第52話 予期せぬ騒動

 ギルドでアンデッド・コボルト達の登録を終え、魔の森で演習をしているラインハルト達の所へと戻る事にしました。

 コボルトを眷属にした場所に戻ってみたのですが、ラインハルト達の姿が見当たりません。


「みんな、どこに行ったんだろう……?」

「ご主人様、誰か来るよ」

「えっ? みんな影に潜って」


 マルトに知らされて、思わず影の中へと潜ったのですが、良く考えてみたら別に悪い事をやっている訳でもないので、隠れる必要は無かったんですよね。


 でも、隠れてしまったので、このまま様子を窺います。

 影を伝って木の上から眺めていると、5人組が近付いて来ました。


「おい、見間違いじゃないのか?」

「そんなはずはない、確かに人の姿が見えた」

「いやいや、魔の森の中だぜ、こんな所に人が居るはずねぇだろう……」

「いや、確かに見えた、こっち……」


 魔の森の中で活動をしているという時点で、相応の腕前を持つ冒険者なのでしょう。

 先頭を歩く短髪頭にバンダナを巻いた小柄な男は、油断無く周囲を警戒しつつ歩みを進めて来ます。


 後に続く4人もパっと見はリラックスした様子ですが、時折鋭い視線を周囲に飛ばしています。


「見ろ、この木は自然に倒れたもんじゃないぞ」

「おい、こっちを見てくれ!」

「こいつは尋常な切り口じゃねぇな……」


 はい、それは僕の眷属が力試しに殴り飛ばしたり、切り倒したもんなんですよ。

 でも、こんな所で、この人達は何してるんでしょうね?


