第105話 動き出した局面
捜査本部からヴォルザードへと戻る途中、バステンが報告に現れました。
『ケント様、王都で動きがございました』
「第一王子派? それとも第二王子派?」
『両方です。先に第一王子が人員をまとめるという名目で、ドレヴィス公爵領に向けて出発。それを知った第二王子も弟の第三王子を連れて、グライスナー侯爵領へと向かいました。それと、第四王子も第一王子が連れて行ったようです』
「ディートヘルムまで? もしかして体調が良くなっているのがバレたのかな?」
『そこまでは分かりませんが、第一王子と共にドレヴィス公爵領のラウフに向かっています』
いよいよ第一王子が決断して、戦力を整えに向かったのでしょう。
「そこは、王都からどのくらいの距離があるの?」
『騎士ならば四日、王族が同行するとなれば早くても七日ほどは掛かると思います』
「えっ、そこからラストックまでは、どのぐらいの距離なの?」
『王都に戻らないウジュレ街道を通って、カバサ峠を越えていく道で王族同行なら八日か九日、タラゴワ街道を戻って王都を抜ける道筋だと十二、三日は掛かるかと思われます』
「えぇぇ……そんなに時間が掛かってたら、本当に極大発生が起こった場合には全然間に合わないじゃん」
良く考えてみれば、こちらの世界での移動手段は馬に頼っていますから、距離が離れれば当然時間も掛かるんですよね。
『第一王子も第二王子も極大発生が実際に起こっても、川を越えて魔物の大群が押し寄せて来るなどとは考えていないのでしょう』
「第二王子派は、どんな感じなの?」
『第二王子は、グライスナー侯爵領のバマタという街に向かいましたが、恐らく軍勢はカバサ峠で待ち構えると思われます』
「そのカバサ峠っていう所には、何かあるの?」
『いえ、特別なものはありませんが、攻め下るのと攻め上るのでは、やはり勢いが付く分だけ攻め下る方が有利です。カバサ峠はウジュレ街道にありますが、タラゴワ街道との分岐までも然程距離が離れていませんので、第一王子がどちらから来ても優位を保てるのです』
なるほど、戦をするにしても地形とか考えないと駄目だもんね。
「そのカバサ峠までは、ラストックからはどのぐらい?」
『はい、カバサ峠まででしたら馬で一日ほどの距離です』
「あれ? ずいぶんとこっち、東寄りの場所だと思うけど、第二王子はもっと手前で迎撃するんじゃないの?」
『その可能性も無い訳ではありませんが、峠の手前は穀倉地帯なので、広い場所での決戦となれば数の多い方が優位に立ちます。数で劣る第二王子派が優位に戦いを進めるのであれば峠を選ぶ可能性が高いかと』
そうでした、兵力では第一王子派、資金力では第二王子派なんですよね。
「分かった、フレッドにラストックの偵察を切り上げて、そっちの偵察に向かうように言って、手分けして状況を探って」
『了解です。連絡用にコボルト隊を何頭かお借りしても宜しいでしょうか?』
「うん、ラインハルトと相談して、ヴォルザード周辺とラストック周辺の監視に穴が出来ないようにしてくれれば、後は融通しあって上手く動いて」
『仰せのままに……』
第一王子、第二王子の両派が動くかもしれないとは思っていましたが、第四王子のディートヘルムまで駆り出されるとは思っていませんでした。
教科書や筆記用具を受け取ってきたから、先生達が授業を行うって言い出すだろうけど、とてもじゃないけど、腰を落ち着けて勉強している暇は無さそうですね。
いやぁ……本当は勉強したいんだけど、状況が状況だけに、僕が動かないとだめですよねぇ……。
てか、教科書とか持ち帰ると、同級生からブーイング食らいそうな気がしますね。
特に、八木とか、八木とか、八木とか……。
ヴォルザードに戻り宿舎に先生を訪ねて、教科書などと一緒に充電器なども手渡して、設置や運用も丸投げしちゃいました。
家族から同級生への手紙も手渡しちゃいます。
とてもじゃないけど、僕が配っている時間はないからね。
