第143話 騒動の結末

 自衛隊、練馬駐屯地からヴォルザードに戻り、下宿でお昼を食べた後、魔の森の訓練場へと移動して来ました。

 久保さんから奪取した土属性の魔法を使ってみようと思ったからです。


「ラインハルト、土属性の魔法は建築とかが主な使い道なの?」

『そうですな。建築、鉱山の採掘、鉱脈探し、鉱物の鑑定など、土や鉱物を操るのが土属性の魔法です』

「戦闘には使われないの?」

『ラストックのように、陣地や砦を築いたり、罠を作ったりなどの支援が主で、直接戦闘に使うというのは聞いた事がありませんな』

「そうなんだ……」


 どうやら、こちらの世界では土属性魔法は戦闘用という認識がないようですが、漫画やラノベの中には、土を固めて弾丸として撃ち出したり、戦場を泥沼に変えて相手の動きを封じたり、戦場で活躍する土属性魔術士の姿が描かれています。


 闇属性や光属性、火属性の魔法でも、僕は常識外れな使い方をしているようなので、土属性でも出来るかもしれません。


「まぁ、考えるよりも、色々と試してみるよ」

『そうですな、ケント様ならば面白い使い方をなさるでしょう』


 まず最初は、定番中の定番、穴を掘ることから始めましょう。

 地面に向かって手をかざし、土属性の魔力を意識して土の状況を把握しようと試みたのですが、どうも今ひとつピンと来ません。


 何と言うか、ぼんやりとしてピントが合っていない感じです。

 そこで、地面に直接手を付けて意識を集中すると、地中の様子が目に見えるように伝わってきました。


 10メートルほど先の地中に魔力を通して、直径、深さ、共に50センチほどの穴を掘ってみました。


『おぉ、さすがはケント様、土属性の魔法も詠唱せずに使われますか』

「うん、試しに穴を掘ってみたんだけど、単純そうで意外に奥が深いかも……」

『ほほう、穴を掘るだけの作業がですか?』

「うん、穴を掘るのには、土を移動させなきゃいけないけど、その土をどうするのか……なんだよねぇ……」


 同じ程度の穴を、二つ、三つと違う方法で掘ってみると、掘り方によっても魔力の消費が違ってくるように感じます。

 一番楽に掘れるのは、穴の周囲に土を放り出す、いわゆる普通に掘る方法です。


 次に楽に掘れるのは、穴の外周に向かって土を圧縮する方法です。

 この方法だと、穴の周囲に掘った土が積み上がる事はなく、突然地面にポコっと穴が開き、しかも穴の周囲は圧縮されて固められた状態です。


 一番魔力を消費するように感じたのは、穴の底に向かって土を圧縮する方法です。

 この方法も周囲に土が出ず、ポコっと穴が開くのですが、元々重力によって圧縮されている物を更に圧縮するためなのか、外周に向かって圧縮するよりも大変です。


 ただ、横方向に圧縮する方法でも、穴の直径が大きくなれば、縦方向への圧縮同様に魔力を消費しそうです。

 続いては、こちらも定番中の定番、地面を泥沼に変えようとしたのですが、これは上手く行きません。


 地中の石を砕いて、粒子が均一な土を作るのは出来そうですが、泥沼化させるのに必要な水の操作が出来ません。

 どうやら地面を泥沼化するには、水属性の魔法も手に入れないと駄目なようです。


 土を動かす事、土を硬化させる事は出来るので、撒き菱のように地面を棘々にして硬化させたり、土壁を築いて硬化させる事は出来ました。


『さすがはケント様。土属性も自由自在ですな』

「うーん……一応扱えるけど、ピンと来ないんだよねぇ……ラインハルト、この壁、どの位の強度か壊しても良いから確かめてみて」

『了解ですぞ。では……ふん!』


 ラインハルトが拳を振るうと、石が砕けるような音を立てて、土壁は砕け散りました。