「マルト、ちょっとみんなを探して、ここに冒険者が居るって知らせて来て、鉢合わせになると拙いから」

「わふぅ、分かった」


 マルトが影の世界を伝って仲間の所へ走ると、すぐにラインハルトが戻って来ました。


『ケント様、どうかされましたか?』

「うん、登録を終えて戻って来たら……」

『ふむ、冒険者パーティーのようですな』


 5人の冒険者達は、思い思いに周辺を調べています。


「見てくれ、随分と高い位置に爪痕が残っている」

「あぁ、こっちも同じだし、かなりの数の足跡が残っているぞ」

「何の足跡だ? 大きさ的にはコボルトだが……」

「これ見ろ、リザードマンの足跡じゃないか?」

「バカな、こんな所にか?」

「でも、見ろよ、他にこんな足跡の魔物や野生動物がいるか?」


 冒険者達の視線が、1人の男に集まりました。

 歳は30代の前半ぐらいでしょうか、光の加減でオレンジ色にも見える蓬髪、先の部分に長い毛の束がある尾。


『獅子の獣人でしょうな、かなりの使い手のようです……』

「あの人がリーダーなのかな?」

『おそらくは……』


 視線を向けられたリーダーらしき男は、もう一度辺りを見回してから口を開きました。


「異常すぎるな……ここだけ見ると、リザードマンに追われたコボルトが逃げ回ったようにも見えなくも無いが、痕跡はこの周囲にしか残っていない」

「どういう事だ?」

「分からん、こんな状況は俺も初めてだ」

「コボルトは、リザードマンに全滅させられたのではないか?」

「だったら血の跡が残っているはずだ。足跡がこれだけ新しいのに、血の跡だけが消えたとは思えん」


 ラインハルト達は、ここはヴォルザードに近すぎるし、より実戦に近づけるために、もっと森の深い場所で実際にオークの群れを狩って演習をしていたそうです。

 倒したオークの魔石は、みんなで分けて取り込んで、強化に使ったそうです。


 そう言われてみると、戻って来たアルト達が精悍な顔付きになってる気がします。

 アルトが、マルト達の所にも魔石を持ってきたので、取り込みを行っている間は、可愛らしさが失われないように、イメージを送り続けましたよ。


「どうする、バルトロ」

「そうだな……もう少し進んでみるか、この方向に進めば街道に出るはずだ、そこから街道でヴォルザードに戻る」


 どうやらリーダーの男はバルトロという名前のようです。

 他の二人がバルトロと同格か少し下、残りの二人は格下のようです。


「どうです、金になりそうですか?」

「チェザリ、まだ始めたばかりだぞ、そんな簡単に分かるもんか」


 バルトロは呆れたような口振りで、先頭を歩いていた小柄な男を諌めました。


「チェザリ、ギガウルフとやり合うつもりなら、何が何でも先手を取らなきゃ厳しくなる。つまりはシーカーのお前次第なんだぜ」

「かぁ、チェザリ次第って、俺達大丈夫なのか?」

「まぁ、最悪チェザリを囮に置いて逃げれば大丈夫じゃないすか?」

「がははは、チビのチェザリじゃ一呑みにされて、たいした時間稼ぎにならんかもな」


 リーダーは、獅子獣人のバルトロ、シーカーが小柄なチェザリ、他は槍を携えた髭面の犬獣人に、弓を携えた優男、大盾を持った坊主頭の巨漢。

 どうやら、このパーティーはギガウルフを狙っているようです。


『ケント様が倒されたギガウルフの毛皮が売りに出されたか、噂が流れたのでしょうな』

「ギガウルフを狩って、一攫千金狙いって事?」

『それもありますが、ギガウルフは仕留めただけで自慢出来る魔物ですから、名前を売るという意味もあるのでしょうな』

「ふーん……そうなんだ……」

『ぶははは、ギガウルフを一人で九頭も仕留めておいて、誰にも自慢しないなど、ケント様ぐらいのものですぞ』

「うーん……自慢したって、厄介事が増えるだけじゃないの?」

『まぁ、そうですな、ですが、その厄介事が降りかかって来るのが冒険者の格だと思っている者もおるのです』

「ふーん……まぁ、僕は遠慮しておくよ」


 バルトロ達を見送った僕らは、魔の森の訓練場へと移動しました。

 ここは、森の深い場所にあるので、さすがにここまではバルトロ達も来ないでしょう。


 スケルトン3体、アンデッド・リザードマン5頭、アンデッド・コボルト33頭、訓練場に僕の眷属が勢揃いしています。


「ラインハルト、連携の具合はどうなの?」

『そうですな、何しろ今日始めたばかりですから、完璧とはいきません』

「何日ぐらい演習を行えば、実戦に耐えられるようになるかな?」

『最短で3日、ですが5日は必要でしょうし、万全を期すならば1週間といった所ですな』


 騎士団で分団長を務めたラインハルトの見込みですから、間違いは無いでしょうが、実際に動いている側の話も聞いてみます。


「ザーエは、アルト達と合わせてみてどうだった?」

「そうですね、他の魔物との共闘など初めての事で、正直戸惑いがあります」

「結構、難しいかな?」

「いいえ、王命とあらば、万難を排してやり遂げてみせましょう」

「ありがとう、アルトはどうだった?」

「訓練は楽しかったです、ご主人様」

「えっ、大変じゃないの?」