先生達は、早速教科書を配って、明後日から授業が出来るように準備を進めるそうです。
いや、そんなに急がなくっても良いんじゃないですかねぇ……。
「国分、お前も出来る限り授業を受けるようにしろよ」
「えっ、僕もですか……?」
「当たり前だ、お前も光が丘中学校の生徒だからな」
加藤先生に、授業を受けるように釘を刺されてしまいました。
「でも先生、僕はヴォルザードに残って生活していくつもりですし、ちょっとリーゼンブルグが厄介な事になりそうなんですけど……」
「そうだとしても、授業を受けられるならば受けておけ。確かに国分の場合は、日本の中学校の授業とかは必要無いのかもしれんが、この先、日本の知識が必要になる事があるかもしれん。その時になって後悔しても遅いんだぞ」
「はぁ……分かりました。何も無い時には、出来るだけ参加するようにします」
正直に言って、あまりピンと来ないのですが、大人の人達が後悔する様子はテレビなどで目にした事があります。
そうならない為には、受けられる授業は受けておいた方が良いのでしょうね。
教科書などは食堂に持ち込んで、食事を終えた者から宿舎に戻る時に受け取る形で配る事になりました。
授業の再開と聞いて、当然のようにブーイングする者も居たのですが、思っていたほど多くはありませんでした。
「国分、何で教科書なんか受け取って来るんだよ」
「煩い、煩い、八木の意見なんか聞いてないからね」
「馬鹿、俺らは授業なんか受けてる暇ねぇよ。生活費の援助は打ち切りなんだろ? だったら自分で稼がなきゃ駄目だろう」
「あっ、そうだった……そうか、それは拙いよね」
クラウスさんから請求されていないので、すっかり忘れていましたが、騒動を起こした男子に対する生活費の負担は打ち切ったんでした。
授業を受けるとなれば、ほぼ一日でしょうし、ヴォルザードの仕事は朝から夕方までのものばかりです。
時給制で雇われるアルバイトみたいな仕事は無いみたいなんですよね。
「分かったよ。生活費の負担はするから授業受けなよ」
「マジ? はぁぁ……やっと城壁工事から解放されんのか、きつかったぁ……」
「へぇ、八木も城壁工事に通い続けてたんだ」
「近藤とか新旧コンビとか、交代で起こしに来やがるし……何か知らねぇけど、鷹山はやたらと張り切ってるし……」
「あぁ……なるほど、やっぱ生活費負担しない方がいいのかなぁ……」
「ちょ、俺の向学心を邪魔するな。俺は授業を受けるぞ」
「はいはい、分かったよ……」
八木と一緒に城壁工事に通っていた連中は、喜んで授業を受けるかと思いきや、迷っている者の方が多いようです。
「近藤はどうすんの? 授業受けるでしょう?」
「正直、どうしようか迷ってる。日本に戻れるならば勉強は絶対に必要だけど、ヴォルザードに残るならば、仕事を優先した方が良い気がするんだよな」
「でも加藤先生は、受けられる時に受けておいた方が後悔しなくて済むって……」
「国分ぐらいに魔法が使えるならば、それでも良いと思うけど、平均的な魔法しか使えない俺達は、勉強していたらヴォルザードの同年代の奴らに置いていかれるんじゃないか?」
確かに、ヴォルザードに元々住んでいる同年代の人達は、毎朝ギルドの掲示板に突撃していたリドネル達のように、もう実際にバリバリ働き始めています。
この先もヴォルザードで暮らしていくとしたら、そうした連中に遅れを取るのではないかと心配するのは当然ですね。
「俺は授業には出ないで城壁工事に通うぞ」
「鷹山は、もう日本に戻らないって決めたの?」
「あぁ、家族への手紙にも、こちらで暮らしていくつもりだって書いた」
「そっか……一応、鷹山の生活費も負担してあげるよ」
「いいのか?」
「まぁ、この宿舎から出て、自立するまでね」
「すまん……感謝する」
うん、やっぱり鷹山は、何か憑き物が落ちたような感じですね。
カミラがシーリアの母親を呼び寄せたら、一緒にヴォルザードに連れて来てしまう算段を立てておきますかね。