『これは、なかなかの強度ですぞ。そうですなぁ、上位の術士の作った物に迫るぐらいの強度ですな』

「そうか……それじゃあ、あんまり使い勝手は良くないかなぁ……」

『いやいや、ケント様、強度としては最高レベルではありませぬが、これほど自在に詠唱もせずに壁を築く者などおりませぬぞ』

「そうなのかもしれないけど、戦闘とかで利用するならば、闇の盾の方が強度がありそうだし、出したり消したりも自在なんだよねぇ……」

『なるほど……確かにケント様の闇の盾は、眷族になる前のネロの突進を簡単に食い止めたほどの強度がありますからな』

「まぁ、構造物として残すなら、こっちなんだろうけど、使い勝手で考えると闇の盾の方が楽かなぁ……」


 最後に、土を固めて弾丸として撃ち出せないか試してみたら、こちらはある程度成功しました。

 ある程度と言ったのは、条件というか、制約みたいなものがあるからです。


 まず、土から弾丸を作って打ち出すには、やはり直接土に触れていないと出来ませんでした。

 次に、弾丸を作るのに、ある程度の時間を要します。


 まぁ、これは時間短縮が出来そうですが、相応の練習が必要でしょう。

 それと、弾の大きさや撃ち出す速度に、限界があるようです。


 弾が大きくなるほどに撃ち出す速度が遅くなりますし、現状ではピストルの弾程度の大きさでも、手で思いっきり投げつける程度の威力しか出せません。


「うーん……これも練習次第なんだろうけど、攻撃の威力だったら光属性の攻撃魔法とか、火属性の攻撃魔法の方が上だね」

『どうやらそのようですな。ワシから見れば、土属性魔法を攻撃に使えるだけでも大したものだとは思いますが、ケント様にとっては満足出来るレベルではないのでしょうな』

「うん、それに、魔法を使うには地面に手を付けなきゃいけないし、そうなると、土属性の魔法を使いますって宣言してるようなもんだからね」

『確かにそうですな。相手に手の内を明かしての攻撃や防御では効果は半減ですな』


 ただ、使い勝手が悪いのは、土属性魔法が戦闘向きじゃないからで、本来の工作に限れば様々な使い道がありそうです。

 何せ、頭に思い浮かべた形を、土を使って立体として再現出来るのですから、色々と作ってみたくなりますよね。


『ケント様であれば、精巧なゴーレムも作れるのではありませんか?』

「ゴーレム?」

『簡単に言うならば、土人形ですな』


 ラインハルトも詳しいゴーレムの作り方までは知りませんでしたが、大まかな仕組みを教えてくれました。


『なんでも、核となる魔石を入れて、土の人形を形作ると、製作者である術士の思うがままに動かせるのだとか……』

「へぇ、何だか面白そうだね。魔石はゴロゴロしているし、ちょっとやってみようかなぁ……」

『それは宜しいですが、ケント様、そろそろ日が暮れますぞ』

「あぁ、もうこんな時間か……じゃあ戻ろうか」


 何だかんだと言っても、新しい魔法を使ってみるのは楽しいもので、ついつい時間を忘れてしまいます。

 ヴォルザードの街に戻って、授業を終えた先生の所へと顔を出し、日本政府がこちらの世界での資源開発に乗り出す方針だと伝えなければなりません。


 守備隊の臨時宿舎に移動して、影の中から様子を窺っていたら、鷹山の姿を見つけました。

 いつもは鷹山も授業には参加していないはずですが、今日は集会もあったから参加したんでしょうかね。


「鷹山、今日は授業に顔出したの?」

「国分ぅ……お前に話があったから授業に出たのに、何処行ってたんだよ」

「リーゼンブルグの更に西の国に行って、その後は、一度日本に戻って来た」

「リーゼンブルグの更に西って……そんな所に何しに行ってんだよ」

