第122話 交渉の行方

 レーゼさんの言いつけに従って、ガン太君がお茶の支度を整えてくれました。

 デカい身体に似合わない繊細な手つきは、ドノバンさんを連想させますね。


 ギルドの重要人物が宿泊する施設とあって、用意されている茶葉も高級品なのでしょう、とても良い香りが部屋中に広がっていきました。

 でも、この香りは以前にも嗅いだ事があるような……もしかしてドノバンさんが厳選しているんでしょうかね。


 その交渉ですが、始める以前にレーゼさんにペースを握られている感じです。

 このまま話を切り出すのは少し不利な気がしたので、本題とは違う話を切り出してみました。


「あのレーゼさん、ちょっとお聞きしたいんですけど……」

「何じゃ? 闇属性魔術の事かぇ?」

「いえ、そうじゃなくて、ルイージャさんとブランについてです」

「ほう、もうブランとも顔合わせをしたのかぇ?」

「はい、昨日の会談の後に……」


 レーゼさんに、ギルドの訓練場で起こった事の成り行きを話すと、お腹を抱えて笑い出しました。


「はははは……愉快、愉快、本にケントは面白いのぉ」

「ちょっと! 何でレーゼ様に話しちゃうのよ!」


 部屋の隅で、ガン太君と一緒に控えていたルイージャは、顔を真っ赤にして怒り出しましたが、その場から近付いて来ようとはしませんでした。


「ルイージャ、ブランを放って置いて良いのかぇ?」

「うぅぅ……も、戻ります。あんた、もう余計な事を話すんじゃないわよ!」


 ルイージャは、プンスカ怒りながらギルドに戻って行きました。


「えっと……ルイージャさんは腕の良いテイマーなんですか?」

「テイマー? くはははは……ケントよ、ルイージャはテイマーなどではないぞぇ」

「えっ? だってギガウルフのブランを飼い馴らしてますよね?」

「ふーむ……飼い馴らす、と言うならば、飼い馴らしておるのかのぉ……今頃はルイージャの姿が見えないと鳴いておるやもしれんのぉ」


 くつくつと笑いながら、レーゼさんはルイージャとブランの秘密を話してくれました。

 秘密と言っても複雑な話ではなく、親とはぐれて弱っていたブランを犬だと思ってルイージャが育てただけなのです。


「言うなれば、ブランは大きな飼い犬のようなものじゃ。それ故に、無闇に人を襲わぬように首輪を付けておる」


 そう言われれば、ブランは首輪をしていましたが、あれはギルドの登録証ではないのでしょうか。


「もしかして、隷属の……」

「そうじゃ、さすがはケントは察しが良いのぉ。隷属の腕輪に手を加えて首輪にして、人を傷付けぬように縛っておる」

「でも、それじゃあブランが危ないんじゃ?」

「ふふふ……テイムされていると思われているギガウルフ、迂闊に手を出す者が居ると思うのかぇ?」

「あぁ……そう言われればそうですね。それに魔物に対しては戦えるんですもんね」

「まぁ、そうなんじゃが、くっくっくっ……ストームキャットに睨まれて洩らすとは、くはははは……」


 笑い続けているレーゼさんの横から、ベアトリーチェが訊ねてきました。


「ケント様、いつの間にストームキャットなんて獰猛な魔物を眷族に加えたのですか?」

「うん、一昨日ラストックで討伐して、その後で眷族にしたばかりだよ」


 委員長とマノンには紹介しましたが、まだベアトリーチェにはネロを紹介していませんでした。


「でも、子供のうちから飼えば、魔物も懐くものなんですね」

「そうじゃのぉ、我も初めて見て、面白いから手元に置くようにしたのじゃ。ただブランも、そこに居るガンターも見た目ばかりでのぉ、オマケにルイージャは世間知らずじゃ。魔物使いなどと持ち上げられて少しばかり図に乗っておるから、広い世間を見せるために連れて来たという訳じゃ」

