第183話 チェックイン

「最初にしては、まぁまぁじゃな」


 鷹山と一緒に、緊張を解かずにゴブリンを見守っていると、突然ラウさんに声を掛けられて、僕らは弾かれたように振り返りました。


「ラウさん、驚かせないで下さいよ。心臓止まるかと思った」

「ほっほっほっ、集中するのは悪い事では無いが、周囲への注意が疎かになるようでは、まだまだじゃな」


 いや、警戒していても、気配を消したラウさんには気付かないでしょ。

 普段でもレーゼさんの存在感に隠れて、居ることさえ忘れそうになるんですから。


「では、魔石を取り出したら、持って帰るぞえ」


 何気なくラウさんが口にした言葉でしたが、僕と鷹山は思わず顔を見合わせてしまいました。

 そして、どちらが魔石を取り出すのか、目線で譲り合いを開始しました。


「どうした、さっさと魔石を……そうか、お主ら魔物を解体した事も無いのか?」

「僕は、眷族がやってくれちゃってるもので……」

「俺は、機会が無かったから……」

「はぁ……そんなザマで冒険者を目指すのかえ? ほれ、どっちでも良い、さっさと魔石を取り出せ」


 呆れたように言うラウさんに急かされて、仕方無く解体に取り掛かることにしました。


「じゃあ、眷属がやってくれるから、この先やる必要が無い僕が……」

「待て国分、やっぱり、この先何度もやらないといけない俺が……」

「どうぞ、どうぞ……」

「おいっ! ちっ、やりゃいいんだろ、やりゃ……」


 鷹山が自主的に魔石の取り出しをやってくれるそうなので、僕は見学していましょう。

 鷹山は一旦仕舞ったナイフを取り出したまでは良いもの、手順が全く分からずラウさんに助けを求めました。


「ラウさん、すみません。ホントに何も分からないので、手順だけ指示してもらえませんか?」

「しょうがないのぉ……ゴブリンの体は、人と大して変わらん。胸の中央を切り開いて、そうじゃ、もっと深くまで、そう……そうしたら、手を突っ込んで、何じゃその屁っぴり腰は、もっとズボっと突っ込め」

