第四話 ラジオのゲスト⑤

「というところで、まだまだたくさんのお便りをいただいているのですが、先にやりたいことがあるので一旦ここで終了します。それでは、CMです。どうぞ」

 CMに入ったのを確認して、沢城さんに話しかける。

「あのですね、この後、沢城さんには僕のコーナーのツッコミ役というか、掘り下げてもらう役になって欲しいんですけど、良いですか?」

「あ、うん。まあ、構わないけど、私もそこまで良いツッコミができないかもしれないよ?」

 まあ、当然だよなと思いながら、親指を突き立てて言う。

「大丈夫です。本当に軽い感じで、僕の好きなものとか人を紹介していくコーナーなので。今回は最近ハマっている本の紹介なので」

「分かったけど、ちゃんと答えられるかわからないよ?」

 ものすごく失礼だとは分かっているけど、首を傾げる仕草が可愛い。

「まあ、そこは気になるところをツッコンでいってもらえれば。僕が気を回せないところもあると思うので。それと、始まってすぐに、沢城さんの読書歴を聞くので、ちょっとだけ考えておいてください」

 ちょうどディレクターから開始五秒前の合図が出た。それを確認して、レバーに手をかける。

 ディレクターの合図に合わせてレバーをあげて話し始める。

「改めまして、おはようございます。茜音唯斗です。ということで、先ほど言った通り、今からはコーナーのお時間です。それでは始めていきましょう。本日のコーナーはこちら、『唯斗のしていること』。ということで、このコーナーは番組名の『茜音唯斗のしたいこと』にちなんで、今、僕がハマっていることをリスナーの皆さんと共有するコーナーです。あのー、最近思い始めたことなんですけど、このコーナーってよく考えたら、僕の私生活がダダ漏れになるコーナーですよね。まあ、一回五十分を週五日間、生放送でお送りしているので、僕の私生活が露見しても仕方ないことなんですけどね。そんなことよりも、今日は沢城さんもいらっしゃいますし、いろいろ聞いていきながら、コーナーを進めていきたいなと思います。さて、今日は『最近ハマっている本』について紹介していきたいと思います」

「え、ちょっと待って。唯斗くんって、私生活を晒してラジオしてるの?」

 沢城さんが何か面白いものを見たような顔をしながらツッコんできた。

「そうですね。あの、最初の頃は週一の深夜枠だったのでネタが尽きることもなかったんですけど、帯番組としてやらせてもらえるようになってからは、どうしてもネタが見つからないことが多くて。まあ、だいたいメールを読んだり、こういうコーナーをやったりすれば放送時間ギリギリまで持たせられるんですけどね。どうしても一人喋りをすると私生活がダダ漏れになるということが起きてしまって。どうすれば良いんですかね?」

「まあ、唯斗くんが良いなら良いんじゃない?というか、唯斗くんって結構苦労してるんだなって改めて感じたな。」

「まあ、それでお金をもらえるんですから。本当にありがたいことです。でですね、CMの間に話ていたんですけど、沢城さんは読書経験ありますか? もしあれば、特に印象に残っている本を教えていただけると嬉しいです」

 まだ考えていなかったのか、それとも、さっきの掛け合いで飛んでしまったのか、沢城さんは腕を組んで考えていた。

「まあ、僕なんかよりも芸歴の長い沢城さんとかになると、僕よりも受け持った作品は多いでしょうし、なかなか自身の生活に充てる時間がないんじゃないかなって思っているのですが、そろそろ思い出せましたか?」

「そうだね……。私が覚えてないだけかもしれないけど、最近、本を読んでない気がするの!」

 語尾に力がこもっていた。ここまで開き直って言われると、逆に気持ち良い。

「えっと、それじゃあ、今までに読んだことのある本の中で、一番好きな作品を教えていただけますか?」

 沢城さんは少し考えるような素振りを見せた後、割と有名な児童文学作品を出してきた。映画化もされた魔術学院の生徒三人を舞台にした作品だった。

「ちなみに、どのキャラクターが好きとか、どのキャラクターは嫌いとかありますか?」

「私はシリウスかな? あの、人狼のキャラクターいたじゃん。あの人がかっこよくて好き」

「あ、そ、そうなんですね……」

 思わず口が重たくなってしまった。

「ちなみに、唯斗くんはどのキャラクタが好き?」

 まあ、その質問がくるに決まっているよなとおもいながら、どうしようか考えてしまう。僕の好きなキャラはスネイプという教諭で、作品の中ではあまり良い中ではなかったはず。ここで正直に答えても問題ないだろうけど、番組を円滑に進めるためには対立していなさそうなキャラを言うべきだろう。そう考えて、二番目に好きなマクゴナガル先生を答えた。

