第84話 王都アルダロス

 ラストックとヴォルザードの大きな違いは、川の存在です。

 雨季には川幅が50メートルほどにもなり、跳ね橋以外の場所を渡るには船が必要です。


 この川が天然の水堀の役目を果たしているので、ラストックにはヴォルザードのような城壁はありません。

 例えば百頭程度の魔物の群れが、渡って来ようとしても、川岸に騎士が並んで魔法や弓矢で攻撃すれば撃退出来ます。


 なにしろ襲ってくる相手は水の中で思うように動きが取れないのですから、一方的に狙い撃ちにするだけです。

 更に付け加えるならば、川の流れが血も洗い流してしまうので、新たな魔物を呼び寄せる心配もありません。


 川を頼りにした街づくりをしたためか、建ち並んでいる家々も普通の作りです。

 リーブル農園のディーノさんの家のような頑丈な作りでもありませんし、ヴォルザードの家のような鎧戸も備えていません。

 そして、ヴォルザードのような避難施設も準備していなかったようです。


『ラインハルト、随分とヴォルザードと差があるような気がするんだけど』

『おそらくは開拓を優先したために、極大発生への備えまで頭が回らなかったのでしょう』

『なるほどねぇ……でも、それってかなり拙いよね?』

『そうですな、今の状態で極大発生が起こり、魔物の群れに川を越えられたら、住民の避難すら覚束ない気がしますな』


 ロンダル達がラストックに戻った翌日、ラストックの街は文字通りに蜂の巣を突いたような騒ぎになっていました。

 老若男女を問わず、街の人が総出で対策に駆け回っているような感じです。


 ただし、極大発生が起こるかもしれない……ラストックが危ないかもしれない……といった話が飛び交っても、街から逃亡しようとする人は殆ど居ません。

 もし日本で同じような状況になったとしたら、家財道具をまとめて、我先にと逃げようとする人で渋滞が起こるはずです。


『いくつか理由はあるのでしょうが、一つはラストックの住民は砂漠化したリーゼンブルグの西側から移り住んだ者達で、周りは第二王子の勢力圏、逃げる場所が無いのでしょう』


 住人たちにとっては、ラストックは新天地であり、これから行うであろう魔の森の開拓のための前線基地でもあるのです。

 ラストックを失えば、砂漠化で苦しんでいる同朋の希望もついえてしまうので、何としてでも守りたいという思いがあるようです。


『もう一つは、やはりカミラの人望でしょうな』


 カミラは、朝から街に出て、実情を確認しながら、次々に指示を飛ばしています。

 住民から問われれば迷いなく笑顔で答え、丁寧に不安を払拭しています。


 カミラが上から見下ろすのではなく、住民と同じ高さで物事を見て、住民の声に耳を傾け、共に街を守ろうと語り掛けているからこそ、街を捨てて逃げる人が殆ど居ないのでしょう。


『この状況を見ると、対策を妨害すると言えば、間違いなく交渉に応じると思うけど、何だかこっちが悪者みたいに思えちゃうよね』

『ですがケント様、相手はあのカミラですぞ。弱点を突かねば、こちらの要求に応じさせるのは難しいですぞ』

『そうだよねぇ……』


 カミラ相手に交渉を優位に進めるには、住民を人質にするような方法も必要だとは分かっていても、どうも気が乗らないんですよね。

 大変な状況なはずなのに、希望を失わずに対策に走り回るラストックの人々を、複雑な思いで眺めていたら、ラインハルトに提案されました。


『ケント様、王都の様子もご覧になられてはいかがですか?』

『えっ、あっそうか、バステンが目印になってくれれば、王都にも楽に行けるんだよね』

『そういう事です。今後、国王や第一王子派、第二王子派などと交渉する事態にならないとも限りませぬ。一度足を運ばれておいた方が良いでしょう』

『そうだね、ラストックの状況は大体分かったから、一度行ってみようか。フレッド、こっちの偵察は頼んでも大丈夫?』

『了解……お任せを……』


 ラストックの偵察はフレッドに頼んで、ラインハルトと共に王都へ向かう事にしました。

 王都で偵察しているバステンを目印にすれば、馬車で何日も掛かる距離も、ひょいと行けてしまうのですから影移動はめっちゃ便利です。


 王都・アルダロスは、現在のリーゼンブルグのやや東寄り、やや北よりの場所にあり、四重の水堀が水路の役割も果たしている水郷都市です。


 巨大な王城から一つ目の水堀を渡った所は貴族街、更に水堀を渡ると学校や役所、劇場などが建ち並ぶ官公地区、三つ目の堀を渡った先が商工業地区、四つ目の堀の外が農地や平民が暮らす地区だそうです。

