この世界に呼ばれた理由(わけ)ーー

 町中の人々がじいさんの帰りを歓待した。

 みんなでじいさんに走り寄り、膝を地面に擦り付けて「よくぞお帰りで」とか言っている。泣いている人もいる。どうしたというのだ(可愛い子も結構いるぞ。化粧してくれればいいのに)。

 そしてじいさんが連れてきた俺をじろじろ見ている。そりゃそうだ。俺は町のひとが着ているような布切れでできた服は着ていないし、顔の作りもみんなと違う。でも、人間外見で判断してはいけないと思うな。だいたい俺は転生してきた異界の人間なんだから。

 と思ったら、じいさんが俺の考えていることをそのまま言った。

 「こやつはコレガ山の麓でわしに助けを求めてきた人間じゃ。おそらく異界の者であろう。わしの知らない知識や知恵をたくさん持っておる」

 「コレガ山? それでは、この者が神の遣わされた使者というわけでございますか」

 「わからん。こやつは学はあるがこの世界についての知識がまったくない。故に神が遣わした者か、ただ世界の歪みから出てきただけの者なのか、わしにも見当がつかん」

 「大賢人でも使者かどうかわからぬとは、はたまた困ったことになった」

 「大賢人?」

 じいさんを囲んでいた人々全員がこちらを向いた。俺が初めて口を開いたからだろう。

 しばらく周囲はしんとしていたが、体の細い聡明そうなの女性が俺の前にずんずん歩いてきて俺に聞いた。

 「言葉はわかるのか」

 「えーと、ああ。じいさんに教わったから、それなりに」

 「じいさんではない。大賢人ヤセガ様だ」

 「大賢人って何ですか」

 「大いなる知恵者だ」

 「じいさん、文字も書けないのに」

 「賢人の知恵は脳に刻み込まれている。文字は必要ない」

 「まあそれはいいんだけど、大賢人って何をする人?」

 「我々を導いてくれる」

 「どこに?」

 「平和な世界だ」

 「……ということは?」

 エルマという女性が語るには、こういうことであった。

 かつて、魔大戦という戦いがあった。

 昔からこの大地(星?)はすべてが実り豊かで、人は平和に暮らしていた。

 しかし、ちょうど100年前に太陽の光が弱くなり、それから凶作や生物種の絶滅が続いた。

 人間たちは生きるために協力をしたが、悪の道に走り、盗みや殺しによって生き延びる者も多かった。

 そして、悪に染まった心を持った人間の体が、植物や動物のように異形の形となる現象が起こり始めた。人間たちは彼らをケルナイと呼んだ。

 そして、人々は他の地域に比べ、太陽の光が集まりやすく、何とか食料を生産することができる聖地・マアツヒを巡り、人間とケルナイが攻防を繰り広げた。

 結果、双方で生き残った者はほとんどおらず、その後太陽の恵みは戻ってきたが(おそらく星野のめぐり、つまり公転の作用で極端に太陽光が減る時期があるのだろう)人々はまだ彼らを追ってくるケルナイから逃れ、戦いながら暮らしているというのである。今でもまだ、ケルナイの侵攻によって滅ぼされる村や、食い殺される人々も多くいるという。

 俺は言った。

 「じゃあ、逃げっぱなしでいいのかよ! 戦わなくていいのかよ! 倒さなくていいのかよ! 食べられちゃっていいのかよ! (特に若い美女!)」

 「それは、我々もケルナイに対抗したい。しかし、彼らは念動力や高速飛行などの異能の力を持ち、それにたちうちできないのだ」

 「こっちに武器はないのか?」

 ……とはいっても、素人目に見ても彼らの文明のレベルは高くない。奈良時代、いや、大和、飛鳥時代に達しているか否かかもしれない。仏像を作れないのに化け物を倒せというのは酷だ。

 しかし、「あ」。

 俺は、いいことを思いついたのだった。

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