第184話 忍び寄る影

 僕と鷹山に与えられた部屋は、厩の二階にある二人部屋でした。

 土埃が積もった階段を上り、突き当たりには干草が積まれた廊下を進み、付いている意味があるのかと思う鍵を開け、ドアを開いたところで僕らは立ち尽くしてしまいました。


「こいつは……」

「鷹山、僕は下宿に戻って……」

「馬鹿言うな、ここに俺一人で寝ろって言うつもりかよ!」

「いや、だってさぁ……」


 ドアの向こう側を一言で言い表すとすれば、幽霊屋敷というのがピッタリな感じです。

 こちらの人は、日本と違って靴を脱いで上がるという習慣がありません。


 なので、部屋が少々埃っぽいのは、よくある事ですが、多分馬の世話をする人が泊まるのでしょう、土埃が積もっていますし、カビ臭いし、馬臭いし、とても室内に居るという気がしません。


「とりあえず、窓開けようか……」

「だな……」


 部屋の中は、ドアを開けた右手に衣装棚、入った正面に小さなテーブルと椅子が二脚、その奥に1メートルほどの間隔を開けてベッドが二つ、突き当りの壁に窓が一つあるだけです。

 ドアを開けたまま窓を開くと、廊下から風が抜けて行き、干草やら土埃が追加される有様です。


「どうすんだよ、これ!」

「いや、僕に言われても……」

「お前が誘ってきた仕事だろ?」

「そうだけどさぁ、鷹山だって二つ返事でOKしたじゃん」

「そりゃそうだけどさぁ……」


 すでに諦めモードなのか、鷹山は埃だらけの格好のままベッドに身体を投げ出しました。


「鷹山、それは止めよう……」

「構うもんかよ、布団だって埃だらけじゃんか……」

「いやぁ……そうじゃなくって、ノミとかダニとか居そうじゃね?」

「うわぁぁぁ! 馬鹿、早く言えよ。ちょっと見てくれよ、ついてないだろうな。何か背中ムズムズすんぞ……」

「とにかく、寝られるように何とかしよう」

「何とかって、どうすんだよ……」


 鷹山と顔を見合わせて途方に暮れていると、ラインハルトがアドバイスをくれました。


『ケント様、闇の盾には生き物は入れませんぞ。それに、風属性魔法の良い練習になるのではありませぬか』

「なるほど……そうか、そうか」

「何だ、何か良いアイデアでも浮かんだのか?」

「鷹山、ちょっと手を貸して」

「おっ、いいぞ、何すんだ?」

「窓から布団を投げ棄てる」

「はぁ? お前、頭おかしくなったのか?」

「違うよ、実はね……」


 闇の盾の中には生き物が入れない特性を使って、布団から害虫落しをすると説明すると、当然鷹山は大賛成しました。


「窓の外に闇の盾を出して、そこに布団を投げつければ、布団は影収納へと落ち、害虫は盾に阻まれて入れない、完璧!」

「何か、チートの無駄使いって気もしないではないが、やるぞ、国分」

「おうよ!」


 窓の外に闇の盾を地面と平行に出して、そこに布団を広げるように投げました。


「あれ? どうなってるの?」

「国分、布団が入っていかな……うげぇ、何じゃこりゃ!」


 布団を広げた瞬間は、まるで闇の盾に乗っかっているように見えたのですが、沼に引き込まれるような速度で沈み始めると、白っぽかった布団のカバーが黒ずむほどのダニやノミが浮き上がって来ました。