「それでラウさんが本物の護衛なのも内緒にしているんですか?」

「そうじゃ、その方が面白い事が起こりそうじゃろぅ? くくくく……」


 何だかバッケンハイムからヴォルザードまでの旅路で、レーゼさんの玩具にされていた二人と一匹の姿が目に浮かぶようです。


「さてケントよ、そろそろ本題に入ろうかぇ? 我の伴侶となる気に……なっておらんようじゃな」

「はい、その決心はまだ……ただ、その前に僕らの抱える事情を聞いていただこうかと思いまして、今日はお邪魔しました」

「ふむ……ケント達が抱える事情とな?」

「はい、その話は……」

「私からお話しさせていただきます」


 目線で合図をすると、委員長が話を引き継いでくれました。


「ふむ……そなたは、その髪色や瞳の色からして、ケントと同じ世界の者じゃな?」

「はい、一緒に召喚されて参りました。健人は、魔力判定の結果が良くなかったために追放される形でヴォルザードへと辿り着きましたが、私達は魔力の暴走を抑えるための魔道具だと騙され、隷属の腕輪を嵌められて連行されました」

「何じゃと、騙されて隷属の腕輪を嵌められたのかぇ?」

「はい、私達は、隷属の腕輪のために逆らう事も許されず、ラストックの駐屯地で劣悪な環境の下で厳しい訓練を課せられました」


 委員長は、カミラが我々を兵士として使い潰すために召喚した事、船山が見せしめにされ殺された事、女子にも課せられた厳しい訓練、自分は良い待遇を与えられたが、仲間の怪我を癒しきれずに無力感に苛まれ続けてきた事などを、時折涙で言葉を詰まらせながら話しました。


