第141話 ギルドのお姉さん

 ヴォルザードに戻り、下宿で朝食を済ませ、ギルドへと向かいました。

 鉄を仕入れるのに、色々と情報を集めようと思ったからです。


 混雑した時間帯にノコノコ顔を出して騒ぎを起こすと、またフルールさんに怒られそうなので、影の中から様子を見ました。

 今日も掲示板の前は大混雑で、その中にはリドネル達の姿もあります。


 もうスカベンジャーの解体は終わったようですね。

 あの大量のスカベンジャーを解体しきったとは、大したもんですよね。


 混雑する掲示板の前にも、離れた壁際にも、同級生たちの姿はありません。

 今日は、守備隊の講堂で授業がある日で、関口さんの件で集会を開くから顔を出す様に言われています。


 でも関口さんの死と、どう向き合えば良いのか頭の整理が出来ていないので、またサボる事にしました。加藤先生、ごめんなさい。

 関口さんとは、一年生の時にも違うクラスだったので、殆ど接点がありませんでした。


 訓練場で会った以外の印象が無く、感情の移入が出来ないからなのか、遺体を目にした時にはショックを受けましたが、むしろ船山が死んだ時の方が衝撃は大きかったような気がします。


 自分の力が足りず、遅くなって申し訳なかったという思いもあるけど、出来る限りの事はやってきたのに、どうして……という思いもあるんです。

 こんな気持ちでは、非難されても擁護されても、スッキリと納得出来そうもありません。


 マルト達やネロをモフりながら混雑が終わるのを待って、いつものように階段下から表に出ました。

 鉱物に関する質問なので、鉱石を鑑定してもらったテベスさんに話を聞こうとカウンターに歩み寄って行くと、なぜだかフルールさんに捕まっちゃいました。


「おはようございます、ケントさん。今朝は騒ぎは起こさないで下さいよ」

「おはようございます。そのつもりで混雑が終わるまで待っていました」

「それは殊勝な心掛けですね。いつもその調子でお願いします。それで、今朝は、何の御用ですか?」


 うーん……どうして、僕には風当たりが強いんでしょうね。

 つんっと澄ました感じで、もうちょっとにこやかに応対していただきたいものです。


「えっと……ちょっと鉄を仕入れたいと思いまして、色々と教えていただこうかと……」

「鉄……ですか? どの位の量が必要ですか?」

「はい、50コラッドほど……」

「はっ? 50コラッドって言いましたか?」


 あれっ、僕なんか変な事を言いましたかね。

 フルールさんが目を丸くして聞き返してきました。


「えっと……1コラッドって、どのぐらいの重さになるんでしょう?」

「はぁ? 重さの単位も知らずに仕入れようとしていたのですか?」

「はい……すみません……」


 呆れながらもフルールさんは重さの単位を説明してくれました。

 重さの基準になっているのは、ルードという木の実の種で、熟して木から落ちた物は、殆ど同じ重さになるそうです。


 この種の重さが1ルード。1コラッドは1000ルードで、僕の体重から推測して、約16キロぐらいです。

 つまり、50コラッドは、約800キロになります。


「そんなに大量の鉄なんて、ヴォルザードの町中から掻き集めないとありませんよ」

「掻き集めれば足りそうですかね?」

「本気で言ってるんですか?」


 うわぁ……すんごい冷たい視線で見られちゃってます。


「いえ、聞いてみただけです……あっ、ちなみに鉄50コラッドで、20万ラブルって妥当な価格ですかね?」

「20万ラブルって……バルシャニアに売るつもりなんですか?」

「い、いえ、そんなつもりは……無くもないのですが……1ラブルって、何ブルグですかね?」

「ケントさん、まさか重さの単位も、お金の単位も分からずに取引しようとしてたんじゃないですよね?」

「い、いやぁ……まさか、そんな事は……無いこともないのかなぁ……」


 うわぁ……更に冷たい視線で見られちゃってるんですけど、それでもフルールさんは、ラブルについて説明してくれました。

 ラブルはブルグの1・3倍で換算されるので、20万ラブルは26万ブルグになるそうです。


 フルールさんは、親切に鉄の相場も調べてくれました。

 うん、これで愛想良くしてくれれば文句無しなんですけど、今回は僕のせいですよねぇ……


「今の鉄の相場は、1コラッドで4千8百ブルグですから、50コラッドだと24万ブルグ、大体18万5千ラブルになりますので取引価格としては悪くありませんが、輸送費を貰わないと大赤字になりますよ」