 あまりの光景に、布団が沈みきったのを確認した後で、闇の盾の表面を火属性の魔法で薙ぎ払いました。


「うっわキモっ! 無理無理、あんな布団に寝てたら全身をやられたよ」

「ヤバいな、異世界の安宿、ヤバ過ぎるだろう」

「とにかく、残りの布団も処理しよう。一匹残らず駆逐するしかないよ」

「だな、てか、ヴォルザードに戻ったら、うちの布団もやってくれよ」

「あぁ、下宿の布団を処理したぃぃぃ……」


 残りの布団と枕も同じ要領で、同じように大量のダニ、ノミを殲滅しました。


「よし、じゃあ次は部屋の掃除するよ」

「掃除はいいけど、箒も雑巾も、何も無いぞ」

「そこは、この僕、ケント・サイクロン・コクブに任せてよ」

「おぅ、風属性の魔法で吹き飛ばすのか、最後まで吸引力は変わらないんだな?」

「モチのロンだぜ!」


 まずは手の平の上で渦を作って、渦の先を窓の外へと導きます。

 次に、渦を部屋の中へ落として、気流の速度や渦の位置を外からコントロールしていきました。


「おぉぉ、すげぇマジで埃がバンバン吸われて無くなって行くじゃん」

「このまま部屋中の埃を外に出しちゃうからね」


 床から、ベッドの下、ベッド本体、衣装棚、テーブルや椅子の上、壁や天井まで、渦を走らせて埃を吸出しました。


「すげぇな、国分すげぇよ。魔法やっぱ便利だよな」

「身体強化の制御とかが役に立ってるんだろうけど、コレジャナイ感がハンパ無いね」


 この後、廊下の埃も外へと追いやり、影収納から取り出した雑巾で拭き掃除をして、ラインハルト達が埃を叩いておいてくれた布団を戻すと、ようやくまともに宿泊できる環境が整いました。


「あー……何だか凄い疲れたよ」

「いや、国分が居てくれて、マジで助かった」

「てかさ、鷹山、この先冒険者として活動していくなら、同じような状況とかに遭遇すんじゃないの? その時の対応策とか考えておいた方がいいよ、マジで」

「だよなぁ……てか、いくらぐらいの宿だったらまともに眠れるのか、ラウさんに聞いておいた方が早くねぇ?」

「あぁ、確かに、お金で解決出来るならその方が楽かな」

「もしくは風属性が使えるやつとパーティー組むか……」


 言葉を切った鷹山は、じっと僕の方を見詰めています。


「何その目は、やだよ、鷹山のお守りとかしないからね」

「ちっ、冷てぇこと言うなよ。同級生だろ?」

「鷹山は、自分がどんだけ人に迷惑掛けてきたのか、もっと自覚した方がいいよ」

「くっ、分かってるよ……」


 この後、共同のシャワールームを掃除する事になり、シャワーを浴びようとしたらお湯が出ない事が判明して、冷水シャワーに震え上がりと、夕食を前にして更に疲れ果ててしまいました。


「なんじゃ、ケントもシューイチも、宿に着いてから十分休めたであろうに、冴えない顔をしておるのぉ」

「いやいや、レーゼさん、絶対分かってて言ってますよね」

「くっくっくっ……さて、何のことかのぉ……分かるかぇ、ラウよ」

「ほっほっほっ、駆け出しの冒険者ならば、一度は通る道じゃろう。で、どうしたと言うのじゃ?」

「もう、どうしたじゃないですよ……」


 鷹山と二人、部屋を見て途方に暮れたところから、全部の掃除を終えて冷水シャワーを浴び終えるところまでを話すと、レーゼさんと、ラウさんは、お腹を抱えて笑い転げていました。


「ほっほっほっ、宿の部屋を丸ごと掃除するとはのぉ、良いぞ良いぞ、ワシの想像を超えておるわい」


 ラウさんの予想では、何も考えず布団に寝転んでダニやノミの餌食になるか、布団を剥がして固いベッドに毛布一枚で震えて眠るかだろうと思っていたそうです。


「ラウさん、まともな宿に泊まるには、どうすれば良いんですか?」

「そうじゃのぉ、初めて行く街の場合は、いきなり宿を取るのではなく、屋台や商店で買い物しながら情報を集めるのじゃ。一ヶ所だけだと宿と繋がってる場合があるからのぉ、何ヶ所かで聞いて宿を見極めるのじゃな。聞き込みしている時間が無い場合は、そのものズバリ、まともに眠れる部屋はいくらか聞くんじゃな」


