第172話 皇族兄妹
安息の曜日の朝、最初に向かったのはバルシャニアの街、チョウスクです。
チョウスクはヴォルザードよりも遥かに西、リーゼンブルグを超えて、砂漠を超えて先にあります。
良く考えてみれば、時差があってもおかしく無いんですよね。
いつも通りに営業するアマンダさんに合わせて、下宿の朝食もいつものように少し早めの時間でした。
朝食を済ませて、そのまま出掛けてきたら、ようやくチョウスクは動き出す時間を迎えたばかりでした。
セラフィマも、まだベッドの中で夢の中という感じです。
それにしても、本当に精巧な人形という感じで、息を飲むような美貌ですよね。
ごめんなさい、つい寝顔を見詰めてしまいましたが、僕は変態さんじゃないですよ、ホントだよ。
影の中からセラフィマの寝顔を堪能していたら、部屋に侍女が入って来て、そっと声を掛けました。
「セラフィマ様、朝でございますよ」
声を掛けられると、丸いトラ耳がピクピクっと動いて、メッチャ可愛いです。
これは親バカ、兄バカが発生するのも無理はありませんね。
「んーっ……もう朝ぁ?」
「本日は、安息の曜日ですので、もう少しお休みになられますか?」
「んーっ……いいえ、ケント様がお越しになるかもしれません、起きます」
「お召し物は、こちらに……」
「ありがとう」
スルリと布団から抜け出たセラフィマは、肌触りの良さそうな寝巻き姿で、トラ尻尾がフラフラと揺れています。
このまま着替えを拝見しようかと思ったら、鋭い視線を向けられました。
やっぱり、探知するスキルでもあるんじゃないですかね。
「いかが致しましたか?」
「いえ、ケント様がいらしたような気がしたので……」
「女性の着替えを覗くような無作法者ではございませんのでは?」
「それも、そうですね……」
ごめんなさい、思いっきり拝見……ひぃ、夜叉のごとき視線が……
「セラフィマ様?」
「いえ、何でもありません……」
「朝食のお支度が整っておりますが……」
「いただくわ」
セラフィマが朝食を食べている間に、ちょっと砂漠の開拓現場でも見てきますかね。
五日程前に訪れた工事現場ですが、現代の地球においても大規模と言える掘削工事なのに、思った以上の速さで進んでいる気がします。
こちらの世界には重機なんて存在していませんから、人力と魔法の組み合わせしか無いはずですが、出来栄えは近代工法に勝るとも劣らないように見えます。
「ラインハルト、この前来た時よりも、随分工事が進んでいるように見えるんだけど」
『そうですな。バルシャニアの工兵隊がそれだけ優秀なのでしょう』
「先はまだまだ長そうだけど、このペースだったら、来年中に水路は完成しそうな気がするね」
『左様ですな。ただ、工事が終わったとしても、いきなり砂漠が緑の大地に様変わりする訳ではありませぬ』
「水路が出来た後の方が、ずっと大変そうだね」
『いかにも、その通りですな』
科学技術が進んだ地球でも、砂漠化を止められない地域が沢山あると聞きます。
むしろ、大勢の人員を投入出来るバルシャニアのような国の方が、砂漠の開拓を進められるのかもしれません。
そう言えば、エジプトのピラミッドは大規模な公共事業だったという説があるそうです。
砂漠のような厳しい環境では、そうした事業によって国民に仕事を与える必要があるのかもしれませんね。
「ラインハルト、リーゼンブルグの砂漠が進行している地域には、ここのような大きな川は無いの?」
『そうですな、これほどの川幅のものはございません。それゆえに砂漠化の進行が進んでおるのでしょうな』
「砂漠の中に人工的に水路を作るというのは、やっぱり無理かな?」
『その為には水源が必要になりますが、リーゼンブルグの西部には大きな湖などもありませんので、なかなか難しいかと……』
「そう言えばさ、砂漠の中でも水を出す魔道具は使えるんだよね?」
『使えることは使えますが、湿気の多い地域に較べると出る水の量は減りますので、効率的ではありませんな』
「そうか……やっぱり簡単には行かないね」
