第198話 皇女の願い

 イロスーン大森林を抜けると、ヴォルザードまでの道程は残すところ半分となります。

 今日一日は、穀倉地帯を抜ける比較的安全な道程、明日はリバレー峠という難所がありますが、山賊を壊滅させたばかりなので、然程心配は無いでしょう。


 とは言え、リバレー峠には雨後の筍のごとく山賊が湧くそうなので、十分に注意するようにラウさんからも言われています。

 リバレー峠を抜けた翌日の夕方には、ヴォルザードに戻れる予定ですので、もう一度気を引き締めて護衛に専念しよう……そう思っていた矢先に、セラフィマとの連絡役のヒルトが戻って来ました。


「わふぅ、ご主人様、セラフィマがお願いがあるって」

「お願い? 僕に?」

「わぅ、大きな魔物が来て困ってるんだって」

「大きな魔物って、まさかグリフォン?」

「ううん、もっとでーっかくて、重たそうなの」

「でっかくて、重たい……?」


 でっかくて重たい魔物と言われても、魔物の知識は漫画やアニメで仕入れたものしかないので、実際にどんな魔物なのか想像も出来ません。


『ケント様、これはバルシャニアからの救援要請と考えるべきですぞ』

「皇帝コンスタンも了承しているのかな?」

『そこまでは分かりませぬが、皇女であるセラフィマ嬢からの要請であれば、もはや国からの要請と考えるべきですぞ』

「ラインハルトは、大きくて重たい魔物って、何だか分かる?」

『さぁ、それだけの情報では何とも言えませぬが、以前にケント様が倒されたサラマンダー以上となると、ドラゴンやサイクロプスといった伝説級の魔物しか思いつきませんな』

「伝説級って……グリフォンだって相当珍しい魔物だったんだよね?」

『そうですな。以前にドノバン殿が申しておりましたが、やはり南の大陸で何かが起こっておるのかもしれませんな』


 とりあえずは、アウグストさんに事情を話して、バルシャニア行きの許可を貰いました。


「バルシャニアの兵士は良く訓練されていると聞く。そのバルシャニアの手に余るような魔物だとすれば、今後ヴォルザードにも災厄をもたらさないとも限らん。とにかく、どのような状況であるのか調べて報告してくれ」

「はい、こちらの護衛は、引き続き元騎士のバステンを筆頭に、アンデッド・リザードマンで固めておきますので、安心して下さい」


 アウグストさんと同室だったバルディーニは、面白くなさそうな顔をしていましたが、何も言ってきません。

 最初の頃のように絡んで来ないのは助かるのですが、何だか陰湿さが増しているようで気に掛かります。


 アンジェリーナさんにもバルシャニア行きを伝えに行くと、ぷぅっと頬を膨らまして、ジトーっとした視線を送られてしまいました。

 何でしょう、僕よりも年上なんですけど、メッチャ可愛いんですけど。


「魔物の状況を調べに行くとか言って、本当はバルシャニアの皇女とイチャイチャしに行くんじゃないでしょうね」

「ち、違いますよ。バルシャニアの兵士でも対処に困るような魔物が、もしヴォルザードにも来たら拙いじゃないですか。ですから状況を調べにですね……」

「本当かなぁ……ねぇ、バルシャニアの皇女様って、どんな子なの?」

「えぇぇ……セラフィマは、僕よりも一つ年上なんですけど、パッと見た感じでは二つぐらい年下に感じるぐらいで……なんて言うか、工芸品みたいな感じです」


 セラフィマの容姿とか、親バカ、兄バカ連中の話をすると、アンジェリーナさんは、何事か考え込んだ後で、バルシャニア行きを許可してくれました。


「仕方ないなぁ……ヴォルザードとしてもバルシャニアとは良い関係を築いておきたいからね。でもリーチェを差し置いて、そのセラフィマって子だけを特別扱いするのは駄目だからね」

