手帳の依頼
雁鉄岩夫
第1話 手帳の依頼
2016年の年の瀬が迫る12月24日の夜、誕生日の前日に東急ハンズで、探偵の仕事で使う来年の手帳を選んでいた。
私は個人事務所をやっていて助手が1人居るだけの小さな事務所だった。パソコンが苦手なため手帳は重要な仕事道具なので大きさや描きやすさ使い勝手を確かめながら慎重に選んでいき、いくつかの見本を見ていて、やっぱり毎年使っているシリーズにしようかと使い慣れた手帳の見本をパラパラめくると、女が書いたような丸文字で(助けて 080–××××–×××× )と書かれていた。
こんな所に電話番号書いてあることに、不用心だと思い、悪戯でもされて個人情報を晒されたりしたのかと考え一応そのページを破って黒いレザートレンチコートのポケットに入れた。結局その日は選び切ることができず、店内には閉店時間を知らせる蛍の光に追い出されるように東急ハンズを後にした。
年末になると探偵事務所や興信所は区別なく仕事が少なくなる。それは年末年始といわずお盆もだが、収入の大部分を占める浮気調査が減るからだ。そして何故浮気調査が減るかと言うと年末年始やお盆には家族が集まりそんな時にわざわざ浮気相手に会いにいくなんて言う愚行を及ぼす人間はこのばかばかりの日本国民にも少ないからだ。
その為電車賃をケチり寒いなか徒歩で線路沿を歩いて事務所まで帰る事にし、その途中ポケットに手をやると、さっき破りとった紙が入っていた。さっきは蛍の光に気を取られあまり気にしていなかったが。落ち着いた今になってメモに書いてあった電話番号と「助けて」と書かれた言葉に引っ掛かりを感じた。線路沿いの金網に倒れかけ煙草をふかしながら、街路灯の光に破ったメモを透かし裏表を確認して見るが他にもなかった。
少しの間考えた後、辺りを行ったり来たりして電話ボックスを探し、見つけると入った。メモを電話の上に置いてコートの両ポケットに手を突っ込みジャラジャラと小銭を探した。
入っていた小銭を無造作に握り電話の上にバシャーっと置いてその中から100円玉を緑色の公衆電話に入れ受話器からプーと音がした。
ぴぽぱと番号を打ち込み、プルプルと呼び出し音がなって、プスと誰かが電話に出た。が向こうからは、「はい」や「もしもし」と言う言葉は帰ってこなかった。
こちらから「もしもし」と言うと。
ボイスチェンジャーで変えられた声で「やあ」と返ってきた。
「この電話に掛けてきたってことは、手帳を見てくれたのか。」
「あんた誰だ?」
「・・・」となにも答えなかったので別の質問んをした。
「あのメモは何なんだ?」
「君に接触する為に私が書いた物だ。」
「何で俺があの手帳を開くとわかった?」
「君はここ最近毎日あの黒い手帳を見ていたからな。」
通話が切れないように電話に20円を入れた。
「おまえは何者だ?」
「それは言えない。」
「何が目的だ?」
「わたしのお使いをしてほしい。」
「何故俺なんだ。」
「君はお金に困っているだろう、お礼はするよ。それに明日は君の27歳の誕生日じゃないか。私からのプレゼ ントだよ。」
「どういう意味だ。」
「電話の下を探って見てくれ。」
電話の下に手を当てると中身の入った紙の封筒がセロテープでビッチリと貼り付けられていて、ビリビリと剥がし中身を確かめて見ると現金で5万円と小さなガラケーが入っていた。
「見つけたか。」
「ああ。これで何をしろってんだ?」と聞いた途端プープープープーと電話がきれた。
次の瞬間ガラケーからジャーンジャジャジャンジャーンジャジャジャジャーンジャジャジャーンとダース・ベイダーのテーマが鳴った。
「もしもし。」
「面白かったかい?」
「なんなんだこれは?」
「今度からこの携帯に連絡させてもらうから持っていろ。あと5万円は経費だ大事に使ってくれ。」
「やだって言ったら。」
「君の可愛い可愛い助手の女の子がどうなってもいいのかい。」
「どうする気だ?」
「君がちゃんとお使いを済ませてくれれば何もしないから安心してくれ。私たちはずっと君達を見ている。」と言って電話が切れた。
コートの胸ポケットからスマホを取りだし、助手で幼馴染の由美子に電話をかけた。呼び出し音が異様に長く感じ、心の中で出ろ出ろと、願った。
「もしもし。」と由美子の声がすると全身から張り詰めていた気が抜けた。
「大丈夫か?」
「大丈夫かって何が?」
「何がって、一応おまえも女だしな。」
「何言ってんの、バカッ。」
「今おまえ何してる。」
「さっきまで事務所で仕事してたけど、りょうちゃん遅いから先に帰ってるとこ、もう家の近くの駅にいるよ。」
「そっか、もうすぐ家に着くんならいいんだけど、気を付けて帰れよ。」
「なにー、そんな優しいこと言うなんて気持ち悪い。頭でも打った?」
「バカ野郎。帰ったら戸締りはしっかりして寝ろよ。」
「ハイハイ、ああそうだ明日ビルのエレベーターの点検で昼から夕方までずっとエレベーター使えないから、 仕事するなら一回の喫茶店でしたほうがいいわよ。」
「おう、わかった。じゃあな。」
「おつかれっ。」
電話を切った。
チャララーチャララーと仁義なき闘いのオープニングがポケットからしたと思ったらガラケーのeメールの着信音だった。
「何だよこれっ。」と独り言を言うほどびっくりした。
メールには(22時半にサウナパレスのサウナ)と書かれていた。腕時計を見ると21時半だった。
着信音を変えようと設定を見ようとすると8桁の暗証番号のロックがかかっていた。
「マジで何だよこれ。」
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