第169話 後始末

 グリフォン討伐をクラウスさんに報告した後、マノンの家を訪ねました。

 いつもならば守備隊の診療所へと出掛けている時間ですが、グリフォンの一件で外出を控えると言っていました。


 影の中から覗くと、マノンは母親のノエルさんとリビングに居ましたが、椅子に腰を下ろしたかと思うと、また立ち上がって窓の外を覗きに行き、また戻ってきて椅子に座ったかと思うソワソワと落ち着かない様子で、また窓の外を覗きに行きます。


「マノン、ちょっとは落ち着いて座ってなさい」

「だって、警報解除の鐘が鳴ったし……」

「それならば、外に行って見て来れば良いじゃないの」

「でも、その間にケントが探しに来たら困るし……」

「じゃあ大人しく待ってなさいな」

「だって、もしケントが怪我してたら困るし……」

「大丈夫よ、これまでだってヴォルザードを守ってくれたんでしょ」

「そうだけど、今回は相手がグリフォンだから……やっぱり心配だよ」


 ヤバイです。女の子にこんなに心配されるなんて、これまで経験したこと無いから、ちょっとニヤニヤしちゃいそうです。

 闇の盾を出して、リビングにお邪魔しました。


「マノン、終わったよ。グリフォンは討伐したよ!」

「ケント、ケント、ケント!」


 駆け寄って来たマノンをギューって抱き締めました。

 マノンはちょっと震えていて、こんなに自分を心配してくれる女の子が存在している事に幸せを感じてしまいます。


「心配掛けてゴメンね」

「ううん、怪我してない? 危なくなかったの?」

「大丈夫、どこも怪我していないよ。眷属のみんなが頑張ってくれたからね」

「そう、良かった……ホントに良かった、おかえりなさい、ケント」

「ただいま、マノン」


 もう一度、強く抱きしめると、マノン身体から緊張が解けて、震えが消えていくのが分かりました。


「あっ……挨拶が遅れてすみません、お邪魔してます。お義母さん」

「あらあら、お疲れ様でしたね、ケントさん。ノエラさん、なんて呼ばれたら、お説教しちゃうところだったわ。ヴォルザードを守ってくれて、どうもありがとう」

「いえ、お礼を言われる事じゃありませんよ。ヴォルザードは僕の大切な街なんですから、守るのは当然です」

「うんうん、ホントに良いお婿さんだわ。我が娘ながらマノンの見る目には感心しちゃう。よくぞケントさんを捕まえたわね」

「お母さん、捕まえたなんて……僕は、ただケントが好きになっただけで……」

「マノン……」

「ケント……」

「あらあら、続きはマノンの部屋の方が良くなくて? あらそうだ、マノンの部屋は、また服が広げっ放しなのかしら?」

「ちょっと、お母さん!」

「ケントさんが、毎朝いらっしゃるようになってから、マノンの朝の支度が長くなってねぇ……」

「お母さん!」


 毎朝、マノンが僕のために洋服選びを悩んでくれているかと思うと、やっぱりニヤニヤしちゃいますよね。


「マノン、まだ他にも知らせないといけない場所があるから、また後でね。お義母さん、またゆっくり寄らせていただきますね」

「はいはい、いつでも寄ってちょうだい」


 マノンと、もう一度ギューってしてから影に潜って、一旦下宿に戻りました。


「ただいま戻りました。グリフォン、やっつけましたよ!」

「あぁ、ケントかい、お帰り。ご苦労さんだったねぇ……メイサ、そこのお皿取っておくれ」

「ちょっと待って……はい、お母さん。ケント、お帰り!」

「おかえりなさいケント、お疲れ様ぁ」

「あっ、メリーヌさん、どうも……」


 って、声はすれども、誰も厨房から出て来ませんね。

 グリフォンが討伐されたんで、お店を開けるために急いで仕込みを進めてるんでしょうね。


 まぁ、この手の扱いはいつもの事ですし、討伐の報告もして無事も知らせたから他に報告に回りましょうかねぇ。


「アマンダさん、僕ちょっと守備隊の宿舎に……」

「ちょっとお待ち! ケント、お昼は食べたのかい?」

「いえ、グリフォン討伐でバタバタしてたんで……」

「それじゃあ、そこに座っておいで!」

「はぁ……でも、皆さん仕込みで忙しいんじゃ……」


 そう言いかけたところで、三人が厨房から出て来ました。

 アマンダさんとメリーヌさんは両手に料理の皿を載せ、メイサちゃんは全員分の取り皿とナイフとフォークを抱えています。


「ほらほら、何をボーっとしてるんだい。早くお座り」

「ほら、ケント、こっち」

「ケント、座って……」


 スープ、サラダ、ローストした大きな肉、焼きたてパンも添えられています。


「えっ……お店の仕込みは?」

「馬鹿だねぇ、グリフォン騒動で休みにしたのに仕込みなんかする訳ないだろう」

「それじゃあ、さっきまでのは……」

「ケントが戻ってきたら、みんなで食べるように準備してたんだよ」


 どうだとばかりに小さな胸を張って見せるメイサちゃんの姿が滲んで見えます。


「ケント、良く頑張ったね」

「ケント、ありがとう!」

「ケント、お疲れ様……」

「はい、ありがとうございます……」


 うっ、ヤバいです。こういうの弱いんですよ。


「まったく、グリフォンなんてとんでもない魔物に向かって行くくせに、いつまでたっても泣き虫なんだから」

「はい……ぐずっ……すみません」

「ほらほら、謝る必要なんか無いから、冷めないうちにお食べ」

「はい……はい、いただきます」


 どれもこれも、ヴォルザードに来て以来、すっかり食べ慣れたアマンダさんの、ヴォルザードのお袋の味です。

 当たり前の食事を当たり前に食べられるのが平和であり、幸せなんだと噛み締めました。


 食事をしながら、戦いの様子を話したのですが、三人とも巨石を落とした事で起こった地響きは、グリフォンの仕業だと思っていたそうで、僕のせいだと話したら呆れられました。