『自然を相手にするのは、容易ではありませぬ。容易に砂漠を開拓出来るのならば、リーゼンブルグがあのような状況になる事も無いかと……』
「だよねぇ……」
工事現場の見学を切り上げて、チョウスクの宮殿へと戻ると、セラフィマは兄である第三皇子ニコラーエとの朝食を終えたところでした。
この場に居ないという事は、皇帝コンスタンと第一皇子のグレゴリエはチョウスクを離れたのでしょうね。
これから食後のお茶の支度をするようなので、僕もご相伴に預かる事にしましょう。
「おはようございます、ニコラーエさん、セラフィマさん」
闇の盾を潜って表に出ながら挨拶をすると、ニコラーエはギロリと鋭い視線を向けてきました。
「ふん、ヴォルザードのネズミか……」
「兄上! 私の旦那様に失礼な事を仰らないで下さい」
「セラちゃん、今ならまだ間に合うよ。ねぇ、考え直そうよ」
「兄上、ケント様とは血の盟約も交わしました。それを違えるのであれば、私は自害いたします」
「セラちゃぁぁぁん!」
うん、安定の兄妹コントという感じですね。
「ケント様!」
「は、はい、何でしょう」
「セラフィマさん、などと他人行儀に呼ぶのはお止め下さい。私の事は、セラとお呼びくださいませ」
「えっと……分かりました、セ、セラ」
「はい、ケント様」
うん、反則級のセラフィマの輝く微笑と、呪い殺さんばかりのニコラーエの視線とのコラボレーションですね。
「ケント様、昨日も一昨日もお見えになりませんでしたが、何かございましたか」
「うん、ちょっとグリフォン対策に追われていたので……」
「グリフォンだと!」
それまで睨み付けているだけだったニコラーエが、椅子を蹴立てて立ち上がりました。
「あぁ、大丈夫です。昨日やっと討伐出来ましたので」
「何だと、グリフォンを討伐したのか? 貴様一人でか?」
「まさか、僕一人では到底無理です。ヴォルザードの守備隊、冒険者が総出で立ち向かって、ようやくという感じでしたよ」
「そうか……だが、グリフォンを討伐するとは……ヴォルザードの武力は、それほどまでに強力なのか……」
ニコラーエは、座り直して腕組みをすると、考えを巡らせ始めました。
「兄上、もう少し詳しい話を伺った方がよろしいのでは?」
「そうだな……詳しい話を聞かせてくれるか?」
「勿論ですよ、お義兄さん」
「なっ、ぬぅ……さっさと座れ!」
セラフィマがクスクスと笑い声を洩らす中、ニコラーエは顔を真っ赤にして自分の前の席を指差しました。
「ふふふっ、ケント様は意外と意地悪でいらっしゃるのですね」
「ええ、ヴォルザードの領主様が、どこかの皇帝様のように親バカなもので、色々と鍛えられております」
「まぁ、その領主様の御息女が、私とケント様を争う方ですのね?」
争うという言葉が気になって、セラフィマを見詰めてしまいました。
「ケント様……どうかなさいましたか?」
「僕と将来を約束している三人の女性は、一緒に僕を支えてくれています。そこに争いを持ち込まれるのであれば、貴女を受け入れる事は出来ません」
「貴様! セラちゃんが結婚してくれると言っているのに……」
「兄上、少し黙っていて下さい!」
腰を浮かしかけたニコラーエですが、セラフィマの厳しい口調にスゴスゴと腰を下ろしました。
「ケント様は、お妃には序列を付けないおつもりなのですね?」
「僕は、こちらの世界に来るまで、あまり家族の愛情に恵まれてきませんでした。だから家族には、順番とか優劣を付けるような事はしたくないんです」
「分かりました。私も加わって、四人でケント様を支える……それならばよろしいですか」
「はい。ですが、三人の中には普通の家庭で育った一般市民の女性も居ますが……」
「身分には拘らないと仰るのですね。構いません、ケント様が私を一人の女性として見て下さるのであれば、私も一人の男性としてケント様をお慕いいたします」
「ありがとう、セラ」
兄バカ2号の前でしたが、セラフィマを抱き寄せました。
「やっと、やっとケント様から抱き締めて下さいましたね」
「ごめんなさい、これまでは色々と圧倒される思いばかりで、自分の気持ちも上手く伝えられていませんでしたので……」
