第82話 教師たちの思惑
リーゼンブルグの騎士とクラウスさんの謁見を見届けた後、先生達と交渉の打ち合わせをするために守備隊の宿舎へ出向きました。
守備隊の食堂で夕食を済ませたのですが、委員長の元気が無いのが気掛かりです。
本人は大丈夫と言うのですが、急に決断を迫るような形になってしまっているので、やっぱり言葉を鵜呑みにする事は出来ませんよね。
守備隊の診療所で医務室で一緒のマノンが、色々と気を使ってくれているようなのですが、それも委員長には重荷になっているようにも感じます。
こんな時に、何て言葉を掛ければ良いのか分からず、経験不足な自分が情けなくなってきますね。
周りの僕に対する視線は、やっぱり厳しいままです。
ラストックでみんなの精神的な支柱でもあった委員長ですから、それを暗い表情にさせている僕に冷たい視線が向けられるのは当然ですよね。
でも、それがまた委員長の精神的な負担になっていないかと心配になって、やっぱりハーレムなんて僕には無理だったのでしょうかね。
夕食後の打ち合わせには、先生が全員顔を揃えていました。
早く日本に帰りたいという思いは一緒ですし、そのために自分も何かの役に立ちたいという思いが強いようです。
宿舎の応接間のソファーに、僕と小田先生が向かい合う形で座り、小田先生の隣に佐藤先生、僕の隣には加藤先生が座っていました。
他の先生は、椅子を持ち寄って、思い思いの場所から覗き込んでいる状態です。
最初に、僕が今日の謁見の様子や、リーゼンブルグの騎士達の様子を話しました。
騎士達が明日にはリーゼンブルグに戻るだろうという見通しを話すと、小田先生は大きく頷いてみせました。
「なるほど、魔物の極大発生が起こって、自分達の街が危ないとなれば、おちおちしていられんだろうな」
「はい、それに魔の森を抜けて帰るには、人数を揃えて行動する必要があるので、人員を分ける事も無いだろうという話でした」
「それにしても、領主宛の書簡で魔王の資質とは……改めて異世界に来ているのだと思い知らされる感じだな……」
小田先生だけでなく、他の先生も苦笑いを浮かべています。
「さて、向こうには向こうの都合があるかもしれないが、我々も何時までも遊んでいる訳にはいきません。国分に色々な情報をまとめてもらったのですが、それによると、召喚の儀式は下準備に時間と多額の費用が掛かるらしい。当然我々を送り返す儀式にも、同じぐらいの時間や費用が掛かるとみるべきでしょう」
打ち合わせの進行役である小田先生が話し始めると、先生達は一様に難しい表情を浮かべました。
その中で、隣に座っている加藤先生から質問をされました。
加藤先生は保健体育担当の四十代の男性で、少し頭がバーコード化しています。
「国分、召喚の儀式には、どの位の時間と費用が掛かってるんだ?」
「すみません、召喚に関しては探っているんですが、詳しい事が全く分からない状態なんです」
ラストック駐屯地のカミラの執務室に置かれている資料は、フレッドに隈なく調べてもらいましたが、目ぼしい資料は見つかっていません。
カミラの日記さえも読み漁ってもらったのですが、具体的に何時頃から準備を始めていたのか、何人で準備をしていたのかも不明の状態です。
フレッドが生身の人間だったら、ラストックの町で聞き込みも出来たのでしょうが、スケルトンの姿では聞き込みは無理ですよね。
「召喚の儀式についても分からないんじゃ、送還の儀式に関しても……か?」
「はい、現状では……」
「話を戻しても良いですかな?」
加藤先生は、小田先生に頷き返しました。
「今少し話が出ましたが、国分が調べてくれていますが、送還の儀式に関する情報が現時点では何もありません。ですが、我々としては有ってもらわないと困りますし、有るものと思って交渉を進める準備をしたい」
他の先生達も、異論は無いようです。
「そして、送還の儀式の準備に時間が掛かるならば、なるべく早く準備を始めさせたいですし、その為には、我々を元の世界に戻すという決定を、早急にリーゼンブルグから引き出す必要があります」
「どうやって、その決定を引き出すか……ですな?」
今度は、加藤先生の言葉に小田先生が頷きました。
