第二話 春のライブ④

 四曲目まで歌い切る。

 そこで一回暗転する。

 そして、僕の立っているところにスポットライトが当たる。

「みなさん、こんにちわ!」

「「「「こんにちわ〜」」」」

 きちんと返事が返ってきてくれた。

「はい。改めまして、本日はライブサーキット2022〜モノトーン〜にお越しいただきかりがとうございます。本当に、こんな大きな会場で、しかも自分の出身地でライブを開催できることがとても嬉しいです」

 途中途中で息を整えながら、水を飲む。

「さて、四曲目までは、この前発売したアルバムの曲でしたが、みなさんはもちろん、買ってますよね?」

 それに対して、お客さん多くがペンライトを振る。

「ちなみに、僕のラジオは聞いてますか?」

 これにも、みんながペンライトを振る。まあ、煽りだから、もちろん振ってもらわないと困るわけだけど。

「それではみなさんね、一階席に座ってもらって、ちょっと一休みしましょう。あの、この後、二時間とか三時間とか、それぐらいあるのでね。まあ、他のライブなら五時からとか、六時からなのに、このライブは三時からって言うね。はい。まあ、それだけたくさんの曲を歌いたいと思いますのでね。あ、そうそう。ペンライトとかも、電源切らないと持たないので、切ってもらって大丈夫ですからね?むしろ、アンコールの時に真っ暗だとそれはそれで映像的にどうかななんて思いますから」

 ワンマンライブは通常二十曲程度が歌われる。そして、多くのライブはもう少し後の時間から始めて、夜遅くに終わるのが常だったりする。

 だけど、次の日がたまたまオフなのに、そんな大事な休日を東京に帰るために使うのはどうかと思っている。それに、ファンの中にはライブに行くだけで精一杯で、ホテルとか泊まれないと言う人もいるだろうと言うことで、僕がライブする時は基本、夜の八時までには必ず終わるようにしている。

「はい、と言うことでね、早速おしゃべりの時間に入っていきたいと思いますが、皆さん、わかっていると思いますが、今日のこのライブは映像に残りますよ!なぜなら、このライブ、ツアーじゃない上に一日しかやらないと。しかも、これだけ大きな会場だと、六人ぐらいダンサーを入れてもおかしく無いのに、ダンサーがいないと。そんなかんじで、今回の僕のライブは人件費をできるだけ削減した、一日ライブです」

 そこで、ちょっとした笑いが起きる。

「ぜひね、あのー、お金に余裕があって、まだ買っていないグッズがあるようでしたら、この後の休憩の間に買ってください」

 そこで、観客席から、「はーい」と言う声がいくつも聞こえてきた。

「ただ、お金に余裕があるからと言って、一人っで同じ商品を何回も買うと、他の子が変えないんでね、そこは譲ってあげてください。また、今回会場で販売したグッズ、事前販売したグッズはですね、公式の方で事後販売する予定ですので、『ライブの時はお金なかったけど、お金入ったから買おうかな』とか、『欲しかったグッズが売り切れだったんっだよね』と思われたら、そちらをご確認ください」

 ライブでグッズを売るのは、少しでも利益を上げるためという目的があったりする。実際、3000円ぐらいするぬいぐるみも、原価は数十円だったりすることもある。もちろん、業者によっては千円ぐらいはするものもあったりするのかもしれない。

 だけど、どちらにしても利益が出ていることは変わらない。

「はい、と言うことで、宣伝は終わりにして、ね、僕もちょっと普通に話したいので、真ん中のセンターステージに移動させてもらいます。あとね、気づいた人いるかな?三曲目がセンターステージだったでしょ?それが終わって、四曲目でこっちに戻った時にスタッフさんが椅子を用意してくれましたのでね、あ、ほら、見える?」

 僕のトークに合わせるようにドーム中央に用意されたセンターステージがライトで照らされた。

 ドームやリーナでのライブで使われるステージは大きく分けて三つ。

 巨大なスクリーンやバンドの演奏が行われるメインステージ。

 会場の中央にあるセンターステージ。

 センターステージとメインステージをつなぐ花道。

 基本はこの三つで構成されている。このライブでは、三つの他にトロッコも使っていた。いわゆる、会場の大きな道を通る台車で、その上に出演者が乗って会場内を巡るものだ。

 そして、センターステージには椅子が二つ、ポツンと置かれていた。

 そこに移動しようと、花道を通る。通る時に少し走ったせいか、息が上がってしまった。椅子のところに着くと、右側の椅子に座る。

「よいしょっと。さて、みなさん。僕の隣を見てみてください。僕の見間違いでなければ、もう一つ椅子があるんですね」

 そう言って、少しふざけて、もう一つの椅子を近づけて、お尻はそのままに、足だけもう一つの椅子に乗せる。ついでに、キメ顔をカメラに向ける。

 それで笑いが起きる。

「この使い方をしろと言うことですかね?あっt、ちょっと待って、この姿勢辛い」

 そう言って、元の位置に椅子を戻す。

「はい。まあ、こんな使い方をするぐらいならソファーを使うんですが、違いますよ?今回はね、告知した通り、ゲストのをお招きしております。と言うことで、早速ですが、今回のライブのゲストをお迎えしたいと思います。ちなみにね、今回のゲストはメインステージから出てきます」

