第17話 コクブ流剣術と城壁工事

『ケント様、そのまま歩調を変えずに歩いてくだされ』

『うん? 何かあったの、ラインハルト』


 昼間の講習で見事に三人抜きを達成して、風の曜日の講習に参加する切符をゲットしてしまったギルドからの帰り道です。

 少し警戒するような口振りで、ラインハルトが話し掛けてきました。


『そのまま、そのまま歩いて下され、後を付けられています』

『うぇぇ、ちょ……それって……』

『いや、大した事は無いと思いますが、念のためです』


 念のためって何でしょうか、凄く気になりますけど、振り向かず立ち止まらずに下宿を目指します。


『後を付けられているって……』

『はい、ですが、付けて来ているのは、先週の講習で一緒だった四人ですから、心配は無いでしょう。 昼間の講習の間も、物陰から覗いていましたぞ』

『くっそ~、マノンもリドネルも、用事があるような事を言ってたのに』

『だからこそ、声を掛けられずに、後を付けて来ているのでしょうな』


 尾行されていると聞いたので、一瞬誰かに素性を疑われているのかとビックリしましたが、あの四人では確かに心配はなさそうです。


『でもさ、何で後を付けて来るんだろう?』

『ケント様が、急激に強くなった理由を探ろうとしているのでしょうな』

『ふむ……僕がどんな特訓をしているのか覗き見して、自分達も強くなろうって魂胆だね?』

『いかにも、そういう事でしょうな』


 さて、どうしたものかと考えながら歩いていたら、下宿まで戻って来てしまいました。


「アマンダさん、ただ今戻りました!」

「あぁ、お帰りケント、夕食はもう少し待っておくれ!」

「はい、分かってます!」


 アマンダさんに声を掛けて部屋に戻った僕は、影に沈んで、四人が隠れている路地へと向かい、影の中から四人の様子を窺います。


「ねぇ、リドネル、ここってケントの下宿じゃないの?」

「あぁ、たぶんな、特訓するのは、夕食の後かもしれないな」


 どうやら、尾行を主導しているのは、リドネルとマノンのようです。


「ねぇ、ケントはどんな特訓してると思う?」

「そうだなぁ……ただの素振りだけじゃないと思うんだが、もしかしたら、下宿に上のランクの冒険者が居るのかもしれないぞ」

「なるほど、その人に稽古してもらってるとか?」

「あぁ、たぶんな、その可能性が一番高いんじゃないか」


 ふむふむ、君達なかなか良い勘をしているようだね。

 でも、下宿に同居しているのが、凶悪なスケルトンとは思わないだろうね。

 しかも、特訓場が魔の森だなんて、更に思いもしないだろうね。


『さて、どうしますか? ケント様』

『うん、ちょっと思いついた事があるんだ……』


 影移動で部屋に戻った僕は、木剣を片手に階段を下りました。


「アマンダさん、裏で木剣の素振りしてますので、夕食になったら教えて下さい」

「はいよ……って、ケント、ダンジョンは……」

「行きませんから、大丈夫ですから!」

「あははは、なら良いよ……頑張りな」

「はいっ!」


 下宿の裏手は、共同の井戸を囲んで、裏庭のようなスペースがあります。

 路地に潜んでいる四人が、斜め後方になるように立ち、木剣を平正眼に構えました。


 精神統一をするように微動だにせず木剣を構えたまま佇み、ゆっくりと上段へと構えを移したところで、再び動きを止めます。

 そこから僕は、フラダンスのように、クイっ、クイっ、クイっ、クイっと、腰を左右に振りました。

そこから素早く踏み込みながら、剣を振り下ろします。


「えぇぇぇい!」


 正眼に戻ったところで、一旦剣を下ろして、二度、三度と首を捻ってから、元の位置まで戻ります。

 再び正眼からゆっくりと上段へと剣を引き上げ、今度は海中に漂う昆布のように全身を揺らめかせてから、鋭く、剣を振り下ろします。


「いやぁぁぁ!」


