第113話 風に乗る猫
異世界のお約束、ギルドの綺麗なお姉さんとのイベントが、どうやら僕には発生しそうもない事が判明し、失意のうちにギルドを出ると、通りを歩いて来るマノンの姿が目に入りました。
マノンも僕を見つけたようで、嬉しそうな笑顔を浮かべて駆け寄って来ました。
もしマノンに尻尾が生えてたら、ブンブンと振り回していそうな感じです。
「ケント、ギルドの用事は終わったの?」
「うん、マノンは仕事に行ったんじゃなかったの?」
「ううん、僕はみんなを案内し終えて、これから診療所に行くところ」
「あれ? 診療所は一日おきじゃなかったっけ?」
「うん、そうだったんだけど、暫くは治癒魔術の方に専念してみようかと思ってるんだ」
「そうなんだ、じゃあ途中まで一緒に行こうか?」
「ケントは何処に行くの?」
「マルセルさんの店が、どのぐらい出来てるのか見に行こうかと思って」
「そうなんだ、じゃあ一緒に行こう」
マノンは、もう当たり前といった感じで、僕の左腕に手を絡めて来ます。
ヴォルザードの目抜き通りでは、多くの商店が開店の時刻を迎え、店先では慌しく人々が働いていました。
そんな中をマノンと腕を組んでノンビリと歩いていると、平日に学校をサボってデートしているみたいに思えてきます。
うん、僕リア充しちゃってま――す!
「ギルドには、同級生の面倒を見に行ったの?」
「ううん、指名依頼に関連して、討伐した魔物を買い取ってもらいに行ってきたんだ」
「えっ、ケント、指名依頼を受けたの?」
「うん、そっちは昨日片付けたけどね」
「でも、指名依頼って、難易度が高いから指名依頼になるんだよね?」
「でも僕の場合は、眷属のみんなが働いてくれるからね」
実際、今回の依頼では、闇の盾を出してホールを閉鎖していただけで、僕はダンジョン観光に行ったみたいなものです。
指名依頼の内容を話すと、マノンはちょっと口を尖らせて拗ねてみせました。
「いいなぁ……ダンジョン。僕も行ってみたいなぁ……」
「うーん……何も異常が無い時で、浅い階層なら大丈夫かなぁ……やっぱり、ダンジョンには行ってみたい?」
「うん、お父さんが活躍していた所だからね。やっぱり一度は潜ってみたいよ」
「今はちょっと色々ゴタゴタしているけど、落ち着いたら一度一緒に行ってみようか?」
「ホント! ホントに連れて行ってくれるの?」
「うん、まだ先の話になるとは思うけど、約束するよ」
「やった! ケント大好き!」
むふーっ、頬にチュってされちゃいました。
街のあちこちから生暖かい視線とか、恨みがましい視線が感じられますけど、気にしない、気にしない。
何だか注目されるのにも慣れてきた感じです。
再建中のマルセルさんの店は、ギルドから守備隊の宿舎へ向かう途中にあります。
マルセルさんには、折を見て鷹山に謝罪の機会を与えて欲しいと頼んでありますが、どうせならば、新しい店が出来上がった後の方が気持ちもスッキリすると思い、再建の具合を確かめようと思っていたのです。
マルセルさんの臨時の仕事場にはお邪魔しましたが、店の方には再建が始まった後には一度立ち寄っただけで、その後どうなっているのか全く見ていません。
工事を担当しているハーマンさんの所には、良い職人さんが揃っているらしく、一度立ち寄った時には、既に骨組みが建ち上がっていて驚かされました。
そして、今回足を運んでみて、また驚かされてしまいました。
店の再建が始まってから、二十日ほどしか経っていないのですが、表通りから見た店の外観は既に工事が終わっているように見えます。
店の外壁は、周囲の店との調和も考えてか、落ち着いたベージュで塗られていて、柱やドア、庇などはアクセントとしてグリーンに塗られています。
ドアの上には看板のための金具も取り付けられていますが、まだ看板は掲げられていません。
どうやら、今は内装の工事が続いているらしく、開け放たれたドアの向こうからは工事の音が聞えてきました。