「はい、それは分かってます、はい……」


 と言う訳で、残念ながら今朝は、ハグも、良い子良い子も無しです。

 ヒルトの案内で、影移動した先は、砂漠の玄関口の街、チョウスクではありませんでした。

 しかも救護所のようで、怪我をした多くの兵士が傷の痛みに呻いています。


『これは、相当な戦闘があったようですな』

「そうだね。とにかくセラフィマを探して事情を聞いてからじゃないと……」


 セラフィマは、医療兵と一緒になって負傷者の世話を行っていました。

 驚かさない程度に離れた場所から表に出て、声を掛けます。


「セラ、何があったのか状況を教えてくれる?」

「ケント様! いらして下さったのですね」


 セラフィマは、軽やかな足取りで僕の胸へと飛び込んで来ました。

 きゅっと抱き付いてくる仕草が可愛らしくて……って、デレデレしている場合じゃないですね。


「この先の海辺の街ライネフに、ギガースが現れて街は壊滅状態です。父や兄達が討伐に乗り出したのですが、まるで歯が立たない状態なのです」

「ギガースというのが問題の魔物なんだね」

「はい、大人の五倍以上の身長があり、通常の魔術ではダメージが与えられず、集団による複合魔術ならばダメージを与えられるのですが、それもすぐに回復してしまって、討伐の糸口さえ見つけられない状態です」

「分かった、とにかく実物を見てから考えるけど、その前に、重傷者を治療しちゃおう。一番重篤な患者さんから診せて」

「はい、こちらです」


 セラフィマには、血の盟約を交わした時に唇を治療して見せただけですが、僕が自信を持って治療すると言ったのが伝わったのでしょう。

 案内された重傷者は、腹部に強い衝撃を受け、内臓に損傷がある状態でした。


 顔色は土気色で、呼吸も今にも止まりそうです。

 二度、三度と大きく深呼吸をして気持ちを整え、ラウさんとの特訓で養った魔力のコントロールを意識しながら治癒魔術を使っていきます。


 破裂している肝臓と右の腎臓を修復し、腹膜内の炎症を抑え、全身の状態を活性化させると、患者の顔には血色が戻り、呼吸も安定しました。


「よし、これで大丈夫、次の患者さんは……セラ?」

「は、はい! こちらです、お願いします」


 セラフィマは呆然と治療を見守っていたし、周りに居た人から、どよめきが起こっていましたが、今は気にしている場合じゃありません。

 十名ほどの治療を終えると、命の危険に晒されている人の治療は済ませられたようです。


「ありがとうございました。ケント様の治癒魔術がこれほどとは、正直思っておりませんでした」

「とりあえず、命の危険のある人は居なくなったみたいだから、少し休んでからギガースを見に行ってくるよ」

「では、ケント様、こちらへ……ただ今、お茶の支度をいたします」


 別室に移動してお茶を飲みながら、ギガースに関する詳しい説明を聞きました。

 ギガースというのは、こちらの世界でも伝説に出て来るような魔物で、ずんぐりとした人型の体型で、手足の指は四本、太い一本の指と対になる三本の指で物を掴むような形をしているそうです。


 身体の表面は、泥のようでもあり、樹皮のようでもあり、ゴツゴツとした茶色く固い皮膚に覆われていて、傷を付けても見ているうちに修復されてしまうそうです。


「ギガースは、土属性の魔術を操って、獲物となる人間を土のドームで閉じ込めています。一度に食べられない分を蓄えているらしく、今も土のドームに囚われている人がおります」

「ライネフには、何日前に現れたのかな?」

「現れたのは八日ほど前で、逃げ惑う街の人々を次々と土のドームで捕らえていったそうです。王城に早馬が差し向けられ、すぐに討伐軍が編成されて最初の戦闘が行われたのが一昨日の事でした」


 ギガースは、頑丈な皮膚と強力な再生能力でバルシャニア軍の攻撃を寄せ付けなかったそうです。

 それならばと、ギガースが眠るタイミングを待って攻撃しようと考えたそうですが、眠る時には頭を抱え込むようにして丸くなり、同時に魔術によって体表を硬化させてしまうらしいのです。


 この状態では複合魔術さえダメージが通らず、実質的にお手上げ状態だそうです。

 ただ一つ幸いな事は、ギガースが最初に上陸したライネフの街から移動をしていない事ですが、それも住民を捕らえた土のドームが無くなった場合、更に内地に向かって移動しないという保証はありません。


 現在、僕が居る場所は、ライネフの街から馬車で十分ほど離れた後方キャンプです。

 バルシャニア軍の構成は、砂漠を超えて侵攻を行おうとしてた時と同様で、皇帝コンスタンの率いる直属軍、第一皇子であるグレゴリエが率いる騎士隊、第三皇子が率いる術士部隊が最前線に陣を構えているそうです。