 振り終わったら、剣を下ろして、首を捻りつつ元の位置に戻る。

 これを、途中の動作を変えながら繰り返します。

 腰をグリグリ回してみたり、ヘコヘコ前後に振ってみたり、首だけグニグニ動かしてみたり、四人からは思い切り珍妙に見えるような動きを選んで繰り返しました。


「ケント……あんた、何やってんだい?」


 呆れたようなアマンダさんの声こそが、僕の待ち受けていたものなんですよ。


「これですか? これは、僕の住んでいた国で一番有名な剣術道場の練習方法です」

「はぁ? そんなヘンテコな動きがかい?」

「僕みたいな未熟者だとヘンテコな動きに見えちゃうんですけど、コクブ流の極意は腰にあるそうなんです」

「腰ねぇ……」


 勿論、コクブ流なんて流儀はありませんから出鱈目なんですけど、僕が自信たっぷりに話すので、アマンダさんも失笑を引っ込めて話に聞き入って来ました。


「剣は腰がシッカリと据わっていないと振れませんが、逆に腰に変な力みがあっても動きが固くなって、思うように振れないんだそうです」

「へぇ……そんなものなのかね?」

「いや、僕も見よう見真似なんですけど、こう……腰を柔らかくする脱力と、シッカリと据える注力のバランスが大事なんだそうです」


 木剣を構えて腰をグニャグニャと動かした後、今度はシッカリと据えて構え直して見せました。


「ほぉぉ……何だか分かったような、分からないような話だねぇ……」

「はい、僕も分かったような、分からないような状態です。と言うか、これが完全に理解出来たら達人の域に到達できるって話なので、簡単には理解出来ませんよ」

「なるほどねぇ……まぁ、武術の達人なんてものは、普通の人から見れば変人みたいなもんだろうから、私らには理解出来なさそうだね」

「はい、僕も腰のバランスよりは、夕食の方がいいです」

「あははは、そらそうだね。さぁ手を洗っておいで、夕食にするよ」

「はい、待ってました。木剣を置いてきちゃいます!」


 二階の部屋へ、木剣を戻しに上がりました。


『ラインハルト、四人の様子はどうだった?』

『ぶはははは、ケント様も人が悪い、四人とも最初は失笑を堪えていましたが、アマンダ殿との話を聞いて、目の色を変えていましたぞ、ぶはははは』

『ドノバンさんに目を付けられた僕を見捨てた罰だよ、暫くはコクブ流のクネクネ剣術でも練習してなさい』


 四人は、僕が夕食を食べている間に、裏路地から銘々の家へと戻っていったそうです。

 そして、僕はと言えば……


「ふぎぃ……うがぁ……ふんぎぃぃぃ……」


 今宵も魔の森で、自己治癒に勤しむ事になりましたよ。

 昼間の講習で、実戦経験の不足を思い知らされたので、禁断の領域に足を踏み入れる決断をしました。


 つまり……ラインハルトとの立ち合いをやる事にしたのです。

 ぶっちゃけ、ゴブリン程度は一撃で爆散させちゃう凶悪スケルトンとの立ち合いなんて自殺行為かと思ったのですが、ドノバンさんの呪縛から解放されるには、これが最も手っ取り早い方法だと思ったんですよ。


 たぶんドノバンさんは、術士タイプも騎士タイプも合同でやる土の曜日の講習までは、僕を解放してくれないでしょう。

 闇の曜日からは、身体強化や攻撃魔術を使った訓練に入るので、そこまではハズレ判定の僕には求めないと思うんです。


 風の曜日と土の曜日の講習さえクリヤーできれば、特訓の日々からも開放されるという訳ですよ。

 ならば、最短の二週間で突破してやろうじゃありませんか。


 ラインハルトには、くれぐれも上手に手加減するように言っておきましたが、それでも僕が防ぎ損ねて打撃を食らう心配があります。

 そこで立ち合いは、防具を装着した状態で行う事にしました。


 真新しい革の兜、胴、籠手に脛当てまで、しっかり装備しましたよ。

 えっ? その防具、どこから持って来たのかって?