「そこは、バルシャニアって国なんだけど、リーゼンブルグに戦争を仕掛けようとしてたから止めに行ってきたんだよ」

「はぁ? 国同士の戦争を止める? マジかよ……」

「それで、鷹山の用事って……まぁ聞かなくても見当は付くけど……」

「おう、ギルドに紹介してもらって家を借りたから、なっ?」


 鷹山は、緩みきった表情で、分かるだろうとばかりに目配せしてきました。


「なっ……は、良いけど、ちゃんと住めるようになってるのぉ?」

「そ、それは、ほら、シーリアと一緒にだなぁ……」

「その様子だと、全然片付いていそうもないけど……まぁいいか」

「ホントか? じゃあ……」

「まだ、ちょっとここで待って……いや、先に行ってきちゃうか」

「もうシーリアを迎えに行くのか?」

「違うよ。それより先に、やる事があるんじゃないの?」

「あっ……そうだな……」


 僕に待ったを掛けられて、ようやく鷹山も思い当たったようです。


「いきなりだけど、ちょっとマルセルさんの店に行ってみよう」

「大丈夫なのか? 急に押しかけたりして……」

「うん、でもまぁ、いつまでも待っていても仕方無いし」

「そうか、分かった」


 先生の所に顔を出す前に、鷹山と一緒にマルセルさんの店を訪れて、事件の謝罪をする事にしました。


「こっちの建築屋って、結構凄いよな……」

「なに、鷹山、マルセルさんの店を見に行ったの?」

「あぁ……近くに行くのは、ちょっと……だけど、城壁工事の行き帰りに、遠くから見てたんだけど、どんどん出来上がっていってさ」

「そうだね。僕も暫くぶりに行ったら、外側はすっかり出来上がっていて驚いたよ」

「なぁ、許してもらえるかなぁ……」

「さぁ……それは僕が決める事じゃないから、分からないよ」

「そうだよな……」


 マルセルさんの店が半分焼け落ちるほどの騒動を起こした鷹山ですが、悪目立ちしたのはその時だけですし、街の人から後ろ指を差されるような事はありません。

 通りには、仕事を終えて帰る人、買い物をする人が行き交い、むしろ、僕の方が冒険者風の人から指差されて、何やら囁かれました。


 マルセルさんの店では、全ての仕事が完了したのか、ハーマンさんが梯子に上って看板を取り付けている所でした。

 ブーツの形の金属製の看板は、店が焼けた時に落ちて壊れてしまったものを、鍛冶屋に持ち込んで直してもらったものです。


「ハーマン、落っこちないように、ガッチリ取り付けてくれよ」

「分かったから、下からゴチャゴチャ言うな。任せておけ!」

「あぁ、お前は落ちても構わねぇからな」

「アホか。ちゃんと梯子を押さえておけよ」


 軽口を叩くマルセルさんの顔には、新しい店の完成に、抑えきれない喜びが溢れているようです。

 看板の取り付けが終わるまで、少し離れた場所で見守り、ハーマンさんが梯子から下りたところで声を掛けました。


「こんばんは、マルセルさん、ハーマンさん」

「おぉ、ケントじゃないか、見てくれ、見てくれ、ようやく俺の店が完成したぜ」

「おめでとうございます。ハーマンさん、お疲れ様でした」

「いやぁ……マルセルの注文が多くて、参ったよ」

「何言ってんだ、それがお前の仕事だろうが。ケント、ありがとうな。ここまで来られたのは、お前のおかげだ」

「いえいえ、マルセルさんの頑張りがあってこそですよ。それで……」

「おう、どうした……」


 僕がちょっと目配せした事で、マルセルさんは、後ろに控えている鷹山に気付いたようです。


「手前は、あの時の……」

「すみませんでした!」


 怒りの表情を浮かべたマルセルさんに向かって、鷹山は膝にぶつけそうな勢いで頭を下げました。

