第43話 ボンボンと取り巻き達
ギルドの訓練場を覗いてみたのですが、既に講習は終わったみたいで、八木達の姿はありませんでした。
ギルドの中も見回してみたのですが、酒場の方にも居ないようなので、もう帰ったのでしょう。
こうなると、街に出掛けているか、宿舎に戻っているかですが、夕食が終わった頃に宿舎を訪ねた方が確実だと思い、一旦下宿に戻る事にしました。
夕日が空を赤く染めていて、目抜き通りは夕食の買い物をする人で賑わっています。
今日の夕食は何だろう……なんて呑気に考えながら歩いていたら、ラインハルトが警告してきました。
『ケント様、囲まれていますぞ』
『えっ……』
ぼーっとしていて気付きませんでしたが、少年が3人立ち塞がり、後ろを振り返ると、更に2人の少年が立っています。
3人の真ん中に立っているのは、今朝、僕を睨み付けていた仕立ての良い服を着た少年です。
「お前、ちょっと顔貸せよ……」
「はぁ……一体なんの用?」
「いいから付いて来い、おいっ!」
後にいた2人が、少年の指示に従って僕の両腕を逃げられないように掴みました。
たぶんベアトリーチェと同じ年、僕よりは一つ年下のはずですが、身長だけなら少年達の方が高いぐらいです。
『ケント様、蹴散らしますか?』
『ううん、まだいいよ。用件は分かってるけど、この先も付きまとわれるのは面倒だから、話だけは聞いておくよ』
『なるほど……まぁ、大丈夫でしょうが、万が一の場合には手出ししますぞ』
『その時は、お手柔らかにね……』
連れて行かれたのは、くねくねと路地を通り抜けた先にある空き地で、どうやら少年達のたまり場のようです。
三方を建物に囲まれた猫の額ほどの空き地で、出入口は歩いてきた路地しかありません。
その空き地の中央へ突き飛ばされ、5人が路地を塞ぐように並びました。
5人の顔ぶれを眺めると、いかにも金持ちそうなボンボンと、その取り巻きという感じで、僕より身長が小さい少年が1人、同じぐらいの少年が1人、腕を抱えていた2人は僕よりも背が高く見えます。
ボンボンも僕と同じぐらいの身長ですが、プヨプヨしてそうですね。
日本に居た頃の僕だと、自分より小さい少年との喧嘩でも、勝つ自信はありませんでしたが、ヴォルザードに来て以来、目茶苦茶な特訓をしてきたおかげで、たぶん誰とやっても負けないでしょう。
ただし、それは1対1の話で、5人まとめて相手するほどの自信はありませんね。
「それで、僕に何の用かな?」
「ベアトリーチェさんに慣れ慣れしく近付くな!」
やっぱりか。あの状況で、この状況だものね、たぶんベアトリーチェに恋してるんだろうね。
でも、大丈夫かね、あのチョイ悪親バカオヤジを撃破しないと実らない恋だよ。
「最初に言っておくけど、僕から近付いた訳じゃないからね」
「お前……それじゃあベアトリーチェさんから近付いたって言うのかよ」
「親しくなった切っ掛けは、御屋敷でこなした依頼だけど、今朝近付いて来たのはベアトリーチェの方からだよ……って、見てなかったの?」
「こいつ……」
あぁ、キスシーンを思い出したんだろうね、こめかみの血管が切れそうになってるよ。
てか、僕も気恥ずかしくなってきたんですけど……。
「それじゃあ、お前はベアトリーチェさんに近付くのをやめないって言うんだな?」
「特に用事が無ければ近付かないよ、クラウスさんがおっかないしね」
そう言ってやると、ボンボンはチョイ悪親バカオヤジを思い浮かべたのか、顔を顰めましたね。
ヴォルザードの領主だし、城壁工事にも毎週参加してる肉体派だからね、敵に回すと手強そうだよね。
「それに、ベアトリーチェから近付いて来るのは、僕にはどうにも出来ないし、そもそも、そんな事を君に指図される言われも無いからね」
「こいつぅ……」
ボンボンは拳を握り締めて、ワナワナしてるけど、自分では殴り掛かって来ないようですね。
たぶん、殴りたい気持ちと、殴られたらどうしようという気持ちがせめぎ合ってるんじゃないかな。
なんか、自信が無かった頃の僕を見ているみたいですね。
