第189話 兄と姉
バッケンハイムのギルドには、早朝から軽食を提供してくれる店があります。
と言うか、昼は食堂、夜は酒場、そして朝がファストフードという感じで、店員が交代しながら営業しているそうです。
早朝のギルドには、思っていたほどの人の出入りはありません。
バッケンハイムは、ヴォルザードよりも広く、入り組んだ街並みのため、中心部にあるギルドから街では街の外に出るまでに時間が掛かります。
そのため、早朝から仕事を受ける者の多くは、前日までに受注の手続きを済ませておくのが慣例となっているそうです。
もう少し遅い時間になると、廊下にまで人が溢れるほど混み始めるのだと、警備の人が教えてくれました。
夜中のうちに雨が降ったらしく、ギルドの前の道はしっとりと濡れています。
まだ薄暗い街に灯された街灯は、漂う霧に滲んで見えました。
鷹山と二人、ヴォルザード家の馬車を待っているのですが、人影も疎らな街並みは、まるで映画のワンシーンのようにも見えます。
「なんかさ、雰囲気あるよね」
「だな……光が丘は団地ばっかだからな」
「だね。風情とかとは無縁だったねぇ」
やがて蹄の音が聞えてきて、霧の中から滲出て来るように四頭立ての大きな馬車が姿を現しました。
御者台には、黒いコートに身を包んだヴォルザード家の執事、ヨハネスさんの姿があります。
近付いてくる馬車に向かって頭を下げると、ヨハネスさんも軽く会釈を返すのが見えました。
速度を落とした馬車がギルドの前に停まると、キャビンのドアが開き、メイドのフィオネさんが降りて来ました。
「おはようございます。ケント様は、どうぞキャビンの中へ。シューイチさんは、ヨハネスの隣にお座り下さい」
一瞬顔を見合わせましたが、フィオネさんの言葉に従って、鷹山は御車台へと上がり、ヨハネスと挨拶を交わしています。
僕は、一度深呼吸をしてから、キャビンに乗り込みました。
ヴォルザード家のキャビンは、本部ギルドの物よりは少し小さめで、後ろに三人、右側に二人、左側に一人の六人乗りでした。
三人掛けのシートには二人の男性が、右側の二人掛けのシートには女性が一人座っています。
「おはようございます。ケント・コクブです」
キャビンの入口で挨拶をすると、三人掛けのシートの右側に座っている男性が返事を返して来ました。
「クラウス・ヴォルザードの長男、アウグストだ。こちらが妹で長女のアンジェリーナ、こちらは次男のバルディーニだ。よろしく頼む」
「は、はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
アウグストさんは、顔のパーツはマリアンヌさん似ですが、意志の強そうな顎はクラウスさん似という感じで、キリっと引き締まったイケメンです。
言葉使いは固いですが、取っ付き難いという感じではなく、爽やかさを感じるほどです。
そのアウグストさんが、僕に向かって軽く会釈をしてきたので、僕もお辞儀を返したのですが、笑いを堪えるのに必死でした。
真面目そのもののアウグストさんが、軽く頭を下げるのに合わせて、頭にピンっと生えたウサ耳が、一緒にピョコンとお辞儀したからです。
そんなの外見に対する偏見だし、差別なのは分かってるけど、ズルいです、面白すぎです、コントかよ!