「僕らは群れで狩りをするので、集団で動くのは苦になりません」

「あれ? てことは、リザードマンは集団で狩りはしないの?」

「そうです、集団戦を行うことは稀です」


 リザードマンは、水辺に近付いて来た物を単独で狩るのが普通で、集団戦は個体数が増え、長く雨が続いた時などにしか行わないそうです。


「じゃあ、やっぱりリザードマンも数が増えていたって事なの?」

「その通りです、王よ」


 やっぱり魔の森が活性化しているのでしょうね。


「ラインハルト、連携の訓練なんだけどさ、街道近くの魔物を間引く形で出来ないかな?」

『と言われますと?』

「これまで2回の救出作戦を行ったけど、両方とも魔物の襲撃を受けてるよね」

『そうですな、1度目はオークとギガウルフ、2度目はリザードマンとオーク、確かに……』

「リザードマンに襲われた時は、天候の影響もあったけど、結構危なかったと思うんだよね」

『確かに、ケント様の活躍が無ければ、かなり危うかったかもしれませんな』

「次の作戦は、更に人数が増えるし、眷属を増やしたけど、守るのも大変になると思うんだ」

『なるほど、それで先に魔物の数を減らしておこうという訳ですな』

「そうそう、どうせ訓練するならば、ついでに作戦を安全に進められる下地を作っておけば良いと思うんだよね」

『良いですな、どうせ移動は簡単です、作戦本番までに地均ししておきましょう』

「じゃあ、1週間を目途に、ラインハルトは連携の演習を監督、フレッドとバステンは作戦実行に必要な下調べを進める形で良いかな?」

『ケント様、いよいよ一つの山場です、焦らず、万全を期しましょう』

「うん、みんな、よろしくね!」


 リーゼンブルグに召喚された直後に、たった1人放り出された僕だけど、今はこんなに心強い仲間が出来ました。

 彼等が一緒ならば、必ず同級生達を無事に救出する事が出来るでしょう。


 後は、しっかりとした計画を立てて、実行に移すだけです。

 日が暮れて来たので、ヴォルザードへと戻りしました。


 影の世界でジッとしているとストレスが溜まるだろうから、ザーエ達やアルト達には、訓練場の周辺で自由に過ごしてもらいます。


 ヴォルザードには、ラインハルトとマルト、ミルト、ムルトと一緒に戻りました。

 フレッドとバステンには、ラストックを探りに行ってもらいました。


 登録を終えて、買い物に出かけた同級生達がどうなったのか気になったので、守備隊の宿舎に立ち寄ってみる事にしたのですが、宿舎の影から表に出ると、何だか騒然とした空気が漂っています。

 近くにいた同級生の女の子に訊ねてみました。


「ねぇねぇ、何かあったの?」

「あぁ、国分君。何かあったのじゃないよ、大変だよ、一緒に来て、居たよ! 国分君が居た!」

「ちょ、ちょっと、何、何があったの?」


 クラスが違うので、名前の分からない女の子に引っ張られて行くと、守備隊の詰所の前で深刻な顔をした同級生達の姿がありました。

 僕の姿を見た途端、小林さんが駆け寄って来ました。


「ちょっと、何処行ってたのよ! 探したんだからね!」

「いや、何処にって、森に眷属を増やしに行ってたんだけど、何かあったの?」

「何かあったのじゃないわよ。男子達が乱闘騒ぎを起こして、もう大変なんだから」

「えぇぇ……ちょっと何やってんだよ、近藤は?」

「近藤君も巻き込まれて、怪我して動けないみたい」

「鷹山とかは?」

「守備隊の人に捕まって、取調べ中だよ」

「えぇぇ……取調べって、何やらかしたんだよ」


 小林さん達の話では、日用品の買い物に行った時にヴォルザードの同年代の少年達と口論になって乱闘に発展。

 武器や魔術まで使ったせいで怪我人は出てるし、店が半分焼け落ちたそうだ。


「冗談でしょ? ホントなの?」

「私達が冗談言ってるように見える?」

「女子は大丈夫なの?」

「私らは、あんなバカな事するわけないでしょ」

「男子は?」

「全員拘束されてるし、殆どが怪我してるみたい……」

「もう、馬鹿なんじゃないの……いい加減にしてくれよ」

「で、どうするの?」

「どうするのって言われても……」


 折角、救出作戦の目途が立って気分良く戻って来たばかりで、対応策なんて思い浮かぶ訳もありません。

 途方に暮れていると、詰所からカルツさんが出て来て、向こうも僕を見つけたようでした。


「カルツさん、すみません、同級生がご迷惑を掛けたみたいで……」

「ケント、少し拙いかもしれないぞ……」


 カルツさんが言うには、魔の森に接するヴォルザードには色々な者達が集まってくるので、時には乱闘騒ぎもあるそうなんです。

 ただ、乱闘騒ぎになっても、武器や魔術は使わないという不文律のようなものがあって、そのおかげで今回のような大きな騒ぎにならずに済んでいるそうです。


 それが、昨日来たばかりの余所者が、武器や魔術まで使っての乱闘騒ぎを起こしたとあって、街の人達に反発が広がり始めているみたいです。


「俺達は、ケントがロックオーガから街を救ってくれた事を知っているが、街の人達は知らないからな……それに、話したとしても、それはケント個人の功績だから、騒動を起こした連中には関係ないだろう」

