第44話 御者を目指そう!

 眠り薬を使った救出作戦の話をして、馬車を動かすための訓練をすると決めた後、先に救出した5人とこれからの話を始めた時でした。


「元の場所になんか戻ったら、駄目に決まってるだろう」


八木が言い放った言葉に、すぐさま小林さんが抗議の声を上げます。


「ちょっとガセメガネ、あんた帰りたくないの? 一生こっちの世界に居たいの?」

「そうじゃねぇよ。そういう意味じゃねぇ。早とちりすんなよ」

「じゃあ、どういう意味よ。言ってみなさいよ」

「俺達は校舎の三階に居る時に召喚されたんだぜ、まったく同じ場所に戻ったらどうなるのか考えてみろよ」


 八木の言葉を聞いて、僕らは顔を見合わせました。


「取り壊し中なのか、建設中なのか、学校がどうなってるのか分からねぇけどよ。そんな所に地上3階の高さから落ちたらどうなるよ? へたすりゃ元の世界に戻った途端に死んじまう……なんて事にもなりかねないだろう」

「じゃ、じゃあどうすんのよ」

「そんなの俺に分かる訳ねぇだろう。 でも、考え無しに戻ったら大変な事になるのだけは確かなんじゃねぇの?」

「私達……ちゃんと帰れるのかな?」


 思わず洩らした桜井さんの一言は、全員が抱えている不安でもあります。


「あの王女、当然戻れるって言ってたけど……」

「腕輪は魔力の暴走を防ぐため……なんて、平気で嘘ついてやがったからな」


 新旧コンビが言う通り、今となってはカミラの言葉の何処までが本当なのか分からないし、嘘である可能性の方が高いように感じます。


「ねぇ国分、そっちの情報は無いの?」

「うん、みんなを救出する方を優先してたから、召喚や送還に関する情報はまだ調べてない状態なんだ」

「救出が終わったら、カミラと交渉になるんだろうけど、それとは別で探った方が良いんじゃね?」

「そうだよね、第三王女が知ってるなら、他の王族とか書物とかに情報ありそうだもんね」


 八木の言葉通り、カミラ以外からも日本への帰還方法を探った方が良いでしょうね。


「なぁ……俺達さぁ、このまま日本に帰るだけで良いと思うか?」


 八木が他の5人を見回しながら問い掛けてきました。


「このまま帰るだけって……どういう意味よ」

「ずばり、賠償金だよ。 こんだけ酷い目に遭って、船山なんか死んでんだぜ、何の賠償も無しで帰って良いのかよ?」


 小林さんの問い掛けに、八木は親指と人差し指で輪を作り、賠償金の要求を示唆しました。


「賠償金って言っても、こっちのお金を持って帰っても意味無いんじゃない?」

「アホ、国分のアホ! そんなの当たり前だろう。金は金でもきんとか銀とか、貴金属で要求すんだよ」

「あぁ、なるほど……」

「カミラのやつが言ってたじゃんかよ、手柄を立てて褒美を貰って帰るか、それとも死か……って、その褒美、というか賠償金を貴金属で用意させて持ち帰るんだよ」


 さすがニート一直線のガセメガネだと言うべきか、確かにこれだけの迷惑を被っているのですから、何らかの賠償があっても良いですよね。

 賠償金の話が出れば、当然責任論にも目が向けられます。


「八木よぉ、金をふんだくるのは良いとして、王女はどうすんだよ。生かしておくのか?」

「船山を殺してんだ、当然死刑じゃねぇの?」

「賠償金を要求して、その上、王族の処刑とか無理じゃないの?」

「処刑するなら直接手を下してた騎士じゃない?」


 新旧コンビと凸凹シスターズでは、微妙に温度差があるようにも見えます。


「国分、お前はどう思ってんだよ?」

「うーん……どうしようかねぇ」


 八木に訊ねられて自分でも驚いたのですが、船山が死んだ直後のように強い殺意が湧き上がってきません。

 プロジェクト・メイサで溜飲を下げたからなのか、カミラが砂漠化に苦しむ民衆を憂慮しているからなのか、まだ船山が死んでから10日ほどしか経っていないのに、罪を償わせれば命までは……みたいな気持ちになっています。