取り巻きの2人に腕を掴まれたままだったら、こんなに余裕ではいられなかっただろうけど、3メートルほど離れて対峙しているから怖くも何ともないですね。
「お前ぇ、今の状況ぉ、ちゃんと分かってんのぉ?」
ボンボンの隣に居る小さいのは、典型的な腰巾着みたいですね。
身体つきもヒョロいし、ガチで殴ったら弱い者いじめになりそうです。
「お前ぇ、ナザリオわぁ、オーランド商店のぉ、後継者なんだぞぉ」
うん、何だかとっても腹立たしい話し方なんで、グーパン食らわせてもいいですかね。
「ごめん、僕は他の街から来たんで、オーランド商店って知らないんだけど」
「マジかぁ! お前、田舎者だなぁ」
「カッツェ、もういい。おいっ、ナーゴ、ロドス……可愛がってやれ……」
ボンボンのナザリオが、腰巾着の言葉を遮ると、身体の大きな2人に指示を出しました。
うーん……お約束すぎる展開で、面白みが無いですねぇ。
というか、暴力沙汰とかは、後々更に面倒そうなんで、ここは退散させていただきましょう。
「よう、チビ、覚悟しろ」
「ベアトリーチェさんが近付く気にならない顔にしてやるよ」
「うん、勿論お断りするよ」
二人の手が届く前に、自分の後ろに闇の盾を出して、そのまま中へと入り込みました。
そして闇の盾を消してしまえば、もう追って来るのは不可能です。
「なんだ? あいつ、何処に行きやがった」
「おい、何だよ今の……消えたぞ」
ナーゴとロドスは、僕が居た辺りで手を振り回したり、地面を踏みしめたりして行方を捜しているけど、見つかる訳が無いよね。
『まったく災難ですな、ケント様』
『うん、同級生をヴォルザードに受け入れてもらわないといけないから、余計な暴力沙汰とかは困るんだよね』
『そうですな、ですがケント様、あのギリクには好戦的でしたぞ』
『だって、ギリクは越えるべき壁みたいなもんだから……まぁ、勝手に自滅したけど……』
『ですがよろしいのですか、これではまた絡んで来ますぞ』
『そうだねぇ……まぁ、その時は、その時で考えるよ、とりあえず帰って夕ご飯だね』
まだ空き地でキョロキョロしているボンボン達を放置して、さっさと下宿に戻りました。
「ただいま戻りました……って、メイサちゃん、何してんの?」
下宿に戻ってアマンダさん達に声を掛けると、腕組みをしたメイサちゃんが、口をへの字にして睨んできました。
「お母さん、このケントは本物かな?」
「ちょっと、メイサちゃん、僕の偽者なんて居ないでしょ、どうしたのさ」
「ケント、ベアトリーチェさんとキスしたって本当?」
「えぇぇ! どこでそんな話を……」
「学校で、みんなが話してた。 黒髪の小さい人にキスして、ケント様って呼んでたって」
「うっ、あれは、僕がした訳じゃなくて、ベアトリーチェが……」
「ぬぅぅ……全然釣り合わない」
「ぐあぁぁ……そんなの僕だって分かってるよ」
メイサちゃんの辛辣な一言に、膝から崩れ落ちそうになったよ。
ベアトリーチェは、ヴォルザードの学校では最上級生で、領主の娘でもあるから全校生徒の誰もが知る存在なんだそうです。
勉強も優秀だし、下級生にも親切だし、男子生徒のみならず、女子生徒の憧れでもあるそうです。
そのベアトリーチェが、朝っぱらから目抜き通りの真ん中で、学校の生徒は知らない男子にキスしていたと、もの凄い話題になっていたらしい。
マジで頭が痛くなってきちゃったよ。
「はぁ……もう勘弁してよ」
「ケント、ベアトリーチェさんを脅してるじゃないでしょうね?」
「そんな事する訳ないでしょ、領主さんの娘だよ、ヴォルザードに居られなくなっちゃうよ」
「うーん……じゃあなんで? なんでベアトリーチェさんはキスしたの?」
「知らないよ、僕が教えてもらいたいよ」
メイサちゃんにしてみれば、憧れの上級生が冴えない下宿人とキスしたのが信じられないんでしょうね。
ええ、どうせ釣り合いなんか取れてませんよ。
「メイサ、そこで喋ってて店手伝わないなら、ケントと一緒に上に行ってな!」
「手伝う! ケントは邪魔だから上に行ってて!」
「はいはい、分かりましたよ……」
