第106話 なりきり魔王

『ぶはははは! ケント様、駐屯地を砦とする工事、ほぼ完了いたしましたぞ! 我らが本気を出せば、こんなものです、ぶははは、ぶははははは!』

『うーん……もう終わったの……?』

『ほぼ完成いたしましたぞ、後は土属性の魔道士がガッチリと硬化させて、堀に水を通せば完成ですぞ』

『うーん……分かった、後でちゃんと見に行くからね』

『分かりましたぞ。我々は、カミラと相談の上で、護岸の強化を拡張していく事になりましたので、引き続き工事に取り掛かります。何かありましたら、何時でもお呼びくだされ』

『んー……分かった……』

『では、工事に戻りますぞ、ぶははは、ぶははははは!』


 うーん……半分ぐらい話が理解出来てないけど、ただ一つ確実に言えるのは、今はまだ夜明け前の時間だって事。

 あのハイテンション・スケルトンを何とかしないと、僕の安眠が危機的状況です。

 って……あぁぁ、今日はメイサちゃんの涎攻撃もですか……とほほ……


 眠たい目を擦りながら朝食の席について、ラインハルトとメイサちゃんの話をすると、アマンダさんとメリーヌさんに爆笑されちゃいました。

 てか、アマンダさん、半分は貴女の娘の話ですからね。


「あははは……ごめん、ごめん、悪かったよ。ケントの寝巻きはメイサに洗濯させるから、後で出しておいておくれ」

「はい、じゃあ、お願いするねメイサちゃん」

「うーっ……分かった……」


 耳まで真っ赤になったメイサちゃんは、口を尖らせて渋々といった様子で洗濯を引き受けてくれました。

 てか、メイサちゃんは、マルト達をモフりたいんだよね? 何で僕を枕にするのかなぁ……。


 朝食の後は、ラインハルトの催促が来る前にラストックへ視察に向かう事にしました。

 川の対岸から駐屯地を眺めてみたのですが、要塞ですよ、要塞。


 ラストックの城壁並みの高さの壁が聳え立ち、そこに梯子やらロープに吊り下がったりしながら、土属性の魔術士達が懸命に硬化の魔法を掛けているようです。

 あの壁を作るだけの土を掘ったってことは、堀の深さは同じぐらい深いって事ですよね。


 土属性の魔術士さん達が倒れないと良いのですが……そう言えば、護岸の強化も拡張するとか言ってたような……いや、マジで倒れないで下さいね。


『いかがですか、ケント様』

「あーっ……うん、何か凄過ぎて言葉にならないよ」

『ぶははは、それは光栄ですぞ、ぶはははは!』

「でもさ、これだけ大々的に工事をしちゃったって事は、街の人達にも眷属のみんなの姿を見られちゃったって事だよね。大丈夫なの?」

『それなのですが、騎士の中の一人、あの悪知恵の働くパウルとか言う者が、この者共はカミラ様が従えた魔王の軍勢だ……などと申しておりました』

「あぁ、なるほどね。カミラの手下だって言っておけば民衆も安心するし、騎士の誇りも保たれるって事だね」

『よろしいので?』

「別にいいんじゃない。僕は名誉とか興味ないし、カミラが権力の基盤を固めて、ついでに財産も手に入れて賠償金を払ってくれるなら、その方が助かるからね」

『まったく……ケント様は、本当に欲の無いお方ですな』


 ラインハルトにしてみたら、僕のこうした所は物足りないのか、やれやれといった表情を浮かべています。


「ところでラインハルト、王子達の動きは聞いてる?」

『昨夜のうちにバステンから報告を受けておりますぞ』

「バステンの見込みだと、カバサ峠が決戦場みたいだけど、ラインハルトはどう見る?」

『ワシもバステンと同意見ですな。戦力的に劣る第二王子派にしてみれば、大軍が展開できる平野での決戦は望まないはずです。グライスナー侯爵領のバマタからの距離を考えても第二王子派が陣取るのはカバサ峠になるはずですぞ』