「ケント様、どうぞ父と兄に御力を貸して下さいませ」

「正直に言って、僕や僕の眷族の攻撃が、どの程度通用するかも分からないけど、出来る限りの事はやってみるよ」


 セラフィマをギュッと抱き締めてから影に潜りました。


『ケント様、偵察してきた……案内する……』

『よろしく、フレッド』


 僕が負傷者の治療を行っている間に、フレッドが前線まで先行してくれていました。

 ライネフの街は、バルシャニアの最南端の街で、漁業が主な産業のようです。


 以前、オークの死骸を処分した時に、海から巨大な魚が飛び上がって来ましたが、漁業なんてやっても大丈夫なんでしょうかね。

 街は入り江に面していて、入り江の一番奥は砂浜、入り江の入口付近に漁船を停める桟橋が作られているようです。


 街は砂浜に面して広がっていて、地中海の港町といった感じです。

 白壁と赤い瓦屋根の建物が建ち並んでいたようですが、今は殆どが瓦礫の山と変わってしまっています。


 その瓦礫の真ん中に、茶色い巨大な岩のようなものが転がっているのですが、これがギガースと呼ばれる魔物なのでしょう。


 直径が5メートルほどありそうで、よーく観察すると、体育座りをして、脚の間に下げた頭を両腕で抱え込んでいるようです。

 そのギガースの周囲には、高さが3メートルほどの瓦礫を含んだ土のドームが幾つも並んでいます。

 この中に、逃げ遅れた住民が閉じ込められているのでしょうか。


 バルシャニア軍は、ギガースから300メートルほど離れた場所に、街へと通じる街道を封鎖するように陣地を作り、今は眠っていると思われるギガースの監視を続けていました。


 それと同時に、ギガースから離れた場所にあるドームから、何とか中に取り残された住民を救出出来ないか、奮闘を続けています。


『ねぇ、あれって、チョウスクで砂漠の開発に従事していた工兵部隊の人達じゃない?』

『どうやら、そのように見受けられますな』


 ドームの壁は固すぎるのでしょうか、工兵部隊の人達の作業は、遅々として進んでいないようです。

 バルシャニア軍の陣地の中では、床几に腰を下ろした皇帝コンスタンが、苦虫を噛み潰したような表情でギガースを睨み付けていました。


 その両側には第一皇子のグレゴリエ、第三皇子のニコラーエの姿もあります。

 騒ぎが起きないように、三人の視界に入る場所に闇の盾を出してから、表に踏み出しました。


「ご無沙汰しております」

「ケント・コクブか、偵察に来たのか?」

「はい、それと救護所で治療をしてきました」

「そうか……そなた、グリフォンとやり合ったそうだな」

「はい、ヴォルザード総出で倒した感じです」

「どのようにして倒したのか教えてもらえるか?」


 皇帝コンスタンは疲れの色こそ見せていませんが、僕に情報を求める辺り、ギガース討伐の方法に窮しているのでしょう。


 グリフォンが強力な風属性の魔力を纏っていた事や、それによって物理攻撃でも、魔術による攻撃でもダメージが通らなかった状況、隷属の腕輪の原理を使った魔道具で、討伐の糸口を掴んだ事を話しました。


「なるほど、隷属の腕輪によって属性魔術を無効化するとは考えたな」

「父上、その方法はギガースに対しても有効と思えますが、ここには魔道具の職人がおりません。これから早馬を飛ばして製作の指示を出しても、完成までに一週間近くを要するはずです」

「グレゴリエよ、他に方法があると言うのか?」

「いえ、それは……」

「ならば、王都へ向けて早馬を仕立てよ!」

「あの、ちょっと良いですか?」

「どうしたケント、何か方法があるのか?」

「はい、僕がヴォルザードに戻って、グリフォンを討伐した時に隷属のボーラを制作した魔道具職人に発注するというのはどうでしょう? 上手くすれば三日ぐらいで仕上がる可能性もありますよ」