「そう、ですよね……あの、相手の方達も怪我なさってるんですよね?」

「まぁ、怪我は軽い打撲と切り傷程度だし、生活に支障が出るような酷いものじゃない。ただ、靴屋が半分焼け落ちて、商品が殆ど駄目になってしまっていてな……」

「カルツさん、そのお店に連れて行ってくれませんか?」

「行ってどうするんだ?」


 カルツさんは、怪訝な表情で訊ねて来ます。


「とにかく謝って、お店が営業出来なくなれば、当座のお金が必要でしょうから、手持ちのお金でお支払いして、その後、店の商品や建物の損害は別途補償したいと思ってます」

「ふむ……それはケントがやらなきゃいけない事なのか?」

「でも、同級生達はお金持っていませんし、お店の方も困るでしょうし……」

「そうか……分かった、一緒に行こう」

「すみません。本当に、こんな事になってしまって……」


 カルツさんは、僕の肩をポンポンと叩いてくれましたが、申し訳無い気持ちで顔を上げられませんでした。


 カルツさんに付き添ってもらって向かった現場は、酷い有様でした。

 靴屋の店は表側が焼け落ち、辺りには焦げ臭い匂いが漂っています。


 店の中には焼け落ちた建材や、商品と思われる焦げた靴がいくつも転がり、水浸しになっています。

 その靴屋の店先で、呆然と立っている中年の男性に、カルツさんが声を掛けました。


「マルセルさん……大丈夫かい?」

「あぁ、カルツさんか……大丈夫じゃねぇな、明日からどうすりゃ良いんだか……」

「ケント、こちらが靴屋の店主のマルセルさんだ」

「カルツさん、この子は……?」

「昼間の子らの知り合いと言うか……」

「あぁ? あのクソガキ共の仲間か!」


 僕の素性を聞いた途端、それまでガックリと肩を落としていたマルセルさんの眦が吊り上がりました。

 こんな酷い状況に追い込まれたのだから当然ですよね。


「すみませんでした! 本当に申し訳ありませんでした」

「お、おい……お前、何やってんだ……」


 消火のための水で濡れた道に跪き、水溜りに額を突っ込むぐらいの勢いで土下座しました。


「ご迷惑を掛けて申し訳ございません、必ず、お店の損害は必ず弁償いたします。本当に申し訳ありませんでした」

「そんな事言って、お前みたいな子供が弁償なんか出来るのか? 噂じゃ余所から流れ付いて来たばかりだって話じゃないか」

「お金は、必ず、必ず用意します。だから、許して下さい。僕らヴォルザードを追い出されたら行く所が無いんです。お願いします、どうか許して下さい」

「ふざけんな! 俺がこの店をここまでにするのに、どれだけ苦労したと思ってんだ! 許せって言われて、はいそうですかと許してもらえると思うなよ!」

「すみません、本当にすみません。僕には、お店を大きくする苦労とか分かりません。お金を用意するしか出来ないのですが、どうか、どうか……ぐぅ」


 土下座している頭を踏みつけられて、額がゴリっと水溜りの底に押し付けられました。


「ふざけるな、金さえ払えば許されるなんて思うなよ!」

「マルセルさん、そのぐらいにしてやってくれ……」

「なんだ、カルツさん、こんなガキの味方をするのか? 余所者と街の者、どっちを守るのが守備隊の仕事だ!」

「マルセルさん、このケントは、ヴォルザードにとっての恩人なんだ」

「はぁ? こんなガキが恩人?」

「あぁ、ケントは闇属性の術士で、先日襲って来たロックオーガの群れを撃退してくれたのは、ケントが使役しているスケルトンなんだよ……」

「こんな子供が……?」

「信じられないかもしれないけど、これは本当の話なんだ。彼が居なかったら、最悪ヴォルザードの街は、ロックオーガに蹂躙されていたかもしれないんだ」

「で、でもよぉ……こんな子供に店の弁償なんて……」

「それだけ強力な魔物を使役できるんだ、魔物を討伐して魔石を回収出来るだろうし、俺はケントが街に来た時から知っているけど、真面目で信頼出来る少年だ。マルセルさん、俺からも頼むよ、どうか許してやってくれないか?」