 重たい沈黙が漂い、道行く人の中にも、何事かと足を止める人が居ました。


 鷹山を取り成すような言葉をマルセルさんに掛けようかと思いましたが、何て言って良いのか上手い言葉が浮かんで来ません。

 ハーマンさんも厳しい表情で鷹山を見据えています。


「ここじゃあ通行人の邪魔になる、店に入れ……」


 ボソっと呟くような言葉を残し、マルセルさんは店の戸を開けて中へと入って行きました。

 先に入るように促すハーマンさんに頭を下げて、鷹山と一緒に店の入口を潜りました。


「うわぁ……すごい……」


 店の中も内装工事が終わり、棚には頑丈なワークブーツから、女性用のほっそりとしたお洒落な靴まで、色々な靴が並べられています。


「これ、全部マルセルさんが作ったんですよね。凄いですねぇ……」

「そうだ、ここに並んでいる靴は、全部俺が手塩に掛けた力作ばかりだ。そして、あの日も店にはたくさんの靴が並べてあったんだ」

「本当に、すみませんでした」


 改めて頭を下げる鷹山に、マルセルさんは言葉を続けます。


「お前、今俺が言った言葉の意味が分かってるのか?」

「はい、大切な商品を燃やしてしまい……」

「違う、そうじゃねぇ。ここに並んだ靴は、ただの商品なんかじゃねぇ。いいか、ここにある靴は、俺が履く人の事を思って、心を込めて作ったものだ。一足一足に、思いと時間が込められた、言うなれば俺の人生の一部だ。そいつをお前は燃やしやがったんだぞ」


 マルセルさんの言葉を聞く鷹山の顔は蒼ざめ、真冬なのに頬には汗が流れています。


「ケントに聞いたが、お前、城壁工事に通っているそうだな?」

「はい、自分は、あまり器用じゃないので……」

「お前が作った城壁を、目の前で壊されたらどう思う?」

「それは……悔しいと思います」

「そうだ、悔しくて、腹立たしくて……俺は気が狂いそうだった。そのせいで、ケントにも酷い仕打ちをしちまった。あの時は悪かったな」

「いえ、あの状況では仕方ないですよ」


 マルセルさんには、土下座した頭を踏み付けられましたが、むしろ申し訳無い気持ちで一杯でした。


「お前、ちょっと手を見せてみろ」

「えっ、手、ですか……?」

「そうだ、両の手の平を見せろ」

「は、はい……」


 鷹山の両手は、ゴツゴツとして硬そうで、あちこちヒビ割れて血が滲んだ跡がありました。


「ケントの言ってた事は、本当みたいだな……」


 マルセルさんは、手の感触を確かめた後で、もう一度正面から鷹山を見据えました。


「正直に言おう、俺は、まだ完全にお前を許す気にはなれていない。だが、ケントの顔に免じてお前を許す。クラウスさんからも、恩赦してもらったんだよな?」

「はい、腕輪を外してもらいました」

「俺も大変な思いはしたが、店を再建する為の金はギルドを通して、返済不要な形で借り受けたから、金銭的には困らなかった。その金を、誰が出したか分かっているよな?」

「はい、それは国分が……」

「そうだ、ケントが全額肩代りして、お前らが城壁工事で稼いだ金で補填される事になっていたはずだ。それが恩赦という形でお前らが許されたら、その金はどうなったと思う?」

「えっ……あぁ!」

「ヴォルザードの領主様ってのはよぉ、ガッチリしてっからなぁ……そうだろう、ケント」

「はぁ……まぁ、いずれ義理の父親になる予定なので、仕方無いですね」

「それじゃあ、しょうがねぇか」


 マルセルさんは、少し表情を緩めましたが、またすぐに厳しい表情へと戻りました。


「誰から見られても、恥ずかしくない生き方をしろ。今回は許すが、もしまたふざけた事を仕出かしたら、この俺様がヴォルザードから叩き出してやるから、そのつもりで居ろ。いいな!」

