第15話 潜入ラストック駐屯地・夜編

 昼間、ラストック駐屯地の偵察を終えた後、一旦ヴォルザードに戻りました。

 とは言っても、影の世界を通っての移動なので、一瞬でヴォルザードの裏道へと戻って来られます。


 下宿に戻って夕食を食べたら、再びラストックでの偵察に戻る予定です。

 ちなみに昼食は、駐屯地の騎士用の食堂からチョイっと頂きました。


 同級生達の食事はフレッドの報告通り、一般の兵士よりも質が落ちるものでした。

 それでも、午前中の訓練で良い成績を残した者には、他の者よりも少しだけ良い食事が与えられているようです。


 船山の野郎は、当然のごとく一番質の悪い食事を少しだけしか与えられず、日本にいた頃よりも随分とスマートになった感じがしました。

 うん、結果をコミットされてダイエットって感じだね。


 バスケ部のイケメンや委員長には、騎士よりも良い食事が提供されてました。

 特に委員長は、栄養価が高く、消化も良さそうな物に加えて、新鮮な果物とかも用意されています。


 あぁ、その果物知ってるよ、魔の森で三食続けて食べてたからね。

 てか、ちゃんとした物を食べさせていないから、みんな魔術の成果が出せてないんじゃないの? でも三食果物生活でも、僕は魔術を使えていたから関係無いのかな。


 食事以外の面も、これでもかと差別化がされていますね。

 訓練を終えた同級生達は、共同の水浴び場で身体を洗っています。


 脱衣所でリーゼンブルグの兵士から一匙の粉石鹸を貰って、それで頭も身体も洗います。

 水浴び場なので湯船なんてものは存在しておらず、大きな水桶から手桶で水を汲んで身体を流していました。


 もう10の月ですから気温はかなり下がって来ていますし、動いて汗をかいた直後ならまだしも身体が冷えた状態なので、みんな震えていました。

 女子用の水浴び場もチラリと覗かせていただきましたが、みんな唇を紫にして震えている有様で、あまりの悲惨さに興奮するどころじゃなかったですよ。

 

 みんなが悲惨な水浴びをしている一方で、イケメン野郎は専用の宿舎の風呂場に金髪美女と一緒に入っていやがりましたよ。

 金髪美女は、一応湯浴み衣のようなものを身に付けているのですが、お湯で濡れると透けて見えちゃいそうです。


「勇者様、お背中をお流しいたします」

「シーリア、今の時間の僕は勇者ではなく一人の男だ、いつものように名前で呼んで欲しい」

「失礼しました、シューイチ様……」

「シーリア……」


 ちょ、なにチューなんかしちゃってるんすか、爆発しろ、爆発しろ、爆発しろ!