「うふふふ……あなたがリーチェの恋人なのねぇ……ヴォルザードを守ってくれた英雄だって聞いていたから、もっと大きな人かと思っていたけど、そう、あなたが……」
「はい、よろしくお願いします」
アンジェリーナさんは、目鼻立ちはどことなくクラウスさんに似てはいますが、少しだけ垂れ目気味なので、ほわっとした印象を受けます。
耳は普通の耳ですが、明らかにマリアンヌさん似のプロポーションに目を奪われてしまいます。
「兄上、このような子供が、本当にSランクなのですか?」
「ディー、お前も彼の実績は聞いているだろう。父上、母上、リーチェの三人が結託して我々を騙しているのでない限り、彼はSランクに相応しい活躍をしている。ただし、それだけをもって、リーチェの伴侶に相応しいと判断する事は出来んがな」
「そうですね……」
厳しい視線を向けて来るヴォルザード家の次男、バルディーニさんは、僕らよりも一つ年上だそうで、こちらは目鼻立ちも面差しも、ピンとたったウサ耳も、マリアンヌさんにそっくりです。
ウサ耳のイケメン男子が二人、真面目な表情で会話を交わしているのは、めっちゃシュールですよね。
「あの、僕はどちらに座れば宜しいのでしょうか?」
たぶん、左側の一人掛けのシートだとは思いましたが、念のために確認すると、アンジェリーナさんが自分の隣をポンポンと叩いて言いました。
「私の隣にどうぞ……」
「お嬢様、冒険者風情をお嬢様の隣に座らせるなど、なりません!」
僕の後ろに居たフィオネさんが抗議の声を上げましたが、アンジェリーナさんは笑顔で答えました。
「あら、ケントさんとは、いずれ家族になるのですから、何の問題もありませんよ。フィオネは、そちらに座りなさい。さぁ、ケントさん、いらっしゃい」
「はぁ、失礼します」
アンジェリーナさんの隣に腰を下ろすと、肩に腕を回されて抱き寄せられました。
「姉上! 何をなさっているのです」
「あら、ディーったら焼餅焼いているの? 最近はお姉ちゃんと手も繋いでくれないのに……」
アンジェリーナさんは、僕を抱え込みながら、良い子良い子と頭を撫でながら、バルディーニさんをあしらっています。
「あ、あの……アンジェリーナさん、さすがにこれは、ちょっと気恥ずかしいと言いますか……」
「あら、お嫌でした?」
「いえ、嫌ではないのですが……」
「では、もう少しこのままで、それと私のことは、アンジェお姉ちゃんって呼んで下さいね」
「そ、それは、その……クラウスさんが馴れ馴れしく呼ぶなとおっしゃってまして……」
「あらどうして? リーチェと結婚すれば私達は家族になるのよ。馴れ馴れしいのが当たり前でなくて?」
「それは……そうかもしれません……」
「じゃあ呼んでみて、アンジェお姉ちゃん、はいっ」
「ア、アンジェお姉ちゃん……」
「はい、良くできました。ケントは良い子ねぇ……」
ふぉぉ……そんなにギューってされて、そんなに撫でられたらぁぁ……。
マルト達が、撫でられたがるのが良くわかりました。
「姉上! いい加減にして下さい!」
「なぁに? ディーも良い子良い子して欲しいの?」
「そんな恥かしいこと、してもらいたくありません!」
「もう、最近は反抗的なんだから……昔は、おねーたん、おねーたんって、寝る時もお風呂も一緒じゃないと嫌だったのに」
何ですと、なんて、羨まけしからん。
「いつの話をしているのですか。そんなの五年も十年も前の話じゃないですか!」
うん、五年と十年では随分と差があるから、どっちかハッキリしてみようか。
「まったく、どうしてこんなに捻くれちゃったのかしらねぇ……でもいいわ、こんなに可愛い弟が出来たのですから、ねぇ、ケント」
「は、はい……アンジェお姉ちゃん」
「んーっ……ケントは良い子だねぇ……」
ほわぁぁぁ……ヴォルザードまで、このままで良いでしょうかね?