「これからは、もっとケント様の事を教えて下さいませ」
「うんんっ! んほんっ! いい加減、グリフォンの話を始めてもらえんかな? 私も皇子として遊んではいられんのだよ」
ニコラーエは、苛立たしげにテーブルを指先で叩きながら、グリフォンの話を催促してきますが、僕とセラフィマがイチャつくのを邪魔したいだけですよね。
「すみませんでした。バルシャニアの皇子様ともなると、安息の曜日にもお忙しくされていらっしゃるのですね」
「なっ……あ、当たり前だ。皇子たるもの常在戦場の心構えでな……」
ニコラーエは、顔を赤くして言い訳を始めましたが、堪えきれなかったセラフィマが吹き出しちゃいましたから、バレバレですよね。
いつまでも遊んでいると可哀相だし、恨みを買いそうなので、グリフォンの話をする事にしましょう。
「グリフォンが、ヴォルザードに姿を現したのは、五日前の風の曜日でした。城壁の上で警戒業務を行っていた守備隊の隊員を攫い、あっと言う間に飛び去っていったそうです」
「グリフォンの大きさは、どの程度だったのだ?」
「前足で大人を鷲掴みにするほどの大きさです。片方の羽の長さが大人の身長の二倍程度ありますから、まさに怪物って感じでしたね」
「ヴォルザードの犠牲者は、何人ぐらいだ?」
「初日に一人、翌日が二人、三日目に一人、合計四人です」
「グリフォンは、毎日姿を現していたのか?」
「はい、毎日同じような時間に姿を見せて、ヴォルザードの上空を旋回して狙いを定めていました」
「昨日討伐したと言っていたが、一昨日はどうしたのだ、グリフォンは現れなかったのか?」
「一昨日も姿を見せましたが、その時はヴォルザード中の火力を集中する形で、どうにか追い払いました」
「グリフォンは、風属性の魔法を身にまとっていて、魔法による攻撃は殆ど効果が無いと聞くが、それは本当なのか?」
「はい、本当です。かなり強力な魔法で、我々の攻撃はせいぜい羽を散らす程度でした」
「そんな怪物を、一体どうやって討伐したと言うのだ。遥か昔、バルシャニアにもグリフォンが姿を現した事があったそうだが、身を潜め、飛び去るのを待つのが精一杯だったと伝わっているぞ」
「考えられる全ての手段を投入して、形振り構わず攻撃した感じですね……」
グリフォン討伐のために、僕が試した方法は、全部包み隠さず話しました。
話したところで、全部を真似する事は出来ないでしょうし、もしバルシャニアにもグリフォンが現れた時のための参考にしてもらうためです。
多重構造の闇の盾や、岩山から切り出した巨岩、ザーエ達の投槍、ネロの猫パンチなどは、真似しようとしても不可能でしょう。
それは、話を聞いているニコラーエも感じたらしく、話が進むほどに厳しい表情となりました。
「グリフォン討伐までの過程は良く分かったが、それは貴様のような闇属性の魔術士が存在しないと成立しない作戦ではないのか?」
「確かに、ヴォルザードの作戦では僕が主要な役割を果たしましたが、隷属のボーラと同じような効果をもたらす魔道具を付けるように、何らかの罠を仕掛けるようにすれば、闇属性の魔術士が居なくても討伐出来る可能性はあるはずです」
「なるほど……確かに、それは一考に価するな」
「兄上、ヨシーエフ兄様にもお知らせして、知恵を拝借された方がよろしいのでは?」
「そうだな、俺の考えも添えて、書簡として送ることにしよう」
ヨシーエフというのは、バルシャニアの第二皇子で、内政などを担当する実務派だと聞いています。
「あのぉ、砂漠の開拓事業を計画したのも、そのヨシーエフさんですか?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「どういう計画なのか教えていただけませんかね」
「なぜ知りたがるのだ?」
「はい、僕の住んでいた国でも大きな工事が行われていますが、バルシャニアの工事の方が早く進んでいるように感じますし、仕上がりの面でも優れているように感じるからです」
「当然だ、我々の工作技術は進んでいるからな」
「そのようですね。工事に関わっているのは、全て軍の関係者なんですか?」