「でもさ、それは当然第一王子派も分かってる事だよね?」

『そうですな。普通に考えれば、当然わきまえているでしょうな』

「待ち構えているって分かっている場所に突っ込んで行くなんて、わざわざ損害を受けに行くようなものじゃないの?」

『真正面から突っ込んでいけば、当然大きな損害を被る事になるでしょうから、第一王子派は何らかの手を考えてくるでしょうな』

「それは、どんな方法なのかな?」

『そこまでは、今の時点では分かりかねますな』


 正面から数で押し切る方法、夜襲や騙まし討ち等、考えようと思えばいくらでも作戦は考えられるそうです。


『いずれにしても、このラストックからは離れた場所での戦ではありませぬし、カミラは第一王子派という事になっておりますからな。当然、こちらにも何らかの影響が出るはずです』

「そうだよね。第二王子派にしてみれば挟み撃ちにされると思っているんだろうしね」

『さようですが、ラストックの戦力に関しては、注意しておく程度になるでしょうな』

「それは、どうして?」

『数の問題です。バステンの見立てでは、劣っているとは言えども第二王子派の戦力は二万人に迫るそうです。奇襲の警戒はするでしょうが、正面から戦いを挑んでくるとは思われていないでしょう』

「えっ、ちょっと待って、今、二万人って言ったの?」

『さようですが、いかがいたしました?』


 戦いになると言っても、多くても千人程度の規模だと思っていたので、桁違いの数に驚いてしまいました。


「そんなに人数が居るの?」

『バステンの見立てですから、大きく違わないと思いますぞ』

「二万人……って、じゃあ第一王子派は?」

『あちらは三万人を超える数になるはずです』

「三万人……それだけの人数が居るのに、両方ともラストックに応援を送って来ないの?」

『そういう事ですな……ワシ等としても理解に苦しみますが、もはや王位の事しか頭に無いのかもしれませぬ』


 二万人対三万人、その一割、いや5パーセントでもラストックに応援を送って来ていれば、ミノタウロスの大群を自分達だけで退ける事も出来たかもしれません。


「ホントに、馬鹿じゃないの……」

『ワシも同意見ですが、ケント様、奴らがカバサ峠で衝突すれば、更に拙い事態を招く恐れがありますぞ』

「拙い事態って、ここも第二王子派に襲われるかもしれないって事?」

『いいえ、そうではなく、これからの季節、カバサ峠を越えた風が吹き降ろして来ます。戦があれば当然血が流れ、その臭いが風に乗り……』

「魔物を呼び寄せる」

『そうです。もし両軍が入り乱れた乱戦となり、互いが消耗した所に極大発生による魔物共が押し寄せれば、両軍が壊滅する恐れがあります。今回ぶつかり合おうとしている軍勢は、リーゼンブルグの主力中の主力です。もし壊滅するような事態になれば、残っている戦力は王都を守る近衛騎士団、それに各領地の私兵、そして冒険者だけとなります』

