第134話 二人目の帰還

 グライスナー侯爵との会談の翌朝、守備隊の臨時宿舎に小田先生を訪ねました。

 目的は、昨晩撮影したカミラの謝罪ビデオのチェックをしてもらうためです。


 同級生のみんなに姿を見られると、早く日本に帰せとせがまれそうなので、先生の部屋を直接訪ねました。


「おはようございます、小田先生」

「おぅ、国分か、おはよう」

「先生、ちょっとチェックしてもらいたいものがあるんですが」

「チェック? 日本に持ち帰るものか?」

「はい、カミラの謝罪ビデオなんですけど……」

「カミラって……あの金髪の王女か?」

「はい、そうですけど……」

「あの王女が謝罪って、本当なのか?」

「あぁ……そうですよね、先生はラストックで会ったきりですもんね」


 良く考えてみると、態度を改めてからのカミラに会っているのは僕だけで、他のみんなが抱いているカミラの印象は、僕らをサル扱いしていた頃のままなんですよね。

 そこで、現在のカミラの様子やリーゼンブルグの状況を話して、それから謝罪ビデオを見てもらいました。


『私は、リーゼンブルグ王国の第三王女、カミラ・リーゼンブルグです。

 この度の召喚術式の発動により、犠牲になられた皆様に哀悼の意を捧げると共に、ご遺族の方々、被害に遭われた皆様、そして迷惑をお掛けした全ての関係者の皆様に心より謝罪いたします。

 大変申し訳ありませんでした』

「うーん……」


 ビデオカメラのモニターに映し出されたカミラが、深々と頭を下げる姿を見た小田先生は、思わずといった感じで声を洩らしました。

 召喚当時の傲然と胸を張るカミラの姿しか知らない者にとっては、神妙な面持ちで頭を下げる姿など想像も出来なかったのでしょう。


 ビデオの中でカミラは、召喚の理由がリーゼンブルグ西部の砂漠化進行に端を発し、魔の森開拓の為の戦力補充にあった事、過去の召喚事例に基づいて召喚者の魔王化を防ぐ為に隷属の腕輪を使用した事、それによって召喚者の扱いが奴隷同然となってしまった事などを語りました。


 その上で、王位継承争いによって戦力が自由にならなかったとは言え、その補充を外部に頼ってしまった判断、過去の事例に囚われて隷属の腕輪を使った事、召喚者の扱いなどの過ちを認め、再度深々と頭を下げました。


 また、召喚によって校舎が崩壊し、多くの死傷者が出た事に関しては、全くの想定外であったとしながらも、責任の全てはリーゼンブルグに有り、可能な限りの賠償を行うと約束しました。


 最後に、当面の賠償品として、ミノタウロスの角20本、オークの魔石200個を引き渡すと並べられた現物を示しながら語り、もう一度謝罪の言葉、そして日本とリーゼンブルグの関係改善を望むコメントの後、深々と頭を下げるカミラを映してビデオは終わります。


「どうですか、先生。何か問題はありますかね?」

「そうだな……全面的に責任を認め、謝罪し、賠償を行う姿勢も示している……謝罪のツボは押さえているな。後は、普通の犯罪や事故の場合には刑事責任を問う事になるのだろうが、今回は召喚術という魔術が原因だから訴えるのは難しいだろうな」