「アンジェ、そろそろケントを解放してあげなさい。それでは彼の護衛としての仕事に差し障りがあるだろう」
「あら、いけない……そうだったわね。ごめんね、ケント」
「い、いえ……大丈夫です」
くっ……余計な事を言いやがって、アウグストめ。
おぅ、向かいの席からフィオネさんが、斜め前からはバルディーニが、ゴミ虫でも見るような視線を投げつけていますね。
「さて、ケント。少し確認しておきたいのだが、構わないか?」
「はい、何でしょうか、アウグストさん」
「君は、我々の護衛の途中で、別の場所に移動して、別の仕事をこなすというような事を聞いたのだが、本当かね?」
「はい、僕が元々住んでいた世界に戻ったり、リーゼンブルグにも行く予定でいます」
「何を言ってるんだ、お前……」
「ディー、邪魔をしないでくれ、大切な話の途中だ」
「すみません……兄上」
僕に突っ掛かってこようとしたバルディーニを、アウグストさんは柔らかく、ですが、断固とした態度で窘めました。
「話の内容だけを聞けば、にわかには信じ難いが、君の話し振りから冗談や嘘では無いことは分かる。だが、話が真実であるならば、君がいない間の護衛は、ヨハネスの隣に居る彼だけになってしまうと思うのだが……」
「いいえ、僕の眷族が影に潜んでいますので、僕が他に移動している間は、眷族が護衛を務めます」
「その眷族だが、護衛の役に立つのだろうな? 出来れば姿を見ておきたいのだが……」
「実力は保証いたします。ロックオーガ程度でしたら、一撃で倒す力がありますし、連絡要員も残していきますから、何か起こった場合には僕らも戻って来ます。ただ、姿を見せると、馬は魔物を怖れると聞きますので……」
「そうか、分かった。警護の体制が万全ならば文句は無い」
アウグストさんは、僕の説明に納得すると、分厚い革表紙の本を取り出して読み進め始めた。
読書を始めたアウグストさんに替わって、アンジェリーナさんが興味津々といった感じで訊ねて来ました。
「ねぇケント、リーチェのところには、いつもコボルトが一緒に居るって聞いたんだけど、ここにも居るの?」
「はい、居ますよ。ただ、馬への影響が分かりませんので、表に出すのは……」
「そうかぁ……残念ねぇ」
向かい側に座るフィオネさんも、物凄く残念そうに頷いていますね。
「では、今夜の宿に着いた時にでも、紹介しますね」
「まぁ、それは楽しみだわ」
うん、フィオネさんも高速で頷いてますね。
「ねぇ、ケント。さっきリーゼンブルグにも行くって言ってたよね?」
「はい、言いました」
「それは、王位継承に関する事なのかな?」
「はい、そうです」
会話を聞いていたのでしょう、アウグストさんも本から視線を上げて、こちらに目を向けています。
「私達は、リーゼンブルグの第二、第三王子が死去したという話は聞いているけど、それ以降の話は聞いていないの。今、リーゼンブルグはどうなっているの?」
「では、第二王子と第三王子がラストックで誅殺された後の状況をお話しします」
僕が話を始めると、アウグストさんは本を閉じて、本格的に聞く体勢を取りましたし、僕に批判的な視線を向けていたバルディーニも真剣な表情で聞き耳を立てています。
そもそも第二王子達の乱行は、アーブル・カルヴァイン辺境伯爵が裏で糸を操り、バルシャニアとの連携まで計画していた事や、第一王子の命も失われた事、対立していた派閥はカミラ、ディートヘルム姉弟を次の王と認め纏まった事。
アーブルが宰相と結託し、現国王や騎士団長を丸め込んだ王城へ、カミラが乗り込み、いよいよ対決が行われる事などを話しました。
話し終えると、すかさずアウグストさんから質問が投げかけられました。
「そのカミラ・リーゼンブルグが実権を握った場合、ヴォルザードと敵対する可能性は無いのだな?」
「人間が行う事ですので、未来永劫に渡って絶対とは言い切れませんが、その可能性はほぼゼロと考えていただいて結構です」
「逆に、アーブル・カルヴァインが実権を握ったとしたら、どうだ?」
「こちらも他人の頭の中までは分からないので確実な事は言えませんが、戦を仕掛けてくる可能性は、カミラの時よりは遥かに高くなるはずです」
「仮に、仮にだが、リーゼンブルグが今の時点で攻め込んで来たら。ヴォルザードは勝てると思うか?」
「問題ありませんね。僕の眷属が、鎧袖一触、蹴散らしてみせましょう」
