第2話 サウナ
サウナパレスは繁華街の真ん中にあるパチンコ屋の地下にあるサウナや風呂がある施設だった。
繁華街までは7キロ以上あったがムシャクシャして、5万円の中からお金を使ってタクシーで向かった。道が混んでいて着いたのは22時過だった。
タクシーの中で最初の電話番号を検索したが個人の番号というだけで何も分からなかった。ガラケーは防水のプリペイド携帯で、中古で五千円もあれば買える物でちょっと羽振りのいいホームレスも持っていたりする物だった。
こ地方一の繁華街の夜は22時でもネオンや看板が煌々と灯っていた。その中でも一層明るいネオンの看板が目印のパチンコ屋の入り口にある細いエスカレーターを降り、自動ドアを超えると鍵付きの靴箱があった。靴箱エリアを越えるとビジネスホテルのようなカウンターがあり、ホテルマン風の20代前半ぐらいに見える男性が立っていて話しかけようとすると。
「いらっしゃいませ。木本様ですねお待ちしていました。」
「なんで知ってるの?」
「事前に言付かってましたので。」
「誰が?」
「名前は伺っておりません。」
「電話で?」
「いえ、もう先に入ってるそうです。お連れの方だとおっしゃられていたようですが。ご不明な点でもありましたか。」
「いや、大丈夫、でその人ってどんな人だった?」
「すみません、私が直接対応したわけではないので。」
「ああ、そうか、じゃあいいや、じゃあ。」と靴箱の鍵を渡してお金を払おうとすると。
「料金は、お連れの方に頂いておりますので。」と更衣室のロッカーの鍵を渡された。
経費要らないじゃんと思った。
更衣室で服を脱ぎ中に入ると、中は地下とは思えないほど広々していて色んな種類の浴槽がありその奥に高温サウナがあった。人はそんなに多くはなく8人ほどが浴槽に入っていた。脱衣所の近くにあったマッサージ機のコーナーや併設された飲食コーナーに人が入ってくのが見えたので皆そっちに行ってるのだろう。一通り体を洗い軽く浴槽に入り辺りにいる人の顔を用心深く見回った後サウナに向かった。一応持って来ておいたガラケーで時間を見ると10時15分だった。連れの者とは誰の事かを考えながら一先ずサウナに入ると、ムワッとした熱気の中に痩せ型のサラリーマン風の中年男性と、顔の見た目は50代なのにモヒカンで体がボディービルダーみたいにムキムキの2人がいた。
空いてる場所に座りガラス窓越しに置いてあるテレビから流れるニュースを見を見ていると、いきなりサウナパレスと書かれたポロシャツを着た男が入ってきて。
「これから熱波のサービスの時間ですが、よろしいでしょうか。」と聞くと従業員の後ろから湯船に入っていた者8人が入ってきて私達三人が距離を開けて座っていたその間を埋めるようにみんなが座った。するとムキムキの男が大きな声で。「お願いします。」とさもこの中に居るものの代表のように答えた。細い男は何も言わないがそのまま居座るので一緒に受けるつもりらしい。
「それでは始めたいと思います。50回扇がせていただきます」と従業員が言うと。バケツに入っている水を柄杓ですくい、焼き石に少しずつかける、とみるみる蒸気が出て来て、温度と湿度がグングン上がっていき、汗腺から汗が噴き出してくるのがわるほどだった。そして従業員はバスタオルを取り出すと、両端を持ちバサバサと団扇のようにこちらをあおぎ始めた、それによって起こる風は灼熱の熱波になって男達の体を打ち付ける。他の男達を見ようにも、玉のように流れ落ちる汗が目に入るため瞼を開けてられない。扇がれるのが10回をこえた頃には数えるのをやめ扇がれるごとに誰かのうめき声が聞こえてくる、そのうちサウナの地面をトストスと歩く音が何度も聞こえその度に出入り口が一瞬空きそこから微かに入ってくる外気を感じ脱落者の数だけその空気を味わうがそれも途中から無くなった。
その後50回の地獄の豪風を乗り越えると従業員が。
「お疲れ様です。おかわりはいかがでしょうか。」と聞き。
「お願いします。」と意味のわからない男の声がしたので目の辺りの汗を拭って薄目で周りを見ると、私以外は最初からいたモヒカンのムキムキ男とその他二人しかいなかった。
ここまで、人が減ってあとは三人だけと思うと、どこからか競争心が湧いて来て「はい俺もお代わり。」といわなくてもいい事を言ってしまったすると他の二人も釣られるように同じ言葉を繰り返した。
「はい、それじゃあ、おかわり10回いきます。」ハアハアと荒い呼吸音混じりの声が聞こえた。
そこから長い戦いが始まった10回が終わるたびに誰かがお代わりを叫びそれに釣られて全員がその言葉を叫んだ。そして極暑の熱波を連発されるたびトストスと足音が聞こえた。汗と共に意識も流れ落ちてるような気がするほどで、意識が朦朧とし今何回目のお代わりかも考える気力が湧かなかった。するととうとうお代わりの声が止んで静寂が訪れたサウナでは従業員の荒れた呼吸の音だけがなっていた。
絶え絶えの声で「おかわりがないようなので終了させていただきます。」と従業員はとうとう出て行った。
そして再びなんとか目を開けると、サウナの中には私以外にムキムキの男だけが残っていた。
「にいちゃんすごいなぁ。」
「こんなん大したことないっすよ。」
「勝負じゃねえんだ、さっさと出てってもいいんだぜ。」
「俺は勝負なんてしてないっすよ、そっちこそ顔が茹蛸みたいになってますけどね。」
「生意気言うじゃねえか。」
そのあと目をつぶって暫く無言が続いた。
・・・
「お前が木本か。」といきなり言われ男の方を振り向いた
「じゃあアンタが。」
「ああ。」
「それで俺は何をすればいいんだ。」と言うと。
「これだ。」と見覚えのある鍵を渡された。
「なんだこれ。」
「鍵だ。」
「どこの?」
「ここの。」
「この後どうすればいい。」
「知らねえよ、俺は雇われただけだからな。メールが来るんじゃねえの」言うとと男はヨロヨロと立ち上がりサウナの出入り口から出て水風呂のほうに歩いて行ったと思うとその直ぐ後にズッボーンと大きな音がしてその後サウナの目の前の床に大量の水が流れて来た。
「勝った。」とつい独り言がでた。
その後自分も水風呂に入り、受け取った鍵でロッカーを開けると中にはUSBメモリーが一つだけ入っていたので、フロントに鍵を戻し外に出た。
時間は23時半を超えていた。近くにあるドンキホーテのパソコン売り場に行きUSBメモリーを差し込みフォルダを開こうとすると8桁のロックがかかっていた。
チャララチャラチャララララララーとゴッドファーザーの有名な音楽が流れたと思ったら、例のガラケーが鳴っていた。取り出すとcメールの着信音だった。
「マジ、何なんだよっ。」と小さい声で呟いた。
メールには(2時半にロマンシネマ座)と書いてあった。
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