開け放たれた入口から中を覗くと、マルセルさんとハーマンさんが何やら打ち合わせをしているようでした。
「おはようございます、マルセルさん、ハーマンさん」
「おぉ! ケントじゃないか、ほう、朝っぱらから見せ付けてくれるなぁ……」
「おはよう、その子がケントの恋人かい?」
「はい、僕の恋人のマノンです」
「マ、マノンです、はじめまして……」
恋人と紹介したからか、マノンは頬を赤らめて、ギュっと僕の腕を握る手に力を加えてきました。
「ケント、そうじゃねぇだろう……僕の恋人の一人……だろ?」
「はい、まぁ、正確にはそうですね」
「ん? どういう意味だ、マルセル」
マルセルさんには、先日の夕食会の時に紹介していますが、ハーマンさんには僕に三人の恋人が居ることは話していません。
「ケントには、あと二人可愛い恋人が居るんだよ」
「ほぉぉ……こいつはお見逸れした。ケントがそれほどとは思わなかったぞ」
「一人はベアトリーチェちゃんだぞ」
「なにぃ! ケント、お前大丈夫なのか? クラウスさんは、ほら……」
「あぁ、やっぱりクラウスさんの親バカぶりは有名なんですね。はい、色々と可愛がってもらってます」
「ほぉ、あのクラウスさんが認めるとは……大したもんだ」
クラウスさんの親バカは有名みたいで、ハーマンさんは感心した様子で頷いています。
「そんなの当たり前だぞハーマン、この前、呼ばれた食事会の最中に、ひょいっと抜け出して行ったかと思えば、ミノタウロスを仕留めて戻って来たんだぜ」
「はぁ? 食事会を抜け出したは分かるが、ミノタウロスなんて、一体どこで仕留めたって言うんだ?」
ミノタウロスを聞いて、ハーマンさんだけでなく職人さんまで手を止めてしまいました。
「あぁ、大丈夫です。ミノタウロスが向かっていたのはヴォルザードじゃなくて、ラストックですから」
「はぁ? ラストックって……魔の森の向こうじゃないか」
「はい、僕、影に潜って移動が出来るんですよ」
闇属性の魔法の事や、眷属のみんなの活躍を話して、実際にミノタウロスの角を出して見せると、ハーマンさんや職人さんは驚きながらも納得してくれたようです。
いつまでも僕の話をしていると、作業が中断したままになりそうなので、話題をお店の事に切り替える事にしました。
「それにしても、もうこんなに出来上がってるんですね」
「どうだ、早いだろう。もう建物の外側は看板を取り付けるだけで、後は内装工事を残すだけだ」
「おいおいマルセル、工事が早い事は俺に自慢させろよ」
「しょうがねぇな……今日だけだぞ」
「いや、何でだよ。それなら俺が靴の出来栄えを自慢するぞ」
「だははは、そいつは駄目だな。どの靴も俺様が手塩に掛けて仕上げた逸品揃いだからな」
店の再建が順調に進んでいるとあって、マルセルさんは上機嫌に見えます。
「お店の再開は、いつ頃になりそうですか?」
「ハーマンが頑張ってくれているし、商品の製作も順調だから、来月の上旬には再開出来ると思うぞ」
「年越し前の書き入れ時に、店を開けられないんじゃマルセルも張り合いが無いだろうからな」
「年末や新年は、やっぱり賑やかに祝うものなんですか?」
「おう、そうかケントはヴォルザードでの年越しは初めてになるんだったな……」
マルセルさん達の話では、こちらの世界では一年の始まりが全ての始まりになるそうで、日本で言うところの年度末も年末と同時なのだそうです。
学校は十二月の二周目で終業式と卒業式が行われ、新学年は新年の第三週からで、一月の冬休みがあるそうです。
一般の仕事は十二月の最終日までで、十二月と一月の間にある二日間の年越しの日と、新年の第一週の合計十日間が休日となるそうです。
日本のように元日早々から多くの店が営業するなんて事はなく、十日間の休日は守備隊の当番を除いて街全体が休日モードになるようです。
休日の間は、家族や仲の良い友人達が集まって、のんびりと過ごすのだそうです。