「あ、そうなんだ。マクゴナガル先生もかっこ良いよね。後、あの人って結構お茶目じゃない?」

 特に反応することもなかったのか、リアクションも少し薄めだった。

「確かに。厳しい面を持ちながらも、ちょくちょく出るお茶目なところがあるよね。はい、ということで、沢城みつきさんの好きなキャラクターはシリウスだと。さて、実はですね、あと二十分ぐらいしかないそうなので、サクサクと進めていきたいと思います。今週ご紹介する本は二冊です。まず一冊目は、角川文庫から栗本薫先生で『キャバレー』、そして、もう一つは電撃文庫から佐原菜月先生の『シアンの憂鬱な銃』です」

「ちょっと良い?」

「なんですか?」

「唯斗くんって、いわゆるラノベとかも読むの?」

 沢城さんとは共演作も多いけど、あまり本の話はしたことがなかった。

 それにしても、沢城さんは、なんで電撃文庫がラノベを多く扱うレーベルだと知っていたのかが気になる。もしかしたら、あまり本は読まなくとも、アニメの関連で知識として知っていたのかもしれないけど。

「僕は割となんでも読みますよ。それこそ、ラノベとか推理小説、恋愛小説、青春ものとか。まあ、時代小説となると、ちょっと手は伸びないんですけどね」

「へぇ〜〜。あ、ごめんね。続けて続けて」

「それじゃあ、ラノベという単語も出てきたところなので、先に『シアンの憂鬱な銃』の方からお伝えしていきたいと思います。このお話はハードボイルドっぽくないんだけど、ものすごく義理堅いというか、人情に熱い男性が主人公で、もう1人、この、表紙に描かれた少年が出てくるんですけど、その少年と一緒に事件を解決するというお話です。一巻完結もので割と面白いんですけどね。なかなか有名じゃなくて、個人的には残念です」

「へぇ_。それじゃあ、ハードボイルドって言うぐらいだから、拳銃とかっていっぱい出てくるの?」

 なかなか良い質問を聞いてくれたなと思った。

「それがですね。結構事件の根幹に関わってくるんですよ。まあ、なので、ネタバレは聞きkたくないよというリスナーの方もいらっしゃると思うので、ここでは詳しく話しません。とは言っても、主人公は刑事なので拳銃は当たり前のように出てくるんですけどね」

「そうなんだ。っていうか、結構古そうだね」

「そうっですね。結構日焼けしてるので。えーっとですね、出版されたのは二千十一2011年ですね。同じレーベルから出ている人気作が出版され始めたぐらいの時ですね」

「へ〜。ちなみに、唯斗くんはこの小説をリアルタイムで読んでたの? それとも、最近になって知ったの?」

「あ、それがですね。同じ作者の方の別の本が結構気に入って、その流れでこの小説を読んだんですよ。なので、この作品を知ったのはつい最近ですね。しかも、出会いはまさかの図書館で、そこで借りて読んだあと、あまりにも良い作品だったので書店さんに聞いて回って、それでも取り扱いがないから、結局フリマアプリで買ったんですよね」

「え、それじゃあ唯斗くんは何度も読み返すためにもう一度買ったの?」

 簡単にまとめると沢城さんが言った通りだ。だから、こくんと頷いた。

「そこまで唯斗くんが気に入ったってことは、よっぽど良い作品なのかな?」

「まあ、その辺りは個人の感覚の違いがあるのでなんとも言えないですけどね」

「ふーん。それで、もう一つの『キャバレー』だっけ? はどんな作品なの?」

「そっちもハードボイルド小説です。さっきのがハードボイルドの要素を三割含んでいるとしたら、こっちは七割型ハードボイルドっていう感じです。こっちの作品の舞台が、ある場末のキャバレーっで、そこのサックス奏者の少年とヤクザの組の中堅的存在の男の話ですね。どことなく寂しさがある作品で、個人的には好きですね。ただ、ちょっと言い回しが古臭かったり、どうしても作品全体が暗いので、読み終わった後はしんみりとしてしまいますね。でも、良い作品なのは間違い無いです。」

「そうなんだ。じゃあ、とっつきやすそうなのは『シアンの憂鬱な銃』なのかな?」

「そうなりますね。という感じで、今後も僕のハマっていること、それからどんなことを体験したのかについて、番組内で話していこうと思います。以上、『唯斗のしていること』のコーナーでした。それではCMを挟んだ後、メールのコーナにもどりたいと思います」

 ハンドサインを送ると、ちょうどよくCMが流れてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る