 ラウさん曰く、大きな街や集落の場合には、商人向けの宿と聞くと比較的まともな宿に当たるそうです。

 三ツ星亭の食堂にいる他に宿泊客を眺めて見ると、確かに商人らしい人が殆どのようです。


 ただし、そうした商人向けの宿の場合、小奇麗な服装でないと宿泊を断わられる場合が多いそうです。

 今日の僕らのような埃だらけの服装だと、間違いなく追い出されるでしょうね。


 冒険者向けの宿で、良い部屋に泊まりたいなら高い部屋を要求するのが一番手っ取り早いそうです。

 安くて良い冒険者向けの宿は、冒険者仲間からの情報、自分の知識や勘フル活用を使って探すしかありません。


 要するに、冒険者としての経験を積んでいけって事ですよね。

 幸い、食事のメニューはレーゼさん達と同じ物で量も増やしてもらえました。

 味も量も満足の食事を楽しんでいたら、フレッドが念話で話し掛けてきました。


『ケント様……そのまま聞いて……』

『何かあったの? フレッド』

『ケント様から見て左奥……隅に座っている男が怪しい……視線は向けないで……』

『怪しいって、どう怪しいの?』

『キャビンが到着した時……ジッと観察していて、この宿に泊まった……』

『何か狙っているって事なのかな?』

『まだ分からない……ちょっと調べてみる……』

『後で知らせて』


 フレッドが怪しいと知らせて来た男は、ラウさんの右後方にいるので、多分視界に入っていないでしょう。

 ルイージャに視線を向けるフリをして、チラリと見た時には、ボーイさんと何やら話をしているようで、こちらには視線を向けていませんでした。


 チラっと見ただけですが、年齢は三十前後、茶色い髪を短く整え、服装も商人のように見えました。

 食事を終えて、それぞれの部屋へと戻る時に、さり気無く男の事を耳打ちすると、ラウさんはちょっと驚いた後でニンマリと笑みを浮かべ、二度ほど頷いて見せました。


 おそらくですが、ラウさんも気付いていたのでしょう。

 護衛の依頼を務めるのならば、こうした事にも気を配らないといけないのでしょうが、フレッドに言われなければ全く気付いていませんでした。


 厩の二階の部屋に戻ると、鷹山はベッドに身体を投げ出して、もう梃子でも動かない構えです。


『ラインハルト、周囲に人は居ないかな?』

『誰もおりませぬぞ』

「鷹山、ちょっといい?」

「駄目だ、俺はもう動かないぞ……」

「食堂に、怪しい男が居たのには気付いた?」

「えっ、怪しい男?」


 鷹山は寝転んだままですが、目を開いてベッドに腰を下ろした僕の方へと視線を向けました。


「僕の眷属が見てたんだけど、キャビンが宿に着いたのを観察していて、その後で部屋取ったらしいんだ」

「それって、狙われているって事なのか?」

「まだ分からないけど、食事してる時にも、食堂の隅から僕らを観察していたみたいなんだ」

「何だよそいつ、気味悪いな」


 鷹山も顔を顰めながら起き上がってきました。


「ラウさんは気付いてたみたいだし、僕の眷属が調べてる」

『ケント様、男が出掛けましたぞ。フレッドが尾行しております』

「わかった……男が出掛けたってさ」

「尾行するか?」

「僕の眷属が付いてるから大丈夫だよ」

「どういう事なんだ。外に仲間が居るとか?」

「たぶん……そうじゃない?」

「強盗みたいなもんなのか?」

「どうだろう……てかさ、鷹山、人間と戦う覚悟とか出来てる?」

「人間とか……どうかなぁ、攻撃されれば反撃するけど、殺すのは、ちょっと……」

「だよねぇ……」


 これまでの戦いは、殆どが魔物との戦いでした。

 リーゼンブルグの騎士にしても、フレイムハウンドにしても、直接戦った時でも、眠り薬を使ったり、眷族の戦力で圧倒するような方法で、直接自分が人間に手を下した事はありません。


 冒険者としての経験値を積めるという言葉に惹かれて今回の依頼を受けましたが、良く考えてみれば護衛の仕事には盗賊、山賊、強盗、誘拐といった人間から守るという仕事が発生してもおかしくないんですよね。