 バカバカしくて見ていられないので、移動しますよ、移動、移動。


 そう言えば、僕らの天使、委員長は何処でしょう。

 えっ、ち、違うよ、委員長の入浴シーンを覗きたいなんて、そんな事……ごめんなさい、めっちゃ思ってます。


『聖女様……この時間、まだ医務室……』

『えっ、だって、もうみんな食事したり、水浴びしてるのに?』

『聖女様……いつも遅くまで治療してる……』


 医務室へと移動してみると、フレッドの言う通り、委員長は昼間の訓練で怪我をした同級生達を治療していました。

 とは言っても、あまりにも人数が多く、完治させるまでの治療は出来ないようです。


 それでも痛みが大分薄らぐようで、みんな委員長に感謝していました。


「ごめんなさい、ちょっとだけ……」


 最後の一人の治療を終えると、委員長は医務室のソファーに崩れ落ちるように身体を預け、たちまち眠りへと落ちていきました。

 助手をしている女性も、心得ているのか、戸棚から毛布を持って来て、そっと委員長に掛けました。


「本当に、あなたは聖女と呼ばれるに相応しいわ……少し経ったら起こして、食事をさせて、お風呂に入れて、キチンと休ませないと……」


 助手の女性は、まるで母親か姉のような慈愛に満ちた表情で、委員長の寝顔を見詰めています。

 どうやら親身になってくれているようですが、委員長の疲労度が心配です。


 ならば、この僕が委員長を回復させましょうかね。

 ソファーに預けた委員長の背中に影の中からそっと手を添えて、全身が回復するようにイメージします。


 もうね、全身を回復させるイメージとか、自己回復の連発でガッチリ固まってるから意識する事も無く出来ちゃうんですよね。

 これって、怪我の功名って感じですかね。


「聖女様、聖女様、そろそろ起きて食事にいたしましょう、本格的に眠るなら、お部屋のベッドにして下さい」


 おっといけない、助手の女性が戻って来ましたね。


「んっ、んっん――んっ、えっ、えっ?」

「どうかなさいましたか、聖女様」

「私、どの位の時間眠っていましたか?」

「いつもと同じですが……」

「なんだろう、凄く身体が軽いの。身体中から疲れがスポーンと抜けていったみたい」


 おぉ、委員長は両腕をグルグル回して、何だかとても元気そうです。

 僕の治癒魔術は、バッチリ効いたみたいですね。


「聖女様、もしかすると、光属性の魔術を毎日使われていたので、レベルが一段上がられたのかもしれませんね」

「レベルが上がった……?」

「はい、魔術には、厳密なレベルというものは有りませんが、魔術の修行をしていると急に効果が上がる事があるそうで、それを一般的にレベルが一段上がると言っています」

「そう、かもしれない……昼間の子供の治療も、これまでの私とは違っていたし……」

「今も、無意識に自己治癒を発動なさっていたのかもしれませんよ」

「自己治癒! 私にも出来たのですね! あぁ、これで今までよりも多くの人を治療できるかもしれない……」


 あっるぇぇぇ……また余計な火種を作っちゃましたかねぇ。

 ラインハルト、そんな目で僕を見ないで……って、空洞でしかない眼窩なのに、ジト目が見えるのは何故なんでしょう。


『ケント様、少々拙いかもしれませんぞ……』

『分かってるよ。てかさ、光属性の魔術が使えるなら、自己治癒は出来るものじゃないの?』

『あんな急激な自己治癒……ケント様だけ……』


 委員長、助手の女性の手を取って、キャッキャウフフと喜んじゃってますよ。

 やっべぇぇぇ、ますます言い出し難い状況じゃないっすか。


『ケント様、これは時々様子を見に来ないと、拙い状況になりかねませんぞ』

『うっ、そうだよねぇ……まぁ、影移動を使えば、すぐに来られるから大丈夫だよ、はは、ははは……』


 委員長と助手の女性が機嫌良く話をしていると、突然医務室のドアが開きました。

 入って来たのは、あの性悪王女カミラです。

 今まで嬉しそうに笑っていた委員長の顔が、一瞬で強張りましたね。


「ほう、随分と楽しそうではないか、聖女よ……」

「何のご用ですか?」

「そう怖い顔をするな、昼間瀕死の子供を救ったそうではないか。噂になっておったから様子を見に来ただけだ」

「別に……普段と何も変わりません」

「ふん、そうか……ならば今まで通りに励むが良い。魔の森を使っての実戦訓練が始まれば、もっと酷い怪我を負う者が出るだろう」

「そ、そんな! 何でそんな危険な事を私達がやらなければいけないのです!」

「ふふん、また犠牲が出るのが嫌ならば、貴様が治癒の腕を上げるのだな。さもなくば……ふっふっふっ」

「やってみせます、もう一人の犠牲も出させません! 私が守ってみせます!」

「ふっふっふっ、期待してるぞ……聖女。ふははははは……」


 ぬあぁぁぁ、ムカつく、ムカつく、何なんだ、あの性悪王女は、ムカつくんじゃ――っ!