「うえぇぇ……ヤバっ、キモっ……」


 腕まくりした左手をゴブリンの胸の中へ突っ込んで、鷹山は盛大に顔を顰めています。


「心臓の脇にある固い塊が魔石じゃ、引っ張って取り出せ」

「うえぇぇ、何処だ、何処……これか、これが魔石か」


 ゴブリンの胸から引き抜かれた血塗れな鷹山の手は、鶏の玉子程度の塊を握っていました。


「ケント、水の魔道具か、陣紙と鍋はあるかえ?」

「は、はい? ちょ、ちょっとお待ち下さい」

『ケント様、水の魔道具ですぞ』


 慌てて影収納を漁ろうかと思っていたら、ラインハルトが先回りして準備してくれていました。


「ありがとう、ラインハルト……鷹山、水」

「おう、サンキュー」


 鷹山が手と一緒に血を洗い流すと、赤っぽい魔石が姿を現しました。

 魔石は影収納の中にゴロゴロしていますが、自分達の手で倒した魔物から、自分達で取り出したかと思うと、ちょっと違った輝きがあるように感じてしまいます。

 鷹山も魔石を日に透かして、しげしげと眺めていました。


「何か、感無量だな……」

「だね……」

「ほれ、感慨に浸るのは後じゃ、戻るぞい、そいつを担いで来い」

「影収納に放り込んだら駄目ですかな?」

「ん? 生き物も入れられるのかぇ?」

「死んでしまった後ならば、入れることは可能です」

「そうかぇ、ならば放り込んで戻るぞぇ」


 闇の盾を出して、鷹山と一緒にゴブリンの死体を放り込み、ラウさんの後ろに続いて森の出口を目指しました。

 レーゼさんは、日当たりの良い草地に整えられたテーブルセットの横で、ラウンジチェアに腰を下ろして寛いでいました。


 知らない人が減ったからか、鉄仮面を外したガンタ君が、甲斐甲斐しくお世話をしているようです。


「なんじゃなんじゃ、ケントもシューイチも汗だくではないか、たかがゴブリン一匹に情けないのぉ……」

「くぅ……攻撃魔法が使えれば、ゴブリンどころかロックオーガでも瞬殺出来るのに……」

「そうじゃ、ケントよ、そなた光属性の攻撃魔法が使えるというのは本当かぇ?」

「はい、使えますよ。と言うか、僕の一番の武器ですけどね」


 僕の言葉を聞いて顔を見合わせるレーゼさんとラウさんの横から、ルイージャが難癖を付けてきました。


「あんた馬鹿じゃないの? 光属性魔法は治癒と浄化の魔法よ。攻撃魔法なんか聞いた事無いわよ」

「いや、そう言われても使えるものは使えますから……」

「嘘じゃないって言うなら使って見せなさいよ」

「いいですよ。何か的になるような物はありますかね?」


 的になる物を探していると、レーゼさんが指示を出しました。


「ルイージャ、そこのセーシェを向こうの岩の上に置いてまいれ」


 セーシェというのはリンゴに似た形で、薄紫色の果物です。

 それをルイージャが、道幅20メートルほどの街道を渡ったところにある岩の上に置きました。


「さぁケント、見せてくれりょ」

「はい……」


 右手をピストル型にして、狙いを定めたところで光属性の攻撃魔法を撃ちました。

 そう言えば、この魔法は随分練習したんですよね。


「ほっほっほっ、こいつは驚いたのぉ……これはワシでも避けられんじゃろな」

「ふふふふ……さすがは我が認めた男じゃのぉ」

「レーザーって……国分、チート過ぎだろう……」


 ラウさん、レーゼさん、鷹山の三人は気付いたようですが、ルイージャは僕が魔法を撃った事に気付いていないようでキョロキョロしています。


「えっ、えっ、なに、どうしたの?」

「ルイージャ、セーシェを取ってまいれ」

「は、はい……えぇぇぇぇぇ、なんで、どうして?」


 小走りに駆け寄ったルイージャは、驚愕の叫び声を上げました。


「レーゼ様、岩に穴が……」


 ルイージャがセーシェをどかした後ろ側、岩にもポッカリと穴が開いています。

 身体強化の応用みたいな感じですが、いつもよりも集中して、強めに撃ったせいでしょうね。

 ラウさんは山羊のような髭を撫でながら、何度も頷いていました。


「うむうむ、ケントよ、お主は術士としては間違いなくSランクじゃ、この歳まで生きてきて、このような魔法を見たのは初めてだし、まるで防げる気がせんわぇ」

「この魔法にも、一応弱点はあるんですけど、それはまぁ言わないでおきます」

「霧か? 水蒸気? だろ国分……痛っ」

「馬鹿! お前は、ホント馬鹿な。そういう事をペラペラ喋るんじゃないよ」


 現代知識の無いこっちの世界ならば、黙っていれば気付かれないものをペラペラ喋るから、鷹山の後頭部に思いっきり平手で突っ込んじゃいましたよ。


「ほっほっほっ、なるほど、完全無欠な物など存在しないという訳じゃな」

「はぁ……もう鷹山が馬鹿過ぎて、頭が痛くなってくるよ」

「何言ってんだよ。弱点バラしたところで、お前が魔法を撃つまでに霧を用意出来る奴なんかいないだろう」

「そうだとしても、人の弱点とかペラペラ喋んなよな」

「そうじゃ、今のはシューイチが悪い、弱点を喋った事でケントが命を落としても、お主は何とも思わんのかえ?」

「いや、そんな事あり得ないで……ひっ」


 鷹山は、ラウさんの殺気を真正面から浴びせられて震え上がりました。


「何故あり得ぬと言い切れる。この先、何年も冒険者を続けていく中では、ギリギリの戦いを強いられる時もある。そういう時には、ほんの少しの差が生死の境を分けたりするのじゃぞ。軽々しく人の弱みを口にするな。そのような事を平然と行う者は、仲間として決して信頼されぬ。命を預け合う仲間として認められぬ。つまりは、冒険者として大成する事もなければ、生き残る事も出来ぬと思え。バッケンハイムまでの道程で、同じ間違いを繰り返したら、その場で叩きのめして打ち捨てていく、良いな?」