「魔術が原因だと、裁判で争うのは難しいのですか?」

「魔術と事件や事故の因果関係が証明出来ないと、罪に問うのは難しいだろうな。それに、相手が外国というか異世界の王族ともなると、更にハードルは上がるだろう」

「正直、法律の問題とかは僕では分からないので、政府とか警察の方に丸投げしちゃった方がいいですよね?」

「そうだな、日本で判断してもらうしかないだろう」

「それで、カミラの親書を預かっているんですが、内容の翻訳を先生にお願いしてもいいですかね? その、言葉使いとか、僕だとかなり怪しいので……」

「それは構わないが、親書の封を開ける訳にはいかんだろう」

「あっ、それは大丈夫です。同じ内容を書いたものがありますので」

「分かった、今すぐの方が良いのか?」

「はい、出来れば……」


 小田先生にカミラの親書の翻訳をお願いしていると、部屋のドアがノックされ加藤先生が訊ねて来ました。


「おはようございます、小田先生……って国分、お前はちっとも顔を出さないで……」

「すみません、色々と忙しくって……」

「加藤先生、どうかされましたか?」

「いえ、今日は城壁の工事に行かれないのかと思いまして……」

「今、国分に頼まれて、カミラ王女の親書の翻訳をしていますので、それが済んだら……」

「カミラ王女の親書ですって!」

「しーっ……先生、声が大きいですよ」

「おぅ、すまん。だが国分、どういう事だ?」

「実は、ですね……」


 加藤先生にも事情を説明して、ビデオを見てもらいました。


「うーむ……あの小生意気な王女がなぁ……にわかには信じられんな」

「やっぱり、そういう反応になりますよね」

「国分、この犬のおっさんは誰だ?」

「あぁ、そちらはグライスナー侯爵といって、第二王子の派閥の重鎮だった方です」

「だった……?」

「はい、第二王子と第三王子が死んで、これからカミラが派閥を引き継ぐ事になるでしょうから、第三王女派の重鎮って感じですか」


 第一王子派と第二王子派の権力争いや、第二王子達が誅殺された経緯を語ると、加藤先生は顔を顰めて首を振りました。


「リーゼンブルグの王族や貴族というのは、そんなに面倒な事になってんのか」

「僕らは、そのとばっちりを受けたようなもんですね」

「こんなビデオを見せられても、子供を亡くされた親御さんたちは納得なんか出来ないだろうが、それでも何も無いよりはマシなのかもしれんな……」

「少しでも救いになってくれると良いのですが……」

「ところで国分、例の帰還方法の件なんだがな。あれから我々の方でも考えてみたんだ」


 加藤先生達が考えたポイントは、大きく分けて二つありました。

 一つは、僕の身体に負担が掛かるのは、魔力と属性の吸い出しを行う時に発生しているようなので、元々魔力の弱い者を選び、更には魔力が枯渇するぐらいまで魔術を使った状態で行い、徐々に慣らしていけば負担が少なくて済むのではないかという考えでした。