 高笑いを残して去っていたカミラを、委員長も苦々しげな表情で見送っています。


「部屋に戻って休みます……」

「はい、聖女様……」


 委員長が宿舎に戻るのを見送って、次は性悪王女の方を偵察に取り掛かりました。

 性悪王女は金ピカの鎧こそ身に付けていませんが、騎士の制服を豪華にしたようなスタンドカラーの上着と乗馬用のパンツにブーツという出で立ちで、腰にはサーベルを吊っています。


 なんだか某歌劇団って感じですけど、コスプレ感が無いのは着慣れているからなんでしょうね。

 性悪王女が大股で歩いて行った先は、駐屯地の司令官室でした。


 フレッドの情報によると、カミラは駐屯地の司令官を務めているそうです。

 第三王女という身の上なのに男装して、辺境の駐屯地の司令官とは、とんだじゃじゃ馬ですよね。


 カミラが司令官室へと近付くと、警備の兵がすかさずドアを開きました。

 自動ドアが無い世界でも、偉い人には自動ドアが存在しちゃうんですね。


「ご苦労……」


 意外に優しげな声で警備の兵を労ったカミラは、部屋に入るとサーベルを刀架へと戻し、秘書官にお茶を入れるように言いつけました。

 そのまま壁に貼られた地図の前で腕を組み、眉間に皺を寄せて眺めています。


 ホント、ムカつく表情をしてますよねぇ……もうちょっと可愛げがあれば、綺麗な顔をしているのに台無しですよ。

 お茶が来るまで地図を眺め続けていたカミラですが、お茶を飲みながらも、まだ地図を眺めています。

 一体何を考えているのでしょうかね。


『ねぇ、ラインハルト、何を考えていると思う?』

『そうですな、普通に考えるならば、攻め込むためのルートの選択になるのですが、それにしては随分と時間を掛けているようにも見えますな』

『だよねぇ……普通に考えて、攻め込むならば、今ある街道を広げるって方法が一番手っ取り早いよね?』

『そうですな。現状の街道の幅では、大軍の移動は難しいでしょうから、街道の整備などと理由を付けて先に道を広げ、それから一気に攻め込むというのが常道でしょうな』


 だとすれば、ルートの選択に悩む必要なんか無いし、目線を追った感じでは、街道ではない森の部分を見ているようにも見えるんだよね。

 地図を見続けているカミラを観察していると、司令官室のドアがノックされました。


「誰だ?」

「シーリアです……」

「入れ!」


 訪ねて来たのは、イケメン専属の金髪メイドさんですが、何だか浮かない表情をしてますね。


「洟垂れ勇者はどうした?」

「お休みになられました……」

「なんだ、こんな時間から寝ておるのか、それでは肝心な事もしておらんのか?」

「いいえ、それは……」


 なぬ、肝心な事? そして、メイドさんは何故に下腹を押さえてるのですか。


「ふん、あの年頃のくせに淡白か、まるで爺のようだな。まぁいい、貴様の役目は分かっておるな?」

「はい、勇者様を篭絡し、子を成す事です……」

「そうだ、貴様にも半分は王家の血が流れておるのだ、役目を果たせ。さもなくば、泥棒猫がどうなるか分からんぞ……」

「わ、分かっております……」

「ならば、引き続き励め。そうだな、明日の朝も役目を果たせるように、洟垂れ勇者を誘惑してみよ。下がって良いぞ……」

「はい、失礼いたします……」


 うひぃ、カミラが地図へ目を戻した瞬間、金髪メイドさんが射殺すような視線で睨み付けましたよ。

 怖っ、こんなに殺意漲る視線を見たのは初めてです、さり気無くちょっとチビりました。


『フレッド、あのメイドさん、何だか訳ありみたいだから、ちょっと調べてみて』

『了解……』

『ラインハルト、性悪王女が王家の血が半分……とか言ってたけど』

『恐らく、王が王妃以外に生ませた私生児なのでしょう』

『でも、それって、性悪王女の妹って事じゃないの?』

『そうですが、おそらく母親の身分が低いのでしょうな』

『その母親が、人質に取られている感じなのかな?』

『おそらくそうでしょう。あの火属性の少年の素質は、確かに相当なものですから、歯向かわれると一番の障害となるし、働かなくても大きな損失になります。なので、王家の血を引く者との間に子をもうけさせ、その絆で縛ろうという魂胆でしょうな』


 くっそぉ、ムカつく、ムカつく、性悪王女め、マジでムカつきますよ。

 性悪王女はその後も暫くの間地図をジッと睨んでいましたが、秘書官に声を掛けると宿舎に引き上げて行きました。


 司令官室では何も語らず何も書かずだったので、自室に戻れば何か尻尾を出すかもしれないと思い、そのまま監視を続けました。

 ですが、自室に戻った性悪王女は既に夕食は済ませたのか、入浴を済ませると寝巻きに着替えて寝酒を二杯ほど楽しんだ後は、さっさと眠りに付いてしまいました。


 えっ? 入浴シーンを覗いたのかって?