「えーっと……日本の法律だと、どうなるんだろう?」

「はぁ? 日本の法律だぁ?」

「いや、こっちの法律だと、王族が平民殺したぐらいじゃ罪にならなそうだから、日本だったらどうなるのかと思ってさ」

「日本の法律では1人殺したぐらいじゃ、死刑にならないんじゃなかったか?」

「あれは、殺人になるのかな? それとも業務上何とか致死とか?」


 僕の話に体育会系の新旧コンビや凸凹シスターズは首を捻るばかりで、自然と話の相手は八木になっていきます。


「暴行を加えて、翌日になったら死んでた……みたいな感じだから、傷害致死とかになるのか?」

「カミラは直接手を下してないけど、監督する立場ではあったんだよね?」

「そうなると、業務上過失致死とかになるのか? そんなん俺にも分かんねぇよ!」

「うん、でもさ、何の基準も無しに、こっちが1人死んだから、そっちも1人殺せ……的なのは、分かりやすいけど解決にならないような気もすんだよね」

「いっそ、騎士を皆殺しじゃ駄目なのか?」

「それは駄目でしょう、騎士がいなくなったら、川を超えて魔物がラストックに侵入した場合、誰が街を守るのさ」

「そんなの……俺らの知った事じゃないんじゃねぇの?」

「それで犠牲になるのって、何も知らない子供とか女性だと思うけど、それでも良いの?」

「いや、それは……」


 平和な日本で育って、平和ボケしていると思われるかもしれないけど、殺して解決って言うのは何か違うと思うんだよね。


「それにさ、カミラが嘘をついていて、僕らに帰る方法が無かったら、騎士を殺した恨みを向けられたまま、こっちで生活していかなきゃいけなくなるんじゃない?」

「じゃあ、どうすんだよ」

「うーん……八木が言ってた賠償金にプラス懲役刑……みたいな?」

「何か納得いかねぇなぁ……でも、そんなものか?」

「最終的な交渉は先生……って、そう言えば、先生達は?」

「知らねぇ…… こっちに来て、魔力の判定を受けた後は、別の馬車に乗せられてたような……」


 新旧コンビや凸凹シスターズも首を横に振って、見ていないようです。


「てか、彩子先生は居たよね?」

「彩ちゃんは……あの姿だから生徒と思われちゃったんじゃない?」

「まぁ、彩子先生については納得だけど、他の先生が居ないんじゃ困るよね?」

「別に……困らないんじゃね?」

「いやいや、一緒に戻らないと何かと拙いでしょ、関係各所への対応とか、マスコミ対応とかさ……」

「まぁ、置いていく訳にもいかねぇか……でも、何処に居るんだ?」


 訓練だとか、魔術とかに気を取られて、先生達の姿が無いことに気付きませんでした。


「えぇぇ……また問題が増えちゃったのかぁ」

「てか、何でもかんでも国分がやらなくても良いんじゃねぇの?」

「八木、まだラストックに居たら、そんな言葉は言えないんじゃない?」

「うっ……それもそうだな」


 5人には、明日から馬車関連の訓練をするつもりで、ここに待機してもらい、僕は下宿に戻りました。

 救出作戦の方針は決まったものの、先生達の所在が分からないという問題が増えてしまい、上手く行かない焦燥感が強まったように感じます。


 5人と思ったよりも話し込んでしまったようで、朝の早いアマンダさん達は既に就寝しているようでした。

 鍵を締めてしまっても、影を使って移動が出来るから大丈夫と伝えてあるので、家のドアには施錠がされていたので、影移動で直接自分の部屋へと戻りました。


『はぁ……何だか疲れた』