「ま、まぁ……カルツさんが、そこまで言うなら仕方ねぇ……でも、払うものは、きっちり払ってもらうからな!」

「はい、あの……これはご迷惑掛けたお詫びとして、当座の繋ぎに使って下さい」


 僕は頭を下げたまま、用意しておいた1万ヘルトの入った袋を差し出しました。


「お前、これ……」

「お店の弁償は、これとは別にお支払いします、どうぞ収めて下さい」

「あぁ……分かった、分かった。そんな格好されてたら、俺の方が悪者に見えちまう。目障りだ、とっとと帰れ!」

「はい、また改めてお伺いします、本当に申し訳ありませんでした」


 もう一度、水溜りに額を突っ込むほど頭を下げてから起き上がると、マルセルさんの姿は無くなっていました。


「ケント、とりあえず守備隊の宿舎に戻って泥を落せ……」

「はい、すみません。面倒を掛けました……」

「マルセルさんも、こんな事になったばかりだからな、気持ちの整理も付かないし、感情を抑えられなかったんだろう」

「はい……分かってます」

「少し落ち着いた頃に、今後の話をした方が良いだろうな」

「はい……そうします……」


 自分で土下座して、自分で汚れたのに、情けなくて涙が溢れて来ました。

 涙を拭おうをすれば泥が目に入ってしまいそうで、どうせ濡れてるから分からないだろうと、そのままにしていたんだけど、嗚咽を堪えられなくなってしまいました。


「うぅ……うぐぅぅぅ……うぅぅぅぅ……」


 同級生達を受け入れてもらえるように今まで奔走して来た事も、一緒に焼け落ちてしまったような錯覚に囚われてしまいます。

 カルツさんは、自分の制服が汚れるのも構わずに、僕の肩をしっかりと抱いて支えてくれました。


 守備隊の宿舎で風呂を借りて、影収納から出した服に着替えました。

 汚れは洗い流したのですが、全然気分はさっぱりしていません。


 それでも、顔を合わせない訳にはいかないので、男子が拘束されている建物へと向かいました。

 同級生の男子は、傷の手当を受けた後、3つの牢に分けて入れられていました。


「うぅぅ……いてぇ……いてぇよぉ……」

「ちくしょう、ふざけやがってよ……」

「おーい! 早く出してくれよ!」


 牢の外に洩れてくる声からは、反省している様子は欠片も感じられません。

 カルツさんと一緒に牢がある建物に入ると、みんなの視線が一斉に向けられました。


「国分! お前、今まで何やってたんだよ!」

「おい、早く出すように言ってくれよ!」

「国分、お前がしっかり準備しないからだぞ……」


 八木も、古田も、鷹山も、好き勝手な事を言ってきて、いくら僕でもキレちゃって良いですよね。


「うるさい! 黙れよ、この馬鹿共が!」


 思いっきり怒鳴り付けながら、牢屋の格子を力一杯蹴り付けると、さすがの馬鹿共も静かになりました。


「お前らを受け入れてもらうために、どれだけ頭を下げて、どれだけ苦労してきたのか知りもしないで、勝手な事言ってんじゃねぇよ! ふざけんな!」


 こんなに怒鳴り散らしたのは、人生でも初めてだと思います。


「お前らの処分は、守備隊の方々に一任した! ここヴォルザードの法律に従って厳正なる処分を下してもらうからな!」

「おまっ、何言ってんだよ……」

「うるせぇ! 黙れ! 今は僕が話してんだ、口を挟むな!」


 ガセメガネが下らない事を言いそうだったので、怒鳴りつけて黙らせました。


「火事で焼けてしまった靴屋さんへの賠償も僕がやる。その代わり、ここに居る男子30名に対しては、今後一切の援助を打ち切る。住む家も、食う金も、全部自分で何とかしろ!」

「ふざけんな、どうやって暮らせって言うんだよ」

「うるせぇよ、そんなもん自分で考えろ! 何から何まで僕に頼りやがって、お前らの面倒を見る義理なんかねぇよ! そんなに嫌なら、隷属の腕輪を嵌めてラストックに送り返してやろうか? カミラに使い潰されて魔の森で野たれ死ぬか? 奴隷状態から解放されて、自分で働いて稼げる状況を作ってやっただけでも有り難いと思え! 甘ったれんな!」


 もう一度、牢屋の格子を思いっきり蹴り付けてから、出口へと向かいます。


「おい、ちょっと待て、待ってくれ……おい、国分!」


 ガセメガネが何やら喚いていたけれど、耳を貸さずに建物の外へと出ました。

 これから女子のみんなに話をして、その後は、ドノバンさんに謝罪に行って、委員長に報告……クラウスさんにも謝罪に行かないと駄目だよね。


 カルツさんに後を頼んで、女子のみんなが待っている会議室に向かったんだけど、途中で気力が折れて宿舎の壁にもたれて座りこんでしまいました。

 あぁ、もう勘弁して欲しいよ。


「ご主人様、大丈夫……?」

「元気出して……」

「うちらが付いてる……」


 回りに誰もいないのを確認したのか、ひょこっとマルト、ミルト、ムルトが出て来てペロペロと顔を舐めてきました。

 堪えきれずに流した涙も、3頭がペロペロと舐め取ってしまいます。


 正面に居たミルトをぎゅっと抱きしめて、モフモフに癒してもらいました。

 もうちょっとだけ、頑張れそうです。

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