異界の旅路
長い旅だった。俺たちの進む道は基本的には山裾の、森林と草原の境となる原野だった。なぜならそこにはたくさんの川が流れており、川の中には魚がいるし、時には地球にはいないであろう種の哺乳動物らしきものがいて、じいさんはボウガンのようなものを使って、食料用にそれを狩ったりすることができたからだ。
俺とじいさんはよく話した。最初はまったくわからなかったウンジャラ語も、片言で少し理解ができるようになってきた。
「お前はどこからきたのだ」
「私はここではないところから来た」
「それはどこだ」
「説明ができぬ」
「もっとウンジャラ語を学べ」
「あなたも日本語を学べ」
「狩りも学べ」
「あなたも読み書きを学べ」
じいさんは話すことはできたが、書くことはできなかった。だから俺がじいさんの言うウンジャラ語を逐一メモにとって見返しているのを、不思議そうに見ていた。
しかし、不自由というのは発明の母である。一月もじいさんと旅を続けた俺は、この世界で生きる術を身につけていった。
まず、この世界は一日24時間ではない。時計で測ったところ、大体20時間くらいで1日がめぐる。これにはなかなか慣れなかった。
食べ物については、生態系は地球とほぼほぼ同じである。動物と植物の食物連鎖があり、じいさんにも近付いてはいけない動物がいると教わった。クマみたいなものだ。ちなみに魔物とか化け物の類はいなかった。
じいさんが着ているものは、きちんとした布で織られた服であった。動物の皮とかではない。じいさん曰く、もう少し行けば町があり、そこには市場のようなものも立つそうである。これで俺は希望を持ち直した。
それからトイレ。その辺でする。紙はない。最初は慣れなかったが、紙はない。ないものはないのだ。今ではどうにかなっているのだから、慣れはすごい。
現代の女子高生など、こんな生活をやってみろと言われたら首でもくくるかもしれないが、過去に生きた若い女性たちは不便の中でも生活していたのだ。ああだこうだいうやつは、こうやって転生したらすぐに人生おじゃんである。生きるためには捨てねばならんこともあるのだ。
ちなみに、俺の方も、じいさんの生活の助けになるようなことはどんどん伝えていった。そのたびにじいさんはいちいち驚き感動し、俺をほめた。
まあ、元の世界だと普通のことなんだけれど、改めてほめられると悪い気はしない。
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