「交渉を行うには、ラストックに赴く必要があります。交渉役の私と佐藤先生が行くとなると、行くだけで一日の時間が掛かります。なので、最初に書簡で我々の要求を伝えて、その上で交渉の日時を決めたいと思っております」
言葉を切った小田先生は、僕に視線を向けて尋ねて来ました。
「国分、書簡を持って行くだけならば、すぐにでも行って来られるな?」
「はい、それは大丈夫ですが……」
「話を聞けば、これからリーゼンブルグは魔物の対策に追われる事になりそうだ。当然カミラも対策の責任者として指揮を執る必要に迫られるだろう。我々としては、その混乱を利用させてもらう」
小田先生の考えは、これから行われるであろうリーゼンブルグの極大発生への対策を人質に取るようなものでした。
僕らとの交渉を拒むならば、極大発生への対策が行われるのを妨害すると申し出るつもりだそうです。
「先生……でも、対策が遅れれば街の人達が……」
「分かってる、実際に妨害するとは言ってないぞ。だが、妨害を示唆すれば、リーゼンブルグとしては交渉を拒む事は出来ないのではないのか?」
「確かに……」
「我々も実際に目にした魔物の大群、あれがラストックに押し寄せれば大きな被害が出るだろう。それに、被害がラストックだけに留まるという保証は何も無い。となれば、カミラが属する第一王子派のみならず、第二王子派も協力せざると得なくなるのではないか?」
「あっ……そうか、リーゼンブルグの東側は第二王子派の勢力圏ですもんね、そこに極大発生の被害が出るとしたら……なるほど、分かりました。書状が出来たらすぐに届けに行って来ます!」
「慌てるな国分、物事にはタイミングというものがある。例えば、今から書状を書いてカミラの元へと届けても、効果は薄いぞ」
「えっ……そうなんですか?」
「当たり前だ、極大発生の情報を届ける連中は、まだヴォルザードに居るんだからな」
「あっ……そうですよね」
使者としてヴォルザードに来ているロンダル達がラストックに戻って報告しないと、極大発生の情報がカミラに伝わりません。
極大発生の危機を感じた状態でなければ、僕らの要求の効果も薄いという訳ですね。
「それじゃあ、書状を届けるのは?」
「そうだな……奴等がラストックに戻るのは、明日の夕方ぐらいになるのだろう? だとしたら、明後日、実際に対策を始めて、その遅れを思い知った頃が良いだろうな」
小田先生は、ニヤリとちょっと人の悪そうな笑みを浮かべました。
「ちょっといいですか?」
右手を軽く上げて声を掛けて来たのは、英語担当の中川先生です。
三十代半ばぐらいの痩せた男性で、少々嫌味な言い方が生徒からは不評です。
「随分とやり方がまどろっこしい気がしますねぇ。国分が強力な魔物を使役できるのだから、逆らえば住民を殺す……で充分なんじゃないですか?」
小田先生は、二度三度と頷いてから答えました。
「確かに、中川先生の仰る通り、どちらも住民を人質に取るような交渉ですので、カミラは応じるかもしれません。ですが、国分が調べたところでは、カミラの属する第一王子派は資金的に困窮しているようなのです」
第一王子派は、耕作地が砂漠化の影響を受けているリーゼンブルグの西側に集中しているために、資金繰りに窮しています。
なので、僕らが逃亡した後で、騎士から再度召喚を行うべきという意見が出た時にも、資金的に難しいという結論に至っています。
それに対して第二王子派は、穀物相場の値上がりによって収入が増えたリーゼンブルグの東側に集中しているので、潤沢な資金を保持していると思われます。
「それならば、第二王子派の所にも、逆らえば住民を殺すと言ってやれば良いでしょう」
「そうですね。ただ第二王子派は、我々と実際に接触していませんし、我々の実力がどの程度なのかも把握していません。脅して言う事を聞かせるならば、我々が脅威である事を示さないと駄目でしょう」
「それならば、実際に見せ付けてやれば良いでしょう。国分達は移動は自由なのでしょう?」
「ちょっと待って下さい!」
中川先生の言葉を遮るように手を上げたのは、社会科の千崎先生です。
三十代後半か四十代前半のすらっとした女性で、少し神経質な印象があります。