 そう言うと、少し笑いが起きた。

「はい、みなさん察してくれたと思いますが、その人には走ってここにきてもらいたいと思います。それではご搭乗ください」

 そう言うと、会場内が暗転して、ドラムロールが始まる。それに合わせて、ライトが会場内を駆け巡る。

 カシャーンと、シンバルの音が響いた。

「今回のゲストはアニソン界の歌姫、harukaさんです!」

 僕のアナウンスと共に登場したharukaにスポットライトが集中する。ちなみに、僕にもスポットライトは当たっているが、若干光量が絞られている気がする。

「みなさん、こんにちは!」

「「「「こーんにーちはー!!」」」」

「ありがとうございます。唯斗さんにゲストとして呼ばれたharukaちゃんです。よろしくお願いします」

 光量が絞られたので、少しふざけて、さっきみたいに開いている椅子に足を乗せる。

「harukaちゃん、トークはこっちであるから、走ってきて?」

「唯斗さん、それ、私の椅子!」

 そう突っ込みながら、走ってくる。

「こけないでね?でもね、これ結構座りづらいから急ぎ目で来て」

「わ、わかりました」

 ふざけながらも、harukaちゃんの方を見ると、全力で走っているのか、まだそんなに経っていないのにセンターステージにたどり着いていた。

「改めまして、ゲストのharukaちゃんでーす」

 拍手に混じって、「かわいいよ!」とか、「足速い!」と言う声が聞こえた。

「僕なんかよりも若い女の子が来てくれました。さて、座りたい?」

「あの、唯斗さん。私、さっきまでの三十分、ずっと裏で立ったまま待機していたのと、今日ヒールなんで座らせてください」

「良いよー」

 そう言って、ふくらはぎをのせていた椅子を開ける。

「さて、ライブ始まって最初のトークは僕の一人喋りじゃなくて、harukaちゃんとのトークです。あのね、ラジオしてるから、一人でしゃべるのが得意だって思われがちなんですけど、気持ち的には二人喋りの方が楽なんですよ?」

「え?そうなんですか?」

 harukaは驚いたリアクションをする。まあ、ラジオで一人、あんなに喋れたら、得意と思われても仕方ないんだけど。

「そう思うでしょ?でもね、僕は結構緊張しがちだし、寂しがりやなんです」

「そうなんですね〜」

「そうなの。今は東京で一人暮らししてるけど、家にいう間はちょっと寂しいから、アフレコの練習したり読書したり、忙しくして紛らわせてます。harukaちゃんって、いつも家で何やってる?」

「あ、私はですね、読書をしたり、料理をしたり、あと、ライブのダンスを練習したりしています」

「ちょっとやってみて?」

「え?ああ、今ですか?」

「今じゃなかったら、いつやるの?」

「無理ですね」

「でしょ?それじゃあ、あの、僕が『プロテスト』のサビ歌うから、そこやって?」

『プロテスト』は、harukaの代表曲だ。

「わ、わかりました」

 僕が「ワン、ツー、スリー」と言ってから歌い始めると、実際に踊り始めた。

 そして、サビを僕が歌い終わると、harukaはお辞儀をした。もちろん、会場は拍手に包まれた。

「さて、じゃあ、トークしてても良いけど、早速曲を始めようか」

 その後オフマイクで、「曲紹介よろしく」と言った。ちなみに、元々は途中まで僕がやる予定だった所を無理やりharuka一人にやって貰うことにした。

「そうですね。あ、え、私が曲紹介するんですね。わかりました。それでは、聞いて貰う曲は私の『ウェディングソング』と、唯斗さんの『愛と幻想』です。二曲続けてお聞きください」

 この二曲はバラード調の曲で、一人でも歌えるが、二人では森を入れたりしながら歌うと綺麗に聞こえるので、やることになった。

「唯斗さん、せめて、『どうぞ』だけ言ってください」

「分かった。それじゃあ、僕が『せーの』って言うから、一緒に言ってね?」

 harukaがうなずいたのを確認してから言う。

「せーの」

「「どうぞ」」

 それと同時に『ウェディングソング』のイントロが始まった。

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