「でも、十日も店が休みだと食事とかが大変じゃないですか?」
「だから年末は書き入れ時になるんだよ。食料とか、新年の衣装とか、みんな一度に買い込むからね」
どうやら年末のバーゲンはヴォルザードにもあるようで、マノンも今から心待ちにしているようです。
うん、年末は男の甲斐性の見せ時って感じですね。
三人に新年用のドレスとか宝飾品をプレゼントとかしちゃいましょうかね。
となれば、フラヴィアさんのお店で露出度高めのドレスを選んじゃいましょうか。
「ケント……何かエッチな事を考えてない?」
「えっ、と、と、とんでもない。新年を迎えるのに、不純な事とか考えないよ」
「ホントかなぁ……」
「ホ、ホント、ホント、ホントだって……」
危ない危ない、何でバレそうになってるんでしょうね。
年越しの休日について、不純な想像を巡らせていたら、ハルトがヒョコっと顔を出しました。
「わふぅ、ご主人様、ラストックに大きな猫が来た!」
「大きな猫? 魔物なのかな?」
「うん、風に乗って……すんごく速いよ」
「風に乗って……?」
『ケント様、恐らくストームキャットですぞ。加勢に行かねば大きな被害が出ますぞ』
「分かった、すぐ行くよ。皆さん、すみません、ラストックが危ないみたいなんで、ちょっと行って来ます。ハルト、カミラに知らせて!」
「わふぅ、分かりました、ご主人様!」
ストームキャットがどんな魔物なのかは分かりませんが、ラインハルトの慌てた感じからして、かなり危険な魔物のような気がします。
マルセルさん達に断りを入れて、急いで影に潜りました。
「ラインハルト、ストームキャットってどんな魔物なの?」
『大きさはギガウルフより一回りほど小さいですが、風属性の魔法を使います』
「えっ、魔物が魔法を使うの?」
『ケント様、サラマンダーが吐く炎弾を何だと思ってらっしゃるのですかな?』
「そうか……サラマンダーは火属性の魔法を使ってるんだね」
詠唱無しで魔法を使うのは、自分だけだと思い込んでいましたが、魔物は本能的に魔法を使っているようです。
て事は、僕は魔物に近い存在なのかな……ますます魔王っぽく感じてしまいますね。
『魔物は、種別によって特定の属性魔法を使います。サラマンダーなら火属性、リザードマンなら水、コボルトは土といった感じです』
「あれ? ザーエ達やマルト達も魔法を使えるの?」
「王よ、我等は王の眷属となった時に本来の水属性の魔法は失いました。ですが、水の中が得意なのは変わりません」
どうやら、眷属にした時点で本来の属性は失われて闇属性へと変化しているようです。
「なるほどね……それで、ストームキャットは風属性ってことなんだね?」
『さよう、奴は風に乗って走り、ツメに風の刃を乗せて飛ばして来たりします。動きが速く、空中ですら方向を変えて進むので、厄介この上ない魔物ですぞ』
「ギガウルフよりも危険なのかな?」
『いかにも、何より風に乗って走るので、川を飛び越えて来る恐れがあります』
「リーゼンブルグの騎士は討伐出来るかな?」
『罠に掛けて、不意打ち気味に一斉攻撃をすれば倒せるかもしれませんが、まず無理でしょうな』
「よし、急ごう」
ラストックでは警報の鐘が打ち鳴らされて、騒然とした雰囲気になっていました。
騎士達が街へと駆け出して行き、大声で駐屯地への避難を呼びかけています。
「急げ! 魔物が来るぞ、駐屯地へ向かえ!」
「荷物は最小限にして、急いで避難を進めろ!」
駐屯地の城壁はまだ硬化の作業が完了していないらしく、堀にも水は流されていません。
ラインハルト達が設置した大きな跳ね橋が架けられていますが、それも住民の避難が終わらなければ跳ね上げる事は出来ません。
そして、住民の避難は、思ったように進んでいないようです。
前回、ミノタウロスに襲撃された時も、結局は夜のうちに僕の眷属達が活躍して、ラストックの街には何の被害も出ていません。