『ケント様……聖女様のケアは……?』

『あっ、いっけない……忘れてた!』


 急いでラストックの部屋に行きましたが、既に委員長は寝息を立てていました。

 起こさないように気を付けながら、治癒魔術を流すだけで、今夜は許してもらいましょう。


 ヴォルザードの下宿に戻ると、ラインハルトに言われてしまいました。


『ケント様、少々無理が過ぎるように思われますぞ』

『うん、確かにちょっとね……でも、今は無理しないと駄目な気がする』

『ですが、ケント様が倒れたら、その時点で計画は破綻しますぞ。 そうなれば御学友に危険が及びかねませんぞ』

『それも、そうなんだけど……気持ちが焦っちゃって』

『とりあえず、今夜はもう休んで下され。教師の件は、フレッドとバステンに探らせます』

『ごめん、よろしくね……』


 ラストックとヴォルザードを行ったり来たり、あれこれと手出ししているせいか、やっぱり疲れていたみたいで、ベッドに横になると直ぐに眠りに落ちました。


 夢の中で、委員長の寝室に行き、眠っている委員長をケアしようとすると、むくっと起き上がってきたのはベアトリーチェで、逃げる間も無く唇を奪われ、呆然としているとベアトリーチェがマノンに替わってビンタを食らって目を覚ましました。


 うーん……登場人物が増えてる割には結末が良くなってないのは、どうしたものでしょうかね。

 寝覚めは今いちでしたが、夜中の特訓をしなかった分だけ疲れが抜けた感じがして、気分がスッキリしました。


 焦っても、落ち込んでも問題は解決しないので、前向きな気持ちだけは失わないようにしましょう。


『おはようございます、ケント様』

『おはよう、ラインハルト、早く寝たから疲れが取れた気がするよ』

『それは良かったですな、それと例の教師達ですが、居場所が分かりましたぞ』

『えっ、もう分かったの?』


 僕が眠っている間に、フレッドとバステンが探し出してくれたようです。


『ラストックの外れ……別の建物に監禁されてる……』

『そこは駐屯地からは離れているの?』

『街を出て、麦畑の向こう側になりますね、少し距離があります』

『なんで先生だけ別にしてるんだろう?』

『恐らく、生徒達を統率する立場の者を排除したのでしょうな』


 ラインハルトが言うには、学校などの組織の場合、教師は生徒を統率する役割を担っています。

 その役割のまま統率させた方が良い場合もあるけど、今回のように厳しい環境では叛乱のまとめ役になりかねないので隔離するそうです。


 あくまでも統率をするのはリーゼンブルグの騎士なのだと、囚われた者達に思い知らせる狙いがあるらしいです。


『先生達は、そっちの施設でどんな状況に置かれているの?』

『まだ場所を見つけただけ……詳しい状況は不明……』

『そうだよね、昨日の晩に探し始めたんだもの分かる訳ないよね』

『ただ、あまり良い環境には置かれていないようです』


 施設の設備や、寝具などを見て回っただけみたいですが、駐屯地の宿舎と同等か、それよりも劣る感じがしたようです。


『当然、そっちの施設にも騎士が常駐してんだよね?』

『勿論……でも多くはない……』

『隷属の腕輪を嵌めているからでしょうね。脱走や叛乱を想定していないようですが、宿舎の出入り口には鍵が掛けられています』


 先生は女性2名、男性4名の計6名(彩子先生は除く)で、女性といっても2人ともおばちゃんですし、男性教師も理科の古館先生が比較的若い以外は中年のおっさんばかりです。