 鷹山は、飲み込まれそうなラウさんの眼光の前に返事を返す事も出来ず、ガクガクと頷いて了承の意思を示しました。

 ラウさんは、和らげた視線を鷹山から僕へと移して、訊ねてきました。


「ケントよ、お返しにシューイチの弱点を一つバラして良いぞ」

「鷹山の弱点は、馬鹿過ぎることですねぇ。他の弱点は霞んで見えなくなるぐらい馬鹿ですからね」

「ほっほっほっ、そのシューイチの弱点は治りそうかえ?」

「いやぁ……無理でしょうね」

「おいっ、いくら何でも言い過ぎだろう」

「シューイチよ、仲間の弱点とは、笑い話で済まされる程度に留めておくのじゃぞ」

「ぐぅ、分かりました」


 昼食は、ガンタ君特製のスープと、炙ったソーセージと黒パンという簡単なもので、ブランには獲れたて新鮮なゴブリンが与えられました。

 うん、直接見えない場所で食べているんだけど、バリバリ、ボリボリ凄い音がして、なかなか食が進んでしまいましたよ。うぇぇ……


 食事の後は、ブランが動けるようになるまで、僕らも日なたで休息となりました。

 広げた敷物に寝転がりながらも、身体強化の魔力循環を続けます。


 とは言っても、お腹はいっぱいだし、ポカポカしてるし、眠たくなっちゃいますよね。

 ウトウトし始めると、マルトとミルトとムルトが、ひょっこりと現れて、当然の権利だとばかりに摺り寄って来ました。


「ヤバい……鷹山、出発する時、起こして……」

「馬鹿、国分、寝るな!」

「無理! だって、モフモフが、モフモフがぁ……」

「お前、うぉ、いつの間に……」


 音も無く姿を現していたマルト達に鷹山が驚いても、みんな我関せずと気にもしませんね。

 大の字になった右手にムルト、左手にマルト、足の間にミルトが入り込んで、ふさ……ふさ……っと尻尾を振ってます。


 ゆっくりと流れていく雲を眺めていると、何だか色んな事がどうでも良くなってしまいそうです。

 暫くすると、カチャカチャとブランにハーネスを付ける音がし始めたので、僕らも起きて出発の準備を始めます。


 食事をして、ゆっくりと休息したから、属性奪取の影響もすっかり抜けた感じです。

 試しに手の平の上で、クルクルと小さなつむじ風を作るイメージをすると、その通りに気流が流れ始めます。


 そのまま気流の速度を上げて真空の刃にするようにイメージして、30メートルほど離れた木に向かって投げ付けます。

 風属性を身に付けたからなのか、意識すると気流の流れが目に見えてきました。


 立ち木との間の気流もコントロールし、水面の波紋が広がるようなイメージで刃を届かせると、一抱えもありそうな幹を音も無く切断しました。

 ですが、切断面が滑らかに切れすぎたからなのか、木は動かずに立ったままです。


「国分、何やってんだ?」

「えっ、いや、風属性もチートだと思ってさ」

「チート? 何がだよ……って、うぉぉ、マジか!」


 鷹山が眺めている先で、木が風に吹かれ、ズルっと切断面が滑り始めると、バサバサと大きな音を立てて倒れ始めました。

 後で眺めていたのか、レーゼさんが新しいオモチャを見つけたような笑みを浮かべていますね。


 その隣ではルイージャが、こちらは眉間に皺を寄せて睨んでいます。

 別に迷惑掛けた訳じゃないんだから、そんな嫌そうな顔しなくても良いんじゃないかな。


 午後のキャビンの中も、優雅な観光旅行とは行きませんでした。

 揺れるキャビンの天井に、身体強化を使って片手でぶら下がり、鷹山とどちらが長く耐えられるか競争させられたり、片足立ちで片手を使った押し相撲をさせられたり、向かい合って互いの手の甲を合わせた状態からの頬の張り合いをさせられたり、最後には、その日の宿をとる街まで、キャビンを追って走らされました。