「中川先生の仰る方法では、国分君にテロ行為を行えと言ってるのと同然ではありませんか? 生徒にそんな事を命じるのは……」
「いやいや、今はそんな綺麗事を言ってる場合じゃないでしょう。どんな手段を使ったって元の世界に戻らないと……」
「小田先生の仰る方法ならば、国分君が実際にテロ行為を行わなくても済むのですよね? でしたら、そちらの方法を採用すべきでしょう」
「そんな甘い事言っていて、あの王女をやり込める事が出来るんですかねぇ? 実際、救出作戦の時に国分は刺されているじゃありませんか。あいつらは、我々を殺す事を何とも思っていないんですよ」
「だとしても、我々は元の世界に戻れば平和な日本で暮らすのです、暴力で物事を解決するようなやり方には賛成出来ません」
「甘い、甘いですよ千崎先生。帰れなかったら意味ないじゃないですか」
「あの……ちょっと良いかしら?」
中川先生と千崎先生の言い争いに、ほわっと割って入ったのは佐藤先生でした。
「これから交渉を行うにあたって、国分君の力は必要不可欠です。ラストックに行くにも護衛が無ければ行けませんし、交渉の切り札は国分君の持つ戦力です。そして、その国分君ですが……こちらの世界に残るつもりでいるのよね?」
佐藤先生の問い掛けに一つ頷いてから答えました。
「はい……ヴォルザードには僕を必要としてくれる人が沢山いるので……」
「中川先生の仰る方法でも、元の世界に戻るならば、こちらの世界での評価を気にする必要は無いでしょう。ですが、こちらの世界に残るとしたら、これから行う交渉の結果やそれに伴う評価は後々まで付いて回ります。私は、国分君の評価を貶めるような方法には反対です」
佐藤先生が話し終えたタイミングで、小田先生が中川先生に声を掛けました。
「中川先生、とりあえずは私達のやり方で進めさせてもらえませんか? それでも駄目な場合には、強硬手段も考えますから」
「ふん、仕方ありませんな、国分に頼らなければならないのは事実ですし……」
そう言いつつも、あまり中川先生は納得していないように見えます。
突然肩に手が置かれて、驚いて振り向くと、加藤先生がじっと僕を見ていました。
「国分、お前、本当に日本に戻らなくても良いのか? 親御さんが心配してるんじゃないのか?」
「えっとですね……」
うちの家庭事情を説明すると、加藤先生だけでなく、他の先生も複雑な表情を浮かべました。
「そうか、そういう事情があるのか……だがな国分、親子の絆は必ずあるはずだからな、日本に戻れる事になって、その時になっても残るという気持ちが変わらなかったら、手紙を書きなさい。これまで育ててもらった御礼と、自分が思っている正直な気持ちを手紙に書きなさい。必ず、俺がお前のご両親に届けるから……」
「はい、その時は、よろしくお願いします」
そうだよね、こちらの世界に残るのならば、それを選んだ理由やこれまで僕が抱えてきた気持ちを伝えないと駄目だよね。
それと、委員長が僕を選んで一緒に残ってくれるのならば、委員長の御両親にも手紙を書かなきゃ駄目だよね。
でも、それって何を書けば良いんだろう。僕に娘さんをください……的な挨拶? うわぁ……何だか物凄く恥かしいんですけど。
「大丈夫か? 国分……」
「ひゃい? えっ……あっ、大丈夫です、ちょっと動揺しただけで……」
ヤバっ……自分の世界に入って頭抱えてました。ちょっとハズいですね。
小田先生は少し怪訝な表情を浮かべたものの、打ち合わせを再開しました。
「基本的な交渉の流れは、こんな感じで進めていくとして、次は要求する内容ですが、最初から妥協するのではなく、まずは強気の要求から始めたいと思っています」
小田先生が考えたリーゼンブルグへの要求は、基本的には僕が最初に救出してきた五人と話していた内容と大きくは変わりません。
僕らを元の世界へ送還する事、酷い扱いをした事に対する謝罪、そして迷惑に対する賠償です。
「日用品の買出しの時に見て回った物価からして、通貨ヘルトは大体十円程度になるようです。我々がリーゼンブルグに要求するのは、死亡した船山の遺族への賠償金、そして我々への迷惑料になりますが、前者を三千万ヘルト、後者を一人あたり二十万ヘルト、全ての合計で七千万ヘルトと考えています」