「あっ、それは闇属性の魔法で移動させちゃうんで大丈夫です」

「だとしても! そんな大量の鉄を無断で他国に運ぶなんて、許されませんからね!」

「うっ……でも、そもそもヴォルザードには50コラッドの鉄が無いんですよね?」

「あったとしてもの話です。大体、そんな大量の鉄を何に使うつもりなんですか? まさかケントさんは、バルシャニアのスパイじゃないでしょうね」

「えぇぇ……違います、違いますよ。僕がスパイなんて……」


 フルールさんの口撃にタジタジになっていたら、後ろから声を掛けられました。


「なんだケント、バルシャニアに寝返ったのか? それじゃあ仕方ないな、ベアトリーチェには今後一切近付かせないし、お前の同級生達も叩き出すか?」

「えぇぇ……」


 振り返ると、腕組みをしたクラウスさんが立っていました。

 はい、執務室まで連行ですね、了解です。


 てか、フルールさんは、まだ僕を虐め足りないんでしょうか、不満そうに頬を膨らませて、ちょっと可愛いじゃないですか。

 執務室のソファーに向かい合わせに座り、クラウスさんが切り出したのは別の話題でした。


「ケント、リーゼンブルグの馬鹿王子はどうした?」

「はい、第二王子のベルンスト、第三王子のクリストフの両名は、取り巻き連中と一緒に誅殺されました」


 オークの極大発生の最中に行われた誅殺劇の様子や、カミラが派閥を引き継いで王位を目指していると話すと、クラウスさんは満足そうに頷きました。


「いいぞ、上出来だ。馬鹿王子を始末しろと言ったが、そもそもリーゼンブルグの国内問題だ。お前が直接手を汚さずに片を付けられたなら、それが一番だ」

「はい、正直に言って、ちょっとホッとしました」

「それで、バルシャニアに50コラッドもの鉄を運ぶ目的はなんだ?」

「はい、リーゼンブルグへの侵攻を取りやめてもらうためです」


 バルシャニアがカルヴァイン辺境伯爵と密約を交わしていた理由、アーブル・カルヴァインのクーデター計画、そしてコンスタンとの取引きの話にも、クラウスさんは頷いてみせました。


「なるほどな……キリアとヨーゲセンは、そこまで拗れていやがるのか。確かに二つの国が合わされば大国が出来上がるが、当分は内政に追われて、他の国を攻める余裕なんか無いだろうな」