「一応、術士の部隊には組み込まれているが、彼らは工事専門の集団で、基本的に戦闘には参加しない」
「それでは、工事のエキスパートという感じですか?」
「その通りだ。元々、属性の割合では、土属性の者が一番多いのだが、従軍するとなると土属性は攻撃魔法としては不向きだ。その為、土属性の者は身体強化に特化した兵士になる事が多いのだが、身体強化は得手不得手があるし、剣術、槍術などは技量を要求されるので熟練を要する。つまり、土属性は兵士向きではない属性という事だな」
「土属性の術士が一番有意義に活躍出来る場所を用意した……って感じですか?」
「そうだ。通常の建築ではなく、道路や橋、今回の水路のような大規模な工事を専門に行う部署をヨシーエフ兄者が創立したのだ」
言うなれば、国営のゼネコンを設立した……みたいな感じですかね。
「それじゃあ、国内の道とか設備が一気に整備されるようになったんじゃないですか?」
「ほう、貴様は、なかなか頭が回るようだな。確かにヨシーエフ兄者が部隊を設立してから、大規模工事の効率が飛躍的に向上したし、土属性の魔術士の地位向上にも繋がっている」
バルシャニアの工兵部隊が褒められて気を良くしたのか、ニコラーエは砂漠の開拓事業について色々と教えてくれました……と言いたい所ですが、実際に質問の殆どに答えてくれたのはセラフィマでした。
ニコラーエは、軍務、防衛が主の役割で、開拓などの経済や内政分野にはノータッチのようです。
ちなみに、兵站などの事務仕事は、専門の文官が補佐しているそうで、言うなれば、脳筋担当って感じですね。
それでも、リーゼンブルグの馬鹿王子との大きな違いは、行動の原理がバルシャニアの平和、繁栄のためというところでしょう。
「皇族が国のために働くのは当然だ。ただ皇家に生まれただけでは皇族とは呼べぬ。国のため、民のために働いて初めて皇族を名乗れるのだ」
肩肘を張ってアピールするのではなく、呼吸するように自然に言い切るニコラーエは、ちょっと格好良く見えました。
なるほど、バルシャニアの皇族が、国民から人気があるのも頷けます。
今のバルシャニアならば、リーゼンブルグと友好関係を築いた方が、両国にとって良い影響があると感じます。
なので、リーゼンブルグの現状を話してみる事にしました。
「ご存知かとは思いますが、リーゼンブルグでは王位の継承権を巡って、第一王子派と第二王子派が対立を続けていました。そこに乗じたアーブル・カルヴァインと連携してバルシャニアは攻め入る予定でしたよね」
「そうだ、貴様らが現れなければ、我々は砂漠を超えていたはずだ」
「その後のリーゼンブルグなのですが……」
第二王子、第三王子に続いて、第一王子のアルフォンスもアーブルの手の者に毒殺され、反目しあっていた派閥は、カミラの下に集まり対立は解消。
後は、王城に入ったアーブルとの最終的な対決という状況にある事を話しました。
「第一王子が死亡したらしいという話は伝わって来ているが、対立していた貴族が手を結んだ話は初耳だな?」
ニコラーエの問い掛けに、セラフィマも頷きました。
「兄上。カミラ・リーゼンブルグは、民衆からも支持されていると聞いております。このままカミラが王位を継承するようならば、リーゼンブルグとの関係改善も期待出来るかもしれません」
「砂漠化を食い止める方策に手を貸すというのはどうですか? 現状、リーゼンブルグの西部は砂漠化の進行によって苦しんでいるようですので、それをバルシャニアの手で食い止める、もしくは改善すれば、民衆の印象も変わると思うのですが」
バルシャニアの土木工事技術での協力を提案してみたのですが、ニコラーエもセラフィマも、あまり良い反応は見せませんでした。
「貴様は、異世界から召喚された者だから、話に聞くだけで体感出来ていないのだろうが、バルシャニアとリーゼンブルグの関係は、そんなに簡単に変わるものではない」
「ケント様が好意でご提案下さったのは十分承知しておりますが、工兵部隊はバルシャニアとっても重要な者達ですので、簡単に貸し出せるものではございません。万が一、捕られられて強制的に働かされるような状況になれば、それこそ戦争に発展してしまうでしょう」