鷹山だけでなく女子の一部からも、仕事を優先させたいという声が聞こえてきました。
声を上げた女子の中には委員長の姿もありますし、服屋で働いていた相良さんの姿もありました。
その殆どは、二度目の実戦に参加していたメンバーのようですが、中には救出作戦によって後からヴォルザードに来た女子も何人か居るようです。
「異世界で働く体験なんて、日本に戻ったら絶対に経験出来ないし、お店でも結構頼りにされているんだよね」
僕としても相良さんには授業よりも、ヴォルザードに露出度高めの衣装を広める事に専念してもらいたいですね。
それにSランクに叙任されるみたいですし、いつまでも一張羅というのも拙いでしょうから、またフラヴィアさんのお店に服を買いに行きましょうかね。
鷹山や一部の女子を除くと、授業の再開は当然と受け止められているようです。
特に、最後の救出作戦でヴォルザードに来た男子の殆どは、授業再開に賛成でした。
送還術式が無かったという説明を受け、ギルドに登録した翌日には、殆どの男子も城壁工事やギルドに足を運んだそうですが、想像と現実には大きなギャップがあったそうです。
城壁工事は、言うまでも無く重労働で、多くの者が半日もたずにリタイヤし、一日働き通した者も、翌日には筋肉痛でリタイヤしたそうです。
冒険者っぽい仕事が出来ると思ってギルドに向かった者達は、討伐の仕事なんかFランクでは受けられませんし、薬草採取の仕事を受けようにも知識が無い。
そもそも極大発生の後で街の外に出る事すら出来ない状態で、すごすごと戻って来たそうです。
生活費は稼がなくても大丈夫という思いが、出来る仕事を探そうという気持ちを削いでしまったのかもしれません。
「あんなにキツい仕事なんて思わねぇよ、てか、城壁工事だったら、ラストックの訓練を上手く手抜きしてる方が百倍楽だよ」
「魔法は使えるようになったけど、何か想像してたのと違うんだよなぁ……訓練とか、講習とか、マジだりぃしぃ……」
「これなら日本の生活のが楽だし、帰るんだったら勉強出来ないとマジやばいっしょ」
実際、召喚されてから二ヶ月以上も経っていますし、その間は全く授業をやっていないのですから、結構な遅れになってしまっています。
正直、こちらに来てから毎日バラエティーに富んだ日々を過ごしてきたので、日本に居た頃の授業の内容なんて全然思い出せません。
僕らだから良かったとは言えませんが、召喚されたのが三年生だったら受験に凄い悪影響が出ていたでしょうね。
結局、授業再開に反対していた面々も、一日おきに授業に参加し、仕事をした日は夜に補習を受ける形で落ち着きました。
ただ鷹山は、あくまでも仕事優先で、毎日補習という形にするそうなので、僕も便乗させてもらう事にしました。
「健人も授業を受ければ、一緒に居られる時間が増えるのに……」
委員長に、ちょっと残念そうに言われてしまうと、毎日授業を受けたくなっちゃいますよね。
「ごめんね唯香、今はリーゼンブルグの方がゴタゴタしていて、ちょっと目が離せないんだ」
「リーゼンブルグの方って……召喚の情報とか聞きだして、財宝を持って来ちゃえば、ケントが気にする事じゃないんじゃないの?」
「まぁ、そうなのかもしれないけど、ずっとヴォルザードで暮らしていく事になる訳だし、魔の森を挟んでいるとは言っても、隣の国がゴタゴタしていたら悪影響とか出て来そうだしさ……」
「そうか……こっちは日本みたいな島国じゃないもんね。何かあって大量の難民とか押し寄せて来たら困るよね」
まぁ、今の僕らが、その難民みたいなものなんだけどね。
丁度良い機会なので、カミラの扱いをどうすれば良いのか、委員長に聞いてみる事にしました。
「ねぇ唯香、ちょっと二人で話せるかな?」
「うん、いいよ……じゃあ、こっち……」
委員長に手を引かれて移動した先は、宿舎と宿舎の間の通路で、椅子代わりの木箱と毛布を要求されました。