 保健体育の加藤先生は、中年と言って動けそうな感じはしますけど、それでも騎士の人達と較べると体格的に見劣りするような気がします。

 うーん……ぶっちゃけ戦力としては見ない方が良さそうな気がしますね。


 先生達の監禁されている施設を含めて、ラストックの地図を作ってもらう事にして、とりあえず朝食を済ませて守備隊の宿舎に向かいましょう。


「アマンダさん、おはようございます」

「あぁ、おはようケント、昨日は遅かったのかい?」

「はい、今後の事とかを少し話し込んでいたので遅くなりました」

「あんまり遅くまで出歩く……まぁ、ケントは護衛が居るから大丈夫か」

「はい、ですけど、なるべく早めに帰るようにしますね」

「あぁ、そうしておくれ、その方が安心だからね」


 心配してくれる人が居るというのは、嬉しい事なんですね。


「そうだよ、ケントは早く帰って来ないと駄目なんだからね」

「メイサちゃんも、僕を心配してくれるの?」

「ケントが帰って来ないと、スケルトンのおじちゃん達も戻って来てくれないんでしょ? だから早く帰って来ないと駄目なの」

「ぐぅ……メイサちゃん、ラインハルト達が戻って来ても、おねしょの心配はなくならないからね」

「きぃぃぃ……しないもん! もう、おねしょなんかしないもん! ケントのバカ、バカ、マノンちゃんにも、ベアトリーチェさんにも振られちゃえ!」

「ぐはぁ……そうだよ、マノンの誤解が解けてないんだよ」


 守備隊に行って、馬車関連の訓練をしてもらう話を付けたら、そのまま訓練に入るだろうし、昼休みにはラストックに行って委員長のケアもしないと駄目だし、ドノバンさんにはどのタイミングで報告したものか……あぁ、身体がもう一つ欲しい。