僕の言葉に、アウグストさんは頷きましたが、バルディーニは信用していないようです。
「ふん、口では何とでも言える。大口を叩くなら実際に大軍を退けてからにするのだな」
「バルシャニアの4万を超える兵ならば、翻弄し、リーゼンブルグへの侵攻を阻止しましたが」
「えぇぇ……ケントと眷族だけで? どうやったの?」
「えっと……嫌がらせと脅しですね」
驚くアンジェリーナさんに、兵士の睡眠を妨害し、出兵を取り止めぬ場合は橋を落し、船を沈めるとバルシャニアの皇帝を脅して、出兵を思い留まらせた話をしました。
「なるほど……父上がリーチェとの関係を認めるだけの事はあるな」
「ホント、ケント凄いねぇ……」
ひゃっは――っ! またアンジェリーナさんに、ハグされて良い子良い子されちゃいましたよ。
やっべぇ……アンジェお姉ちゃんの良い子良い子の中毒性に抗えないかも……。
「兄上も姉上も、そいつの言う事を信じるのですか? たまたまバルシャニアが方針を転換して出兵を取り止めたのを、あたかも自分の手柄のように話しているだけかもしれないんですよ」
「そうだとしたら、なぜケントの下にバルシャニアの皇女が輿入れしようとしているのだ?」
「兄上、その話は本当なのですか?」
「父上からの手紙に書き添えられていた。バルシャニアの皇女がヴォルザードに輿入れして来るという事は、ヴォルザードとバルシャニアの間に友好関係が出来るのと同じ意味だ。リーチェの兄としては気分の良くない話ではあるが、領主の一族としては、この話は歓迎すべきものだろう」
「しかし、こんな奴が……」
「ディー、確かにケントは我々よりも年下で、見た目も冴えないし、貴族階級でもない。だが、見た目や個人的な感情で目を曇らせ、評価を誤るな。それは、領主の一族として、決してやってはならない事だ」
「はい、分かりました、兄上」
えっと、間接的にディスられてますよね。
アウグストめ……アンジェお姉ちゃんの良い子良い子に免じて、今日は勘弁しといてやる。
バッケンハイムを出た馬車は、順調に街道を進んで行きます。
北西からの季節風が吹く季節は、余り雨が降りません。
砂漠を越え、カバサ峠を越えて来る風は、乾いた空気を運んで来るからです。
雨が少ないので、街道がぬかるむ事も無く、馬車がスムーズに走れるのです。
バッケンハイムとヴォルザードの道中で、気を付ける場所は二箇所です。
一箇所目は、リバリー峠、もう一箇所が、イロスーン大森林です。
ブランは一日で通過しましたが、普通の馬車では通り抜けるのに一日半も掛かります。
二日目の昼食後に森の中へと入り、その日の晩は森の中にある集落に泊まり、翌日一日走ってようやく抜けられるほどの広さです。
深い森には、野生の獣が住んでいますし、魔の森程ではありませんが、魔物も生息しています。
そして、世間から弾き出され、盗賊家業に身をやつした者達が、獲物を求めて息を潜めていたりするのです。
このイロスーン大森林を抜ける間は、他から緊急の呼び出しが無い限りは、護衛から離れないようにするつもりです。
まぁ、全眷族を投入すると盗賊相手とかでは、明らかに過剰戦力なんですけどね。
馬車が動いている時よりも、停車している時の方が狙われる心配は増えます。
なので、昼の休息のために途中の集落に立ち寄る前に、日本に戻ってモバイル・プロジェクターを受け取りに向かいました。
ランズヘルトを昼少し前に出たのに、練馬駐屯地は朝の6時を回ったばかりでした。
鈴木さんは、まだ出勤してきていませんが、机の上にはモバイル・プロジェクターの箱が載せられています。
当直の自衛官さんに挨拶して、箱の中身を確認し、鈴木さんにメモを残して戻りました。
馬車へと戻り、暫くすると、昼の休息をする集落が見えてきました。
街道沿いの集落には、こうした馬車で旅をする人を相手にした、言うなればドライブインのような施設があります。
人間が食事と休息、馬にも飼い葉と水と休息を与える場所ですが、鷹山はヨハネスさんと馬の世話と馬車の見張りをしながらサンドイッチとミルクのみ。
僕もヴォルザード家の三人を警護しながら、同じメニューで済ませました。
レーゼさんと移動していた時は、ガンタ君が食事の用意をしてくれて、みんな同じものを同じ時間に同じ場所で食べていたけれど、ガチの護衛ともなれば、この形が当たり前なんでしょうね。