 そ、それは、偵察行動ですから仕方なく……ちょっとだけ監視しただけですよ。


 監視対象が眠ってしまえば、駐屯地に留まっていても意味が無いので、僕らも魔の森の訓練場へと引き上げて来ました。

 一日だけですが、同級生達が置かれている状況は、ある程度掴めました。

 そこで、どうやって救出作戦を進めるのかを考えてみました。


「はぁぁ……どうしたものかなぁ……」


 思わず盛大に溜息をついてしまったのは、女子用の水浴び場を覗いてしまった時の光景が頭に浮かぶからです。

 はい、スケベ心から覗いた事は否定しませんよ。


 だって同級生の女子の入浴シーンを見られる機会なんて、そうそうあるもんじゃないですからね。

 でも覗いた途端に、それこそ冷や水を浴びせられたような気分になったんですよ。


 みんな寒さに唇を紫色にして、水浴びしながら泣いてるんですよ、帰りたい、早く家に帰りたいって。

 あんな姿を見て興奮できるほど、僕は鬼畜じゃありません。


『ケント様、元の世界に帰る方法があるのか、無いのか、それを知っているのは、恐らく例の王女だけでしょう』

「うん、そうだね、僕もそう思う。あの性悪王女、周りの者に何も言わなそうだもん」

『だとすれば、探り出すか、王女の口を割らせるしかありませんな』

「そうなんだけど、簡単に口を割るようには思えないよねぇ……」


 風呂場で覗いた性悪王女の裸体は、一目で鍛えてあるって分かるほど引き締まっていました。

 腕や脚の筋肉もシッカリしてたし、薄っすら腹筋が割れているのが見えるぐらいで、いわゆるアスリート体型をしてました。


 役立たずは切り捨てて、見せしめにする事で役立たせ、恐らく腹立たしく思っていた異母妹も勇者の篭絡のために使う。

 冷酷で計算高い感じで、更には自分を律して鍛えている……とても素直に真実を話すとは思えないんだよね。


「元の世界への帰還方法を握られちゃってるのは、かなり苦しいよね?」

『そうですな、確かに苦しいですが、だからと言って救出作戦を進めない訳にも行かないでしょう』

「そうだよね……現状は、帰還方法に加えて、身柄の安全まで握られちゃってる状態だものね」

『その通りです、あの王女と交渉をするにしても、ご学友達は助け出しておかないと交渉の余地すら無いでしょうな』

「うーん……だとしても、どうやって進めれば良いかな?」

『そうですな、考えるべき事は、大きく分けて三つありますな』


 ラインハルトは、メタリックな骨の指を三本立ててみせました。


「三つ……?」

『さよう、一つ目は、純粋に駐屯地からご学友を連れ出す方法。二つ目は、連れ出したご学友を受け入れる場所。三つ目は内通者です』

「じゃあ、一つずつ考えていこうか」

『まずは、受け入れ先からですが、それは現状ではヴォルザードしか考えられません』

「そうだよね。森の向こう側は、全部敵の陣地だものね」

『ただ、ヴォルザードがいくら人材を大切にすると言っても、一度に二百人近い人間を受け入れられるかどうか……』

「そうか、僕の場合は一人だけだったものね。それが一気に二百人となると、住む場所、食べるもの、仕事……大きな影響が出ちゃうよね」

『はい、なので、領主のクラウス殿に話を通しておく必要があるでしょうな』

「なるほど、いずれ話をして協力を仰ぐ必要があるね」

『そこでケント様、一つご提案があるのですが……』


 なにやらラインハルトが思いついたようなので、提案を聞かせてもらいます。


『救出の時期を、少し先に延ばしたらどうかと……』

「えっ、なるべく早い方が良いと思うんだけど、それは、なんで?」

『はい、幸いと言ってはいけないのかもしれませんが、ケント様のご学友は、駐屯地で訓練を受けております』