「それって、凄く拙い事態じゃないの?」


 ラインハルトは大きく二度、三度と頷いてみせます。


『今回の事態を、砂漠の向こうの国、バルシャニア帝国が掴んでいれば、一気に砂漠を越えて攻め入って来ないとも限りません』

「それって、下手したらリーゼンブルグが無くなっちゃうって事だよね。拙いでしょ、拙過ぎるでしょう」

『念の為、フレッドをバルシャニアまで走らせています。あいつは生前、バルシャニアにも足を運んでいるので、往来に時間は掛からないはずです』


 馬鹿王子共の王位継承争いだけでも頭が痛いのに、隣国からの侵略にまで頭を悩ませないといけないなんて思ってもいませんでした。


「第一王子とか第二王子は、バルシャニアの事は考えているのかな?」

『さぁ、どうでしょうな。第一王子派の戦力、ドレヴィス公爵領ラウフで行われる兵の陣立てを見れば分かるかと思いますが、今はまだ何とも……』


 第一王子派、つまりリーゼンブルグの西部の戦力を、東に向う分と西への抑えとする分に分けるならば、バルシャニアの侵攻に目を光らせているという証になるそうです。


 もし、全戦力を東に差し向けるように陣立てし、それがバルシャニアに伝わり、バルシャニアが侵攻の準備を整えていたら……考えるだけでも頭が痛くなって来ます。


「よし、噂を撒こう」

『バルシャニアが攻めて来るぞ……という感じですか?』

「うん、そうすれば第一王子派も備えをするんじゃない?」

『残念ながら、それは難しいですな。リーゼンブルグの西部には、昔からそうした流言が度々流れるので、我々が流言を撒いたとしても効果は期待出来ないでしょうな』

「そうなの? それじゃ駄目か……」

『そうした流言の一部は、バルシャニア自身が撒いているという話もございます』

「えっ、なんで? あっ! そうか、噂を撒いておいて攻めないと、みんな噂を信じなくなるから?」

『その通りです。なので、バルシャニアから侵攻については、余程信頼出来る筋からの情報でない限り信用されません』


 話を聞いているだけですが、何だかバルシャニアという国は油断のならない相手のような気がしてきました。


「バルシャニアは、これまでにも度々攻めて来てるのかな?」

『ワシらが生きていた頃には、攻め込んで来た事はありませぬ。その後どうなっているのか分かりませぬが、ワシらが生まれる以前には激しい戦になった事があったそうです』

「頻繁に仕掛けて来ているという訳ではないのかな?」

『さあ、その辺りはカミラに確かめた方が宜しいでしょうな。ただ、バルシャニアは攻めて来るとなれば、必ずや本気で攻め入って来ますぞ』

「それは、何か理由があるの?」

『砂漠です。特に、これからの時期は西風が吹きます。強い西風の時には砂嵐が起こり、視界を妨げます。上手く利用すれば姿を隠して攻め込んで来られますが、逆に逃げる時に遭遇すれば立ちはだかる壁となります』

「要するに、中途半端に攻め込むと、逃げられずに全滅する可能性が高い。だから攻めて来るならば本気で攻めて来るって事かな?」

『その通りです。もし、内戦、極大発生、バルシャニアの侵攻が一度に重なれば、リーゼンブルグが滅びる可能性もありますな』


 第一王子と第二王子の争いが、三万人対二万人。

 バルシャニアが攻めて来るとなれば、そちらも万単位の人数を揃えて来るでしょう。


 いくら僕の眷属が強力だと言っても、正面からぶつかって行ったら、間違いなく大きな損害が出るはずです。

 これまでも、眷属のみんなが頑張ってくれていただけなのに、調子に乗って完全に計算を誤っていました。


 良く考えてみれば、国を二分するような戦いなのですから、万単位の勢力のぶつかり合いになったって不思議でも何でもありません。

 これは根本的な対策をしておかないと、僕らが全滅しちゃうかもしれませんよね。


『いかがいたしました、ケント様』

「いや、眷族のみんなは強力だけど、万単位の軍勢相手では……」

『何の心配もございませんぞ。第一王子派だろうと、第二王子派だろうと、バルシャニアであろうと、蹴散らしてみせましょうぞ』

「いやいや、ラインハルト達は強いけどさ、いくら何でも万単位の軍勢に正面からぶつかって行けば……」

『ならば、正面から当たらなければ良いだけですな』

「えっ……?」

『ケント様、ワシらはケント様の眷属であるおかげで、自由に影の中を移動出来ます。それこそ敵の真後ろや、真下から現れる事だって可能ですぞ。いくら万単位の軍勢であろうとも、味方の中心から敵が現れる事など想定しておりませぬ。暴れるだけ暴れたら、さっさと引いてくれば良いだけです。たとえ何万、何十万の敵が来ようとも怖れる事など微塵もございませんぞ』