眠り薬を使った救出作戦を進めなきゃいけないのに、何だかとっても面倒な事態になりそうな気がして憂鬱です。
マノンの誤解も解かなきゃいけないのに、チョイ悪親バカオヤジも参戦して来そうな悪寒がしますよ。
とりあえず、救出作戦の方を最優先で進めるために、王都でのバステンの偵察は中断してもらいます。
『ごめんね、あっちやれ、こっちやれと我侭言っちゃって』
『いいえ、構いませんよ、まずは御学友の救出が先ですから』
ラインハルト達三人には、最初に確認しておきたい事があります。
『ねぇ、みんなは、僕と同じ様に直接他人の胃袋に丸薬は放り込める?』
『問題ありませんぞ。我々は言わばケント様の眷属ですからな、影になる場所ならば何処にでも入り込めます』
『と言う事は、僕ら4人で手分けして騎士達を眠らせられるって事だよね?』
『そうですな、あの駐屯地に居る騎士の数は多くないですから、手分けすれば然程の時間も掛けずに眠らせられるでしょう』
フレッドが調べたところでは、ラストックの駐屯地に居る騎士は、カミラ以下班長クラスの者を加えても、117名だそうです。
『分かった、じゃあ、まず最初は何から手を付ければ良いかな?』
『そうですな。まずは、いつ仕掛けるかですな。 昼間と夜とでは、騎士の配置がまるで違います。 眠らせる事を考えるならば、配置の分かりやすい夜間が良いでしょう』
『そうだよね。昼間は訓練とかで動き回るもんね。 フレッド夜はどんな感じ?』
『門番……哨戒……あとは宿舎の警戒を少し……』
隷属の腕輪を嵌めているからか、駐屯地自体の警戒はさほど厳しくないそうで、それよりも川を渡って魔物が街に入り込んで来ないか、そちらの警戒の方に多くの人数が振り分けられているそうです。
『駐屯地の見取り図とか、あった方が良いよね?』
『勿論ですな、何処に誰が居て、何があり、何処を攻めるなど、図に書き込んだ方が分かりやすいですな』
『フレッド、お願い出来るかな?』
『以前頼まれたから……もう出来ている……』
フレッドには船山が死んだ時に、見取り図の作成を頼んであります。
貼り合わせた大きな紙には、駐屯地全ての建物、その目的、保管している物品の種類などが事細かな書き込みがされていました。
さすがフレッド、仕事が早いし正確です。
『バステンは、跳ね橋の詰所の人員配置と哨戒のルートを探ってもらえる?』
『分かりました。跳ね橋の操作自体は一般的なものでしょうが、一応確認しておきます』
『敵の警備の位置、騎士が寝ている場所、それと……馬車か』
『厩の場所も調べておかないといけませんな』
『そうだね、馬が居なくちゃ進まないもんね』
やはり攻め入るというか、侵入して助け出すとなると、色々と確認しておく必要が出てきます。
『夜中に同級生達を助け出して、夜が明ける前に馬車で移動を始めれば、その日の夕方にはヴォルザードに着けるかな?』
『何事も無ければ、大丈夫でしょう』
『だとしたら、食料は軽食を二回ぐらいで良いかな?』
『ケント様、馬の飼い葉や水を与えることも考えておかねばなりませんぞ』
『そうか、馬も生き物だなんだよね。 お腹も減れば喉も渇くものね』
飼い葉は、カルツさんに頼んで守備隊から融通してもらいましょう。
水は、桶だけ用意すれば、影移動を使ってラインハルト達に汲んで来てもらえるでしょう。
必要な物資の確保は難しくありませんが、馬車の準備は問題になりそうです。
僕も八木達5人も馬車を動かした経験なんかありません。
手綱をどう動かせば良いのかも分かりませんし、おそらく当日には、馬車に馬を繋ぐ事から始めなければならないでしょう。
数日で覚えるのは難しいような気がしてきました。
『馬車で移動した方が早いんだろうけど、僕らが馬車の扱いに慣れるまで時間が掛かりそうな気がするんだよね』
『そうですな。まず馬に慣れる事から始める状態ですと、それなりに時間は掛かりますな』
『いっそ、当初の予定通り、みんなには徒歩で移動してもらうのは駄目かな?』
『徒歩での移動となると、魔の森を夜中に移動するのが難しくなりますし、朝になれば必ずやリーゼンブルグの騎士が追ってくるはずですぞ』
