第103話 逆召喚の可能性
今回の召喚に伴って起こった数々の騒動は、カミラ・リーゼンブルグという人間が原因です。
リーゼンブルグ西部の砂漠化が進行しているのに、王家は有効な対策を講じない。
自らが先頭に立ち魔の森の開拓に乗り出してみたものの、絶対的な戦力不足は否めない。
それならば、他から戦力を補強してしまえば良い……そんな思い付きの末に行われたのが、僕らの召喚なのでしょう。
カミラは、他の王族と比べれば確かに優秀で、部下や民衆に対する思いやりもあります。
駐屯地やラストックの街で、周囲の者がカミラに向ける視線は、正しくカリスマを崇めるものです。
それだけに期待という重圧を背負う事になり、それに応え続けたいがために周囲はカミラの行動を手放しで容認するようになり、こんな杜撰な召喚計画がまかり通ってしまったのだと思われます。
と言うか、召喚の詳細までは部下の騎士達には、明かされていなかったのかもしれません。
「召喚される者の年齢、性別、人数を変更、それだけで召喚をしたの?」
「いいえ、それだけではございません。人数を増やすのですから、当然魔法陣の規模も従来の二百倍の大きさとしました」
今まで肩をすぼめて小さくなっていたカミラでしたが、どうです、ちゃんと考えていますよとばかりに、少し自慢気に答えました。
「それって、円の直径を二百倍にしたって事?」
「その通りです、人数を二百倍にするのですから、規模を大きくしなければ召喚も成功しなかったはずです」
「でも、直径を二百倍にすると、面積比だと四万倍になってるけど……」
「えっ……直径を大きくすれば……」
「校舎まで召喚されちゃったのって、その影響なんじゃないの?」
面積比とかは考えていなかったみたいだし、ジト目で睨むと、またカミラが小さくなっていきますね。
「てかさ、そんな巨大な魔法陣を描くのは、当然一人じゃ無理だよね。人を使って魔法陣を描いたら、王家の秘事が外に洩れる事になるよね?」
「その点は心配ございません。魔法陣の敷設は罪人を使って行いました」
再び立ち直ったカミラは、けしからん胸を張って答えてきます。
うん、本人は大真面目にやってるみたいだけど、何だかコントを見てるみたいで緊張感が削がれるよね。
「罪人って、どういう事?」
「こちらが、その罪人共のリストです」
ズラっと書き並べられた人名の数は、ざっと見ただけでも五十人以上にのぼります。
名前の横には、盗み、傷害などの罪状も書き添えられています。
「いやいや、罪人とか使ったら、余計に情報が洩れる恐れが高くならない?」
「その心配はございません」
「あっ、そうか、完全な分業にして、特定の部分しか術式を見せなかったのか」
「さすが魔王様……ですが、半分正解です」
「ん? 半分正解? 何か……口止めしたとか?」
「はい、全員、魔の森で処刑いたしました」
「えっ……?」
どうです、誉めて下さいとばかりに、胸を張るカミラをよそに、僕は罪人のリストに視線を落としました。
「この人達は、死刑にされるほど重い罪を犯した人達なの?」
「いいえ、ですが王家の秘事を知ってしまった以上は……」
「いや、待って待って、この人達は処刑されるって分かっていて魔法陣を描く作業をしたの?」
「魔の森近くの荒れ地での危険な作業だが、終われば隷属の腕輪から解放してやると……」
「騙したの?」
「実際に腕輪からは解放してやっていますし、奴らは罪人です。罪人の分際で王家の役に立てるなら……」
「ふざけるな!」
立ち上がって怒鳴り付けると、当然だと言う顔で話していたカミラは、ビクっと身体を震わせて縮こまりました。
「罪人だろうと、罪を償えば普通の生活に戻れるんだろう?」
「それは……そうですが……」
「このリストに載っている人達は、刑期を終えれば隷属の腕輪からも解放されたんじゃないの?」
「そうですが……この時は罪人だった訳ですし……」
カミラは僕の顔色を覗うように身を縮めてはいるものの、なぜ僕が怒っているのか全く理解出来ていない様子です。
何だか僕とカミラの認識に、とてつもないギャップがあるように感じます。
このまま感情的に話をしても、溝が埋まらない気がします。
「フレッド、リーゼンブルグでは、罪人には不当な扱いをしても構わないものなの?」