「はい、本当に、申し訳ありませんでした!」


 鷹山が、もう一度深々と頭を下げたところで、ようやくマルセルさんは表情を緩めました。


「それにしても、お前は汚い靴を履いてやがるなぁ……何だそりゃ」

「すみません、ちょっと色々とお金が必要なもので……」

「はぁ? 手前、何をぬかして……」

「あぁ……違います、違います。マルセルさん、違うんです」

「違うって、何が違うんだ、ケント」

「えっとですねぇ……ちょっとばっかり訳ありでして……」


 召喚された後の鷹山の境遇や、ヴォルザードに迎えて、一緒に新しい生活を始める予定のシーリアの境遇をマルセルさんに話しました。


「って事は、その嬢ちゃんは、王族って事なのか?」

「まぁ、血筋的には、そうなりますけど、本人は王家と縁を切りたいみたいです」

「まぁ、そんな仕打ちを受ければ、そうなるだろうが……お前、大丈夫なのか? ちゃんと食わせていけんのか?」

「それは……死ぬ気で頑張ります!」

「かぁ、何だか頼りねぇなぁ……しゃあねぇ、フラフラしねぇように、俺様が足元を支えてやるよ。そこの椅子に座って、その汚い靴を脱げ!」

「えっ、でも、お金が……」

「ガタガタ言ってねぇで、さっさとしろ!」

「は、はい!」


 マルセルさんは、鷹山の脚のサイズを測ると、汚れた靴をゴミ箱に叩き込み、ワークブーツを二足持って来ました。


「履いてみろ」

「はい……」

「どうだ?」

「少し緩いような……」

「よし、こっちに履き替えろ……どうだ?」

「はい、こちらの方が……」

「変な遠慮をすんじゃねぇ。正直に言え、正直に」

「はい、少し横が当たるような……」

「よし、ちょっと脱げ……」


 マルセルさんは、僕が靴を貰った時と同じように、真剣な表情で鷹山の足に合うように、ワークブーツを調整してくれました。


「今度はどうだ?」

「はい、凄いピッタリです」

「よし、そいつは、結婚の前祝にくれてやる」

「えぇ……でも……」

「その代わり、フラフラしてんじゃねぇぞ。あんまり情けない姿を見せてっと、ケントに嫁さん攫われるぞ」

「ちょ、マルセルさん、僕は、そんな事しませんからね」

「どうだかなぁ……ギルドの姉ちゃん連中からも狙われてんだって?」

「うぇぇ……どうして、それを……」

「ケント、お前は自分が思っているよりも注目されてるのを自覚しろよ」

「ぐぅ……気を付けます」


 僕とマルセルさんが軽口を叩いている隣で、鷹山は肩を震わせていました。


「ありがとう、ございます……あんな馬鹿やった俺に……うぅ……」

「馬鹿野郎、泣くんじゃねぇよ。お前、これから一家の大黒柱になんだろう? シャキッとしろ、シャキッと!」

「はい……はい……はい!」


 泣くなと言いながら鷹山の頭を引っ叩いていますが、マルセルさんの目にも光るものがありました。


「そうだ、お店が新装開店するんですから、お祝いしないといけませんね」

「よせやい、ケントには、どんだけ世話になってると思ってんだ」

「いえいえ、アホな同級生がいっぱい迷惑掛けてますからねぇ……何が良いですかねぇ……」

『ケント様、ミノタウロスの角はどうですかな?』

『なるほど、それいいね!』


 ミノタウロスの角ならば、置物としても迫力ありますし、お金に困ったら魔道具の材料として高く売れますからね。

 影収納に置いてあった中から、一番立派そうに見えるものを選んで取り出しました。


「では、これを……新装開店、おめでとうございます!」

「ば、馬鹿……これ、ミノタウロスの角だろう。こんな高いもの貰えるか!」

「あぁ、大丈夫です。これ、ゴロゴロしてますから、気にしないで下さい」

「いや、気にするなって言われたって……」

「そうだ、ハーマンさん、この角、どこかに上手く飾れませんかね?」

「おぅ、そうだなぁ……やっぱり店に入って、すぐ目に入るところが良いだろう。奥の壁はどうだ?」

「良いですね。取り付けをお願いしても良いですか?」

「あぁ、任せてくれ、お安い御用だ」

「馬鹿、ハーマン、何を勝手に引き受けてるんだ」

「いいから貰っておけ。魔物使い御用達の店だって宣伝すれば、売上アップ間違いなしだぞ」

「お前なぁ……はぁ、分かったよ。ケント、ありがとうな」


 マルセルさんも、どうにか納得して受け取ってくれて、この後、角の飾り付けにすったもんだがありましたが、ようやく騒動に一区切りを付けることが出来ました。

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