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるラインハルトを見て、ようやく思い出しました。

 僕らの最大の強みは神出鬼没に、どこからでも現れ、どこからでも姿を消せる事でした。


「そうか……そうだよね。僕らの強みを生かした戦いをすれば良いんだよね。うんうん……」

『ぶははは、ケント様、何やら思い付いたようですな』

「うん、どんな軍勢が相手でも、蹴散らしてやろう。勿論、僕らは無傷で戦いを終えるからね」

『ぶははは、流石はケント様、魔王の風格が感じられるようになってきましたぞ』

「もうさ、魔王、魔王って呼ばれるならば、徹底的になりきってやるしかないよね」

『ぶははは、ならば、ワシらは魔王様の軍勢として、猛威を振るってやりましょうぞ』


 上機嫌に笑うラインハルトを伴って駐屯地の司令官室へと移動すると、カミラが難しい顔で伝令らしき人からの報告を聞き終えたところでした。


「ご苦労だったな、良くぞ知らせてくれた。下がって休め」

「はっ、ありがとうございます」


 伝令を見送ると、カミラは盛大に溜息をついて頭を抱えました。


「はぁ……この非常時に、何をやっているのだ。本当に国が滅んでしまうぞ……」

「王都からの知らせなのかな?」


 例によって、勝手にソファーで寛ぎながら声を掛けると、カミラは弾かれたように顔を上げました。


「魔王様! はい、たった今、王都からの早馬で、アルフォンス兄、ベルンスト兄、双方が動き出したとの知らせがありました。名目上はラストックへの支援ですが、恐らくは……」

「うん、知ってる。カバサ峠が戦場になりそうだと思ってるけど……」

「なぜそれを……いや、魔王様ならば、ご存知でも不思議ではありませんね」


 カミラは驚きつつも納得したような表情を浮かべると、秘書官にお茶を淹れるように命じ、僕の向かいの席へと腰を下ろしました。


「魔王様のおかげで、ラストックの住民を守る目途が立ちました。本当にありがとうございます」

「何言ってんの? まだ工事は終わってないし、気を抜ける状況じゃないよね?」

「はっ、そうでした。申し訳ございません」

「住民の避難計画は出来たのかな?」

「はい、極大発生が起こった際には、警報の鐘を鳴らし住民に避難を呼び掛け、街の端からは馬車を出す予定となっています」

「避難が難しいお年寄とか、幼い子供が居る家庭とかも、ちゃんとカバーしてある?」

「はい、住民のリストを作り、馬車を運行する者がチェックすると同時に、住民同士の連携も取るようにいたしました」


 ゲルト達に丸投げしましたが、ちゃんと避難仕組みを作り上げたようです。

 昨日指示を出したばかりですから、やっぱり優秀ですよね。


「うん、それでいいよ。後は工事を終らせるだけだね」

「はい、ですが愚兄達の動きが……」

「まだ情報を集めている最中だけど、ディートヘルムも同行してるみたいだよ」

「何ですって! 無理です、弟が従軍など出来るはずがありません。アルフォンス兄は、弟を殺す気ですか」


 ディートヘルムが同行していると聞いて、カミラは思わず腰を浮かせ掛けました。


「んー……良く分からないけど、従軍するだけならば大丈夫だよ。この前、僕が闇の力を注いでおいたからね」

「えっ……そ、そんな、弟まで……」

「服従はさせたけど、眷属にした訳じゃないからね。取りあえず、まだこの世の者だよ」

「はぁぁ……ありがとうございます。それでは、弟の体調は?」

「問題無いけど、ディートヘルムには体調が悪い振りをするように言ってある」

「それは、何か理由があるのでしょうか?」

「うん、ディートヘルムは毒を盛られていたみたいだから……」

「何ですって! 王族に毒を盛るなど……」


 今度こそカミラは、バネ仕掛けの人形のように勢い良く立ち上がりました。


「あぁ……いちいち騒ぐな、座れ」

「はっ、申し訳ございません。ですが……」

「黒幕は探させているけど、どうせ第一王子か第二王子のどちらかでしょ。いずれ潰す相手なのに変わりはないからね」

「魔王様、本当に弟を王になさるおつもりですか?」

「そうだよ、第一王子は、自己中で、優柔不断で神経質そうだし、第二王子、第三王子は論外、そしてカミラ、お前にはいずれ処罰を受けてもらう、となればディートヘルムしか残らないからね」

「あの……シーリアは……」

「王位なんて全く興味無いって言ってたよ。そう言えば、シーリアの母親はどうした?」

「はい、ミノタウロスの続報を知らせる早馬で、一緒に伝言を出しておきました。王都には少数ではありますが、私の手の者がおりますので、こちらに向かわせるように指示しておきました」