「そうですか……そうですね、他国から来た僕には分からない対立の歴史があるんですね」
僕の言葉に二人は揃って頷いて見せました。
地球で言うなら、アメリカとロシア、日本と韓国みたいなものなのでしょう。
幸いにして砂漠という緩衝地帯がありますから、時間を掛けて関係を改善していくしかないのでしょうね。
グリフォン対策を書簡にするとニコラーエが自室へと戻り、セラフィマと二人きりになってしまいました。
勿論、給仕を担当する人や、侍女が次の間に控えていますので、めったな事は出来ませんよ。
「ケント様、王城の周囲を残して、他の部分はカミラ・リーゼンブルグの支配下になったのであれば、年明け早々にでも輿入れをして構いませんね」
「えっと、その事なんだけど……」
ヴォルザードでは、食事付きで、月三千ヘルトの下宿生活で、一緒に住む家が無いと言うと、セラフィマはキョトンとした顔で、僕が話している内容を最初は理解出来なかったようです。
「それで、その輿入れの時って、何人ぐらい一緒に来るものなの?」
「はい、警備の騎士が隊長を含めて十八名、文官が二名、侍女が四名……ケ、ケント様?」
「ごめん、ちょっと眩暈が……」
「大丈夫でございますか?」
「う、うん、何とか……何とかね。それで、総勢何名になるのかな?」
「およそでございますが、三十名ほどかと」
「ははっ、はははっ……そ、そうだよね、一国の皇女様だもんね。はぁ……」
「ケント様、何か問題があるのでございますか?」
「うーん……問題と言うか、僕が考えて無かったと言うか……」
少し迷いましたが、一般的な市民の結婚では、本人が相手の家に入るだけで、皇族の結婚のように御付の人が来る事を考えていなかったと正直に話しました。
「それで、今の時点ではセラ達を受け入れられる建物は、ヴォルザードの迎賓館ぐらいしか無くて、一応、領主のクラウスさんは、一時的に使っても構わないと言ってくれているけど、いつまでも使う訳にはいかないから、自分の家を持とうとは思っているんだ。ただ、建てる土地とかも探して確保しなきゃいけないから……その、もう少し待ってもらえないかな?」
「そうですか……そのような事情がおありだとは、こちらこそ気付かずに申し訳ございません。私の方でも、父と相談いたしまして、同道する人数を減らせるように考えてみますが……」
「そうだよね。コンスタンさん達の溺愛ぶりからしたら難しいのかもねぇ……」
「はぁ……申し訳ございません」
「いや、お互い様だから、相談して一番良い方法を考えようよ」
「はい、そうでございますね。ご一緒に考えましょう、ゆっくりと……二人で……」
ぴったりと身を寄せて、少し上目使いで見詰めてくるセラフィマは、ドキリとするほど艶っぽく見えます。
吸い寄せられるように唇を重ねようとしたら、荒っぽくドアが開けられました。
「セラフィマ、少し書簡に付いて相談に……ん? どうした?」
「兄上は、無神経過ぎます! 後で参りますので、お部屋でお待ち下さい。さっ、ケント様、続きを……」
「い、いやぁ……ぼ、僕もそろそろヴォルザードに戻らないといけないから……」
「むぅ、ケント様、今日はヴォルザードも安息の曜日でございますよね」
「え、えっと、ほら、お嫁さんとは平等に接しないと……ね」
「むぅ……」
頬を膨らませて拗ねた表情を浮かべると、セラフィマは一気に幼く見えてしまいます。
その表情を見ると、ついメイサちゃんと同じような扱いをしたくなっちゃいますよね。
「はいはい、また相談に来るから……ね?」
「きっとですよ。お待ちしておりますからね」
ニコラーエの存在など、まるで無視してセラフィマを抱きしめて、ヴォルザードへと戻る事にしました。
「では、お義兄さん、またお邪魔させていただきますね」
「ふん、当分来なくていいぞ……」
未来の義兄から、冷たい視線を浴びながら、闇の盾を潜りました。
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