 そして、ヴォルザードに来て生活の質は向上したものの、街に馴染めず、望郷の念に駆られている女子が居る事を訴えました。


「なんと……そんな事情を抱えておったのか……」


 話を聞き終えたレーゼさんは静かに立ち上がると、涙を拭っている委員長に歩み寄り、そっと抱き締めました。


「辛かったであろう……よう頑張りよったのぉ……」

「はい……はい、ありがとうございます」

「これ、ケント! こんな事情があると、どうして早く言わんのじゃ、このたわけ!」

「ひゃい! ご、ごめんなさい……ノイローゼ気味の女の子が居る事は、昨日の夜に初めて聞いたので……」

「ふん、だからと言って、己の思い人がこんな思いを抱えていた事にも、全く気付いていなかったのじゃろう」

「はい、おっしゃる通りです……」

「ふん……さて、どうしてくれりょか……」


 レーゼさんは、委員長をハグしたままで暫く考えに沈んでいました。

 僕だけでなく、マノンやベアトリーチェも不安そうな表情を浮かべています。


「ふむ……そうじゃな……」


 レーゼさんは、委員長の背中とポンポンと優しく叩いてから席を立ち、元のソファーへと腰を落ち着けました。

 細く長い煙管の先に、短い紙巻の煙草を挿し入れて火を着けると、ゆったりと燻らせてから言葉を紡ぎ始めました。


「こたびの申し出は、一時保留といたそう」

「保留……ですか?」

「そうじゃ保留じゃ、なぁに心配なんぞ要らぬぞぇ、我はケント、お主よりも長く生きるからのぉ……」


 既に二百五十年以上を生きていると言われているレーゼさんですが、病気や事故に遭わずにダークエルフとしての天寿を全うするならば、僕よりも長く生きるはずです。


「ケント、お主が齢を重ね、更に良い男になった頃に、伴侶となるよう頼むとしよう」

「じゃあ、影の空間に生きた人を引き入れる方法を教えてもらえるんですか?」

「うむ、教えてやろう……ただしケント、お主ではなく、そこに控えている三人に伝える」

「えっ、でも三人は闇属性の魔術は使えませんよ」


 僕の言葉を聞いたレーゼさんは、呆れたような表情で大きな溜息をつきました。


「はぁぁ……そんな事は百も承知じゃ。そもそも、その方法は我も使う事が出来ぬのじゃぞ」

「うっ……そうでした、そう言われてましたよね」

「我が教えられるのは、魔術としての理論と実践するための方法じゃ。それを聞いて実行出来るか否かは、ケント次第という訳じゃな」

「なるほど……でも、どうして僕に直接ではないんですか?」

「良い質問じゃ……」


 レーゼさんは、言葉を切ると再び美味そうに煙管を吸い、紫煙を吐き出しながらニヤリと笑みを浮かべました。


「喜べケント、闇属性魔法の方法を伝授するついでに、そこの三人には閨房の秘術の一端を教えてやろう」

「えぇぇ……ちょっと、そんな……」

「慌てるな。女子の扱いが未熟なケントが後々困らぬように、三人に男の身体の知識を教えるだけじゃ」

「で、でも……」


 ベアトリーチェは興味津々……委員長も、顔は赤らめてますけど、やる気充分という感じ……マノンは、うん、グルグルしちゃってますね。


「さて、話は決まった。ケント、お主は邪魔だから自分の仕事でもしておれ」

「いえ、ですが……」

「心配など無用じゃ。Sランクの冒険者を敵に回すような事をするほど、我は愚かではないぞぇ」


 結局追い立てられるようにして、部屋から退去させられてしまいました。

 一体どんな内容が伝授されるのか、もの凄く不安なのです。


 自分の仕事をしていろと言われたのですが、レーゼさんの説得に時間が掛かると思っていたので、今日は他の予定を入れていません。


 委員長達とは、夕方ギルドで待ち合わせる事になっているので、それまで捜査本部へと顔を出して来てしまいましょう。

 影の世界へと潜って、日本へと移動します。


『ケント様、いよいよ他の皆様の帰還が現実味を帯びてきましたな』

「うん、同級生達の帰還が実現出来れば、大きな山を越えた事になるからね」

『さすれば、リーゼンブルグの騒動に注力していただけますな』

「そうだね、民衆そっちのけの下らない王位継承争いなんか、さっさと片付けちゃおう」


 元リーゼンブルグの騎士だったラインハルトにしてみれば、やはり故国の騒動は気に掛かるのでしょうね。

 帰還という大仕事の目途が立ちそうなので、気分良く捜査本部を覗いてみたのですが、怒号が響き渡っていました。


「どこに居る? ここで匿っているんだろう! 国分健人を出せ!」


 大声で叫んでいるのは船山の父親でした。


「ここに写ってるのが国分健人なんだろう? 正面から撮った写真と小学校の卒業アルバムの写真を比較して、ネットで公開してる奴が居るんだ。本人に間違いない! 何処に居る、隠さずに出せ!」