 王城には高い塔があり、そこから見下ろす景色は圧巻の一言でした。


『うっわぁぁぁ……凄い、さすが王都、広いねぇ……』

『ぶははは、本来ここは王族でなければ立ち入れない場所なのですが、ケント様の眷属となったおかげで、初めてワシも入れました。いや、絶景ですな!』


 いくら王城の塔が高いと言っても、東京の超高層ビルに比べれば半分以下の高さでしょう。

 ですが、周囲に高い建築物が一切無いので、360度の眺望が楽しめます。

 一番外側の堀の周囲は、山手線一周分ぐらいありそうです。


『ヴォルザードの四倍から五倍……いや堀の外にも町が広がってるから十倍ぐらいはあるのかな?』

『王都には、北東の湖から水を引き入れていて、それが生活用水としても使われております』


 こちらの世界には、浄化の魔道具という物があるそうで、生活排水も浄化されてから戻されるので、堀の水は澄んでいて魚も泳いでいます。

 堀は運河としての役割も果たしていて、堀と堀の間を結ぶ水路も作られています。

 勿論、そうした水路には非常時に封鎖するための水門が設けられています。


『それでバステン、王都の様子はどうなの?』

『はい、国王は宰相に援軍の派遣を指示、第一王子も何時でも援軍を出せるように準備を指示、第二王子は他の陣営に偵察を出している状態で、両陣営とも策を練っている最中だと思われます』

『それじゃあ、少なくとも国王からの援軍はすぐにでも派遣されるんだね?』

『いいえケント様、それはまだ流動的な状況です』

『えっ、どうして? 国王は派遣を指示したんだよね?』

『はい、ですが宰相のところで停滞しているようです』

『えぇぇ……何で止まってるの?』

『それはですね……』


 バステンが言うには、宰相は二人の王子の顔色を窺っているのだそうです。

 リーゼンブルグの宰相は、王から任命されて国の実務を取り仕切る役割です。


 宰相の仕事は多岐に渡り、有能な宰相は、王が代変わりしても役職に留まる事もあるそうです。

 逆に言うならば、無能な宰相は、王が変わればお払い箱という訳です。


『だったら、尚更迅速に援軍を派遣しなきゃ駄目なんじゃないの?』

『普通に考えるならば、そうなのでしょうが、派遣がどちらかの王子を利する事になる可能性がありますし、当然費用が掛かる事なので、極大発生が起こらなければ無駄な出費になります。使うお金は、言うなれば次の王が相続する財産でもありますから、それを無駄に出費したとなれば……』

『うわぁ……面倒臭い。何でそんなに面倒な事を考えてるの。こうしてる間にだって極大発生がラストックに向かっていても不思議じゃないんだよ』

『ケント様、これが貴族という生き物なのです』


 いつか殴ってやるって思うぐらいムカつくカミラですが、この状況にはちょっと同情したくなっちゃいますね。

 いや違うな。同情するならラストックの住民だよね。


『一つの事を決めるのに、そんなに時間が掛かっていて、よく国が潰れないね』

『一般的な行事などは、慣例に従っていれば特別に問題は起こらないのです』

『でも、砂漠化が進んでるのは……あぁ、一般的な事じゃないからか……』

『それでも、砂漠化の対策としては十五年ほど前に、西側住民を東側へと転居させ、大規模な開拓事業を行ったそうで、その時に出来た街がラストックになります』

『一応、対策は行ったんだね』

『そうなのですが、その後は対処がされていないようです。西側の耕作地帯の砂漠化は、土属性の魔術士と水属性の魔術士を揃えて対策にあたらせれば、今ほどの問題にはなっていなかったと思うのですが……』

