第4話 ガールズバー
タッタターターターター、タッタターターターターと誕生日の歌が大音量で流れて目が覚めた。
おぼつかない頭で音源を探すとガラケーのアラーム音だった。
「勘弁してよ。」それしか言葉がなかった。
時刻は丁度12時だった。着信はなくメールも届いていなかったので、シャワーを浴びていると、今度はスマホの通話着信の音が鳴った。体を軽く拭いてから電話に出ると由美子からだった。
「あ、やっと出た。いつまでも寝てないで早くこっち来てよ。」
「ああ、ゴメン昨日からちょっと仕事してて。」
「何、こっちには何にもなかったけど。」
「ああ、個人的に受けたっていうか巻き込まれたっていうか。」
「その仕事大丈夫なの?」
「まあ、そんな難しそうじゃないから、さっさと終わらせて。帰るよ。」
「そうだ、アンタに書いてもらわないといけない書類があるから今日の夜までに事務所に来て欲しいんだけど来れる?」
「空いたところでどっかで行くようにするから。」
「ああ、昨日言ったと思うけど昼の間中エレベーター使えないから、夜とかに来るといいよ。書類明日までに出したいから今日私夜まで待ってるからね。」
「分かった。出来るだけ、早く行くようにするよ。」
「じゃあ気を付けてね。」
「お前もな。」
「何で私が気を付けるのよ、事務仕事なのに。」
「指切るとか。お前鈍臭いし。」
「バカ。」と電話を切られてしまった。再びシャワーを浴びていると。スターウォーズの歌がなるのが聞こえたので、今度は急いで電話に向かった。
再びボイスチェンジャーの声で「やあ、おはよう。」
「お前の目的はなんだ?」
「どうした少しおこっているようだが。さっきまでは楽しそうに喋っていたじゃないか、可愛い可愛い幼馴染の助手に」
「何でそんな事知ってる。」
「だから言ったじゃないか僕は君をずっと見てるって。」というとピーという音がして通話が切れた。
しばらくすると仁義なき闘いのテーマが流れ、メールには[16時にバビロン]と書いてあった。時計を見ると13時を過ぎた頃だった。
バビロンは繁華街にあって時々行くガールズバーの名前だった。
街を歩くと、街路樹にはイルミネーションがされ、街を行き交う人もどことなくカップルが多かった。バビロンは最初に行ったサウナパレスの近くにある雑居ビルの4階で、開店は19時からで16時だと開店の準備をして最中だろうと思っていた。
店の前まで来て時間を見ると15時50分だった。店の入り口の扉に付いているガラスの窓は真っ暗で、扉に耳を押し付けると店の中からゴソゴソと音がした。ポケットからスマホを取り出しライトを点け、店の中を照らし中を見るがあまり良く見えなかった。周りを見回し、傘立てにあった傘を手に取る。 扉の左側の壁に背中を貼り付け、扉をコンコンと打つと中のゴソゴソする音が大きくなった。スマホのライトが外に向くように胸のポケットに入れると、ドワノブをゆっくり握り、静かにひねると鍵がかかってないことを確認する。ゆっくり呼吸を整える。背中を汗の玉が流れていくのがわかる。心の中で3、2、と数え1になった瞬間、勢いよくドアを開け中に入った。
中には、椅子に縛り付けられ、口には猿ぐつわをされた髪の長い前髪オカッパの若い女が居た。
「姫子?」と言うと。
「フンムフンムフンム。」と体をくねらせたので、口のガムテープを剥がした。
「きもっちゃん。」
「どうしたんだよ姫子。」
姫子はこのガールズバーのオーナーだった。胸が大きくギャルっぽく露出は激しい、胸元ぱっくり空いた青いワンピースを来ていた。話し方がバカっぽくて可愛い女だった。
紐を解いて話を聞くと、姫子は少し怯えた様子だった。
「あのね、お店に入ったらいきなり襲われて、椅子に縛り付けられちゃって。」
「顔は見たか。」聞くと、姫子は首をブンブン横に振た。
「後ろからいきなり襲われたから顔は見てない。けど二人ぐらいいたと思う。」
「他になんかされたか?」
「特にはされてないよ。」と言った後、「あっ。」と言って、思い出したかのようにぱっくり空いた胸元に手を突っ込みぐしゃぐしゃになったメモを取り出し、それを丁寧に手で広げた。
「こんなの入れられちゃった。」
メモを手に取ると。[28713546]と書かれていた。
暫くバビロンのカウンターでタバコを吸いながら前のメモと今回のメモを見比べていた。
「何見てんの?」後ろから姫子がお茶を出してくれた。
「さあ。」
「8桁の数字が二つ?」
「ああ。俺さー頭悪いから全然わかんねえんだわ。」と頭を掻きむしりながら、煙を吐いた。
「パズルみたいな感じ?私そうゆうの得意だよ。ちょと見てあげる。」とメモを取った。
姫子は二つの紙を上下において真剣にじっとみていた。
十分ほどして。「私ワカちゃったかも。」と嬉しそうに言った。
「ウソッ‼︎」
自慢げに目を細めて「ほんと〜」と言いながらメモをぴらぴらと揺らした。
「教えてくれ。」
「ただで〜?」と言いながら口の前でピースサインした。
「2はぼり過ぎじゃね。」
「しょーがないな〜。まあ助けてもらった恩もあるし、一枚で勘弁してあげる。」
「結局とるのかよ。」と一万円を渡した。
「冗談だよ。」と言った後二枚のメモをカウンターに置くと。
「2枚目のメモには、一から八まで一回ずつしか出てこないでしょ。」
「うん。」
「それで、1枚目のメモの数字を2枚目の数字に入れ替えるって事。わかった?」
姫子の言ってる事がよくわからなかったので、口がぽカーッと空いてしまった。
「わかんない。」
「もー、きもっちゃんて本当おバカさんなんだから。」とカウンターにあった紙ナプキンを取り出し、俺の胸の内ポケットからボールペンを取り出した。メモを見ながら、紙ナプキンに数字を書き出した。
「こうやってと。」言いながら見せた数字は。[19891225]だった。
「俺の誕生日じゃん。」
「えっ。」と驚いて紙ナプキンを見ると。
「1989年って。きもっちゃんって私よし年下なの。」
「えっ。・・・」
暫く沈黙が過ぎたあとUSBのパスワードを思い出した。
「ここの店って、パソコンある?」
「ないよ。全部タブレットでやってるから。」
「そっかー。それで今日、店はどうすんの?」
「もう今日は休む。何んか疲れちゃったし。」
「そうしとけよ、送ろうか?」
「いいよ、まだ早いし。」と言われ時計を見ると17時半だった。
姫子の店を出てビルを降りた時だった。
スターウォーズが流れた。電話に出るとボイスチェンジャーで声色を変えた声がした。
「やあ。」
「最後のメモは受け取ったかな。」
「ああ。」
「良くやってくれた。」
「姫子を襲ったのはお前だな。」
「ああ、だが、暴力は振るっていない。」
「そういう問題じゃねえ。」
「怒っているのかい。」
「テメエ何処にいる。一発ぶん殴ってやる。」
「大丈夫だ。今から君に来てもらおうと思う。」と言うと電話が切れた。するとすぐにゴットファーザーのメロディーがなり。メールを確認すると。地図の画像が添付されそこに赤い印が打ってあって[5階に19時]と書いてあった。その場所は俺の事務所だった。
急いで大通りまで走りながら由美子に電話をするが、電源が入っていないのか繋がらない。
大通りでタクシーに乗り、事務所に電話をするが誰も出なかった。
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