「そうか、そなたの方が早馬よりも早いし、一度魔道具を作成している職人の方が確実ではあるな。よし、金に糸目は付けぬ。魔道具を4セット注文してくれ」


 闇の盾を潜って、ヴォルザードの魔道具屋、ノットさんの店を訪ねました。

 ノットさんの父親で職人であるガインさん、ノットさんの妹イエルスさんに事情を話し、制作を急いでもらえるように頼み込みました。


「そうか……明日の夕方だ」

「そんなに早く作っていただけるんですか?」

「人の命には代えられん……」

「ありがとうございます」


 材料として、影収納から取り出したミノタウロスの角を確認すると、仕事の邪魔だとばかりに追い出されてしまいました。

 ノットさんにも挨拶をして、バルシャニアへと戻りました。


「魔道具は、明日の夕方には仕上げてもらえるそうです」

「そうか、ならば間に合うかもしれんな」


 立ち上がったコンスタンは、ギガースを睨み付けながら考えを巡らせているようです。

 その表情を覗っていた第一王子のグレゴリエが問い掛けました。


「父上、今しばらくすればギガースが動き出すと思われますが、いかがいたしますか?」


 勿論、問い掛けは聞こえているのでしょうが、コンスタンはジッとギガースを睨んだまま沈黙を貫き、焦れたグレゴリエが再度問い掛けようとした瞬間、答えを返しました。


「周囲を囲み、静観する。手出し無用!」

「父上、それでは捕えられた住民を見殺しにすると言うのですか?」

「ならば、どうせよと申すのだ?」

「術士隊の集団魔術でダメージを加えた所を狙い、弩弓などを撃ち込み……」

「これまでと変わらぬではないか。それで、どれほどのダメージを与えられた? そのダメージはどれほど残っている?」


 コンスタンの指摘に反論出来ない所を見ると、結果として残るダメージは与えられていないようです。


「確かに、お前の言う方法で一時的なダメージを与える事は出来た。だが、我々が見ている前で回復してしまったではないか。回復するためには、魔物とて体力を消耗する。体力を消耗すれば、それを補う必要があるが……何で補うのだ?」


 一時的なダメージしか加えられないのであれば、それは犠牲者を増やすだけにしかならない訳です。


「己の国の民が食われるのを見て、ワシが何も感じないとでも思っているのか? そんなはずが無かろうが! 腸が煮えくり返り、気がふれそうだ。だが、いたずらに攻撃を仕掛けても、犠牲を増やすだけにしかならん。魔道具が到着するまで一切の手出しを禁じる!」


 血を吐くようなコンスタンの命令に、異を唱える者など居ませんでした。

 

「あの、グレゴリエさん、あの土のドームに囚われてしまった人達は、まだ生きているのでしょうか?」

「分からん。だが、かなり厳しい状況なのは間違いない。あれは、こちらからは半球状にみえるが、下半分が埋まった球体だ。逃げ惑う住民を、瓦礫ごと丸めて固めてあるので、うまく隙間が残っていれば生きている可能性もあるが、日にちが経ちすぎているのも確かだ」


 ギガースが現れてから、既に一週間が経過しています。

 災害現場では72時間が生存のタイムリミットだと言われますが、すでに倍以上の時間が経過しています。


 丸められ、固められた状態では、空気の流れも遮断されているでしょうし、生存は絶望的でしょう。

 考え込んでいた僕に、コンスタンが話し掛けてきました。


「ケント・コクブよ。命が尽きているならば、身内の亡骸が食われても、そなたは平然としていられるか?」

「いいえ、僕には耐えられないと思います」

「ワシとて同じだ。国民はワシにとっては家族と同じだ。ギガースには、必ずや報いを受けさせる。だが、正直に言って手が足りぬ。攻撃の主力となる術士部隊は、反撃を食らって戦力が半減している。属性魔術の鎧を剥がせたとしても、あの巨体を仕留め切れるか微妙だ。状況を考えれば、失敗は許されぬ。力を貸してくれ、何としても仕留めるのだ!」