 ふふん……これは、フレッドにラストックの駐屯地から、ちょろまかして来てもらったものです。

 僕を厄介払いして、魔物に食わせようとした国の備品ですからね、全く心は痛みませんよ。


 で、肝心の立ち合いなんですが、そりゃもう防戦一方ですよ。

 一本のはずの木剣が何本にも見えて、こっちから打ち込む隙なんて、欠片も見当たりませんよ。


「わっ……ちょ……うわぁ……」

『遅い、遅いですぞケント様。さぁ、どんどん行きますぞ!』

「ちょ……まっ……待って……」

『いやいや待ちませんぞ、さぁさぁ、そらそら、隙だらけですよ!』

「わっ……たっ……ぐはぁ!」


 ロックオーガとの戦いからすれば、遊んでいる程度の動きなんでしょうが、全然対応できず、胴に一撃を食らって転がされました。


『ケント様、申し訳ございませんが、鍛練をやる以上は厳しくやらせていただきますぞ』

「くぅ……の、望むところだよ……やらいでか!」

『ぶはははは、その調子ですぞ、ケント様』


 その後も何度も受け損ない、ぶっ叩かれ、突き転がされ、殴り飛ばされ、蹴り飛ばされましたよ。

 受け損なって左の太腿をしこたま叩かれて、その痛みを自己治癒で回復させて立ち上がった所で、ラインハルトが鍛練の終了を告げました。


『ケント様、今宵はここまでですな』

「はぁ……はぁ……どうもありがとう、ラインハルト」

『いやいや、ケント様の頑張りには驚かされていますぞ、ワシらが生きていた頃でも、ここまで頑張る者は滅多におりませんでしたぞ』

「はぁ……はぁ……でも、僕はこれまで怠けてたから、その分頑張らないとね……」

『この調子ならば、二週間で講習を終えられますぞ』

「だと良いんだけどね……」


 実際、これだけハードな日課を繰り返していたら、何かしら反動がありそうなので、頑張って二週間で終わらせたいというのが正直な気持ちです。


『では、汗を流して戻られますか?』

「うーん……もうちょっと、魔術の練習をしていこうかなぁ……」

『魔術の練習ですか?』

「うん、攻撃用の光属性の魔術がさ、発動までに手間取りすぎだから……」

『なるほど……今は、どの程度の時間が掛かっておられますか?』

「えっと……ちょっとやってみるね……」


 光属性魔術でのビーム攻撃は、魔力を圧縮して、狙いをセット、撃ち出す瞬間に魔力を光に変換して行うので、三十秒近く掛かってます。


『なるほど、普通の術士が詠唱するよりも時間が掛かってますな』

「そうなんだよね、威力はあるけど、時間が掛かるし、動いてる的に当てる自信も無いんだよね」

『詠唱でイメージを補ってみるというのは?』

「うーん……できれば、パっと発動出来るようにしたいんだよね」


 魔術を発動させるために詠唱するのは、中二心がくすぐられる行為なんですが、タイムロスを考えると、詠唱しない方が良いに決まってます。


『ならば、弓を引くような動作で補助するのはどうです?』

「動作……なるほど、動作か……」


 動作でイメージ補完するために、ベタですけど指をピストルの形にして指先に魔力を集中させ、標的を指差して狙いを付けて撃ち出すように練習を繰り返しました。

 この作戦は思った以上に効果があって、動作を繰り返していくうちに更に発動までの時間を短縮出来ました。


 魔力の集中、照準、撃ち出しが、1,2の3程度で出来ます。

 やっぱり手に入れた武器は、使いこなせるように練習しないと駄目なんだね。


 練習を重ねれば、もっと時間は縮められそうな気がしますが、今夜は練習を切り上げて帰ろうかと思っていたら、特訓場にお客さんが来ましたよ。


『ケント様、ロックオーガです』

「うん、全部で四頭か……よし、ラインハルト、撃ち洩らしたら援護してね」


 1,2の3で眉間がチカっと光ると、ロックオーガは声も無く崩れ落ちます。

 1,2の3、1,2の3、1,2の3、僕の手元が光っても、何が起こっているのか理解出来なかったらしく、ロックオーガに何もさせずに倒しちゃいました。

 うーん……光属性の攻撃魔法、チートすぎっすね。


『ケ、ケント様……』

「あっ、ごめ~ん、ラインハルトのお楽しみを横取りしちゃったね。一頭だけにしとけば良かったや、ごめんごめん」

『い、いえ、それは構わないのですが……4頭を苦も無くですか……』


 折角現れたのにストレス発散の材料を横取りしちゃったせいで、ラインハルトはガックリしているように見えますね。

 いやぁ、調子に乗って悪い事をしてしまいました。


 この後、ラインハルトが魔石の回収をしている間に、僕は川で水浴びを済ませて下宿に戻りました。