被害が無かった事は良かったのですが、その為に住民の危機感が高まっていないようなのです。
「わふぅ、ご主人様、猫が南の方で川を飛び越えたよ」
「えぇぇ、あと街までどのぐらいの距離?」
「もうすぐ到着しそう……」
「ザーエ! 街の外で迎え撃って!」
「心得ましたぞ、王よ!」
ストームキャットは、僕が想像しているよりも、ずっと速いペースでラストックへ迫っていたようです。
街の南側、種蒔きが終わった麦畑が広がる場所でザーエ達と待ち構えていると、黒い点が凄い勢いで迫ってきます。
大きい猫なんて、とんでもない、黒豹を巨大化させて凶悪にした姿は猛獣どころか怪獣って言っても良いぐらいです。
ザーエ達が一斉にククリナイフを抜き放つと、ストームキャットは更に加速して距離を詰めてきました。
「速い……みんな、気を付けて!」
ザーエ達が踏み込んで行った瞬間、ストームキャットは大地を蹴って跳び上がりました。
そして、空中で捻りを加えて背中を此方に向けながら、ギラリと僕らを睨み、右の前脚を大きく振るってきます。
背中が総毛立つほどの寒気を覚え、反射的に闇の盾を大きく展開すると、盾から外れた地面がザックリと切り裂かれて土煙が上がりました。
ラインハルトに風属性の魔法を使うと聞いていなければ、肉片にされていたところです。
「ずりゃぁぁぁぁ!」
ラインハルトが気合いと共に愛剣グラムを振りぬきましたが、ストームキャットは見えない斬撃すらも空中を蹴って避けて、そのまま一気に街に向かって走り去りました。
「速すぎる……街に戻るよ!」
先回りしようと影に潜って移動しましたが、ストームキャットは僕らを上回る速度でラストックの街に走りこんでいました。
「この魔物風情が……」
避難する住民の前で、剣を構えて騎士が立ち塞がりましたが、ストームキャットと擦れ違ったと思った瞬間、上半身が消失して血飛沫が撒き散らされました。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「逃げろ! 食われるぞ!」
「駐屯地だ、駐屯地に逃げ込め!」
頼みの綱の騎士が、あっさりと食われたのを見て、住民達は雪崩を打って駐屯地へ走り始めました。
通りを走り抜けながら、更に住民一人を食い千切ったストームキャットは、街の端まで行くとループコースターのように宙を蹴って方向転換すると、再び避難する住民の列に襲い掛って来ました。
『ケント様、ワシが……』
「僕がやる!」
ストームキャットが牙を剥き、住民に襲い掛った瞬間を狙い、闇の盾を展開します。
ドガーンと鈍い大きな音がして、盾に衝突したストームキャットが通りに倒れ込みました。
僕も影から通りへと出て、ストームキャットと対峙します。
「グワァァァァァ……」
頭を振って起き上がり怒りの咆哮を上げたストームキャットに、光属性の攻撃魔法を撃ち込みました。
いくらストームキャットが速くても、光の速さには敵いません。
眉間に光属性の攻撃魔法を食らったストームキャットは、ビクリと身体を震わせて動きを止めました。
一発だけでは不安なので、立て続けに七発の魔法を撃ち込むと、グラリとストームキャットの身体が傾いて崩れ落ち、どうやら息絶えたようです。
『御見事! さすがはケント様、素晴らしい腕前ですぞ』
「でも、今回は犠牲者を出しちゃったから、あんまり喜べないよ」
念の為、ザーエ達にストームキャットを取り囲んで確かめさせましたが、完全に死んでいるようで、ピクリとも動きません。
ラストックの住民は、何が起こったのか分からないみたいで、離れた場所から恐る恐る僕らの方を見守っています。
「おい、どうなったんだ……」
「分かんねぇけど、魔物は倒れたままだぜ」
「あれって、駐屯地の工事現場にいたスケルトンじゃねぇのか?」
「あの子供、どこから出て来たんだ?」
「おい、カミラ様だ……」
