第5話 結末
事務所の前でタクシーを降りると18時56分だった。
メールがきて開けてみると中身は写真だけだった。事務所の窓をバックに真っ暗な事務所の中で誰かが座っている写真だ。そして再びダース・ベイダーのテーマが流れた。走りながら電話に出るとボイスチェンジャーの声がした。
「下までついたようだな、だが時間がないよ。」
「由美子をどうした。」
「大丈夫だよまだ何もしてない。」
エレベーターまで着くが調整中の張り紙がしてあった。
「何故俺の周りを狙うんだ。」
「私の気持ちに気付いてほしいんだよ。」
階段を走って登る。
「私はずっと前から君を知っているのに全然こっちのことは気付いてくれないじゃないか。」
「お前は誰なんだ。」
「すぐにわかる。」
3階まで登った。
「何が目的だ。」
4階に着く。
「それもすぐにわかる。」
「7、6、5」とカウントダウンを始めた。
階段を登りきる。
「4、3、2」
事務所の扉に走る。
「1」
扉を勢いよく開けると。
「ゼロ」と話す声は聞き慣れた女の声だった。
事務所には携帯につながれたイヤホンに話しかける、ショートカットでニットのダブッとしたワンピースを着た由美子が立っていた。
「えっ。」
その瞬間ポケットから誕生日の歌が流れた。
「おめでとう。」と由美子がイヤホンを耳から外しながら言う。
するといきなりパッと事務所の電気がつき大量のクラッカーが打たれ給湯室やトイレ、つい立の裏から大勢の人がながれこんだ
「「「「「「ハッピーバースデー」」」」」」」
思わず地面に尻餅をついた。周りの人間はみんな良く知った奴らで、中にはマリーやサウナのおっさんまで居た。
みんながワイワイ騒いでる中「どう言うことだよ。」と呟くと
由美子が手を差し出し引っ張られるように起き上がると。
「どうだった?」と少し嬉しそうにいった。
「何これ。」呆気に取られていると。
「クリスマスプレゼント兼誕生日プレゼント。」
「りょうちゃん、いっつも刺激がある仕事がしたいって言ってたから。みんなに手伝ってもらってサスペンス映画風にやってもらったの。どうだった。」
「洒落になってないよ。」と力の抜けた声で呟いた後、少し考えた。
「じゃあ、サウナのおっさんとかマリーとか姫子も?」
「うん、おじさんは、私の本当の叔父さんだし、マリーはあたし達の高校の後輩よ。りょうちゃんあんま学校来てなかったから知らないと思うけど。」と話してるとマリーが会話に入ってきた。
「よっ、童貞さん‼︎。」
「だから童貞じゃないって。てかあの爺さんもグルかよ。」
「うん、っていうか、私、あの映画館の館長なんだけど。去年おじいちゃんから引き継いだの。」
「じゃあ、券売所のおばさんって。」
「うんお婆ちゃんだよ。」と得意げに笑って言った。
しばらくして、ドアが開くと姫子も入ってきて、由美子に。
「どお、上手くいった。」と話しかけた。
「姫子さんありがと〜、本当に助かった〜。」
「いいよいいよ〜。」
暫くパーティーではしゃいだ後、ポケットの中のUSBメモリーを思い出した。デスクのノートパソコンを持ち出し、事務所を抜け出し階段で座り込んだ。
パソコンにメモリーを差し込み、姫子に解いてもらったパスワードを打ち込むと、中には短い動画ファイルが入っていたので開いてみる。いつ撮ったのか由美子が写った。
「なんか直接伝えるのは恥ずかしいからビデオにするね。でわ。
りょうちゃんへいつもお仕事お疲れ様です、だけど危ないことはあんまりしないでね。
この事務所はりょうちゃんしか調査員いないから。それに私も仕事なくなっちゃうから。
この映像見てる時はもしかしたら怒ってるかもしれないけど。そんなに悪くなかったでしょ。サウナに映画館にガールズバーまで行けておこずかいもあげたし。あんまり怒んないでね。
お誕生日おめでとう。 じゃあねまたね。」
最後に恥ずかしそうに笑い自分でカメラを止めて映像は終わっていた。
「こんだけかよ。」と小さく言うと肩にあったかい感触がし、耳元で囁いた声は由美子だった。
「りょうちゃん、怒った。」
「少しな。」
「ごめんね。」
「最後、まじで心配したんだぞ。」
「うん、すごく必死だったね。嬉しかった。」
「ばーろー。・・・俺たち付き合うか。」
「おそすぎだよ。」
「ダメか?」
「いいよ。」言うと背中を抱きしめたので、由美子の片手を握ると、頬っぺたにチュっとキスされた。
「最後に一つ言っていい。」
「何?」
「自分のこと可愛い可愛い助手っていうのはどうかと思う。」
「ばかっ。」と小さな声で言った。
終わり。
手帳の依頼 雁鉄岩夫 @gantetsuiwao
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