 船山の父親は、手にしていた雑誌を机に叩き付けて須藤さんに向かって喚き散らしています。

 今居る場所からは確認できませんが、雑誌に載っている写真は、おそらくお墓参りに行った時に撮影されたものでしょう。


「船山さん、お気持ちはお察しいたしますが、捜査に関わる事項についてはお答えするわけにはいきません」

「ふざけるな! こいつ、国分健人が手紙を持ち帰ったんだろう? そして、一人だけ戻って来て、どこかに匿われているんだろう! そうなんだろう!」

「例えそうだったとしても、未成年者の個人情報を公開する訳にはいきません」

「なんでだ! どうしてだ! 俺に知られちゃ拙い事でもあるのか? こいつが事件に関わってんじゃないのか? だから出てこられないんだろう」

「繰り返しになりますが、捜査に関わる情報はお教え出来ません」

「うちだけだ、うちだけ手紙が届かない。どうなってる? 殺されたって話まで伝わって来てるのに、警察は何をやってるんだ!」


 船山の父親は、机を殴りつけ、足を踏み鳴らし、顔を真っ赤にしながら喚き続けています。

 お世辞にも上品とは言い難いし、むしろ柄が悪いと思ってしまう行動ですが、自分の家族を気遣う必死さが、間違いなくそこにはありました。


「我々としても、皆さんの居場所の特定、そして帰還が叶うように全力で捜査を……」

「嘘をつくな! この前来た時よりも、全然人の数が減ってるじゃないか! 椅子も、机も、こんなに少なくなってるじゃないか! 何が全力だ!」


 一際大きな声で叫んだ後、船山の父親は不意に動きを止めました。


「船山さん……どうかなされましたか?」

「そうか……そうか……お前ら知ってるんだな……」


 それは、これまでの叫び声とは違い、呟くような言葉でしたが、思い詰めたような響きがありました。

 船山の父親は、肩で息をしながら血走った目を限界まで見開き、須藤さんを睨み付けました。


「お前ら、もう全部知ってやがるんだな……だから人が減ったんだろう。だから机が減ったんだろう……吐け……吐けよ、俺の息子はどうなったんだ!」


 再び船山の父親が叫びながら殴りつけると、机の天板は限界を迎えて圧し折れてしまいました。

 それと同時に、船山の父親もガクガクと痙攣しながら膝を付きました。


「船山さん! しっかりして下さい。おい、救急車だ!」

「あがぁ……りゅ、龍二……りゅ……」


 船山の父親は、泡を吹きながら痙攣していて、見るからに危険な状態です。

 右手で頭を押さえている事からして、本当に脳の血管が切れたのかもしれません。


「国分君!」


 影から飛び出して、須藤さんの驚く声を聞きながら、船山の父親の頭に手を添えて治癒魔術を流しました。

 今出て行ったら拙いとか、考えるよりも先に身体が動いてしまったのです。


 船山の父親を襲っていた痙攣はすぐに治まり、焦点の合っていなかった目も正常に戻りました。

 そして、その目線が僕を捉え、大きく見開かれました。


「手前、国分健人! 今まで何処に隠れていやがった!」

「ぐぅ……息、が……」

「うちの、うちの……息子を……どこに……」


 僕の襟首を掴んで締め上げていた船山の父親は、急にフラフラとしだしたと思ったら、ぐったりと力を抜き、大いびきをかいて眠り込みました。


『ケント様、眠り薬を放り込んでおきましたぞ』

『ありがとう、ラインハルト。助かったよ』

『お安い御用ですな』


 ラインハルトが機転を利かせてくれておかげで助かりました。


「国分君、船山さんはどうされたんだ?」

「はい、たぶん脳内出血か何かだと思いますが、治癒魔術をかけました。今は眠り薬の効果で眠っていますので、このまま病院に運んで一応検査していただいた方が良いと思います」