「なるほど、確かに魔力の量が少なければ、吸い出す時間も短くて済みそうですし、吐き気と頭痛も軽減出来るかもしれませんね」

「ここの演習場を使わせてもらって、魔力枯渇でぶっ倒れるぐらいまで魔術を使ってからならば、負担も軽くなり、そうすれば間隔を短くする事も出来るんじゃないのか?」


 もう一つは、キス以外の方法で、魔力と属性を奪う方法についてでした。

 握手やハグでは駄目で、キスならば出来たのは、粘膜接触する必要があったからではないかという考えです。


 そこで、少し傷をつけて血がにじむ指先同士の接触ならば、魔力や属性の奪取が可能ではないかと考えたそうです。


「感染とか衛生面を考えると、あまり褒められた方法ではないが、野郎同士でキスするよりは良いだろう?」

「はい、どっちを選ぶと聞かれたら、迷わず傷口の接触を選ばせてもらいます」

「それで国分、二人目の帰還なんだが、そろそろどうだ?」

「はい、小田先生の翻訳が終わったら、一度捜査本部へも顔を出すつもりでいましたので、何ならこれからでも」

「そうか、実は四組の関口詩織、知ってるか?」

「いえ、ちょっと分からないです」

「その関口なんだが、かなり塞ぎ込んでいるみたいで、出来れば早めに帰してやりたいんだ」


 関口さんは、元々内向的な性格だったせいか、ヴォルザードでの暮らしにも馴染めず、ノイローゼ気味だったそうです。

 たぶん、委員長が言っていたのは関口さんの事だったのでしょう。


「それじゃあ、先に行って関口に準備をさせるから、小田先生の作業が終わったら来てくれ」

「分かりました。訓練場でいいんですね?」


 加藤先生は、一足先に関口さんを連れ出して、魔力を消費させるつもりなのでしょう。

 内容を見直し、清書を終えた小田先生に、翻訳者として署名を入れてもらい、封筒へ収めました。


「国分、お前に頼り切りの状況が続いていて、申し訳ないと思っている。くれぐれも無理はするなよ」

「はい、時間を見つけて休息は取るようにします」

「そうか、じゃあ行くか」

「はい」


 小田先生も、二人目の帰還が上手くいくのか見守るために、訓練場へと同行するようです。

 先生の部屋を出ると、僕の姿を見つけた男子達が集まってきました。


「国分、帰還はどうなってんだよ」

「女子優先とか言ってねぇで男子も戻せよ」

「てか、女子優先なら、さっさと女子を終わらせろよ」

「俺は、いつでも構わんぞ、ブチューってやるか?」

「てか、キス以外の方法はねぇのかよ……」

「ほら、お前ら邪魔だ! 道を開けろ!」


 ワラワラと寄って来る男子共を小田先生が払いのけ、僕はその後ろに従って行きます。

 てか、何でこの時間に宿舎に居るのかなぁ……みんな働きに行けよなぁ。


「女子優先は変わらないから、みんなが帰るにはまだ日にちが掛かるよ。プラプラしてないで働きに行かないと、休日に遊ぶお金までは援助しないからね」


 集まって来た男子共は、口々に不満を洩らしましたが、先生を盾にしてガン無視させていただきます。

 訓練場へと移動すると、話を聞きつけたのか十数人ほどの女子と、千崎先生に彩子先生、それに委員長の姿もありました。


「おはよう、健人、体調は大丈夫?」

「おはよう、うん、バタバタしてたら忘れちゃったよ」

「あんまり無理しちゃ駄目だよ」

「うん、分かってる」


 委員長は、流れるような自然さで身を寄せて、腕を絡めてきました。


「国分、お楽しみのところ悪いが、そろそろ始めてもらっても良いか?」

「あっ、はい、分かりました」


 肝心の関口さんは、大柄な加藤先生の後ろに隠れるようにして立っていました。

 おかっぱ頭で、ちょっと小太り、身長は僕よりもずっと低くて、クラスでも一番低い方でしょう。

 寝不足なのか目の下には色濃く隈が出来ていて、顔色も良くありません。


「関口、念のために、もう一度魔術を使っておけ」

「もう一度ですか……分かりました……」


 もう少しにこやかにしていれば、愛嬌がある顔立ちに見えるのでしょうが、不機嫌そうに眉間に皺を寄せているせいで、なんだか陰気に見えてしまいます。


「マナよ、マナよ、世を司りしマナよ……集え、集え、我が手に集いて風となれ……踊れ、踊れ、風よ舞い踊り、風刃となれ! やぁ……」


