第133話 侯爵との会談
グライスナー侯爵との会談は、カミラの居室にて行われる事になりました。
騎士の中には司令官室で行うべきだと主張する者も居たようですが、今後の関係を考慮して、カミラ自身が決定したようです。
カミラとゼファロスの他に、補佐役としてレビッチ、ウォルターが席に着きます。
そして、当初は影から見守るだけのつもりでしたが、カミラに求められて、僕とラインハルトも出席する事となりました。
「ほう、賢王アルテュール様に仕えていた騎士殿か……」
カミラから、僕がラインハルト、バステン、フレッドの三人を従えていると聞かされて、グライスナー侯爵は感心しきりといった様子です。
「私は、魔王様こそが賢王アルテュール様の生まれ変わりだと思っております」
「ほほう、ならばカミラ様は、賢王様の後ろ盾を得たという訳でございますな」
「私は魔王様に忠誠を捧げた身……」
「忠誠なんて、本気で申されているのですか!」
「よさんかウォルター」
カミラの言葉に腰を浮かせたウォルターをゼファロスが制しましたが、カミラは淡々と言葉をつなぎました。
「勿論本気で言っている。ミノタウロスが襲来した時も、今回のオークの群れも、魔王様の助力が無ければ、ラストックの民を守る事すら叶わなかった」
ウォルターに目配せをされたレビッチは、渋い表情を浮かべながらも頷いてカミラの言葉を肯定しました。
「では、今後のカミラ様の方針は、魔王殿次第と考えてもよろしいのでしょか?」
「そう思ってもらって構わない」
カミラの返答を聞いたゼファロスとウォルターの視線が僕へと向けられました。
「では、魔王殿よ、そなたはリーゼンブルグをどうするつもりなのかな?」
「その質問に答える前に、一つ聞かせてもらっても良いですか?」
「ふむ、何かな?」
「グライスナー侯爵は、なぜ第二王子ベルンストを支持していらしたのですか?」
「それは、なぜ第一王子アルフォンス様では駄目だったのか? という問いでもあるのだな?」
「はい、その通りです。お答えいただけますか?」
「難しい話ではない。アルフォンス様には、意志の力が乏しすぎると見たからだ」
「意志……ですか?」
リーゼンブルグの貴族は、将来自分達の命運を託す事になる王族を見定めるために、王子が幼い頃から探りを入れ、その人となりを調べるのだそうです。
「アルフォンス様は悪人ではない。秀でた才能がある訳でもないが、愚鈍と言うほどでもない。ただ、物事を決める意志の力が薄弱で、他人の意見に左右されすぎる」
同じ王族であるカミラの前では、本来ならば口にすべきではない批評なのでしょうが、的を射た発言であるためかカミラも頷いています。
「確かに意志という面においては、ベルンストの方が強いと感じましたが、それにしても素行が悪すぎると思わなかったのですか?」
「そうだな、平民の……いや失礼、魔王殿の目にはそのように見えたのかもしれんが、王族の若い頃はあの程度は驚く程の事ではない。王となった時に、シッカリと手綱を握れば良いと思っておったのだが……少々見込みが甘かったようだ」
少々どころかダダ甘だろうと言いたくなりますが、王侯貴族の感覚は僕らとは違うのかもしれません。
「ベルンスト、クリストフの両名が亡き後、グライスナー侯爵家としては、カミラを後ろ盾としてアルフォンスの下で所領を安泰させたい。そう考えていらっしゃるのですね?」
「その通り。我々には今の時点でアルフォンス様を誅する大義は無い。ならば忠節を尽くし民を守るだけだ」
正確に言うならば、家を守るためなんでしょうが、今は突っ込む時じゃないよね。
「カミラも、その方針で良いのかな?」
「私は、魔王様の方針に従うつもりです。ただ……」
口を噤んだカミラは、じっと僕を見詰めた後で、意を決したように言葉を繋ぎました。
「ただ、もし魔王様がお許し下さるならば、私はリーゼンブルグの王になりたい! バルシャニアが策動している今、アルフォンス兄やディートヘルムでは心もとない。私は、民を守り、この国を豊かにしたい!」
ベルンストの存在が無くなったからなのか、カミラはハッキリと王座への思いを口にしました。