こちらが夜中動けずに夜明けを待っていたら、魔の森に入った辺りで追っ手に簡単に追いつかれてしまいますね。
例え、隷属の腕輪を外して、全員が戦える状態であっても、戦いともなれば怪我人や最悪の場合には死者が出る可能性もあります。
救出後、日本に帰るための交渉を考えれば、武力衝突は避けたいところです。
『馬車でしたら、馬車の四方に明かりを下げておけば、前の馬車を目印に夜中でも移動は可能になりますぞ』
『なるほど、夜中のうちに距離を稼いでおけば、追っ手を振り切れる可能性が高まるわけだね』
やはり、馬車での移動の方が良さそうな気がします。
なるべく早く、馬の扱いに慣れるように、出来れば明日から練習を始めたい所です。
ですが、馬車や馬を借りなければ練習も出来ませんし、その為にはカルツさん……いやマリアンヌさんに話を通した方が良いのでしょうか。
こうして救出の計画を練り始めると、出来ない事、足りないところばかりで焦ってきます。
『ケント様、焦っても出来ない事が、いきなり出来るようになったりはしませんぞ』
『うん、そうなんだよね。分かってる、分かってるつもりなんだけど、それでも気持ちがね……』
ジリジリした気持ちを持て余していると、階段を駆け上がってくる足音がしました。
「ケント、ご飯だよ……って、また真っ暗にしてる……」
「あははは……明かりの魔道具の魔石を節約出来て良いでしょ」
「ちょっと闇属性の魔術が使えるからって、ケントのくせに生意気! ベアトリーチェさんと全然釣り合わないくせに!」
「ぐふぅ、またそんな事言うか……そんなメイサちゃんには問題です。 30ヘルトのランチを食べた9人の団体さん、ちょうどオツリ無しの金額を払ってくれたけど、アマンダさんから1人3ヘルトまけてあげるように言われました。 さて、いくらオツリを出せば良いのでしょうか?」
「えっ、えっ? 30ヘルトが9人で……オマケが3ヘルトで、30ヘルトから3ヘルト引いて、9人で……うぅぅ……オ、オツリはチップで貰うんだもん!」
「あはははは!」
うん、さすが看板娘という迷回答を遺してメイサちゃんは階段を駆け下りていきます。
「お母さん、またケントが真っ暗な部屋で悪企みしてる!」
「ちょっと、何言ってんのメイサちゃん、計算問題いっぱい作っちゃうぞ!」
「いやぁぁぁ、算術嫌いぃぃぃ……」
夕食の席で、メイサちゃんの迷回答をアマンダさんとメリーヌさんに披露すると、二人とも大笑いしていました。
メイサちゃんからは、肘打ちを横っ腹に食らいましたが、鍛えた僕の腹筋には……ぐふぅ、何でそんなに的確に抉ってくるの?
四人で楽しく夕食を囲んでいると、焦る気持ちも和らいでいきましたが、僕ばかりが良い思いをしている訳にはいきません。
委員長や他のみんなも早く助け出しましょう。
夕食後、アマンダさんに外出すると断って、影移動で守備隊の臨時宿舎に5人を訪ねました。
5人は臨時宿舎のリビングに集まっていたので、そのまま影の中から表に出ました。
「こんばんは」
「きゃぁぁぁ!」
「ちょっと国分、いきなり出て来ないでよ、ビックリすんでしょ!」
急に姿を現したので、桜井さんが悲鳴を上げて、小林さんに怒られました。
「ごめんごめん、ちょっとみんなに手を貸してもらいたい事が出来たんでね」
「手を貸すって……救出作戦か?」
「戦闘要員って事か?」
昼間の戦闘講習で身体を動かしたからなのか、新旧コンビはウズウズしている感じです。
あぁ、ガセメガネは言うまでもなく、ぐてーっとしてますよ。
「うん、救出作戦を手伝ってもらいたいんだけど、戦闘要員じゃなくて、馬車の御者をやってもらいたいんだ」
昼間、パウロに眠り薬を盛った時の様子を話し、眠り薬を使った救出作戦の事を5人に話しました。
「と言う訳で、リーゼンブルグの追っ手を振り切るためにも、馬車で移動した方が良いと思うんだ」
「なるほど、馬車で一気にこっちまで連れて帰るって事か」
「その馬車を動かす役目って事だな?」
「あぁ、私たちの時も馬車を奪ってくれれば良かったのに」
「でも、これでみんな解放されるんだよね?」