一ヘルトを十円として計算しているのだから、七億円ってことだよね。
小田先生から具体的な数字が提示されたけど、他の先生達も金額が大きいせいか今ひとつピンと来ないようです。
「先生、七千万ヘルトとなると、相当な金額になると思いますが、カミラが払いますかね?」
「国分、さっきも言ったが、これは叩き台となる金額だ。当然リーゼンブルグは支払いを拒否するか減額を要求してくるはずだ。私個人とすれば迷惑料など無しであっても、日本に戻れるならば構わないと思っている。だが、船山の遺族に対する賠償金は、何としても引き出したいと考えている」
小田先生の言葉には、強い決意が感じられました。
他の先生達も表情を引き締めていて、自分達が何も出来ずに死なせる事となった船山へ罪悪感を感じると同時に、リーゼンブルグへの憤りも感じているのでしょう。
「この金額を叩き台として譲歩しながら交渉を進めていくのですが、解決しなければならない問題がいくつか存在しています。その一つは、送還魔法が正しい物かどうか、どうやって判断するかです」
送還魔法は存在自体も疑わしいのですが、カミラが我々を送還すると騙して、罠に陥れる心配があります。
大規模な爆発が起こる魔法陣の上に僕らを集めて、一気に始末する……なんて事さえカミラならばやりかねません。
勿論、僕らでは魔法を使った罠など見破る事は出来ないので、誰かこちらの世界の人を雇うしかなさそうです。
「国分、そうした事に精通している人を紹介してもらえないか、ギルドで聞いてもらえないか?」
「はい、それは明日にでも聞いてみます」
小田先生は頷いてから話を戻しました。
「もう一つ、賠償金や迷惑料は、こちらの通貨で受け取っても意味がありません。なので、日本でも価値のある貴金属などで支払ってもらうつもりです。常識的に考えて純金で受け取るのが良いと思うのですが、問題は真偽をいかにして確かめるかです」
小田先生は、打ち合わせの最初から空気になっていた先生に視線を向けました。
「古館先生、金の鑑定は出来ますか?」
「ぼ、僕がですか?」
小田先生は、無言で頷いて見せました。
古館先生は一番若い二十代の先生で、ちょっと軽い感じがする理科の先生です。
「え、えっと……金は一番比重が重たい金属で……あぁ、純度によっても比重が違うのですが、比重を計ればある程度は……あとは非常に安定した金属なので硝酸があれば真偽を確かめられるかと……あぁ、磁石にもくっつきませんね」
「準備をしておけば、確かめる事は可能という事ですか?」
「ま、まぁ……そういう事なんですけど、何せやった事がありませんし、相当な金額になるんですよね? ちょっと自信無いなぁ……」
ちょっと情けない感じもしますが、でも七億円相当の金を確かめるのは、かなりのプレッシャーですよね。
「あの、小田先生……」
「どうした国分、良い考えでもあるのか?」
「こちらの通貨で受け取って、ヴォルザードのギルドで金に交換してもらうというのは、どうでしょうかね?」
「ふむ、そうだな、そっちの方が確実だし信用出来るな」
金の鑑定役を務めないで済むと分かって、古館先生は大きく息を吐いて肩の荷を下ろしましたね。
「交渉について決めておく事は、現時点ではこのぐらいだと思いますが……どうですか、他に何かありますか?」
「あの、先生……送還の儀式の事なんですが……」
以前、八木達と話をした、仮に元の場所に送還されるのだとしたら、地上三階の高さから瓦礫の上か、建設中の工事現場に転落する恐れがある事を話しました。
「そうか……確かにそうだな、そこまでは考えていなかったな……」
「でも、学校が今どうなっているのかなんて、確かめようが無いですよね」
「送還魔法というものは、座標とかを指定して送り返すものなのか?」
「いや、僕に聞かれても全然見当も付かないので……」
小田先生が視線を向けても、他の先生達もお手上げといった感じです。
「そもそも、どうして我々が選ばれたんだ?」
小田先生が問い掛けると、みんな一斉に首を捻って考え込みました。
「座標……というのは考え難いですね……」