「どわぁ……何これ……はぁはぁ……きつ過ぎる……」

「はぁはぁ、バスケ部の練習が……はぁ、ぬるま湯に……はぁ、感じるぜ」


 いくら足に身体強化の魔法を掛けたとは言え、ブランが走るスピードに合わせてのマラソンなので、もしかすると世界記録ペースかもしれません。


「はぁはぁ……死ぬ……途中で、肺にも強化、掛けたけど……はぁ、キツい……」

「くっそ、その手があったか……早く、はぁはぁ、教えろよ、国分……はぁ……」

「無理言うなよ……はぁ、喋る、余裕なんか……無いよ……はぁ……」

「だよなぁ……はぁはぁ……」


 恥も外聞も無く、道端に倒れ込んで荒い息を吐く僕らを、街の人達が何事かと眺めていきますが、立ち上がる元気がありません。

 自己治癒と身体強化の重ね掛けを試みて、十分ぐらい経ってようやく起き上がる事が出来ました。


「あーっ……しんどい」

「おい、国分、起こしてくれ……てか、何で立てるんだよ」

「あぁ、僕は自己治癒が使えるから、筋肉痛とか回復させられるんだ」

「おまっ、ズルくねぇ?」

「ほら、手を貸してやるから立ちなよ」

「悪ぃ、うがぁ、待った、攣る、攣る……攣ったぁぁぁぁぁ!」


 立ちあがろうと動き出した途端、鷹山の両足のふくらはぎが、ビキビキと痙攣を始めました。


「あぁ、もう世話が焼けるなぁ、ほら足伸ばしてやるから……」

「痛ぇ、痛ぇ……うがぁぁぁ……」

「しょうがないなぁ……後でマッサージしてあげるよ。筋肉痛とか一発で治るからさ」

「マジか、頼むやってくれ!」


 地獄で仏にあったような表情を浮かべる鷹山に、料金の請求をしてみました。


「マッサージ一回3500ヘルトね」

「馬鹿野郎、城壁工事の日給十日分じゃねぇかよ! 払えるか!」

「しょうがないなぁ……借金にツケておいてあげるよ」

「くそっ……俺がいくら働いても、全部国分に巻き上げられそうだ」

「にぃちゃん、借りたもんは、ちゃーんと払ってもらわんとなぁ……」

「お前、どこの高利貸しだよ」

「馬鹿な事言ってないで、ほら行くよ、起きた起きた」

「くそっ、こっちに残るって決めたのは失敗だったのか?」

「その台詞、シーリアさんにも言えるの?」

「言える訳ねぇだろう」

「てかさ、鷹山、実家は大丈夫なの? 両親とか許してくれてるの?」

「あぁ、うちは馬鹿兄貴が二人も居るから大丈夫だ。孫が出来るって言ったら、馬鹿みたいに喜んでたよ」


 まぁ、鷹山の馬鹿っぷりを見ていれば、大らかな家庭なのは想像が付きますよね。


「ほれ、お主ら、いつまで遊んでおる気じゃ、さっさと起きて付いて来い」


 いつまでも姿を見せない僕らを探しに来たラウさんから急かされれば、鷹山も顔を顰めて起き上がり、足を引き摺りつつも宿屋の玄関へと向かうしかありませんよね。

 宿の名前は三ツ星亭、地球では名前ほどではと首を傾げる事になるでしょうが、こちらの世界では上等な部類のようです。


 ヴォルザードからバッケンハイムに向かう途中には、街道沿いに四十程の集落があるそうです。

 街道の分岐点や、鉱山の近くなどの集落は、必然的に大きくなりますし、逆に乗り合い馬車も止まらないような小さな集落もあります。


 この集落は、ギガウルフが引くキャビンという特殊な移動手段を受け入れてくれて、なおかつ本部ギルドのマスターが宿泊するのに相応しい宿がある集落ですから、それなりに大きな集落なのでしょう。