 風の刃は目には見えないので、魔術が発動したのかどうかも分かりませんが、右腕を振り下ろした直後から、関口さんは肩で息をしています。 


「はぁ、はぁ、はぁ……早く……早く、日本に帰してよ!」


 俯けていた顔を上げた関口さんの目は、確かにちょっとヤバげな感じに見えます。


「先生、始めますけど、どうすれば……」

「それじゃあ、こっちに来てくれるかしら?」


 説明を始めたのは、加藤先生ではなく千崎先生でした。

 この傷口を合わせて魔力や属性の吸い出しを試みるアイデアは、千崎先生によるものだそうです。

 消毒用に用意した度数の高い蒸留酒で指先を拭い、僕は左手の人差し指、関口さんは右手の人差し指にナイフで薄く傷を付けました。


「じゃあ、お互いの手を握り込むようにして、指先を合わせて契約……いえ、何でもないわ。国分君、試してみて」

「はい、やってみます」


 今、何だか契約がどうとか言いそうになってましたけど、深く追求すると千崎先生の闇が見えそうなのでやめておきます。

 関口さんの手は、小さくてぷっくらした女の子らしい感じで、指先を合わせるのに、少し手の平をずらさないいけませんでした。

 傷口が触れ合って、チクリとした痛みが走り、僕らは同時に顔を顰めました。

 意識を指先に集中すると、確かに魔力を感じます。


「じゃあ、始めるよ」

「うん……」


 関口さんが頷いたのを見て、指先から関口さんの魔力を吸い出そうとした瞬間でした。


「ぐぅ!」「痛っ!」


 静電気の何十倍に思える衝撃と痛みが走り、思わず僕らは手を離して指先を押さえました。


「どうしたの? 何があったの?」

「まさか、契約不成立……」


 委員長や千崎先生が慌てて歩み寄って来ました。


「唯香、僕はいいから関口さんの治療をしてあげて」

「分かった……関口さん、治療するから指を。マナよ、マナよ、世を司りしマナよ、集え、集え、我が手に集いて癒しとなれ!」


 衝撃が走った指先は、パックリと裂けて血が溢れていました。

 白く見えているのは、もしかすると骨かもしれません。

 僕も全力で自己治癒を掛けて傷口を塞ぎました。


「先生、これは駄目です。指先が吹っ飛んだかと思いましたよ」

「ごめんなさい。私達もこんなに酷い事になるとは思っても見なかったわ……魂の相性なのかしら……」


 うん、ちょっと千崎先生のアイデアには気を付けた方が良さそうですね。


「何でよ! 何で私ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」


 突然聞こえたヒステリックな声に驚いて振り向くと、関口さんが髪を振り乱して叫んでいました。


「何でこんな痛い思いをしなきゃいけないのよ! 魔術が使えたって扇風機程度にしか役に立たないし、何で私ばっかり……もうヤダ、何がリーゼン何とかよ。何がヴォルザードよ。こんな世界なんか滅びればいいのよ」

「関口さん、落ち着いて」

「いいわよね! 浅川さんは凄い魔術を貰って、聖女なんて呼ばれて、着るものも食べるものも私達なんかとは大違いだったんでしょ!」

「そんな……私は……」

「いいわよね! チートを貰った国分君とくっついて、イチャイチャ、ベタベタ、魔物をいっぱい倒して、ガッポリ稼いで、何不自由無く暮らせるんでしょう。私みたいな何の取柄も無い人間の気持ちなんか分からないでしょう!」


 勿論、委員長だって僕だって、楽してきた訳ではないから、普通に聞いたら腹の立つ台詞なんだろうけど、山姥みたいに髪を掻き毟りながら喚いている姿は、不快感よりも危うさを感じてしまいます。


「関口さん、落ち着いて」


 委員長に代わって宥めようとした千崎先生にも、関口さんは噛み付いていきます。


「うるさい! 何も出来ないくせに教師面しないでよ! 何が、この方法ならキスしなくて済むよ。適当な事を言わないでよ。どんだけ痛かったと思うのよ。あんたやってみなさいよ!」

「ごめんなさい。私達も良かれと思ってやってみたのであって、悪気は無いのよ」

「ふざけないでよ! そんな事言って、結局私を実験台に使っただけじゃないのよ」

「関口さん……」

「うるさい! うるさい! うるさい! お前らなんか信用出来るか、木沢さんだって、日本に帰したとか言って、ホントはどこかに捨ててきたんだろう。死ね、死ね、お前らみんな死んじまえ!」