「まったく、とんでもない事を思いつくもんだ。あたしゃグリフォンの攻撃だと思って胆を冷やしてたんだよ」

「すみません。相手が相手だけに、効果がありそうな物は何だってやってみるつもりだったので……」

「それで、その岩はどうしたんだい?」

「あぁ、グリフォンに踏み砕かれちゃいました」

「えぇぇぇぇぇ! そんな大きな岩がかい?」


 アマンダさんだけじゃなく、メイサちゃんもメリーヌさんも目を丸くしてましたね。

 呆れられたり、驚かれたり、笑われたりしながら、少し遅めの昼食を楽しんだ後、守備隊の宿舎に向かう事にしました。


 知らせるのが遅くなってしまったので、委員長に怒られちゃうかもしれませんね。

 アマンダさん達は、食材の買出しに行って、明日の仕込みを始めるそうです。


 委員長は、同級生や先生達と一緒に、食堂に集まっていました。

 こちらも盛り上がっているかと思いきや、何だか重たい空気が漂っていますね。

 良く考えてみたら、三田が犠牲になっているのだから、素直には喜べませんよね。


「唯香、ただいま。グリフォンは討伐したよ」

「おかえりなさい、怪我とかしてない?」

「うん、大丈夫、何とも無いよ」

「良かった……」


 歩み寄ってきた委員長を抱き寄せて、頬に軽いキスをしました。

 そこへ加藤先生が声を掛けてきました。


「国分、グリフォンは、どうなった?」

「僕が弱らせたところに、守備隊と冒険者達が一斉攻撃を加えて討伐しました」

「いや、討伐したのは分かったから、グリフォンはどうなっている?」

「えっ、どうなっているって……死んでますけど」

「いや、そうじゃなくて、グリフォンの死体はどんな状態なんだ?」

「状態ですか……えっと、身体中に槍が刺さった状態で、黒コゲになった肉の塊みたいな状態ですが」

「そうか……その、三田の遺留品とかは難しそうか?」

「えっ、遺留品って、グリフォンの腹の中って事ですか?」


 驚いて訊ねると、加藤先生は無言で頷きました。


「いや……攫われてから丸二日ですよね。さすがに厳しいんじゃないですか?」

「そうか……そうだよなぁ……」


 グリフォンが食べた物を消化するのに、どの程度の時間が掛かるのかは分かりませんが、さすがに丸二日も胃の中に残っているとは考えられません。

 既に消化され、場合によっては排泄された後だと考えた方が良い気がします。


「実は、三田の話がマスコミにリークしてしまって、せめて遺体の一部だけでも……という話が高まっているらしいんだ」

「でも無理でしょう……グリフォンの死体の損傷もかなり激しいですし、既に消化されていたら……」

「それはそうなんだろうが、何も無い状態では、三田の家族も納得出来ないだろうから、せめて捜索したという形だけでも見せられないかという話でな」

「えっ、それって、グリフォンの腹を裂いて、中身を確かめている様子を撮影するとか?」


 また加藤先生は、無言で頷きました。


「まさか、僕にやれって言うんじゃないでしょうね」

「いや、さすがにそこまでは言わん」

「だったら、誰がやるんですか?」

「こちらの方に頼んで、やってもらえないか?」

「それはちょっと……」

「私達から頼むよりも、国分が頼んでくれた方が何とかなるんじゃないか?」

「それはそうかもしれませんけど……内臓の中身を調べて欲しいとは……」


 これまでにも、僕や眷族は膨大な数の魔物を倒してきましたが、僕自身が解体した事は一度も無いんですよね。

 ロックオーガやミノタウロスなどは、フレッドに素材の回収を頼んでいますし、ギガウルフやサラマンダーは解体の手間賃を引いた値段で買い取ってもらっています。


 唯一の例外としては、ネロを討伐した時に、胃の中にあった遺体は取り出していますが、それもラインハルトに頼んでしまって、まともに見ていられませんでした。


「何なんだね君は。何だかんだと理由を付けて断わろうとして、少しは御遺族の気持ちに寄り添えないのかね」


 加藤先生への返答を渋っていたら、高城さんが話に割り込んで来ました。

 棘のある言い方で、イラっとさせられます。


「そう言う高城さんは、頼みに行ったんですか?」

「こちらに来たばかりで、言葉も通じない私と、言葉も通じて、領主にも顔の利く君とでは、どちらが頼むのが適任か言うまでも無いだろう」

「何だそれ、自分だって理由を付けて断わってるじゃん。何もやってない人が偉そうに言わないで下さいよ」

「大きな力を手に入れた人間が、相応の責任を果たすのは当然の事だろう。どうして君は、当然の責任すら果たそうとしないんだ」

「当然の責任と言うなら、グリフォンの討伐に十分協力してきましたよ。他人に文句を付けるなら、自分に出来る事ぐらいやってからにして下さいよ」

「まったく話にならないね。いくら強力な魔法を手に入れようとも、女の尻ばかり追い掛け回して、自分の責任は……」


 パ――ン!


 小気味良い音が響き渡り、高城さんは左の頬を押さえながら少しよろめきました。

 力一杯の平手打ちを振り抜いた姿勢で、委員長が目を怒らせています。


「いい加減にして下さい。これまで健人がどれほど苦労して私達を助けてくれたのか、知りもしない人に非難される筋合いなんかありません。第一、私達は健人に追い回されたりしていません。私達の意志で健人を選んで、一緒に生きていくと決めたんです。失礼な事を言わないで下さい。行こう、健人」