「はい、バルシャニアの皇帝コンスタンも、そんな急激な事態の変化は無いと読んでいるようですが、備えを怠る訳にもいかないと言っていました」

「まぁ、国を預かる者とすれば当然だろうな。鉄を手に入れたいし、長年の仇敵リーゼンブルグが弱っているならば、自国の支配下に置いてしまおうと考えてもおかしくはない」

「でも、戦になれば多くの人が傷付きますし、ヴォルザードの隣国がバルシャニアの支配下となるのも好ましくはないですよね?」

「まぁ、そうだな……多少の鉄を与えたとしても、リーゼンブルグが待ち構えているとなれば、砂漠を超えてまで攻めて来るとも思えねぇな」


 クラウスさんは、視線を天井に向けて、考えをまとめ始めました。

 今聞いた情報と、過去の状況を摺り合わせて、今後の方針を検討しているのでしょう。


「よし、バルシャニアの鉄の輸出は許可してやる。ただし、50コラッドもの鉄はヴォルザードだけじゃ集まらねぇぞ」

「はい、それは、日本から持って来ちゃおうかと思っています」

「ほう……ケント、お前の国では鉄は簡単に手に入るものなのか?」

「はい、色々な物に利用されていますし、一番普及している金属ですね」

「俺が50コラッド頼んだら、すぐに手に入るか?」

「はい、ヴォルザードにはお世話になっていますので、そのお礼を兼ねてとなれば、用意出来ると思います」

「よし、ヴォルザードにも50コラッドの鉄を頼む。勿論相場の価格で金は払うぞ」

「いえ、同級生の滞在費だって言えば、大丈夫だと思います」

「そうか……だが、それだと得をするのは、生活費を肩代わりしているケント、お前じゃないのか?」

「えっ、あぁ……そうですね。でも、ヴォルザードからの出費が減るなら良いじゃないですか」

「まぁ、そうだな……」


 クラウスさんは、ニヤリと笑みを浮かべて言葉を切り、改めて僕に視線を向けると、表情を引き締めました。


「ところでケント、女の子が一人、自殺したそうだな」

「はい、報告もせず、すみませんでした」

「どうなってんだ。帰還の目途が立ったんじゃないのか?」

「そうなんですけど……」


 関口さんが自殺した経緯について話をすると、クラウスさんは呆れたような表情で溜息を洩らしました。


「はぁ……俺には理解しがたい話だな」

「すみません、僕の力が足りず……」

「そんな事を言ってるんじゃねぇ。ケント、お前一人が責任被る話じゃねぇだろう。お前は十分良くやってる。だが他の連中……いや他の一部の連中は必死さが足りないんじゃねぇのか?」

「そう、なのかもしれません」


 たぶんラストックに居た頃は、鷹山とか一部の魔力の高い同級生を除けば、みんな生き残るのに必死だったと思います。


 でも、ヴォルザードに来て、日本に帰れる見込みは立たなかったけど、生きていくのに不自由しないと思った時に、張り詰めていたものが一気に緩んでしまったのだと思います。


 マルセルさんの店が焼け落ちる事になった騒動も、そうした気の緩みから起こったのでしょうし、今も働きに出ずにフラフラしている連中が居るのも、その現われなのでしょう。


「言うまでもなく、ヴォルザードは魔の森に面した厳しい環境だ。城壁の中は安全だが、一歩外に出れば魔物に襲われても不思議じゃない。だから、住民全員が力を合わせなきゃ、日々の暮らしは成り立っていかねぇ。まぁ、お前は十分理解しているだろうし、死人に鞭打つような事は言いたくねぇが、食うのに困らねぇ、住む場所もある、その上、家に帰れる目途も立って、なんで死ななきゃならねぇんだ? シュージ達は、何やってたんだ?」


 たぶんクラウスさんは、同じ年頃の娘を持つ親として、関口さんの両親の気持ちになって考えてしまっているのでしょう。


「遺体は、家族の下に帰ったのか?」

「はい、役所の手続きに沿って、家族に引き渡されたそうです」

「責められたりしたか?」

「いえ、僕はお目に掛かっていないので……直接には……」


 言葉を濁した僕の口振りから、クラウスさんは日本の事情を察したようです。


「俺も他人の事を言えた義理じゃねぇが、お前を責めるのは八つ当たりってもんだろう」

「まぁ、そうなんでしょうけど……」

「ケント……」

「はい、なんでしょう」

「いや、お前に言うことじゃねぇか……お前は、バルシャニアの一件を片付けたら、リーゼンブルグは見守るだけにして、帰りたい連中を送り返す事に専念しとけ」

「でも、賠償とかも進めないといけませんし……極大発生の心配も無くなってませんし……」

「あのなぁ、ケント。一人の人間に出来る事には限界があるんだぞ。何でもかんでも抱え込んで、その状態でお前が倒れたら、それこそ周囲の者達が迷惑するんだぞ」

「でも、僕がやらないと、他の人では移動も出来ませんし……」


 クラウスさんの言いたい事は、何となくだけど分かりますが、日本との移動も、ラストックへの移動も、他の人では侭ならない状態です。


「ケント……もし今、俺がコロっと死んじまったら、ヴォルザードの街は崩壊すると思うか?」

「えっ……それは、大騒ぎになるとは思いますが、街が崩壊するような事はないかと……」

「まぁ、当たり前だな。俺が死んでも、街に関する殆どの事は書類に残してあるし、混乱はするだろうが、別の人間が仕事を引き継いで、時間と共に普通の生活が戻ってくるだろう。じゃあケント、お前が死んだらどうなる?」