「という事らしいけど、どう思います? グライスナー侯爵」
「ふむ、先程から私にばかり聞くだけで、手の内を明かさない魔王殿は、どのように考えておるのかな?」
「そうですね……僕は、こちらの世界に来てから日が浅く、正直に言ってアルフォンスやディートヘルムの性格までは分かりません。ただ、カミラが召喚術式という禁術に頼らなければならないほどに追い詰められているのに、西部の砂漠化の問題を放置し続けている者には、王族の資格が無いと思っています」
「では、魔王殿が手を下し、カミラ様を王位に就けるつもりかな?」
「警告をして、それでも変わらないならば排斥するしかないですかね……」
「それは、今の国王にも言えることかな?」
ゼファロスは笑顔を浮かべたままで問い掛けて来ましたが、目が全然笑っていなくて、かえって怖いですね。
「現国王の場合は誅殺というより、譲位を迫る感じですか」
「現国王とも事を構えるとなると、反乱とみなされる可能性がある。そこまでする利が私どもに有るのかな?」
この辺りが、クラウスさんが言っていた人生を賭けた博打なのでしょうね。
リスクと利益を天秤に掛けて、どちらに傾くかで賭ける相手を探っているのでしょう。
「カミラが国王ともなれば、ラストックの統治は誰かに任せないといけませんよね」
「なるほど、他には……?」
「はっ? まだ他にも?」
ラストックの領有権をチラつかせれば首を縦に振るかと思いきや、思った以上に欲の皮が突っ張っているのでしょうか。
僕が返答に詰まると、カミラが代わりに答えました。
「私が王になった暁には、第二王子派だった者達の所領は安堵すると約束しよう。ただし、カルヴァイン辺境伯爵領だけは保留とさせてもらう」
「そのお言葉に偽りはございませんか?」
「無論、民を苦しめるような悪政を布く者には、改めてもらわねばならんぞ」
「突然の税率の変更や領地替え、取り潰しはなさらないと、お約束していただけますか?」
「約束しよう」
カミラが、きっぱりと答えると、ゼファロスは暫し目を閉じて、考えまとめているようでした。
まずは、自分の所領の安堵、次に派閥の重鎮として同じ派閥の仲間の処遇、新たな利益はその後なのですね。
新たな領地が手に入るというだけで、簡単に動くような人物であるならば、第二王子に従ってラストックで虐殺をやってのけていたかもしれませんしね。
「分かりました、カミラ様に助力いたしましょう。ただし、我々が動くには大義が必要です。先程魔王殿が申していたように諫言し、それでもお考えを変えていただけない場合には、身を引いていただくという流れでよろしいですかな?」
「無論だ、私とても、無暗に肉親を誅殺するつもりは無い。アルフォンス兄が民の為に働いて下さるならば、それを支える……まぁ、難しいだろうが……」
カミラとしては、既に何度も砂漠化進行の問題を指摘し、対処を促して来たのだから、第一王子には希望を持っていないのでしょう。
現国王に対しては、姿勢を改めてもらうように諌め、それでも聞き届けられなければ譲位を迫り、それも駄目ならば誅殺。
第一王子に対しても、次期国王として相応しい振る舞いを求め、聞き届けられなければ廃嫡を迫り、それも駄目ならば誅殺という流れで進める事になりました。
次に決めるのは、各地へと送る第二王子死亡の知らせの中身についてです。
これに関しては、既にカミラが決めていました。
「兄達は、オークの大群との交戦中に命を落としたとして各地に知らせを送るつもりだ。その上で、義兄達の意志を継ぎ、国を守り、民を守るために身を捧げると書き添える」
「第二王子派の派閥を引き継ぎ、王位を目指すと宣言したと取られても仕方のない文言ですが、宜しいのですかな?」
「その覚悟で父やアルフォンス義兄を諌めるつもりだ」
「結構です。魔王殿も宜しいですかな?」
「カルヴァイン辺境伯爵はどうしますか? 他の人達と同じ文言で済ますのですか? それとも釘を刺すのでしょうか?」
カミラを制するように、先にゼファロスが考えを披露しました。
「カミラ様が送る書状の文言は、他と同じ方が良い」
「それは、どうしてです?」