『本当は駄目……だけど、現実には人として扱われない事が多い……』
「そんな……それじゃあ立ち直れなくなっちゃうよ……」
「あの……魔王様、何かお気に障る事がございましたのでしょうか?」
一度浮かせた腰を、もう一度ソファーに落ち着けて考えてみます。
日本の刑務所で、刑務官が服役している人に不当な扱いをすれば当然罪に問われますが、リーゼンブルグでは罪人に対する不当な扱い、それも生命に関わるような行為まで公然と行われているようです。
罪を犯して隷属の腕輪を嵌められたら、もう半分人として扱われなくなるようです。
カミラや騎士達が、同級生に対して平然と酷い扱いを行っていたのは、隷属の腕輪を嵌められた者を蔑む意識が働いていたからかもしれません。
「あの、魔王様……?」
「フレッドが言うには、本来は罪人に対する不当な扱いは禁じられているみたいだけど、どうなの?」
「それは……確かに法典ではそのように定められておりますが、慣習としては……」
「このリストに載っている人達を、こんな風に使い捨てにしてしまう事が、本当にリーゼンブルグの為になる事なのかな?」
「ですが、召喚術式の秘密を守るためには、必要な措置です」
「この前も言ったけど、リーゼンブルグの問題なのに他の世界の人間に頼る時点で間違いだよね。馬鹿兄貴どものケツを蹴り上げてでも、砂漠化の対策を進めるべきだったんじゃないの?」
「そう……なのでしょうが、国王や義兄達には何度も陳情を行ってきましたが、思うような対応も得られず……かと言って彼等を亡き者にするだけの戦力は、今の私にはございません。もう召喚術に頼るしか……私に、魔王様の半分でも力があれば……」
悄然と肩を落とすカミラを見て、迷いが生じてきました。
僕らの立場からすれば、全く関係の無いリーゼンブルグのために、苦労を強いられる義理も無いし、頭を下げられた程度で、これまでの扱いを簡単に水に流す事など出来ません。
実際、送還術式が存在しないと分かった時には、頭を下げるカミラを殴り飛ばしてしまいました。
父や義理の兄を殺して実権を握れ……なんて言いましたが、カミラの手持ちの戦力と第一王子や第二王子の戦力とでは比較にならないでしょうし、実現するのは不可能と言っても良いでしょう。
そして、自分が倒れてしまえば、国を思う王族が居なくなってしまう状況では、召喚術に頼るしかなかったのかもしれません。
「ねぇ……僕らが召喚された場所に、僕を除いた全員が集まっている状態で、僕が元の世界でこの召喚術を使って呼び戻せると思う?」
「それは、恐らく無理だと思われます」
「どうして無理だと思うの?」
「魔王様が元の世界で術式を発動するとなると、魔王様と途中で死亡した者の二名が抜ける事になります。召喚する対象は十五歳の者を二百名ですので、人数が足りなくなってしまいます」
僕らの学年は、正確には二百名ちょうどではないのですが、召喚された当日、数名の欠席者が居たために、ちょうど二百人になっていました。
とは言え、誕生日を迎えても僕らは十四歳なので、数え年とかでカウントされているのかしれません。
先生達は、校舎同様に僕ら生徒の召喚に巻き込まれてしまったのでしょう。
「じゃあさ、人数を百九十八名にしてやったら、元の世界に呼び戻せるかな?」
「正直に言って分かりません。教師達が召喚に巻き込まれたとするならば、百九十八名以上の十五歳が集まっている所が別にあったならば、余分な者を巻き込んで、その場所から召喚される可能性があります」
多分、十五歳が二百人集まっている世界と指定した場合に、リーゼンブルグから一番近かったのが僕らの世界、僕らの学校という事なのでしょう。
ですが、僕らの世界から見て、百九十八人の十五歳が居る一番近い世界は、リーゼンブルグじゃない可能性もあります。
それこそ、隣街の中学校から召喚されて来ないという保証はありません。
年齢と人数だけの指定では、同級生たちをピンポイントで召喚するのは無理でしょう。
「そう言えば、ずっと気になってたんだけど、昔召喚された魔王って、僕らと同じ黒髪だったのかな?」
「はっ? 魔王の髪色ですか?」
突然変わった話題に、カミラは面食らっている様子です。