「えっ、僕が死んだら……ですか?」


 自分が死んだ後の事なんて、考えた事も無いので、返答に詰まってしまいました。


「お前が死ねば、恐らく他の連中は元の世界には戻れなくなるだろう。眷属の連中に言い残しておけば、手紙のやり取りぐらいは出来るかもしれないが、人の往来は無理だろう。そうなった時に、お前の仲間は、ちゃんと生きていけるのか? リーゼンブルグと交渉出来るのか? 元の世界の役人と、キチンと連携が取れるのか? お前が居なくなっても大丈夫なように準備してあるのか?」

「い、いえ……出来ていません」

「元の世界との連絡は、お前じゃなくても眷属を使えば出来るだろう。それはラストックとでも同じなんじゃないのか?」


 確かにクラウスさんの言う通り、眷属の誰かに頼めば、僕の代わりにメッセンジャーの役目は十分に果たせます。

 僕が直接足を運ぶよりも、色々と時間が掛かる場合もあるでしょうが、逆に言うならば、急がない事項については直接出向く必要はありません。


「バルシャニアの件は、お前でなければ話が付かないだろう。帰還についても同じだな。だが、それ以外の雑務に関しては、誰かに代わってもらえるような体制を作って、助けてもらえるように考えろ」

「はい、分かりました」


 クラウスさんから宿題を与えられて、執務室を後にしました。

 やっぱり、僕の仕事の管理をしてもらえるような秘書みたいな人を雇った方が良いのでしょうか。


 ギルドに来ているので、ついでに聞いてみる事にしました。

 階段を下りて、カウンターに足を向けると、フルールさんに視線でロックオンされちゃっています。

 対ケントレーダー的なものを装備してたりするんですかね。


「ケントさん、ちゃんとクラウス様から鉄の輸出に関する許可はいただいたんですか?」

「はい、それは許可してもらいました」

「ですが、50コラッドもの鉄をどうやって準備するのですか」

「えっと……それは、まぁ、何とか……大丈夫です」

「大丈夫って、本当でしょうね? 取引に失敗したら、ヴォルザードとバルシャニアの間で大きな問題になるかもしれませんよ。本当にギルドのお手伝いは必要ないのですか?」

「はい、それは別口に頼めば、たぶん大丈夫なので、心配いりません」


 日本政府にお願いすれば、鉄の1トン、2トン程度は準備出来るでしょう。

 値段がどの程度かは分かりませんが、24万ブルグというとオークの魔石は20個程度買えるので、日本政府なら5千万円程度で引き取って貰えるでしょうから、金額的にも大丈夫でしょう。


 てか、手伝ってもらわなくても大丈夫って答えているのに、何でそんなにフルールさんは不満そうなんですかね。


「本当に、本当に、手伝いは不要なんですね?」

「はい、鉄に関しては大丈夫なんですが、ちょっと別の件を相談したいのですが……」

「まだ何かあるんですか……仕方ありませんね。何ですか?」


 あれ? 仕方ないとか言いつつ、何だかちょっとフルールさんが嬉しそうに見えるのは、気のせいでしょうか。


「えっと……秘書みたいな人の募集もギルドでやってもらえるんでしょうか?」

「秘書……ですか?」

「はい、ちょっと仕事が立て込んでしまっていて、スケジュールの管理とか、仕事の仕分けとか、他との連絡……みたいな仕事を頼みたいんです。僕は、こっちの世界の事が疎いので、他の国とか街の情勢も詳しい人だと助かるんですが……そういう人を頼むには、給料はいくらぐらい払わないといけないんですかね?」

