第162話 外務省の職員
自衛隊練馬駐屯地に到着したのは、予定の十時よりも十五分ほど早い時間でしたが、既にヴォルザードに赴任する外務省の職員さんは到着していました。
赴任する職員は男性二名、女性一名の計三名で、国際協力局、国際開発協力第四課の所属だそうです。
国際開発協力課は、他国に対する有償無償の資金援助や技術協力についての計画を作成したり、現地や国際機関との交渉、調整を行う部署だそうで、地域によって更に幾つかの課に分かれているそうです。
今回選出されたメンバーは、異世界という地域との橋渡し役として期待され、新設された課のメンバーだそうです。
三人をまとめる三浦さんは、四角い顔つきに銀縁の四角いメガネを掛け、少し白髪の混じった髪をキッチリ七三分にした、四十代前半ぐらい実直そうな男性です。
「三浦です。これから色々とお世話になると思いますが、よろしくお願いします」
「国分です。こちらこそよろしくお願いします」
「部下を紹介します。こちらの無駄に体格が良いのが門倉、学生時代はラグビーの選手だったそうです」
「よろしく頼むよ、国分君」
「こちらこそ」
門倉さんと握手を交わしたのですが、握力強い、手が痛いって。
「そして、こちらが山野辺佳奈です」
「山野辺です、よろしく」
「あっ、国分です、よろしくお願いします」
山野辺さんは、肩よりも少し長い髪を後で一つに束ねていて、少し気が強そうな印象を受けます。
「我々三人で分担をして、生徒さんたちの要望を聞いたり、現地の状況を調査したり、現地の方との交渉を進めていく予定です。通訳は、基本的に教師の皆さんに協力してもらう予定でいますが、街中などの情報収集には、一部生徒さんに協力をお願いするかもしれません」
「はい、同級生の一部は、既にヴォルザードでの生活にも馴染んで、実際に働き始めている人も居ます。そうした人は、僕よりもヴォルザードに詳しいと思います」
「そうなのですか。てっきり一番最初にヴォルザードに到着した国分君が、一番詳しいものだと思っていました」
「あちこちバタバタ動き回っていたので、ヴォルザードの街をゆっくり見て回るだけの時間が無かったんです。それでも、一部の街の人とは、仲良くしていただいていますので、分かる範囲ならば協力させていただきます」
「是非、協力していただきたい。我々としても、殆ど予備知識の無い国なので、少々困惑しているのも確かです。国分君の人脈に頼らざるを得ない状況なので、改めて、よろしくお願いします」
「僕は、基本的にヴォルザード側として対応させていただきますが、色々な許可に付いては僕が決める訳にはいかないので、領主のクラウスさんに確認をしてからになると思います」
「結構です。環境も文化も違う世界なので、極力衝突するような事態は避けたいと考えていますので、焦って事を進める予定はありません」
事前に説明は受けていると思いましたが、改めて魔力の付与や影移動の手順などを改めて説明しました。
三人は、それぞれが個人の荷物を詰めた大型のキャリーケースを二つずつ持って来ていて、その他に機材を収納したリヤカーほどの大きさのカートを一台持ち込んでいます。
「荷物は、僕の眷族に運んでもらいますので、皆さんは手ぶらで僕に掴まっていて下さい。影の空間の中は、真っ暗なので手を離さないようにして下さいね」
三人が移動する前に、荷物をマルト達に運び込んでもらいました。
ちょこまかと荷物を運んで行くマルト達を見て、三人ともホッコリとした表情を浮かべています。
意外な事に、三浦さんが一番興味津々といった様子で、僕に質問してきました。
「国分君、彼らはコボルトで良いのかな?」
「はい、元はコボルトで、今は一度死んでアンデッドになっています」
「では、彼らは不死の存在なのかい?」
「いえ、恐らくですが、僕が死んだ後には、眷族のみんなも存在を保てなくなる気がしています」