「ほらほら、朝食にするよ、しっかり食べて今日も一日頑張るんだよ」


 そうです、やっぱりシッカリと食事を摂らないと、一日頑張れませんもんね。

 朝食の後は、裏通りを抜けて守備隊の宿舎へと向かいました。


 目抜き通りには危険が潜んでいそうですから、これも生活の知恵というやつですよ。

 守備隊の宿舎には、折り良くカルツさんが居てくれたので、馬の扱いの訓練について話をしました。


「なるほど、馬車ごと逃げて来ようという訳だな」

「はい、たぶん馬を馬車に繋ぐところから習わないと駄目かと……」

「いや、ケント、最初はハミを着けるところからだな」

「ハミ……ですか?」


 ハミとは、手綱の先、馬が咥える部分の金具だそうです。

 その他にも馬車に繋ぐための装具を着ける必要があるらしく、聞いただけでも前途多難という感じです。


「まずは馬に慣れて、それから装具の付け方、そして実際に繋いだ馬車を動かすという感じでやろうか」

「はい、とにかく何も分からないので、よろしくお願いします、馬の世話とかやりますので……」

「そうだな、その方が早く馬にも慣れるだろうし、頼むとするか」


 カルツさんの了承が得られたので、僕らは馬の世話などの仕事をする代わりとして、馬の扱いを習う事になりました。

 5人を連れて厩へと向かったのですが、心配していた八木が思いの外しゃきっとしていたのには驚きました。


「国分、お前なぁ……救出作戦の成否に関わる事までダラダラやる訳無いだろう」

「そうか……てか、毎日その調子でやってよ」

「はん……そいつは無理な相談だ!」

「いや、それ威張って言う事じゃないからね」


 カルツさんが紹介してくれたのは、レイモンドさんというベテランの厩務員さんでした。

 目尻に深い笑い皺がある身体の大きな方で、頭の上に丸い耳がピコピコしている熊の獣人さんです。


「いいかい、これだけは絶対に守ってくれよ。馬の後には立たない! 絶対だぞ、君らだって蹴られて死にたくはないだろう?」


 馬は視野の広い臆病な動物だそうで、不用意に後ろから近付くと後脚で蹴り上げることがあるのだそうです。

 それと、こちらがビクビクしていると、それが伝染したりするので、落ち着いて、こちらには害意が無い事や、使う道具を示してやると安心するそうです。


「守備隊や、君たちが拝借する、あちらの騎士団の馬も、きちんと調教がされているはずだ。 でなければ、肝心な時に役に立たないからな」


 言われてみれば確かに、騎士団に居る馬が野生の本能剥き出しでは、役目を果たせませんもんね。

 ズブズブの素人な僕らよりも、馬の方が遥かに経験豊富だろうし、むしろ馬の働きを阻害しないように気を付けないといけませんね。


 レイモンドさんから注意を聞いた後で、いよいよ馬とご対面となったのですが、当たり前ですが大きいですよね。


「いやーん……目がクリクリしてて可愛い!」

「ホント、優しそうな感じ」


 おう、凸凹シスターズ、怖いもの知らずといった感じですね。


「和樹、この筋肉の付き方が素晴らしいな」

「全くだ、走るために鍛えられたという感じが良いな」


 うん、新旧コンビも違った意味で興味津々といった感じだね。


「どうしたの八木、もっと近くで見れば?」

「おっ? おう……てか、国分も近くに行けよ」

「えっ、ぼ、僕は、後でいいよ」

「てか、お前が言い出したことだろう」

「そ、そうなんだけどさぁ……」


 何だか齧られそうで、ちょっと怖いんですよね。


「ほら、そこの2人、そうやってビビってると、余計に馬が警戒するぞ」

「い、いや……ビビってるのは国分だけで、俺はそんなじゃ……」

「な、何言ってるのかなぁ……僕はそんなに……おわぁ……」


 ごめんなさい、馬怖いっす、元々動物とか飼った事無いし、大きい犬とかも苦手なんだよね。

 でも、いつまでもビビってる訳にはいかないので、恐るおそるだけど触ってみましたよ。


「おう、温かい……」

「アホ、国分のアホ、生きてるんだから当たり前だろう」

「いや、そりゃそうなんだけどさぁ」

「これよりデカい狼の魔物は平気で倒すくせ、何ビビってんだよ」

「いや、あれは倒すだけだから、別に怖くも何ともないけど、こっちは戦うんじゃないからさ……」


 まぁ噛まれたり、蹴られたりしても自己治癒を使えば何とかなると考えたら、少し気分が楽になりましたよ。

 今日は馬に慣れるという意味で、引き綱を付けて、引き運動をする事から始める事になりました。


 守備隊には多くの馬が居るので、1人に1頭ずつの馬が割り当てられました。


「よし、坊主にはこのスナッチだ」


 僕に割り当てられたのは栗毛の牝馬で、左の後脚の先だけ白い毛が生えていて、そこだけ靴下を履いているようです。


「よろしくね、スナッチ」

「ぶるるるぅぅぅ……」

「お、おぅ……」


 馬に詳しい訳ではないので良くはわかりませんが、こちらの馬はサラブレットよりも骨太でガッチリしているような気がします。

 レイモンドさんに教わりながら、引き綱を繋ぐための装具を頭に着けて、それから引き綱を繋ぎ、いざ引き運動へと出発です。


「って、ちょっとスナッチ、何処に行くの! 待って待って、スナッチ……」


 他の5人の馬は大人しく止まっているのに、何故だかスナッチは僕を引き摺るようにして、どんどん歩いていってしまいます。

 引き綱を持って踏ん張ろうとしたのですが、思っていたよりも力が強くて止められません。


「ひゃっひゃっひゃっ、国分、どこまで行くつもりだ?」

「知らないよ! スナッチに聞いて!」


 スナッチは、馬場の近くにある砂場まで僕を引き摺っていくと、いきなり寝転んで身体を砂に擦り付け始めました。

 足を上に向けてお腹丸出しで、ごろんごろんと砂の中で転がって遊んでいます。

 えぇぇ……ちょっと何やってるの?


「おう坊主、悪いな。こいつは砂浴びに目が無くってな」

「砂浴び……ですか?」

「あぁ、こうやって砂に身体を擦り付けて、寄生虫を落としているって言われてるけど、野生と違って寄生虫なんか付いてないから、単に気持ちが良いんだろう」

「はぁ……そうなんですか」


 まぁ、確かに気持ち良さそうには見えますが、なんだか犬とか猫みたいで、馬っぽくないですよね。

 スナッチは、暫く砂場でゴロゴロと転がっていましたが、不意にすくっと立ち上がってブルブルっと身体を震わせて砂を落すしました。


 砂浴びには満足したのか、どうした運動に行くんじゃないのか?といった顔で僕を眺めています。

 ニヤっと笑ったように見えたのは、気のせいじゃないよね。

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