『対策を施す決定が、未だに出ていないって事なの?』

『おそらくは……』


 バステンが生きていた頃のリーゼンブルグと、今のリーゼンブルグは領土の広さも違いますし、厳密には違う国なのかもしれません。

 ですが、元を辿れば自分の暮らしていた国が、今のような状況になっていては、バステンが渋い顔をするのも無理はないでしょう。


『ねぇ、王様ってどんな人なの? ちょっと見てみたいんだけど』

『御覧になりますか?』

『えっ、見ちゃ駄目なの?』

『いえ、駄目ではありませんが……分かりました、御案内します』


 何だか、何時になく歯切れの悪いバステンに案内されて、王様の居室を覗きに行きました。


『はぁぁ……バステンがためらうのも無理ないね』

『申し訳ありません』


 現在の国王、アレクシス・リーゼンブルグは、浴室に居ました。

 年齢は五十代の半ばぐらいでしょうか、丸々と太って顎が二重になっています。


 顔色も妙に赤黒く不健康そうで、若い女性を侍らせて、真昼間から酒を飲んでいました。


『これが国王様?』

『はい……そうです』

『もうリーゼンブルグは駄目なんじゃない?』


 バステンもラインハルトも、言葉も無く頭を抱えています。

 こんな男からカミラが生まれて来たかと思うと、生命の神秘を感じちゃいますよ。


『えっと、第一王子と第二王子も似たような感じなのかな?』

『いえ、ここまでは酷くありません』

『ここまで……っていうのが引っ掛かるけど、案内してもらえる?』

『畏まりました』


 バステンの案内で、まずは第一王子の所を覗いてみました。

 意外な事に、第一王子のアルフォンスは、参謀役の男と極大発生の対策を考えていました。


 あの親を見た後だから意外に感じちゃったけど、良く考えれば当然の事だよね。


「トービル、出立させるのは何時が良いのかな? ベルンストは通してくれるかな?」

「出立の日時は、ベルンスト第二王子の動向を確かめてから決めましょう。通してもらえなければ、準備を整えても意味がありません」

「そうだよねぇ。通してもらえなきゃ意味が無いもんねぇ……」


 第一王子、アルフォンス・リーゼンブルグは、父親である現国王とは対照的に鶴のように痩せていて、肌の色は病的なほどに白く見えます。

 先程から、部屋の中を動物園のクマみたいにウロウロと歩き回り、参謀役のトービルという男の方が、よっぽど落ち着いています。


「でもさ、でもさ、カミラがこんなに急いで知らせて来てるんだから余程の事なんじゃないのかな」

「拝見した書状の内容から推測するに、カミラ様はヴォルザードの話を鵜呑みにされていらっしゃる節もございます。それに、ラストックと魔の森の間には川がございます。極大発生が起こったところで、簡単には超えて来る事はございません」

「そうだよね、川があるから大丈夫なんだよね」

「はい、それに川を越えられて一番困るのはベルンスト第二王子です。カミラ様が川を使って食い止めている間に、ベルンスト様が応援を送るはずです」

「そうだよね、僕よりも困るのはベルンストだよね」

「はい、その通りでございます」


 それでもアルフォンス王子は、部屋の中をウロウロと歩き続けています。

 これは不安だからとかではなくて、デフォルトなのかもしれませんね。


 参謀役のトービルは、そんなアルフォンス王子の様子をじっと眺めていましたが、決意するように二度ほど頷いた後で声を掛けました。


「王子」

「な、なにかな、トービル」

「王子がご決断なさるならば、この機会を利用して、ベルンスト様を一思いに……」


 アルフォンスは、ビクっと身震いしながら立ち止まり、トービルへと視線を向けました。


「ト、ト、トービル、ひ、一思いにって……」

「西の砂漠化が止まるか、カミラ様の開拓が上手く進まない限り、我々の劣勢は続くでしょう。此度の極大発生を乗り切ってしまえば、ベルンスト王子の優位は揺るがなくなります」