「死んだ後にも一緒に居てくれるという事だね。何だか、とても羨ましい話だね」
「その時になってみないと分かりませんが、とても幸せだと思います」
荷物を運び終えたら、一足先にクラウスさんの執務室へと出向き、別の来客などが無い事を確かめた後で、三人をヴォルザードへと案内しました。
既にカウンセラーの高城さんと、通訳のために佐藤先生、ベアトリーチェも来ていました。
〈領主のクラウス・ヴォルザードだ。俺の街に、ようこそ!〉
両手を広げて出迎えたクラウスさんは、普段通りのラフな格好をしているので、パッと見だけだとベテランの冒険者に見えます。
握手を交わした三人は、クラウスさんの風体やゴツい手の平に驚いているようでした。
〈俺は、現場主義だからな。何か問題があれば、気軽に相談してくれ。ギルドの連中で足りなければ、俺が直接動いてやっても良いからな〉
「は、はい、よろしくお願いいたします」
多分、三浦さん達は、塩田副大臣に同行していた書記官から話を聞いていたと思いますが、このクラウスさんは予想外だったでしょうね。
僕も初めて会った時には、どこのチョイ悪オヤジかと思いましたもんね。
「我々の目的は、ヴォルザードを知る事と、日本を知っていただく事です」
〈あぁ、先日貰った文箱は、素晴らしい物だったな〉
「ありがとうございます。日本からは伝統ある物、そして先進的な物を紹介させていただくつもりでおります」
〈あぁ、それは良いのだが、あまり一度に持ち込まれると混乱が起こるだろうから、その辺りは十分に考慮してくれ〉
「これから長く良いお付き合いをさせていただきたいと考えておりますので、十分な配慮をするつもりです」
四人には、ヴォルザード滞在に必要な身分証を作るために、書類に記入を行ってもらいましたが、日本語では読めないので、佐藤先生と僕が代筆する事になりました。
念のために持ち込まれた『魔眼の水晶』に手を触れても、誰も反応しませんでした。
〈おかしいな。ケントの闇属性の魔力を付与したんじゃないのか?〉
〈そうなんですけど……何ででしょうね〉
〈ケント、お前もちょっと触ってみろ〉
〈えっ、でも僕はハズレ判定でしたし……〉
〈その後に、火属性と土属性も吸収したんだろ?〉
〈あっ、そうでした……じゃあ反応するのかな?〉
ちょっぴり期待して『魔眼の水晶』に手を触れてみましたが、相変わらず無反応のままでした。
やはり、複数属性だと反応しないんでしょうかね?
ちなみにベアトリーチェは、母親譲りの火属性で魔力もかなり高めで、『魔眼の水晶』は赤い光を強く放ちました。
クラウスさんは風属性だそうですが、冒険者の頃は身体強化メインの腕っ節タイプだったそうです。
外務省の三浦さん達は、『魔眼の水晶』の反応を興味深げに見ていますが、カウンセラーの高城さんだけは面白くなさそうな表情をしていて、時折僕に向かって睨みつけるような視線を投げ掛けて来ます。
どうして僕に突っ掛かって来るのか、理由は分かりませんでしたが、相手にしなければ良いだろうと思っていたのに、場の話が途切れた時に、突然高城さんから話を振って来ました。
「どうして先生を先に帰還させたんだね?」
「えっ……?」
唐突に全く違う話題を振られたので、一瞬何の事だか分かりませんでした。
「日本に帰りたがっている生徒さんが沢山居るのに、なんで先生を先に帰したのかと聞いているんだよ」
「それは、小田先生から頼まれたからですけど……」
「君は先生から頼まれれば、何でも従うのかね?」
「何でもって訳じゃないですけど、僕の一存で帰還させる人を決めるのは拙いと思ったから、人選は先生達にお願いしてあるので……」
「でも、君じゃなければ召喚された人は日本に帰せないんだよね。だったら生徒を先にして下さいって頼むのが普通じゃないのかい?」
「それは先生達だって考えているでしょうし、今回は日本で事情を説明する人が必要だと思ったから……」