僕としても、温もりを堪能できるので、委員長と密着できる状況は大歓迎なんですが、カミラの話を切り出すのはちょっと気が引けますね。
二人で一枚の毛布に包まると、委員長は僕の左腕をしっかりと抱え込んで、肩に頭を預けて来ました。
「それで、話ってなぁに?」
「うん、リーゼンブルグの状況について、唯香の意見も聞きたいんだ」
「私の意見? 健人がやりたいようにすれば良いと思うけど……」
「うーん……何て言うのかなぁ、ずっとリーゼンブルグで交渉とかしてると、考えがリーゼンブルグ寄りになっちゃってないかとか不安になるんだよね」
「そっか、それで私の意見って事なんだね」
「うん、とりあえず、リーゼンブルグで起きている事を話すから、率直な感想を聞かせてくれるかな?」
「うん、分かった……」
元々、クラスの委員長を務めていたぐらいですから、委員長は成績も優秀なので、僕よりも的確な意見を言ってくれるでしょう。
リーゼンブルグ西部の砂漠化の現状、現在の王様、四人の王子、カミラの話をして、いずれは第四王子のディートヘルムを王にしようと思っている事も話しました。
勿論、ディートヘルムの桃色思考については、自主規制とさせていただきましたよ。
「うわぁ……そんなに酷い状況だとは思わなかった。でも、その第四王子で大丈夫なの?」
「うーん……体調面は問題無さそうだから、あとはクラウスさんじゃないけど、こっちの都合の良いように動いてもらおうかと……」
「健人が王様になっちゃった方が早い気がするけど、そうなると女の子がいっぱい寄って来そうだから、それは駄目よね」
「うっ……そんな事は考えてないけど、王様とか色々と面倒そうだから、やりたいとは思わないな」
「第一、第二、第三王子は、どうするつもりなの? その……殺すつもり?」
「うーん……それも悩んでるんだよね。クラウスさんに話したら、たぶん容赦なく始末しろって言われそうだけど、人を殺すって簡単じゃないよね」
クラウスさんと話し合った内容も伝えて、その上でやっぱり殺人に対して抵抗感があると言うか、踏み切れそうもない事を話しました。
「それが私達にとっては普通の感覚だと思うよ。みんなはカミラとか騎士とかを皆殺しにしろ……みたいな事を言うけど、実際に自分の手で殺すってなったら、私は出来ないと思う」
「僕の場合、眷属のみんなに一言頼めば、それで済んでしまうかもしれないけど、殺したという結果は僕が背負わないといけないし、そう考えると簡単に命令なんて出来ないよ」
「うん、健人はそれでいいと思う……と言うか、そんな健人が好き……」
「唯香……」
委員長とピッタリと寄り添って感じる柔らかい温もりは、例えようの無い安心感と幸せを感じさせてくれます。
「健人……カミラはどうするつもりなの?」
「それが一番頭の痛い問題なんだよねぇ……ディートヘルムは僕らよりも年下だから、すぐに王位を継ぐのは難しいだろうし、そうなると当面の舵取りをする王族はカミラって事になると思う……けど、同級生のみんなは納得しないんじゃないかな」
「私もね、正直に言ってカミラは大嫌い。あの上から目線の嫌味な言葉を思い出すと、今でも怒りが込み上げてきちゃう。だから健人が殴ったって聞いた時、やったって思っちゃったもん」
委員長の場合、治癒魔法の使い手として直接顔を合わせる機会が多かった分、カミラへの憎しみも大きいのでしょうね。
「でも、今は健人に忠誠を誓っているんだよね?」
「うん、その根底にあるのも、自分の身を心配してじゃなくて、民衆の身を案じてだし、カミラの置かれていた状況を考えると、召喚に頼ったのも仕方無いのかなぁ……とも思っちゃうんだよ。でも、みんなを奴隷扱いしたのは絶対に間違いだったし、船山を死に追いやったのも、遺体をゴブリン共の餌にしたのも許しがたいし……どうしたら良いのか、どうやったら罪滅ぼしになるのか……」
「まずは、カミラが謝罪している様子をビデオで撮影して、みんなに見せてみたら?」