「そ、それって……僕が王様になれないって事?」

「確実にそうだとは申しませぬが、その可能性がだんだんと高くなってしまうかと……」

「だ、駄目だよ。次の王には兄である僕がなるに決まってるじゃないか」

「ならば、ご決断を……」

「け、決断って……急に言われたって、そんな……」


 アルフォンスの優柔不断はいつもの事なのでしょう、トービルはさして失望した様子も見せず、続きを話し始めました。


「確かに難しいご決断です。なので、一つ賭けをなさってはいかがでしょう?」

「賭け? 賭けって、一体何を賭けるつもりなの」

「作戦を行うにしても、極大発生が起こらなければ、十分な数の兵を入れるのは難しいでしょう」

「そうだよ、ベルンストは用心深いから無理だよ……」

「いいえ、極大発生ともなれば、ベルンスト様であっても手段を選んでいられなくなるでしょう。そこで賭けです。極大発生が起こらなかったら様子見のままで終わらせる。逆に極大発生が起こったら……」


 トービルは、決断を迫る視線をアルフォンスへと注いでいます。


「で、でも……」

「王に……王になりたくないのですか?」

「なりたい……違う、王になるのは僕なんだ」

「でしたら……」

「わ、分かった。極大発生が起こったら……ベルンストを討つ」

「それでこそ第一王子……いや、未来の王です」

「トービル、手配は任せる」

「畏まってございます」


 恭しく頭を下げながらも、トービルはニヤリと黒い笑みを浮かべています。

 一方アルフォンス王子は、親指の爪を噛みながら、また部屋の中をウロウロと歩き回りだしました。


『ラインハルト、これってヤバくない? 極大発生が起こってる時に内戦なんか始まったら、ホントに国が滅びちゃうんじゃないの?』

『いかにも。今のままではラストックの対応も十分にされませぬ。その状態で極大発生が起これば、魔物の津波は内地にまで及ぶでしょう』

『バステン、第二王子は住民保護の対策とか進めているの?』

『それはまだ……』


 バステンの表情を見れば、対策が進んでいないのは一目瞭然です。

 えぇ、骨だけどバッチリ表情が分かりますよ。


『ちょっと第二王子の様子も見てみたい』

『御案内いたします』


 王城は幾つもの棟に分かれていて、区域ごとに派閥が出来ている状態だそうです。

 第二王子滞在するエリアは、何となく他のところと比べると荒んだような印象があります。


 第二王子、ベルンスト・リーゼンブルグは、一目見た途端に現国王の息子だと理解出来る、でっぷりと太った男です。

 ただ、双子ではないのでしょうが、良く似た男が二人居ます。


『バステン、どっちが第二王子なの?』

『はい、こちらを向いている、赤みの強い髪をしているのが第二王子のベルンスト、もう一人の緑がかった髪の方が第三王子のクリストフです』

『兄弟だから似ていても不思議じゃないけど、良く似てるよね』

『はい、この二人は第二王妃テレンシアの息子です』

『って事は、第一王子が第一王妃の息子って事?』

『その通りです。現在王室に居る王妃は三人、第一王妃のマルグリット、第二王妃のテレンシア、第三王妃のメアリーヌ、カミラは第三王妃の娘です』

『それじゃあ、第一王妃と第三王妃が手を組んで、第二王妃に対抗している感じなのかな?』

『単純にそうとも言い切れないようです』


 バステンが調べたところでは、第一王妃と第三王妃も必ずしも良好な関係ではないようです。


 それどころか、自分達が隠れ蓑に使われているのではないかと第一王妃は思っているようで、第二王子との争いに勝利した暁には第四王子を切り捨てるべきだと考えているようです。