 三ツ星亭は、この集落の中では一番良い宿だと聞いていますから、今夜はそれなりに豪華な部屋での宿泊になるものだと思い込んでいました。


「そうじゃケントよ、宿の中では冒険者のランクを明かす事を禁ずる。よいな」

「はぁ……まぁ、明かしたところで信じてもらえないと思いますけど、どうしてですか?」

「せっかくじゃからな、駆け出し冒険者の待遇というやつを味わっておけ」

「はぁ……」


 意味ありげなラウさんの笑みからして、何かあるんでしょうね。

 こちらの世界の宿屋は、玄関を入ったすぐの場所にフロントがあり、ここで宿泊の受付をする事になります。


「こやつらが、さっき話しておいた二人じゃ……あぁ、裏口から回らせるから心配は要らんぞ」


 埃まみれの僕と鷹山を見て眉を顰めたフロントマンは、ラウさんの説明を聞いてホッと胸を撫で下ろしていました。

 まぁ僕らも、なりたくて埃まみれになった訳ではありませんが、この格好で宿屋の内部にズカズカと踏み込んでいくほど図々しくはありません。


 フロントマンは、僕と鷹山に革紐を通した鍵を差し出しました。

 部屋番号の書かれた小さな木札と共に革紐が通してある鍵は、RPGに出てきそうな古典的な鍵でした。


 鍵を受け取った僕らは、ラウさんに連れられて宿屋の玄関から外に出ると、建物をグルっと回り込んで裏口へと向かいました。


「この宿は、この集落の中ではまともな部類じゃが、酷い宿では相手を見て値段を吹っ掛けてきよる。宿泊の交渉をする時は、集落の混み具合や、宿の様子、受付の人相などを良く観察してから値段の交渉をするのじゃぞ」

「つまり、僕らのようなヒヨっ子は、ぼったくられないように気をつけろって事ですね?」

「ほっほっほっ、分かっておるではないか、そういう事じゃ」


 ラウさんに連れられて行った宿の裏手は、馬車を止めておくスペースや厩が建てられていました。

 馬房の一番奥には、既にハーネスを外してもらったブランが、ルイージャにブラシをかけてもらって目を細めています。


 そこから三つほど空の馬房を挟んで、普通の馬が繋がれているのですが、こちらは耳をピンと立てて緊張しきった顔をしています。

 そりゃ近くにギガウルフが居るんだから、こうなりますよね。

 あの馬、明日倒れたりしないと良いけどね。


「宿に馬を預ける時には、必ず宿帳に馬の特徴を記載させるのじゃぞ。毛色の特徴、見た目の年齢などをしっかりと書かせ、馬を騙し取られるようなヘマをするでないぞ」

「ほら鷹山、良く聞いて、シッカリ覚えておくんだよ」

「これケント、何を他人事のように言うておる」

「えっ、でも僕は馬での移動はしないと思い……痛っ」

「たわけ! 護衛の依頼を受ければ、馬車での移動はするであろうが、お主らバッケンハイムからの帰り道は、クラウス殿の子息の護衛をするのではないのか?」

「あっ、そうでした……すみません」


 ラウさんに杖でコツンとやられました。


「まぁ、宿を取るときの注意は、こんなところじゃな。夕食の時間になったらガンターに呼びに行かせる。それまでに汗を流して着替えておくのじゃぞ」

「はい、分かりました」


 宿へと向かうラウさんに付いていくと、裏口で追い払われてしまいました。


「お主ら、どこへ行くつもりじゃ?」

「えっ、どこへって僕らの泊まる部屋ですが……」

「お主らの部屋は、あそこじゃ」

「えぇぇぇぇぇ!」


 裏口で振り返ったラウさんが、満面の笑みを浮かべながら杖で指し示した先は、厩の二階でした。

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