「えっ、あっ……うん、行こうか」


 委員長に手を引かれるに任せて食堂を後にしました。

 鳩が豆鉄砲を食らったような高城さんの顔は最高でしたね。

 委員長、グッジョブです。


「健人が、高城さんの話に良い顔をしない理由が分かったよ。何なのあの人、ホントにムカつくんだけど」

「でしょ。でも、唯香がビシって、やってくれたからスカっとしたよ」

「だって、あんなの黙ってられないよ。何でもかんでも健人に押し付けるなんて間違ってる。大体、健人はグリフォンの討伐を誰よりも頑張ってたのにさ」

「うん、でも僕は、唯香がそれを分かっていてくれれば、それで十分かな」

「健人、お疲れさま」

「ありがとう、唯香」


 勢い任せに歩き続けた訓練場の端で、委員長をギューっと抱き締めました。

 そのまま訓練場の柵に寄り掛かりながら、委員長に討伐の様子を話していると、外務省の三浦さんが僕を探して歩いてきました。


「やぁ国分君、グリフォン退治に大活躍したそうで、お疲れ様だったねぇ」

「はい、何とか守備隊や冒険者の皆さんと力を合わせて討伐出来ました。これで三浦さん達も自由に活動出来るようになると思いますよ」

「いやぁ、私達も着任して早々だったので、正直どうしたものかと思っていたけれど、これで一安心ですよ。それで国分君、先日話していた帰還と渡航に関する謝礼の件なのだけどね」

「はい、えっと、一人当たり鉄筋800キロでしたっけ」

「そうそう、政府の承認が得られて、これまでの分を練馬駐屯地の方に準備して貰ってあるのだけど、国分君の都合の良い時で構わないのだが、受け取りに行ってもらえるかな?」