「鷹山、いつでも万全の状態で動けるように、マッサージするから横になって」

「おう、そうか……てか、金は払わないぞ」

「今日の分は、オマケしといてあげるよ。でも、どうする? 人間相手の戦い」

「俺は……いざとなったら相手を殺してでも生き残るぞ。シーリアを一人には出来ないからな。と言うか、むしろ国分の方が死ねない状況なんだからな。下手に容赦なんかするなよ」

「分かってるけど……やっぱり僕には護衛の仕事とか向かないね」

「確かに国分は向いてねぇと思う。自分を串刺しにした奴を殺さないで助けるぐらいだからな。いざって時に、手痛いしっぺ返し食らいそうな気がするぞ」

「たぶん、殺されかけても二、三日で回復しちゃうからかも」

「あぁ、なるほど、その時の痛みは酷いが、回復も早いから怒りが持続しねぇのか」

「そんな感じだね。実際、串刺しにされた時だって、酷い痛みを感じていたのは、せいぜい二、三時間だったからね」

「普通の奴からすれば、殴られた程度なんだろうけど……やっぱ、それって異常だぜ。俺から見ると、チートの副作用って感じだな」

「チートの副作用か……なかなか上手い事言うじゃん、鷹山のクセに」

「鷹山のクセには余計だろう。てか、容赦すんなよ、国分」

「分かった……善処するよ」


 三十分ほど掛けてマッサージをすると、鷹山は完全復活したようです。

 そして、鷹山のマッサージを終えてから程無くしてフレッドが戻ってきました。


『ケント様……山賊の仲間だった……』

『外に仲間が居たの?』

『酒場で落ち合って……情報を伝えていた……』

『情報を伝えた仲間は?』

『ムルトが尾行中……これから探ってくる……』

『何か分かったら知らせて』

『了解……』


 フレッドは、ムルトを目印にして情報収集に戻って行きました。


「鷹山、やっぱり山賊の仲間だったらしい」

「マジか! 山賊の仲間ってことは、バッケンハイムへ向かうどこかで襲って来るってことか?」

「多分そうだと思うけど、僕の眷属が情報を受け取った方を尾行してるから、もっと詳しい情報が分かるはず」

「マスター・レーゼに知らせなくていいのか?」

「とりあえず、ラウさんの所へ一緒に行こう」

「よし、何だか冒険者らしくなって来たじゃん」

「まぁ、そうなんだけど、遊びじゃないからね」

「分かってるよ、さっきも言ったけど、死ぬ訳にはいかないからな」

「なるべく普通を装っていくからね。それと、ラウさんの部屋に着くまでの会話は、全部日本語にするよ」

「おぅ、そうだな、日本語だったら、こっちの人間には意味不明だもんな」

「マルト、部屋を見張っていて。誰か入り込んでも盗まれるものは無いから、何をするのかだけ見ていて」

「わふぅ、任せて、ご主人様」


 部屋を出て、鍵を閉めた僕らは、わざとらしく連れションしてから階段を下り、ラウさんの部屋を訪ねました。


 と言うか、良く考えたら、ラウさんはマスター・レーゼが泊まる一番高い部屋に一緒に泊まる事になっています。

 ドアをノックすると、覗き窓が開けられ、ガンタ君の鉄仮面が見えました。


「ケントとシューイチです。ちょっと教えていただきたい事があって来ました」


 覗き窓が閉められ、すぐにドアが開けられました。

 ドアを入ると短い廊下があり、バスルームやトイレなどでしょうか、左右にドアがありました。


 廊下の先のリビングには大きな暖炉があって、赤々と薪が燃えています。

 マスター・レーゼは、バスローブ姿で、寝酒を楽しんでいたようです。


「どうしたぇ、ケント、まだ夜這いするには少し早いぞぇ」

「どうやら山賊に狙われているみたいです」

「ほう、ラウが言っていた男かぇ?」


 レーゼさんが視線を向けたラウさんは、いつもと変わらぬ飄々とした様子で、こちらもお酒を嗜んでいたようです。