休憩を終えて再び馬車が走り出し、怪しい追っ手とか居ない事もフレッドが確認してからリーゼンブルグへ乗り込みます。
「ではアウグストさん、ちょっとリーゼンブルグまで行ってきます。こちらには、元騎士のスケルトンを統率役として、アンデッド・リザードマンを五頭、連絡用にコボルトを二頭残していきますので、御安心下さい」
「わかった。そちらの結果も聞かせてもらえるのだな?」
「そうですね……問題の無い内容であれば……ですね」
「良いだろう。行ってきたまえ」
「はい、では少しの間、失礼させていただきます」
護衛任務に慣れているバステンを隊長として、ザーエ達を戦力とし、マルトとミルトに連絡役を頼みました。
僕は、ラインハルト、フレッドを筆頭にして、残りの眷族を率いてアルダロスの王城へと移動、カミラの様子を窺います。
今日の会合が行われるのは、王城の議事の間と呼ばれている部屋で、国王が国の行く末について貴族に諮問を行う部屋だそうです。
もっとも、もう何年にも渡って使われなかった部屋だそうで、それだけ宰相の専横が罷り通っていたという事なのでしょう。
議事の間には、幅の広く長いテーブルが置かれています。
長辺に沿って同じ意見を持つ者が並び、例え剣を振るっても届かないだけの幅が設けられた向かい側に、反対する者たちが並びます。
国王は、いわゆるお誕生日席に座り、テーブルを挟んで意見を戦わせる両派を眺め、最後に決断を下すそうです。
議事の間のテーブルには、誰がどこに座るか、名前の書かれたカードが置かれていました。
国王から見て、向かって右側がカミラの派閥、向かって左側がアーブル・カルヴァインの派閥となっています。
カミラの側に座るのは、グライスナー侯爵、サルエール伯爵、近衛騎士の部隊長、マグダロスとオズワルドといった顔ぶれです。
一方のアーブル側には、宰相フロレンツ、騎士団長ベルデッツ、そしてアーブルが王都に来るまでに抱き込んだ貴族が二名ほど座っていました。
アーブルは、昨夜の時点では騎士団長に疑念を抱いていると言う話でしたが、開き直ったのか、虚勢を張っているのか、薄っすらと笑みすら浮かべていました。
その正面に座ったカミラは、奥歯をぐっと噛み、アーブルを睨みつけています。
「カミラ様、今日はネズミの手伝いは、必要無いのですか?」
「ふっ、知らないという事は、ある意味幸せなのだな」
「どういう意味ですかな。ネズミ一匹に何が出来ると言うのです」
「すぐに分かる、魔王様の恐ろしさを思い知るが良い」
数瞬前とは逆に、余裕の笑みを浮かべるカミラを、アーブルはこめかみに青筋を浮かべながら睨みつけています。
直後、奥の扉が開き、姿を現した侍従と思われる男が、声を張り上げました。
「国王陛下、ご臨席!」
姿を見せた現国王、アレクシス・リーゼンブルグは、でっぷりと太り過ぎた身体を自分の足だけでは支えられず、右手に杖、更に左手は侍女に支えられている始末です。
ほんの数メートルを歩くことすら苦行のようで、随分と時間を掛けて大きな椅子まで辿り着き、崩れ落ちるように腰を下ろすと苦しげに息を荒げ、言葉を発する余裕も無いようです。
それを見て取ったアーブルは、国王に対して一礼をすると、席を立って国王の横に並び、列席者に向かって呼び掛けました。
「御列席の皆様に、まずは私、アーブル・カルヴァインから御訴えをさせていただきたい」
言葉を切ったアーブルは、列席者に向かって軽く会釈をしてから話を続けました。
「私は、今日の訴えに命を賭している。我々の国リーゼンブルグは、建国以来の危機に瀕している。にも関わらず、我々はあまりに無為に時間を過ごしすぎた。失礼ながら、国王陛下から、末端の騎士にいたるまでだ!」
アーブルは左手を掲げて、一番末席に座っている者達を指し示しました。
その動きに釣られ、列席者の視線がアーブルから末席の者へと流れた時でした。
シュンという金属が擦れるような軽い音が聞えたと思ったら、国王アレクシス・リーゼンブルグの血色の悪い首が宙に舞いました。
アーブルが、血塗られた剣を振り切った姿勢のまま、飛び散る血飛沫の向こうに座るカミラに、勝ち誇ったような笑みを浮かべていました。
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