最初に口を開いたのは、意外にも古館先生でした。
「地球儀を回してダーツを投げたとして、人の居る場所に刺さるとは限りませんよね。ましてや異世界からとなると、座標の指定で望んだ者を召喚するなど不可能でしょう」
確かに古館先生の言う通り、無限の可能性の中からピンポイントに選び出すようなやり方では確率が悪すぎます。
下準備に長い時間と費用を掛けて、そんな効率の悪い事はやりませんよね。
「だとすると、何かの条件に適合したという事ですか?」
「おそらくは、そちらの可能性の方が高いでしょう。やつらは勇者ではなく兵士を召喚したと言っていました。人数とか年齢とか、文化の程度とかもあるかもしれませんね」
金の鑑定役をやらされそうになった時とは打って変わって、古館先生は理路整然と言葉を並べていきます。
「ちょ、ちょっと待って下さい……」
「どうしました、千崎先生」
「我々が座標ではなく条件に合致したから召喚されたのだとしたら、元の場所を特定して送り返す事なんて出来るのでしょうか?」
千崎先生の言葉は、ここに居る全員が思っていても口に出せなかった言葉かもしれません。
「それじゃあ千崎先生は、送還魔法など無いと仰るのですか?」
「分かりません、カミラ王女は、召喚魔法は送還魔法とセットじゃないと成り立たない……ような事を言ってましたから有るとは思うのですが……」
千崎先生は、中川先生の問い掛けには答えたものの、やはり半信半疑という感じです。
「あの時、確か予期せぬ化物が出て来たら困るから、召喚と送還はセットになっていると言っていたと思ったのですが、召喚直後にしか送り返せないのだとしたら……」
「古館先生も送還魔法は無いと思うのかね?」
「いや、それは……」
中川先生に強い口調で問い詰められ、古館先生は口ごもるようにして一旦は俯きましたが、ちょっと覚悟を決めたような表情で顔を上げました。
「そうですね、僕は送還魔法は無い可能性の方が高いと思います」
「君、そんな無責任な事をだな……」
「では、中川先生は送還魔法が有ると確信がおありですか? 何か根拠があるのですか?」
「いや、根拠とか……そもそも帰る方法が無かったら困るだろうが」
「うーん……どうでしょう、リーゼンブルグから一生暮らせる金を引き出せれば、そんなに困らないかなぁ……」
「な、何を言ってるんだ、生徒達はどうするつもりだ!」
「それも、リーゼンブルグから補償金を引き出せれば、何とか生きていけるんじゃないですか。こちらの世界は、科学的には遅れてますが、衛生面など生活のレベルは低くないですし、我々が新しい文化を創造するというのも面白いと……」
「ふざけるな! 私には妻も子供も居る。帰らなきゃいけない家庭があるんだぞ!」
「ですが、それを僕に言われても、どうする事も出来ませんよ」
「貴様……」
「そこまで!」
武道の判定を下すような加藤先生の一声で、中川先生も古館先生も我に返ったようです。
「中川先生、私にも家庭があり不安な気持ちは良く分かります。ですが、我々が争っていても事態は良くはなりません。冷静にいきましょう。古館先生、切り替えも必要ですが、もう少し配慮して下さい。生徒の中にも不安を抱えている者が沢山いるはずです」
「申し訳無い……どうも何の役にも立てていないようで、気ばかりが焦っていました」
「私も……すみません。少し配慮に欠けました」
加藤先生に目配せされて、小田先生が後を引き継ぎました。
「送還魔法については、まだ何も分かっていないので、悲観的になるのは控えましょう。他に気になる点が無ければ、今日はお開きにしたいのですが、よろしいですか?」
小田先生の申し出に異を唱える先生は居ませんでした。
加藤先生や小田先生などは落ち着いた様子ですが、それでも内心では不安を感じているのだと思います。
こちらの世界に残ろうと思っている僕は、ある意味気楽なのかもしれないと思うと同時に、何としてもみんなを日本に帰したいと改めて思いました。
あれっ、そう言えば彩子先生が居なかったけど……先生に入ってないのでしょうかね。
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