「はい、宿を出て、酒場で仲間に情報を伝えました。情報を受け取った男は、眷属が尾行しています」

「ふふふふ……ほんにケントは頼りになるのぉ、どう思うラウ」

「また、リバレー峠に新手が湧いて出たのじゃろうな」

「リバレー峠に新手……ですか?」

「そうじゃ、ここの集落から少し進むと峠道に差し掛かる。そのリバレー峠は昔から度々山賊が現れては退治され、また現れては退治されるを繰り返しておるのじゃ」


 レーゼさんの話によれば、最果ての街ヴォルザード、そして、峠の先の分かれ道を進んだ先にある鉱業都市マールブルグで一山当てようとして逆に財産を失って、身を持ち崩した者達が、吹き溜まりのようにリバレー峠に集まってくるのだそうです。


 一応、領地として治めているのは、マールブルグ家なのですが、山賊共が潜伏するのは峠を超えたこちら側で、なかなか平時の取締りが難しいのだそうです。


「マールブルグ家でも見回りはしておるのだが、結局は後手を踏まされて、山賊となった後に討伐する形になってしまうのじゃ」

「もしかして、わざと襲わせて、山賊を捕らえようという作戦ですか?」

「ふふふふ……ケントはなかなか頭が回るのぉ、じゃが詰めが甘い」

「詰めが甘い……って、まさか!」

「山賊は、殲滅するのじゃ。捕らえたところで死罪だからのぉ」


 妖艶な笑みを浮かべるレーゼさんに圧倒される思いで、真偽を訊ねようとしたラウさんにも厳しい表情で頷かれていまいました。


「ケント、それにシューイチ。我は、そなたらの住んでいた世界の律令がどのようなものかは知らぬが、ランズヘルトでは山賊に加担した者は死罪と決まっておる。それは、例え女子供であっても変わらぬ。山賊は、殺し、奪う、魔石を持たぬ魔物じゃ。この国で生活し、この国に受け入れてもらいたいなら、山賊に情けは掛けるな。良いな」


 レーゼさんは笑みを崩していませんが、その言葉には有無を言わさぬ意思が込められていました。


「ど、どうしても殺さなきゃ駄目ですか?」

「ふふふふ……ほんにケントは甘いのぉ、じゃが、どうしても殺したくなければ、殺さずとも構わぬぞ。その代わり、情けを掛けて逃がしたり、己や仲間を危険に晒すことは許さぬぇ。どうしても生かしておきたくば、手足の一、二本も斬り飛ばして、戦うも逃げるも適わぬ状態にするのじゃな。それならば、アジトの場所や仲間を聞き出す役にも立つからのぉ。ただし、処刑される行く末は変えられぬぞぇ」

「分かりました」

「山賊なんぞに身を持ち崩す前に、いくらでも立ち直る機会はあるのじゃ。山賊に関われば死罪、これはランズヘルトに暮らす者ならば、物心ついた頃から言い聞かされる世の中の決まり事じゃ。それすらも守れぬ者が、世の一員として暮らしていけると思うかぇ? 山賊に情けは無用じゃ」


 レーゼさんの話が終わった直後にフレッドが戻って来て、山賊達の作戦を報告してくれました。

 山賊は、総勢三十七名、峠の山中に横穴を掘って潜伏しているそうで、やはりリバレー峠で待ち伏せして襲い掛ってくるようです。


「あの、レーゼさん、どんな作戦で迎え撃つんですか?」

「作戦かぇ? 作戦は……ラウが飛び出して行って斬り捨てる。それだけじゃ」

「えぇぇぇ……だって、三十人以上居るんですよ。ラウさん一人なんて……」

「そうじゃのぉ、取り逃がすのは面倒なので、ケントにも手伝ってもらうかのぉ、どうじゃラウ」

「ほっほっほっ、そうじゃな、この老体では一人も逃さず殲滅するのは少々骨が折れる。逃げようとする者の足止めをしてもらえるなら助かるのぉ」


 ラウさんは、いつも通りに笑ってみせますが、出来ないではなく、少々骨が折れても出来てしまう訳ですね。

 明日の出発は予定通り、何食わぬ顔をしていれば良いと言われ、僕と鷹山は自分達の部屋へと引き上げました。

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