「結構、それじゃあ今日の本題に入ろうか」

「はっ、何なりとお申し付け下さい」


 表情を一層引き締めたカミラに、謝罪の話を切り出しました。


「謝罪……でございますか?」

「うん、謝罪。召喚で迷惑を掛けた人、全員対する謝罪ね」

「私にヴォルザードまで出向けという事でございますね。早速、護衛の騎士を選定して……」

「あぁ、違う違う、謝罪はここで撮影するから、移動は考えなくていいよ」

「はぁ……あの、撮影というのは……」

「あーっ……そうか、んー……説明するよりも見せた方が早いよね」


 影収納から僕専用にパクっておいたタブレットを出して、電源を入れました。


「なっ……それは、一体何の魔道具でございますか?」

「これ? これはタブレットって言って、様々な情報処理をする為の道具だよ。魔力じゃなくて電気で動く機械ね」

「それが、魔王様の世界の道具なのですね?」

「うん、そうだよ……じゃあ、ちょっとやってみようか。僕の方を見て、簡単に自己紹介をしてくれるかな?」


 タブレットのカメラを起動して、動画の撮影を始めました。


「えっと……リーゼンブルグ第三王女にして、魔王様の忠実なる僕、カミラ・リーゼンブルグです」

「はい……かなり硬いけど、まぁ試し撮りだからいいや」


 録画を中断して、カミラの方へ画面を見せながら、撮影したばかりの映像を再生しました。


『えっと……リーゼンブルグ第三王女にして、魔王様の忠実なる僕、カミラ・リーゼンブルグです』

「なっ! これは一体……もしや私の魂が封じられ……」

「しないからね。これは、光を信号にして記録する技術だから」

「光を信号……ですか?」

「そう、僕らの目に見える風景は、物に当たった光の反射を目で捉えて見ているんだよ。その目と同じ役割をするカメラが内蔵されていて、撮った映像を記録できるようになってるだけで、魂なんか封じる事は出来ないからね」

「そ、そうなのですか……」


 目を丸くしているカミラの横から、ラインハルトも興味深げに覗きこんでいます。

 もう一度再生すると、二人ともビクっと身体を震わせて驚いていました。


「撮影したデータは、持ち歩くことが出来るから、今みたいな感じで謝罪の様子を撮影してヴォルザードや元の世界である日本に持って行く。なので、リーゼンブルグ第三王女として公式の謝罪を考えておくように」

「はっ、畏まりました」

「あぁ、ちなみに魔王様っていう単語は禁止ね」

「はっ? なぜでございますか」

「うん、撮影する映像は、色々な人が見る事になるから、僕の存在は、あくまでも召喚された者の一人として扱ってもらわないと都合が悪いんだよ」

「ですが、魔王様に対しては……」

「命令だからね。魔王様は禁止。みんなと同列に扱うように」

「はっ、畏まりました……」


 うん、何でそんなに不満そうなのかねぇ……。


「召喚した人は勿論、その家族、召喚によって崩壊した校舎の下敷きになって亡くなった人、怪我をした人、その人達の家族、そして、迷惑を掛けている日本という国の人々に対しても、誠心誠意、心を込めた謝罪をするコメントを考えておいて」

「はい、畏まりました」

「撮影した後で、ヴォルザードに居る仲間にもチェックしてもらって、駄目だったら何度でも撮り直しするからね」

「はっ、仰せのままに……」

「じゃあ、砦の仕上げを急いで……」

「はっ、えっ……あの、魔王様、お帰りになられるのですか?」


 謝罪のコメントを考えるように伝えたので、帰ろうとするとカミラが慌ててて引き止めました。


「うん、用事は済んだから帰るけど……」

「あの、愚兄達は、どうすれば……」

「うん、僕らで蹴散らすから大丈夫」

「ですが、アルフォンス兄の勢力は三万人は超えるでしょうし、ベルンスト兄の勢力も二万人程度は確保するかと……」

「みたいだね。まとめて蹴散らしちゃうよ」

「本当でございますか? あの、ですが皆殺しにされると……」

「あぁ、バルシャニア?」

「はい、リーゼンブルグ国内の兵が居なくなっては、バルシャニア帝国から攻められたら……」

「大丈夫、大丈夫、僕が蹴散らすから心配無いよ。だって……僕、魔王だし」


 呆気に取られるカミラを置き去りにして、ヒラヒラと片手を振りながら影に潜りました。

 本当は、不安が無い訳じゃないけれど、ちょっと格好付けてみました。

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