「カミラ様が送る書状は、先日と同様に王家の紋章が入った便箋、封筒、封蝋が使われる。つまりは証拠として残るものですのであり、あからさまな恫喝は避けるべきだ」
「裏を返せば、あからさまでない恫喝ならば構わないって事ですか?」
ゼファロスはニヤっと口元を緩めた後で答えました。
「さすがは魔王殿。なかなか良く頭が回るな。だが、この場合は小細工などせずに国への忠誠、民への慈しみを求める事こそが、後暗い者への恫喝となる」
「なるほど、王道を目指す者には小細工は不要という訳ですね」
「その通り……なのだが、あのアーブル・カルヴァインという男は一筋縄では行かんだろうな」
「それほどの人物なのですか?」
「でなければ、あの鉱山の街は治められん」
カルヴァイン領の鉱山は、ダンジョンのように突発的に鉱石が産出するのではなく、鉱脈を地道に堀り進み、掘り出した原石を精錬して鉄や銅などを取り出す、地球の鉱山と同じタイプの物だそうです。
採掘の過程では土属性の魔術が使われますが、落盤など事故の危険は付き物です。
大きな鉱脈を掘り当てれば、それこそ一攫千金の儲けとなりますが、一発事故に巻き込まれれば、それでお終い。
採掘に関わる男達は、それだけに気性の荒い連中が揃っているそうです。
アーブル・カルヴァインのポジションは、そんな連中の親玉の親玉の、そのまた親玉という感じですから、並大抵の人間には務まる立場ではありません。
「屈強な体格で腕っ節も強いが、頭も切れる。あの取巻きのライザスをもっとスケールアップした感だ」
「それほどの男が、なぜ第二王子達を麻薬漬けにしたのでしょう? もしかして裏で第一王子と繋がっていたとか?」
「どうであろう、アーブルから見ればベルンスト様達を操るのは難しくは無かったはずだ。それだけに、麻薬漬けにする理由が今ひとつ分かりかねるな」
「バルシャニアからの依頼という疑いは?」
「疑う要素はいくらでも有るが、証拠が無い」
ゼファロスは、アーブルと同じ派閥に属していたものの、腹の底を割って話す程の仲ではなかったようです。
もっとも、それほどの連携が出来ているのであれば、ベルンストたちが麻薬漬けになる事もなかったのでしょう。
「アーブル・カルヴァインの最終的な狙いは何なのでしょう?」
「最終的な狙いか……奴の領地は鉱山としては恵まれているが、穀倉地としての価値はゼロと言っても良い。故に単独で経済が成り立つ状況にないので、独立して国を興そうという考えは無いだろう」
「穀倉地帯に領地を得たいという願望はどうでしょう?」
「カルヴァイン領から穀倉地帯までの間には、林業を営む山や酪農を行う地域があるので、穀倉地帯を得たとしても飛び地となるだろう。領地の経営というものは、ただ一か所を治めるだけでもなかなかに面倒でな、飛び地となってまで穀倉地を得たいとは思わんだろうな」
カルヴァイン領は、リーゼンブルグの鉱物資源の殆どを賄うほどに、豊かな鉱山が集まっていて、領主としての収入は、穀倉地よりも高いそうです。
「ここは一つ、魔王殿に探っていただくとするかな?」
「僕がですか?」
「魔王殿は、何処にでも出入りは自由と聞いた。ベルンスト様達が亡くなったという知らせを受けて、アーブルがどのような反応を示すか探ってもらえるか?」
「分かりました。バステン、アーブル・カルヴァインを探ってもらえるかな?」
『了解です、先に行って探りを掛けています』
「眷属を向かわせましたので、動きが有り次第連絡します」
ゼファロスは、大きくうなずいた後で、話の矛先をカミラへと向けました。
「さてカミラ様、アルフォンス様には何とお伝えするつもりですかな?」
「極大発生の対策には、元第二王子派で対処する事にして、兄には砂漠化の対策を進めていただくように進言するつもりだ」
「アルフォンス様が、カミラ様の進言を取り入れるとお考えですか?」
「ふん……それは、トービル次第だろう」
「でしょうな……」
カミラもゼファロスも、アルフォンス自身の考えよりも、参謀役であるトービルの動向を考えているようです。
「あのトービルという男は、宰相としてリーゼンブルグを牛耳りたいのでしょうか?」