ストームキャットの死骸をどうしようかと考えていたら、住民の押し退けるようにして騎士達がカミラを先導して進んで来ました。
「魔王様、ストームキャットは?」
「倒したけど、二人ほどやられちゃったよ」
「これは……死んでいるのですね?」
「うん、ザーエ達に確かめさせたけど、もう死んでる」
さすがのカミラも、ストームキャットの巨体を見て、ゴクリと唾を飲み込んでいます。
「魔王様、これは魔王様が倒されたのですか?」
「うん、僕が倒した」
「お一人で……ですか?」
「うん、ラインハルト達だと警戒して避けられそうなんで、今回は僕がやった」
「何を馬鹿な事を、貴様のような子供に……うっ」
カミラを先導してきた騎士が、僕を罵倒し始めた途端、ストームキャットを囲んでいたザーエ達が僕の後ろへと移動して来ました。
「貴様ごとき弱者が、我が王を愚弄する事は許さぬぞ」
「なっ、リ、リザードマンが喋った……」
「下がっていろ、馬鹿者め。魔王様、部下が失礼いたしました、どうかお許しを……」
カミラは膝を折って、僕に頭を下げました。
ザーエ達に睨み付けられ、騎士達も渋々といった様子で膝を屈しています。
それを見た住民の間には、呻き声のようなざわめきが広がっていきました。
「おい……あれが魔王なのか?」
「カミラ様が従えたんじゃなかったのか?」
「ヤバいんじゃないのか、おい、膝付け、頭下げろ!」
遠巻きにして見ていた住民達も、膝を付いて頭を下げ始めました。
うん、こうなると、もう完全に魔王だね。
「今回は、この程度で済んだけど、こんなのが何頭も来るようだと、流石に僕の手にも余るからね。魔物の種類によって避難の方法も変えた方が良いかもよ。今回みたいなケースでは、建物に籠もっていた方が被害は少なくて済むんじゃない?」
「はい、すぐにゲルト達に検討させます」
「ストームキャットのお腹の中の遺体は、どうする?」
「出来れば、遺族に引き渡したいと思います」
「分かった。じゃあ、駐屯地の中で取り出すから、先に行って準備しておいて」
「畏まりました。おい、戻るぞ。路上の遺体も回収して、身元が分かり次第、家族に知らせろ」
闇の盾を大きく出して、ザーエ達にストームキャットを運んでもらうと、ラストックの住民からは驚きの声が上がりました。
「なんだあれ……おい、消えるぞ……」
「あれ、何処に行っちまうんだ?」
「スケルトンに……あの子供まで……」
影の空間で待機していると、カミラが指示を出し、駐屯地の倉庫の脇に幕を張り巡らせて、避難してきた住民の目を遮る準備を整えました。
準備が終わったのを見届けて、影の空間から出ると、カミラや騎士達は揃って膝を付いて僕らを出迎えました。
幕で囲った場所には、大きな布が広げられています。
「えっと……この上に安置すれば良いのかな?」
「はい、そちらにお願いいたします」
「じゃあ、ラインハルト、ストームキャットの胃袋に影の空間を繋げるから……お願いしても良いかな?」
『お任せ下さい、ケント様』
こちらの世界に来てから、二ヶ月以上経っていますが、これまで肉片は目にしましたが、魔物の犠牲になった方の遺体を目にするのは初めてです。
とても僕自身の手で扱うなんて無理です。
ラインハルトに運ばれた遺体の青白い腕が見えた瞬間に、思わず目を逸らしてしまいました。
その後は、ラインハルトに念話で話し掛けられるまで、ずっと黙祷を続けました。
『ケント様、終わりましたぞ』
「ありがとう、ラインハルト。ザーエ達にストームキャットの死体を運んでもらって」
『心得ました』
運び出された遺体を視界に入れないようにして、カミラの方へ向き直ると、騎士の中には涙を流している者も居ます。
船山はゴブリンの餌にしたのに、随分と勝手なものだと思いましたが、カミラに丁重に葬るように言いつけて、ラストックを後にしました。
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