「うん、ヴォルザードでは、黒髪黒目は珍しいとか、初めて見たって言われるんだよね。それはたぶんリーゼンブルグでも一緒でしょ? だとしたら、魔王が黒髪黒目だったら伝承に書かれるんじゃないの?」
「確かに……魔王様やその仲間は殆どの者が黒髪に黒目ですが、茶髪の者も混じっていたような……」
「あぁ、それは色を染めたり、脱色しているんで……僕らの民族、特に昔の人はほぼ100パーセントが黒髪黒目って感じだよ」
「そうですか……そうならば、魔王の所業から考えても、黒髪黒目に関する伝承が残っていてもおかしくありませんが、王家の伝承にも魔王が黒髪だったという話は伝わっておりません」
「だとしたら、前の魔王は僕らとは違う世界から来たのかも知れない。魔王が使っていた元の世界の文字とかは残っていないの?」
「はい、そういった記述は残されておりません」
「それじゃあ、確かめようがないか……」
それこそ、術式に使われている古代文字のように、地球でも目にした事の無い文字が使われていれば、前の魔王が地球とは違う世界から召喚された証拠になるのでしょうが、そもそも一人だけ召喚されたのですから、元の世界の文字を使う機会は日記ぐらいでしょう。
ですが、話に聞く酒池肉林の振る舞いをした魔王が、日記を残しているとも考え難いですよね。
「うーん……元の世界で召喚術式を発動させれば、同級生のみんなを呼び戻せるかも……なんて考えていたんだけど、リスクばかりが高くて確実性が欠片も感じられないな」
「お役に立てず、申し訳ございません」
召喚で引き起こした事態や、召喚した僕らへの扱いなど許しがたい部分はあるものの、窮余の一策として召喚が行われたと知り、身を縮めて項垂れているカミラが少し哀れに感じてきてしまいました。
「召喚に関する資料は、他には存在していないのかな?」
「はい、王家に残されているものは、こちらに書き写してきたものが全てです」
「分かった、また疑問点があったら聞きに来るから、カミラは極大発生の対策に専念していて。ラインハルトは聞き取りは出来るし筆談も可能だし、コボルトのみんなは普通に受け答え出来るから、意思の疎通をちゃんと図ってね」
「はっ? あの、魔王様、コボルトが喋るのですか?」
「そうだよ……ね?」
「ご主人様、撫でて撫でて」
「うちは、お腹、お腹撫でて」
撫でてコールをしながら摺り寄ってくるマルト達を見て、カミラはポカーンと口を開いて驚いてます。
「あっ、そうだ、忘れるところだった。折を見てシーリアはヴォルザードに引き取るから、母親も王都から呼び寄せといて」
「はっ? シーリアですか、あの者は既に傷物ですが……」
「人を物扱いするの、僕嫌いなんだよねぇ……それに、シーリアには、へなちょこ勇者の手綱を握ってもらうから」
「失礼しました、そのようなお考えとは気付かず……ですが、シーリアの母親は第一王妃様が監視をしておりまして、すぐに連れ出すのは難しい状態です」
「うん、そっちには、シーリアに面会させるという名目でラストックに来させて、極大発生のゴタゴタに紛れて始末するつもりだ……とか言って納得させて」
「なるほど、それならば納得すると思います」
「じゃあ、僕は他の仕事があるから……後はよろしく」
「あの! お待ち下さい、魔王様!」
「ん? まだ何かあるの?」
ヴォルザードに戻ろうと席を立つと、カミラに呼び止められました。
振り返って見ると、僕を呼び止めたカミラが、再び跪いて言葉を紡ぎました。
「私は、魔王様と接するようになって、自分の浅はかさを思い知らされました。リーゼンブルグを守りたい一心とは言え、他の世界の者に安易に頼ったのは間違いでした。私の軽率な行動が、いかに多くの者を傷つけるか思いやる心に欠けておりました。また古い慣習に流され、隷属の腕輪を嵌めた者に対する扱いも間違えておりました。このような愚かな私ではございますが、この身の血の一滴、骨の一片に至るまで魔王様に捧げ、改めて忠誠をお誓いいたします。どうか、どうかリーゼンブルグの民を守るために、魔王様のお力をお貸し下さい。お願い致します」
ぐぅ……こんなの反則だよ。
あのカミラが、涙が零れ落ちそうな潤んだ瞳で切々と訴え、深々と頭を下げて来たら無下に拒絶するなんて出来ないよね。
「僕や眷属に頼りきって怠ける事は許さない。だけど、民を守るための力は貸す。カミラ、お前は自分に出来る事、成すべき事を良く考え、最善を尽くせ!」