「ほほう、魔王殿はトービルまで御存知か。おっしゃる通り、アルフォンス様を王位に就け、自分が宰相として国を裏から操るのが、あの男の望みであろうな」
「と言うことは、カミラが王を目指すとなると、当然邪魔をしてくるはずですよね?」
「そうであろうな。単純に王の資質を較べるならば、どなたが優れているかなど論ずる必要もないからな」
「どう動くと思われますか?」
「さて、今頃、第一王子派は兵力を集結させている頃だろう。兵は集まったが、肝心の討つべき相手が居なくなった。集まった兵を解散させるか、それとも予定通りに進めてくるか、はたまた砂漠化の対策に充てるか……トービルが画策しても、アルフォンス様が決断できるのか、派閥の連中を説得できるのか……こちらも先方の動き次第であろうな」
アーブル・カルヴァインの場合、決断するのは本人ですが、トービルの場合はアルフォンスを説得し、更には派閥の貴族の意見も集約しなければなりません。
例えるのなら、関ヶ原の戦いの石田三成みたいな感じなんでしょうね。
「フレッド、第一王子派の動きを探って、コボルト隊を連れて行って、バルシャニアが侵攻してこないかも見張らせておいて」
『了解……お任せを……』
「ふむ……ラストックに居ながら、アルフォンス様やアーブル、いやバルシャニアの動きまでを監視するとは、やはり魔王と呼ぶのが相応しいようだな」
「まぁ、それでリーゼンブルグが平和に収まるならば、魔王の名前を利用してもらって構いませんよ」
「それは、後々のリーゼンブルグにとって、高く付くのではないのかね?」
「高く付くも何も、リーゼンブルグには賠償金を支払ってもらわないといけませんからね」
「賠償金だと? それは、どういう意味だ?」
「そうですね、僕が召喚されて来た事は話しましたが、その時に、僕の居た世界で何が起こったのかは話していませんでしたね」
グライスナー侯爵に、召喚によって校舎が崩壊し、48名の命が失われた事、こちらに来てから船山が死亡した事を話しました。
「それでは魔王殿は、賠償金の回収のためにカミラ様に肩入れしているのか?」
「それも理由の一つではありますが、砂漠化の進行を放置して、権力争いを続けている現状が気に入らないのも確かです」
「利害関係は一致しているのだな?」
「僕の望みは、リーゼンブルグの安定です。その為に、誰を王にするのが一番良いのか……」
「敵対する要素は無い訳だな。ところで、その賠償金とは具体的にどの程度の金額になるのだね?」
「そこが問題でして、こちらでの物の価値と、僕の居た世界での物の価値は、必ずしも同じではありませんが、大まかに言って5億ヘルト……こちらではブルグですか」
「5億ブルグだと……」
「ふざけるな! そんな法外な金額が払えるか!」
「よせ、レビッチ!」
「カミラ様、ですが、金額が……」
「良いから座れ……」
ゼファロスでも絶句する金額に、レビッチが立ち上がって抗議の声を上げましたが、カミラに止められて渋々腰を下ろしました。
「さっきも言いましたが、こちらの世界と僕の世界では価値観が違います。それは人の命の値段でも同じでしょう。法外な金額と思うかもしれませんが、対処方法が無い訳ではありません」
「ほほう、その言い方だと魔王殿には何か考えがあるようだな」
「はい、僕らの世界には魔素が存在していません」
「何だと、魔素が存在しないなら魔術が使えないのではないのか?」
「おっしゃる通り、魔術を使える者も居りませんし、魔道具も存在していませんし、魔石も存在しておりません」
「ふむ、存在しない……つまりは希少価値があるということかね?」
「その通りです」
僕らの世界には魔術が無く、その代わりに科学技術が進歩した世界である事や、技術革新のヒントとして未知の理論である魔道具や動力となる魔石の需要が高まっている事などを話しました。
「日用品である魔道具では、賠償金の代わりとするのは難しいですが、魔石や魔道具製作に必要な素材ならば代用となり得るそうです」
「しかし、そのように手の内を明かしても良いのかね?」