「そうか! そのまま訓練してもらって、力を付けさせようって事だね?」

『その通りです』


 ラインハルトも、我が意を得たりとばかりに、カクカクと頷いています。


「ヴォルザードまで逃げて来るには、魔の森も通らないといけないし、戦闘の訓練を積んだ後ならば、自分達の身を守れるかもしれないんだ」

『いかにも。我々だけでは二百人の護衛は難しいですが、皆がある程度戦えるならば、魔の森を突破出来るでしょうな』

「そうだね。うん、みんなには申し訳ないけど、もう少し訓練を重ねてもらおう」


 女子の悲惨な姿を思い出すと心が痛みますが、急いで失敗しては元も子もありません。


『ケント様、ご学友に訓練を続けてもらう理由は、もう一つありますぞ』

「えっ、もう一つ……?」

『それは、ご学友に働き手としての力を付けてもらうためです。兵士として訓練を受け、あの王女は森で実戦訓練を行うと行っておりましたから、魔物の討伐も経験するのでしょう』

「そうか、守備隊の隊員とか冒険者として活動する為の訓練にもなるんだね?」

『使える人材ならば、クラウス殿が受け入れてくれる可能性も高まるでしょうな』

「なるほど……さすが元分団長、頼りになるねぇ」

『ぶはははは、なぁに、この程度は大した事ではございませんぞ、ぶはははは』


 高笑いするラインハルトの横で、肩を竦めるバステンとフレッド……やっぱり、この3人は良い組み合わせですね。


「と言うことは、同級生の訓練の進み具合を見ながら、脱出作戦の詳細を検討し、クラウスさんにも協力を願い出る感じで良いのかな?」

『ケント様、内通者を忘れておりますぞ』

「あっ、そうだった。こっちでいくら計画を練っても、同級生達に知らせて周知する人間が必要だもんね」

『そうです、どなたか良い人はいますかな?』

「うーん……ちょっと待ってね」


 真っ先に頭に浮かんだのは委員長だったんだけど、ちょっと注目されすぎだよね。

 同じ様に、バスケ部のイケメンや、船山も却下かな。

 あまり目立たずに、学年中のみんなに知られている存在となると難しいよねぇ。


「あっ、そうだ! 彩子先生が良いや」

『その方は、どんな方なのですか?』

「えっと、いわゆる教師の見習いで、僕らの先輩にあたる女性。今日、船山が吊るし上げられてた時に、近くでアワアワしていたのが彩子先生だよ」

『教師でも見習いならば、注目度は高く無さそうですな。それに土属性の術士は裏方のイメージが強いので、余計に目立たない……うむ、打って付けですな』


 他の属性の術士と違い、土属性の術士は直接戦闘に関わる頻度が少ないので、注目度が低いそうです。


「じゃあ、同級生の訓練の進み具合を見ながら脱出作戦の詳細を検討し、クラウスさんにも協力を願い出て、一連の流れを彩子先生を通じて中のみんなにも徹底するって感じだね?」

『ですがケント様、焦って事を起こすと、失敗する可能性が高まります、一つジックリと腰を据えて掛かりましょう』

「うん、ラインハルト達にも、まだまだ色々と教えてもらわないよいけないから、よろしくね」

『では、ケント様、そろそろ今夜の特訓を始めますか?』

「えっ……今夜も特訓するの?」

『当然です、ご学友を無事に救出するには、ケント様ご自身もレベルアップしておく必要があります。ささ、振り棒はこちらに準備してございます』

「えぇぇぇ……いつの間に……そんなぁ……」


 結局、この晩も自己治癒を繰り返しながら、めっちゃくちゃに身体を痛め付ける羽目になりましたよ。

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