「はっ、仰せのままに!」
カミラが頭を下げている間に、影に潜ってヴォルザードを目指します。
『さすがケント様……けしからんボディーは隅々まで思いのまま……』
「しないからね、昨日も移り香が委員長にバレて大変だったんだからね」
フレッドと一緒にバステンまでもがニマニマとした視線を送ってくるので、即座に否定しておきました。
否定はしたけど、血の一滴、骨の一片までとなると……心の底で否定しきれない僕が居ます。
「と、とにかく、バステンは王都の様子を探りに行って来て。ミノタウロスの騒動が早馬で知らされれば、動きがあるかもしれないからさ」
『了解です。第一王子派、第二王子派、両派ともに極大発生を切っ掛けとして動こうとしているようですから、あるいはミノタウロスの襲撃が切っ掛けになるかも知れませんね』
「フレッドは、コボルト隊から何頭か使って、魔の森の警戒をしていて。ラストックは勿論だけど、ヴォルザードの方にも影響が無いか注意して」
『了解……不穏な動きがあれば、すぐに報告する……』
僕はマルト達を護衛に引き連れて、守備隊の臨時宿舎に先生達を訪ねました。
召喚術式が古代文字で書かれていて、全体の5パーセントほどしか解読されていないと伝えると、先生達は一様に落胆した表情になりました。
「小田先生、この資料なんですけど、翻訳してから提出するって捜査本部の方には伝えてしまったんですけど、どうしますか?」
「そうだな……ちょっと考えてからでないと、結論は出せないな」
簡単にアレンジして、みんなを帰還させるために使えるのであれば、魔法陣の作製に協力をしてもらう必要がありますし、その場合には当然情報を開示する必要にも迫られるでしょう。
ですが、帰還方法となりえるか疑わしい現状では、情報が流出して悪用される懸念を考慮しなければなりません。
「私は、伝えない方が良い気がします」
「ほう、どうしてですか、千崎先生」
「はい、私はエジプトのヒエログリフに興味を持って、その他の古代文字についても調べた事があるのですが、解読されていない文字を読み解くには、有名なロゼッタストーンのように複数の言語で書かれた対比を基にしたり、似たような文字とつき合わせる作業を行います。いずれにしても多くの資料が必要で、文章がこの術式のみでは例えスーパーコンピューターを使っても解読は出来ないはずです」
確かに、千崎先生の言う通り、古代文字の解読を行うには資料不足は否めません。
「性別、年齢、人数が指定出来るのならば、女子生徒の数、男子生徒の数を指定すれば、上手く召喚出来るんじゃないか?」
「僕は、中川先生の提案には反対です」
「なんでだ、古館君、理由を言いたまえ」
「理由は、どこから召喚するの部分が不明だからです。もし、一番近い場所からとか、地球からだった場合、近隣、田柄あたりの中学校から召喚されてしまう恐れがありますよ。そこでまた校舎崩壊なんかが起こったらどうするんですか」
「それならば、授業が行われていない夜中に召喚すれば良いのではないか?」
「いやいや、駄目ですよ。時差で授業が行われている海外から召喚されて、そこで校舎崩壊なんて事になったら国際問題ですよ」
一日でも早く日本に帰りたい中川先生とすれば、可能性があるならばチャレンジしてもらいたいのかもしれませんが、他の先生達は古館先生の意見に賛成のようです。
「ちょっと良いかしら、国分君……」
話し掛けて来たのは佐藤先生でした。
「この古代文字というのは、他の魔法陣にも使われているのよね?」
「はい、例えば明かりの魔道具などには、光という言葉と、発動するという言葉を合わせた魔法陣が使われているそうです」
「つまり、この召喚術式以外でも古代文字の研究は行われているのね?」
「はい、それが、こっちの資料ですね。これが解読されている文字の一覧だそうですが、そんなに多くはないですね」
「でも、これは解読された分だけでしょ? 未解読の資料は、もっとあるのではなくて?」
「あっ、そうか……これは召喚術式に関する資料だけですものね。リーゼンブルグ王家が公開している古代文字の資料は、もっとあるはずですよね」
「それに、古代文字が魔法陣として活用されているならば、研究している方がいるはずよ」
「それです、それ!」
