いみたいな感じで募集を掛けるって出来るんですかね?」

「採集の見習い? あんまり……というか聞いた事ないよ。薬草の採集は、ギルドの講習で基本的な知識を身に付けて、後は自分で実践しながら覚えていくものだから」


 そう言えば、薬草採取に関する講習もあると、庭師のオーレンさんが言ってましたね。

 でも講習を受けたら即実践で、間違った草とか摘んで来ないんですかね。


「そうか、でも、ギルドに依頼は出せますよね?」

「うーん……たぶん、出せるとは思うけど、誰も応募してこないと思うよ。自分で採集に行った方が稼げる可能性が高いし」

「なるほど、なるほど……見習いだったら350ヘルト、いや300ヘルトに出来高払いみたいにすれば、知識も身に付くし、護衛の経験値も……」

「ケント、何を考えているの?」

「ギリクさんの代わりになりそうな護衛を安く雇う方法ですけど……」

「何か良いアイデアでも思いついたの?」

「上手くいくかどうか分かりませんし、いずれにしても来年になってからの方が良くないですか?」

「そうだね。私も年内はもう採集には行かない予定だから、年が明けたらまた相談しても良いかな?」


 そんな、ミューエルさんに上目使いでチラっと見られながら頼まれちゃったら、断わる事なんて出来ませんよね。


「はい、僕の方も少しガタガタすると思うので、タイミングが合った時に作戦を練りましょう」

「ありがとう、ケントは本当に優しいよねぇ」


 ふぉぉぉぉぉ、ミューエルさんのハグ来た――っ!


「ひっひっひっ、こりゃぁますます、だねぇ……」


 珍しく、何の邪魔も入らずに、ミューエルさんのハグを堪能した後、清算を済ませて下宿へと戻りました。


 アマンダさんのお店は、土の曜日まで営業して、闇の曜日から年末休業に入るそうで、今日はいつも通り営業が行われているはずです。

 今は、夕方の営業前の仕込みの時間で、表戸には準備中の札が下がっていました。


「ただいま戻りました。色々と予定が狂って、ご心配……ふぶぅ!」


 裏口から入って厨房に声を掛けると、ロケットみたいな勢いでメイサちゃんが突っ込んで来ました。


「メ、メイサちゃん……?」

「うーっ……」


 声を掛けても胸の辺りに顔を押し当てて、ギューっとしがみ付き、小さく唸っているだけで返事がありません。


「ケント! あんた、また無茶して三日も寝込んだんだって? まったく心配掛けるんじゃないよ」

「ごめんなさい。ちょっと緊急事態だったので、奥の手を使わなきゃいけなくなりまして……ごめんね、メイサちゃん」

「うーっ……」


 そっと頭を撫でると、ちょっとだけしがみ付いている腕が緩みましたね。

 メリーヌさんが、お茶を淹れてくれたので、ここぞとばかりに雌鶏亭のクッキーで機嫌を取ろうしたのですが、メイサちゃんは膨れっ面のままで、夕方の営業が始まってからも僕の側を離れようとしません。


 ベッドに入ってもマルト達には目もくれず、僕にしがみ付いて来ます。

 暫くの間、猫みたいに顔を擦り付けていましたが、やがて寝息を立て始めました。

 メイサちゃんが寝付いた後で、部屋のドアがそーっと開かれて、アマンダさんが様子を見に来ました。


「すまないね、ケント」

「いえ、大丈夫ですよ」


 日本には、異母妹がいるはずですが、一度も顔を会わせていませんし、メイサちゃんと並べたら、どちらに親しみを覚えるかなんて言うまでもないですよね。


「ケント、あんたにしか出来ない事が沢山あって、色んな国や人から頼りにされている事は良く分かっているけど、ここにもケントにしか出来ない事が有るのを忘れないでおくれ」

「はい、ここがヴォルザードの実家だと思っていますから」

「そうだよ。あんたが家を持って、新しい家庭を築いたとしても、いつでも遠慮せずに帰っておいで」

「はい、ありがとうございます」


 アマンダさんは、僕の頭をクシャっと撫でてから、笑顔を浮かべて戻って行きました。

 さぁ、僕も眠る事にしましょう。


 ブースターの影響がようやく抜けたばかりですし、明日は帰還作業もしないといけません。

 しっかり睡眠をとって、体調を整えておかないといけませんね。

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