「はい、分かりました。でも、これまでの分と言うと……」

「帰還者が三名、外務副大臣一行七名の往復、それから、我々三名と高城君の片道分、合計で9・6トンだね」

「えぇぇ……9・6トンですか……」


 クラウスさんが、日本とヴォルザードとでは鉄の相場に大きな差があるのに目を付けた方法ですが、一度に支払われるとこんなに大量になるとは思っていませんでした。


「はははは、まとめてになると、かなりの量になっちゃうよね」

「はい、ちょっと領主のクラウスさんとも相談して、受け入れの体制を作ってもらいます」

「そうだね、その方が良いだろうね。それと、梶川君が連絡が取れないと困ってたので、グリフォンの一件で手一杯だと伝えてあるけど……後で連絡しておいた方が良いね」

「うわぁ、そうだ、すっかり忘れていました。すみません、助かりました」

「じゃあ、鉄筋の件は、いつでも取りに行って大丈夫なようにしておくから、僕らに断りを入れて行く必要は無いからね。都合の良い時によろしく」

「はい、分かりました。色々と、ありがとうございます」


 用事を済ませた三浦さんは、笑顔で手を振って宿舎の方へと戻っていきました。

 ヤバいですねぇ……スマホの存在なんて、すっかり頭から抜け落ちてましたよ。

 影収納から取り出してみたものの、電源を入れるのが怖いです。


「健人、日本に連絡入れて無かったの?」

「うん、グリフォンの討伐で頭が一杯だったんで、すっかり忘れてた」

「連絡した方が良くない?」

「うん、そうなんだけど……」

「いや、仕舞っちゃ駄目だって」


 影収納に戻しちゃおうかと思ったら、委員長に突っ込まれてしまいました。


「はぁ……しょうがないか。えい……うぉぉ!」


 電源を入れた途端、百数十件のメッセージが着信しました。

 まとめて削除しようとしたら、着信音が鳴り響きました。


「はい……国分です」

「やっと繋がりましたか……」


 電話の向こう側から聞えてきたのは、氷のように冷たい鈴木さんの声でした。


「すみません。ちょっと忙しかったもので……」

「鉄筋が山になっていますので、早急に引き取っていただきたいのと、携帯をお持ちでない生徒さんへ貸与するスマホの準備が出来ていますので、取りに来ていただけますか?」

「はい、えっと、ヴォルザード側に鉄筋の受け入れ体勢を整えてもらい次第伺います」

「なるべく早めにお願いします」

「はい、では……はぁ……」


 通話を切ったら、思わず溜め息が洩れちゃいましたよ。


「健人、今の何処の人なの?」

「えっと……内閣、官房室?」

「みんな健人が居なかったら仕事にならないんだから、もっと健人は堂々としてれば良いのに……」

「まぁ、そうなのかもしれないけど……何だか苦手なんだよねぇ、俺様っぽい感じは」

「ふふっ、確かに健人っぽくはないかもね」

「でしょ。はぁ……クラウスさんかドノバンさんに頼んで、鉄の受け入れ体勢を作ってもらわないと、9・6トンって……」

「ノンビリしてると、人の往来が増えて、ドンドン溜まる一方になるかもよ」

「だよねぇ。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

「うん、またね……」


 委員長をもう一度ギュってしてから、ギルドに移動しました。

 ギルドの執務室では、ドノバンさんがグリフォン討伐の報告をしている所でした。


「爪や嘴は回収してオークションに掛ける予定です。好事家が高い値で落としてくれるでしょうから、今回の騒動の穴埋め費用には使えるはずです」

「犠牲になったのは、守備隊二名、冒険者一名、それからケントの所で一名だったな?」