 そして、ベッドにバッタリと倒れ込んだら、次の瞬間には起床時間になっている感じです。


 いや、確かに時間にすると三時間程度なんだろうけど、早過ぎだよ、早過ぎ、完全にタイムスリップしてる感じだよね。

 体調は、自己治癒で何とか回復させますけど、その分空腹が倍増する感じです。


 アマンダさんも朝食は、ごく普通のメニューなんですけど、量をガッチリ用意してくれるのが有り難いですね。


「ケントは朝から良く食べるよねぇ……寝てる間も暴れてるんじゃないの?」

「な、何言ってるのかなぁ……メイサちゃん、寝てる間も暴れてたら、部屋からドタンバタン音が聞えるでしょう」

「うーん……そうなんだけど、何かケントは怪しいよねぇ」

「あ、怪しくなんか無いでしょう、今日も一日しっかり働くには、しっかり食べないと駄目だからだよ」

「そうだよ、ケントの言う通りだよ、ほらメイサもさっさと食べちまいな」

「は~い……」


 まったくメイサちゃんは、チビっ子のくせして、妙に勘が良くって困ります。

 朝食を終えたら、身支度を整えて、仕事へ向かいます。


「アマンダさん、行って来ます!」

「ケント、今日はどこに働きに行くんだい?」

「はい、今日は、城壁の建築現場を見てこようと思ってます」

「ほう、そうかいそうかい、気を付けて行っておいで」

「はい、行って来ます!」


 下宿を出たら、今日はギルドには向かわずに、城壁の建築現場へと向かいます。

 ヴォルザードの城壁は、今も増築の工事が進められているのです。


 工事現場では、随時働き手を募集していて、ここの仕事だけはギルドを通さずに直接雇用、直接支払いが行われているそうです。

 ギルド以外から仕事を請け負ったり、街中で商売をする者は、納税の義務があるのですが、税金が払えない時には、城壁工事の労働での支払いも可能なんだそうです。


 ヴォルザードの城壁は、魔の森に沿って南北、東西へと伸びています。

 最初に作られた旧市街の城壁を基にして、外側に新市街を囲む城壁を新設するという形を繰り返して、ヴォルザードの街は大きくなってきたそうです。


 今行われている工事も、一番新しい城壁を更に囲む形で建設が進められています。

 工事に参加する者は、現場の入口で登録して、作業に取り掛かり、一日が終わったら、同じ場所で給料を貰って帰ります。


 城壁工事の賃金は一日働いて350ヘルトで、ガーム芋倉庫と同じでした。

 決して高い日当ではありませんが、自分達の町を守るための工事とあって、意外に多くの人が参加しています。


 街に暮らす男性の多くは週に一回、少ない人でも月に一度は城壁工事を手伝いに来るらしいです。

 お金のためではなく、自分達の住む街を守る城壁を自分達で作るためだそうです。


 今日、僕が工事に参加するのは、バステンからの情報で、毎週風の曜日には、ある人物が工事に参加していると聞いたからです。

 目的の人物は、現場入口の受け付けの横で、腕を組んで立っていました。


「おはようございます、クラウスさん」

「おぉ、ケントじゃねぇか。どうした、仕事にあぶれたのか?」

「いいえ、城壁工事の話を聞いて、微力ですが僕を受け入れてくれた街に恩返ししたいと思いまして、見習いからですが、よろしくお願いします」

「おぉぉ……マジか、街に流れてくる奴は結構居るけど、こんな事を言ってくれる奴は、俺は初めてだ。よし、俺が直々に教えるからな、今日は一緒に頑張ってくれ」

「えぇぇ! クラウスさんも現場に出るんですか?」

「当たり前だ、俺は週に一度ぐらいしか来られないんだ、現場の指示は現場監督がやるに決まってるだろう、俺は一人の作業員だ」


 そう言って力瘤を作って笑うクラウスさんは、本当に現場の人間という感じで、とても街の領主には見えません。

 バステンの話では、クラウスさんは毎週現れて、現場の人間に混じって汗を流しているそうです。


 実際、石材を運ぶためのロープの掛け方とか、二人で棒を担いで石を運ぶ腰付きとか、本当に慣れているのが見て取れます。


「ほら、ケント、シッカリ腰据えて運べ。重心が上にあると、よろけて危ないぞ」

「はい、すみません、こ、こう……ですか?」

「ばか! よいよいの婆さんじゃねぇんだ、背筋はシャンと伸ばして、腰をグッと落として運ぶんだよ」

「は、はい、分かりました」


 ヴォルザードに来て以来、ひたすら肉体労働をこなしてきましたが、石材運びは結構しんどいですね。

 昼になる頃には、ヘトヘトになっていました。


 これは例によって自己治癒しないと午後の作業は乗り切れなさそうです。

 てか、チョイ悪オヤジ、元気だなぁ、おい!