「治癒魔術、そんな事も出来るのか……分かった、そうしよう。おい、船山さんをそちらに運んで寝かせろ」


 須藤さんの指示を受けて、若手の捜査員が船山の父親をソファーへと運んでいきました。


 床に落ちた雑誌には、墓地の通路から見上げている僕の姿が大きな写真で掲載されています。

 雑誌の写真に見入っていると、不意に肩を掴まれて揺さぶられました。


「貴様のせいだ。貴様がノコノコ墓参りなんかに行くから、こんな騒ぎになるんだろうが!」

「ちょ、何するんです……」

「やめろ! 手を離せ、片山!」


 肩を掴んで揺すぶっているのは、捜査本部に初めて来た時に、僕を押さえ付けたベテランの刑事です。


「しかし、管理官……」

「国分君は被害者だぞ、何をしてる、さっさと手を離せ、馬鹿者!」

「くっ、分かりました……」

「申し訳無い、大丈夫かい国分君」

「痛っ……だ、大丈夫です」


 ゴリラかよと思うような握力で掴まれたので、手形が残っているかもしれません。


「部下が手荒な真似をして、すまなかった。告発するならば私も証言すると約束しよう」

「いえ、そこまでする気は無いです。それよりも、その雑誌……」

「あぁ、今朝発売になったのだが……これを撮影されたのは気付いていたのかね?」

「撮影されたみたい……というのは気付きましたが、取材される前に影移動を使って撒いて来たんですが……」

「そうか……国分君に非がある訳じゃないが、一言伝えておいてほしかったな」

「すみません、色々考えてしまっていたので……」

「そうか、そうだろうな……」


 船山の父親が言っていたように、週刊誌の写真と小学校の卒業アルバムの写真を、パソコン上で比較して同一人物だと断定した画像がネットに出回っているそうです。

 目の距離、鼻の形、前歯の形、耳の形など顔認証に必要なデータを比較しているから間違いないという意見が、ネット上では大勢を占めているらしいです。


「僕が日本に戻って来ているってバレちゃったのは拙いですよね」

「まぁ、歓迎する事態ではないが、政府の方針としてはこれまでと変わらないよ」

「えっ、でも……写真が出回ったら……」

「それでも、我々が確認していないと言ってしまえば、それまでだからね」

「それで大丈夫なんですか?」

「大丈夫も何も、それ以外に方法は無いし、現状マスコミも君の居場所を掴めていないから反論するにも根拠が無い状態だからね。国分君が記者に捕まらなくて助かったよ」


 須藤さんは、落ち着いた様子で話しているのですが、さっきの刑事の行動からしても、あまり大丈夫じゃないのかもしれません。

 それに、船山の父親に僕の姿を見られてしまいました。


「あの……船山の父親に、僕が見られたのは拙かったですよね?」

「うーん……そうだね。でも、短い時間だったし、すぐに昏倒しちゃったからね。雑誌の写真が目に焼き付いていて、それで幻覚を見たんだ……みたいな感じで誤魔化すしかないだろうね」


 言われてみれば、頭の血管障害と思われる状態で倒れ、治療後もすぐに眠り薬で寝入ってしまっているので、口裏を合わせてしまえば、こちらの言い分が通りそうな気もします。

 けど、かなりの力技って感じは拭えないですよねぇ……。


「何か、すみません、僕が思い付きでお墓参りに行ったせいで……」

「何を言っているんだ。国分君が行動を制限される理由なんか何も無いんだよ。むしろ何の気兼ねもせず、自由に行動出来る状況を作ってあげられない私達の方が申し訳無いと思っているよ。すまない、本当に申し訳ないが、他の同級生達が帰還出来るまでは辛抱してもらいたい」

「あっ、その帰還の事なんですが、もしかしたら方法が見付かるかもしれません」

「何だって、それは本当かね?」


 それまで沈痛な空気が漂っていた捜査本部が、一瞬にして色めき立ちました。


「はい、まだ可能性の段階ですが、僕が使っている影の空間の中に、他の人を引き入れる方法を知っている方が居たんです」

「それじゃあ、近いうちに他の人も戻って来られるんだね?」

「いえ、まだ方法を聞き出している段階で、それを僕が実行出来るかどうかも分からないので、すぐにとは行かないと思います」

「こいつ……いい加減な話で期待持たせやがって……」

「やめろ片山! それが事件解決のための協力を求める者の態度か! いい加減にしろ!」


 また暴力刑事が掴み掛かってこようとしたのを、須藤さんが大声で叱責しました。


「須藤さん、救急隊が来ました!」

「分かった。国分君、救急隊員に見られるのも拙いから、今日は戻ってくれたまえ」

「はい、明日には新しい情報も届けられると思います」


 ストレッチャーが、廊下を進んで来る音に追われるように影に潜りました。


『大丈夫ですか、ケント様』

『うん、自己治癒を流さなくても問題無い程度だから大丈夫』

『まったく無礼な男ですな。今度このような振る舞いをしたら、腕の一本も圧し折ってやりますぞ』

『そこまではやらないで良いよ。僕が治療しなきゃいけなくなるからね』

『なるほど、それはいかんですな』


 ヴォルザードに戻ろうかと思いましたが、ちょっと警察署の表を覗いて行く事にしました。

 玄関前に停められた救急車の回りには、カメラを構えた報道陣が、二重、三重に取り囲んでいて、何だか殺気立った空気に包まれていました。


「救急隊のストレッチャーが戻って来ました」

「はい、下がって、もっと下がって!」

「乗せられているのは成人男性のようです」

「あれは、船山氏じゃないのか?」

「回せ、早く中継繋げ!」

「国分は? 居ないの?」


 どうやら、この殺伐とした空気も週刊誌の僕の写真が引き金になっているようです。


『ケント様、こやつらはケント様を付け狙っておるのですか?』

『そうだけど、手出ししちゃ駄目だからね』

『このままで宜しいのですか?』

『うーん……僕は影に潜っちゃえば問題無いんだけどね……』


 レーゼさんから、闇属性魔術の情報を教えてもらって、同級生達の日本への帰還が叶っても、とても平穏な生活に戻れるとは思えませんね。

 折角大きな課題が片付くかもしれないのに、また新たな問題が持ち上がった感じです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る