「携帯の電波が届くのだから、こちらに居たって事情の説明なんか出来るだろう。わざわざ帰る必要なんか無いんじゃないか?」
「ですから帰還させる人の人選は先生方に……」
「それは無責任じゃないのかと言ってるんだよ」
ヴォルザードに来たばかりで、ろくに事情も分かっていない高城さんから難癖を付けられて、頭に血が上ったところに、クラウスさんが割って入って来ました。
〈タカシロとか言ったな。お前は何の権利があってケントに文句を言ってるんだ?〉
「私はカウンセラーとして、生徒の精神状態を安定させるためにも、もっと早く帰還を進めるべきだと考えてですね……」
〈そんな事を聞いてるんじゃない。お前は、ケントにいくらの報酬を払ってるのか聞いてるんだ〉
「報酬? なんで報酬なんて話が出て来るのですか」
〈誰かに何かを頼むなら、報酬を払うのは当然だろう。お前だって、報酬を貰ってヴォルザードに来てるんじゃないのか?〉
「いや、それはそうですが……」
〈ケント、一人ニホンに帰すのに、いくら貰ってる?〉
〈いえ、報酬は貰ってませんけど……〉
〈馬鹿野郎! ヴォルザードを代表するSランクの冒険者がタダ働きなんかしてんじゃねぇ!〉
〈はい、すみません〉
いつに無く厳しく鋭いクラウスさんの叱責に、思わず首を竦めて謝っちゃいました。
外務省の三人も高城さんも、言葉の意味は分からなくても、クラウスさんが機嫌を損ねているのを見て、姿勢を正しました。
〈ケント、お前、ニホンに一人帰す度に胃袋の中身を全部吐き出して、のたうち回った挙句に失神するみたいに寝込んでるんだよな? そんだけの思いをしてるのに、金も貰わずに文句言われてるのか? お前は馬鹿なのか〉
〈すみません……〉
全く反論する余地も無くて、謝るのも変かとは思いつつ、やっぱり謝っちゃいました。
クラウスさんは、呆れたような溜息を洩らした後で、矛先を転じました。
〈タカシロ、こんな小僧が、自分の身を犠牲にして頑張ってるのに、金も出していねぇ奴が何の権利があって文句言ってやがるんだ?〉
「そ、それは、日本の一般常識と言うか……」
〈なんだ、ニホンって国は、こんなに頑張ってる小僧に、何の権利も持たない奴が難癖付けても構わない国なのか? そんなんじゃ、この先の付き合い方を考え直さないといけねぇな〉
佐藤先生が訳したクラウスさんの言葉を聞いて、三浦さんたちは血相を変えました。
「ちょ、ちょっと待って下さい。高城君の言葉は、あくまでも彼個人の言葉であって、日本政府は国分君には本当に感謝しています」
〈感謝しているのに、タダ働きってのは、どういう事だ?〉
「そ、それは……具体的な金額を協議しておりまして……」
〈一人目を帰還させてから、もう十日以上経ってるはずだよな。まだ金額が決まらないってのは、随分と仕事が遅くねぇか?〉
「仰る通りですが、何分にも過去に例の無い事なので、何を基準に金額を算定して良いのか……」
〈なるほど……ケント、いくら欲しい?〉
〈いや、急に言われても……〉
〈ったく……手前の仕事の値段も決められねぇのかよ。まだまだだな、そんな事じゃリーチェは任せられねぇな〉
悔しいですが、今は反撃の糸口すら見つけられません。
ベアトリーチェも僕の腕を抱えて膨れっ面をしてますが、クラウスさんへの上手い反論が見付からないようです。
〈ケント、確かニホンでは、鉄は安く手に入るんだったな?〉
〈えっ、はい、そうですね。こちらでの値段に較べると、かなり安い気がします〉
ヴォルザードでの鉄の相場は、日本の40倍ぐらいしています。
クラウスさんは、ニヤっと口元を緩めると、報酬のアイデアを提案してきました。
〈だったら、一人日本に帰す毎に、鉄を50コラッド用意してもらえ。そいつを持って還って来れば、こっちの値段で買い取ってやる。それならニホン政府の負担も小さくて済むだろう〉
〈なるほど……鉄50コラッドだと800キロ、日本だと5万6千円。ヴォルザードだと24万ヘルト……って、ちょっと貰いすぎじゃないですか?〉