「関口さん!」


 喚き散らした後で、関口さんは訓練場から走り去って行き、それを千崎先生と彩子先生、関口さんの友人と思われる数人の女子が追い掛けて行きました。


「えっと……どうします?」


 小田先生も加藤先生も、突然の事態に頭を抱えています。

 どう考えても、今日の時点での関口さんの帰還は難しいでしょう。


「仕方ない、誰か別の者を……」


 そう小田先生が口にした途端、周囲に集まっていた同級生達が殺到してきました。


「俺! 俺を日本に帰して下さい!」

「何言ってんのよ! 男は後!」

「ふざけんな! 女優先したから、こんな事になってんだろ!」

「頭のいかれた関口なんかと一緒にしないでよね!」

「俺、俺はブチューってする覚悟があるぞ!」


 だから、僕がその覚悟が無いんだって分かってほしいよね。

 結局、女子の中から魔力量の少ない人を選んで、最終的にはジャンケンで一人を選びました。


 久保瑞穂さんは、土属性の魔力量弱で、ラストックではかなり苦労していたそうです。

 あの食料事情の中で、一体どうやって栄養を確保していたのか、はたまたヴォルザードに来てから急速に蓄えたのか、かなりのポッチャリ体型の持ち主です。


 こちらの世界に来てから、かなり鍛えたという自覚はありますが、久保さんをお姫様抱っこする自信は無いですね。


 硬化の魔術を連発して、魔力をギリギリまで使い果たしたところで、属性の奪取を試みます。

 倒れたりすると危ないので、地面に広げたシートに座って向かい合いました。


「じゃあ、始めてもいいかな?」

「はい、お願いしますね、王子様」

「えっ、王子様?」

「うふふふ、だって、ラストックの診療所で浅川さんが、ずっと口にしていた王子様は国分君なんでしょ?」

「えっと……そう、みたいだね」

「私にとっても、国分君は王子様だから……」


 そう言うと久保さんは、両腕を広げて目を閉じました。

 ぶつかり稽古で構える関取かい……と、思ってしまったのは内緒です。

 そーっと唇を重ねると、ギューっと両腕で抱き締められました。


 意識を広げていくと、確かに久保さんの身体の中から感じられる魔力の量は、木沢さんの時に較べると相当少なく感じます。

 ですが、魔力は身体の隅々まで広がっているので、それを吸い集めるのには、やはりそれなりの時間が掛かりそうです。


 そして、やっぱり異質な魔力が身体に流れ込んで来ると、拒絶するような頭痛と吐き気に襲われます。


「くぅ……うぅん……」


 僕は魔力を吸い取る側で、吸われる側の感覚は分からないんだけど、やはり少なからぬ苦痛を感じているようです。

 これは、ちょっと急いだ方が良さそうだと思っても、身体の隅々に散った魔力は思うように集まって来てくれません。


「うぅぅん……くぅぅ……」


 属性の奪取を始める前には、血色が良すぎるとさえ感じていた久保さんも、やはり体温が低下して蒼ざめてきているようです。

 木沢さんの時には魔力の吸い出しには十分以上の時間が掛かっていましたが、今回は五分ほどで八割以上の魔力を吸い集める事が出来ました


 あと少しと思った時、久保さんの両腕に更に力が込められました。

 ぐえぇぇぇ、ちょ……吸った魔力を戻しちゃうよぉぉぉ……。


 だけど、ここで中止する訳にもいかないし、必死で吸い出し作業を続けましたよ。

 身体の隅々まで巡っていた魔力を、引っ張り出して残さず吸い出すと、久保さんの身体からガクンと力が抜けました。


「んはっ……うぐぁ……ぐぇぇ、やっぱ駄目これ、きぼぢわるぃぃぃ……」

「王子様……抱っこ……」


 久保さんは恍惚とした顔で、何を戯言をほざいているんですか……体調の良い時だって無理だって。


「うーっ……ラインハルト、お願い……」

『ぶははは、仕方ありませんな』

「ちょっと行って来るね……」


 闇の盾を出して、ラインハルトに久保さんを抱えてもらい、捜査本部へと向かいました。

 魔力の吸出しを行っている時には、前回ほどではないかと思っていたのに、属性を奪い終え、魔力を付与する時には激しい吐き気と頭痛に苛まれていました。


 捜査本部の須藤さんの机の横に闇の盾を出し、ラインハルトに久保さんを降ろしてもらいました。


「うぇ……須藤さん、二人目です」

「国分君、おぅ、彼女が二人目か」

「魔石もあるんですけど、ぐぇ……ちょっと、後でまた来ます……うぇぇ」

「あっ、王子様……」

「国分君……」


 久保さんも、須藤さんも何か言いたげでしたが、ちょっと余裕がありません。


『大丈夫ですかな、ケント様』

「駄目……ちょっと無理、ぐぇ……魔の森に行く……」


 前回は空腹だったのが拙かったのかと思いましたが、今回は胃に残っていたものを全部戻してしまい、再びネロにお願いしてベッド代わりになってもらい、マルト達に囲まれながら気を失いました。

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