『でも、カミラは第一王子派なんだよね?』

『それも積極的な支持というよりも、第二王子派の暴走に歯止めを掛けるためという意味合いが強いようです』


 目の前で展開しているのは、第二王子と第三王子、それに取巻き連中による酒宴です。

 国王と違うのは女性を侍らせていない事と、テーブルにはリーゼンブルグの地図が広げられていて、何やら物騒な話が行われている事でしょう。


「それで兄者、どうするのだ? 援軍は送るのか?」

「援軍は送る……振りだけだな」

「振りだけ? では送らないのか?」

「そうだ、お前ら良く聞け。こいつは第一王子派のトービルあたりが考えた大掛かりな罠だ」


 一旦言葉を切った第二王子のベルンストは、酒盃を一息に飲み干すと、荒々しく袖口で口元を拭い、ニタリと品の無い笑いを浮かべながら続きを話し始めました。


「奴らは、俺達の所領に兵を入れたくて仕方が無いが、そのための理由が無くて困っている。だから極大発生なんて話をでっち上げたんだ」

「なんと、極大発生の話は嘘なのか? 兄者よ」

「いや、ヴォルザードが極大発生に襲われたというのは、あるいは本当かもしれんが、魔の森との間には川がある。実際には騒ぎ立てるほどの事ではないのだろう」

「なるほど……極大発生ともなれば兵を入れられると考えていやがるのか……」

「その通りだクリストフ。つまり、うっかり兵を通そうなんてしようものなら……」

「くっそ……あのヒョロガリが、まだ自分が王の器じゃないと分からないのか」


 第三王子のクリストフが乱暴にカップを置いたために、酒が飛び散った。


「くっくっくっ、そう荒れるなクリストフ」

「だが兄者よ、あいつのセコい手口をいつまでも見逃しておく訳には……」

「そうだ。だから奴らの作戦を利用してやるんだよ」

「利用する……?」

「カミラに応援を送る振りをして、主力は奴らが進んで来る街道の近くに潜ませておく」

「なるほど、奴らの作戦に引っ掛かった振りをして、逆に待ち伏せをするんだな、さすがは兄者だ」


 クリストフは、ソファーから腰を浮かせて大袈裟にベルンストを称えてみせました。


「クリストフ、これだけ大掛かりな仕掛けをしてくるのだ、おそらく今回はアルフォンスの奴も出て来るはずだ」

「それでは兄者……」

「そうだ、今回こそは息の根を止めてやる。理由なんぞ後から考えれば良い。肝心なのは確実に仕留める事だ」

「だが兄者よ、カミラの手勢はどうするのだ?」

「援軍を送る振りをして、奴らへの押さえ軍勢を揃えておく」

「それでは兵が分散してしまうのではないか?」

「カミラに当てる軍勢は、あくまでも時間稼ぎをさせる兵だ。沢山の兵が居るように見せ掛けるだけで良い。あの女の本命は弟のディートヘルムだ。アルフォンスの為に手勢を失うほどの激しい戦いはしない」

「さすが兄者だ、そこまで考えているとは……」

「アルフォンスを仕留めてしまえば、あとはディートヘルムを捻り潰すだけだ。勿論、あのクソ生意気なカミラは、たっぷりと可愛がってやるがな……」

「兄者、俺も加わっていいんだろう?」

「当たり前だ、ぶっ壊れるまで可愛がってやるぞ」

「ひゃーははは、あのアマ、どんな声で鳴きやがるか楽しみだ」


 僕には言う資格無いかもしれないけど、こいつらゲス過ぎですね。

 カミラには、同じ第三王妃を母とする弟が居て、そのディートヘルムが力を付けるまでは第一王子派の庇護の下に隠れていて、時が満ちれば弟に王位を継がせたいと考えているようです。


『何だかさぁ、グッチャグチャなんだけど、そんなに王様って良いものなの?』

『さぁ、私にも分かりかねますが、この体たらくでも良い暮らしが出来るのですから、良いものなのではありませんか?』

『うーん……クラウスさんの家と比べると天と地ほどの差を感じるのは僕だけかな?』

『いいえケント様、私は王族の様子を探るようになって、心底嫌気が差しています。こんな奴らが、かつて我々が守ろうとしてきたリーゼンブルグの末裔なのかと思うと悲しいやら、腹立たしいやら……』


 珍しく雄弁に語るバステンは、本当に憤懣やるかた無いという様子です。

 バステンから民衆を守りたいという思いが、僕の心に伝わってきます。


 ラインハルトも口には出しませんが、この王族の姿には失望と怒りを覚えているようです。

 それならば、僕がやる事は決まっています。


『僕らはヴォルザードの安全を第一に動くけど、次に極大発生が起こってラストックが襲われた場合。ラストックを守るために動くよ』

『ケント様、よろしいのですか?』

『リーゼンブルグに大きな被害が出たら、同級生達の送還にも悪影響が出そうだし、それに……国は違えども、騎士の仕事は民を守る事なんでしょ?』

『ケント様……』


 ラインハルトとバステンは、揃って僕に向かって騎士の敬礼をしてみせました。

 うん、僕の眷属、めっちゃ格好いいです。

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