「よーし、ケント、昼飯にすんぞぉ!」

「はひぃ……いやぁ、キツイっすねぇ……」

「うはははは、だろう? まぁ、初めてにしちゃあ頑張ってる方だ」


 昼食を食べながら、クラウスさんに率直な疑問をぶつけてみました。


「どうして、領主なのに現場に出て、作業までしてるんですか?」

「現場に出るのは、実際に見ないと分からん事があるからだが、ここで作業するのは焦りもあるのかもしれねぇな」

「焦り、ですか……?」

「あぁ、少しでもヴォルザードを安全な街にして、次の世代に引き継ぎたい……って焦ってるんだろうな」

「やっぱり、魔の森が近いからですか?」

「そうだ、今は安全に見えるだろうが、明日も安全とは限らない。こうしている時でも魔物が大挙して襲って来ないとも限らないからな……」


 魔の森は、数年に一度程度の頻度で、大量の魔物を生み出すそうです。

 増殖する魔物の種類は、その時々によって違うそうで、大抵はゴブリンとかコボルト程度ですが、もっと強力な魔物が増える場合があるらしい。


 クラウスさんは食後のお茶を飲みながら、18年前に起こった出来事を話してくれました。


 その年、魔の森からロックオーガの群れが、ヴォルザードに迫ってきたそうです。

 守備隊の兵士や、戦闘に長けた冒険者は勿論、一般の者達まで武器を手にして戦ったそうです。


 当時、ヴォルザードの領主は、クラウスさんのお兄さんが務めていたそうですが、この時、街に侵入したロックオーガによって命を奪われてしまったそうです。


「ゴブリン程度は大丈夫だが、ロックオーガともなると、Aランクの冒険者でなければ、一人で対処するのは難しいからな。あの時は、ドノバンが活躍してくれたから何とかなったが、もし今、同じ事が起こったら、相当厳しい状況になるだろうな」


 ロックオーガってラインハルトが三頭瞬殺した奴だよね? てか、昨晩、光属性魔術の実験台になった奴だよね。

 あれっ? て事は、僕ってAランク相当の力があるの?


「ロックオーガって、そんなに強い魔物なんですか?」

「あぁ、普段はあんまり居ないんだが、身体がデカくて力も強い、その上、名前の通りに身体が硬くてな、剣とか槍とかが通り難い。ギリク辺りだと三人ぐらい居ないとやられるだろうな」

「そ、そうなんですか……へ、へぇ……そんなに強いんですか」

「どうしたよ、ケント、ビビっちまったか?」

「えっ……そ、それは……そんな奴がウロウロしている魔の森を抜けてきたのかと思うと……」

「なるほどな、そいつは確かに思い出しても背筋が寒くなるだろうな」


 えぇ、ロックオーガの頭を、ラインハルトが膝蹴り一発で風船みたいに吹き飛ばした光景とかは、思い出しても背筋が寒くなりますね。

 ホント、味方で良かったですよ。


「クラウスさん、この城壁は、あと何年ぐらいで完成する予定なんですか?」

「完成なんかしねぇぞ」

「はっ? えっ、完成しないんですか……?」

「まぁ、この区画は終わるだろうが、ここが終われば、また次が始まるから、城壁作りは街が大きくなるために、ずっと続けられていくはずだ」

「なるほど……街と共に城壁が広がり、城壁と共に街が成長するんですね」

「そうだ、俺らの世代から、いずれケント達の世代に引き継がれ、またその下の世代へと引き継がれていく仕事だ」


 工事中の城壁を眺めるクラウスさんの顔は、自分の仕事に誇りを持っている男の顔で、正直に格好良いと思ってしまいました。

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