「はい、そうです。こちらの人間三名には規定の弔慰金を出すとして、あとの一名はどう対応しますか?」

「そいつは、教師連中と相談してになるが、そもそも避難の指示に従わなかった人間だからな、基本的にはゼロなんだが……まぁちょっと考えてみる」

「グリフォンの死骸はどうしますか?」

「そうだな、むしろ嘴や爪だけを切り取らず、骨格全体で保存するか。その方がバッケンハイムあたりで高く買うんじゃねぇか?」

「なるほど、確かにそうですね。では、そのように……」

「あぁ、そうだ。魔石がどんな状態だったか確認しといてくれ。ケントが、魔石が壊れているんじゃないかって言ってたからな」

「分かりました、それも、破片を含めて集めておきましょう」

「頼む……」


 話が途切れた所を見計らって、闇の盾を出して執務室へと入りました。


「失礼します。クラウスさん、ちょっとよろしいでしょうか?」

「おぅ、何か急ぎか?」

「はい、先日話のあった帰還に関わる僕への報酬として、日本側で鉄の準備が出来たそうなので、ヴォルザード側の受け入れ体勢を作っていただこうと思いまして」

「おぅ、そうだったな。で、量はどの程度になる?」

「えっと、9・6トンだから……600コラッドですか」

「ほぉぉ……そうかそうか、600コラッドか……」


 クラウスさんの口元に、抑えきれない笑みが浮かんでいますね。


「ドノバン、ギルドの倉庫に空きはあるか?」

「600コラッドとは、かなりの量になるでしょうが、受け入れるのは可能です」

「よし、ケント、こっちは何時でもいいぜ。そっちの都合の良い時に持ち込んでくれ」

「はい、じゃあ、これから取りに行ってきますので、運び込むのはギルドの裏の訓練場で良いですか?」

「いや、倉庫に直接積んでくれ。一応、テベスに立ち会わせるようにする」


 後でドノバンさんと一緒に倉庫へと向かい、鉄筋を持ち込む場所を指定してもらう事にしました。


「それと、グリフォンの死骸について、お願いがあるんですが……」

「何だ、討伐の日当は、規定通りに支払うつもりだぞ」

「はい、報酬に関して注文を付けるつもりじゃなくて、実は……」


 グリフォンを解体して、骨格を保存するという話をしていたので、遺留品の一件を相談してみました。


「なるほどな。気持ちは分からんでもないな……だがケント、ちょっと考えてみろ。あのグリフォンが、ヴォルザード以外で狩りをしていなかったとしたら、腹の中に溜まっているものは何だ?」

「うっ……人間、ですよね?」

「そうだ、正確には人間だったものだろうな。グリフォンの奴が、どこまで食っちまうか分からねぇが、原型を留めているとは思えねぇ。だが、それが何だったのか解体する人間は知ってるよな。それでも内臓を開いて中身を確認しろって言うのか?」

「いえ、そこまではお願い出来ません。なので、内臓を開くのは結構なので、解体の様子だけでも撮影させてもらえませんか?」

「まぁ、そいつはどうせやる事だし、構わないが、妙な口出しはしないように釘は刺しておけよ。解体に関わる者の中には、友人知人をやられた奴も居るかもしれないからな」

「分かりました、良く言っておきますけど、何か余計な事を言うようでしたら、遠慮無く殴り飛ばしてもらって結構です」

「そうか、分かった。ドノバン、解体する時は、教師連中に声を掛けてやってくれ」

「分かりました」


 クラウスさん、ドノバンさんと打ち合わせを済ませた後で、守備隊の宿舎へと戻り、加藤先生を探して話を伝えました。

 こっちの件は解決したので、ちょっと用事を済ませに日本に行って来るとしますかね。

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