「なるほど……分かりました。私がお引き受けいたしましょう」


 僕の質問に、フルールさんは、さらっと答えました。


「はっ? いやいや、フルールさんはギルドの職員さんですから……」

「大丈夫です、退職いたします」

「えぇぇ……だって、お給料とかも決めていないのに……」

「お給料は結構ですので……その……永久就職でお願いします」

「はっ? えっと……はぁ?」


 頬を染めながら紡がれるフルールさんの言葉の意味を理解しきれないでいると、別の場所から声が上がりました。


「ちょっとフルール! あなた何言ってるのよ。抜け駆けは禁止でしょう」

「そうよ、そうよ。ケントさん、秘書の話、私がお引き受けしますわ」

「いえいえ、私が良いですよ。私の祖父はバルシャニア出身ですから」

「ちょっと、私が最初に立候補したんだからね」

「だから、抜け駆け禁止だった約束したじゃないの!」

「フルール、ケントさんに厳しい口調で話し掛けてたのも狙いだったのね!」

「当たり前でしょ、アピールしなくちゃ、その他大勢の一人で終わっちゃうわよ」


 フルールさんを含めて、カウンターの中にいた四人の女子職員の皆さんが、喧々轟々、掴み合いでも始まりそうな勢いで言い争いを始めてしまいました。


「えっと……ちょっと皆さん、落ち付いて……」

「ケントさん、私ですよね? 今まで一杯お世話しましたよね」

「ちょっと、フルール、決め付けないでよね」

「そうよ、ケントさん、選んでくれたら、うーんとサービスしちゃいますよ」

「その貧相な胸じゃ駄目ね。私なら満足させちゃいますよん」

「いや……僕はスケジュールの管理を……ま、また来ます!」


 カウンターの中に居並ぶ皆さんが、肉食獣の群れに見えて、思わず闇の盾を出して逃げ込んじゃいました。


「あぁぁ……待って!」

「ちょっと、逃げられちゃったじゃない!」

「フルールが抜け駆けするからでしょ!」

「そうよ、この前なんて誘惑してたでしょ」

「違うわよ、あれは制服のボタンが勝手に……」

「フルール、また太ったんじゃない?」

「言ったわね、この絶壁女……」

「絶壁って、膨らみぐらいあるわよ!」

「あんた達やめなさいよ……」

「うるさい、年増!」

「よーし……あんたら命はいらないみたいだねぇ……」


 カウンターの中で勃発した女の闘いは、まだ暫く続きそうな感じです。

 ギルドの受付のお姉さんと、ムフフな関係になるのは異世界もののお約束ですけど、肉食獣の群れに襲われちゃうのは、ちょっと違いますよねぇ。


「うわぁ……怖っ、どうなってるの?」

『ぶははは、おそらくケントさまの財産狙いでしょうな』

「僕の財産? あっ、そうかギルドの職員さんなら、僕の口座にどの程度のお金が降り込まれたのか分かるのかな」

『まぁ、金額まで知っているのかは分かりませんが、サラマンダーやギガウルフ、大量の魔石を所持しているなどの情報は、知っているでしょうな』

「えぇぇ……それじゃあ、あのフルールさんのツンケンした態度も計算ずくだったって事なの?」

『ぶははは、どうせなら、まとめて雇い入れて、侍らせてはいかがですかな』

「そんな事したら、委員長に愛想を尽かされちゃうよ」


 ギルドなら、秘書みたいな人も募集出来ると思っていたのに、困りました。

 取りあえず、秘書の話は棚上げにして、鉄の手配を頼むために捜査本部に足を運ぶ事にしました。


 でも、こちらはこちらで、バッシングがどうなったのか心配なんですよね。

 恐る恐る覗いてみた捜査本部では、更に机が片付けられて、まるで捜査本部が解体されるようにも見えます。


 須藤さんの指示の下で、どんどんと荷物が運び出されて行きます。

 邪魔にならない場所から表に出て、須藤さんに声を掛けました。


「あの、須藤さん、これは……」

「あぁ、国分君、来たね。見ての通りの引っ越しだよ」

「引っ越しですか?」

「そう、引っ越し。ところで国分君、その影に潜る移動法で、地図に渡した場所に行けるかな?」

「えっと……過去に行ったことのある場所、あとは見えている範囲ならば移動が出来るので、そんなに遠い場所でなければ地図を見ながらでも可能です」

「それなら、マスコミに見つからずに移動出来るね?」

「はい、それは大丈夫です」

「じゃあ、すまないが、ここに移動してくれるかな? 梶川君たちは、もう先に行ってるはずだから」

「えっ、ここって……」


 地図に示されていた場所は、東武東上線、東武練馬駅から南方に約500メートル。

 陸上自衛隊、練馬駐屯地でした。

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