新旧コンビと凸凹シスターズは、救出作戦に乗り気ですが、一人ぐてーっとしているガセメガネは不満そうな表情を浮かべています。
「国分……お前はホントにアホだな」
「ちょっと、アホってなんだよ、アホって……」
「アホだからアホって言ってんだよ。騎士を全員眠らせられるなら、そのまま全員を縛り上げて、俺たちを日本に戻さないと命は無いって言ってやれば、それで終わりだろう。こっちまで逃げて来る必要なんか無いんじゃね?」
「あっ、そうか……」
僕を含めた八木以外の5人は、顔を見合わせて、思わず黙り込んでしまいました。
確かに、騎士全員を人質にされ、自分自身も人質になってしまったら、いくら性悪カミラでも抵抗は出来ないでしょう。
それならば、わざわざ魔の森を抜けてヴォルザードまで来る必要も無いですね。
「まったく、この程度の事も考えられないとは……こっちに来てから訓練し過ぎて脳が筋肉になってんじゃねぇのか」
「ぐぬぅぅぅ……」
確かに八木の言う事には一理有るし、検討に値する話だけど……八木のネチネチとした口調が腹立たしいんだよね。
何て思っていたら、ラインハルトから待ったが掛かりました。
『ケント様、その計画はあまりお薦め出来ませんぞ』
『えっ、何で? 別に人を殺す訳では無いし、ただ人質にするだけだよ』
『財宝や食料のように簡単に用意の出来る要求ならば、その方法でも良いでしょうが、交渉が長引いたり準備に時間が掛かる話では、話がまとまるまで立て篭もりを続ける必要があります。 ケント様達を召喚した術式はかなり大規模なものだったはずですから、帰還用の魔法陣も大規模なものになるはずですぞ』
ラインハルトが気にしているのは、こちらの要求が通るまでの時間のようです。
『やっぱり大規模な術式を起動させるには、準備に時間が掛かったりするの?』
『ワシらは騎士だったので詳しくは知りませぬが、術式によっては数ヶ月を要するものもあるそうです。 それほど長い間、立て篭もっているのは難しいでしょう』
『なるほど……食料とかは影移動で持ち込めば良いとしても、閉じこもっているストレスの解消は難しいか……』
『そういう事です』
ラインハルトの話を5人に伝えると、八木以外は、みんな納得という表情を浮かべました。
「あの宿舎に数ヶ月とかありえねぇだろう……」
「立て篭もるとなると、宿舎を分けるのも難しいんじゃねぇのか?」
「ちょっと、あの宿舎に男も一緒に立て篭もるとか有り得ないわよ」
「お風呂とか、トイレとかも悲惨な事になりそう……」
「いやいや、そんなのさ、滞在場所とか、奴らに用意させれば良いじゃん」
八木の一言で、みんなの視線が僕に向けられます。
「えっと……どうかな? ラインハルト」
『この場合、こちらの勢力の誰かが相手側に捕えられ、人質になった時点で事態は振り出しに戻ってしまいますぞ』
「だよねぇ……」
ラインハルトの言葉を伝えると、今度は八木に視線が集中します。
「い、いや……仮にもこっちは王女を人質にするんだぜ、向こうだって下手な事は出来ないだろう?」
「あぁ……なんかね、第一王子と第二王子が後継者争いしてるみたいで、カミラは第一王子派なんだって」
「何だよそれ、じゃあ第一王子は助けようとするけど、第二王子はむしろ殺そう……みたいな感じなのか?」
「そこまでは分からないけど、そういう事も有り得るんじゃない?」
さすがに八木も渋い表情になりました。
「どうかな?」
「こっちに連れて来た方が良いだろう」
「だな、召喚組だけでパーティー組んで、ダンジョン攻略とかどうよ?」
「あーっ、それいいね、あたしも参加したいかも」
「あたしは馬車動かすのが、ちょっと楽しみ……」
「しゃーねぇな……安全策でいくか……」
渋々といった様子ですが、どうやら八木も納得した様子です。
あとは、明日にでもカルツさんか、マリアンヌさんに話をして、馬車と馬、それと指導してくれる人を借りられるように頼みましょう。
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