〈馬鹿野郎、Sランク冒険者への報酬だぞ。そこらのガキに払う値段と一緒にすんな!〉
〈はい、すみません〉
24万ヘルトだと、感覚的には240万円ぐらいの価値ですから、少し貰いすぎな気がしますが、Sランク冒険者への報酬と考えると妥当なんですかね。
悩んでいると、三浦さんが話し掛けてきました。
「国分君、外務省の方へ打診してみるけど、一人5万6千円は妥当な線じゃないかな」
「そうですね。少し貰いすぎとも感じますけど、鉄で支払ってもらえば日本の負担は小さくて済むのは確かですね」
日本政府の負担は小さく、でもSランク冒険者への報酬としては妥当で、しかも実現すれば、ヴォルザードには良質の鉄が大量に運び込まれる。
クラウスさんにとっては、最後の部分が最大の狙いなのでしょう。
真面目な顔を装っていますけど、口元が緩み掛けてヒクヒクしてますね。
「分かりました。クラウスさんのご提案を基本として、早急に報酬の支払いを検討いたします」
〈あぁ、そうしてくれ。それと、ニホンからヴォルザードへの移動に関しても、同額でなくても構わないが報酬の支払いを忘れないでくれよ〉
「国分君、日本からの移動の報酬はどうしたら良いかな?」
「そうですね。日本からの移動については負担が少ないので……」
必要ないと言いたいところなんですが、またSランク冒険者がタダ働きするなって言われそうです。
「半額、往復で鉄800キロならどうでしょうか?」
「分かりました。それで検討させていただきます」
佐藤先生に翻訳してもらって金額を聞いたクラウスさんは、少し考えた後で、まぁ良いだろうとばかりに頷いた後で、高城さんに話し掛けました。
〈教師を先に帰還させるようにシュージ達に指示したのは俺だ。ニホンでは、帰還した生徒やケントが世論の矢面に立たされているんだよな。それが正常な状態だと思うか? キチンと説明して、批判を受け止めるのは大人の仕事だろう。そもそも、こいつだって召喚された被害者だ。非難される理由なんか無いんじゃねぇのか?〉
クラウスさんの言葉を聞いた高城さんは、それでも納得がいかないのか、少し不満気な表情を浮かべていました。
少し俯き加減で考えた後で、高城さんが口を開こうとした時、不意に早鐘の音が聞えてきました。
カンカンカン! カンカンカン! カンカンカン!
魔物の接近を知らせる早鐘に、クラウスさんの表情が一気に引き締まりました。
オークの群れが接近した時に聞いたのでしょう、佐藤先生の顔も強張っています。
『ケント様、やられました。グリフォンです』
『グリフォンって、どんな魔物なの?』
『グリフォンは、上半身が鷲、下半身が獅子の魔物で、大きさはネロよりも二回りほど大きいです。上空から一気に襲い掛って来て、警備をしていた守備隊員を一人攫って飛び去って行きました』
〈クラウスさん、グリフォンだそうです〉
〈グリフォンだと!〉
〈はい、守備隊の隊員が一人攫われたそうです〉
〈くそっ! 風向きが変わって、極大発生の恐れは減ったと思っていたのに……〉
クラウスさんは、拳を膝に叩き付けて苛立ちを露にしました。
廊下から重たい足音が響いて来たと思ったら、ノックも無しに執務室のドアが開かれドノバンさんが入って来ました。
〈クラウスさん、グリフォンです。一人やられました〉
〈あぁ、今、ケントからも聞いた。どっちの方角へ飛び去った?〉
〈南西方向ですから、おそらくは魔の森の奥か、南の大陸から来たのでしょう〉
〈また現れそうか?〉
〈恐らく……今回で味を占めれば、また襲ってくるでしょう〉
〈監視を強めて迎撃用の術士と弓兵を揃えろ。それから、用の無い人間は外に出ないように街に通達を出せ〉
〈分かりました〉
慌しく打ち合わせを終えてドノバンさんが去った後、クラウスさんは僕へと視線を向けて来ました。
〈ケント、討伐出来るか?〉