「でも、ただの謝罪じゃ納得しない人の方が多いんじゃない?」
「そうだと思うけど、納得するしないは別にして、まずは謝罪からじゃないかな」
「そうか、それもそうだね……」
みんなが納得する処分ばかりを考えていましたが、納得してもらうにも、まずは謝罪させる方が先でした。
「でもさ、下手な謝罪だと、更に反感を買っちゃったりするよね?」
「それはそうだよ。謝罪のはずなのに、自分には責任は無いなんてカミラが言ってる映像を見せられたら、大ブーイングが起こっちゃうよ」
「謝罪のビデオを撮影したら、みんなに見せる前に唯香に見てもらうよ。僕だけの判断だと心配だからね」
「分かった、その役目は引き受けるよ。それで……健人はカミラをハーレムに加えるつもりなの?」
「うぇぇ? い、いや……そんなつもりは、全然考えてなんか……」
「私は嫌……心の狭い女だって思われちゃうかもしれないけど、あれだけの事をやっておいて、何の処分も受けずに許されて、しかも健人の愛情の一部を持って行くなんて認めない」
委員長の静かだけど決意のこもった言葉は、僕の胸にズシっと響きました。
「健人は優しいから、頼られれば守ってあげたいって思っちゃうんだろうけど、そのためには責任を果たさないと駄目だと思う。マノンは、みんながヴォルザードに馴染む手伝いを本当に良くやってくれている。ベアトリーチェは本人が直接って訳じゃないけど、みんなを受け入れてくれた街の領主さんの娘だよね。それに、二人とも本気で健人の事を思ってるって分かるから認められるけど、カミラは駄目、少なくとも今は駄目」
「ごめんね。僕がフラフラしているから唯香にこんな事を言わせちゃってるんだよね。ごめん。少なくとも唯香が納得するまで、カミラには手を出したりしないって約束する」
「お風呂を覗くのも駄目だからね」
「ぐぅ、分かりました……」
くぅぅ……けしからん動画の更新は禁じられてしまいました。
「どうしても我慢出来ない時は……その、私の……」
「えっ? 何か言った……?」
「ううん、何でもない」
ごにょごにょっと何か呟いた後で、委員長はギューって僕の左腕を抱き締めました。
これでカミラまで望むなんて、やっぱり贅沢すぎだよね。
「みんなは……ヴォルザードの暮らしに馴染めていないのかな? 授業の再開に反対する人の方が少なかったし」
「そうかもしれない。私は毎日充実してるし、一部の女子は溶け込んでるみたいだけど、日本の生活の方が便利だし娯楽も沢山あるからね」
異世界に召喚されて魔術が使えると聞いた時には、たぶん殆どの人がテンションMAXの状態だったと思うけど、魔法があるのが当たり前の世界では、余程魔力が高いとか珍しい属性でもなければ、やっぱり僕らは普通の子供です。
大人と同じ労働をするには体力が無いし、勿論仕事の経験もありません。
ギルドに登録をしても、いきなり働けるようにはならないし、環境に適応する能力に長けている人や、見習い仕事を地道に続けられるような人でもなければ、こちらの生活に直ぐ馴染んで、自立した生活をして行くのは難しいのかもしれません。
木沢澄華のグループが、仕事もせずにフラフラしているの反感を感じていましたが、魔術の才能に恵まれず、生活費の心配が無いならば、あれが普通なのかもしれません。
「僕も普通のレベルでしか魔術が使えなかったら、みんなと同じだったのかもしれない」
「私も相良さん達みたいには馴染めていなかったかも」
「でも僕は……僕はヴォルザードで生きていく。そう決めた。僕と……僕とずっと一緒に居てくれるかな?」
「うん……ずっと一緒だよ……」
委員長の腕を解いて、ギューっと抱き締めました。
カミラの謝罪ビデオとか、王子達の動向とか、ラストックの砦化とか、やる事や聞く事が山積みなんだけど、今だけは、もう少しこのまま二人で過ごしていたいです。
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