「どうしてですか? まだリーゼンブルグは僕らの世界と敵対するのですか?」
「いや、その必要は無いだろう」
「ならば、関係修復の手立てを双方が考えるのは、当然だと思いますが……」
「ふむ、どうもこの魔王殿は、あまり魔王らしくないようだな」
ゼファロスは、ニヤリと口元を緩めると、新しい玩具を見つけた子供のような視線を向けてきました。
おっさんに好かれると後が怖いんで、出来れば好かれるのは綺麗な女性が良いんですけど……。
「では、我々は魔石や素材を準備すればよいのかな?」
「いえ、それも僕が揃えちゃおうかと思ってます」
「どういう意味だね。それでは賠償にならんだろう」
「カミラの手元には、それだけの魔石や素材はありませんし、これから支え合う元第二王子派の貴族から徴収というのも難しいでしょう」
「確かに、極大発生対策に兵を動かせば金が掛かるのに、更に負担となれば不満を覚える者も出て来るであろうな」
「かと言って、賠償を先延ばしにしていたら、僕の国でのリーゼンブルグの印象が更に悪化しかねません」
「だが魔王殿が揃えると言っても……そうか、今回のオークの魔石か」
「はい、それとミノタウロスの角ですね。これらをリーゼンブルグ側が拠出した事にしてもらいます」
「だが、それならば魔王殿が元の世界に、受け取ってきたといって提出すれば済むのではないのかね?」
「いえいえ、どこの世界にも疑り深い人は居るので、映像という形で協力していただきます」
「映像というのは、例の動く絵の事だな。カミラ様だけでなく、私もか?」
困った、迷惑な話だといった風を装いながらも、ゼファロスは映る気満々って感じですけどね。
貴族の重鎮としての顔の裏側、好奇心旺盛な姿が隠しきれていませんね。
この後、ゼファロスも出演しての賠償品の引渡し風景や、カミラの謝罪ビデオを撮影しました。
カミラの謝罪に関しては、ウォルターやレビッチからクレームが付きましたが、カミラ自身が封殺し、頭を深々と下げての謝罪姿を撮影しました。
今回、リーゼンブルグから提供された事にするのは、ミノタウロスの角を20本、オークの魔石を200個です。
これに、カミラの書状を添えて日本政府に提出すれば、賠償金の全額にはとても足りませんが、少しは成果として認められるはずです。
打ち合わせも撮影も終わったので、そろそろヴォルザードに戻るか、捜査本部に顔を出そうかと思っていたら、ゼファロスが唐突な質問をカミラに投げ掛けました。
「ところでカミラ様、王となられる決断をなさりましたが、婿殿はいかがなさるおつもりですかな?」
「婿取りなど、今の時点では考えられぬ。そのような浮ついた気持ちでは王の座には辿り着けぬ」
ゼファロスの質問に、カミラは迷いも見せずに答えました。
「なるほど……カミラ様の場合、ディートヘルム殿下に王位を譲られるという方法もありますので、急ぐ必要はございませんでしょうが、婚儀や出産は女としての幸せでもあります。王の座に就かれた時には考えられても宜しいかと存じますが……」
「私の場合、たとえ王の座に就こうとも、謝罪と賠償を済ませて許しを得ねば、女としての幸せを求める資格など無い」
「ふむ……それは、魔王殿からの御指示ですかな?」
カミラは、僕に視線を向けて少し頬を赤らめた後で、ゼファロスに答えました。
「そうだ。そうでなければ、私の心は魔王様には届かない……」
「よもや、カミラ様が王位を目指すのは、謝罪と賠償を早く済ませ、魔王殿に嫁ぐためではございませぬか?」
「な、何を言う、私が王を目指すのは、リーゼンブルグの安定と発展、全ては民のためだ!」
「左様ですか、これは失礼いたしました」
てか、カミラは思いっきりキョドってるし、ゼファロスはニヤニヤしてるし、ウォルターとレビッチは苦虫を噛み潰したような顔で僕を睨んでるし……僕にどうしろって言うのさ。
この後、ゼファロスからは夕食を共にするように誘われ、その席でも根掘り葉掘り追及されて大変でした。
やっぱり、おっさんに気に入られると疲れますよね。
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