〈すみません、グリフォンの実物を見た事が無いので分からないです〉
〈そうか。グリフォンは、自分の縄張りを持ち、その中に狩場や巣を作ると言われている。グリフォンが姿を見せる場合は、若い固体が新たに自分の縄張りを作る場合が殆どだ。そのグリフォンがヴォルザードに現れたという事は……〉
〈ヴォルザードを縄張りに……狩場にしようとしているんですね?〉
〈その通りだ。グリフォンの狩りは猛禽類と同じで、上空から狙いを定めて急降下して攫って行く。防げるか?〉
〈分かりませんが、眷族を集めて対策を練ります〉
〈頼むぞ。それと、リーゼンブルグにも知らせておけ。グリフォンにとっては、魔の森を越える事など造作も無いからな〉
〈分かりました。リーチェ、僕はグリフォン対策に動くから、皆さんの案内を頼むね〉
〈皆様の事は、お任せ下さい。ケント様、お気を付けて〉
ベアトリーチェとハグしてから、席を立ちました。
「三浦さん、危険な魔物が来たので、僕は対策に動きます。荷物は体育担当の加藤先生に預けておきますので、宿舎で受け取って下さい。宿舎までは、僕の眷族が影の中から護衛に付きますので安心して下さい」
「分かりました。でも、国分君、君の代わりを出来る人は居ないのだから、くれぐれも気を付けて、無理はしないで下さい」
「はい、十分に気を付けます」
闇の盾に飛び込んで、移動開始です。
『ラインハルト、フレッドとバステンを呼び戻して』
『了解ですぞ。グリフォンとの一戦ですか、腕が鳴りますなぁ』
『手強そうな相手だけど、ヴォルザードを狩場になんかさせられないからね』
『勿論です。ケント様の暮らす街をグリフォンごときの好きになどさせませぬ』
カミラの執務室には、グライスナー侯爵や息子のウォルター、近衛騎士のネイサンやオズワルドの姿もありました。
そう言えば、アルフォンスの一件をまだ知らせていませんでした。
「カミラ、ヴォルザードにグリフォンが現れた。こちらでも警戒するようにして」
「グリフォン……真ですか、魔王様」
カミラだけでなく、グライスナー侯爵達も顔色を変えています。
「一人攫われてしまったらしいんだけど、僕は室内に居たので、実際には見ていないんだ」
「そうでございましたか、魔王様でしたらば、相対していれば取り逃がすはずがございませんね」
「それは、どうかは分からないけど、討伐に向けて動くよ。グライスナー侯爵、バマタや周辺の集落にも知らせを出して下さい」
「心得た、すぐに手配をしよう」
「カミラ、念のためにコボルトを使ってディートヘルムにも知らせておいて」
「はい、ディートヘルムからアルフォンス義兄が毒殺されたと知らせがございました」
「うん、知ってる。第一王子派はどう動くのか決まったのかな?」
「はい、戦力の三分の一は、バルシャニアに備えるために帰領し、残りの者はアルフォンス義兄の遺体を運びながら王都アルダロスを目指します」
「あぁ、そうだ、その王都だけど、アーブルの手勢が王城に入ったそうだよ」
「真でございますか!」
「そんな馬鹿な! 信じられん」
近衛騎士のネイサンが、カミラ以上に驚きの声を上げました。
「僕の眷族からの報告だから間違いないと思うよ。ディートヘルム達には、無闇に仕掛けないように言っておいてね。この期におよんで内戦なんかを起こして、国を衰退させてなんかいられないでしょ」
「分かりました。場合によっては、ラストックの守りを騎士達に任せ、私も王城へと戻ります」
「その辺りの判断は任せるけど、相手は、あのアーブルだからね。一筋縄では行かないと思って、十分に策を練ってから行動するようにして」
「心得ました。魔王様もお気を付けて」
「うん、じゃあ、こっちは頼んだからね」
グライスナー侯爵達と目礼を交わしてから、闇の盾へと飛び込みました。
さあ、グリフォン対策を始めましょう。
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