「分かりました。魔道具が完成するのが明日の夕方、となると作戦の決行は明後日の朝以降と考えて良いですね?」

「うむ、その通りだ。何か策があるか?」

「まだハッキリとは固まっていませんし、ギガースが動いている姿を見てからでないと決められませんが、何か威力の高い攻撃を考えたいと思っています」

「そうか……頼む」

「出来る限りの協力を惜しまないと約束いたします」


 握手を交わしたコンスタンの武人を思わせる厚く固い手を、決意を込めて握り返しました。

 それから小一時間ぐらい経った頃、岩のごとく微動もしなかったギガースの巨体が、グラグラと揺れ始め、醜悪な顔がもたげられました。


 カエルやヘビのように鼻筋が無いノッペリとした顔の両脇に、深緑色に濁った大きな目玉が付いています。


「ぼぉぉぉぉぉ……」


 洞窟が風鳴りするような呻き声を洩らす口には唇は無く、全て臼歯のような四角い大きな歯が並んでいます。

 土埃を濛々と立てながら立ち上がると、身長は10メートル以上ありました。


 直立二足歩行というよりも、ゴリラのように長い腕を地面に付きながら歩くようです。

 目を覚ましたギガースは、一番近くにあった土のドームを両手でグシャグシャに潰して、瓦礫の中から住民の亡骸を捜し出し、口の中へと放り込みました。


 遺体の骨が砕かれ、肉が擂り潰される音が響き、バルシャニアの兵士からは怨嗟の呻き声が上がりますが、ギガースはまるで気に掛ける事もなく食事を続けています。


「こちらから攻撃しない場合、ギガースから襲って来るような事は無いのですか?」

「今のところは無いようだが、あのドームを全て食い終えた場合、どうなるかは分からん。少し西に行くと、別の集落があるし、少し内地に入った所にも集落はある。食い終えれば、大人しく帰ってくれるなどという希望的な観測に頼る訳にはいかんのだ」

「攻撃をしても、動きの速さは変わりませんか?」

「そうだな、基本的に胴体はあまり移動しないが、何しろあの巨体だからな。振り回した腕が当たるだけでも人間などペシャンコだ」

「なるほど……ちょっと反応を見たいので、うちの眷属に威嚇させても良いですか?」

「うーむ……良かろう、ただし威嚇だけだぞ」

「では、ちょっと行ってきます」


 影に潜って、ネロとゼータ達に指示を出します。


「まずは、ゼータ、エータ、シータ。ギガースを囲むようにして、時々咆えながら徐々に包囲の輪を縮めてみて。昨日見たフォレストウルフみたいな感じ」

「お任せ下さい、主殿」

「ギガースが襲って来たら、そこで終了、影に戻って」

「ネロは何をするにゃ?」

「ネロは、ゼータ達と同じような事をギガースの頭の周りでやってもらいたいんだ。どの程度近づくと攻撃してくるのか、どのぐらいの速さで襲って来るかを見たい」

「分かったにゃ、簡単にゃ」

「今回は、あくまでも様子見だけだからね。攻撃を当てられないように、油断せずにやり遂げて」


 まず最初に、ゼータ達が影から抜け出して、ギガースを取り囲むようにして唸り声を上げました。


「ぐるぅぅぅぅぅ……」


 ゼータ達の姿を認めたギガースは、食事の手を止めて警戒し始めました。

 ゼータ達が円を描くようにギガースの周囲を回り始めても、ギガースは目玉をギョロギョロと動かして見守るだけで動こうとはしません。

 ですが、エータが土のドームを踏み付けた瞬間でした。


「ぼぉあぁぁぁぁぁ!」


 大声で咆えると共に、薙ぎ払うように太い腕を振り回しました。

 勿論、エータは素早く飛び退って、ギガースの腕は空を切りましたが、元々当てる気があったのか、威嚇のつもりだけだったのかは不明です。


 その後もゼータ達に威嚇を続けさせると、やはり土のドームがある場所まで踏み込むと、攻撃してくるようです。

 ゼータ達を影に戻したら、今度はネロの出番です。


 ネロの姿を認めてギガースは、ゼータ達の時とは違い、腕を胸の辺りまで上げて、臨戦態勢を整えました。

 ネロが周囲を回ると、目玉だけでなく身体も回してネロを警戒しています。


『やはりギガースでもストームキャットの攻撃には警戒するのでしょうな』

「ネロが姿を見せていると警戒されるけど、違う見方をするならネロが姿を見せていればギガースの注意を惹き付けられるって事だね」


 闇の盾を出してネロを戻らせても、ギガースは暫く周囲を警戒し続けていました。

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