突然立ち上がって千崎先生が叫びましたが、みんなの注目を一身に浴びて、慌てて両手で口元を覆いました。
「すみません、大きな声を出してしまって。でも、それですよ、その魔法陣の研究の元になっている資料を集めて、それを日本で解析してもらえば良いんですよ」
「なるほど、それならば日本に持ち込んだとしても危険性は高くないか」
小田先生も頷いていますし、他の先生達も賛成のようです。
「あの、ちょっと良いですか?」
「どうした国分」
「普通に使われている魔法陣の事も伏せておいた方が良くないですかね? たぶん、魔石とかを持ち込まないと発動しないとは思うんですけど……」
「いやいや、国分、そこは是非研究してもらうべきだと思うぞ」
何となく不安を感じて提案してみたのですが、即座に古館先生に否定されてしまいました。
「魔法は、現代の地球では証明されていないが、もし地球でも使えるとなったら一大技術革新を生むだろうし、なによりもエコロジーだ! 気付いているかい、火を点ける魔道具があるだろう。あれで火を焚いても全く煤が出ないんだ、これは凄い事だぞ」
古館先生曰く、火の魔道具で生じる熱量は、地球上の物理法則では考えられない量で、しかも魔道具や鍋底には僅かな煤すら付いていない事から、恐ろしくクリーンな燃焼が行われているらしいです。
「そもそも考えてみたまえ。意識を集中して詠唱するだけでも、火属性の持ち主ならば何も無い場所から火を生み出せるのだよ。ゼロから燃焼エネルギーを生じさせるなんて、永久機関ですら夢ではないかもしれないのだよ。脱化石燃料、脱炭素社会の切り札を手に入れれば、日本は世界一の経済大国になれるぞ」
立ち上がって両手を広げて主張する古館先生に、みんなちょっと引き気味ではありますが、確かに地球上でも魔法が使えるとなれば、全く新しい産業が生まれそうです。
「でも、そうなると、みんなが日本に戻った時にはモルモットにされちゃいませんかね?」
ぽそっと呟いたのは、今日は部屋の隅っこで参加していた彩子先生でした。
「あっ、いや……大丈夫だとは思いますけど、実験に協力するなんて名目で、またラストックの駐屯地みたいな場所に監禁されちゃったりしないかと……」
「無いとは言い切れないでしょうな。何しろ、本物の魔法使いが現れるのですから、日本中の研究所……いや、世界中から注目され、下手をすれば誘拐騒ぎになるんじゃないですか?」
加藤先生も懸念を述べると、古館先生の興奮も少し冷めた様子です。
夢のエネルギーになるかもしれない魔法を使える人材となれば、世界中から注目されるだろうし、それこそ某国の諜報部員が拉致しに来ないとも限りません。
「ですが、既に報告書の中に、魔法の訓練をさせられていた事も書きましたし、日本政府には情報として伝わっていますよね」
古館先生の言葉に、彩子先生の表情が曇りました。
「ふん、くだらんですよ。実際に起こるかどうか分からない事態を怖れるよりも、我々が今やるべき事は、いかにして日本に帰るかでしょう。帰れないのに、帰った後の心配をしていたって仕方無いでしょう」
「中川先生の仰ることは尤もですが、それでも帰った後の事を全く考えない訳にも行きません。もし我々が狙われような事態になるとしたら、日本に居る我々の家族にも難が及ぶ心配も出て来ますよ」
小田先生の反論に顔を顰めかけた中川先生でしたが、家族の心配と聞いて表情を改めました。
このまま情報秘匿の流れになるかと思いましたが、古館先生は尚も魔道具の情報を開示すべきだと語りました。
「我々が狙われる可能性があるのだとすれば、尚更魔道具の情報は伝えるべきでしょう。僕らが居なくても研究出来るものを与えた方が、我々への注目度は下がるはずですよ。むしろ魔道具の情報を伝えないと、我々の重要度が上がり、狙われる危険度も増すはずです」
確かに古館先生の言う通り、他の研究材料があった方が、僕ら召喚された者に対する注目度は下がりそうな気もします。
結局、魔道具に関する情報を開示するか否かは、僕を加えた九人で無記名投票を行い、六対三で開示する事に決まりましたが、聞かれたら答えるという消極的な開示でいく事になりました。
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